日本小児循環器学会雑誌
Online ISSN : 2187-2988
Print ISSN : 0911-1794
ISSN-L : 0911-1794
36 巻, 3 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
巻頭言
特集:日本小児循環器学会第16回教育セミナー
Review
  • 大﨑 真樹
    2020 年 36 巻 3 号 p. 178-185
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    生体に酸素を取り込み二酸化炭素を排出する点で小児と成人は同じである.心臓と呼吸の関係においても,心不全増悪時に左室拡張末期圧の上昇により肺鬱血を生じ,その対応に利尿剤や陽圧が有効なことも同様である.その認識のうえで,サイズが小さい,呼吸数が多い,胸郭コンプライアンスが高いなどの小児の生理学的特徴を考慮に入れるべきである.特に気道抵抗に与えるサイズの影響は大きく,小児では僅かな変化でも大きな影響を及ぼす.また死腔の影響も体格が小さいと無視できない.さらに先天性心疾患では肺血流と体血流が異なる場合が多く,肺血流増加による気道への影響や,酸素投与が肺血流に与える影響なども考慮しなければならない.二心室循環では左室補助となる陽圧呼吸がFontan循環では心拍出量が減る,といった特殊な動きもある.小児循環器疾患においては「循環生理を踏まえた呼吸管理,呼吸生理を踏まえた循環管理」が必須である.

  • 村上 智明
    2020 年 36 巻 3 号 p. 186-191
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    薬理学は投薬において必要不可欠な知識であるが,実臨床における薬物療法において薬理作用を押さえているだけでは不十分である.本稿では心不全の薬物治療を通して薬理学的知識の必要性,それを越えた理解の重要性を概説する.

  • 齋木 宏文
    2020 年 36 巻 3 号 p. 192-201
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    循環不全は生命の危機に瀕した病態であり,“適切な治療によって循環動態を改善させること”は,小児循環器医師にとって最も重要な任務の一つである.不適切な治療戦略は循環を増悪させ,緊急手術や補助循環による治療を余儀なくする一方,適切な管理は,予後改善に直結する.心室血管統合関係の概念は,Frank–Starlingの心臓法則として心機能と前負荷の関係で論じられてきた循環管理の概念を,具体的に図示し,更に後負荷や拡張機能“同じ次元で考えられること”を明らかにした点で画期的である.この概念を用いることによって,数ある治療方針のなかで最も効率の良い治療を選択する根拠を示すことが可能となる.本稿では小児循環器病学の初学者を対象として,循環管理の考え方を症例とともに提示する.

  • 加藤 温子
    2020 年 36 巻 3 号 p. 202-208
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    小児循環器の診療において,心臓血管外科と循環器科が分け隔てなく患者の治療方針について話し合うカンファレンスは非常に大切である.エビデンスが出にくく,正しい答えが必ずしも1つとは限らないこの分野において,患者を最善の結果に導くためのチーム医療を実現するためには,話し合いをするしかないのである.そのカンファレンスの質が保たれず,多忙を極める医師が漫然と集まっているようではいけない.また,人間はつねに様々な認知バイアスによって判断を歪められていることを認識する必要がある.意識的に効率的かつ効果的なカンファレンスを行い,外科医と内科医が協調して治療にあたることは,将来の心臓病の子ども達のより良い予後につながることが期待される.

  • 白石 修一
    2020 年 36 巻 3 号 p. 209-214
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    外科医がカンファレンスにおいて内科医(小児科医)に求めるものは各外科医の技量や経験と施設により異なると思われるが,特に若く経験の少ない外科医はカンファレンスから得られた患者情報をもとに手術を組み立てる.診断および治療方針はもちろんであるが,体外循環確立のための血管走行などの解剖学的情報や心内形態・解剖など必要な術前情報は疾患および術式ごとに異なる.内科医(小児科医)には基本的な体外循環確立と手術術式の知識も踏まえて,術式を導くようなカンファレンスでの術前情報の提示をしていただけると我々若い外科医にとって非常に有用である.

  • 櫻井 寛久, 大橋 直樹, 櫻井 一
    2020 年 36 巻 3 号 p. 215-222
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    先天性心疾患領域ではどの治療方針が正解か明言することが困難な状況にも遭遇する.我々の施設では治療方針の決定に難渋した症例,他施設と治療方針が異なる可能性がある症例,施設によって手術成績が異なる症例について,shared decision makingの観点から家族にセカンドオピニオンを勧めるケースがある.修正大血管転位症の症例では,ダブルスイッチ手術に進むべきかどうかの検討を行い,家族はダブルスイッチ手術を行う施設での治療を希望された.大血管転位症,肺動脈閉鎖症の症例では,ラステリ手術,大動脈基部転位術,フォンタン手術が治療の選択肢となり,当院とセカンドオピニオン施設ともラステリ手術を勧められ当院でラステリ手術を施行した.総肺静脈還流異常合併左心低形成症候群の母胎紹介例では当院ではフォンタン到達例の経験がなく,フォンタン到達例の経験ある施設での治療を希望され母体搬送を行った.混合型総肺静脈還流異常を合併した機能的単心室について当初手術適応のない症例であるとされたが,経過中に手術適応となりセカンドオピニオンを行ったのち,他施設でも同様の意見と理解され当院で総肺静脈還流異常修復術を施行した.これらの経験は我々と患者および家族の“shared decision making”であり,非常に有益であった.最善な医療を提供するために適切な情報提供を行い,率直な態度をとることはあらゆるレベルの医師に必要である.

原著
  • 美馬 隆宏, 石塚 潤, 樋口 嘉久
    2020 年 36 巻 3 号 p. 223-229
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    背景:川崎病に対する免疫グロブリン大量療法(IVIG)は標準治療として確立している.今回,従来の5%製剤から10%製剤に切り替えが行われた.

    目的:免疫グロブリン5%製剤と10%製剤の川崎病に対する治療効果・安全性についての比較検討,および10%製剤によるIVIG不応症例に対する追加投与時間短縮の可能性についての検討.

    方法:2015年1月から2019年5月までに当院で川崎病と診断しIVIGを行った5%製剤103例,10%製剤60例を対象として,後方視的に比較検討を行った.

    結果:両群間で投与前の患者背景に有意差はなかった.初回IVIG不応例は,5%製剤で31例(30%),10%製剤で20例(33%)で有意差を認めなかった(p=0.727).初回IVIG投与から追加IVIG投与までの時間は,10%製剤で有意に短かった(48.8 vs 45.3時間,p=0.004).冠動脈病変(CAL)は5%製剤で1例(1.0%)認めたのみであった.重大な副作用については,両製剤とも認めなかった.

    結論:免疫グロブリン10%製剤は,従来の5%製剤と同等の治療効果および安全性があり,不応例に対する追加治療を早期に実施できる可能性があると考えられた.

  • 松井 彦郎, 太田 英仁, 内田 要, 林 健一郎, 犬塚 亮
    2020 年 36 巻 3 号 p. 232-238
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    背景:小児重症例の約半数を占めている小児循環器疾患の集中治療は歴史的に小児循環器医および小児心臓外科医が中心で診療してきた一方で,社会的に集中治療の専門性整備の必要性が増加している.

    目的:小児循環器診療における集中治療専門性に関する現状調査・解析を行うことで,集中治療専門性の整備状況を評価し,今後の重要な課題を明確にする.

    方法:本研究では2019年10月現在の公的ホームページに掲載されている利用可能の専門医・研修施設・厚生労働省保険算定・人口統計の情報を用いて,全国における①小児科医・小児循環器医の集中治療専門医取得状況・分布,②小児循環器診療施設の集中治療専門研修施設状況,③集中治療室管理料算定数と専門医数の比較を行い,小児循環器領域における集中治療専門性の課題を描出した.

    結果:集中治療専門医を有する医師は小児科専門医の0.6%(99/16,545名),小児循環器専門医の1.1% (6/538名)であり,地方21県においていずれも不在であった.小児循環器関連施設(170施設)中,集中治療専門医研修施設認定は56%(96/170名)と低値であり,大学病院・総合病院においては専門医取得困難な環境が推察された.都道府県別の小児年齢の特定集中治療室算定数と集中治療専門医を有する小児科専門医の医師数との比較では都市部に医師が多く,小児特定集中治療室管理料は全国の約20%の普及にとどまるのみであった.

    結語:日本の小児循環器領域の集中治療専門診療環境は,専門医診療と診療報酬算定において施設・地域間格差があり,集中治療体制の整備は小児循環器診療の重要な課題と考えられる.

症例報告
  • 西島 卓矢, 帯刀 英樹, 坂本 一郎, 塩瀬 明
    2020 年 36 巻 3 号 p. 241-246
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    修正大血管転位症の機能的修復術後は右心室が体心室となるため,遠隔期に右心不全,三尖弁閉鎖不全,不整脈などが問題となる.今回,機能的修復術後に,3回目の再開胸手術を施行した1例を経験したので報告する.症例は26歳の女性で,修正大血管転位症に対して3歳時にセントラルシャント手術を経て,10歳時に機能的修復術を施行された.20歳時に左室肺動脈導管再置換術を施行されたが,その後は心不全,不整脈のために入院治療を繰り返していた.今回,大動脈弁および三尖弁閉鎖不全症に対して,大動脈弁および三尖弁置換術を施行した.高度房室ブロックに対して永久ペースメーカー植え込み術後であったが,今回,左心室に心外膜リードを挿入し心室再同期療法を導入した.人工心肺離脱時には大動脈バルーンパンピングを要し,術後も長期のカテコラミン投与を要したが,術後60日目に自宅退院した.術後2年9か月現在,心不全の増悪なく経過している.

  • 山下 雄平, 丸谷 怜, 西 孝輔, 上嶋 和史, 髙田 のり, 西野 貴子, 杉本 圭相, 稲村 昇
    2020 年 36 巻 3 号 p. 252-255
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    巨大な膜様部中隔瘤による右室流出路狭窄を合併した心室中隔欠損の一例を経験した.症例は5歳の女児で,出生時に心雑音を聴取し,心房中隔欠損,膜性部心室中隔欠損,大動脈縮窄症と診断した.生後51日に短絡量が少ない心房中隔欠損と心室中隔欠損は経過観察とし大動脈縮窄の手術を行っている.4歳時の健診で心室中隔から右室流出路に張り出した嚢状の膜様部中隔瘤を認め,心臓カテーテル検査を施行,肺体血流比は1.0であったが右室収縮期圧は79 mmHg,肺動脈収縮期圧26 mmHgと右室流出路狭窄を認めたため,心室中隔欠損に対してパッチ閉鎖術を施行した.膜様部中隔瘤が右室流出路狭窄を来す成人例の報告はあるが,幼少期には稀である.短絡量が少なく経過観察としている心室中隔欠損にもこのような合併症が生じることを考慮し,定期的にフォローアップする必要性がある.

  • 真船 亮, 小野 博, 小川 陽介, 林 泰佑, 進藤 考洋, 三﨑 泰志, 金子 幸裕, 賀藤 均
    2020 年 36 巻 3 号 p. 256-262
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    特発性拡張型心筋症の診断で,心不全症状が内科的治療に不応で進行性であった7か月乳児に対し,在宅管理を目標に,過去に有効性が報告されている肺動脈絞扼術を施行した.心不全症状の進行は緩徐になったが,回復するまでには至らず入院は継続され,術後1年2か月後にExcor®を装着し,心臓移植待機中である.肺動脈絞扼術後に右室機能が低下したことが,回復しなかった一因であると推測される.適切な患者背景や絞扼条件が確立できれば,肺動脈絞扼術は乳児拡張型心筋症に対する心不全治療の一つの選択肢になり,患者家族の負担軽減,医療費の低減,医療の均てん化に貢献できる可能性がある.

  • 宍戸 亜由美, 長谷川 智巳, 亀井 直哉, 林 賢, 松久 弘典, 大嶋 義博, 田中 敏克
    2020 年 36 巻 3 号 p. 263-268
    発行日: 2020/10/01
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    機能的単心室を有する無脾症児の総肺静脈還流異常症(TAPVC)に対する修復術では,肺静脈還流の形態により術後肺静脈閉塞のリスクを考慮して,垂直静脈を処理せずに修復する術式を選択する場合がある.今回,混合型TAPVC修復術後の遺残垂直静脈を介して症候性門脈体循環シャント(PSS)を来した稀な症例を経験したので報告する.症例は混合型TAPVCの無脾症男児で,日齢18にTAPVC修復術を施行した.左上大静脈に還流する右肺静脈と,門脈に還流する左肺静脈を別々に心房に吻合し,左右の垂直静脈はいずれも放置した.術後に肝逸脱酵素上昇,凝固能異常,低血糖,高アンモニア血症を認め,遺残垂直静脈をシャント血管とする症候性PSSと診断した.症状は保存的治療で改善したが,将来,Fontan循環に向かう血行動態への影響を考慮し,遺残垂直静脈絞扼術を施行した.門脈への異常還流を伴う混合型TAPVCでは,単心室血行動態において遺残垂直静脈を介したPSSを来しうるため,これを念頭においた術前精査や術式検討,周術期管理が必要である.

Editorial Comment
feedback
Top