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磯部 雅彦
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17001
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
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本研究では,波の反射と透過,および遡上を主な対象として,波の基礎理論である水平床上の線形長波理論,減衰定常波を含む水平床上の微小振幅波理論,および一様勾配斜面上の線形長波理論の概要を記述し,それらを用いて階段状斜面や複合勾配斜面での波の解析解を導いた.斜面での反射や透過は波長,水深,斜面勾配によって変化するものの,解析結果より,斜面を延長した仮想汀線からの離岸距離と着目点での波長との比という単一の無次元数に支配されることを示した.また,津波などがある水深から斜面を遡上する場合,周期の平方根に逆比例して増幅率が増大することを示した.さらに,これらの理論によって諸現象を定性的に理解すると,数値計算やAIから得られる結果を吟味するのに役立つことを例示した.
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細山田 得三, 辻本 剛三
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17002
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
津波の発生原因は海底地形変動の要因に依存して多種多様である.2024.1.1の能登地震では海底斜面の崩壊や沿岸浅海域の水面上への隆起に関心が集まった.津波数値計算では,従来海底地形の鉛直変位量分布を断層モデルなどを用いて推定し,その変位量をそのまま初期水面変位量とし,それを一瞬で解放して水面の伝播を計算することが多く.海水量の保存条件は満たすが海水が水平方向に移動することが考慮されていない.本研究では質量保存式を鉛直積分する際に生じる海底変位の時間変化項に依存した津波方程式をあらためて誘導し,種々の地形変動に対する津波初期波形を従来モデルと比較して初期波形および伝播結果の考察を行い,定量的に考察した.100mの一様水深で30km程度の距離では津波の到達時間は30秒程度差異が生じることが分かった.
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長谷川 裕亮, 志村 智也, 宮下 卓也, Yu-Lin Tsai , 馬場 繁幸, 森 信人
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17004
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
マングローブは沿岸域に特有の植生であり,波浪低減効果が見込まれているが,複雑な支柱根の形状を反映した波浪低減効果の定量化はされていない.本研究では,樹木形状を考慮してマングローブの波浪低減効果を定量化するため,系統的な現地観測を実施し,樹形の射影面積のパラメータ化を行った.非線形長波方程式にパラメータ化された樹木形状を考慮した抗力項を加えて数値計算を行い,樹林帯を通過する際の波高減衰を計算した.ついで,樹木形状を考慮に入れた波高の解析解の導出を行い,数値計算の結果と比較するともに,入射波の条件と減衰率の関係を示した.
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水谷 夏樹
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17006
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
本研究では,乾いた一様斜面とそれに続く水平床上を進むダムブレイク流れに対する底面せん断応力について検討した.数Pa程度のせん断応力を直接測定し,水平面内の流速場をPIV計測によって,水位を超音波水位計によって測定した.運動量方程式に計測値を適用し,式中の各項の時間変化について検討した.直接測定されたせん断応力は,計測毎のばらつきが大きいものの先行研究の摩擦速度による推定値とほぼ一致し,ピーク値はマニング則によるせん断応力とも概ね一致した.せん断応力は,段波の先端部において主に運動量の時間項と流下方向の移流項がバランスしており,圧力勾配項が最大値となる時刻で両者が逆転する.このように非定常現象が顕著であるにもかかわらず,せん断応力は段波先端をピークとして単調に減少することなどがわかった.
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渡部 靖憲, 中村 颯
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17007
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
本研究は,最高解像度でレーザーシート面上の3次元流速分布を計測するStereo Super-Resolution Particle Imaging Velocimetryを提案し,風洞実験への導入によって,初期風波下の3次元流速構造のフェッチ依存性を調査した.吹送に伴う海面表層で発達する吹送流を支配する風向き方向流速に加え,同時に発生する風波に応答して有意な速度をもち時空間的に正負が反転する風向きに直交する流速成分が出現する.この3次元流れ場について統計的に分析し,吹送流成分と比べて無視できないレベルの平均流速および変動エネルギーをもった横断流速が吹送初期から現れ,フェッチの増加に伴い発達することが明らかになった.
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齋藤 翔大, 野村 明弘, 猿渡 亜由未, 渡部 靖憲
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17010
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
気泡飛沫が高濃度で混在する白波砕波面を介した大気海洋輸送現象の解明は,暴風波浪場の推定精度向上のために必要不可欠である.本研究では白波のモデルであるバースト水面近傍にBackground Oriented Schlieren法を適用することで,気泡破裂のタイミングで気温場が激しく乱される様子を可視化計測することに成功した.測定された気温プロファイルから求めたバースト水面上での熱伝達率は静水面上に比べ1.43倍に加速された.これは気温に対して水温が十分高いとき水中で暖められた気泡内空気がジェットとなって大気に放出されることにより水面上の空気の対流は強化されるとともに,気泡破裂によって生じる大量の飛沫群が飛散することにより周辺空気を乱し拡散が促進されるためであることが明らかとなった.
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瀧澤 竜一, 川崎 浩司, 佐藤 翔平, 山田 直輝, 谷口 亮太
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17017
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
本研究は,紀伊水道周辺における観測所の既往データを用いて,台風時に神戸港で発生する高波・高潮を事前に予測する手法を重回帰分析に基づいて検討した.神戸港の高波・高潮予測は,台風時の波高,潮位偏差とし,1993~2020年の28年間に発生した台風起因の30擾乱を対象として,擾乱発生の4~12時間前における沖合観測データとの回帰分析から観測所毎の関係性について確認した.その結果,神戸港における擾乱時の波高と潮位偏差は,高知県室津港の10~12時間前の波高,および4時間前の潮位偏差との相関性が高いことが分かった.
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北野 利一, 大野 智也, 足立 拓馬
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17018
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
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吸い上げと吹き寄せにより高潮の潮位偏差が増大し,傾度風の風速は気圧降下量に依存する.また,高波の有義波高は,ある条件の下で風速に依存し,気圧,風速,潮位偏差,波高の4変量の極値は,相互に従属することは海岸工学の古典的な知見である.ペアワイズの2変量とは異なり,4変量に条件独立を適用すれば,短絡により冗長さを排し,従属構造のスパース化が可能となる.例えば,本来,風速に依存する高波が,潮位偏差を中継することで直接的には,風速に依存せず,潮位偏差との依存のみで表現可能となり,このことによって,全体の従属性の強さの推定精度向上に寄与する可能性や,そのような短絡を含む従属構造が,その地点での地域性の特徴となる.本研究は,これらの4変量の極値の従属構造が,4変量の偏相関係数と3変量の偏相関係数の関係から分類できることを示すものである.
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澁谷 容子, 森 信人, 志村 智也
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17019
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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港湾構造物等の設計には,長期間の観測波浪データから再現期間に対する確率波高を算出するが,長期間の観測データが存在する地点は少なく,波浪推算結果が用いられることが多い.波浪推算は計算コストが高いため精度を保ちつつ計算コストを削減することが望ましい.本研究ではJRA-55を外力に計算された波浪推算データセットJRA-55waveに基づく確率波高算出の可能性を検討した.検証では,ナウファスの観測期間が長い6地点を対象とした.推算波高および観測波高の年最大値を抽出した後,確率密度関数を求め50年確率波高を算出した.その結果,観測値に台風イベントに対する欠損がない場合,年最大波自体は多少差がみられたものの分布形状はほぼ等しく,50年確率波高は同程度の値であった.JRA-55waveを用いることで設計等に必要な確率波算出時の精度とバイアスを評価した.
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齋藤 遼太, 今井 優樹, 馬場 康之, 山上 路生
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17023
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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第三世代波浪推算モデルSWANを用い,冬季風浪による高波浪発生イベントでの波浪推算を行った.和歌山県南西部,田辺湾湾口部に位置する田辺中島高潮観測塔において,SWANによる推算値と観測値間の精度検証を行った.推算値・観測値間の誤差をモデル残差として定義し,その時系列を学習したLSTMを用いることにより,SWANの出力結果を直接補正するシステムの構築を行った.検証時には,予測までのリードタイムを2時間,4時間,6時間と変化させることでリードタイムによる精度の変化についても検討を行った.結果的に,比較的短いリードタイムにおいてはSWANの出力結果を良好に補正することが可能であり,物理モデルとニューラルネットワークを結合することで精度の向上を図った波浪予測システムの有用性が示された.
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山崎 豪太, 志村 智也, 森 信人, 宮下 卓也
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17026
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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漂流ブイによって観測された周波数スペクトルをスペクトル波浪モデルWAVEWATCH IIIに同化させ,波浪推算精度を向上させるシステムを開発した.周波数スペクトルのデータ同化手法として,最適内挿法を導入した.2022年の台風14号到来時を対象に,北西太平洋に展開した漂流ブイ観測データを用いた波浪データ同化計算を実施し精度検証を行った.その結果,スペクトル形状が大幅に変化し,最大で有義波高は1.2m,平均周期は0.8秒誤差が減少した.また,周波数スペクトル同化は波浪モデルに物理的に整合した改善をもたらすことが示された.外洋における漂流ブイ観測データを同化することにより,台風時の波浪モデルによる計算精度を有意に改善できることがわかった.
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佐藤 兼太, 井口 真生子, 間瀬 肇, Tim LEIJNSE , Math van SOEST , Sofia CAIRES , 渡邉 ...
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17027
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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本研究では,長崎県西海市沖を対象に洋上ウインドファームの波浪設計条件を求める上で重要な気圧・風速場のモデリングを行った.波浪の極値を推定する上で台風の影響を適切に評価できる気圧・風速場は必要である.ERA5などの再解析データは有用であるものの,台風時の風速のピークを過小評価する傾向にある.そこで,ERA5とパラメトリック台風モデルによる気圧・合成風速場を精度よく表現できる方法を提案し,波浪再解析の入力データとしての有用性を2020年に長崎県西海市沖に顕著な影響を与えた台風MaysakとHaishenの観測データとの比較検証を通して調べた.その結果,本研究で提案する気圧・合成風速場は,ERA5で過小評価となる風速のピークをよく再現でき,その予測精度の高さを実証することができた.
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堀内 颯人, 細山田 得三
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17028
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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沿岸での波浪予測は, 海洋工事等の安全性確保の上で重要である.海洋工事では波高1mを閾値として工事の成否が決するため安全・経済性の点でその精度向上が望まれる.近年では物理モデルと並行して, 機械学習の適用が注目され, 特にXGBoostやTabNetといった特徴量評価を実装した手法の評価が高い.本研究は, 主にXGBoostに基づく1週間先までの波高予測システムの開発を目指し, 風速データの特徴量重要度の違いによる予測精度の評価・検討を行った.学習データは長期間の波浪観測値と広域の気象観測値であり, 特徴量を用いたデータ評価とその空間的分布特性を調べた.その結果, 風速地点の選定に依存した予測精度の向上が確認され, 短期予測での高い精度が確認された.予測結果に対して統計解析における2値分類によって予測精度と期間との関係を示した.
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福谷 陽, 木村 詠太, 安田 誠宏
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17035
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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2019年台風15号の高潮・高波により,横浜市沿岸で埋立地の浸水やパラペット破損等の甚大な被害が生じた.本研究では,横浜市金沢区福浦地区の沿岸から約420mの地点に設置された高潮の遡上を捉えたカメラ映像より,映像上の漂流物を追跡し,高潮の遡上流速を簡易推定した.映像では約15分間,水位ほぼ一定で押し波により複数の漂流物が遡上する様子が確認でき,5個の漂流物の漂流距離と時間を確認し流速を推定した.結果,平均値0.70m/s,標準偏差0.06m/sとなった.また,高潮・波浪結合モデルSuWATを用いて,高波によるウェーブセットアップ効果を考慮した高潮遡上を解析した結果,対象地点での浸水は解析されず,過小評価となった.今後,高波による越波・越流の同時解析を行い,遡上高潮の発生原因を明らかにする.
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楠原 央理, 東 良慶, 武田 誠, 田中 耕司
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17036
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
気候変動に伴い,台風は強大化することが予測されており,それに伴う沿岸域の高潮リスクの増大が懸念されている.本研究では研究事例の多い内湾ではなく外洋に面した熊野川河口域における高潮偏差に着目し,洪水に与える影響を検討した.本論文は3つの内容で構成されている.(1)経路による変化を見るために,伊勢湾台風を東西に平行移動させ,高潮偏差を解析した結果,東に40kmで0.92mと最大となった.(2)将来気候を想定したd4PDF台風トラックから高潮偏差を解析した結果,(1)の結果を上回る1m以上の高潮偏差が確認されたが,いずれも経路によらず接近時かつ中心気圧が低い時に高潮偏差が大きくなる傾向となった.(3)熊野川の洪水生起における河川水位に与える高潮の影響を整理した結果,軽微であることが確認された.
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瀧川 宏樹, 奥野 峻也
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17037
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
海岸保全施投や港湾施設等の適時適切な操作には,高精度な潮位予測が重要な役割を果たす.潮位予測においては台風や低気圧等の気象擾乱に起因する高潮に加え,特に閉鎖性内湾においては海面の変動が湾の固有周期に共嗚して生じる副振動を考慮する必要がある.台風通過後においても,副振動が満潮と重なった際には浸水被害が発生する危険性がある.本研究では,東京湾を対象に高潮と副振動の両現象に着目し,力学系理論に基づきデータ駆動で潮位予測を実施した.特徴量として海面更正気圧,地表風,湾内の複数の潮位偏差の実績値および天文潮位を学習させ,東京潮位観測所における予測モデルを構築した.気象予報等の入力誤差を考慮しても高潮・副振動の両現象に対し良好な予測結果が得られ,実運用に資する予測精度であることを確認した.
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吉野 純, 村上 珠実, 小林 智尚, 琴浦 毅, 西 広人, 板垣 侑理恵
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17038
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
2023年台風7号を対象として,気象庁メソアンサンブル予報GPV(MEPS)を利用した高潮アンサンブル予報の高度化について検討した.MEPSの21メンバーだけで高潮の不確実性を表現することは不十分であるため,機械学習の分野のデータ拡張技術として利用されるSMOTEを利用して,中心位置,中心気圧および最大風速半径の台風属性データに対して合計1000メンバーのデータ拡張を行い,経験的台風モデルと高潮モデルにより伊勢湾内の巨大アンサンブル高潮予報実験を行った.進路予報のばらつきに対して5つのクラスター分類を行い,最大潮位偏差に関するクラスター毎の積み上げヒストグラムにより可視化する表現方法を提案した.予報発表後にも時々刻々と変化する台風進路を考慮に入れた機動的な高潮対策に資すると期待される.
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福井 信気, 山根 哲平, 太田 隆夫, 江本 久雄
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17039
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
本研究では,建物を考慮した高潮浸水サブグリッドモデルであるiDFMにおいて,質量保存則に建物内部へ浸入する水体積項を追加した.格子内占有面積率を約40%,25%,20%となる様に建物を整列させた簡単な都市地形による理想化数値実験(解像度30m)を行い,開発前後のiDFMにおける浸水特性を比較検討した.建物内水浸入考慮時は非考慮時に比べて遡上先端付近を中心に浸水深がそれぞれ平均36.6%,36.5%,6.18%減少し,占有面積率が25%以上の場合の浸水深の感度は大きいことがわかった.東京都沿岸部において2019年台風19号の擬似温暖化実験を用いた高潮浸水計算で同様の検討を行って,建物内水浸入考慮時は浸水深が平均22.5%減少することを確認し,浸水特性に与える建物内水浸入の影響が示唆された.
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神保 壮平, 渡邊 国広, 加藤 史訓, 荒木 和博, 坂本 大樹, 全 種赫
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17041
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
高潮浸水の発生リスクを踏まえた段階的な居住地域・都市機能の誘導や水害保険料率の算定を可能にするため,確率評価に基づく高潮浸水リスクマップの作成手法の構築が求められている.本研究では,d4PDFの台風トラックデータを直接用いる手法1,台風の中心気圧や進行速度といった台風パラメータによるモンテカルロ法に基づく手法2の2手法を提案し,名古屋港周辺を対象に複数段階の確率規模の浸水深分布の算出を行った.さらに,それぞれの確率規模に相当する浸水深分布を与える台風トラックの絞り込みを行った.その結果,手法2は手法1に比べて推定の不確実性が大きいものの,対象とする海岸や台風データが変化しても計算コストが過大にならず,かつ高潮浸水リスクマップの作成に十分な精度を有することを確認した.
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皆見 怜央, 豊田 将也, 加藤 茂, 福井 信気, 宮下 卓也, 森 信人, 金 洙列
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17042
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
本研究では愛知県三河湾を対象に,津波―洪水結合モデルにより複合ハザードを評価した.中央防災会議による津波11ケースに加え,2023年6月の直近洪水事例を元に津波シナリオに5パターンの河川流量(基底流出,直近洪水の25,50,75,100%)を考慮した計55ケースの計算を実施した.6河川の最大水位を河口からの距離別に算出したところ,洪水が小さい時(基底流出,25%)は河口で最大となり,それ以外では河口から約2.0km上流で最大となった.また,複合ハザードに対する河川間での水位上昇特性については(直近洪水と基底流出の差分),音羽川で最大(+4.8m),梅田川で最小(+1.2m)となった.以上より,津波想定における河川流量の影響とその空間的特性について明らかにした.
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山本 詩恩, 宮下 卓也, 安田 誠宏, 志村 智也, 森 信人
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17044
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
気候変動による海面上昇や高潮の将来変化による沿岸域の浸水リスクの増加が懸念されている.我が国では,気候変動適応策の方針が示されつつあるが,長期的な浸水リスク変化は未だ定量化されていない.本研究では,三大湾を対象に,共通社会経済経路SSP毎の人口推移とIPCC AR6の海面上昇量の予測値を用い,潜在的な浸水危険地域の面積と人口の経年変化を簡易推計した.大阪湾を対象に海面上昇を考慮した潮位条件で台風Jebiによる高潮浸水計算を行い,浸水面積と高潮影響人口の将来変化を推定した.その結果,影響人口についてはハザード変化よりも人口推移の影響が大きく,2020年以降の顕著な影響増加は東京湾のSSP5-8.5の高排出シナリオのみにみられた.シナリオ間の影響差は2060年以降に拡大することを明らかにした.
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豊田 将也, 春山 和輝, 森 信人, 金 洙列, 吉野 純
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17045
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
本研究は伊勢湾・三河湾を対象に,2019年台風19号を元にRCP8.5シナリオ条件下で21世紀末擬似温暖化台風経路アンサンブル実験を行い,台風に伴う暴風・大雨に起因する高潮・洪水の複合氾濫特性を評価した.現在気候と将来気候について,20ケースずつの経路アンサンブル計算の結果,将来気候では伊勢湾・三河湾ともに複数のケースで浸水が生じた.最大高潮偏差が発生したケースは伊勢湾台風に類似した経路であり,名古屋港で4.3m,三河港で3.1mであった.高潮・洪水を共に考慮した場合(複合ハザード)では,高潮のみの計算結果と比べて,平均浸水範囲は約51%,平均浸水深は約23%増加することが分かった.特に伊勢湾河口域では,木曽川等の大河川における台風通過後の洪水ピークを考慮することが重要であることがわかった.
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春山 和輝, 豊田 将也, 加藤 茂, 森 信人, 金 洙列, 吉野 純
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17046
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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認証あり
本研究は愛知県の三河湾および5水系を対象に,計30ケースの2019年台風19号の経路アンサンブルをもとに暴風・大雨による高潮・洪水の同時生起性に関する数値実験を行った.その結果,三重県東部を北上する特定の経路で最大高潮は1.96m,2.16m(満潮時)となった.この経路は高潮と洪水のピーク時刻差(∆T)が短く,全5水系の平均∆Tは48分であり,特に中小3水系の河口で同時生起条件が得られた.また,中小河川では台風中心と河口の距離に比例して∆Tが増加するが,大河川は台風経路に依らず∆Tは大きいことがわかった.想定台風の最大風速半径は70-105kmであり,中小河川ではこの範囲内に流域の大半が含まれていた.その結果,大雨・暴風の影響を受け,高潮・洪水の同時生起となったと考えられる.
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岡田 智晴, 森 信人, 志村 智也
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17048
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)から客観低気圧トラッキングアルゴリズムを用いて,新たに1.5度上昇シナリオにおける日本域の熱帯低気圧データセット(d4PDF1.5度)を作成した.トラッキングに用いる+1.5度条件のd4PDFデータは日本域に限られているため,全球で抽出ができないことによる空間的制約の影響を補正した.補正のため,d4PDFの4度条件の全球トラックと比較し,d4PDF1.5度の台風の抽出上のバイアスについて評価を行い,他温暖化レベルデータセットとの整合性を確認した.ついで,日本の海岸線を通過する台風について解析し,現在気候,+1.5,+2,+4度シナリオにおける台風の強度および頻度について,温暖化レベルに応じた将来変化量を評価した.
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松冨 英夫, 有川 太郎
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17049
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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津波荷重や歴史・想定津波規模評価の高度化を目指した単純な氾濫流モデルに基づく移動床斜面を遡上する津波氾濫流理論が存在する.その理論では移動床下の氾濫流抵抗則(摩擦損失係数)として気乾砂質土床に対するものを用い,氾濫流先端部において移動床から取り込む土砂体積と土砂湿潤用として移動床中に残す流体体積を同じとしている.本研究では先ず移動床土砂として気乾シルトを用いた水理実験を行い,シルト床に対する氾濫流抵抗則を検討して氾濫流抵抗則の汎用化を図っている.移動床から取り込む土砂体積を考慮し,移動床中に残す流体体積は無いとした場合へ津波氾濫流理論の汎用化も行っている.その理論を用いて氾濫流の遡上や先端部水面形,先端部での土砂移動等を論じ,氾濫水密度に対して氾濫流先端部の各横断面での運動量フラックスや比力に極大値(最大波力)が存在することを示している.
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保坂 幸一, 木原 直人, 鈴木 和磨
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17051
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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広域を平面2次元モデル(2D),陸域や構造物周辺を3次元モデル(3D)とする双方向で水位・流量を受け渡す2D・3Dハイブリッド津波解析手法を用いる場合の2Dと3Dの適切なカップリング位置に関する知見は少ない.本研究では,まず既往水理模型実験を対象に,ハイブリッドモデルの2Dに分散項を考慮する場合・考慮しない場合で,カップリング位置を変化させた解析結果から,分散性による津波波形の変化が3Dへの接続後の津波再現性に影響を与えることを確認した.さらに,2011年東北地方太平洋沖地震津波による女川町の遡上の再現を対象に,カップリング位置の設定方法を検討した上で痕跡高との比較,浸水深・流速の検証を行った結果,ハイブリッドモデルは2Dに比べ,構造物を考慮した陸上の津波遡上の再現性が向上すると推定された.
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友田 諒也, 安田 誠宏
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17052
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
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本研究では,深層学習の一種で時系列データを双方向で用いるBi-LSTMを用いて,和歌山県沿岸に到達する津波水位時系列をリアルタイムに予測する手法を開発する.震央やすべり分布,Mwの異なる900ケースの津波解析を実施し,沖合津波観測点56地点における10分間の観測値を入力データ,和歌山県沿岸の11市町への到達津波を出力データとするネットワークを構築し,学習と予測を行った.ハイパーパラメータの設定には自動最適化フレームワークOptunaを用いた.テストデータによる精度評価の結果,全ての地点で最大津波高については相関係数0.8以上,到達時間についてはRMSEが10数分以下の精度で予測可能であった.さらに,昭和東南海地震および南海トラフ巨大地震モデルを対象にした予測を行い,本手法の適用性を確認した.
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木場 正信, 保坂 幸一, 木原 直人, 鈴木 和磨
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17056
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
海底地すべりによる津波の解析においては,初期水位の簡易推定式が広く用いられる.しかし,この式は限られた条件下の数値解析に基づいており,条件を外れると非現実的な解を与える場合がある.本研究では,より広い条件下で合理的な解を得る方法を提案した.数値解析との対比等により,地すべりの没水深や移動距離に応じ式に与えるべき制限及び初期加速度に着目した適用式の選択方法を示した.また,適切な係数選択を行えば,二重ガウス分布で水理実験の空間波形を良く再現できることを確認した.さらに,水位に影響を与える地すべり速度について,抗力係数等のパラメータを適切に設定することで水理実験を再現できることを示した.この点は,併せて実施した2018年スラウェシ津波の再現解析でも認められた.
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増田 和輝, 辻本 剛三, 神田 泰成, 金澤 剛
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17058
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
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機械学習は計算コストと精度の観点から有効性を持つが,計算過程のブラックボックスによる信頼性に課題がある.この課題を解決する手法として,物理法則を学習するPhysics-Informed Neural Networks(PINNs)が注目されている.本研究では,令和6年能登半島地震における津波を事例として,実海域における複雑な条件下でのPINNsの妥当性を検証した.フーリエネットワークを用いた学習方法によって精度の向上が明らかとなり,差分法と比較してPINNsが水位伝播の概観と計算時間削減を可能にすることが示された.一方で,陸海境界の不連続性による誤差が顕著であり,複雑な条件下での適用に際しての課題も明らかになった.将来的には,観測値とのデータ同化や疎な数値解を用いた学習による精度向上への可能性を示した.
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白 皓東, 米山 望
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17059
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
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東日本大震災の際に観測された黒津波は構造物に与える波力増加率が密度増加率以上に増加することが懸念されている.本研究では,既往の水理実験を参考に,米山らの数値解析モデルを用いて黒い津波を再現し,鉛直壁に作用する波力に対する津波密度および粘性の影響を検討した.既往実験と経験式によってモデルの妥当性を検証した後,様々な条件で解析を行った.その結果,密度の増加に伴い,波力増加率比(密度の増加率に対する波力の増加率の割合)が0.85から1.25の範囲内にあることが確認された.また,波力の増加率が密度の増加率以上になるケースでは鉛直壁に衝突する直前の水深や流速が増加することが分かった.一方,粘性の増加(10倍)により,波力増加率比の範囲が0.9から1.2に縮小し,水深や流速も小さくなる傾向が見られた.
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松本 浩幸, 荒木 英一郎, 横引 貴史, 有吉 慶介, 高橋 成実
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17060
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
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2023年10月08日(UTC)に鳥島近海で発生した地震は,マグニチュードが不明なまま津波をもたらす特異な事象であった.著者らは南海トラフの地震活動を監視するために,紀伊水道沖の海底に長さ200mの光ファイバを展張し,光干渉(位相差)を計測する仕組みで微小のひずみ変化をリアルタイム観測している.地震時に,光ファイバひずみ計は14パケットの水中音波とそれにつづく分散性の津波を観測した.ひずみの振幅は,それぞれ0.07∼0.2µεと0.003µεであった.約3km離れたDONETの水圧計でも,1∼5hPaの水中音波ならびに1.4hPaの津波を観測し,光ファイバひずみ計の卓越周波数と一致した.光ファイバひずみ計による津波観測は,津波観測点が少ない沖合において,非地震性津波の早期検知に寄与することを示唆する.
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橋本 貴之, 本田 隆英, 織田 幸伸
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17061
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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本研究では,ヘドロなどを巻き込んだ黒い津波を対象として,粒径が数μmの底質を含む濁水の津波を防潮堤に衝突させる固定床実験を実施し,濁水密度の違いによる波形や波力の変化特性を確認した.護岸前面での濁水密度は1.00, 1.05, 1.10g/cm3の3種類とし,沖側での入射波は淡水の津波を共通して造波させた.津波の入射波形を3種類,海底地形を2種類,堤体位置を3種類に変化させ,それらによる影響を検討した.その結果,海底地形や堤体位置によらず,濁水密度が大きくなるほど波形は前傾化するが,津波高が低下するため波力は概ね小さくなる傾向が確認された.ただし,濁水密度により護岸前面における砕波位置が変化するため,入射津波や地形条件によっては波力が大きくなる可能性があることも示された.
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石原 史隆, 木原 直人, 鈴木 和磨
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17062
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
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2018年クラカタウ津波を代表とする山体崩壊現象について,二層流モデルや簡易推定式から得られる水面形を用いた再現計算が多く実施されている.一方これらの手法では,水中に進行する山体崩壊により比較的周期が短く分散性を有する成分を含む津波の生成が表現できない.本研究では,分散性を表現可能な解析モデルとして,波源域を3次元混相流モデル,広域の沿岸域を平面2次元解析で計算する手法で再現性検討を実施した.非線形長波モデルを用いた場合には分散波成分の解を得られないため,3次元混相流モデルでの分散性を考慮し,平面2次元解析による広域計算では非線形長波モデルと分散波モデルの双方で検討を実施し,分散波による再現性への影響を確認した.本検討結果では,分散波が痕跡の再現性に対してあまり影響を与えないことがわかった.
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德田 達彦, 有川 太郎
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17063
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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2022年1月,トンガ諸島付近の海底火山で大規模な噴火が発生し,トンガの島々には10mを超える津波が到来した.日本周辺の海域には海底火山が数多くある.将来,本事象と同じメカニズムで日本の沿岸部に津波が到来する可能性がある.本研究では海底火山の噴火によって発生する津波のメカニズムについて,検討した.既往研究では噴火後の水面を初期波源とし伝搬計算を行ってものが多いが、本研究では,噴火時の水の動きを模擬的に3次元計算で再現することで,既往研究の方法との差異を検討し,現地調査で得られた痕跡高のデータとも比較した.3次元の噴出計算を行うことで既往研究の手法と比較してより実現象に近い数値計算結果を得ることができた.浸水計算では観測データとよく一致するエリアがあった.
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松本 皓太, 福田 朝生
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17064
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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本研究では,流体と固体の三次元運動を連成して解く数値解析を用いて,ダムブレイク流れによって津波石が移動する数値解析を行い,水路幅の変化が津波石の移動に及ぼす効果を分析した.約0.1m立方の津波石モデルを用いて,水路幅は0.4mから2.4mの間で設定した複数のケースで解析を行った.解析結果より,概ね水路が狭いほど津波石の移動距離は長くなった.しかし,流下方向の流体力は水路が狭いほど減少していた.これは,狭い水路では水位が上昇し,津波石に作用する浮力が大きくなり,その結果,底面に作用する垂直抗力が小さくなり,流体力に抵抗する水路底面との接触力が,水路が狭いほど小さくなることが要因であることが明らかとなった.また,抗力係数は,概ね水路が狭いほど増加する傾向を示すことが明らかとなった.
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栗原 朋也, 白井 知輝, 榎本 容太, 今井 健太郎, 有川 太郎
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17065
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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海底地すべりは発生位置や地すべり体の形状などに多くの不確実性を含んでおり,津波リスク評価には確率論的アプローチが必要となる.本検討はマルマラ海を対象に地すべり津波ハザード評価を行うことを目的とする.具体的には,パルを対象に実施した永井ら(2022)の手法に倣い,100ケースの地すべり津波波源モデルを生成し,それらに対する解析を行った.地すべり箇所は現地で発見された痕跡位置に設定した.次に,福谷ら(2021)と同様の方法で,数値計算で得られた経験分布関数を平滑化した.結果として,海底地すべりにより6mの津波が発生した可能性のある1509年の津波は,最悪のシナリオを想定した場合,再現期間が約700年と推定された.加えて,マルマラ海の特徴的な地形条件から津波高さには空間的なばらつきが認められた.
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安田 誠宏, 吉村 優一, 瀬木 俊輔, 河野 達仁
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17066
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
気候変動を踏まえた海岸保全施設の整備計画が必要である.しかしながら,気候変動には多大な不確実性が伴う.本研究では,将来に不確実性がある場合に用いられる意思決定手法の一つであるリアルオプション分析を海岸保全施設整備計画に適用した.高知市の長浜海岸を対象に,海面上昇と将来気候台風による越波・浸水による被害額の算定を行い,リアルオプション分析を用いて最適な堤防の嵩上げ高さと整備時期を求めた.分析の結果,気候変動の進行が小さい場合には,嵩上げ高さ2.5mが最適で,将来にわたって追加対策を取る必要がないことがわかった.シナリオツリーの進み方により,気候変動対策が必要な時期と規模が異なることが示された.リアルオプション分析により,経済的に最適な整備時期と整備水準を動学的に求めることが可能なことを示した.
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河瀬 尚, 下園 武範, 山中 悠資
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17067
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
長い海岸線を有する我が国では,人口減少を背景に海岸防護施設の持続が今後の課題となる.本研究では,南海トラフ地震による津波被害が想定される太平洋沿岸地域の小規模な海岸低地群を対象とし,堤防の防災効率に関する俯瞰的な分析を行った.あらかじめ標高および人口メッシュデータから海岸低地のデータベースを作成し,簡易的な一括浸水計算によって堤防高さと被災人口の関係を176の小規模海岸低地について評価した.この結果をもとに,堤防長さ当たりの被災人口が全地域で同等になるよう堤防高さを設定した場合の堤防総延長・コストを分析するとともに,地域によって堤防の防護効率が異なる要因についても議論した.以上を通して,本研究では小規模な海岸低地群における堤防の効果を俯瞰的に分析する手法の枠組みを提示した.
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佐々木 花衣, 東野 さくら, 一ノ瀬 彩, 信岡 尚道
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17069
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
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茨城県大洗町は 2011年東北地方太平洋沖地震津波(3.11津波)による被害を受けた町のひとつである.町は港を中心に発展してきたが防波堤の建設により堆砂が生じ,汀線が約400m前進したことで,昔の堤防(旧堤防)が現海岸線から離れた住宅地の前に役目を終えて残っている.また港周辺には大型施設が主に4つある.そこで旧堤防,大型施設や港の防波堤による津波減衰効果について数値シミュレーションにより比較した.3.11津波では旧堤防と防波堤の組み合わせにより最大で10%程度まで浸水域が減少することがわかった.4つの大型施設は,若干背後地の浸水深低減に寄与するとわかった.またL2津波を上回る超L2津波では,いずれの施設において絶対的な効果は小さくなるが津波減衰が残存することも明らかにした.
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堤 雄大, 青木 伸一, 荒木 進歩
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17070
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
石油貯蔵タンクの被災推定モデルを組み込んだ,新たな津波による石油拡散シミュレーション法を構築した.津波流速と浸水深から貯蔵タンクに作用する流体力の時間変化を推定し,貯蔵タンクの重量から決まる抵抗力以上の流体力が作用する場合に石油拡散が生じるとして計算した.石油の拡散挙動はラグランジュ的手法を用いて計算し,石油粒子には流出元の貯蔵タンクに基づくラベリングが可能である.これにより,拡散された石油がどこから流出したのかを特定でき,効果的な対策が可能となる.また,最大石油濃度から,津波火災のリスクが高いエリアを特定できる.
開発された津波石油拡散シミュレーションを用いて,大阪港地区を対象にケーススタディを実施し,特に堤防が倒壊するか否かにより石油の拡散挙動は大きく変化することを明らかにした.
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八木澤 一城, 光永 康二, 高橋 和多利, 大塚 淳一, 加藤 史訓, 猿渡 亜由未, 田島 芳満, 森 信人, 渡部 靖憲
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17072
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
気候変動を踏まえた設計外力の検討が全国的に進められており,津波水位に与える影響の把握も重要である.本研究は北海道沿岸を対象に海面上昇に伴う津波高の変化を分析した.初期水位を変更した津波シミュレーションの比較より,初期水位が高いほど,特に湾状地形で津波高の増大傾向が見られた.津波高の経時変化より,第1波の津波高は変わらないものの.反射による湾振動の影響が現れる第2波以降で初期水位による違いが顕著になった.また,津波水位スペクトルの比較より,スペクトルの概形は変わらないものの,初期水位が高いほどピーク周期が短周期側にシフトし,そのピークは増大した.第1波と第2波以降で海面上昇が津波高に与える影響が異なるため,気候変動に伴う設計津波水位の見直しに際し留意が必要である.
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南 雅晃, 対馬 弘晃, 林 豊
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17075
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
2024年1月1日の能登半島の地震(M7.6)に伴う津波は,日本海各地の沿岸で観測された.なかでも富山検潮所に津波が早く到達しており,地震に伴う地殻変動以外に富山湾に別の波源が存在した可能性を示唆している.本研究では,検潮所以外の富山湾沿岸の津波観測値を得るため,富山県高岡市の雨晴海岸と富山市岩瀬浜のライブカメラの映像を解析し,日没までの津波時系列データを抽出した.各々の地点に近い伏木港検潮所および富山検潮所のデータと比較すると,各々時間変化傾向は似ているものの,今回解析した地点の方が最大波高が高く初動到達時刻についても違いが見られた.この結果は,本研究で得た時系列データが検潮所とは独立した情報として活用でき,ライブカメラがリアルタイム津波観測のための機器として活用出来ることを示唆している.
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二木 敬右, 廣木 颯太朗, 由比 政年
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17076
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
令和6年能登半島地震津波の波源については本震直後の余震域分布を踏まえ,約150km程度の波源が想定されているが,既往の活断層調査結果や各地に到達した津波の実態を反映した事例は少ない.本研究では,今回の地震津波の波源域について,セグメント区分した波源による津波の伝播特性や水位時刻歴波形に基づき活動域の推定を試みた.その結果,北東沖については珠洲市飯田町等での津波到達時刻から能登半島北岸の南東傾斜の波源で説明可能であり,北西傾斜の波源は必ずしも考慮する必要がないことが明らかとなった.また,能登半島西岸の笹波沖の波源は隆起・沈降の分布等から今回活動していないと考えられる.以上より,今回の地震津波の波源域としては100km程度が想定された.
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犬飼 直之, 山本 浩
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17078
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
2024年1月に能登半島で発生した津波の新潟県沿岸域への到達状況を把握するために,津波の痕跡調査と津波伝播数値実験を実施した.調査では,糸魚川から新潟東港の間を踏査しRTK-GNSS等で遡上高を計測し,無人航空機を用いて平面的な地形情報を取得した.数値実験は,国土地理院の断層パラメータを用いて500m格子間隔で能登半島から秋田県の領域で実施し,各地への津波到達時間と比較した.また直江津港周辺の10m格子間隔の地形情報で計算を実施し,直江津港内の観測値と一致させた後に,地域への到達波高などを把握した.現地調査より,関川左岸側河口で遡上高6mで,能生以西や大潟以東では顕著な津波痕跡を見つけられなかった.数値実験より,津波は水深の影響で糸魚川へ8分程度で到達していた.また,上越市街地へ到達時の波高は2m程度であったと考えられる.
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有田 守, 楳田 真也, 二宮 順一, 郷右近 英臣, 熊谷 健蔵, 越村 俊一, 由比 政年
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17087
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
能登半島東岸を対象に,令和6年能登半島地震津波による浸水・被害状況に関する現地調査を行い,沿岸方向約70kmの範囲で計91点の津波痕跡を観測し,被害の特徴を検討した.日本海・富山湾に直面する地域では,津波痕跡高は,珠洲市寺家,飯田,春日野・鵜飼地区および能登町白丸地区に複数の極大値が点在する形で振動的に変化し,最大5.6~2.1m程度の痕跡高が観測された.また,春日野・鵜飼地区および能登町布浦地区で陸側奥深くまでの浸水が見られた.一方,内湾に位置する穴水町,七尾市では,津波痕跡高は2.5~1.0m程度の低い値となった.観測された浸水範囲は石川県の事前想定と比較して限定的であり,浸水範囲や建物被害の程度は後背地の地形分類や海岸防護施設の設置状況と良く対応した.
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信岡 尚道, 鵜﨑 賢一, 犬飼 直之
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17088
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
令和6年能登半島地震に伴う津波は,日本海を伝播し新潟県沿岸にまで到達した.同年1月と3月の延べ6日間で,北東は新潟県柏崎市から南西は県境を越え,富山県入善町までの区間の痕跡高分布を調査した.痕跡地点の特定は,主に証言を基にした漂流物および公開されていた動画による地盤高とした.その遡上高(地盤高)はRTK-GNSSで,浸水高は地盤高からスタッフで測量した.痕跡高分布の結果は,波浪に対して開放的な自然海岸と港湾・漁港による閉鎖域で大きく異なった.前者の遡上高はおおよそ5m程度で最高では7mを超え,後者は最高でも3m弱であった.また,一部の河川内で計測した高さは,これらの中間であった.これら痕跡高は津波と波浪の重畳の程度によるものと考察を行い,この重畳も防災の観点では重要であることを明示した.
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加藤 史訓, 姫野 一樹, 福原 直樹
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17089
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
2024年1月1日16時10分に発生した令和6年能登半島地震では,石川県珠洲市において震度6強を観測するとともに津波が来襲し,海岸護岸の被災や海岸背後地の浸水が生じた.この地震による珠洲市内の宝立正院海岸での被害を把握するため,2024年1月22日に現地調査を行った.その結果,津波による浸水被害は周辺より小さかったものの,海岸護岸のひび割れやずれ,破断が広範囲で生じていたことが明らかになった.また,直・正院地区や上戸地区での波返工の海側への流失は,強い地震動に津波の引き波による影響が加わって被災したと推定された.
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郷右近 英臣, 大平 尚輝, 高橋 康朗, 中野 森平, 福田 勝仁, 有田 守, 楳田 真也, 二宮 順一, 越村 俊一
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17090
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
令和6年能登半島地震津波において,津波により被災した珠洲市春日野・鵜飼地区,飯田地区,寺家地区の3地域を対象とし,建物被害調査と浸水深調査を実施した.それらの調査結果をGIS上で統合分析することで,その関係性について定量的・定性的な評価・分析を行った.その結果,建物被害評価では,現地調査や空撮画像の判読により津波浸水域内の建物1,557棟を対象に,流失・倒壊の空間分布を明らかにした.また,津波浸水深調査では,対象領域内の304地点の浸水深を計測し,その空間分布を明らかにした.また,春日野・鵜飼地区の建物被害データと浸水深データを対象に統計分析を行った結果,津波浸水深が170cmに到達した時点で10%,258cmに到達した時点で80%の建物が流失する傾向が明らかになった.
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鈴木 高二朗, 千田 優, 鶴田 修己, 藤木 峻, 里村 大樹, 中澤 祐飛, 髙川 智博, 野津 厚, 宮田 正史, 山川 匠, 伴 孝 ...
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17091
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
ジャーナル
認証あり
能登半島地震で発生した津波により各地の防波堤や護岸・岸壁が被害を受けた.なかでも珠洲市の飯田港の被害は甚大だった.本研究では,現地調査と飯田港・輪島港の監視カメラの映像,津波の浸水シミュレーション等をもとに被害の実態を示すとともに,その要因を分析した.その結果,輪島港では津波による浸水被害が見られず津波被害も顕著では無かった.一方,飯田港では津波の第2波が2方向から来襲し,東防波堤では津波が越流してその基部と先端部が大きな被害を受けた.また,地震によって変状した岸壁がその後の風浪で吸い出し被害を受ける事例も見られた.
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二木 敬右, 由比 政年, 楳田 真也
2024 年 80 巻 17 号 論文ID: 24-17095
発行日: 2024年
公開日: 2024/11/01
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認証あり
令和6年能登半島地震津波による石川県輪島市舳倉島における浸水域分布及び低標高部での津波被害状況を報告する.携帯型GPSで得られた痕跡位置とDEMの照合によると,島内の浸水域は,防波堤背後で住居等が立地する東部では3~4mに留まるが,無堤区域となる北~北西部で約6~7mと高標高部に達した.全体に,防波堤背後域(東部)では無堤区域(北東部や南西部)より浸水域が狭くかつ低標高となり,防波堤による津波低減効果が確認された.建物被害は北東部や南部で顕著であり,地震による倒壊に加えて,津波による低層階の流失・損壊が確認された.また,舳倉島の海岸は直径約20cmの扁平礫で構成されており,海浜浸食状況と建物被害の関係から,津波波力に加えて,礫の衝突による被害の増大が推定された.
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