禁煙科学
Online ISSN : 1883-3926
vol.1 巻, 03 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 中山 健夫
    2007 年 vol.1 巻 03 号 p. 3
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    EBMの発展と疫学:
     「医療の質」評価に対する社会的関心を背景に“エビデンス(根拠)に基づく医療(Evidence-based Medicine, EBM)”は、1990年代半ばから急速な発展を遂げた。
     現実の医療現場での意思決定は「限りある医療資源」のもとで、「医療者の経験・熟練(clinical expertise)」「患者の嗜好・価値観(patient preference)」「研究によるエビデンス(research evidence)」が勘案されて行われる。EBMは「個々の患者のケアに関する意思決定過程に、現在得られる最良の根拠(current best evidence)を良心的(conscientious)、明示的(explicit)、かつ思慮深く(judicious)用いること」とされる1)。
     EBMの前身とも言えるのが、「臨床疫学」である。「臨床疫学」とは、地域住民を主たる対象として、数々の疾病の原因(または危険因子)を解明してきた「疫学(epidemiology)」が、臨床の問題を解決するために応用されたものである。LastによるDictionary of Epidemiology は、疫学を「特定の集団(specified population)」における健康に関連する状況あるいは事象の分布(distribution)あるいは規定因子(determinants)に関する研究」2)と定義している。
     本論では数回にわたって、禁煙科学を推進するのに有用と思われる疫学やEBMの基本的な考え方を紹介していきたい。
    臨床医の感覚と疫学的視点:
     身近な例で考えてみよう。多くの臨床医は、自分が(そこそこの)名医であるというささやかな自負を持っている。「自分の外来に来る患者さんは、『先生のおかげで良くなりました、先生は名医です』と言ってくれる」という話もよく聞く。しかし、だからと言って、このような話だけで、自分を名医といって良いだろうか?
     少し考えれば分かるように、「良くならなかった患者さんは何も言わずに転院している」かもしれない。残念ながら、外来に通い続けていて、臨床医が診ている(というより臨床医に見えている)のは一部の患者さんに過ぎない。これは「脱落例(dropout)」という、疫学やEBMの視点で情報を読み解く際の基本的な、そして最も大きな落とし穴の一つとなる。疫学的な適切に検討を行うには、受診した患者さんを全員登録して追跡調査を行うことが必要となる。こうして初めに受診した患者さん全体を「母集団」と考え、何人が転院し、そのうちの何人が良くなり、何人が良くならなかったのか、きちんと割合を示すことができる。当たり前のことのようでいて、これすらも疎かにされている学会発表は少なくない。意図的でも(治療成績を良く見せるには、予後の悪そうな患者さんは除外する=初めから診ない、という場合も考えられる)、意図的でなくても、「母集団」のうちの多くが脱落した後に残ったケースだけから判断する誤りを、疫学的には「選択バイアス」による誤りと言う3)。
     症例報告が医学の進歩に大きな役割を担ってきたことは確かであるが、臨床現場では「例外的な1例」を(学会発表のため?)大事にしすぎる傾向があるかもしれない。特に初期研修の際は、個々の症例、つまり分数の「分子」にあたるケースを病理学的・生理学的に突き詰めようとするトレーニングが重視される。これをもとに研修医が、ほとんどすべて症例報告で占められている学会の地方会で発表することは当然のように受け容れられている。一方、分数の「分母」、すなわち目の前の患者さんが由来してきた「母集団」を意識する、場合によっては適切に取り扱う術はほとんど学ぶ機会が無かった。この術こそが疫学であり、臨床疫学である。EBMへの関心の高まりから、疫学的な考え方への認識が広まりつつあることは歓迎すべきことと言える。
     次号でも事例を用いて、疫学・EBMの考え方の基本を解説していきたい。
  • 東山 明子
    2007 年 vol.1 巻 03 号 p. 4-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    Key Sentences:
    ・21世紀に入りスポーツ界における禁煙化が世界レベルで進んできている。
    ・しかし、成人アスリートや指導者の喫煙は依然として存在し、アスリート自身のパフォーマンスや未成年アスリートへの喫煙の連鎖に影響している。
    ・禁煙支援には、アスリートに関わる人々による心理的支援が有効である。
  • 中川 利彦
    2007 年 vol.1 巻 03 号 p. 8-13
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    Key Sentences:
     未成年者の喫煙を防ぐためには未成年者喫煙禁止法を厳格に適用し、またたばこ自動販売機を撤廃し対面販売に限定すべきである。
     権利や自由といえども他人の生命健康を害することは許されないから、喫煙の自由は無制限に認められるものではなく、公共の場所や職場など非喫煙者と共有する空間、非喫煙者が利用する可能性のある場所は全面禁煙か完全分煙にしなければならない。
     学校・病院などはその目的から敷地内全面禁煙にすべきであり、喫煙の自由はその範囲で制限を受ける。
     禁煙推進のためには、たばこ事業法を全面改正する必要がある。
  • ~敷地内全面禁煙施行2年を経過して~
    山本 眞由美, 田中 生雅, 武田 純, 黒木 登志夫
    2007 年 vol.1 巻 03 号 p. 18-24
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
     岐阜大学では平成17年度から構内全面禁煙を施行し、喫煙所をすべて撤去した。しかし、屋外でかくれて喫煙したり、そのために吸いがらが増えたなどの問題点を指摘されるようになった。調べてみると、学生のみでなく大学職員の喫煙者も関与している事が判明した。そこで、今後の改善策をたてる目的で、喫煙職員を対象に自記式調査を実施したので報告する。平成18年度の職員定期健康診断を受診した1,596名全員に無記名自記式調査票を配布し、記入後回収した(回収率100%)。そのうち、喫煙者は150名で喫煙率は9.4%であった。この150名に対し、喫煙に関する知識や構内禁煙についての意識などに関する調査票を配布した。1日の平均喫煙本数は14.7±8.2本で、平均喫煙年数は16.5±10.3年であった。喫煙者の60%以上が起床後最初の喫煙開始まで30分以内であり、就業時間中に全く喫煙しないという事はむずかしいと推察された。また、80%近くが禁煙について関心をもっているものの、直ちに禁煙したいと答えたのは10%未満であった。禁煙することについて 「全く自信がない」 を0%、「大いに自信がある」 を100%とした時、50%以上の自信があると答えたのは喫煙者の50%であった。構内全面禁煙に関わる諸問題を解決させるためには、職員の禁煙サポート体制の充実が不可欠であることが示された。
  • 奥田 恭久
    2007 年 vol.1 巻 03 号 p. 25-28
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
     高校生らしき若者がタバコを吸う姿をみかけるのはそうめずらしくない。学校では喫煙が発覚すると謹慎処分が下されるなどペナルティーが科せられる。しかし生徒が学校生活のなかで喫煙を我慢できず、校内でタバコを吸ってしまうケースが結構多いのが実情である。タバコを吸った生徒を罰するだけの喫煙防止対策では、生徒をタバコから切り離すことはできない。これに対して週刊「タバコの正体」の配布による喫煙防止教育を過去2年あまりにわたり実施してきたので、経過と成果を報告する。
  • ~禁煙マラソンにおける意志のはたらきの一考察
    平松 園枝, 高橋 裕子
    2007 年 vol.1 巻 03 号 p. 29-37
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
     イタリアの精神科医ロベルトアサジオリ(1888~1974)はその著書「意志のはたらき」の中で、「巧みな意志」について述べ、行動には「強い意志」だけでなく「巧みな意志」がしばしば使われることを指摘した。「巧みな意志」を使うことは、日本ではほとんど注目されていない。しかし実際には、日本における行動変容においても「巧みな意志」を使っているとの理解が可能である。
     本稿では、行動変容では「強い意志」のみならず多様な意志が使われ、中でも「巧みな意志」と呼びうる意志を多く使っている実態を、禁煙マラソンに送付されたメールの言葉やメールから読み取れる事実をもとに検証した。現在の教育や社会において、主体性教育が重視される中で、強い意志以外のさまざまな意志のはたらきがあることを意識することや、「巧みな意志」に着眼することによって、医療における行動変容や教育をはじめとする多くの人間成長に関わる分野に新たな展開がもたらされる可能性がある。
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