日本小児循環器学会雑誌
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37 巻, 2 号
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巻頭言
Review
  • 宮川 繁
    2021 年 37 巻 2 号 p. 73-77
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー

    重症心不全治療として最も重要な治療法である心臓移植は,極めて深刻なドナー不足であり,新しい移植法案が可決されたものの,欧米レベルの汎用性の高い治療法としての普及は困難が予想される.一方,左室補助人工心臓(LVAD)については,日本では移植待機期間が長期であるため,感染症や脳血栓等の合併症が成績に大きく影響している.これらの課題を克服するため,世界的に再生医療への期待が高まっており,心臓移植やLVADに代わる新しい治療開発が急務である.このような状況のなか,重症心不全においては,細胞移植,組織移植,また再生医療的手法を用いた再生創薬の研究が進み,臨床応用化が進んでいる.本稿では,これまでの筋芽細胞シートのトランスレーショナルリサーチとともに,iPS細胞由来心筋細胞シートを用いた心不全治療の試み,さらに疾患特異的iPS細胞に関して紹介し,再生医療技術を用いた新しい心不全治療を概説する.

  • 長谷川 智巳
    2021 年 37 巻 2 号 p. 78-87
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー

    先天性気管狭窄症(CTS)は完全気管輪を伴った気管内腔の狭小化により重篤な呼吸障害を来し得る難治性の疾患である.スライド気管形成術の普及によりその治療成績は著しく向上したが,窒息などの急変対応,手術手技や周術期管理,術後フォローアップの難しさから,国内でCTSの管理や治療に取り組んでいる施設は限られている.一方,先天性心疾患(CHD)において呼吸と循環は相互に密接に関連しているため,気道病変の合併は病態をより複雑かつ重症化させ,診療や治療に難渋することが多い.CTSは稀な疾患であるがCHDの合併は比較的多く,小児循環器診療に携わる医療従事者にとってCTSに関する理解を深めることは重要である.本稿ではCTSについて概説し,CHD合併に焦点を当てながら外科的治療を含めた周術期管理の要点をまとめ,施設間ネットワークやチーム医療によるCTS管理の普及と発展を期待する.

  • 門間 和夫, 前野 泰樹
    2021 年 37 巻 2 号 p. 88-95
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー

    総動脈幹遺残は心臓流出路の円錐から動脈幹の中隔形成不全に起因する先天性心疾患である.新生時期に重篤な心不全に陥る致死的な疾患であるため胎児エコー診断が重要である.染色体22q11.2欠失症候群の31%に総動脈幹遺残を合併し,妊娠ラットへのbis-diamine投与により胎仔に染色体22q11.2欠失症候群に酷似した先天性疾患を生じる.本稿ではbis-diamineによりラットに生じた総動脈幹遺残の胎生期心臓血管断面像を検討した.妊娠9日目と10日目にbis-diamineを投与し,満期21日目に全身急速凍結法を用いて胎仔を固定した.ミクロトームで薄切した胸部横断面を実体顕微鏡下に連続写真で記録した.観察した胎仔の90%に心疾患があり.17%に総動脈幹遺残が認められた.代表的な4例の総動脈幹遺残胸部横断面の図譜を詳細に検討したところ,心室中隔欠損や右室流出路と主肺動脈の欠損,弁異形成や逸脱,4弁性などの総動脈幹弁の形態異常,さらに総動脈幹から起始する主肺動脈または左右肺動脈が確認された.その他右側総動脈幹弓や右鎖骨下動脈起始異常による大血管とその分枝の走行以上も明確に描出された.Bis-diamine投与による総動脈幹遺残モデルラットの図譜は,人の総動脈幹遺残に対する胎児エコー診断の一助となる可能性がある.

原著
  • 川村 順平, 野村 裕一, 塩川 直宏, 櫨木 大祐, 上野 健太郎, 田中 裕治, 益田 君教, 西畠 信, 吉永 正夫
    2021 年 37 巻 2 号 p. 96-103
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー

    背景:鹿児島市の学校心臓検診(心検)の1次検診は医師6~8名の判読後に集団討議で抽出例を絞り込む集団判読が特徴である.本心検の精度を検討した.

    方法: 1989年から30年間の小・中学校心検受診者67,723例を対象とし,2次抽出例の割合(抽出率)と全対象内の心検で診断された有疾患例の割合(心検有病率)と既診断例も含めた全有疾患例の割合(総有病率)を解析した.

    結果:年度毎の抽出率は12誘導心電図が導入された1994年以降で,集団判読導入の2001年以前は2.4% [1.9–3.0%](中央値[範囲])で導入後は1.5% [1.2–2.2%]であり,有意に低値だった.しかし,集団判読導入後の心検有病率は1994年から2000年の期間と比較して有意に高率だった(43% [33–50%] vs. 28% [26–35%]).総有病率は0.60% [0.50–0.85%]だった.

    結論:当市心検の抽出率は全国(3.0%)より低いが,総有病率は全国(0.9%)に近く十分な精度だった.この精度の維持は,12誘導心電図の導入に加えて集団判読の効果と考えられた.

  • 田邊 雄大, 金 成海, 石垣 瑞彦, 佐藤 慶介, 芳本 潤, 満下 紀恵, 新居 正基, 田中 靖彦
    2021 年 37 巻 2 号 p. 106-116
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー

    背景:単心室疾患の治療成績が上昇し,Fontan患者は年々増加している.しかし,Fontan術後に不整脈やfailing Fontan状態などの様々な遠隔期合併症に苦しむ患者も多い.このような問題に対するカテーテル治療として,Fontan導管への経皮的穿刺・開窓術(transcatheter puncture and fenestration: TPF)を行うことがあるが,その効果・合併症についての報告は少ない.

    方法:当院にてTPFを行った7症例(9件)を対象として,カテーテル治療の効果・合併症について後方視的に検討した.

    結果:全9件のカテーテル治療の適応の内訳は,不整脈が4症例(5件),鋳型気管支炎(plastic bronchitis: PB)が3症例(3件),蛋白漏出性胃腸症(protein-losing enteropathy: PLE)が1症例(1件)であった.PBとPLEの症例は開窓部分にステント留置を行い,3/4件で静脈圧が低下した.不整脈に対するアブレーションは5/5件で成功した.総カテーテル時間(中央値)は243分(194~420分)と長時間であった.

    結論:TPFは開心術を要さずに,Fontan術後の問題を解決しうる治療方法であり,Fontan患者の予後改善に寄与する可能性がある.

  • 平野 恭悠, 江原 英治, 村上 洋介, 中村 香絵, 佐々木 赳, 藤野 光洋, 川崎 有希, 西垣 恭一, 吉田 葉子, 鈴木 嗣敏
    2021 年 37 巻 2 号 p. 117-123
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー

    背景:先天性心疾患に先天性消化管閉塞症を合併する場合には,個々の症例に応じた治療戦略が求められる.しかし,両者を合併した症例の治療成績,予後に関する報告は少ない.

    対象と方法:1994~2011年に当院で治療を行った先天性消化管閉塞症を合併した先天性心疾患61例を対象とし,診断,治療経過,予後を後方視的に検討した.消化管閉塞症と心疾患ともに手術介入した症例については消化管疾患毎のサブグループに分けて治療経過,問題点を検討した.

    結果:心疾患は心室中隔欠損22例,動脈管開存8例,Fallot四徴7例,心房中隔欠損5例,大動脈縮窄,肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損,両大血管右室起始が各3例,完全型房室中隔欠損,単心室,総肺静脈還流異常が各2例,その他4例であった.合併消化管閉塞症は,鎖肛31例,食道閉鎖17例,十二指腸閉鎖・狭窄10例,Hirschsprung病10例であった.予後は生存51/61例(83%)であった.染色体異常・奇形症候群が半数あり,死亡例では70%を占めた.心疾患,消化管閉塞症ともに手術したものが40例で,うち38例は心臓手術より消化器手術を先行することで概ね経過良好であった.しかし,鎖肛の1例で人工肛門の位置が心臓手術に影響した.食道閉鎖で肺血流増加のため1例心臓手術を先行し,十二指腸閉鎖・狭窄で1例消化管術後に肺血流増加で縫合不全を合併した.Down症候群に伴うHirschsprung病の3例が劇症型腸炎で急変,死亡した.

    結論:消化管閉塞症を合併した先天性心疾患において,基本的に消化管から介入し,次に心疾患に介入する方針で生存率83%の結果が得られた.肺血流増加型の心疾患は循環動態のコントロールが付かない例や創傷治癒に影響する例があり,迅速な対応が必要である.Down症候群のHirschsprung病,人工肛門造設例における劇症型腸炎は致死的となりうるため,注意が必要である.

症例報告
  • 加藤 伸康, 武田 充人, 新井 洋輔, 八田 英一郎, 八鍬 聡, 新宮 康栄, 大岡 智学, 若狭 哲
    2021 年 37 巻 2 号 p. 126-132
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー

    内臓錯位症候群・左側相同に関連する心疾患では下大静脈欠損や両側上大静脈などの体静脈還流異常や単心房を合併することも多く,二心室修復の際には体静脈の再建も要する.今回我々は,内臓錯位症候群・左側相同,鏡像型右胸心,房室中隔欠損,単心房,両側上大静脈,下大静脈欠損,半奇静脈接続の4歳女児に対し,心房内血流転換を含めた心内修復術を行った.術前CTでは体静脈の心外再建には不向きな心大血管形態で,共通肺静脈腔の存在から心房内血流転換が適していると判断し,右上大静脈の血流を左側心房へ心房内血流転換しつつ,房室中隔欠損に対してmodified one patch法で共通房室弁の分割と心房中隔作成を行った.術後検査では体静脈や肺静脈の狭窄は認めず,経過良好で11日目に自宅退院となった.共通肺静脈腔を呈している場合は,心房内血流転換は体静脈還流異常に対して有用な術式となりうる.

  • 石橋 誠二郎, 中野 克俊, 浦田 晋, 中川 良, 朝海 廣子, 平田 陽一郎, 樋渡 光輝, 今留 謙一, 池村 雅子, 犬塚 亮
    2021 年 37 巻 2 号 p. 133-140
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー

    移植後リンパ増殖性疾患(post transplantation lymphoproliferative disease: PTLD)の治療において,リツキシマブの適応は一般的に臨床像および生検結果に基づいて決定する.今回,末梢血のEpstein–Barr(EB)ウイルス感染細胞同定解析に基づき,生検結果が判明するよりも早くリツキシマブの適応があるかを調べられたPTLDの症例を経験した.本症例は2歳男児で,心臓移植の3か月後に発熱・気道症状・下痢症状でPTLDを発症し入院した.入院中に行った末梢血のEBウイルス感染細胞同定解析により,感染細胞がB細胞由来で,リツキシマブの適応があることがわかった.これに基づき,生検結果が判明するより先にリツキシマブを投与開始できた.末梢血のEBウイルス感染細胞同定解析は,生検結果が判明するまで待てないPTLD症例において,リツキシマブの適応があるかを早期に把握する有効な手立てとなる可能性がある.

  • 斉藤 裕子, 佐藤 純一, 高田 展行, 相庭 武司
    2021 年 37 巻 2 号 p. 144-150
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー

    カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)は,若年期に失神,心停止を起こす致死性遺伝性不整脈の一つであり,10年生存率が60%程度と予後の悪い疾患である.患者の50~60%に心筋リアノジン受容体遺伝子(RYR2)変異が認められるが,多くが弧発例で国内の家族内発症は非常に少ない.今回,34歳女性を発端者とする,若年での複数の家族内突然死歴のあるCPVTの一家系を報告する.遺伝子検査を施行し,発端者とその妹2人,息子,姪にRYR2の新規の病的バリアント(F4087L)を認めた.発端者とその妹らはβ遮断薬やフレカイニドの内服と植込み型除細動器(ICD)を植込み,ICDにより心室細動は停止している.また,β遮断薬にフレカイニド内服を追加し,不整脈を抑制できている児もいる.早期の診断により,患者のみならず幼児を含む無症状患者にも,突然死の一次予防としての治療や医療介入が可能と考える.

Editorial Comment
次世代育成シリーズ〈各国の小児心臓外科育成システム〉
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