教育心理学研究
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63 巻, 3 号
教育心理学研究
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
原著
  • —認知・行動・情緒の3側面からの検討—
    児玉 裕巳, 石隈 利紀
    2015 年 63 巻 3 号 p. 199-216
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
     本研究では「学習に対する認知的・行動的・情緒的側面からなる態度」に着目し, 中学・高校生(N=1361)を対象に尺度を作成し, 因子構造と信頼性・妥当性, 中学生と高校生の差異, およびプロフィールの特徴について検討した。その結果, 認知的側面では「関与肯定」「コスト受容」「遂行目標の重視」の3因子が, 行動的側面では「習慣的な積極行動」「テスト課題対処」「対処回避」の3因子が, 情緒的側面では「充実感」「統制感」「学習の不安」の3因子が見出され, 一定程度の信頼性と妥当性を確認した。また中学生はポジティブな態度と対処回避の負の関連が強く, 高校生はテスト課題対処と遂行目標の重視および学習の不安との正の関連が強いこと, 遂行目標の重視は高校終盤で下がること, 概ね学年が進むにつれて習慣的な積極行動とテスト課題対処は低くなること, 学校移行期あたりは充実感と統制感は低く学習の不安は高いこと, 中学生の間にポジティブな態度を持つ群は減少してしまうこと, 高校生になると学習のネガティブ感情を持つ群は減ると同時に学習以外のことに関心を持つと推察される群は増えること等が明らかとなった。
  • —学校ライフイベントと自尊感情を媒介として—
    齊藤 彩
    2015 年 63 巻 3 号 p. 217-227
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
     思春期の子どもにおける不注意および多動性・衝動性に関する行動傾向が引き起こす二次的な内在化問題の存在が指摘されてきているものの, その発現メカニズムや具体的な関連要因についての十分な実証研究は行われていない。本研究は, 通常学級に在籍する中学生を対象とし, 不注意および多動性・衝動性から成る注意欠陥/多動傾向が学校ライフイベント, 自尊感情を媒介して内在化問題と関連するかどうかを検討することを目的として行われた。中学生826名と学級担任教員22名を対象に質問紙調査を実施し, 教員評定により生徒の不注意および多動性・衝動性を測定し, 生徒の自己評定により学業と友人関係に関するライフイベントの経験頻度, 自尊感情, 内在化問題を測定した。不注意, 多動性・衝動性, 注意欠陥/多動傾向の各変数と内在化問題との間には有意な正の相関関係が確認されたが, パス解析の結果, 注意欠陥/多動傾向から内在化問題への直接の有意なパスは見られず, 注意欠陥/多動傾向は, 学業ならびに友人関係の両イベント, 自尊感情を媒介して内在化問題へと関連することが明らかとなった。
  • —文系学部の新入生を対象として—
    千島 雄太, 水野 雅之
    2015 年 63 巻 3 号 p. 228-241
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は, 大学入学前に持っていた複数の領域に渡る大学生活への期待と, 実際に経験した大学生活に関して探索的に把握し, 大学適応への影響について実証的に明らかにすることであった。文系学部の大学生84名を対象とした予備調査によって, 大学生活への期待と現実に関して探索的に検討し, それぞれ項目を作成した。続いて, 文系学部の新入生316名を対象とした本調査を行い, 探索的因子分析の結果, 大学生活への期待は, “時間的ゆとり”, “友人関係”, “行事”, “学業”の4つの領域が抽出された。対応のあるt検定の結果, 全ての領域において期待と現実のギャップが確認された。さらに, 大学環境への適応感とアパシー傾向を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。その結果, “時間的ゆとり”と“友人関係”において, 期待と現実の交互作用が認められ, いずれにおいても現実得点が高い場合に, 期待得点はアパシー傾向と負の関連が示された。特に, 期待したよりも時間的ゆとりのある大学生活を送っている場合に, アパシー傾向が高まることが明らかにされ, 大学における初年次教育の方向性に関して議論された。
  • 高原 龍二
    2015 年 63 巻 3 号 p. 242-253
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
     公立学校教員の都道府県別精神疾患休職率に関して, 教員を対象とした質問紙調査より得た職場環境認知とストレス反応を個人レベルデータとして, 政府統計から得た教育行政や教員のメンタルヘルスに関する施策を都道府県レベルデータとして用いたマルチレベルSEM(Structural Equation Modeling)による検討を行った。小学校教員, 中学校教員の両モデルにおいて, 個人レベルでは伝統的な職業性ストレスモデル(e.g., Karasek, 1979)に従って職場環境の認知がストレス反応を説明することが示され, 集団レベルでは, 教員の意識が教育行政やメンタルヘルス施策と精神疾患休職率の関係を媒介することが示された。小学校, 中学校の両方で共通あるいは類似する要因として挙がったのは, 非正規教員比率, 児童生徒数に対する教員や教育委員会の体制, 労働組合の組織率, 学校数であった。本分析の結果は, 都道府県レベルのような広い範囲であっても, 組織的な環境調整や施策によって, ストレス反応や精神疾患休職を予防できることを示唆しているものと考えられる。
  • —日本人小学校児童への横断的調査による検討—
    猪原 敬介, 上田 紋佳, 塩谷 京子, 小山内 秀和
    2015 年 63 巻 3 号 p. 254-266
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
     海外の先行研究により, 読書量, 語彙力, 文章理解力には緊密な相互関係が存在することが明らかになっている。しかし, 我が国の小学校児童に対する調査はこれまでほとんど行われてこなかった。この現状に対し, 本研究では, これまで調査がなされていなかった1・2年生を含めた小学校1~6年生児童992名に対して調査を実施した。また, 読書量推定指標間の関係についても検討した。その際, 海外では使用例がない小学校の図書貸出数と, 新たに作成したタイトル再認テストの日本語版を含め, 6つの読書量推定指標を同時に測定した。結果として, 全体的にはいずれの読書量指標も語彙力および文章理解力指標と正の相関を持つこと, 読書量推定指標間には正の相関があるもののそれほど高い相関係数は得られなかったこと, の2点が示された。本研究の結果は, 日本人小学生児童における読書と言語力の関係についての基盤的データになると同時に, 未だ標準的方法が定まらない読書量推定指標を発展させるための方法論的貢献によって意義づけられた。
  • —抽象的な概念名辞の「まくら言葉化」—
    麻柄 啓一, 進藤 聡彦
    2015 年 63 巻 3 号 p. 267-278
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
     事例と共にルールを教授しても, 学習者がルール情報に着目せず, 事例情報のみからの帰納学習が行われる場合がある。このことを指摘した工藤(2013)は, その原因として事例情報が与えられたことによってルール表象の形成が不十分になることを示唆した。しかし, これまでなぜルール表象の形成が不十分になるかについては解明されていない。そこで本研究では, この点の解明を目指した。研究Iでは42名の大学生が, 研究IIでは87名の大学生が対象となった。「銅は電気を通す」という事例情報とともに「金属は電気を通す」というルール情報を与えて実験を行った結果, 以下の点が明らかとなった。「一般・個別」という知識の枠組みを不十分にしか持っていない学習者は, 与えられた2つの情報から「金属の銅は電気を通す」のようなイメージを形成していることが示唆された。すなわちルール情報中の「金属」という概念名辞が単に「銅」に係る修飾語としてイメージされてしまう。その結果, ルール表象が形成されないこと, また, さらにその結果, 当該のルールを後続の問題に対して適用できなくなることを示唆する結果を得た。本研究では概念名辞がその抽象性を失い単に事例の修飾語として位置づけられる現象を概念名辞の「まくら言葉化」と表現した。
  • —グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた質的分析—
    山本 渉
    2015 年 63 巻 3 号 p. 279-294
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は, 中学校の担任教師が, 生徒・保護者への対応において, スクールカウンセラー(以下, SCと略記)の活動をどのように生かし, その結果どのような体験をしているのかを, 担任教師の視点からボトムアップ的に把握することであった。半構造化面接法にて収集された16名の中学校教師のインタビュー・データを, グラウンデッド・セオリー・アプローチを援用して分析した。その結果, 担任教師がSCの活動をどのように生かしているのかは, ≪担任のしづらい動きを担ってもらうことでゆとりを得る≫, ≪SCの情報や発言から生徒・保護者への理解を深める≫, ≪対応にあたってのガイドを得て判断の参考にする≫, ≪気持ちや考えへの保証を得て精神面の回復に役立てる≫の4つに整理されることが示唆された。これらのいずれか, あるいは複数の生かし方をした結果, 担任教師はそれまでよりも生徒・保護者に≪安定して対応できる≫ようになると考えられた。さらに, SCとの協働を経て≪安定して対応できる≫ようになることがきっかけとなり, 担任教師自身の≪対応スタンスの変化が促される≫場合もあることが示唆された。
  • —2種類の攻撃性との関連の検討—
    関口 雄一, 濱口 佳和
    2015 年 63 巻 3 号 p. 295-308
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
     本研究は, 小学生が抱いている関係性攻撃についての知識構造である関係性攻撃観の因子構造を明らかにするとともに, その関係性攻撃観と表出性攻撃, 関係性攻撃の関連を検討するために行われた。小学5, 6年生児童446名を対象に, 関係性攻撃観尺度暫定項目, 小学生用P-R攻撃性質問紙, 関係性攻撃経験質問項目を含む質問紙調査が行われ, 更に同意が得られた児童163名に対して再検査信頼性の検討を目的とした再調査が実施された。因子分析の結果, 関係性攻撃観尺度は“否定的認識”, “身近さ”, “正当化”, “利便性”の4因子構造であることが示され, 各因子の内的一貫性も概ね確認された。そして, 加害経験のある児童ほど攻撃行動に親和的な関係性攻撃観の下位尺度得点が高いことが示され, 関係性攻撃観尺度の基準関連妥当性が示された。また, 再検査信頼性を検討したところ, 関係性攻撃に関与する立場の継続と, 関係性攻撃観の安定性の高さとの関連が示された。さらに, 重回帰分析の結果, 表出性攻撃を統制した上でも, 否定的認識得点, 身近さ得点, 利便性得点は関係性攻撃得点と有意に関連することが明らかにされ, 攻撃行動に親和的な関係性攻撃観が実際の攻撃行動を規定する可能性が示唆された。
  • 浦上 涼子, 小島 弥生, 沢宮 容子
    2015 年 63 巻 3 号 p. 309-322
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
     本研究では, 体型に関するメディアの情報を受けた個人が, その影響から痩身理想をどの程度内在化しているかを評価するSociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-3 Revised(SATAQ-3R ; Thompson, van den Berg, Keery, Williams, Shroff, Haselhuhn, & Boroughs, 2000)の日本語版を作成し, 大学生の痩身理想の内在化とメディア利用頻度との関連性について検討した。研究1では, 男女大学生1,054名を対象に調査を実施し, 29項目(4下位尺度)の日本語版SATAQ-3Rを作成し, 尺度の信頼性と妥当性を確認した。研究2では, 男女大学生998名を対象に日本語版SATAQ-3Rとインターネットやテレビ, 雑誌といったメディア利用頻度との関連性を調べた結果, 男性より女性のほうが, メディアの影響を受けて痩身理想を内在化し, メディア情報を重要だと考え, 外見に関するプレッシャーを感じていることが示された。一方でスポーツマン体型への内在化は女性より男性のほうが高いことが示された。また, メディアのうち特にテレビと雑誌が大きく影響を及ぼす可能性が示され, わが国の摂食障害患者の増加を防ぐためにも, 学校教育におけるメディアリテラシー教育の重要性が示唆された。
原著[実践研究]
  • 堤 亜美
    2015 年 63 巻 3 号 p. 323-337
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2015/11/03
    ジャーナル フリー
     本研究では, 一般の中学・高校生を対象とした, 認知行動療法的アプローチに基づく抑うつ予防心理教育プログラムの実践を行い, その効果を検討した。プログラムは全4セッション(1セッション50分)からなり, 主な介入要素は1)心理教育, 2)感情と思考の関連, 3)認知の再構成, 4)対反芻, であった。中学3年生および高校2・3年生を対象に本プログラムを実施したところ, 分散分析の結果, 中学生対象の実践ではプログラム実施群はプログラム実施前に比べ実施後に有意に抑うつの程度と反芻の程度が低減したこと, 高校生対象の実践ではプログラム実施群はプログラム実施前に比べ実施後に反芻の程度が有意に低減し, 抑うつの程度が有意に低減した傾向が示された。また, 中学生では実施6ヶ月後, 高校生では実施3ヶ月後の時点において, プログラム実施後の抑うつ・反芻の程度を維持していることも示された。そして感想データの分析の結果, 自分自身や周囲の人たちの抑うつ予防に対する積極性の獲得など, 一次予防や二次予防につながる様々な変化が見出された。これらのことから, 本プログラムは抑うつ予防に対し継続的な有効性を保持するものであることが示唆された。
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