(1) この職業態度尺度で測定した態度値の度数分布は, 標本抽出を合理的にすれば正規分布に近いものが得られる。各項目の尺度値を100点満点に換算して個人の得点を計算したが, その母平均は51点内外で当初実験計画に際して想是されたものと一致する。
(2) この尺度は, 男・女差は勿論学生, 職業人の態度差を明確に測定できる。すなわち, 男子は女子よりもかならず。高い。学生生徒では年令を追つて高くなる。職業人では, 筋肉労働者は低いが頭脳的職業人には高くあらわれる。態度値は, 年令を追つて直線的に上昇しないで就職と同時に下降して抛物線型を描くかそれとも E. L. Horowitz10)(1947) がRank-Testにおいて示すような理論曲線に近いものになると推定される。
(3) 尺度項目の採択比率をみると, 態度の構造を知ることができる。洋裁生, 補導生, 中学生は概して各項目に対して消極的であるが, 高校生になると成人の態度に次第にちかずいてくる。しかし, 職業の本質的項目には積極的態度がみられず, かつ統一的意見をもつていない。
大学生になると視野が広くなつて, 職場の人間関係, 個性, 家庭関係, 労働条件などを考量した態度が特に目立つてくる。
職業別にみると, 公務員が一番各項目を積極的に採択していて, 工員と主婦とがもつとも消極的である。自営業主の態度に, 学力や人間関係に依拠しようとする点のみられないこと, 工員の手足をはたらかす職業を特に採択しているあたりは非常に興味が深い。
(4) 態度値に影響する要因として個人の特性たる技能, 進路希望, 就職意欲, 学力が考えられるが分析の結果わずかに学力だけであった。しかし, その寄与する度合は極めて微弱であるから集団態度の個体差をこれだけで解釈することは到底できない。
洋裁学校, 職業補導所の生徒は一般学生に比してその平均態度が著るしく低く, かつ態度の構造もかなり相違している。
洋裁生は各集団に比してP<01の差をもつている。補導所生は, 年令の低い中学生よりも平均態度値が低く工員や自営業主と逕庭のないほどであつた。
(5) それゆえ, この態度値はテスト場面Testing Situationに当面する集団の標準態度によつて影響されるかどうかを検証した。
実験手続は第1回の測定後に職業態度に関する討論を課して, 第2回目の態度表明には集団標準Group Norm の影響を排除するように試みた。その結果, 態度値の度数分布には変化はみとめられなかつた。平均態度値は女子にはP. 01, 男子にはP. 40の有意差がみとめられた。項目別に分析すると, 尺度値の低い項目が1っだけ第2回目に多くあらわれた。2×2×2要因計画法によって分散分析したところ, 性別, 進路, 実験回数が同時に交互して作用するときにも態度値に影響がみとめられない。この検証実験が当初の企図を達成したものと仮定すれば, 討論の影響はきわめて少い。
(6) この尺度で測定した態度は, 個人のPrivate Opinionをよく表明しておるが, Group Opinionの影響もあり得るから, 洋裁生のようなグループでは討論によつてLaissez-faireな雰囲気をOrganized Groupに転換させて態度をいたく変容せしめることが可能ではないかと推定される。この推論はさらに精密な測定や実験を重ねて論証する必要がある。
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