本稿は中山間地域の現局面を構造的に把握することを課題としている。中山間地域は85年まではわが国資本主義の周辺的位置づけにあり,その限りでわが国資本主義と一体のものとして機能していた。しかしグローバル段階を迎えると世界システムの中に解き放たれ,経済的側面からは長期化する不況も手伝って壊滅的状況にある。しかし一方では,国家の相対化の中での政策的多様化が中山間地域を様々に性格づけるとともに,新たな消費空間としての資本進出があったり,環境面から新しい政策ツールが示されたり,これまでになく複雑な連関構造の中にある。こうして今日の中山間地域問題は,近代そのものが抱えた危機的問題,すなわち経済的格差拡大問題,環境問題,人間性喪失問題などを全て抱えると同時に,ポスト・モダン的発想からの夢空間としての評価が与えられる等,日常的住民の生活世界の存立そのものが危ぶまれるところにその中心がある。危機への対応は,この住民の生活世界を守ることであるが,そこでは住民がまたグローバルの中での世界市民として,地域内外の私的領域内においても,私的領域と公的領域の間においても対話的行為の重要性を認識し対拠することが必要である。
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