日本顎関節学会雑誌
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35 巻, 1 号
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総説
  • 和気 創, 儀武 啓幸, 依田 哲也
    2023 年 35 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2023/04/20
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    筋突起過形成症は,過度に形成された筋突起が頰骨後面あるいは頰骨弓内面と干渉することによって開口障害などの顎運動障害を引き起こす疾患である。開口障害を呈する疾患のなかでも遭遇する頻度が比較的低いため,顎関節症と診断された結果,適切な治療がなされないことも少なくない。

    本疾患の診断には,現病歴や現症などの臨床情報を丁寧に聴取,収集したうえで,適切な画像検査を行うことが重要であり,また,顎関節や咀嚼筋に関連したほかの疾患が併存している場合があることも特徴である。

    本論文は,筋突起過形成症に遭遇した際に,正しく診断できるよう,その臨床的特徴や,顎関節症をはじめとする類似した症候を呈する疾患との鑑別点を整理した。

教育論文
  • 島田 明子, 小見山 道
    2023 年 35 巻 1 号 p. 12-21
    発行日: 2023/04/20
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(DC/TMD)は,厳密な文献レビューおよび多施設臨床試験による信頼性と妥当性の検証を経て2014年に発表され,現在では国際的に標準化された顎関節症の診断基準となった。DC/TMDは生物心理社会的モデルに基づくⅡ軸診断システムを有し,最も頻度の高いTMDのみを対象としたシステムである。このたび,小児・青少年用DC/TMDが発表された。これは,成人用DC/TMDを,小児と青少年を対象に使用するために必要な見直しについてデルファイ法により議論され完成したものである。Ⅰ軸評価の見直しの概要は次のとおりである。「WHOの定義に沿って小児(6~9歳)と青少年(10~19歳)を区別し,両者においてスクリーニング用と完全版を準備」,「小児と保護者用,青少年用の健康質問用紙,症状質問票を使い,臨床的な診断分類は現在のDC/TMDを流用」,「診察時の指示(コマンド)について,小児・青少年用にわかりやすい簡便な説明を容認」,「青少年の臨床診察は成人とほぼ同様」,「小児の臨床診察は,運動時痛の検査は開閉口運動のみとし32 mm以下で開口障害とし,筋触診は各筋3か所,関連痛といつもの痛みについては検討。関節雑音は開閉口運動のみ」。さらにⅡ軸評価においては,質問用紙が大きく変更された。今回,TMDの国際的な専門家のコンセンサスを経て発表された,小児と青少年のTMDを診察,診断するためのDC/TMDについて概説する。

  • 松平 浩
    2023 年 35 巻 1 号 p. 22-34
    発行日: 2023/04/20
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    慢性疼痛の新たな疼痛機構として“痛覚変調性疼痛”があり,中枢性感作,中脳辺縁系ドパミンシステムおよび下行性疼痛調節系の機能異常がその誘因となりうる。これは,末梢での傷害の有無にかかわらず,不快な情動にも因する内因性鎮痛機構不全に伴う“脳が生み出す第三の痛み”であり,ICD-11では慢性一次性疼痛(MG30.0)に分類される。線維筋痛症がその代表であるが,顎関節症もこれに含まれ,BMS(burning mouth syndrome)とPIDAP(persistent idiopathic dentoalveolar pain)がこれにあたる。慢性痛患者では心理社会的要因が関与している場合が多く,それらの要因を的確に評価し,それに応じた認知行動的アプローチが求められる。筆者らは,令和3年度厚生労働省慢性の痛み政策研究事業(慢性の痛み患者への就労支援/仕事と治療の両立支援および労働生産性の向上に寄与するマニュアルの開発と普及・啓発)のなかで,「新心理社会的フラッグシステム日本版」を開発した。心理社会的フラッグシステムは,世界の有識者による会議を経て英国で開発され,欧州では各国の頸部痛・腰痛診療ガイドラインで推奨されている。本稿では,意欲ある治療者のOperation Systemとなる合理的な手法の開発を目指し,令和3年度に厚労研究班で開発した心理社会的フラッグシステムのうち,特にイエローフラッグ(認知行動療法の選択・実施に向けた心理社会的要因)についても解説する。

症例報告
  • 井出 信次, 豊田 長隆, 瀧居 博史, 佐藤 杏奈, 遊道 俊雄, 里村 一人
    2023 年 35 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2023/04/20
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    長期間円板転位した状態で構築されていた咬合関係が,突発的な円板の正常位置への復位により,臼歯部の開咬をきたし,これが外前方位に転位することによって改善した希有な1例を経験したので報告する。

    患者は42歳女性で,約15年前から両側顎関節雑音を自覚,約3年前から大開口後や食事中に,臼歯部開咬を自覚するも自力にて改善するため放置していた。初診の前日,再び突発的な臼歯部開咬が発現し,改善できず,当科受診となった。初診時,左右側とも臼歯部が約1~3 mm離開した臼歯部開咬を呈し,最大開口域は30 mm,右側顎関節運動時痛を認めた。パノラマエックス線四分画画像では,下顎頭は両側とも下顎窩内に位置するも前下方へ偏位,MR検査では右側顎関節の骨構成体や円板位置に異常はなく,また,炎症所見やjoint effusion像も認めなかった(左側の関節円板は非復位性前方転位)。初診翌日,約36時間持続した臼歯部開咬は改善し,MR検査を施行,右側の関節円板は前外方へ転位し,著しいjoint effusion像を認めた。以後,約5か月経過し,臼歯部開咬の発現はなく,最大開口域は40 mmであった。

    本症例の臼歯部開咬の原因として,長期転位状態で咬合が適応し,その環境下で関節円板が正常位に復位したことにより関節隙が拡大し,下顎頭位が偏位したためと考えられた。

  • 廣瀬 尚人, 矢野下 真, 大西 梓, 西山 沙由理, 久保 尚毅, 北 大樹, 壷井 英里, 麻川 由起, 谷本 幸太郎
    2023 年 35 巻 1 号 p. 40-48
    発行日: 2023/04/20
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    患者は初診時年齢43歳6か月の女性。開口障害と前歯で嚙み切れないことを主訴として来院した。咬合状態は上下顎前突であり,顎関節症状として開口障害,顎関節部および咀嚼筋の圧痛を認めた。MR画像所見より両側下顎頭の変形を認めた。両側ともに日本顎関節学会病態分類咀嚼筋痛障害(Ⅰ型),顎関節疼痛障害(Ⅱ型),非復位性顎関節円板障害(Ⅲb型)の疑い(後に右側Ⅲa型,左側Ⅲb型と確定診断),および変形性顎関節症(Ⅳ型)と診断した。まず初めに顎関節症治療として,tooth contacting habit(TCH)是正の指導や開口訓練,マッサージ療法,スタビライゼーションアプライアンス療法を行い,顎関節の臨床症状が沈静化し精神的状況が安定した後に矯正歯科治療へ移行した。矯正歯科治療として,上下顎にマルチブラケット装置を用いるとともに顎関節への負担を可及的に軽減した治療方針を策定した。治療開始から2年で緊密な咬合が獲得されたため,装置を撤去し保定を開始した。治療期間を通じて臨床症状の増悪は認められなかった。矯正歯科治療中に顎関節症が悪化すると治療目標の達成が非常に困難となるため,治療開始前に顎関節症を正しく診断し,その重篤度に応じ専門機関と連携しながら適切に対応することが良好な治療結果につながると考えられた。

  • 長谷部 充彦, 雨宮 剛志, 橘 竜佑, 小笠原 邦茂, 山田 秀典, 深代 祐五, 中岡 一敏, 濱田 良樹
    2023 年 35 巻 1 号 p. 49-55
    発行日: 2023/04/20
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    小児の片側性顎関節強直症に対して顎関節開放授動術にてGap形成を行い,成人まで経過観察を行ったところ良好な結果を得られたので,その臨床経過について報告する。患者は12歳の女児,右側関節突起骨折に継発した顎関節強直症(Sawhney分類TypeⅢ)であった。初診時,下顎は患側にわずかに偏位し,上下顎切歯間での開口域(MOR:mouth opening range)は11 mmであった。

    14歳時,患者自身が手術後からの疼痛を伴う開口練習に取り組む決意をしたため,顎関節開放授動術を施行した。手術の第一段階としては,右側顎関節内側部に残存する正常顎関節構造を温存しつつ,外側の骨性癒着部にGap形成術を応用し,Gap形成部に側頭筋・筋膜弁を挿入固定した。さらに,健側の側頭筋を筋突起から剥離することで,50 mmのMORが得られた。手術翌日から開口練習を開始し,手術後10日目には40 mmの開口域となった。その後も開口練習を継続し,術後6年経過した時点においてもMORは40 mmを維持しており,顔面非対称や下顎運動障害は認められていない。以上より,手術と術後の顎運動練習の継続により正常な顎関節構造を保存したうえで,下顎の可動性を確保できたことが,本症例における下顎の成長障害を防止するための決定的な要因であったと考えられた。

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