教育心理学研究
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70 巻, 1 号
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原著
  • ―質問形式,理由付け,回答の確認―
    近藤 龍彰
    原稿種別: 原著
    2022 年 70 巻 1 号 p. 1-18
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

     本研究では,幼児はなぜ答えられない質問に「わからない(DK)」反応を行わないのかを検討した。本研究の参加児は3歳児24名(男児10名,女児14名),4歳児31名(男児12名,女児19名),5歳児35名(男児18名,女児17名)であった。参加児は,クローズドおよびオープン形式で答えられるあるいは答えられない質問が尋ねられた。次に,なぜ答えがわかったのか(わからなかったのか)を尋ねられ,その答えが正しいのかが確認された。その結果,5歳児のクローズド形式の答えられない質問へのDK反応は3歳児および4歳児よりも少ない,ただしオープン形式の答えられない質問へのDK反応に年齢差は見られない,5歳児はクローズド形式の答えられない質問の答えがなぜわかったのかを説明するのに推測したことに言及することが示された。5歳児は確認質問に対して「回答の変更」や「推測」の反応をする傾向はあったものの,これらの反応に年齢と関連した違いは見られなかった。これらの結果は,2つの異なった認知プロセス(「推測の無自覚」と「推測の自覚」)が,なぜ子どもがDK反応を行わないのかを説明しうることを示唆していた。

  • ―努力についての信念尺度の作成―
    外山 美樹, 長峯 聖人, 浅山 慧
    原稿種別: 原著
    2022 年 70 巻 1 号 p. 19-34
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

     本研究は,大学生を対象にし,努力に対する信念についてその構造を明らかにし,その個人差を測定することができる尺度を作成すること,ならびに努力についての信念が目標追求行動と関連しているのかどうかを検討することを目的とした。研究1ならびに研究2より,努力についての信念は,「重要・必要」,「コスト感」,「才能の低さの象徴」,「効率重視」,「環境依存性」,「義務・当然」そして「外的基準」に分類されることが示され,これら7つの下位尺度から成る努力についての信念尺度を作成した。研究2―研究4より,本研究で作成した「努力についての信念尺度」は,一定の信頼性(内的一貫性と時間的安定性)と妥当性(構造的な側面の証拠,外的な側面の証拠)を備え持っていることが確認された。また,研究4より,個人が持っている努力についての信念によって,目標達成が困難になった時の目標追求の仕方が異なることが示され,努力についての信念は行動を規定する要因であることが明らかとなった。今後は,本研究で作成された「努力についての信念尺度」を用いて,さまざまな行動(e.g., 学習行動)との関連について検討することが望まれる。

原著[実践研究]
  • ―試験時に参照するための事後ノート作成方略の認知に注目して―
    犬塚 美輪, 三浦 麻子, 小川 洋和
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2022 年 70 巻 1 号 p. 35-47
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

     本研究では,大学での授業において,試験時に参照するためにノートをまとめ直す(事後ノート作成)方略に関する認知とその変化を検討するとともに,作成された事後ノートの質的特徴と成績の関連を検討した。研究1(n=171)では,講義科目において,試験時に参照できる場合に事後ノート作成の有効性や工夫の認知が高く,コストが低く認知されることが示された。また,作成された事後ノートの記述量と図の使用頻度が事実問題の成績を予測した。研究2(n=114)では演習科目において中間テストと事後ノート作成を繰り返した。期末試験問題のうち,事実問題には事後ノートの記述量と体制化の指標の正の効果,まとめ文をそのまま写すことの負の効果が見られた。知識適用問題と説明問題では記述量の効果は有意ではなく,体制化とまとめ文の写しの有無が成績を予測した。方略としての認知は,工夫の認知に有意な変化が認められたが効果量は小さかった。研究3(n=45)では,演習科目において事後ノート作成の繰り返しに加え明示的教示を実施した。作成された事後ノートの体制化の指標が知識適用問題の成績を予測する結果が得られ,方略の認知に関しては,工夫の認知が有意な上昇を示した。

  • ―“ひとりぼっちの幼児”と“親密すぎる二者関係”を題材とした仮説モデルの生成―
    及川 智博
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2022 年 70 巻 1 号 p. 48-66
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

     幼児は1人から2人,そして複数人のグループへと仲間関係を形成していく。しかし,時に幼児はそのプロセスで課題を抱え,“ひとりぼっちの幼児”となったり,それ以上は仲間関係が広がりにくい“親密すぎる二者関係”を形成したりすることがある。本研究は,そうした課題を抱えた仲間関係の変容を促す保育者の援助の実践知を検討した。保育者30名に対して“ひとりぼっちの幼児”と“親密すぎる二者関係”及びその両方が登場する3つの架空の事例を提示し,援助プロセスを尋ねる半構造化面接を行った。語りはグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析された。結果,6つの援助プロセスを伴う計16のカテゴリーが導出された。次に,各カテゴリーと援助プロセスを共通性に注目し統合することで,保育者の実践知に関する仮説モデルを生成した。この仮説モデルから,保育者は課題に直面した際,5段階の援助プロセスにより幼児たちの遊びを育てることで,仲間関係の変容を促そうとしていることが考えられた。最後に,従来のSSTに関する諸研究および実践記録・研究の知見と比較しつつ,仲間関係の援助に関する保育者の専門性について論じ,課題と展望を述べた。

  • ―ジグソー法を用いて―
    郡司 菜津美
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2022 年 70 巻 1 号 p. 67-86
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

     本研究では,ジグソー法を用いた性教育指導観の理解を目指した授業の学習効果を検討することを目的とし,2018年,2019年の7月,首都圏A私立大学の2ヶ年分の受講者282名を対象に,授業の前後で質問紙調査を実施した。性教育指導観の変化を検討するため,(1)「性」に対するイメージ,(2)性教育をする理由,(3)性教育による児童生徒の具体的な変化についてKH Coderを用いて分析した。その結果,授業の前後で質問紙に記述された語(恥ずかしい,違い,知識,大人,性など)の共起関係が変わった,つまり同じ単語が異なる文脈の中で用いられるようになった。このことから,学生らに性や性教育に対する捉え方に変化が起こり,学習者から指導者へと認識の変化があったと推察された。また,ジグソー法で課題に取り組む協働の過程の中で,学生は主体的に他者と対話することで学習したと推測できた。つまり,文献の内容をグループのメンバーが個々に理解したというより,対話によってグループでの共同理解に努めたということになる。ジグソー法によって性に関しての学びを頭の中に主知的に構築するのではなく,他者との対話の中でパフォーマティブに意味を構築していたことが推測された。

  • ―反すう,楽観性,悲観性,及びストレス反応に着目して―
    市下 望, 野田 哲朗
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2022 年 70 巻 1 号 p. 87-99
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

     本研究は,感謝の対象を人への感謝である対人的感謝によるものと,こと・ものへの感謝である非対人的感謝によるものに統制した上で,感謝の筆記と読み上げが,反すう,楽観性,悲観性,ストレス反応に及ぼす効果について検討したものである。小学5・6年生183名を対象とし,87名を対人的感謝群,96名を非対人的感謝群に割り付けた。研究協力者は,3週間にわたり,感謝対象と内容を記載し,読み上げる活動を行った。時期はpre,post,follow-upの3水準で変化を比較した。その結果,対人的感謝群においては,感謝と楽観性の有意な上昇が見られた。非対人的感謝群においては,感謝の有意な上昇とストレス反応の有意な低下が見られた。以上の結果を踏まえ,今後の課題について考察を行った。

  • ―効果が出現しなかった少年にも焦点を当てて―
    本間 優子, 長尾 貴志, 相賀 啓太郎
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2022 年 70 巻 1 号 p. 100-111
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

     本研究は少年院において役割取得能力の促進を目的とした道徳教育プログラムを実施し,効果検証を行うことを第一の目的とした。全プログラム(16回,計4ヶ月間)に参加可能で介入前,中期,介入終了後の計3回評価が可能だった9名のうち,5名に役割取得能力の1段階上の発達段階の促進(段階1から段階2へ)と院内適応行動評価尺度(日課への参加の積極性,規則遵守行動,向社会的行動)の得点の上昇が示された。役割取得能力の発達段階の促進が認められなかった4名は,いずれの下位尺度の得点も変化しないことが明らかとなった。第二の目的として,効果が示されなかった少年について,効果への個人内要因(年齢,IQ,学歴,入院理由と事件の重大度,入院までの非行回数,過去の経歴)やプログラム満足度との関連について検討を行った。検討の結果,効果が示された少年よりも示されなかった少年の方が,過去の非行回数が多いことが示された。その他,法務教官に聞き取り調査を行い,プログラム効果の有無にはグループ内の人間関係や少年の性格特性が影響することが示唆された。

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