日本小児循環器学会雑誌
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37 巻, 3 号
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巻頭言
Review
  • 吉田 葉子
    2021 年37 巻3 号 p. 165-172
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    無症状でWPW型心電図を示す小児のスクリーニングでは,第一に器質的心疾患の有無の確認や,不整脈原性のない束枝副伝導路の鑑別が重要である.房室副伝導路が存在した場合,発症しうる可能性が最も高い不整脈は房室リエントリー性頻拍である.ごくまれに,心房細動などを合併した際に速い心室応答とそれに続く心室細動や心臓突然死が起こる.また心室非同期による心不全発症がみられる症例がある.致死性不整脈イベントに対するリスク評価は,非侵襲的な方法では困難である.本邦では通常,侵襲的電気生理学的検査はカテーテルアブレーションと同時に行われる.アブレーション治療の急性効果・再発・合併症の発生率は,副伝導路部位に関連している.合併症のリスクは体格の小さな小児で高い.これらの患者の診療方針は,潜在する心血管リスクと,侵襲的電気生理学的検査やアブレーション治療の効果や合併症リスクとのバランスを考慮して決定する必要がある.

  • 高月 晋一, 判治 由律香, 川合 玲子, 松裏 裕行
    2021 年37 巻3 号 p. 173-183
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    肺動脈性肺高血圧症の治療はここ20年間で大きく進歩し,肺高血圧患者の生命予後を飛躍的に改善させてきた.肺血管拡張薬薬は,プロスタサイクリン経路,一酸化窒素経路,エンドセリン経路の3種類に分類され,それぞれの経路において複数の薬剤が使用できるようになった.小児領域でも肺血管拡張薬が承認されるようになり,国内においても臨床試験が次々と計画され,今後もさらに適応外使用の薬剤が減っていくことが期待される.しかし,一部の肺高血圧症ではこの3系統の薬剤に対し抵抗性の症例が存在する.近年,新しい治療経路の薬剤やカテーテルや外科治療により,臨床症状や肺循環動態の改善が報告されており,重症肺高血圧症に対する新規の治療戦略となることが期待されている.本稿では,近年報告された治療に関するデータを紹介し,今後臨床応用が期待されているものについて解説する.

  • 石田 秀和
    2021 年37 巻3 号 p. 184-192
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    拘束型心筋症(restrictive cardiomyopathy; RCM)は,心室拡張障害を主体とし,心室壁厚や心収縮が概ね保たれている心筋症と定義され,小児心筋症の中でも稀な疾患である.小児期発症の特発性RCMは非常に予後が悪く,診断後2年の心臓移植/死亡回避率は約40%と報告されている.また,進行する心室拡張障害に対するエビデンスのある治療法は存在せず,最終的に心臓移植でしか救命できない症例が多い.本稿では,小児RCMの疾患概念から疫学,予後,臨床検査,治療について概説し,加えて我々の施設での小児期発症RCM症例の臨床像を提示する.また,近年明らかになってきているRCMに関連する遺伝子異常について,さらに,我々の行っているRCMに対する基礎研究についても報告する.

  • 早野 聡
    2021 年37 巻3 号 p. 193-202
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    先天性心疾患(CHD; Congenital Heart Disease)は,多因子遺伝により発症し,そのメカニズムには遺伝子要因と環境要因が複雑に関与している.稀少なメンデル遺伝形式をとるCHD家系や先天異常症候群に伴うCHD症例において,疾患原因遺伝子が多数報告されている.一方で,いまだ判明していない原因遺伝子が多数存在すると推定される.特にCHD孤発例における遺伝学的背景は,ほとんど解明されていない.次世代シークエンシングやマイクロアレイ法など,塩基配列やコピー数を網羅的に解析する手法が普及したことにより,CHDにおける遺伝学的研究は近年加速している.家系内発症例や先天異常症候群に対する網羅的遺伝学的解析によって,新規疾患原因遺伝子が報告されるようになった.また,大規模コホートに対する網羅的遺伝学的解析は,CHD孤発例の発症に関わる遺伝子の探索や,エピジェネティック制御機構の解析を可能とし,この分野における新たな研究の地平を開拓した.本稿では,CHDに対する網羅的遺伝学的解析の歴史と展望について概説する.

原著
  • 中川 亮, 藤田 修平, 佐藤 啓, 畑崎 喜芳
    2021 年37 巻3 号 p. 203-207
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    目的:perimembranous VSD症例の生後1か月時点における標準12誘導心電図による予後予測の有用性を明らかにすること.

    対象と方法:生後1か月時点で標準12誘導心電図が施行され,1歳時に経過観察を受けたperimembranous VSD 44例を対象として,自然閉鎖群(C群)14例,未閉鎖群(U群)17例,手術群(O群)13例の3群に分類し,心電図所見を比較検討した.また,O群対非O群(C群+ U群),C群対非C群(O群+ U群)により手術および自然閉鎖の予測因子も検討した.

    結果:結果は(C群vs. U群vs. O群,p値)と記載する.3群の比較ではO群でV1の陽性T波(0% vs. 11.8% vs. 84.6%,p<0.001)が有意に多く,V5のR波が有意に高かった(1.81 (0.72–2.88) mV vs. 2.07 (0.90–3.77) mV vs. 2.34 (1.55–3.85) mV, p=0.027).O群と非O群の比較ではV1の陽性T波が有意に多く(84.6% vs. 6.5%,p<0.001),V1のR波は有意に高かった(1.64 (0.60–4.73) mV vs. 1.21 (0.29–2.62) mV, p=0.015).一方,非C群とC群の比較ではV1の陽性T波が有意に少なく(0% vs. 43.3%,p=0.003),V5のR波(1.81 (0.72–2.88) mV vs. 2.13 (0.90–3.85) mV, p=0.025)とS波(0.61 (0.35–1.55) mV vs. 0.99 (0.26–2.98) mV, p=0.036)は有意に低かった.

    結論:perimembranous VSD症例の生後1か月時点における標準12誘導心電図は予後予測に有用であることが示唆された.

  • 森 雅啓, 青木 寿明, 藤﨑 拓也, 橋本 和久, 松尾 久実代, 浅田 大, 石井 陽一郎, 高橋 邦彦, 萱谷 太
    2021 年37 巻3 号 p. 208-214
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    背景:先天性心疾患は,成人期に心不全で死亡する患者が増加している.慢性心不全の緩和ケアが重要視されてきているが,若年での心不全緩和ケアの報告は少ない.

    方法:2000年から2020年に当院で死亡した10歳以上の小児心疾患患者のうち心不全死の7症例を対象とした.心不全死の頻度,患者の背景,終末期症状,各薬物使用状況,人工呼吸器の使用,多職種カンファレンス,本人告知,心理士介入について後方視的に検討した.

    結果:心不全での死亡時年齢は中央値15歳(10~24歳).多職種カンファレンスは2例(29%),本人告知は1例であった.鎮静薬は5例(71%)で使用されていたが,経口挿管患者以外のオピオイド使用は0%であった.呼吸困難はほぼ全例で認めた.

    結論:心不全のコントロールだけでなく,疼痛や精神的な症状に対する緩和ケアを行うために,多職種連携を行った緩和医療体制の確立が必要である.

症例報告
  • 池田 翔, 石井 卓, 細川 奨, 野村 知弘, 長島 彩子, 渡邉 友博, 土井 庄三郎
    2021 年37 巻3 号 p. 220-226
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    冠攣縮性狭心症(Coronary Spastic Angina: CSA)を小児期に発症することは稀であり,その病態も不明な部分が多い.症例は10歳男児で,以前より非運動時に15~30分ほどの胸痛を認めていた.就寝中に突然絞扼感を伴う左前胸部痛が出現し,30~40分で自然軽快した.心電図で広範な誘導におけるSTの上昇を認め,心筋逸脱酵素も有意に上昇していた.心エコーで急性心筋炎や冠動脈の器質的疾患を疑う所見を認めず,CSAを疑い硝酸薬を開始した後は症状再発なく経過した.アセチルコリン負荷試験では冠動脈3枝のびまん性の攣縮とV4–6でのST上昇を認めた.CSAと診断してカルシウム拮抗薬の内服を開始し,以後,狭心症状はみられていない.退院後に施行したReactive Hyperemia-Peripheral Arterial Tonometryでは血管内皮機能の指標である反応性血管指数が1.17と正常下限(1.67)を大きく下回っていた.基礎病態として全身性の血管内皮機能障害の存在が示唆され,小児期発症CSAの病態に関与する可能性があると考えられた.

  • 坪井 香緒里, 伊吹 圭二郎, 山本 真由, 仲岡 英幸, 小澤 綾佳, 芳村 直樹, 廣野 恵一
    2021 年37 巻3 号 p. 227-232
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    乳び胸に対する新しい治療戦略としてinterventional radiology (IVR)の有効性が報告されている.成人例では症例が蓄積されつつあるが,小児,特に新生児領域での報告は稀である.症例は完全大血管転位,心室中隔欠損,右側大動脈弓と日齢1に診断した女児.日齢13に肺動脈絞扼術を施行したが,開胸時に乳び胸水を認めた.術後3日目に経管栄養を開始したところ,術後6日目にドレーンより乳び胸水が大量(170 mL/day)に排泄され,内科的治療を開始したが抵抗性であった.そのため,術後11日目にエコーガイド下で鼠径リンパ節からリピオドールを使用したリンパ管造影(intranodal lymphangiography: IL)を施行した.3日後,乳び胸水は改善した.今回,我々は内科的治療に抵抗性であった術後乳び胸の新生児に対して,ILが治療に有効であった症例を経験した.ILは外科的治療と比較して低侵襲なうえ,高い有効率も期待できる手技であり,今後は小児,新生児領域でも症例の蓄積が必要である.

  • 中山 祐樹, 岩田 祐輔, 西森 俊秀, 桑原 尚志, 桑原 直樹, 後藤 浩子, 面家 健太郎, 山本 哲也, 寺澤 厚志, 増江 達彦, ...
    2021 年37 巻3 号 p. 233-238
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    症例は生後1日の男児.在胎35週6日胎児発育停止のため緊急帝王切開にて出生.出生時体重は1,452 g.総肺静脈還流異常症(Ib型)と高位鎖肛等の心外疾患を認め,緊急搬送.術前精査で左腎無形成と右多嚢胞性異形成腎を認めた.他の診療科と治療計画を立案し,生後1日目に肺静脈閉塞を伴う総肺静脈還流異常症に対し修復手術を行った.術直後から浮腫改善のため,腹膜透析を施行.術後空気嚥下を抑制し腸管拡張を予防するため,深鎮静下で管理した.術後12日目に人工肛門造設術を行い,術後19日目に抜管した.染色体検査でCat eye syndromeと診断した.生後8か月時の心臓カテーテル検査で肺動脈性肺高血圧症と診断し,在宅酸素療法と肺高血圧治療薬を開始した.1歳時に鎖肛根治手術を施行.術後5年経過した現在も,腎機能は維持され経過良好である.他の診療科と綿密に治療計画を立てることで重度先天性心疾患と複数の心外疾患を伴う極低出生体重児を救命することができた.

  • 永田 万純, 若月 寿子, 松井 こと子, 神保 圭佑, 古川 岳史, 福永 英生, 工藤 孝広, 高橋 健, 稀代 雅彦, 清水 俊明
    2021 年37 巻3 号 p. 239-245
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/01/08
    ジャーナル フリー

    新生児壊死性腸炎(neonatal necrotizing enterocolitis: NEC)は新生児期から管理を要する先天性心疾患(congenital heart disease: CHD)児において重要な合併症の一つである.一方,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症は嘔吐・下痢・血便・腹部膨満などの消化器症状を呈することが多いが,稀に消化管穿孔やNECなどを合併する重症例も散見する.また,CHDと新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の関連についても報告され,特に腸管血流が低下する血行動態の先天性心疾患では新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の発症のリスクとされている.症例は完全大血管転位症I型の女児で,経腸管栄養を開始した後に日齢8で血便,ショックを呈し,先天性心疾患に合併したNECと診断した.保存的治療で症状は軽快したが,大血管スイッチ術後に母乳・人工乳を再開した際に消化器症状を認め,血液検査にて末梢血好酸球数増多と牛乳蛋白に対するアレルゲン特異的リンパ球刺激試験(allergen-specific lymphocyte stimulation test: ALST)の陽性,その後に加水分解乳に変更し症状が改善したことから,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の関与が考えられた.先天性心疾患例でNECの炎症後,経腸栄養開始に併って消化器症状を認めた際には,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の関与も考慮し,診断と治療を進めていくことが重要であると考えられる.

Editorial Comment
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