日本小児循環器学会雑誌
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33 巻, 4 号
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巻頭言
小児循環器学会学術委員会研究会報告
  • 齋木 宏文, 桒田 聖子, 栗嶋 クララ, 金 晶恵, 簗 明子, 岩本 洋一, 石戸 博隆, 増谷 聡, 先崎 秀明
    2017 年 33 巻 4 号 p. 269-280
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

    左心低形成症候群は,最近まで救命率が著しく低い最重症先天性心疾患のうちの一つであったが,周術期管理の改善と外科手術の向上に伴い,術後早期の生命予後は飛躍的に改善した.しかしながら,早期のみならず,中長期生命予後の更なる改善の余地があり,精神神経発達を含めたより高い生活の質の向上には今尚課題が残されている.本疾患群は,先天的な心血管機能異常に加え,我々が手を加えた結果にも起因する心血管機能異常を包含し,きわめて複雑な病態を形成しうる.本稿ではHLHS患者が,胎児期からFontan型修復を経て成人する過程に内在する循環動態の特徴に関し,これまでの治験をもとに考察し,左心低形成症候群の更なる予後改善の方策を科学したい.

Review
  • 山村 健一郎
    2017 年 33 巻 4 号 p. 281-286
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

    医学の進歩により小児慢性疾患患者の多くが成人期に達し,その多くは合併症や遺残症を伴い,引き続き医療が必要である.疾患を有する小児が生涯にわたり持てる機能と能力を最大限に発揮できるよう,小児期医療から成人期医療への円滑な橋渡しを行うのが移行期医療(transitional care)である.単なる転科(transfer)にとどまらず,年齢や理解度に応じた本人への説明や,チェックリストの活用などにより,セルフケアの確立に向けた患者教育を早期から開始することが大切である.医学的なことのみならず,進学・就職や社会保障制度の切り替えについても患者個人で解決するには苦労が大きく,必要に応じて専門的な支援が必要である.移行期医療については,先天性心疾患は他分野よりも一歩進んでおり,今後もその推進役となることが期待される.

  • 武田 充人
    2017 年 33 巻 4 号 p. 287-296
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

    ミトコンドリア心筋症は,ミトコンドリアの構造,機能に関わる遺伝子の異常によって生じる酸化的リン酸化障害を特徴とする心筋症である.通常は全身のミトコンドリア病の心合併症として認識されることが多いが,心筋症が唯一の症状である場合には見逃されることが多い.原因遺伝子はミトコンドリアDNAと核遺伝子に存在し,症状は無症状のものから重症心不全,突然死まで様々である.近年,網羅的遺伝子検査の発達によりミトコンドリア病の原因遺伝子が次々と同定され始めてきているが,ミトコンドリア病は本来罹患組織の酸化的リン酸化障害を証明することで確定診断されてきた経緯があり,組織の生化学的検査は今なお避けては通れない検査として位置づけられている.

  • 高月 晋一, 池原 聡, 中山 智孝, 松裏 裕行, 佐地 勉
    2017 年 33 巻 4 号 p. 297-311
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

    小児期発症の肺動脈性肺高血圧症は,特発性および遺伝性肺動脈性肺高血圧症や先天性心疾患による肺高血圧が多く,成人期発症の肺高血圧症とは異なる.また,小児の肺高血圧症では,臨床症状,治療反応性,予後因子などにおいて,成人といくつかの相違点や類似点が存在することがわかってきている.しかし,治療に関しては,前向き研究やランダム化比較試験が少ないため,未だ承認されている薬剤が少なく,成人の肺高血圧治療戦略を参考に,現在も模索されている状況である.その使用経験の報告からは小児患者においても成人と同等の効果が得られることがわかってきたが,小児への治療戦略は未だ確立されていない.成人における治療をそのまま小児患者に置き換えることは難しいため,近年小児の治療戦略に関して新しい提言が報告されはじめてきた.本稿では,小児期発症の特発性,遺伝性肺動脈性肺高血圧症および先天性心疾患に伴う肺高血圧症における未承認薬を含む薬物治療の有効性や安全性,治療戦略に関する新たな知見をまとめて紹介する.

原著
  • 今井 祐喜, 加藤 太一, 加藤 有一, 久保田 哲夫, 服部 哲夫
    2017 年 33 巻 4 号 p. 312-317
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

    背景:近年18トリソミーの先天性心疾患(CHD)に対する手術の報告が増加している.当院は在宅移行を目標として治療を行っているがCHD手術の経験はない.積極的な新生児治療下でのCHD手術非介入例の経過を検討する.

    方法:2005年4月から2015年12月に出生した18トリソミー計17例を対象とし,出生状況,生存率,在宅移行率,死亡原因などについて診療録に基づき後方視的に検討した.さらに心不全が症候化しうると考えられた肺血流増加型疾患のCHD例をLarge Shunt(LS)群として症状の有無を追加検討した.

    結果:全例にCHDを認めた.1年生存率64.7%,在宅移行率70.6%,退院日齢は16~285日(中央値129日)であった.死亡例の生存期間は0~1,054日(中央値104.5日)であった.LS群8例のうち5例(62.5%)が1年以上生存し,いずれも心不全は症候化しなかった.死亡3例のうち2例は心不全が原因と考えられた.

    結論:本検討ではCHD手術以外の標準的な新生児治療により,高い生存率・生存退院率が得られた.肺血流増加型のCHDを合併した18トリソミーは手術介入なく安定して経過する場合がある.肺血管閉塞性病変により生後の肺高血圧が持続することで,心不全が進行しなかったことが原因と考えられた.遠隔期の予後改善を目的としたCHD手術が有効であるかは明らかではなく,治療の選択肢として提案するにあたり,情報の蓄積が望まれる.

症例報告
  • 長友 雄作, 宗内 淳, 渡邉 まみ江, 松岡 良平, 白水 優光, 岡田 清吾, 飯田 千晶, 城尾 邦彦, 落合 由恵, 城尾 邦隆
    2017 年 33 巻 4 号 p. 318-325
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

    孤立性片側肺静脈閉塞は非常に稀な先天性心疾患で,反復する喀血や肺炎などから診断に至る症例が多い.自然予後も様々であるため治療介入の是非や時期に苦慮する症例も存在する.今回自験3例を報告し,診断及び治療の留意点を検討する.

    症例1は4歳女児で,1歳6か月より喀血と肺炎を繰り返し,造影CTで右肺静脈欠損と,肺血流シンチグラフィーで右肺血流減少を認め右肺静脈閉鎖が疑われた.右肺動脈楔入造影により閉鎖肺静脈腔を同定し,Sutureless法による肺静脈再建を行った.

    症例2は4歳女児で,喀血で入院し,肺血流シンチグラフィーで左肺血流減少を認め,左肺動脈楔入造影により左肺静脈閉鎖と診断した.肺静脈近位端と左房との距離が離れていたので肺静脈再建適応外であった.

    症例3は36歳女性で,生後4か月より肺炎と喀血を繰り返していた.肺血流シンチグラフィーで右肺動脈血流低下があり肺動脈楔入造影で右肺静脈閉鎖と診断した.年齢から肺静脈再建は断念し,右肺切除は本人も希望しなかった.

    幼少期より反復する喀血や肺炎を呈する場合は,非常に稀な疾患であるが本症を鑑別にあげ,肺血流シンチグラフィーで片側肺の著しい血流低下があれば積極的に肺動脈楔入造影で確定診断を進めることが肝要である.幼児期までに診断し,かつ閉鎖肺静脈腔が解剖学的に修復可能であれば肺静脈再建は治療選択肢の一つとなり,右側肺静脈閉鎖においてはSutureless法は術後肺静脈狭窄を予防する有効な手術方法であると考えられる.

  • 熊本 崇, 田代 克弥, 飯田 千晶, 松尾 宗明
    2017 年 33 巻 4 号 p. 326-331
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

    先天性QT延長症候群(LQTS)のTorsade de Pointes(TdP)発生において運動,精神的興奮,ストレスの関与が知られており,特にLQT1, LQT2では交感神経興奮が強く関与するといわれている.そのためTdP予防としてβ遮断薬が第一選択薬として挙げられるが,内服コンプライアンスの問題などにより治療継続に難渋することを時に経験する.症例は14歳女児.明らかなLQTS,突然死,失神の家族歴はなく,小学校入学後より失神発作を繰り返していた.学校健診でQT延長を指摘され当科を紹介され受診し,遺伝子検査の結果QT延長症候群:LQT2の診断に至った.発作予防ためβ遮断薬を開始し,失神発作を起こすことなく経過していたが,運動耐容能低下のため10歳時に治療を自己中断された.その後失神発作を繰り返したため13歳より通院再開となり,運動制限ならびにβ遮断薬内服を開始した.失神発作を認めなくなったが,精神的に不安定となり不登校となり,また以前より本人が両側の手掌多汗症状に苦痛を感じていたため14歳時に胸腔鏡下胸部交感神経遮断術(endoscopic thoracic sympathectomy: ETS)を施行した.術後は多汗症状の改善が得られ,明らかな合併症を認めることなく経過した.加えて安静時の補正QT時間が570 msから511 msと改善したので報告する.

  • 嘉村 拓朗, 岸本 慎太郎, 鍵山 慶之, 吉本 裕良, 工藤 嘉公, 須田 憲治
    2017 年 33 巻 4 号 p. 335-340
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/08/25
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    我々は学校心臓検診時に初めて診断された冠動脈瘤を2例経験した.1例目は,他院で3歳時に川崎病急性期治療を受け,後遺症なしと診断されていた6歳男児で,学校心臓検診の2次検診で心エコー図検査を施行され,巨大冠動脈瘤と冠動脈狭窄を認め,ワーファリン定期内服と経皮的冠動脈形成術を必要とした.2例目は,9歳時に9日間発熱が持続し,他院で若年性特発性関節炎と診断され,加療された既往のある13歳男児であった.学校心臓検診の2次検診で心エコー図検査を施行したところ,中等度冠動脈瘤を発見した.アスピリン定期内服と当科外来での定期経過観察を行っている.

    2例の冠動脈瘤とも川崎病の後遺症であり,急性期は発見されず,今回初めて診断に至ったものと考える.川崎病性冠動脈瘤の有無は治療方針や予後を大きく変えるため,心エコー図検査での冠動脈評価の精度を担保することと,学校心臓検診で原因不明の発熱が5日以上持続した既往者への心エコー図検査は重要であると考える.

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