小児期にみられる顎関節症について,当科のデータを含めて文献的に検討した。
・小児の顎関節症の頻度はここ数年で明確な増加を示していない。主な症状はクリック音で小学校低学年からみられるようになり,年齢とともに次第に増加する。
・小学生では各個人に生じたクリック音が成長に伴い継続しているわけではない。クリック音が次の年まで継続するのは約半数である。中学生になると,継続する割合は増加する。
・小児顎関節症のために下顎の成長が抑制されるとするいくつかの報告がある。顎関節症のなかでも関節円板障害および/または変形性関節症の側で生じることが示されている。
今後小児版のDC/TMDによるより詳細な評価でのデータ蓄積により,より正確な小児期の顎関節症の分析が望まれる。
顎関節症の基本治療は,病態説明とセルフケア指導に始まり,保存的治療として理学・運動療法,薬物療法,アプライアンス療法などを主体とした可逆的な治療が行われるべきである。この保存療法の3本の柱の1つであるアプライアンス療法について,2017年に発表されたメタ分析によると,短期的な痛みの軽減に効果があり,特に筋痛に効果があることが報告されており,われわれはそのような患者に自信をもってこのアプライアンス療法を推奨することができる。
一方で,補綴学的な視点からこのオクルーザルアプライアンスを改めて顧みると,エビデンスはまだ十分に確立されていないものの,われわれは多岐にわたってこのアプライアンスを補綴治療に応用してきた現状がある。特に,咬合挙上時や,変形性顎関節症に伴う後天的な前歯部開咬が生じている症例などは,アプライアンスなしで治療を前に進めることは困難といえる。
本稿では,1)アプライアンス療法で効果が期待できる顎関節症状,2)アプライアンスの顎関節症状別の応用方法,3)顎関節の形態変化に伴う後天的な前歯部開咬症例への応用の3点に絞って,補綴学的視点からアプライアンス療法を改めて深堀りした。
顎関節症の病態は多岐にわたることから,医療連携による処方や専門的な対応が必要になることがある。また,特殊なオーラルアプライアンスを用いた治療へと移行することが望ましい場合もあり,臨床においてアプライアンス療法をはじめとして治療法を選択する際には術者の経験に委ねられることも多い。本論文では,各種治療法のなかでアプライアンス療法に焦点をあわせ,まずは咀嚼筋痛障害の病状に応じたオーラルアプライアンスの選択と治療終了へと移行する際のプログラムについて解説する。次いで,顎関節円板障害(Ⅲ型a:復位性関節円板前方転位)に含まれる間欠ロックについては,ロック発現時に顎関節部疼痛および開口障害あるいは咀嚼障害を認めることから,症例数は少ないものの日常生活に支障をきたすことが多く,対応する必要性が高い病態だと著者は考えている。そこで,著者が臨床で行っているオーラルアプライアンスを用いた対応についても紹介する。
研究目的:ブラキシズムにおける臨床的評価の妥当性を検討するために,臨床的なブラキシズム評価と定量的評価との間で相関解析を行うとともに,臨床的評価と定量的評価において,睡眠時と覚醒時ブラキシズムの比較を行った。
方法:日本歯科大学新潟病院の研修医,病院実習生のなかからブラキシズム検査の同意の得られた32名(自覚的ブラキサー23名,自覚的非ブラキサー9名)を選択した。
ブラキシズムの臨床的な評価では,①問診 ②臨床徴候 ③被験者の行動記録を使用し,定量的な評価ではシングルチャンネルポータブル筋電計(Sunstar,GrindCareⓇ)を使用した。臨床的な診査の妥当性を評価するため臨床的な評価と定量的な評価の相関解析を行うとともに,睡眠時と覚醒時のブラキシズムの比較では,ウィルコクソンの符号順位検定を行った。
結果:睡眠時ブラキシズムでは,臨床徴候が定量的な評価に対して中程度の相関を示したが,ほかの診査は低い相関を示した。覚醒時のブラキシズムでは,いずれの診査も定量的な評価に対して低い相関を示した。
臨床的および定量的評価における睡眠時と覚醒時のブラキシズムの比較では,問診では覚醒時の訴えが有意に多いのに対して,行動記録と定量的な評価では有意差を認めなかった。
結論:定量的な評価に対して,高い相関を認める臨床的な評価法は確認されず,特に覚醒時のブラキシズムの相関は低いことが示された。全体的にみると臨床的な評価の妥当性は低いため,正確なブラキシズムの評価を行うためには筋電図などを用いた定量的な評価が不可欠と判断された。
目的:開口時の下顎頭運動を表現するモデルを構築し,これを用いて顎関節X線画像における下顎頭移動量の計測精度を検討した。
方法:下顎頭運動の観察に適したX線投影条件を,下顎頭運動を再現するロボットシステムにより調べた。下顎頭移動の直線距離を,顎関節パノラマ四分割撮影法および側斜位経頭蓋撮影法(シューラー法)の画像上で測定した。被写体は乾燥下顎骨5体(10顎関節)である。X線画像で計測した下顎頭移動量を,実測値と比較した。実測値とX線画像の拡大率を基に,X線画像上の距離計測の誤差を算出した。
結果および結論:ロボットシステムとシューラー法撮影により,閉口位から最大開口40 mmまでの動作を13フレームに分割したX線画像を撮影することができた。10個の顎関節の下顎頭移動量の中央値は,実測で19.53 mm,シューラー法画像で14.38 mm,顎関節パノラマ四分割画像で18.81 mmであった。実測値に対する画像計測の誤差は,顎関節パノラマ四分割撮影で3.34 mm,シューラー法で5.32 mmであった。結果より,下顎頭移動量の計測に関して,顎関節パノラマ四分割撮影がシューラー法よりも優れることがわかった。