本報告の課題は,第1に,1931年制定の国立公園法によって形成された日本の国立公園制度は,自然保護と利用のいずれを重視するかを明確にしない曖昧なものであり,財政の乏しい管理要員の少ない貧弱な組織であったことを明らかにすることである。第2に,そうした構造をもった日本の国立公園制度は,戦後まで国立公園内の電源開発計画などを安易に容認し,自然保護を十分に行ってこなかったことを解明することである。第3に,戦前の国立公園法を引き継ぎ1957年制定の自然公園法下の国立公園制度は,戦前の国立公園制度の構造を継承してきたことを解明することである。第4に,高度経済成長期には,電源開発計画に代わって国立公園の観光開発計画が提起され,財政の乏しい貧弱な国立公園管理機構のもとで,国民の国立公園利用が急増し過剰利用が生じ,貴重な自然,景観が破壊され,環境が汚染されたことを解明することである。第5に,日本の国立公園制度は,財政の乏しい管理要員の少ない貧弱な組織構造を改めて,十分な予算と管理要員をおく組織に改善し,自然保護を重視する法律に改めるべきであることを示すことである。
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