咀嚼筋の筋・筋膜痛は咀嚼筋に生じる疼痛性の慢性疾患であり, 手指による触診で痛みが誘発されることでその存在が確認される。近年の疫学あるいは実験研究より, その発症には顎関節や咀嚼筋領域以外の他の因子が強く関与していると考えられている。さらに筋・筋膜痛は, 線維筋肉痛や牽引性頭痛と病態が極めて類似していることより, それらとの関連性や共通性も議論されている。本邦の咀嚼筋障害 (顎関節症1型) の中にも, 筋・筋膜痛の範疇に該当し, 全身的あるいは他領域の疾患との関連が考えられる者が多数存在すると思われる。今回われわれは, 咀嚼筋障害 (顎関節症I型) と全身との関わりを検索する基礎研究の資料とするべく, 咀嚼筋の筋・筋膜痛患者の様態を調査した。結果は以下のごとくであった。
1) 顎関節症と診断された193名の中で, 筋・筋膜痛患者は男性16名, 女性33名の計49名であった。年齢は, 16歳から75歳まで分布しており, 平均年齢は41.8歳であった。
2) 各種随伴症状の主なものとしては, 頭痛 (53.1%), 肩こり・頸部痛 (71.4%), 腰痛 (42.9%), 睡眠不足 (45.0%), 腹部症状 (65.3%), 耳症状 (36.8%), 排尿の異常 (4.1%) などであった。
3) 筋・筋膜痛患者の65.3%に, 片側咀嚼, 歯ぎしり, くいしばりなどの異常習癖が認められ, 53.1%に生活に影響を与えるライフイベントが存在した。
4) Y-G心理テストでは, 筋・筋膜痛患者の34.7%に, 抑うつ, 回帰性傾向, 劣等感, 神経質などの異常が認められた。
5) 治療法では, 主にスタビリゼーション型スプリントが使用されていた。治療効果は, 治癒9例 (18.4%), 軽快18例 (36.7%), 不変13例 (26.5%), 転医2例 (4.1%) および脱落7例 (14.3%) であった。
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