構造的危機が深まってきた今日の林業にとって,自治体,森組,農林家,素材業等の連携の下での組織化と担い手再編という内発力に支えられた林業地づくりが,危機打開にとって1つの重要な要素である思われる。本論文では,戦後の典型的な新興林業地である高知県梼原町を事例として取り上げ,熱心な林業地形成への取り組みと組織化のプロセスや担い手の動向並びに課題について分析を行った。梼原町は戦後の拡大造林期を経て,80年代に町主導のもとでの基盤整備と農林家による保育間伐が他地域に比べて高レベルで展開し,さらに80年代半ば以降は,森組と自営生産林家の連携により収入間伐が増加し始める。そして90年代に入ると,「協議会」の結成,森組作業班の近代化,情報システム化の構築,大型製材工場の完成の他,自主的な林産企業組合の設立や素材業者の組織化等が行われ,これらが町と森組を中核に有機的に結合され,自営生産林家を含めた林業のシステム化段階に到達している。しかしこのような地域ぐるみによる林業発展がみられるものの,自営生産林家の高齢化・後継者難(家族経営の衰退)等の問題が一層深刻化し,底辺の厚い林業地形成に向けて大きな課題となっている。
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