教育心理学研究
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51 巻, 3 号
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  • スクールカウンセラーとの協働に注目して
    伊藤 美奈子
    2003 年 51 巻 3 号 p. 251-260
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, 中学校における保健室登校の実態を調べるとともに, それに対する養護教諭の意識について明らかにすることを目的とした。小・中・高校の養護教諭285人に対し,(1) 保健室登校についての悩み,(2) 保健室での相談活動に関する意識と相談満足度,(3) スクールカウンセラー (以下sc) 配置の有無,(4) 昨年度と今年度の保健室登校児童生徒についての質問 (人数, 期間, 不登校のタイプ, 来室頻度, 経過, 他の教師との連携の様子など) からなる質問紙を実施した。研究1では, 回答が得られた保健室登校生徒男子106 人, 女子206人の回答を分析した。その結果, 保健室登校児童生徒の実態とそれに対する養護教諭の対応とその経過は, 校種によって異なるのであり, 不登校のタイプによっても差異のあることが明らかになった。研究IIでは, 保健室登校に関する悩みには〈多忙感〉〈連携の悩み〉〈対応上の不安〉という3つがあることが見出された。保健室登校を多く抱えるほど多忙感が大きく, 保健室登校に悩んでいる養護教諭ほど, 相談役割 (SC役) を兼ねることへの不安も大きいことが示唆された。さらに, 保健室登校とSC の有無の組み合わせによる3群を比較する中で, SCが配置された学校では, 保健室登校の人数が多いが, 対応上の不安は小さく, 養護教諭の相談活動満足度は高いことが明らかになった。それより, 養護教諭とSCとの連携の意義が検討された。
  • 均等分布理解と関係概念の定性的理解からの検討
    永瀬 美帆
    2003 年 51 巻 3 号 p. 261-272
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 従来の研究よりも高い年齢の被験者 (小学5年生から高校2年生まで) を対象として, crowdednessタイプの密度概念の質的理解の発達過程を, 均等分布の理解と関係概念の定性的理解という2つの側面から明らかにすることであった。課題は, 均等分布の理解, および数, 長さ, 密度のいずれか二者および三者の関係の理解を調べるための課題からなっており, ランダムに問題を綴った冊子を配布し, 学級ごとに一斉に実施した。その結果, 中学1年生から高校2年生にかけての時期に, 高校1年生を最低とするU字型の発達傾向が示された。これは, 小学5年生 (11歳) から中学2年生 (14歳) にかけて停滞していた三者関係の理解が, 以降急速な発達を始めることにともなう知の再体制化のためであると考えられる。平均的にみると, 第3位相の高校2年生では, いずれの理解についてもよく理解していた。しかし, 個人レベルで各理解の獲得・未獲得を調べたところ, 全ての理解を獲得している者の割合は5割に達していなかった。以上のことから, 数と長さによって決まる密度概念の質的理解は, 中学2年生 (14歳) 以降に大きく発達するが, 高校2年生 (17歳) でもまだ完全には獲得されない可能性が示唆された。
  • 前田 啓朗, 田頭 憲二, 三浦 宏昭
    2003 年 51 巻 3 号 p. 273-280
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, 日本の高校生英語学習者による語彙学習方略 (以下VLS) の使用に焦点を当て, VLS使用の一般的傾向と異なる学習成果の段階における傾向を明らかにすること, 簡便にVLS使用を測定できる質問紙を提供すること, 英語学習をより促進できるようなVLS指導への示唆を導くこと, を目的とした。先行研究で示された高校生英語学習者のVLSを用いて調査を行い, 15高等学校からの1, 177の回答を分析し, 先行研究に示される「体制化方略」「反復方略」「イメージ化方略」の3因子を仮定するモデルが確認された。同時に学習成果を測定し, 上位・中位・下位に分割して分析を行った結果, VLS使用の強さが上位・中位はあまり異ならないがそれら2群と下位では顕著に異なり, 異なるVLS間の相関は中位と下位ではあまり相違ない一方で上位ではイメージ化方略と他の2方略が比較的独立している, という結果が得られた。このことから, VLS指導や語彙指導の際に, 学習成果の度合いに応じて効果的な VLSは異なるという点に留意する必要性が示唆された。
  • 「事例にもとつく帰納学習」の可能性の検討
    工藤 与志文
    2003 年 51 巻 3 号 p. 281-287
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本論文は, 概念受容学習によって獲得された知識の一般化可能性がルール教授セッションで用いられた事例によって影響されるという現象 (事例効果) を説明する新たな要因として, 学習者による教示情報の「解釈」を取り上げ, 検討したものである。大学生93名を対象に, チューリップを事例として「種子植物」に関するルールを教授するセッションの後, 教示情報の解釈ならびに獲得された概念的知識の一般化を調べる課題を課した。その結果, 全体として概念的知識の一般化が事例およびその類似例に限定される傾向が確認された。さらに, ルールのような一般性を持つ情報が教示情報に含まれていないと解釈する被験者が約半数を占めること, それらの被験者は獲得した知識を一般化させない傾向の強いことが示された。これらの結果は, 概念に関するルールを明示的に教授する事態であっても, 事例にもとづく帰納学習が生じる可能性を示唆するものである。
  • 上地 広昭, 竹中 晃二, 鈴木 英樹
    2003 年 51 巻 3 号 p. 288-297
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 子ども用身体活動行動変容段階尺度および子ども用身体活動の恩恵・負担尺度を開発し, その尺度を用いて子どもにおける身体活動の行動変容段階と意思決定バランスの関係を検討することである。研究Iでは, 小学4-6年生男子201名および女子200名を対象に, 子ども用身体活動行動変容段階尺度を開発し, その信頼性および妥当性を検討した。その結果, 子ども用身体活動行動変容段階尺度は, 高い信頼性および妥当性を示した。研究IIにおいて, 小学4-6年生男子213名および女子205名を対象に調査を行った。因子分析の結果, 子ども用身体活動の恩恵・負担尺度は9項目2因子構造 (「身体活動の恩恵」因子および「身体活動の負担」因子) であることが明らかになった。また, 子ども用身体活動の恩恵・負担尺度の信頼性および妥当性が確認された。研究IIIにおいては, 小学4-6年生男子202名および女子201名を対象に, 子どもにおける身体活動の行動変容段階と意思決定バランスの関係を検討した。分散分析を行った結果, 身体活動の恩恵・負担尺度得点について, 身体活動の行動変容段階の主効果が認められた。不活動な子ども (無関心ステージ) は, 他の子どもに比べ, 身体活動の恩恵に対する知覚が弱く, 負担を強く知覚していた。標準得点を用いて, 身体活動の恩恵と負担の知覚の交差点 (恩恵の知覚が負担の知覚を上回るポイント) を検討した結果, 男子では「実行ステージ」, 女子では「維持ステージ」において認められた。本研究の結果から, 子どもにおける身体活動の行動変容段階と意思決定バランスの関係の一部が示された。
  • 尺度の標準化と随伴性認知のメカニズムの検討
    牧 郁子, 関口 由香, 山田 幸恵, 根建 金男
    2003 年 51 巻 3 号 p. 298-307
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究は, 学習性無力感 (Seligman & Maier, 1967) における随伴性認知に改めて着目し, 新たな無気力感のメカニズムを検討することを目的とした。そこで, 近年問題視されている中学生の無気力感の改善を鑑みて, 以下の研究を行った。研究1では, 随伴性認知の測定尺度「中学生版・主観的随伴経験尺度 (PECS)」の標準化を試みた。その結果, 2因子 (随伴経験・非随伴経験) からなる尺度が作成され, 信頼性・妥当性が実証された。研究2では, まず不登校の中学生の無気力感と随伴性認知との関係を検討するために, PECSを不登群・登校群それぞれに実施したところ, 差が認められなかった。このことから, 登校生徒も不登校生徒と同程度に, 随伴経験の欠如や非随伴経験の多さを有している可能性が示唆された。この結果を受けて, 登校している中学生の無気力感と随伴性認知との関連を検討するため, 担任教師の行動評定によって群分けされた無気力感傾向高群・低群生徒におけるPECSの得点を分析した。その結果, 随伴経験因子において差が認められ, 中学生の無気力感は非随伴経験の多さよりも随伴経験の少なさに起因する可能性があることが示された。
  • 手段性・表出性, 自己効力感, 結果期待の役割について
    安達 智子
    2003 年 51 巻 3 号 p. 308-318
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    社会・認知的進路理論で規定される概念間の関連性について検討をくわえた。質問紙は, 進路に対する自己効力感, 結果期待, 職業興味, 性役割パーソナリティの4つの測度から構成され, 大学生393名より有効回答を得た。手段性と表出性が進路に対する自己効力感と結果期待を介在して職業興味を喚起させるプロセスについて因果モデルを構成し, 構造方程式モデリングによる分析を行った。結果として, 6つの職業領域すべてにおいて自己効力感と結果期待が興味に影響を及ぼしていたことから, 自己効力感だけでなく結果期待も, わが国大学生の職業興味の形成に重要な役割を果たすことが明らかにされた。また, ジェンダーと効力感, 結果期待の関連については, 領域毎に傾向差がみられるが, 手段性と表出性のどちらか, あるいは双方が効力感と結果期待のいずれか, あるいは双方に影響を及ぼしていた。こうした結果から, 変数間の関連性は領域により異なるため, どういった職業領域を扱うかを念頭におき領域毎に検討していく必要があるだろう。
  • ストレス状況の文脈を考慮して
    及川 恵
    2003 年 51 巻 3 号 p. 319-327
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    気晴らし (distraction) は, 代表的な情動調節方略とされ, 日常生活において広く活用される一方, 適応的な調節が困難となり, 非効果的な気晴らしが持続する状態, すなわち気晴らしへの依存ともいうべき不適応的側面に繋がる可能性も指摘される。本研究では, 同一のストレス状況でも複数の方略が用いられる点に着目し, 気晴らしへの依存を低減する認知的対処方略として再解釈と計画を取り上げ, 気晴らしへの依存に及ぼす影響について検討することを目的とした。ストレス状況は, これからやるべきことで憂うつな状況 (遂行状況) と, すでに終わってしまったことで憂うつな状況 (既済状況) とした。各方略と気晴らしへの依存との関連に, 気晴らしの実行度が影響するかどうかを検討するため, 交互作用項も投入して重回帰分析を行った。重回帰分析の結果, 計画は各々の状況で気晴らしの実行度の影響にかかわらず, 気晴らしへの依存を低減し, また, 再解釈はストレス状況により気晴らしへの依存に及ぼす影響に差異があり, 特に遂行状況における有効性が示唆された。以上の結果から, 計画と再解釈が気晴らしへの依存を低減するために有効な方略であることが示唆された。
  • 援助者としての保護者に焦点をあてて
    田村 節子, 石隈 利紀
    2003 年 51 巻 3 号 p. 328-338
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, 不登校生徒15例に対する援助チームの実践をもとに, 次のことを明らかにすることを目的とした。(1) 保護者を含む援助チームの実践モデルを提案し有用性を検討する。ただし, 有用性とは援助チームにより援助が促進されることを意味する (2) 保護者の状況に応じた援助チームの実践例について, その形態を分類し, その特徴や実践に当たっての問題点を分析・検討する。実践の結果, 援助チームは次の4タイプに分類された。タイプ1 (典型例)...担任・保護者・スクールカウンセラーの3者で相互コンサルテーションを行う。タイプ2...担任・スクールカウンセラーの2者が相互コンサルテーションを行いながら, それぞれ保護者ヘコンサルテーションを行う。タイプ3...担任がスクールカウンセラーと相互コンサルテーションを行いながら, 担任が保護者ヘコンサルテーションを行う。タイプ4...スクールカウンセラーが担任と相互コンサルテーションを行いながら, スクールカウンセラーが保護者ヘコンサルテーションを行い, 同時にカウンセリングも行う。このように, 担任・保護者・スクールカウンセラーが, 核 (コア) となって援助を主導し, 相互コンサルテーションおよびコンサルテーションを行い, 子どもへ援助する形態を“コア援助チーム”と定義し, 学校教育においてチーム援助のモデルのひとつとして意義があることを示唆した。
  • 江村 理奈, 岡安 孝弘
    2003 年 51 巻 3 号 p. 339-350
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, 中学校1年生を対象に学級を単位とした集団社会的スキル教育を行い, 社会的スキルの促進と主観的適応状態 (ストレス反応, 学校ストレッサー, ソーシャルサポート, 孤独感, 不登校傾向) が改善されるかどうかを検討した。期間は, 約半年で総合的学習の時間を利用して8セッション実施された。標的スキルは, a) 自己紹介, b) 仲間の誘い方, c) あたたかい言葉かけ, d) 協力の求め方, e) お互いを大切にする, f) 上手な断り方, 9) 気持ちのコントロールの7つであった。介入前・中・後の社会的スキル尺度総得点に基づくクラスター分析を行った結果, 下降群, 低得点上昇群, 高維持群, 高得点上昇群の4つのタイプに分類できた。各群の介入前・中・後・フォローアップにおける主観的適応状態について比較したところ, 低得点上昇群の孤独感が減少し, 友人サポートが上昇していた。一方, 下降群は, 不機嫌・怒りが上昇していた。以上の結果より, 中学校における集団社会的スキル教育は社会的スキルを促進し, 主観的適応状態を改善することに一定の効果をもつことが示唆された。
  • 落合 美貴子
    2003 年 51 巻 3 号 p. 351-364
    発行日: 2003/09/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    教師バーンアウトは, ヒューマンサービス従事者のバーンアウトの中でも, とりわけ深刻な問題として研究されてきている。教師バーンアウトは, 教育学, 心理学, 社会学等多領域に跨がるテーマであることから, 学際的な視点が必要である。本論は, その点を踏まえて, まず国外の研究を概観し, 次いで日本の研究動向を探った。そして, 特に要因研究に焦点を当て先行研究のメタ分析を行い, 今後の教師バーンアウト研究に必要とされる4つの視点を提示した。それは,(1) バーンアウト研究は, 概念やその成立機序からしてストレス研究とは一線を画すべきであること,(2) 社会・文化的視点, 特に教育制度や教師文化の独自性に関する認識が不可欠であること,(3) 時間軸の重要性から, 教師のライフヒストリー研究等の縦断的研究が必要であること,(4) これまでの量的研究は, バーンアウトの内実に迫り得ていないことから, 質的研究法を導入する必要があること, である。
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