教育心理学研究
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71 巻, 3 号
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原著
  • ―COSMINに基づくPROM開発研究及び内容的妥当性研究―
    本田 真大, 新川 広樹
    原稿種別: 原著
    2023 年 71 巻 3 号 p. 173-189
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は児童青年の援助要請認知,援助要請スキルを測定する尺度開発に向けて,COSMINチェックリストに基づいて内容的妥当性の高い尺度開発を行うことであった。研究1(PROM開発研究)では小学4年生から高校3年生1,029名を対象に質問紙調査を実施し,内容分析を行った結果,援助要請認知に関する18個(援助要請期待感9個,援助要請抵抗感9個),援助要請スキルに関する12個の構成概念が得られた。研究2(内容的妥当性研究)では,関連領域の専門家(研究者及び実践家)9名に半構造化面接を行い,専門家視点からの尺度の関連性と包括性が支持された。研究3(内容的妥当性研究)では,当事者である児童青年484名を対象とした質問紙調査により,両尺度の教示文,想起期間,反応選択肢,及び各項目について90%以上の採択率が得られた。よって,関連性,包括性,わかりやすさが支持された。これらの結果を踏まえて,本尺度の特徴と限界,今後のCOSMINに基づく信頼性,妥当性,反応性の検証の必要性が議論された。

  • ―利用する既有知識の違いに着目して―
    後藤 慎弥
    原稿種別: 原著
    2023 年 71 巻 3 号 p. 190-204
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー

     本研究では,一般化された数学的概念に関する理解深化を目的とする授業において,生徒たちの利用する既有知識の違いによって,概念的理解の深化に差が生じるかを明らかにすることを目的とした。高等学校1年生2クラスを対象とした「指数の拡張」の授業が,その性質が日常経験として得られる知識である「ものの跳ね方」という題材を用いた指導法(指導法A)と,数学領域に属する知識で既習のものである「等比数列」という題材を用いた指導法(指導法B)のいずれかを用いて,同一教師により実施された。授業の前後に実施した,指数関数的変化に関する課題に対する記述と,授業時のワークシートの分析を行ったところ,以下の2点が明らかになった。①指導法Aの方が指導法Bよりも,一般化された指数に関する概念的理解の深化が促進された。②一般化された指数に関する概念的理解の深化は特に,指数関数的変化の特質である倍率一定性が明確に捉えられる問題に対する探究活動を経ることによって深化した。それらの結果をふまえて,一般化された数学的概念に関する概念的理解の深化を促進する授業のありかたについて考察した。

  • ―JD-Rモデルにおける仕事要求度に着目して―
    金子 智昭, 金子 智栄子, 清水 優菜
    原稿種別: 原著
    2023 年 71 巻 3 号 p. 205-222
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,現職の保育者を対象に,ワーク・エンゲイジメントの仕事要求度-資源モデル(JD-Rモデル)に基づく動機づけプロセスとコーピング仮説を検証することであった。保育者283名を対象に,質問紙調査を行った。二次因子分析により仕事資源と個人資源の構造を特定した後,構造方程式モデリングを行った。その結果,仕事資源と個人資源は,ワーク・エンゲイジメントを介して情緒的コミットメントを高める動機づけプロセスが示された。さらに,仕事要求度の高群と低群ごとに多母集団同時分析を行った。その結果,仕事要求度に対するコーピングの効果は,想定した仕事資源および個人資源とワーク・エンゲイジメントの関連ではなく,仕事資源と情緒的コミットメントの関連において認められた。つまり,保育者のワーク・エンゲイジメントにおけるJD-Rモデルに関して,動機づけプロセスは全面的に,コーピング仮説は部分的に支持された。これらの結果を踏まえて,保育者の労働環境の構築や専門性の育成に向けた介入の方向性が議論された。

原著[実践研究]
  • ―女子大学生を対象として―
    渡部 麻美
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2023 年 71 巻 3 号 p. 223-236
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー

     本研究では,女子大学生を対象にチームワーク能力向上プログラムに基づくトレーニングを実施し,トレーニング内容と対応した応用的スキルに向上がみられるのかを確認することと,基礎的スキルと応用的スキルの変化の時期を明らかにすることを目的とした。コミュニケーション能力のセッションとチーム志向能力のセッションに加えて,バックアップ能力のセッションを実施する条件,またはモニタリング能力のセッションを実施する条件,非実施条件の3条件を設定した。3つの条件の参加者に対して,トレーニング実施前,基礎的スキルのセッション終了時,トレーニング全体の実施後に効果測定を行った。その結果,主張スキルと関係構築スキル以外の下位スキルは,基礎的スキルのセッション終了時ではなく,トレーニング全体の実施後に得点が向上していた。応用的スキルのセッションについては,ターゲットスキルだけでなく,セッション内容に関連する基礎的スキルやターゲットスキル以外の応用的スキルも向上させる可能性が示された。基礎的スキルの解読スキルや記号化スキルは,応用的スキルのセッションにおいて具体的な使用場面を知ることで向上したと考えられた。以上から,基礎的スキルと応用的スキルには,相互に影響を及ぼし合う双方向の関係があると推測される。

  • ―小学4年生を対象とした事例研究から―
    深谷 達史
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2023 年 71 巻 3 号 p. 237-252
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー

     教訓帰納は,問題解決後に学習者が教訓を引き出す学習方略であり,その有効性が示唆されている。ところが,国語,中でも文章読解の学習における教訓帰納の介入研究は,学習者の実態からその必要性が示唆されているにもかかわらず,ほとんど行われてこなかった。そこで,本研究では,認知カウンセリングの事例から,文学的文章の学習において学習者が教訓帰納を身に付ける過程で,どのようなつまずきを示し,そのつまずきに対してどのような介入が求められるかを分析することを試みた。クライエントは,文学的文章の心情理解や記述問題を苦手とする小学4年生の女子で,読むコツ(読解方略)や問題を解くコツ(問題解決方略)を教訓として抽出することはしていなかった。そこで全10回の学習相談を通じ,カウンセラーとのやりとりを通じて抽出した教訓を用いて問題解決を促すとともに,学習方略として自ら教訓帰納を活用できるよう支援を行った。その結果,教訓帰納を学習方略として意識化できるようになり,学習意欲や学習観の面においても改善が認められた。考察では,文章読解において教訓帰納を促すための介入のポイントや研究の課題が論じられた。

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