日本顎関節学会雑誌
Online ISSN : 1884-4308
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31 巻, 2 号
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連載解説
  • 依田 哲也
    2019 年 31 巻 2 号 p. 93-99
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/10/04
    ジャーナル フリー

    顎関節前方脱臼の整復は,ヒポクラテス法などの非観血的な徒手整復法が第一選択であるが,陳旧症例になると上関節腔のパンピング療法併用の徒手的整復法,顎間牽引法,単鈍鈎や骨把持鉗子を用いた観血的な下顎骨牽引,下顎頭切除術,関節隆起切除術,上関節腔線維性癒着の剝離術などが用いられている。また,習慣性脱臼における脱臼防止方法には,開口訓練,弾性包帯やチンキャップなどの顎外装置,頰骨突起を用いた関節隆起形成法,チタンミニプレートや自家骨ブロック移植による障害形成法,関節円板縫合固定法,口腔粘膜・側頭筋腱縫縮法,自己血注入療法,関節隆起切除術などが行われている。局所や全身病態に応じてこれらの治療法を選択する必要があるが,病態や治療法選択の科学的根拠はいまだ乏しいのが現状である。

依頼論文
  • 小野 弓絵
    2019 年 31 巻 2 号 p. 100-105
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/10/04
    ジャーナル フリー

    脳機能イメージング技術の進歩により,痛みや違和感などの情動を可視化し,診断や治療へ応用することが可能となってきた。本稿ではまず,スプリント治療や義歯の装着など,口腔内感覚を実験的に変化させた場合の脳活動について近年の知見をまとめる。これらの基礎研究では機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)や頭部全体をカバーする多チャンネルの機能的近赤外分光法装置(functional near―infrared spectroscopy:fNIRS)などの大型装置が用いられてきたが,測定における患者の体位制限や計測装置の大きさなどが,臨床への応用を制限していた。しかし近年ではチェアサイドで計測可能な小型fNIRS装置が開発されてきており,一般の診療所でも患者の脳活動を簡易にモニタ可能な環境が整いつつある。本稿ではこうした可搬型の脳機能イメージングを活用した臨床研究の一例として,狭義の咬合違和感症候群患者をその脳活動のパターンから客観的に診断補助するための臨床研究についても紹介する。加えて将来への展望として,慢性疼痛や狭義の咬合違和感症候群などの患者の脳に生じている感覚受容機構の変化の解明や,疼痛を覚える脳へのニューロフィードバック(脳活動の自己制御訓練)による治療を目指した脳神経科学研究についても概説する。

原著
  • ―歯科学生を対象としたスクリーニング調査―
    内田 貴之, 小見山 道, 飯田 崇, 岡本 康裕, 村守 樹理, 若見 昌信
    2019 年 31 巻 2 号 p. 106-114
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/10/04
    ジャーナル フリー

    DC/TMDによる顎関節症の診断は身体的評価(Ⅰ軸)および心理社会的評価(Ⅱ軸)の2軸により行われるが,Ⅰ軸とⅡ軸間の相関についての検討がなされていない。本研究はDC/TMDにおける2軸診断の関連性を検討することを目的としてスクリーニング調査を行った。

    被験者は日本大学松戸歯学部の5年次生226名(男性144名,女性82名,平均年齢23.8±2.7歳)とした。DC/TMDのⅠ軸診断にはExamination Formにおける症状に対する自覚の有無(自覚ありをP群,なしをN群),圧痛検査における圧痛部位数を用い,Ⅱ軸診断はOBC(口腔行動),GAD-7(不安傾向),PHQ-9(抑うつ傾向)を用いて両者の関係性を検討した。

    症状の自覚,圧痛部位数は女性が有意に多かったが,他の項目には男女差は認めなかった。GAD-7とPHQ-9の間にr=0.745の有意な強い相関関係を認め,OBCと圧痛部位数の間にr=0.322の有意な弱い相関関係を認めた。P群ではN群に比べ圧痛部位数とPHQ-9の値が有意に高かった。自覚症状の有無を従属変数として,独立変数の圧痛部位数,PHQ-9軽度,OBCの5番目の質問項目のオッズ比に有意な値を認めた。

    以上より,顎関節症症状を認めない,もしくは軽度の学生を対象としてDC/TMDにおけるⅠ軸診断とⅡ軸診断を検討した結果,両者の間に関連性が確認された。

症例報告
  • 小木 信美, 竹本 隆, 阿知波 基信, 山本 翼, 片山 良子, 前多 雅仁, 栗田 賢一
    2019 年 31 巻 2 号 p. 115-120
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/10/04
    ジャーナル フリー

    目的:ナビゲーションシステムは外科的アプローチにとって有利な条件をもたらす。顎関節強直症には一般的に間隙形成が行われるが,顎関節領域の複雑な解剖構造のなかで重要臓器の保護は必須である。今回,ナビゲーションシステム支援下に顎関節強直症に対し間隙形成を安全に施行できたのでその概要を報告する。

    症例:患者は59歳男性,15 mmの開口域で開口障害を主訴に右顎関節強直症の疑いで紹介来院した。CT画像で右の骨性顎関節強直症を認め,術前にナビゲーション手術を綿密に計画した。

    結果:マーカーを貼付した状態のCTを撮影しナビゲーションシステムに位置情報を登録した。間隙形成する際に術野にポインターを当て手術操作の位置をリアルタイムに確認し,患側筋突起切除と間隙形成部の頰脂肪体移植を行った。重要臓器の回避をして手術を終えることができた。術後1年3か月の開口域は37 mmで,現在,開口訓練を続け,経過観察中である。

    結論:顎関節強直症手術において安全に施行できることでナビゲーションシステムの臨床的意義が示された。

  • 大竹 義雄, 野上 晋之介, 蔡 優広, 片岡 良浩, 千葉 雅俊, 山内 健介, 髙橋 哲
    2019 年 31 巻 2 号 p. 121-129
    発行日: 2019/08/20
    公開日: 2019/10/04
    ジャーナル フリー

    下顎頭の関節包内骨折は保存的治療が適用されることが多い。近年では手術器具の開発や術式の改良により,外科的治療の適応が広がってきている。今回われわれは,下顎頭の関節包内骨折に対して外科的整復術を施行した2例を経験したので報告する。

    症例1:42歳,男性。下顎を強打し当科受診した。初診時の開口量は22 mmで右側下顎頭に関節包内骨折を認めた。下顎窩から逸脱した小骨片を整復し,ミニプレート2枚を用いて固定した。術後2年6か月経過時点で,開口量51 mm,顎運動の異常はなく経過良好である。

    症例2:20歳,男性。転倒によって顔面を強打した。初診時の開口量は21 mmで両側下顎頭に関節包内骨折を認めた。右側下顎頭の関節包内骨折は関節円板と小骨片の下顎頭を下顎窩内に復位させて4-0吸収性縫合糸にて縫合固定した。左側下顎頭の関節包内骨折は上関節腔洗浄療法を行った。術後1年経過時点で開口量は48 mm,開口時痛はなく経過良好である。

    下顎窩より転位脱臼した下顎頭の関節包内骨折では,関節窩内へ関節円板と下顎頭を整復することで術後の顎関節機能が回復できると考えられた。

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