土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
特集号: 土木学会論文集
80 巻, 17 号
特集号(海岸工学)
選択された号の論文の170件中101~150を表示しています
特集号(海岸工学)論文
  • 五十里 洋行, 後藤 仁志, 久岡 勇登, 田中 龍太郎
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17171
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     人工リーフに高波浪が作用する際には,人工リーフ上で砕波が発生し,マウンド上の被覆ブロックに大きな力が作用する.それによってブロックの連鎖的な離脱やマウンドが露出した個所からのマウンド材の抜け出しなどの被害が発生することが既往の水理実験によって報告されている.本現象については以前に二次元場での再現計算が行われたものの,二次元場ゆえに運動の自由度が制限され,完全には被害状況は再現されなかった.そこで本研究では,三次元数値シミュレーションモデルを用いて本現象の再現計算を試みた.高波浪の作用によって順次ブロックが離脱して背後のブロック上に乗り上げる挙動やマウンド材の抜け出しを伴うマウンド形状の変形など,二次元計算では再現されなかった人工リーフの被害状況が本数値モデルによって良好に再現された.

  • 宮下 侑莉華, 本田 隆英, 織田 幸伸, 千綿 蒔
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17174
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     高潮発生時の越波・越流による浸水対策工の一つに二重パラペット護岸がある.著者らはこれまで,二重パラペット護岸の対策効果の定量化のため,不規則波を対象とした水理実験および数値解析による越波流量推定手法について検討したが,越波流量の数値解析結果は実験に比べて1オーダー程度の過小評価となった.そこで本研究では,その要因の解明と精度向上を目的に追加の数値解析を実施し,短周期の成分波が減衰することで越波流量が過小となっていることを確認した.次に,解析格子間隔,数値拡散係数などの解析パラメタの影響を比較検討し,クーラン数を0.125に制限することで波高減衰が改善すること等を示した.その結果,越波流量の数値解析結果は,実験結果に基づき提案した推定式に近い値を示す傾向が得られた.

  • 姫野 一樹, 福原 直樹, 加藤 史訓, 安田 誠宏
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17175
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     消波工のうちあげ高低減効果については,定量的な知見が乏しく,護岸等の設計においては,越波流量の低減効果(所要天端高の低減率)を準用していることが多い.本研究では,消波工を設置した護岸を対象とした松下らの水理模型実験(海底勾配1/30)で得られた不規則波のうちあげ高の代表値を整理し,各種実験データで再現性が確認されている間瀬らの打上げ・越波統合算定モデルで求まるうちあげ高の代表値と比較することで,うちあげ高の低減効果を評価した.その結果,消波工によりうちあげ高が4~8割程度になること,波形勾配が大きくなるほどうちあげ高低減効果が大きくなること,波形勾配が0.02以下かつ法先水深波高比が1以上となる条件では,合田らの所要天端高の低減率を用いるとうちあげ高を過小評価する可能性があることが分かった.

  • 関谷 海里, 村上 啓介
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17176
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,強風が作用する場における不規則波の打ち上げ現象を気液二相流モデル(OpenFOAM)により再現し,打ち上げ高に及ぼす風速の影響を水理模型実験結果と比較しながら数値モデルの適用性を検討した.風速に伴って不規則波の打ち上げ高が増加する現象は水理模型実験で確認され,同様の現象を本数値モデルで確認した.次に,数値計算で得られた不規則波の打ち上げ高の出現頻度分布は,ピーク値に違いは見られるがレイリー分布と部分的に適合し,数値計算結果を整理して得られた打ち上げ高の代表値間の関係は,レイリー分布を仮定して得られる関係と概ね一致することを確認した.また,伝搬過程の波高が風速に伴い増幅する特性は本数値モデルで再現できるが,強風による護岸前面の吹き寄せ効果は再現されず,数値計算上の課題を確認した.

  • 田邉 雅, 澤田 龍輝, 荒木 進歩, 三井 順, 久保田 真一, 川崎 浩司
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17178
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     消波工の水理機能評価のため,抵抗則を数値計算により検討した.まず基本的な水理機能として,反射率と波高伝達率を規則波実験で測定した.消波工は角材を規則的に配置した矩形断面とした.数値計算では数値波動水路CADMAS-SURFを使用し,抵抗則の一つであるDupuit-Forchheimer則(DF則)の線形・非線形抵抗材料係数α0とβ0を,実験値の再現性が高くなるように定めた.消波工の角材を構造物として設定し,角材間の間隙を格子で区切った計算も行った.

     DF則を用いた計算,角材を構造物とした計算ともに,反射率と波高伝達率の実験値を概ね良好に再現した.α0が反射率と波高伝達率に及ぼす影響は小さく,β0の影響は大きかった.これは消波工の抵抗が流速の2乗に比例する抗力に支配的であることを示している.

  • 渡部 靖憲, 鈴木 悠一郎, 齋藤 翔大, 猿渡 亜由未
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17180
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     本研究は,任意形状物体の3次元点群データから構造物表面の運動学的,力学的境界条件を物体中のghost cellへの外挿によって満足させ,流体計算を行う方法を提案するものである.この方法を導入し,球形ブロックおよびテトラポッドから構成される潜堤を通過する波浪場における波-構造物相互作用を調査した.波浪の構造物への到達前に,ブロック間隙から放出された渦塊は,波浪の到達と共に再び間隙内に押し込まれて封入される過程を経たエネルギー散逸機構を明らかにした.観察された隣接する間隙内を通過する強い循環性定常流の発生が構造物下の局所侵食に影響を与える可能性を議論した.

  • 後藤 崇文, 鶴田 修己, 山中 駿, Abbas KHAYYER , 後藤 仁志
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17181
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     消波護岸越波のシミュレーションの消波ブロックのモデル化には,ポーラスモデルが広く用いられてきた.従来モデルでは透水域全域に一様に半経験的な実験定数を与える流体抵抗の評価がされるため,ブロック内部の局所流速が考慮されず,特にブロック内部の複雑流が顕著となる砕波下において再現性が低下する.そこで本研究では,消波ブロック領域の局所流の複雑性を再現するために,ブロック群による遮蔽域と空隙流路の存在を陽に記述した新しい透水境界モデルを構築し,砕波の再現性に長じた粒子法に組み込んだシミュレーションを実施する.消波ブロック護岸越波のシミュレーションを実施して,越波流量の再現性を確認するとともに,砕石間隙への浸透過程のシミュレーションを通じて,本モデルの幅広い適用性を確認した.

  • 太田 隆夫, 溝田 偉史, 斎藤 龍, 福井 信気, 江本 久雄, 河村 裕之, 平山 隆幸
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17182
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,消波ブロック被覆堤を対象とし,消波ブロックの空隙率の違いと消波工の断面変形による越波と反射への影響について,不規則波(周期4ケース,波高5または6ケース)を用いて検討した.2種類の空隙率の異なる消波ブロックを用い,初期断面と変形断面(1ケース)を設定して,水理模型実験と数値波動水路による計算を行い,空隙率および断面変形と越波流量,反射率の関係を定量的に評価した.消波工の変形断面には,天端の沈下と前のり面勾配の変化をモデル化したものを用いている.結果として,全体的に空隙率が大きいブロックで越波流量は減少し,反射率は小さくなる傾向がみられた.加えて,断面変形が生じることで越波流量は増加,反射率は減少し,越波流量では空隙率による差異が初期断面よりも小さくなることがわかった.

  • 大井 邦昭, 大村 智宏, 小林 学
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17184
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     防波堤本体工の前面の少し離れた場所に潜堤を設置する“潜堤付き防波堤”は,気候変動に対する既存防波堤の改良工法として,また,藻場造成等の環境機能を併せ持つ構造形式として有効と考えられるが,波浪制御機能について十分な知見がないのが実態である.本研究では潜堤付き防波堤を対象に,構造条件や波条件ごとの越波流量,反射率,伝達率を明らかにすることを目的とする.機能検証は水理模型実験と数値計算により行い,複数の構造条件に対して設計条件である波諸元から波浪制御機能を推定するための知見を整理した.また,潜堤付き防波堤の越波流量は波高が比較的小さい場合は“消波工付き護岸”と同等程度であるが,波高が増大すると“直立護岸”と同等程度となることを明らかにした.

  • 松木 謙太, 安田 誠宏, 今井 優樹, 金 洙列, 馬場 康之, 山上 路生, 森 信人, 平石 哲也
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17185
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     高潮・高波の同時生起時には越波から越流に遷移する過程が生じる.この遷移過程は越波対策において重要である.著者らは,直立護岸で高潮・高波同時生起実験を行い,越波量に及ぼす潮位変動の影響について明らかにし,実験値と既存の越波・越流遷移モデルとの比較を行った.既存の越波・越流遷移モデルの精度評価では,直立護岸以外の実験データは限られており,護岸勾配に対しての推定精度が不明である.本研究では,1割・2割勾配護岸を対象に越波・越流遷移実験を行い,越波流量算定に用いる係数の護岸勾配に応じた算定式を提案した.さらに,高潮・波浪・浸水結合モデルによる同時生起実験の再現計算を行い,モデルの妥当性を評価した.その結果,高潮・波浪・浸水結合モデルは,越波から越流への遷移時系列を非常によく再現できることがわかった.

  • 鈴木 樹, 平山 克也, 田中 大介, 江川 祐輔, 大家 隆行
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17186
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     多方向波の多重反射波が入射する空港島護岸の越波流量をブシネスクモデル(NOWT-PARI)及び直接流体解析法(CADMAS-SURF)により算定し,両算定結果を比較した.ここで入射波向は卓越波向とし,入射波高は護岸法線から0.7波長沖での重複波高と合田の入反射波分離法で得られる反射率から推定するとともに,その妥当性をそれぞれ対象護岸のみを無反射境界としたブシネスク計算結果により確認した.一方,対象護岸はいずれも前面消波された複断面であるため,直立護岸に対する斜め入射波の換算天端高をそのまま適用できない.そこで,合田の越波流量算定図から読み取った斜め入射波に対する越波流量の低減率を,直接流体解析法で算定された直入射波に対する越波流量に適用したところ,沿い波越波を除き両算定結果はほぼ一致した.

  • 中村 友昭, 竹山 俊介, 趙 容桓, 水谷 法美, 倉原 義之介, 武田 将英
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17187
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     曳航時に浮遊状態にあるケーソンの動揺対策としてFlume式減揺タンクが提案されている.本研究では,減揺タンクの内部に生じる自由水の複雑な挙動を解析でき,かつ浮体固有のパラメータを設定する必要のないモデルをOpenFOAMを用いて構築するとともに,既存の自由動揺実験と規則波強制動揺実験に適用して流体・構造連成解析を行った.その結果,Heaveの固有周期と全振幅,Pitchの固有周期と全振幅の点で,水理実験結果を概ね再現できることを確認した.また,減揺タンク内部の自由水によるモーメントはPitchを低減する位相にあること,モーメントにとって減揺タンクの底面に作用する圧力の影響が大きいことを確認するとともに,モーメント等の特性を詳細に検討できる本モデルの有用性を示した.

  • 柳澤 創, 高橋 研也, 西畑 剛, 大槻 真輝, 柴田 和也
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17188
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,スパー型洋上風車施工における,スパー型浮体の立て起こし・横倒し時の水理模型実験と再現数値解析を実施した.縮尺1/100の浮体模型へ注排水を行い,浮体のトリム角と浮体上端の最大合成加速度を計測した.実験は隔壁の有無やバラスト材の有無など種々の条件で実施した.バラスト材を敷設した状態から注排水した場合,あるトリム角でバラスト材が崩壊して急激に立て起こし・横倒しがなされ,トリム角が短周期動揺し,その際の最大加速度は0.25Gとなった.また,3次元数値流体力学ツールのOpenFOAMを用いてバラスト材なしの条件で再現数値解析を実施した.浮体の周囲に球形の移動格子領域を設けた解析を行い,実験結果を良好に再現することができた.さらに,浮体の立て起こし・横倒しの挙動に,重心位置の偏心量が大きく影響することが分かった.

  • 大家 隆行, 高橋 武志, 酒巻 健太, 武田 均, 伴 孝宏, 河合 真一, 川村 浩, 小川 秀成
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17189
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     船舶の離着岸の迅速化・安全性向上,動揺量低減による荷役効率化等が期待される自動係留装置が敦賀港に導入された.本研究では,RORO船・フェリーに対して現地実証試験を実施し,装置導入による作業効率化,船体動揺量低減効果を検討した.また,動揺量実測値に対する再現性を検証した上で,船体動揺解析によりRORO船の荷役限界波高を周期・波向別に算出し,動揺量低減効果を考察した.本研究で得られた結論は以下の通り.(1)静穏な条件下において,装置及び防舷材のみでフェリーの離着岸が可能であることを確認し,離着岸作業の負担を低減し得ることを示した.(2)現地実証試験及び船体動揺解析結果より,特にSurge・Sway・Roll成分について,装置導入により従来の係留索に対して荷役限界波高を向上可能であることを示した.

  • 榊原 繁樹, 砂原 俊之, 阿部 郁男, 久保 雅義, 庄子 駿佑
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17191
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,東日本大震災で被災した9万DWT級大型石炭船をモデルとした大型船の津波係留対策としての追加錨鎖の挙動について,水底側固定点にも張力計を設けて詳細に錨鎖の挙動を調べる水理模型実験を改めて実施すると共に,船体運動や係留力の再現シミュレーションを実施して当該錨鎖張力が急激に大きくなる津波高さ及びそのメカニズムについて検証した.実機津波高さ5m程度までは従来の本船錨泊状態であるスラック係留(緩い係留)を維持し,また静的な錨鎖カテナリー係留力算出手法を用いて津波来襲時の船体運動,係留力さらには錨鎖状態も再現できることを確認した.一方これ以上の津波高さに対応する場合,錨鎖の緊張係留状態も含めた検討が必要となることも確認した.

  • 梶川 勇樹, 本田 未依奈, 原 知聡, 馬込 伸哉, 武田 将英, 黒岩 正光
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17192
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,波・流れ共存場における円柱周辺の地形変化に関する数値解析について,大型水路を用いた順流条件での移動床実験を対象に,三次元解析による現象の再現とその高速化について検討した.解析では,流れの計算時間間隔Δtよりも大きな地形変化の計算時間間隔Δtzを導入し,Δtzで時間進行させつつ流れと地形変化の計算を同回数とすることで高速化を図った.その結果,本実験条件下ではΔtz/Δtを10~100の範囲で変化させても洗掘状況に違いは表れず,Δtのみの解析に対し100倍の高速化に成功した.また,最終洗掘状況に関する実験との比較から,本解析モデルは円柱前面から側面にかけて最大洗掘深が表れる位置や洗掘孔形状を再現できた.しかしながら,解析の最大洗掘深は実験の約2/3と小さく,円柱背面での特徴的な洗掘・堆積形状は再現できず課題が残された.

  • 大村 拓矢, 椙山 朋香, 米山 望
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17193
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     港湾の開口部から侵入する津波等の被害を防ぐため流体力のみで起立する流起式可動防波堤の開発が進んでいる.本防波堤の実地形での挙動検討には,波源から防波堤近傍までの平面2次元津波伝播解析と防波堤を含む領域の3次元挙動解析を組み合わせた手法が必要となる.本研究では米山らの開発した2DH3D Hybrid流体剛体連成解析手法を本防波堤に適用し,実地形適用に向けた検討を行った.既往水理実険により解析精度の検証後,扉体比重及びスケールと扉体挙動の関係を検討した.またメッシュ間隔を水深方向に細かく,防波堤の起立方向に粗く設定することで計算負荷を抑えつつ解析精度を保てることを示した.さらに津波の進行方向と防波堤の起立方向が直交する3次元流れ場において本防波堤が長周期波に対して機能することを解析により示した.

  • 志方 建仁, 木原 直人, 鈴木 和磨
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17195
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     近年,土砂を巻き込んだ津波により,流体密度の増加に伴う静水圧の増分以上に波力が増大するとの報告がある.一方で,この波力が増大する事象と海底底質,濃度,波の形状等との関係を検証した事例は少ない.本研究では,波力が増大する事象の有無及び発生条件を把握する目的で,流体密度や水温等が制御された条件下において構造物の位置・種類を変化させた精緻な水理模型実験を行い,砂・シルト・粘土を含む津波による計測誤差の少ない実験データを取得した.また,津波先端部の形状・流速と最大波力等との関係に着目し,通常の津波(真水)と砂・シルト・粘土を含む津波の違いを分析した.その結果,水面角度の大きさや統計的ばらつき等に顕著な差異が確認されたが,最大波力を含む極大時において流体密度の増分以上の波力増大は見られなかった.

  • 松下 紘資, 中西 敬, 茅野 秀則, 河村 裕之
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17196
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     本研究では,波力発電の振動水柱型一次変換における発電効率を向上するため,不規則な波エネルギーからより効率的にエネルギーを抽出することを目的として,消波ブロックで形成された消波工内に空気室を模した矩形断面の角筒を設置した不規則波実験を実施し,角筒内部の水位変動特性の評価を行った.全断面被覆工と2層被覆工の内部に角筒を設置した2ケースで,角筒内に波高計を設置して水面変動を計測した.実験の結果,入射波と角筒内の波形を比較すると,角筒内では不規則波の短周期低波高の波が減少しており,消波ブロックにローパスフィルタ効果があることがわかった.波浪スペクトル図の比較結果からも同効果が確認された.また,有義波高の比較から入射波高よりも角筒内の上下振幅変動量が増大することが明らかになった.

  • 髙本 昌幸, 米山 望
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17198
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     港湾構造物の安定性が損なわれるような波浪・津波等が襲来する場合,構造物の挙動の予測手法は確立されていない.そこで本研究は,米山らが開発した流体剛体連成解析手法を用いて,防波堤ケーソンが可動条件下の数値流体シミュレーションを実施した.検討の結果,本解析手法で防波堤ケーソンに作用する流体力は,既往の波力算定式を再現できることが確認された.また,静的安定計算で算出される防波堤ケーソンの作用耐力比が1以上となる波浪条件下で,防波堤ケーソンが動き始めることを確認した.

     以上の結果から,本解析手法は,構造物の安定性が損なわれるような条件下においても,実際の現象を良好に再現できる手法と考えられ,被災メカニズムの検証や,防波堤の粘り強い構造による津波減災効果の検討等に有用な手法の1つであると考えられる.

  • 中澤 祐飛, 山縣 史朗, 鈴木 高二朗
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17199
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     平成30年版の技術基準によると,桟橋に作用する揚圧力は直入射の場合の上限とされる,波高の4倍に相当する水圧(4ρgH)で設計することとなっている.しかしこの値は非常に大きいため,桟橋の設計が困難となる場合がある.一方実際の桟橋では,波は斜め入射の場合が多く,作用する揚圧力は直入射の場合より小さいことが渡部ら(2003)の検討で確認されている.しかし波が斜め入射する場合の桟橋に作用する揚圧力の検討は少なく,設計方法が確立されていない.そこで本研究では,直入射を含む複数の入射角で水理模型実験を実施し,得られた結果を本研究で提案する新たな手法で解析した.その結果,桟橋全体での平均的な揚圧力は斜め入射の場合,入射角によっては1/6~1/10に減少することが明らかとなった.

  • 濱野 有貴, 平山 克也
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17200
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     波の多重反射が卓越する港内岸壁や,波の遮蔽効果が隣接護岸への入射波に影響を与える連続護岸では,入射波を得るためにそれらの対象施設を仮想的に取り除いて模型実験や数値計算を実施することができない.そこで,断面水路を用いた水理模型実験,及び越波モデルと波圧算定式を備えたブシネスクモデルによる再現計算を行い,直立護岸において実際に計測及び算定された越波流量や波力に対し,高山による越波流量算定図の近似式や合田波圧式を逆に適用して,これらの入力値である換算沖波波高を収束計算により求め,対象施設における既知の入射波(換算沖波波高)と比較した.その結果,波力ではやや過小ながら,波高または周期が異なる複数の入射波(換算沖波波高)を越波流量及び波力からほぼ適切に逆推定できることを確認した.

  • 梁 順普, 佐々 真志, 工代 健太, 和田 優希
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17201
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     護岸や岸壁等の港湾施設の背後地盤において,裏埋砂の吸い出しによる空洞形成及び陥没が全国的な問題となっており,吸い出し被害を未然に防止するためには,舗装直下地盤の空洞を早期に探知する必要がある.本研究では,コンクリート及びアスファルト舗装の種類や層厚が地中レーダーの空洞探知精度に及ぼす影響を検討することを目的とし,実大規模の模型実験を行った.その結果,舗装の種類や層厚は,地中レーダーの空洞可探深度に大きく影響し,舗装の種類や層厚によっては地表から1m以深で空洞が形成発達した際,その時点の測定では空洞の探知が困難になることが分かった.そして,吸い出しがまだ生じていない又は進んでいない時点の地中レーダー探査結果との比較を通じて,吸い出しによる空洞の発達深度を早期に評価同定しうることを明らかにした.

  • 工代 健太, 佐々 真志, 梁 順普, 和田 優希
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17202
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     護岸・岸壁背後の地盤の吸い出し抑止策として,裏込石と裏埋砂の間に,裏込石に対して安定性を保つ比較的大きい粒度の下層フィルターと裏埋砂の吸い出しを抑止する上層フィルターの二層フィルターを設ける手法を構築し実用化している.本研究は,吸い出しによる空洞陥没復旧への応用として,吸い出し口が低潮時地下水位より深い場合は,適切な層厚の上層フィルターが下層フィルターを覆う形で二層フィルターを陥没孔に投入する方法を,吸い出し口が浅く低潮時にその近傍の地盤が不飽和地盤となる場合は,その時間帯に陥没孔下側を掘削し,吸い出し口を塞ぐ形で二層フィルターを敷設する方法を考案した.一連の大型吸い出し可視化試験の実施を通じて,双方の手法とも適切な粒度の二層フィルターは強い水理外力下で吸い出しの再発を抑止することを示した.

  • 福原 直樹, 姫野 一樹, 加藤 史訓, 田方 俊輔, 五十嵐 竜行, 鳥居 謙一, 中村 友昭
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17203
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     設計波を超える波浪に対する海岸堤防の粘り強い構造は,既往研究により複数の工法が検討されており,一定の効果が認められることが報告されている.高波浪に対しては堤防表側の脆弱性が高く,その要因は堤防前面の洗掘であることが示唆されており,堤防前面の洗掘深を予め把握することが重要となる.本研究では,水理模型実験(縮尺1/8)で確認された堤防前面の地形変化を3次元流体・構造・地形変化・地盤連成数値解析モデルで再現した.

     その結果,洗掘を進行させる表のり被覆工を遡上した戻り流れによる渦を計算でも表現できた.また,実験と計算の最大洗掘深の差分は約3cm(実験の洗掘深に対する約10%)であり,堤防前面の洗掘深を概ね再現できることが確認された.

  • 橋口 萌乃, 馬場 康之, 今井 優樹, 山上 路生, 平石 哲也
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17204
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     海底に直接支柱を設置する着床式洋上風力発電ユニットでは,支柱の周囲が波や流れにより洗掘される危険性があり,その対策としてポリエステル製の網袋の中に石材を充填した洗掘防止工を支柱周りに設置する方法がある.本研究は支柱周りに設置された洗掘防止工の安定性について,水槽実験および数値解析を用いて検討したものである.

     水槽実験では,波および流れを作用させた場合の洗掘防止工の被災の程度を調べ,水深波長比が小さい時に洗掘防止工が被災する可能性が高いことを確認した.

     数値解析では,数値流体力学ツールボックスの1つであるOpenFOAMを用いて三次元数値解析を行った.実験結果と数値解析結果の比較から,計算で求めたせん断応力の結果や流速の大きさと実験での洗掘防止工が不安定になる箇所の相関が明らかになった.

  • 田村 大樹, 二瓶 泰範
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17206
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     牡蠣の養殖方法の1つである筏式養殖では,複数の竹により形成された筏から牡蠣が垂下される.台風などの荒天時に筏が破損する被害が発生しており,船舶の航行や海洋環境に悪影響を及ぼしている.そこで,耐波性を向上させることを目的に,柔軟性が高いPE製のパイプを用いた筏が開発されている.また,揺れの低減が見込まれ,牡蠣の成長性が良くなることも期待されるため,筏の耐波性および牡蠣の成長性を評価指標として竹の場合と比較した.時刻歴応答解析を行い,規則波中において生じる曲げ応力を比較評価した.また,荒天時におけるPE製の筏の耐久性を評価した.これらの結果,PEは竹よりも耐久性が高く,かつ牡蠣の成長性が良いことが示された.

  • 江幡 恵吾, 脇本 大輝, 松岡 翠, 大海 聡一, 袖山 研一, 馬庭 秀士, 西 真, 瀬戸口 眞治
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17207
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     前報(2023)では漂着軽石で製作した浮体構造物を海面に浮かべた方が海底に設置するよりも海藻類付着量が有意に多かった.本報では海面付近において,海藻類を付着させるための最適な設置深度を明らかにするために,漂着軽石,水道水,セメントで製作した構造物(直径10cm,高さ10cm)をロープで連結させて深度0~2.5mに設置して,浸漬22~85日間の海藻類付着量を測定した.浸漬22日間で観察され始めたアオサ属の付着量は浸漬58~85日間で深度0mで最も多く,付着密度は構造物上面1.66~2.15g/cm2,側面0.19~0.29g/cm2で,深度2.5mでは上面0.10~0.17g/cm2,側面0.02~0.05g/cm2に減少した.照度は深度0mで最も大きく,深度0.5mでは深度0mの照度と比べて約半分まで減少した.以上のことから,海藻類着生には深度0mの海面設置が最も適していると考えられた.

  • 牧野 凌弥, 宮本 順司, 佐々 真志, 辻本 剛三
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17208
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     今後の海洋開発に伴い,沿岸・海底域のジオハザードリスク評価が重要となる.本研究では,液状化に伴う海底地盤流動による沿岸・海洋インフラ施設への影響を把握するために,構造物に作用する衝撃圧を解析と実験から調べた.実験は遠心場50gの円筒水路で行った.地盤を浸透流により流動化させ,ゲートを開放して液状化地盤流動を再現した.崩壊箇所と構造物との距離や崩壊高を変化させて実験を行い,構造物への衝撃圧の変化を調べた.次に流体の密度偏差を考慮したNS式に基づく密度流の数値解析を行い構造物への衝撃圧を調べた.実験で得られた構造物への衝撃圧は密度流解析の流体圧と概ね一致した.これより液状化地盤流動の構造物への衝撃は主に高密度流体として作用することがわかり,今後,沿岸・海洋構造物の地盤流動に伴う構造物の安定性評価を行う上で1つの指針となりえる.

  • 中村 友昭, 林 昌幸, 趙 容桓, 水谷 法美
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17209
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     海底地盤の波浪応答を評価するため波浪場・地盤連成モデルが開発されてきた.ただし,多くは波浪場から地盤に圧力を与えるone-wayカップリングを用いており,地盤から波浪場にフィードバックするtwo-wayを用いているモデルは限られており,両手法間の差とその影響は明確になっていない.本研究では,one-wayとtwo-wayでの連成が可能なPORO-FSSI-FOAMを用いて,潜堤および混成堤周辺の砂地盤の波浪応答の解析を行った.その結果,波浪場側の底面流速だけではなく砂地盤側の間隙水圧や有効応力増分もone-wayとtwo-wayの間で差が生じること,one-wayとtwo-wayの差は砂地盤の透水性が高い方が大きくなることを明らかにし,two-way解析の重要性を示唆した.

  • 張 天睿, 内山 雄介, 竹安 希実香
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17210
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     世界的に進行するサンゴの白化現象に対して,水温が比較的安定な水深30〜150mの深場(mesophotic zone, MPZ)は浅場サンゴ遺伝子の避難場所と再供給源としての機能が期待されている.本研究では,サンゴ生態系保全の視点から,沖縄本島沿岸域を対象とした高解像度海洋モデルをベースにサンゴ浮遊幼生の移流分散をモデル化し,Lagrange統計解析によって浅場–MPZ間のサンゴ浮遊幼生の3次元輸送特性の定量評価を試みた.本島を時計回りに周回する平均流に対応してサンゴの連結度に東西海岸で非対称性が生じること,閉鎖性の強い金武湾・中城湾では浅場での自己漂着が強化されること,開放性の名護湾では浅場と深場の両方で集積が生じるなど,地形的な特徴によって連結性に大きな差異が生じることを見出した.

  • 上平 雄基, 岩前 伸幸, 山木 克則, 中村 隆志, 内山 雄介
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17211
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     波-流れ相互作用を考慮した2段ネスト高解像度海洋循環モデルとサンゴ礁生態系の光合成,呼吸,石灰化プロセスをモデル化したサンゴポリプモデルを沖縄本島周辺海域に適用し,2011年と2012年に通過した11個の台風を対象として,その流動場およびサンゴ礁生息環境への影響を解析した.その結果,沖縄本島全体でサンゴ礁被度低下が生じた2012年の台風による海底面せん断応力は,2011年の台風によるものよりも大きく,台風による強い波や流れがサンゴ礁の破壊,剥離の一因となったことが示された.また,台風シーズン後のサンゴ礁生態系の光合成速度,呼吸速度,石灰化速度も2012年は2011年よりも弱く,前年よりもサンゴ礁生態系にとって厳しい生息環境であったことが示された.

  • 松田 和樹, 内山 雄介
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17225
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     瀬戸内海の流動と水質環境は外洋水の影響を強く受けて形成されている.本研究ではこれを精緻に抽出するべく,保存物質である塩分に着目し,3次元海洋モデルによる長期再解析値を用いて瀬戸内海全域に対する塩分収支解析を行った.地形狭窄部を中心に設定した海峡検査断面における通過塩分フラックスは黒潮流路の影響を受け,通過流量との相関も高く,冬に豊後水道からの流入が増加し,夏に流入が減少もしくは流出する傾向を見出した.瀬戸内海の8つの湾灘における総塩分量変化も塩分フラックスとよく相関し,特に燧灘以西では豊後水道からの流入が多ければ総塩分量が増加し,流出が多ければ減少する傾向にあった.一方,東部海域では塩分フラックス変動が西部よりも弱く,潮汐残差流・黒潮影響ともに小さくなるなど顕著な東西偏差があることを明らかにした.

  • 高木 秀蔵, 鹿島 千尋, 中谷 祐介, 角田 成美, 小川 健太, 秋山 諭, 妹背 秀和, 朝田 健斗
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17226
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     播磨灘北西部の片上湾から備讃瀬戸海域への有害赤潮Chattonella属の流出過程を実測と数値流動モデルを用いて調べた.2018~23年の6~8月に月2回以上,湾内と周辺海域で分布状況を調べた.発生時期は異なるもののいずれの年も湾内では赤潮化した.2018,21,23年には湾内から沿岸海域への流出が見られ,流出前には降雨に伴って河川流量が増加していた.特に,2018年には西日本豪雨に伴う淡水流入により,50km以上離れた備讃瀬戸の養殖漁場まで赤潮が到達した.同時期の条件下において,湾内にラグランジュ粒子を発生させ追跡したところ,実測結果と同様の分布状況を示し,降雨,出水に伴う湾灘を越えた有害赤潮の輸送が示唆された.

  • 平賀 向陽, 八木 宏, 小田 僚子, 中村 隆志, 森岡 優志, 宮澤 泰正, 灘岡 和夫
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17227
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     東京湾の水温形成に与える海面熱フラックスの長期変化と外海水温変動の影響について検討を行った.前者については,東京湾上の熱フラックスを推定する方法を構築した上で,海面熱フラックスの長期変化の影響を把握するための指標として平衡水温に着目し,平衡水温が気温と同レベルの上昇傾向であること,平衡水温の上昇要因としては長波放射量とともに短波放射量の変化も影響している可能性を示した.後者については,最近11年間(2010~2020年)を対象とした東京湾周辺海域の流動シミュレーションを行い,2010年代前半と後半以降の外海水温レベルの変化が,東京湾内の冬季の表層水温の変動に影響を与えた可能性を示した.

  • 小倉 一輝, 遠藤 徹
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17228
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     大阪湾では海水CO2分圧の経年的な観測例はなく,海域のCO2吸収能の長期変化を把握する場合,炭酸の平衡関係を基に全アルカリ度(TA),pH,溶存態無機炭素(DIC)からCO2分圧を推定する必要がある.本研究では,大阪湾全域の海岸で海水を採水してCO2分圧の推定精度を確認するとともに,統計データから1980年代以降の大阪湾のCO2吸収能を求めた.観測変数と解離定数モデルの組み合わせを変えて求めた推定値と実測値を比較した結果,河口域ではTAを用いた推定値の精度が落ち最大12%の誤差が生じること,また同じ海水でも解離定数モデルによって推定値に最大5.6%の差が生じることが分かった.一方,大阪湾のCO2吸収能は全体的に増加傾向にあり,高い吸収能を有していることが知られている湾奥部だけでなく湾口部でも増加していることが明らかになった.

  • 鳥山 拓也, 山下 啓, 石田 暢生
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17229
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     シルト性堆積物を多く含む津波が発生する地域特性の条件を明らかにするため,津波堆積物の既往調査結果を参照し,細粒分含有率と採取地域の特性を表す指標との関係を分析した.採取地域の特性を表す指標は人口密度,閉鎖度指標及び河川距離を選定し,閉鎖度指標には港湾形状も考慮した.階層型クラスター分析の結果,細粒分含有率が比較的大きいクラスターには,人口密度又は閉鎖度指標が高く,河川距離が近い地域が分類された.選定した指標を用いて細粒分含有率を推定するモデルを提案した.ベイズ推定に基づく回帰分析の結果,人口密度及び閉鎖度指標を乗じた説明変数は,細粒分含有率と因果関係があることを示した.したがって,人口密度及び閉鎖度指標は,シルト性堆積物を多く含む津波が発生する可能性が高い地域を定量的に示す指標となる.

  • 永野 隆紀, 入江 政安
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17230
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     現行の水質モデルは,植物プランクトンの光合成過程において,酸素生産量が本来直接には作用しない周囲水の栄養塩濃度による制限を受ける構造となっており,より現実的な酸素循環モデリングのためには,光合成に対する栄養塩制限を見直すアプローチが考えられる.本検討では,大阪湾を対象に,4次元変分データ同化法を用いて,このモデル改良の妥当性を検証し,観測値とデータ同化により駆動されるモデル改良の技法の1つとして提案する.酸素生成―増殖比パラメータを状態変数として新たに定義し,その他変数を含む初期場推定を行うことで変数間の関連を検証した.その結果,酸素生成―増殖比は栄養塩濃度との間に負の相関を示した.即ち,栄養塩制限下においてより多くの酸素が生産されることを意味し,モデル改良の妥当性を支持する結果を得た.

  • 丸山 桃茄, 中山 恵介, 駒井 克昭, 彭 玥寧, 坂口 仁一, 田多 一史, 佐藤 之信
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17231
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     近年,国際的な地球温暖化対策が推進される中で,二酸化炭素の吸収源としてブルーカーボンが注目されている.海草・海藻によって吸収される二酸化炭素量を明らかにする方法はいくつか提案されているが,本研究ではDIC方程式を用いた手法を提案する.過去の研究において,北海道・コムケ湖の多年生のアマモZostera marinaを用いた室内実験から方程式のパラメータ値が推定されていたが,新たにデータを加えて推定し直した。その結果,呼吸による炭素の排出量は水温に大きく影響されない可能性が示された.また、新たに得られたパラメータ値を用いて一年間の二酸化炭素吸収量を推定し,現存量と比較したところ,良好な結果が得られた.さらに,ボックスモデルを用いてコムケ湖内のDICの変化を推定したところ,実質的なアマモによる炭素の吸収量を評価することができた.

  • 鹿島 千尋, 中谷 祐介
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17232
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     瀬戸内海では陸域から流入するCODを削減してきたにも拘らず,環境基準達成率が低いことが問題視されている.瀬戸内海のCODの起源としては,陸域以外に内部生産と外洋が考えられるが,起源別の分布と内訳は明らかになっていない.しかしながら,海域CODの制御限界を知るためには,その内訳を定量的に示す必要がある.本研究では,有機物を陸域・内部生産・外洋起源に区分した三次元流動水質モデルを構築し,各湾灘における起源別のCODの分布と内訳を解析した.その結果,陸域起源CODは主に河口域にのみ分布することが明らかになった.また,内部生産起源CODは移流・拡散によって広域に輸送され,全CODに占める割合は,少なくとも3割以上であった.外洋起源CODは瀬戸内海内にほぼ一様に分布しており,3割以上を占めていた.

  • 出口 博之, 鹿島 千尋, 中谷 祐介
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17233
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     都市沿岸域では,防災機能向上を目的の一つに据え開発が進められ,波浪場は大きく変化した.波浪が流動に及ぼす効果は多様であり,波浪場の変化が流動・水質を変化させた可能性がある.本研究では,流動-波浪-水質モデルを用いて大阪湾の現在地形と過去地形を対象に数値計算を実施し,波浪場に着目して地形改変の影響を評価した.計算結果から,地形改変は沿岸部の波高を減少させ,港内静穏度を改善したことが確認された.また,地形改変による波浪の進行阻害は,大気側海面粗度や海面での乱流特性量の低下を招き,沿岸部の海水鉛直混合強度を低下させた.このような波浪場変化が流動に及ぼす影響は,波浪モデルをカップリングしない計算では表現されなかった.さらに,波浪の進行阻害に伴う海水鉛直混合の弱化は,湾奥部の貧酸素化を助長していた.

  • 棚谷 灯子, 吉田 光寿, 渡辺 謙太, 源平 慶, 伴野 雅之, 茂木 博匡, 桑江 朝比呂
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17235
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     海草藻場の3次元的な空間分布(植生高さや重量)の把握は,藻場の多様な環境価値の向上や活用に向けて重要である.しかし従来の計測手法では効率性と正確性の両立が課題である.本研究は計測が簡便で測量精度が高いグリーンレーザースキャナ搭載UAVで得た点群データの解析手法を,植生や環境が異なる2つの海草藻場に適用し,海草藻場の空間分布を推定した.亜熱帯性藻場では植生高さの実測値16±4cm(平均値±SD)に対し,解析値は17±2cmとなった.アマモ場ではCloth Simulation Filterによる解析が適していた(R2: 0.74, RMSE: 0.11 m).点群から推定した植生の空間体積は植生の湿重量と正の相関があったが,2つの藻場で植生高さや密度の違いによって回帰式の傾きが異なることが示唆された.

  • 杉本 憲司, 小林 和香子, 髙田 陽一
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17236
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     本研究では,広島湾内の2箇所の海草藻場において底質中の有機炭素量について長期間な把握を行い,有機炭素量の変動とその原因を明らかにすることを目的とした.地御前では海草の分布範囲に変動があり,競合海藻が確認されたが,神代では海草の分布範囲に変動はほとんどなかった.底質中の全有機炭素含有量は,海草が分布している地点において高く,競合海藻の分布も影響を与えていることが示唆された.地御前では難分解性有機炭素量の季節変動は小さかったが,神代では海草の繁茂期となる2021年5月から8月に増加した.広島湾内の海草藻場の底質中の有機炭素量は,Zostera marinaなどの海草とUlva spp.などの海藻の分布の影響を受けていることが示唆された.

  • 大谷 壮介, 田中 孝一, 安原 汰唯我
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17238
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     本研究では大阪市を流れる淀川河口湿地帯において,ヨシの現存量,生産速度,生長特性を把握し,流出・分解量の解析を行うことで,炭素収支を評価することを目的に9年間の毎月調査を行った.ヨシの現存量は春から夏に増加し,冬に減少する季節変動を示し,年変動が大きかった.また,ヨシの生長と分解は春から初夏にかけて高かった.葉と茎の分解率は地温と関係性が認められ,葉の分解率は茎の分解率より高く,年間を通して葉は全て分解したのに対して,茎は分解されずに残存していた.ヨシの生産・呼吸や流出・分解過程まで考慮した炭素固定量は627gC/m2/yearであり,調査対象湿地帯の年間の炭素固定量は26.3tCであると推定できた.

  • 土居田 祐希, 井川 広之, 岡田 知也, 日比野 忠史
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17240
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     沿岸域では植物や底生動物等の活動(生体活動)によって生産,分解された有機物(生体関係有機物)が底泥として堆積している.底泥内の有機物の元素組成は生体活動によって複雑に変動しており,この変動を把握することによって生物生息環境の推定につながる可能性がある。本論文では,レッドフィールド比に基づいて,生体活動による炭素,窒素の組成変化(C/N比変化)を検討した.生物活性場(生物による栄養の摂取が卓越する場)ではC/N>12,未分解堆積物(死亡,排泄等により無生物化した直後の有機物)の集積場ではC/N<8として,ベイズ推論による機械学習を実施した.本研究結果として沿岸域底泥のC/N比分布から流れ場の異なる沿岸域小エリアでの生態系が評価され,未分解堆積物の集積エリアと生物活性の高いエリアが特定された.

  • 遠藤 徹, 田中 陽士, 後藤 航大
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17242
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,都市沿岸域に造成された人工塩性湿地(大阪南港野鳥園)に分布するヨシ群落における炭素固定量と貯留量を評価することを目的として,2023年6月から2024年1月にヨシのサンプル調査を毎月実施した.地上部(穂・葉・茎)と枯死体,地下茎の現存量と炭素含有率を調べた結果,ヨシ地上部の乾燥重量は,稈高と末端茎径の積に高い相関があること,また,燃焼分析による炭素含有率は地上部で42%,枯死体で40%,地下茎で38%,そのうち難分解成分が地上部で39%,枯死体で60%,地下茎で45%であった.本調査結果に依ると野鳥園のヨシ群落の年間成長量は1,638.4dry-g/m2/yrで,炭素固定量は691.4g-C/m2/yr,炭素貯留量は272.0g-C/m2/yrと推定された.

  • 柳嶋 慎一, 伴野 雅之
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17245
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     チョウセンハマグリは,鹿島灘,九十九里,宮崎,石川などで漁獲される重要な水産資源である.しかし,その漁獲量は年変動が大きく,ほとんど漁獲されなくなった地域もあり,漁獲量変動の要因を明らかにする必要がある.そこで,チョウセンハマグリの生残において重要な産卵および浮遊期の物理環境と漁獲量との関係を,FORAおよびJRA-55に基づく長期波浪推算結果を用いて検討した.

     チョウセンハマグリの発生に必要な環境(最適な産卵期(7~9月)水温,一斉産卵を促す沿岸湧昇の発生,浮遊期間における幼生の着底可能な流れ場)をもとに,好適な環境が生じた年を評価したところ,鹿島灘では好適な環境が近年少なくなっている一方で,九十九里では近年の好適環境が漁獲量の増大につながったことが示唆された.また,宮崎,石川で漁獲量が少ないのは,産卵期水温が高く,沿岸湧昇の発生が少なく,好適な流れ環境が少なかったことが原因と考えられた.

  • 杉本 憲司, 新田 帆乃海, 小林 和香子, 吉永 圭介
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17246
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     本研究では,基盤が違う海藻・海草藻場及び魚礁ブロックへの生物蝟集効果を明らかにするため,設置型カメラによって確認された魚類と海水中の環境DNA及びRNAを比較することで検証を行った.山口県岩国市神東地先の人工海藻藻場,魚礁ブロック,海草藻場及び周辺の底泥域において,Sebastes inermisは他の魚種と比べて高い平均個体数であったが,2018年9月~2021年12月と比較すると1/10程度であった.Sebastes inermisのDNAコピー数と出現頻度は,人工岩礁性藻場と砂泥域では正の相関があったが,RNAコピー数とは相関が確認できなかった.魚類の出現密度が低く,往復流海域での生物量は,環境DNAや環境RNAで評価することは難しかった.

  • 神野 威, 上月 康則, 本原 将吾, 大谷 壮介, 渡邊 健, 山中 亮一, 松重 摩耶
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17247
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     2023年の夏季に吉野川河口部のタイプの異なる南向き緩傾斜護岸においてカニ類の調査を行い,カニ類の生息場に適した緩傾斜護岸の構造について検討した.カニは護岸の隙間を生息場にしており,隙間の特性に応じてカニの個体数や甲幅の分布が異なっていた.例えば隙間の幅の狭い護岸では大半のカニが小型で,隙間の幅の広い護岸では中型・大型のカニの割合が多かった.隙間の幅や構造が多様な護岸はカニの個体数が最も多く,様々な甲幅のカニが確認されたことから,カニの棲み処に適していると言える.また,カニは高温になると表面での滞在時間は短くなり,温度の低い隙間に避暑していた.護岸の形状によってカニ類の生息場の機能が異なり,特に夏季には高温や乾燥の影響を緩和する機能が求められることがわかった

  • 小林 航汰朗, 比嘉 紘士, 鈴木 崇之, Martin MÄLL
    2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17248
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
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     本研究では,自然や生態系を生かしたグリーンインフラ(GI)とコンクリート構造物等によるグレーインフラ(GyI)を含めたインフラ評価の枠組みを構築し,沿岸インフラが人間と自然に与える影響を検討した.GIS,海洋モデル,衛星データ,Well-beingアンケート調査結果等を変数とした指標のクラスタ分析によるマッピングによりインフラの地域特性を可視化し,その差異を考察した.Well-beingはハザードの大小に関係し,ハザードが小さいほど満足度が高い傾向にあった.また,都市化で得られる満足度には限度があり,GIの生態系サービスがより高い満足度に繋がる可能性が示された.本研究結果から,Well-beingと自然需要の両方の観点からGIとGyI双方のバランスを考慮する重要性が示唆された.

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