日本小児循環器学会雑誌
Online ISSN : 2187-2988
Print ISSN : 0911-1794
ISSN-L : 0911-1794
最新号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
巻頭言
Review
  • 田原 昌博
    2023 年 39 巻 2 号 p. 51-61
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル フリー

    18トリソミーは頻度の高い染色体異常症候群であり,約90%に先天性心疾患を合併する.心疾患の多くは肺血流増加型心疾患であり,心不全や肺高血圧関連のエピソードで亡くなることも多いが,積極的治療により生命予後が改善するという報告が増えている.18トリソミーの肺組織は,肺高血圧に対する肺小動脈の中膜肥厚が軽度という特徴があり,肺小動脈中膜形成不全,肺小動脈低形成などの所見を認めることが比較的多い.これらに加え,上気道狭窄や肺疾患に伴う肺胞低酸素なども肺高血圧合併と関連していることが推察されている.また,肺動脈コンプライアンスを含めた肺循環に関する検討も行われており,長期的予後改善のために先天性心疾患に対する心内修復術の是非も議論されている.今後も多角的に蓄積されていくエビデンスが,治療方針決定の一助となり,患者・家族のquality of life (QOL)の改善に繋がることに期待したい.

  • 永井 礼子
    2023 年 39 巻 2 号 p. 62-68
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル フリー

    肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension: PAH)の疾患原因遺伝子BMPR2が報告されてから,20年余りが経過した.その後,原因遺伝子および原因遺伝子候補は数十個にまで増加しているが,その臨床現場での意義や有用性が,一般の臨床家には,いまひとつわかりにくいのではないかと筆者は感じている.今回は,2023年の現時点で筆者が特に注目しており,かつ臨床的意義も高いと考えている,TBX4SOX17GDF2の3遺伝子に焦点を当てて概説する.さらにエピジェネティック解析,PAH患者とその家族における遺伝学的検査についても述べることとする.最後に,遺伝学的背景に基づいた,PAHの新規治療法の開発の可能性についても触れる.

  • 安藤 誠
    2023 年 39 巻 2 号 p. 69-77
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル フリー

    気道狭窄症は,完全気管軟骨輪による全周性狭窄,軟化症(tracheobronchomalacia; TBM),血管による圧迫(vascular compression syndrome; VCS)に大別される.特にTBM, VCSは未診断率が高く,診断されていても的確な治療が行われていない症例が多数存在すると考えられている.TBMは単独(先天性TBM)とVCSによる軟骨形成障害によるものがあり,さらに,VCSには軟骨変形を伴うことがほとんどであり,治療は各病態に応じて多様なオプションが存在する.このなかで,軟骨輪および先天性TBMの外科治療は,小児心臓血管外科医が執刀する機会はまれである.小児心臓血管外科医の関与が必須であるのは,VCSの一部に限定されるが,先天性TBMに対する手術手技はVCSに対するそれとオーバーラップする部分が多い.さらに言うなら,先天性TBMに対する手術手技の習得なくしてVCSの適切な治療はなし得ない.本稿では先天性を含むTBMとVCSの治療につき詳述する.

  • 横山 岳彦, 増谷 聡
    2023 年 39 巻 2 号 p. 78-90
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル フリー

    出生に際して臍帯胎盤循環が消失し,呼吸確立により肺血管抵抗が低下する.その結果,後負荷は右室で低下し,左室では増加する.出生後は両心室とも拍出量は増加し,右室の左室に対する拍出量比は低下する.この胎児循環から新生児循環への大きな変化は,多くの正常成熟児では容易に対応できるが,早産児では未熟性ゆえに負荷条件の変化に適応が難しく,一部で不適応(循環不全)を生じる.循環不全は,血管の脆弱性・未熟な止血能と相まって頭蓋内出血などの予後に大きな影響を与える合併症につながり得る.したがって,循環不全の成因を正しくとらえ,適切に介入し,不適切に介入しないことは,早産児や病的新生児の予後改善につながり得る.日本では生後早期の早産児に対して,新生児科医が心臓超音波検査を頻回に行い,その評価に基づく新生児管理が行われている.こうした細やかな循環管理は世界でも稀で,優れた日本の新生児医療の治療成績に貢献していると考えられている.本稿では,現在日本で行われている新生児の循環評価法および治療について概観し,代表的な循環不全の病態について述べる.

原著
  • 根本 慎太郎, 小田中 豊, 岸 勘太, 小西 隼人, 鈴木 昌代, 蘆田 温子, 尾崎 智康, 三浦 大
    2023 年 39 巻 2 号 p. 91-98
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル フリー

    背景:右室流出路–肺動脈領域の術後再治療介入は未だに解決しなければならない課題である.本研究では,全国アンケートを利用し,レジストリから抽出の困難な本再介入の実態を調査し,医療経済的観点からの影響を調査した.

    方法:日本小児循環器学会によるウェブアンケート(2020年2月)による実態調査を実施し,大阪医科薬科大学病院における再介入医療費調査を算出した.

    結果:31施設(日本小児循環器学会評議員が在籍する手術実施49施設,回答率63.3%)から回答を得た.直近3年間での当該手術総数は2,520件(自己心膜54.4%,polytetrafluoroethylene 35.8%,ウシ心膜9.8%)であり,段階的手術を除いた再介入は500件(再手術47.6%,カテーテル治療52.4%)であった.すべての材料に共通する再介入の三大原因は,材料劣化,内膜過剰増生,および非伸張性であった.実際の再介入治療費は平均約600万円/件で,アンケートからの実施数を乗じると31施設では約10億円/年,全国90の手術実施施設では約30億円/年と試算された.

    結語:当該領域の術後再治療介入は医療経済上も看過できない課題である.更なる回避には手術術式および手術材料の最適化と改良が引き続き必要と考えられた.

症例報告
  • 佐藤 麻朝, 進藤 考洋, 羽賀 千都子, 平井 聖子, 牛腸 義宏, 小野 博
    2023 年 39 巻 2 号 p. 99-105
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル フリー

    過去に報告のない,心室細動で発症し自動体外式除細動器により救命された,特発性好酸球増多症候群に伴った好酸球性心筋炎の幼児例を経験した.本症例は経過中,心室細動を含めた不整脈の再発は認めなかった.入院当初血液検査での脳性ナトリウム利尿ペプチドの上昇と,心エコー上,少量の心嚢液貯留と僧帽弁の逆流を認めたが,ステロイドなどの治療介入を要さず,経過観察のみで回復した.末梢血好酸球数は低下したが,正常化はしておらず,心臓MRIの遅延造影所見も残存しており,外来での慎重な経過観察を必要としている.

  • 古川 卓朗, 石川 真一, 中嶋 雅秀
    2023 年 39 巻 2 号 p. 106-111
    発行日: 2023/08/01
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルスワクチン関連心筋炎(C-VAM)は稀ではあるが,各国より報告され注目されており,今後のワクチン接種人口の増加により遭遇する機会が増える可能性がある.今回,半年以上に渡り心臓MRI(CMR)の異常所見が残存したC-VAM症例を経験したので報告する.症例は14才男児で新型コロナウイルスmRNAワクチン2回目接種後に発熱と胸痛が出現した.心電図変化と血清トロポニンI高値,およびCMRにて心筋炎と合致する所見があり,C-VAMと診断した.急性期はごく軽症で対症療法のみで軽快したが,心電図の正常化には1か月以上を要し,また罹患1年後のCMRでも遅延造影(LGE)での異常所見が残存していた.現時点でC-VAMの長期予後は不明であるが,C-VAM以外の心筋炎ではLGE所見の残存が長期予後と関連があると言われており,急性期が軽症であったとしても,長期の経過観察が必要と考えられた.

Editorial Comment
feedback
Top