日本小児循環器学会雑誌
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38 巻, 2 号
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巻頭言
Review
  • 小久保 博樹
    2022 年 38 巻 2 号 p. 75-86
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    心臓は,心筋細胞によって構成される心臓原基の前後軸に沿って流出路–心室–心房の区画化がなされ,その後にその区画化に従った心筋細胞の移動や増殖を経て形成されるというモデルが提唱されてきた.しかし,20年程前に心臓原基の内側に二次心臓領域と呼ばれる心臓前駆細胞の存在が報告されて以来,その考え方を大きく変えてきた.さらに近年,単一細胞のトランスクリプトーム解析によって,中胚葉が形成される時期から,解剖学的に区分された各領域を形成する細胞の運命が順次決定される可能性が示され,さらに変貌を遂げようとしている.つまり,中胚葉が形成されて胚の前方中央へと移動して行く間に細胞の運命が決定され,内外側に沿って性質の異なる予定心臓領域を配した心臓原基が形成される.その一部が形態的変化に伴って前駆細胞のプールとして残存していき,流入路および流出路から心臓へと進入形成する細胞を供給しながら心臓が形成されていく一連の細胞の流れが示されてきた.本稿では,それらの知見を加えた心臓形成モデルの構築を試みる.

  • 漢 伸彦
    2022 年 38 巻 2 号 p. 87-93
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    胎児心エコー検査は先天性心疾患の胎児診断と周産期管理方針を決めるうえで不可欠な検査である.胎児の位置や向きは常に変化するためプローブを当てる位置・動かし方は一定でなく,胎児診断のための基本断面を描出するには生後の心エコーと異なるテクニックが必要となる.胎児心エコー検査は主に水平断面スキャンをして心臓と両大血管を評価することが基本であるため,上達するには〈きれいな四腔断面〉〈観察しやすい四腔断面〉を描出するテクニックを習得するとよい.それらテクニックを利用して胎児心臓の〈きれいな基本断面〉を描出できるようになれば,小児循環器科医が持つ知識を利用してプローブの動かし方を少し変えるだけで複雑心奇形の診断も自信をもって行えるようになる.

原著
  • 阿久澤 大智, 渡辺 健, 日髙 優, 沼田 寛, 桝野 浩彰, 吉岡 孝和, 秦 大資
    2022 年 38 巻 2 号 p. 94-102
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:川崎病は冠動脈瘤の予防が重要であり,事前に冠動脈拡張リスクの高い患者を把握できれば治療上有用である.我々は川崎病患者に対して特定の心エコー所見を評価しているが,この変化により早期に冠動脈拡張を予測できる可能性があると考え,心エコー所見と冠動脈径Zスコア(Z)と関連性について検討した.

    方法:川崎病で当科に入院した169例を対象に,入院期間中の三尖弁閉鎖不全,肺動脈弁閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全(AR),心嚢液(PE),左室拡張末期径,左室駆出率とZ≧2.5を満たす冠動脈拡張との関連性を検討した.

    結果:AR, PE, LVDdの拡大は,単変量・多変量解析ともにZ≧2.5を満たす冠動脈拡張と有意な関連を示した.そのなかでARは冠動脈拡張以前に出現する割合が最も高く,Z≧2.5の冠動脈拡張に対する陽性適中率30%,感度42%,特異度76%であった.

    結論:川崎病においてAR, PE, LVDd拡大は冠動脈拡張を伴う症例に多く,特にARについては発症早期に出現し,冠動脈拡張の予測に有用と考えられた.ARが認められた場合,速やかな治療開始が考慮される.

  • 山﨑 啓子, 井上 彩香, 澤渡 浩之, 吉本 祐子, 坂本 一郎, 山村 健一郎, 新原 亮史, 谷口 初美, 樗木 晶子
    2022 年 38 巻 2 号 p. 105-114
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    背景・目的:近年,先天性心疾患(CHD)患者の多くが成人を迎えることが可能となり,増加する成人CHD(ACHD)女性の結婚,妊娠・出産に関する認識を検討した.

    方法: ACHD女性307名(20~49歳)へ心疾患と結婚・妊娠・出産に関する質問紙調査を行い,対象者を身体障害者手帳1級取得者と非取得者に分けて比較した.

    結果:回答した取得者53名,非取得者36名の89名(有効回答率29.0%)を対象とした.既婚者は取得者に多く,結婚の希望は非取得者に多い傾向があり,両群共に80%が「妊娠・出産による心臓の負担」「妊娠前検査の必要性」を認識していた.取得者は,「治療薬の胎児への影響」「心疾患の胎児への遺伝」の認識が高かった.

    結論:ACHD女性は,妊娠・出産による心臓への負担を認識していても,その願望は高く,看護職者や医師が連携して心疾患重症度に応じて妊娠可能性やリスクについて早期からの啓発や継続支援が必要である.

  • 豊島 めぐみ, 久山 かおる, 新田 紀枝, 早川 りか, 豊島 美樹, 小澤 秀登, 江原 英治
    2022 年 38 巻 2 号 p. 117-125
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:在宅で生活する乳幼児期の先天性心疾患児は,計画外に入院することがある.計画外入院を防ぐ支援を検討するためには,原因を明らかにする必要があると考え,患児数や原因などの実態を調査した.

    方法:A病院で5年間に入院歴のある乳幼児期の先天性心疾患児のDPCと診療記録を対象にデータ収集し分析を行った.

    結果:乳幼児期の先天性心疾患児の35.4%が計画外入院を要した.そのうち,0歳児は31.7%と有意に多く,染色体異常を合併する患児が多かった.主な原因は,肺炎や気管支炎などの呼吸器合併症,心不全,SpO2低下やチアノーゼ,低酸素血症などを含む呼吸状態の悪化であった.在宅酸素療法は50.3%,在宅人工呼吸療法は7.9%,在宅経管栄養療法は26.0%で使用していた.

    結論:先天性心疾患児の計画外入院は,0歳児が最も多く,先天性心疾患による体肺循環の障害に加え,呼吸機能と循環機能の未発達さや脆弱性による影響があった.計画外入院を防ぐためには,病院から在宅と切れ目のない支援,訪問看護などの医療職の支援が必要である.

  • 新原 亮史, 澤渡 浩之, 山﨑 啓子, 姜 旻廷, 坂本 一郎, 山村 健一郎, 永田 弾, 筒井 裕之, 樗木 浩朗, 得能 智武, 樗 ...
    2022 年 38 巻 2 号 p. 128-139
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:チアノーゼ性成人先天性心疾患の中で頻度の高いファロー四徴症において社会的自立や生活習慣を調査し保健指導の基盤を得ることを目的とした.

    方法:186名に質問紙調査(病気や治療に関する理解や不安,社会的自立,生活習慣等)を行い,身体障害者手帳認定の有無で比較した.臨床情報は診療録より抽出した.

    結果:有効回答者112名(男41名,平均28歳)の半数が親と同居し,学生を除いた93名の83%が就労していた.71%が病気に対する不安をもち,28%は睡眠満足度が低かった.職種では非認定群は専門職が多いが,認定群では事務職が多かった.認定群の医療へのアクセスは高かったが,就労内容や周囲の理解などに不安を持っており習慣飲酒,睡眠導入剤の使用も多い傾向がみられた.

    結論:本対象者は比較的高い就労率で社会的自立度も高かったが,様々な不安を抱えており特に心疾患重症度の高い認定群は不安や睡眠障害に対する支援の必要性が示唆された.

症例報告
  • 前田 登史, 藤原 慶一, 吉澤 康祐, 森 おと姫, 坂﨑 尚徳
    2022 年 38 巻 2 号 p. 140-144
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/08/31
    ジャーナル フリー

    大動脈縮窄(coarctation of the aorta: CoA)に対するパッチ形成術後の合併症として大動脈瘤の頻度は多いが,鎖骨下動脈フラップ(subclavian flap aortoplasty: SCF)法術後の大動脈瘤の報告は少ない.CoAに対するSCF法術後の成人期にCoA修復部の大動脈瘤に対する再手術を2例経験した.症例1は,26歳男性で,3歳時にCoAに対してSCF法での修復術を施行した.経過観察中にSCF部の遠位に紡錘状の大動脈瘤を認めた.胸骨正中切開,超低体温循環停止,逆行性脳灌流下に人工血管置換術を行った.瘤はSCF部自体で,中膜嚢胞壊死を認めた.術後15年,再発はなく経過良好である.症例2は,34歳女性で,6歳時にCoAに対してSCF法での修復術を施行した.経過観察中にSCF部の遠位小弯側に嚢状の大動脈瘤を認めた.左側開胸,下半身部分体外循環下に,人工血管置換術を行った.瘤は動脈管組織と思われた.術後14年,再発はなく経過良好である.SCF法術後の大動脈瘤は注意すべき合併症であり,観察の継続が必要である.

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