日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第46回日本植物生理学会年会講演要旨集
選択された号の論文の993件中51~100を表示しています
  • 高橋 史憲, 吉田 理一郎, 市村 和也, 溝口 剛, 圓山 恭之進, 篠崎 和子, 篠崎 一雄
    p. 051
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    MAP kinase cascadeは真核生物に広く保存されているシグナル伝達系の一つであり、高等植物においては環境ストレスや病原菌に対する適応に重要な役割を果たすことが報告されている。シロイヌナズナゲノム中にはMAPKKK遺伝子が60、MAPKK遺伝子が10、MAPK遺伝子が20個存在することが明らかとされている。しかしその詳細な生理応答機構は、一部を除いて解析が進んでいない。我々はMAPKKの一つであるMKK3がMPK6を活性化することをin vitro活性法を用いて示した。更に、グルココルチコイド誘導系トランスジェニック植物体を用いて、MKK3-MPK6カスケードが植物体内で実際に機能することを証明した。近年、MKK4によるMPK6の活性化がエチレン合成を促進し、細胞死を誘導することが報告された。しかし、活性型MKK3を過剰発現させた植物体では細胞死は観察されなかった。また、活性型MKK3、活性型MKK4過剰発現植物体を用いたマイクロアレイ解析を行い、各々、制御される下流遺伝子の発現変動を解析した結果、MKK3、MKK4両カスケードは、それぞれ異なる遺伝子群を制御する可能性が示唆された。MKK3カスケードが果たす生理的機能について議論する。
  • 室井 敦, 油野 洋子, 堀内 淳一郎, 浅井 尚子, 諏訪 牧子, 高林 純示, 西岡 孝明
    p. 052
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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     これまでに植物が放出するテルペノイドなどの匂いが、他の植物個体に対して遺伝子発現や根の伸長阻害を引き起こすことを明らかにしてきた。しかしこれら匂い受容の分子機構は全く不明である。動物における匂い受容体であるGタンパク質共役型受容体GPCRと配列が類似した遺伝子をシロイヌナズナゲノムから 6つ見つけた(AtGPCR1-6)。いずれも各組織で発現していたが、AtGPCR16は花・蕾での発現量が少なく、この傾向はGPA1(Gタンパク質αサブユニット遺伝子)と似ていた。このことはAtGPCR1、6がGPA1と機能的に関連していることを示唆している。AtGPCR25は逆に花・蕾で強く発現していた。植物由来テルペノイドであるBornyl acetateはLOX(lipoxygenase遺伝子)の発現を誘導するが、AtGPCR5のT-DNA挿入型欠損変異体では抑制した。その他のAtGPCR欠損変異体の匂い応答についても報告する。
  • 鈴木 崇之, 吉村 英尚, 得平 茂樹, 池内 昌彦, 大森 正之
    p. 053
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    糸状性ラン藻Anabaena sp. PCC 7120にはcAMP合成酵素であるアデニル酸シクラーゼの存在は判明しているが、cAMPの機能は未解明である。本研究はAnabaena sp. PCC 7120におけるcAMPの機能を明らかにするために、cAMP受容体タンパク質(CRP)の解析を行った。CRPはcAMPと結合することによって活性化され、標的遺伝子の転写を調節することが知られている。我々は、Anabaena sp. PCC 7120には少なくとも二つのCRPの存在することを明らかにし、それぞれAnCrpA、AnCrpBと名付けた。AnCrpAはAnCrpBと比較してcAMPに対する親和性が高いため、Anabaena sp. PCC 7120におけるcAMPシグナル伝達は主にAnCrpAを介して行われると考えられる。そこでancrpA破壊株と野生株を用いてDNAマイクロアレイを行い、遺伝子破壊株において転写量が顕著に減少する遺伝子を調べた結果、窒素固定関連遺伝子群の発現抑制が確認された。また、それら発現抑制遺伝子の5'上流領域に対するAnCrpAの結合性をゲルシフト分析によって解析したところ、cAMP存在下においていくつかの5'上流領域に結合することが確認された。これらの結果はAnCrpAがcAMPと結合することによって窒素固定関連遺伝子の発現を促進することを示唆する。
  • 兼崎 友, 山本 宏, Kalyanee Paithoonrangsarid, Maria Shoumskaya, 林 秀則, 鈴木 石根, ...
    p. 054
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    バクテリアや植物の細胞内シグナル伝達に関わる因子として二成分制御系(ヒスチジンキナーゼ及びレスポンスレギュレーター)のタンパク質群が知られているが、我々はラン藻Synechocystis sp. PCC 6803の二成分制御系の遺伝子群を個別破壊したライブラリーを用い、H2O2ストレスシグナルの伝達に関与する因子の同定をおこなった。その結果、5つのヒスチジンキナーゼ(Hik33、Hik2、Hik34、Hik16、Hik41)及び3つのレスポンスレギュレーター(Rre1、Rre17、Rre26)を同定した。H2O2ストレスにより発現が強く誘導される遺伝子の70%がこれらの二成分制御系により制御されていた。また、Hik33は低温、塩、高浸透圧など、他のストレスの検知にも関わるが、今回得られた結果から、Hik33がRre26とRre31という二つのレスポンスレギュレーターをストレスに応じて使い分けていることが明らかになった。H2O2ストレス下ではHik33-Rre26が主要なシグナル伝達系を構成し、一群の遺伝子の発現を制御するが、塩および高浸透圧ストレス下ではHik33-Rre31が主要な系となる。これらの結果から、シグナルのクロストークを介した複雑な情報伝達系の存在が明らかになった。
  • 鈴木 石根, Kalyanee Paithoonrangsarid, 稲葉 昌美, 兼崎 友, 村田 紀夫
    p. 055
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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     温度条件の変化にさらされると、生物はその変化を検知し様々な遺伝子の発現を制御して、環境の変化に適応し生育する。低温に対する生物の応答は、細胞膜脂質の流動性の低下がシグナルとして誘導されるという仮説がある。我々はラン藻 Synechocystis sp. PCC 6803から低温条件下での遺伝子発現の制御に関わるヒスチジンキナーゼHik33を明らかにしている。本研究では、Synechocystisの膜脂質脂肪酸不飽和化酵素遺伝子desAおよびdesDを破壊し、膜脂質の流動性を人工的に低下させた株を用いて、低温条件下での遺伝子発現をDNAマイクロアレイにより解析した。するとこの二重変異株では、野生株より顕著な低温応答が見られた。すなわち、野生株でも変異株でも同程度に低温誘導を受ける遺伝子群に加えて、変異株で低温誘導性がより強まる遺伝子群、変異株で初めて低温誘導される様になった遺伝子群が見出された。低温センサーのHik33により制御を受ける低温誘導性遺伝子は主に第2のグループに属していた。以上の結果から、膜脂質の流動性は低温条件での遺伝子の発現に深く関わっており、Hik33は膜脂質の流動性をシグナルとして検知する可能性が強く示唆された。
  • 桐渕 協子, 大谷 敬, 軸丸 裕介, 賀来 華江, 田部 茂, 南 栄一, 長村 吉晃, 岡田 憲典, 野尻 秀昭, 山根 久和
    p. 056
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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     我々は、イネ培養細胞から数種のジャスモン酸 (JA) 応答性遺伝子を単離し、その機能解析を行ってきた.これらJA応答性遺伝子のうち,RERJ1 はJA 処理早期に発現し, basic helix-loop-helix (bHLH) motif を持つ転写制御因子であった.形質転換イネを用いた実験により, RERJ1 は,JA処理した場合に認められるイネ葉鞘伸長抑制に関与していることが明らかになったが,その他の生物学的機能はまだ不明である。系統樹解析を行ったところ,DNA結合領域にユニークな特徴を有する、機能未知のbHLH タンパク質と同一のcladeに属していた。今回,RERJ1 の生物学的機能に関する知見を得るため、種々のストレス処理したイネ植物体におけるRERJ1 の発現解析を試みた。その結果,RERJ1 はカルスのみならず植物体においても JA 処理により葉・葉鞘・根の各部位で誘導が確認された.さらに,傷害,乾燥,塩ストレスによって早期に本遺伝子の発現が認められたが、乾燥,塩ストレスのメディエーターであるアブシジン酸には応答しなかった.また、RERJ1 を過剰発現させた形質転換イネのカルスを用いてマイクロアレイ解析を行い、標的遺伝子の探索を試みているので、その結果についても報告する.
  • 谷口 雅俊, 青山 卓史, 岡 穆宏
    p. 057
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    Arabidopsisのサイトカイニンに対する初期応答過程は、CRE1を含むサイトカイニン受容体ヒスチジンキナーゼから転写因子型(タイプB)レスポンスレギュレターへのHis-Aspリン酸リレーで構成されていると考えられている。タイプBに属するARR1(Arabidopsis response reguretor 1)は、その下流の初発応答遺伝子の発現を制御していることが知られている。また、前年度の報告でArabidopsisに10種類存在する非転写因子型(タイプA)ARRの全てが、サイトカイニン初発応答遺伝子でありARR1のダイレクトターゲットであることを報告している。しかし、サイトカイニンによるそれら初発応答遺伝子から細胞の増殖分化に至る経路に関しては全く知見がない。そこで、我々は、ARR1によって転写活性化される遺伝子群のさらなる探索を試みた。
    候補遺伝子の検索はARR1の転写活性化能を誘導した植物体と、しない植物体から抽出したRNAをHiCEP法(high coverage expression profiling analysis)で比較することにより行い、また、それぞれの候補遺伝子に対してノーザンブロッティング法を行うことによってサイトカイニンに対する応答性及びARR1のダイレクトターゲットであるかを確認した。その結果、すでに報告のある初発応答遺伝子以外に新規のターゲット遺伝子が得られたので報告する。
  • 真籠 洋, 岩渕 雅樹, 小田 賢司
    p. 058
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    我々はこれまでに、塩誘導性のAP2型タンパク質DDF1を高発現させたシロイヌナズナでは、ジベレリンの合成中間体を分解するAtGA2ox7遺伝子の発現量が増加し、その結果、活性型ジベレリンの内生量が減少してわい化することを明らかにしている。また、 DDF1のアミノ酸配列はDREB1/CBF転写因子と高い相同性を示し、DDF1を高発現させると DREB1/CBFによって転写が誘導されるRD29A遺伝子の発現が上昇することも明らかとなっている。そこで、RD29A遺伝子のプロモーターにレポーター遺伝子をつないでシロイヌナズナ葉に導入したところ、レポーター遺伝子の活性がDDF1の共導入によって上昇し、 さらにプロモーター中のDREB1/CBFの結合するDRE配列にDDF1が特異的に結合することがゲルシフト法により示された。一方、AtGA2ox7のプロモーターを用いた場合でもレポーター遺伝子の発現は活性化され、またこの領域に見られる複数のDRE様配列にDDF1が特異的に結合できることが明らかになった。以上の結果から、DDF1はシロイヌナズナにおいて転写活性化因子としてこれらの転写を直接活性化していることが示唆された。
  • 橋本 美海, 祢宜 淳太郎, 射場 厚
    p. 059
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    CO2は濃度依存的に気孔の開閉を誘導する環境因子であり、低CO2条件下では気孔は開口し、蒸散量が上昇し、葉面温度が低下する。このような植物のCO2感知のメカニズムを調べるために、現在、CO2濃度依存的な葉温変化に異常をきたすシロイヌナズナ突然変異体のスクリーニングを行っている。ht1(high leaf temperature mutant 1) は、低CO2条件下で高温を示す変異株として単離された。ht1においては、CO2濃度変化に伴う気孔の応答性が低下していた。原因遺伝子をマッピングにより同定したところ、キナーゼと相同性が高い遺伝子であることが明らかとなった。HT1 タンパク質を大腸菌によって発現させ、その活性を調べたところ、リン酸化能を持つことが確かめられた。また、ht1の1アリルであるht1-1においては、キナーゼ活性において重要なVIbドメインに1アミノ酸置換が生じていたが、このHT1-1型キナーゼの活性は著しく低下していた。一般にATP結合部位を人為的に改変したキナ−ゼはその活性を失うことが知られているが、このような改変HT1遺伝子を過剰発現させた形質転換植物は、ht1と同様、低CO2条件下でも高い葉面温度を示し、CO2応答性も低下していた。このことはHT1キナーゼの活性が植物におけるCO2応答と密接に関わっていることを示唆している。
  • 園田 裕, 山崎 直子, 植田 美那子, 岡田 清孝, 池田 亮, 山口 淳二
    p. 060
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    タンパク質の能動的分解装置である26Sプロテアソームは,20S活性複合体と19S調節複合体とから構成される。19SサブユニットをコードするRPT2遺伝子は、シロイヌナズナにおいて2種(AtRPT2aおよびAtRPT2b)存在している。
     我々は,イネマイクロアレイを用いた解析から,イネのRPT2a遺伝子が糖によって顕著に発現が誘導されること,またAtRPT2aのT-DNA挿入変異体(rpt2a)が、糖に対して過剰応答を示し,かつ AtRPT2aは糖の添加によって顕著に発現が誘導されることを見出した。同様の実験を行った結果,AtRPT2bはこれらの糖応答を示さないことを明らかとした。よって、AtRPT2aとAtRPT2bでは機能分担されること、AtRPT2aを構成した19Sによって調節される26Sプロテアソーム活性が、糖のシグナル伝達機構に関与することが示唆された。
    またrpt2aは、根端分裂組織や葉の形状などに異常を示しており、同一アレルのhalted rootが報告されている(Ueda et al. 2004 Development 131: 2101-2111)。よって糖シグナリングは、タンパク質の能動的分解を介した形態形成にも関与することが考えられ、これについても議論したい。
  • 赤羽 準治, 柿谷 吉則, 小山 泰
    p. 061
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    我々は5種類の異なる共役二重結合数 (n = 9-13) をもつカロテノイドとバクテリオクロロフィルa (BChl a) の混合溶液について、BChl aのQy吸収帯を励起して可視領域のサブマイクロ秒時間分解吸収スペクトルを測定した。また、共役二重結合数 (n = 9-11) の異なるカロテノイドをもつLH2アンテナ複合体を、それぞれ4種類の紅色光合成細菌; Rhodobacter sphaeroides G1C, Rhodobacter sphaeroides 2.4.1, Rhodospirillum molischianum, Rhodopseudomonas acidophila 10050から単離し、同様の測定を行った。その結果、混合溶液系ではBChl aの三重項状態からカロテノイドの三重項励起状態への励起移動のみならず、カロテノイドからBChl aへの逆向きの三重項励起移動が見られた。一方、LH2アンテナ複合体ではBChl aの三重項状態は見られず、励起後直ちにカロテノイドの三重項状態のシグナルが現れた。この事からLH2における三重項励起移動が非常に効率よく行われている事が推測される。どちらの場合でもカロテノイドの三重項励起寿命は共役鎖長に依存しており、長い共役二重結合をもつカロテノイドほど三重項エネルギーを逃がすことに優れていた。今後、5種類の共役二重結合数の異なるカロテノイドを再構成したLH1でも同様の実験を行う予定である。
  • 曽我部 博, 赤羽 準治, 小山 泰
    p. 062
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    共役二重結合数nの異なる3種類のカロテノイドを持つ紅色光合成細菌, Rhodobacter (Rba.) sphaeroides 2.4.1 (n = 10), Rhodopseudomonas acidophila 10050 (n = 11), Rhodospirillum rubrum S1 (n = 13) のCore (RC-LH1) 複合体をそれぞれ単離した。LH1のBChl aのQy吸収帯を励起して、可視領域のサブマイクロ秒時間分解吸収スペクトルを測定した結果、3つのシグナルが現れた。そのうち長寿命な成分はバクテリオクロロフィルのカチオンラジカルであると考えられる。残り2つはカロテノイドの三重項状態のTn ← T1吸収に特徴的な過渡吸収をもっており、短波長側の過渡吸収はカロテノイドの共役鎖長に依存性を示し、かつLH2アンテナ複合体で得られた過渡吸収と波長が一致している事からLH1アンテナ複合体のカロテノイド由来であると考えられる。長波長側の過渡吸収は、光反応中心のカロテノイド由来のものと推測されるが、Rba. sphaeroides 2.4.1の光反応中心のスペシャルペアを励起して測定した同様のスペクトルにはカチオンラジカルしか現れなかった。励起状態のダイナミクスについては現在解析中である。
  • Alexander Angerhofer, Lee Walker, Bruce Salter, Hiroyoshi Nagae, Yoshi ...
    p. 063
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    Time-resolved EPR spectra of 15-cis-spheroidene bound to the reaction center (RC) from Rhodobacter sphaeroides 2.4.1 were recorded. A 4-component analysis of the spectral data by singular-value decomposition followed by global fitting identified the triplet transformations of Car, i.e., 3Car(I) → 3Car(R) → 3Car(II) →, in which 3Car(R) functions as a leaking channel of triplet population. The sequential transformations were ascribed, by simulation of the zero-field splitting parameters using a polyene model, to the conformational changes of (0°, 0°, 0°) → (+20°, –20°, +20°) → (+45°, –40°, +40°), concerning the rotational angles around the cis C15=C15', trans C13=C14 and trans C11=C12 bonds. Inhomogeneous orientation of the Car–RC assembly was identified by spectral simulation, a fact which suggests the generation of a magnetic dipole moment during the conformational changes. Thus, the rotational motions around the central double bonds play a key role in the triplet-energy dissipation.
  • peng wang
    p. 064
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    The electronic-absorption spectra of all-trans carotenoids with different numbers of conjugated double bonds (n), including a spheroidene derivative (n=8), nurosporene (n=9), spheroidene (n=10), lycopene (n=11), anhydrorhodovibrin (n=12) and spirilloxanthin (n=13) were recorded at a high concentration (ODmax ** 20cm-1). After data-fitting we observed absorptions due to the **hidden** singlet states on the red side of the 1Bu+ absorption. The energies of those states exhibited a linear relation as function of 1/(2n+1). We assigned those states to the 2Ag-, 1Bu- and 3Ag- states based on comparison with our previously resonance-Raman and fluorescence results (Tokutake Sashima, et. al., J. Phys. Chem. B 2000, 104, 5011; Ritsuko Fujii, et. al., J. Phys. Chem. A 2001, 105, 5348). In the 2Ag- state, we observed a series of vibrational progression from **=0 to **=3.
  • 近藤 久益子, 落合 有里子, 片山 光徳, 池内 昌彦
    p. 065
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    シアノバクテリアのアンテナ複合体であるフィコビリソームは光化学系IIだけでなく系Iにもエネルギーを渡していることが示唆されているが詳細は明らかでない。我々は昨年の年会で、Synechocystis sp. PCC 6803の遺伝子破壊株を用いた実験から、フィコビリソームのロッドコアリンカーCpcG1とCpcG2がフィコビリソーム形成においてそれぞれ異なる機能を持つことを発表した。今回はCpcG2が形成する新奇のフィコビリソーム構造とその生理的な役割について述べる。CpcG1が形成するフィコビリソームはほぼ全てのフィコビリソーム構成蛋白質を含むが、 CpcG2が形成するフィコビリソームは主要なコアの構成蛋白質を欠いていた。低温蛍光スペクトルからこのCpcG2フィコビリソームにはマイナーなアロフィコシアニン蛋白質を含んでいることが分かった。現在CpcG2が結合するアロフィコシアニン蛋白質の同定を行っている。また、細胞の低温蛍光スペクトルの結果から、フィコビリソームから系IIおよび系Iへのエネルギー伝達と系II/系I比を考慮するとcpcG2遺伝子破壊株では系Iへのエネルギー伝達効率が減少していることが分かった。以上よりCpcG1フィコビリソームとCpcG2フィコビリソームが光化学系IIおよび系Iへのエネルギー分配に寄与していることが示唆された。
  • 小田 一平, 柴田 穣, 梶野 勉, 福嶋 喜章, 岩井 覚司, 伊藤 繁
    p. 066
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    紅色光合成細菌のもつリング状のアンテナ色素タンパク質複合体Light-Harvesting complex 2 (LH2:外径7nm) を、リング外径と同程度(7.9nm)の内径の孔をもつシリカメソ多孔体内に吸着させた。LH2は好熱性紅色光合成細菌Thermochromatium tepidum から抽出しHPLCを用いて精製した。窒素吸着量の変化の測定結果から、吸着したLH2の大部分はシリカの細孔中に吸着していると考えられる。内部吸着後のLH2の吸収スペクトルはB850の吸収帯がわずかに(3nm)red-shiftしているがB800-B850のエネルギー移動は完全に起こる。したがってLH2特有のリング構造が保存されておりアンテナとしての機能も保持されていると考えられる。吸着後の蛍光減衰は著しく速く(27 ps)なっており吸着によって何らかの変化がLH2に起こっていると推測される。B850スペクトルの温度依存性をUV-vis 分光とStreak cameraにより測定した蛍光寿命の結果などに基づき、LH2が固体内に多量に吸着され構造揺らぎが制約されることで受ける影響を明らかにする。
  • 原田 二朗, 佐賀 佳央, 大角 重明, 大岡 宏造, 民秋 均
    p. 067
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    緑色イオウ光合成細菌はクロロゾームと呼ばれる膜外光捕集器官を持つ。そのクロロゾームの光捕集部は、タンパク質の関与しないバクテリオクロロフィル(BChl)色素のみの自己会合体から構成されている。緑色イオウ光合成細菌Chlorobium tepidumはクロロゾーム内の色素としてBChl cを持ち、近年、その生合成経路については、ゲノム解析およびに分子遺伝学的手法によって明らかになりつつある。その中でBchUはBChl c生合成系で20位をメチル化する酵素として同定されたが、生合成経路上のどの反応過程で働くかは明確ではない。本研究ではBchUの反応特性をin vitroで調べることで、この酵素の生合成経路上での役割を解明することを試みた。ヒスチジン融合タンパク質として発現・精製されたHis6-BchUを用いて、S-アデノシルメチオニンの存在下で数種類の人工基質(BChl d誘導体)に対する反応性を検討した。その結果、BchUは中心金属を持つ基質にのみ触媒反応を示したことから、基質に配位する中心金属の存在がBchUの反応進行に必須であることが明らかとなった。また試みた基質の中で、3位に1-ヒドロキシルエチルを持つBChl d誘導体に対して最も高い反応性を示すことが分った。BChl cの生合成経路上で機能するBchUの役割について議論する。
  • 山口 瞳, 和田 啓, 原田 二朗, 大岡 宏造, 民秋 均, 福山 恵一
    p. 068
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    緑色硫黄光合成細菌は膜外アンテナ系としてクロロゾームを持つ。Chlorobium tepidum はクロロゾーム内の色素として バクテリオクロロフィル c を持ち、近年行われたゲノム解析と分子遺伝学的手法からその生合成経路が明らかになりつつある。この経路で BchU は、S-adenosylmethionine (SAM) をメチル基供与体として 20 位をメチル化する酵素(メチル基転移酵素)として同定された。これまでに(バクテリオ)クロロフィル類のメチル基転移酵素の構造学的知見は皆無であり、そのメチル化反応の分子機構は不明である。本研究では構造に基づいた BchU の SAM 依存的メチル化機構の解明を目的とし、この酵素の X 線結晶構造解析を行った。まず大腸菌による大量発現・精製を行い、高純度の BchU を得た。これを結晶化し、SPring-8 の放射光でデータを収集した。解析結果から、BchU はホモダイマーを形成しており、N 末端ドメインがそのダイマー形成に関与していることがわかった。また、C 末端ドメインは典型的なメチル基転移酵素のクラス I モチーフを保持していた。さらに SAM との複合体の構造も決定しており、BchU との結合様式を明らかにすることができた。これらの解析結果に基づき、(バクテリオ) クロロフィル類における SAM 依存的メチル化機構について考察する。
  • 藤田 祐一, 山崎 将司
    p. 069
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    プロトクロロフィリド(Pchlide)還元酵素は、ポルフィリンD環を還元することによりクロロフィル(Chl)の直接の前駆体クロロフィリドを生成する。ラン藻を始め酸素発生型光合成生物の多くは、Pchlide還元酵素として光依存型酵素(LPOR)と、ニトロゲナーゼに類似した光非依存型酵素(DPOR)を有する。今回、ラン藻Plectonema boryanumのLPOR欠損株(YFP12)を活用し、酸素発生型光合成生物において初めてDPOR活性の検出に成功し、その酸素感受性について検討した。YFP12を強光下、窒素ガス(2% CO2含有)で通気培養し、嫌気チャンバー内で可溶性画分を調製した。この可溶性画分におけるPchlide還元活性を検討した結果、ATP依存的にクロロフィリドの生成が確認された。また、この活性は、可溶性画分を前もって空気に曝すことにより急激に(半減期約15分)減少した。この酸素感受性は、酸素非発生型光合成を行う紅色細菌Rhodobacter capsulatusの粗抽出液におけるDPOR活性のそれとほぼ同等であった。DPOR酵素自体は、酸素発生型光合成の成立に応じて酸素耐性を向上させるようには進化してこなかったと推察される。YFP12は弱光下では野生株と同様にChlを合成できることから、ラン藻にはDPORを酸素から保護する何らかの機構が存在することが示唆される。
  • 村松 昌幸, 日原 由香子
    p. 070
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
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    シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803において、光化学系I(系I)遺伝子群の転写は弱光下で活性化、強光下で抑制される。系I遺伝子はゲノム上に分散して存在しているにも関わらず、その応答は統一的かつ鋭敏である。我々は系I遺伝子群の発現を統一的に制御する機構が存在するのではないかと考え、反応サブユニットをコードするpsaAB、および小サブユニットの一つをコードするpsaDのプロモーター構造比較を行った。その結果、両遺伝子の共通点として、二つのプロモーターを保持すること、いずれのプロモーターもコア部分のみだと、強光下で徐々に活性が増加していくこと、が明らかになった。各プロモーターは、コア部分に正あるいは負の制御領域が付加することで、それぞれ特徴的な調節パターンが付与されているが、それらの制御領域にはプロモーター間の共通性は見出せなかった。具体的には、psaABの上流プロモーターは弱光下で正の調節を受け、下流プロモーターは強光下で負の調節を受けることにより、光強度変化に対する応答性が実現されていた。psaDの場合、上流プロモーターの活性は非常に低く、光応答性は認められなかった。下流プロモーターはpsaAの上流プロモーターと同様、弱光下で正の制御を受けることにより、光応答性が付与されていたが、psaABpsaDの正の制御領域間で特に相同な配列は検出されなかった。
  • 永島 賢治, Jean Alric, 嶋田 敬三, 松浦 克美, Andre Vermeglio
    p. 071
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    紅色細菌Blastochloris viridisの光合成反応中心複合体は詳細な立体構造が解明されている。この複合体のチトクロムサブユニットは直線的に配置された4つのc型ヘムを含み、光酸化されたバクテリオクロロフィル二量体(P+)を速やかに還元する。4つのヘムは異なる酸化還元中点電位を持ち、-50 mV (c553), 320 mV (c556), 30 mV (c552), 380 mV (c559), 500 mV (P)の順に電子伝達を行う。このような低、高電位ヘムの繰り返し構造は他の細菌にも共通しているが、なぜこのような配置が選択されてきたのかは分かっていない。本研究ではその理由を明らかにするために、このサブユニット中の荷電アミノ酸等に部位特異的変異を導入し、酸化還元中点電位を改変した。変異導入はB. viridisのチトクロムサブユニットを別の紅色細菌Rubrivivax gelatinosusで発現させたキメラ反応中心複合体に対して行い、20以上の変異株を得た。変異株のうち、264番目のArgをGluまたはLeuに換えたものではc559の電位が130 mVに、Lysに換えた場合は280 mVとなった。また、202番目のArgをGluに換えた場合もこのヘムの電位は280 mVに低下した。これらの変異株の膜標品に対する閃光照射実験では、c556からP+への電子伝達が最大で20倍以上遅くなったが、どの株も光合成による生育は可能であった。このことから、Pへの直接の電子供与体であるc559の電位は、250 mV程度の低下では生理的に受容可能であることが分かった。
  • 鍋田 誠, 原田 二朗, 高市 真一, 三沢 典彦, 永島 賢治, 松浦 克美, 嶋田 敬三
    p. 072
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    カロテノイドは光合成生物において、光捕集、光酸化障害防止などに働いているが、その構造と機能の関係は十分には解明されていない。紅色光合成細菌Rubrivivax gelatinosusはスフェロイデン経路とスピリロキサンチン経路の両経路を併せ持ち、多くの種類の直鎖型カロテノイドの生体内における機能比較に用いられてきた。一方、酸素発生型光合成生物や好気性細菌は主に両端が環状構造をとるカロテノイドを作る。そこで、環状構造をとる事による機能的な利点を調べるため、環状構造を持つカロテノイド(β-カロテン)をRvi.gelatinosusに合成させ、光酸化障害防止機能を直鎖状カロテノイドの場合と比較した。β-カロテン合成酵素(リコペンサイクラーゼ)の基質であるリコペンの蓄積株にErwinia uredovoraのリコペンサイクラーゼ(crtY)遺伝子を導入してβ-カロテン蓄積株を作成した。HPLCによる色素分析の結果、細胞膜、光合成色素タンパクにもβ-カロテンが結合していた。紅色光合成細菌は直鎖型のカロテノイドしか持たないが、この株はβ-カロテンを利用して生育することが可能であった。この株について、強光照射による光酸化障害、人工的に発生させた一重項酸素に対する耐性をリコペン蓄積株と比較したところ、光酸化障害に対しては大きな違いは無いが、一重項酸素に対してはより強い耐性を示す結果が得られた。
  • 中村 絹, 日原 由香子
    p. 073
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアには、ほぼ全長がLuxRファミリータイプのへリックスターンへリックスモチーフから成る低分子量転写因子が高度に保存されているが、その機能は不明であった。我々はSynechocystis sp. PCC 6803のLuxR型低分子量転写因子Ssl0564がNADHデヒドロゲナーゼサブユニット2をコードするndhD2、ペントースリン酸エピメラーゼをコードするrpe、カタラーゼペルオキシダーゼをコードするkatG等、一連の遺伝子群の発現を光強度依存的に調節していることを見出した。さらに、精製Ssl0564タンパク質を用いたゲルシフト解析および様々な培養条件下でのノーザン解析により、Ssl0564は標的遺伝子の上流域に結合し、光化学系I還元側がより酸化的な条件下で転写調節を行っている事が示された。in vitroでは酸化処理によってSsl0564の二量体化が見られた。DTNBを用いてチオール基の定量を行ったところ、還元型、酸化型タンパク質1モル当り、チオール基の存在量はそれぞれ3.14±0.32、0.15±0.11モルであった。酸化型Ssl0564はC末端の3つのシステイン残基が、分子間あるいは分子内ジスルフィド結合を形成することにより二量体化し、活性化していると考えられる。現在ウェスタン解析により、細胞内Ssl0564の動態を検出しようと試みている。
  • 増川 一, 井上 和仁, 桜井 英博
    p. 074
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    窒素固定酵素ニトロゲナーゼは、反応の必然的副産物として水素を発生するので、これを光生物的水素生産に利用することができる。われわれは、ゲノム情報を利用できるAnabaena PCC 7120をモデル生物として、遺伝工学的に改変し、水素生産に及ぼす効果を検討しつつ次第に改良を進めていく戦略の基に研究を行っている。これまでに、取込み型ヒドロゲナーゼの遺伝子破壊株(ΔhupL)では、野性株に比べ水素生産の最大活性がアルゴン気相下で4-7倍に増大したが、変換効率が多少不十分であり、最大活性が持続しないという問題があることがわかった。本研究では、これらを解決しさらなる改良を目指して、ΔhupL株を基にニトロゲナーゼ関連酵素遺伝子を改変した。ニトロゲナーゼのMoFe7S9活性中心クラスターにはホモクエン酸が配位し、他生物では、ホモクエン酸合成酵素NifVの遺伝子を破壊すると窒素固定の効率が下がり、水素生産へ向かう電子配分比率が増加すると報告されている。nifV遺伝子破壊により、水素生産が増大し同時に窒素固定効率の低下により窒素源供給量が不足するので、水素生産活性も持続するようになると考えた。Anabaena PCC 7120の2コピーあるnifV遺伝子の一方または両方の破壊株を計3株作製した。その一株は、ΔhupL株と比べ水素生産の最大活性がアルゴン気相下で約2倍増大し、窒素ガスを含む気相下ではさらに顕著に増大した。
  • 成川 礼, 岡島 公司, 落合 有里子, 片山 光徳, 池内 昌彦
    p. 075
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    PASドメインは、アミノ酸配列は多様だが、立体構造は保存されているスーパーファミリーであり、光、酸化還元状態、電圧、酸素などのセンサー、二量化のリンカーなどの多様な機能ドメインを含む。近年、PASドメインの構造や機能に関する知見が蓄積してきたが、未だ多くの機能未知PASドメインが存在する。シアノバクテリア Anabaena sp. PCC 7120においては、多くのマルチドメインタンパク質が存在し、特にPASドメインが豊富に存在していた。しかし、その殆どが機能未知PASドメインであった。そこで、我々はこれまでにin silico研究として、Anabaena 7120において143個のPASドメインを見出し、近縁種との比較ゲノム解析から、25個の推定センサーPASドメインを見出した。本研究では、新奇センサーPASドメインを同定するために、これら25個の推定センサーPASドメインを、大腸菌でヒスタグ融合タンパク質として発現・精製した。リガンド結合型センサーと仮定し、吸収スペクトルの測定と金属定量により、リガンドの同定を試みた。その結果、特定の金属を結合するPASドメインや、特異的な吸収帯をもつPASドメインが検出された。これらについて詳細解析し、センサーとしての機能について議論する。
  • 山口 貴大, Gynheung An, 宮尾 安藝雄, 廣近 洋彦, 塚谷 裕一, 平野 博之
    p. 076
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
     我々は単子葉植物であるイネの花器官決定機構解明に向けた研究を進めており,これまでに,YABBY ファミリー遺伝子である DROOPING LEAF (DL) 遺伝子が心皮決定に優先的な機能を持つことを明らかにしてきた.今回我々は,双子葉植物で心皮決定に優先的に機能するクラス C・MADS 遺伝子の,イネにおける機能解析について報告する.
     本研究では,まず既知の OsMADS3 遺伝子に加え,新規のクラス C 遺伝子である OsMADS58 遺伝子の存在を明らかにした.次にこれら遺伝子のノックアウト変異体および内在性遺伝子の抑制形質転換体の表現型を詳細に解析した.その結果,OsMADS3 は whorl3 における雄ずい決定に重要な機能を持つ一方,OsMADS58 は,whorl4 における花分裂組織の有限性の決定および心皮の形態形成に,重要な機能を持つことが示された.したがってイネのクラス C 遺伝子は,遺伝子重複後,whorl によりその機能の貢献度が多様化するよう進化してきたと考えられる.また,変異体の表現型から,イネのクラス C 遺伝子は,りんぴの分化領域の決定にも重要な機能を果たしていることが示唆された.さらに発現解析からは,DL とクラス C 遺伝子は発現レベルでは独立の制御関係であることが明らかになった.
     現在,クラス C 遺伝子の whorl 依存的な機能分化をもたらした分子機構と,シロイヌナズナを利用したタンパク質機能の保存性に関する研究を進めている.
  • 八木 慎宜, 武田 征士, 松本 任孝, 岡田 清孝
    p. 077
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
     シロイヌナズナの花では、外側から順にがく片、花弁、雄ずい、心皮の4種類の器官が配置し、それぞれ同心円状領域(whorl)内の決まった位置に形成される。これらの花器官はそれぞれ特徴的な形態をもつ。各花器官の形成位置や形がどのようにして決まるかについてはほとんど知見がない。花器官の形を決める分子機構を明らかにするため、がく片と花弁の形に異常を示す<fl51>突然変異体を用いた解析を行っている。
     <fl51>突然変異体は花器官のアイデンティティに変化は見られないが、がく片が細長くなる。走査型電子顕微鏡を用いた観察から、原基形成の初期でがく片原基が縮小しており、形成位置がずれていることが分かった。さらに4枚のがく片原基が花芽を覆う時期には、各がく片の間に野生型では見られない隙間が生じていた。これらのことから、<FL51>遺伝子はがく片の原基形成に関与すると考えられる。また、<fl51>突然変異体では、がく片に加えて花弁も細長く成長する傾向が見られた。ポジショナルクローニングにより原因遺伝子の同定を行ったところ、<FL51>遺伝子はスプライソソーム構成タンパク質をコードすることが分かった。本発表ではこれまでの解析と<FL51>遺伝子の発現解析について報告する。また<FL51>遺伝子のがく片及び花弁の発生における役割について考察する。
  • 玉田 洋介, 中森 一樹, 中谷 公美, 松田 健太郎, 古本 強, 泉井 桂
    p. 078
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
     TATA box-binding protein (TBP) associated factors (TAFs)とは、TBPとともに基本転写複合体TFIIDを構成する約14個の基本転写因子群のことである。我々はすでにシロイヌナズナよりA. thaliana TAF10 (atTAF10, At4g31720) を単離し、atTAF10は側根、ロゼット葉、花の各器官といった様々な器官の発達過程において一過的な発現を示すこと、また、この発現が、外因性オーキシン・サイトカイニンによって影響されることを明らかにしている。今回我々は、atTAF10の過剰発現体とアンチセンス法による発現抑制体を作出し、これらの形質転換体が花序のターミナル化や未熟葉の大量発生など複数の形態異常を示すこと明らかにした。また、これらの形質転換体においてWUSCHEL (WUS) とAGAMOUS (AG) の発現が有意に上昇していることを明らかにした。これらの結果を総合すると、atTAF10は様々な組織の発達過程のある特異的な段階において一過的に機能し、何らかの遺伝子発現に寄与することでWUSAGの発現を制御することにより、正常な形態形成に関与している可能性がある。これらの結果に加え、T-DNA挿入によって発現が低下したノックダウン個体を入手し、それについてもいくつかの形態異常を示す表現型を見出したので、合わせて報告する。
  • 西井 かなえ, 長田 敏行
    p. 079
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    植物の栄養成長期の主なイベントは葉の形成であり、葉原基は茎頂分裂組織(SAM)から一定のパターンで形成される。ところが、双子葉植物であるイワタバコ科のストレプトカルプス属は、SAMが形態学的に認められないが、継続的に葉を形成するグループがあり、SAMがないにもかかわらず、葉が形成される機構は興味深い。本研究では、Streptocarpus parviflorusを主な実験材料として用い、葉の発生パターンと第一葉の形成過程を分裂ゾーンの推移を指標に観察した。その結果、第一葉は大子葉の葉腋に形成されることが観察されたので、第一葉の発生過程を詳しく解析し、大子葉の葉腋に葉原基の膨らみが生じるステージ1と、葉身と葉柄に分化して成長を続けるステージ2に分けた。形態学的に判断して、葉の形成部位には、ツニカ・コープス様構造を持つ、濃く染まる比較的細かな細胞群が継続的に観察された。この構造は、発芽直後から形成されている可能性が示された。さらに、DNA合成の検出により葉原基形成時の分裂部位を同定した。特に、柔組織と維管束を形成する部位で活発な分裂が観察された。ツニカ・コープス様構造では、それよりやや低いが分裂活性が示された。また、この部位は、発芽直後は分裂活性が非常に低かく、新たな葉原基を形成する時期に主に分裂をする可能性が示された。
  • 槻木 竜二, 鷲見 芳紀, 丸山 望, 岡田 清孝
    p. 080
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    維管束植物の葉脈パターンを記載する組織学的知見は多く、各種植物は固有の葉脈パターンを持つことが知られている。一方、葉脈パターン形成の仕組みに関する知見は乏しく、葉脈パターン形成の分子機構はほとんど明らかにされていない。私たちは、葉脈のパターン形成に関わる遺伝子を分子遺伝学的に同定し、解析することを進めている。これまでに葉脈のパターンが異常なシロイヌナズナ突然変異体を複数得た。得られた突然変異体は少なくとも3つのグループに大別された:葉脈が減るもの(no vein, 2B-17, 3B-55,他4系統)、葉脈が断片化するもの(5系統)、葉脈が太くなるもの(1D-1, 他2系統)。no vein (nov) 突然変異体のロゼット葉では葉脈が全く形成されないことが多く、形成される場合でも2次脈以降の維管束がほとんど形成されない。また、前形成層マーカー ATHB8 の発現が観察されないことも多く見られた。これらは、NOV 遺伝子が葉脈の前形成層形成に必要なことを示唆している。NOV は、分子量約 280 kD の機能未知のタンパク質をコードし、adaptor protein-3 δ subunit と部分的に相同な領域、Hsp90 や DNA ヘリカーゼ、ヒスチジンキナーゼに最近見いだされた ATPase ドメインと相同な領域を含んでいた。突然変異体の表現型やマーカー遺伝子の発現パターン等から、NOV、及び 1D-12B-173B-55 遺伝子の葉脈形成における役割について考察する。
  • 楢本 悟史, 澤 進一郎, 小泉 好司, 久保 稔, 出村 拓, 上田 貴志, 中野 明彦, 福田 裕穂
    p. 081
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    維管束分化の空間的制御機構を解明するために、我々はシロイヌナズナの葉脈パターンに異常のある van3 変異体の解析を進めてきた。これまでにVAN3 は BAR, PH, ANK repeats domain を持つARF (ADP ribosylation factor) ミGAP (GTPase activating protein) をコードしており (以下、AZAP)、トランスゴルジネットワークにおいて小胞輸送を制御する因子であることを報告した。本研究ではシロイヌナズナにおけるAZAPの機能を体系的に理解することを目的として、シロイヌナズナに存在する全 4 個の AZAP を同定し、それらの上流域に連結した GUS 遺伝子の植物体における発現解析を行った。その結果、VAN3 は葉脈形成過程において未分化な状態では葉全体に発現が観察され、分化の進行に伴い維管束に発現が限定されることが明らかとなった。同様の発現は他の AZAP においても観察された。一方、根に関しては他の AZAP は静止中心やコルメラ細胞で発現が確認されたのに対して VAN3 はそれらの組織では発現せずに、維管束及び伸長域において発現が観察された。以上の事より、根においてこれらの遺伝子は異なる組織で働くことが示された。現在VAN3 とそのホモログの細胞内局在解析及び T-DNA 挿入株の表現型解析を行っており、これらの結果を併せて植物における AZAPの機能について考察する。
  • 坂口 潤, 澤 進一郎, 伊藤 純一, 福田 裕穂
    p. 082
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    双子葉植物に比べ、単子葉植物では維管束形成に関する分子機構の研究が少ない。双子葉植物の葉の展開が二次元的であるのに対して、単子葉植物では葉の展開がほぼ一次元的であり、その伸長に携わる細胞分裂領域は基部に集約される。このため、単子葉植物では、葉の先端側から基部側に向けて観察することで維管束分化・形成過程を遡って連続的に追跡できる。そこで本研究では単子葉植物のモデル植物であるイネを用いて維管束形成機構の解析を進めた。
    まず、野生型のイネを用いて第五葉の葉身部の透明化処理による観察、及び発芽後14日後の基部領域を用いた連続切片の観察から、葉身・葉鞘における維管束パターン及び維管束内部構造の形成過程の詳細な観察を行った。この野生型の観察から得られた表現型との比較をもとに、維管束形成に異常を示す突然変異体の探索を行い、葉身・葉鞘における維管束パターンに異常を示す突然変異体として11系統を、維管束内部構造に異常を示す突然変異体として1系統を単離した。維管束形成過程における野生型と突然変異体の表現型の比較を通して、イネの葉における維管束形成機構について考察する。
  • 堺 彩子, 佐々木 智行, 槻木 竜二, 岡田 清孝
    p. 083
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    維管束は前形成層と呼ばれる幹細胞から形成される。維管束のパターンは前形成層のそれに一致するので、前形成層が形成される初期過程を理解することが、維管束パターン形成の仕組みを知る上で必須だと考えられる。しかしながら、未分化な細胞が前形成層へ分化する初期段階で働く遺伝子はほとんど同定されていない。私たちはエンハンサートラップ法を利用してシロイヌナズナの前形成層分化の初期段階で発現する遺伝子を同定し、それら遺伝子の機能を逆遺伝学的に解析することを進めている。 GFP をレポーター遺伝子とするエンハンサートラップ T-DNA コンストラクトを用いて、これまでに、 T1 形質転換体約 20,000個体から維管束や前形成層に GFP 蛍光が観察される系統を 367 単離し、 36系統で T-DNA 挿入部位を同定した。挿入部位近傍には、転写因子、タンパク質分解系関連遺伝子、 AUX/IAA family 遺伝子などの遺伝子が存在した。 GFP が根端の維管束始原細胞付近や葉脈の前形成層で発現する系統に着目し、挿入 T-DNA と GFP 発現パターンの連鎖解析を進めている。連鎖確認後は、 T-DNA 挿入部位に隣接する遺伝子のプロモーター::GFP ( GUS )を構築し、形質転換して、原因となる遺伝子の特定を進める予定である。上記系統及び新たに単離された系統について、 GFP 発現パターン、同定した T-DNA 挿入部位、 GFP 発現と T-DNA の連鎖解析等を報告する。
  • 名川 信吾, 澤 進一郎, 佐藤 修正, 加藤 友彦, 田畑 哲之, 福田 裕穂
    p. 084
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    維管束形成初期過程の分子機構について明らかにするために、GUS をレポーターとしたシロイヌナズナのジーントラップラインを用いたスクリーニングを行ってきた。そして、維管束幹細胞である前形成層が染色されるライン(3ライン) 及び維管束に特徴的な発現パターンを持ち維管束パターンや維管束の連続性に異常が見られるライン(3ライン)を単離した。これまでに前者の原因遺伝子をクローニングし、それぞれ葉酸代謝に関わる GGH 遺伝子、タンパク質のユビキチン化に関与しうるRING finger 遺伝子、及び機能未知の遺伝子であることを明らかにした。今回新たに後者のラインの原因遺伝子を同定したので報告する。後者の遺伝子はそれぞれ脂質の水酸化に関与しうるCYP86 遺伝子、微小管切断活性の知られているAtKTN 遺伝子、及び機能未知の遺伝子であった。また、遺伝子発現を詳細に解析したところ、前者の各遺伝子、及びAtKTN 遺伝子については葉身や胚軸の未成熟な維管束系、前形成層及び茎頂分裂組織周辺にGUS 活性が検出される点が共通していたものの、維管束分化を連続的に観察出来る根端領域における発現パターンには差が見られた。こうした遺伝子発現の解析より、維管束分化を前形成層細胞の個性の獲得とその後の維管束細胞への分化という段階的な過程として捉え、得られた遺伝子の働く時期を特定出来ることが明らかとなった。
  • 小山 知嗣, 平津 圭一郎, 高木 優
    p. 085
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    植物は葉や花など異なる形の器官を持つが、それらの形は細胞の分裂と分化の協調的な制御により決定される。キンギョウソウcincinnata (cin)変異体は葉の表面にしわを持ち、葉の先端や縁で細胞分裂の制御に異常がある。CIN遺伝子はTCP転写因子をコードすることから、TCPは葉の形態を決める重要な転写因子であると推測されているが、これまでのところTCP転写因子ファミリーの逆遺伝学的な機能解析は行われていない。
    そこで、我々は転写因子にEAR転写抑制ドメインを融合したキメラリプレッサーを植物内で発現させることにより、重複する内在転写因子に優先して標的遺伝子の発現を抑制することができるCRES-Tシステムを用いて、植物特異的な転写因子ファミリーTCPの機能解析を試みた。シロイヌナズナTCP転写因子を転写抑制因子に転換したキメラリプレッサーを発現させた形質転換植物は、芽生えや葉の表面や縁が大きく湾曲し、異所的なシュートを形成した。野生型では縁や表皮などの位置依存的に細胞の分裂や分化が制御されていることに対して、これら器官の表皮細胞は野生型のような位置特異的な細胞の形の違いが認められなかった。この結果からTCPは細胞の分裂や分化を協調的に制御することにより、子葉や葉の形を決める機能があると考えられる。
  • 氏家 伸, 前川 雅彦, Qian Qian, Jiayang Li, 経塚 淳子
    p. 086
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
     イネの側生器官(腋芽)形成は、形態形成や収量を構成する上で重要である。本研究では、腋芽形成を制御する遺伝的ネットワークの全体像の解明を目的とし、MONOCULM1 (MOC1)遺伝子とLAX PANICLE (LAX)遺伝子との遺伝的関係を解析した。
     MOC1はGRASと呼ばれる転写因子群に属し、生殖成長期の腋芽である穂の枝梗、栄養成長期の腋芽である分げつの形成時に発現する。LAXはbHLHをコードする転写因子であり、MOC1同様、枝梗、分げつの形成時に発現する。
     moc1変異体では枝梗、分げつの一部が形成されない。それに対しlax変異体では、枝梗形成にのみ異常が見られる。しかし、moc1 lax 二重変異体では全ての腋芽形成が阻害される。これは二遺伝子間に何らかの相互関係が存在することを示唆する。in situ hybridizationの結果、lax変異体でのMOC1の発現は正常であったが、moc1変異体でのLAXの発現は、分げつ形成時でのみ野生型と比較して抑制された。このことは生殖成長期では二者は独立の経路で機能し、栄養成長期ではMOC1LAXを制御することを示唆する。
     さらにMOC1の下流に関する知見を得るため、野生型とmoc1変異体を用いたマイクロアレイを行い、MOC1LAXに共通の下流因子を発見した。これも二者が同一の経路で機能することを示す興味深い結果である。
  • 倉川 尚, 前川 雅彦, 経塚 淳子
    p. 087
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    イネでは栄養成長期から生殖成長期に転換すると、茎頂分裂組織から腋芽として1次枝梗が発生し、1次枝梗からは2次枝梗および小穂が形成される。小穂には外側から1対の護穎、1枚の外穎、1枚の内穎、2枚のリンピ、6本の雄蕊、1本の雌蕊が形成される。枝梗や小穂が正常に形成されるためには、分裂組織の正常な維持が重要である。lonely guylog)変異体は枝梗パターンの異常、花器官数の減少という表現型を示し、花器官の退化は内側ほど著しい。花器官分化期における花分裂組織は扁平な構造になり、花器官の分化が途中で止まっていた。このことから変異原因遺伝子LOGは生殖成長期において分裂組織の維持に働いていることが示唆された。ポジショナルクローニングによりLOG遺伝子を単離したところ、リジン脱炭酸酵素に相同性の高いタンパク質をコードする遺伝子であることがわかった。リジン脱炭酸酵素はリジンを基質として、ポリアミンの一種、カダベリンを合成する酵素である。ポリアミンが植物の形態形成に関与しているという報告例は少なく、カダベリンの機能については何の知見もないが、われわれの結果はカダベリンが植物の形態形成に重要な働きを担っているという可能性を示唆する。今後は、LOGタンパクのリジン脱炭酸酵素としての活性の有無を決定する必要がある。
  • 助川 慎, 経塚 淳子
    p. 088
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    イネの形態は栄養生長期に形成される分げつ、生殖成長期の穂に形成される枝梗や側生頴花など側生分裂組織から分化する器官に大きく影響される。しかし側生分裂組織形成のメカニズムはいまだ明らかにされていない。LAXは側生分裂組織形成に必須の遺伝子であり、lax変異体では穂の側生器官が減少する。LAXはbasic Helix-Loop-Helix(bHLH)タンパク質をコードする転写因子であるが、そのアミノ酸配列からDNA結合能力を持たず、他のbHLHタンパク質とヘテロダイマーを形成し、ダイマーパートナーの機能を阻害すると予想される。またLAXは側生分裂組織の向軸側を囲むような層状の発現を示しており、どのように分裂組織形成を誘導するのか興味深い。われわれはLAXの分子機能を解析するため、LAXの下流で機能する遺伝子群の解析とLAXの直接のターゲット遺伝子およびLAXのパートナー遺伝子の探索を行っている。DEX誘導系を用いたマイクロアレイ解析により、LAXの発現を誘導することによって転写因子やオーキシンシグナル伝達に関与する遺伝子の発現が上昇することが確認された。このことからLAXが側生分裂組織形成の境界部でのオーキシンシグナル伝達を調節している可能性が示唆された。現在、パートナー遺伝子の探索とともにLAXが直接に転写を調節するターゲット遺伝子の解析を進めている。
  • 猪狩 和成, 遠藤 沙知子, 檜原 健一郎, 田坂 昌生
    p. 089
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    多くの植物において、側枝はさまざまな環境に適応した多様な体形を作り出すうえで重要な器官である。そして側枝は葉腋に生じる腋生分裂組織 ( Axillary meristem : AM ) から作られる。本研究においてAM形成の分子機構を解明することを目的とし、側枝形成に異常を持つ新規のシロイヌナズナ半優性変異体uni-1d の解析を行った。uni-1d では子葉腋および本葉腋でAMの形成が促進されており、uni-1d ヘテロ個体は短い側枝を多数形成して全体として「ウニ」のような形態を示す。原因遺伝子UNI は病原菌に対する抵抗性反応シグナル伝達に関わるとされているNBS-LRRファミリーの新規のタンパク質をコードしていた。uni-1d ではUNIに機能獲得型のアミノ酸置換の変異が生じている。さらにuni-1d では抵抗性反応のマーカー遺伝子( Pathogen Related-1 )の発現が増加しており、恒常的な抵抗性反応が生じていることが示唆された。これらの結果は、UNIが「AM形成」と「抵抗性反応」の両者に関わる新たな因子である可能性を示唆する。
  • 広田 敦子, 加藤 壮英, 深城 英弘, 相田 光宏, 田坂 昌生
    p. 090
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    多くの高等植物は、茎と主根からなる主軸とそれに付随する多数の側生器官によって構成される。側生器官の形成にともない主軸の組織と側生器官との間に境界部が生ずる。境界部で機能する遺伝子はいくつか知られているが、境界部形成が側生器官の性質や形態にどのように関わるかは明らかになっていない。我々は地上部と地下部の両方において、主軸と側生器官の境界部に表現形を示すpuchi変異体をシロイヌナズナから単離した。puchi変異体の地上部では、花原基の基部に苞葉状および托葉状の器官が異所的に形成されていた。また地下部では、側根原基の基部の細胞数が野生型より増加し、主根との境界部が広がっていた。puchi変異体の原因遺伝子をクローニングしたところ、この遺伝子はAP2/EREBP転写因子ファミリーに属するタンパク質をコードすることがわかった。PUCHI遺伝子は、花序分裂組織と花原基との境界部、および主根と側根原基との境界部で発現していた。以上のことから、PUCHI遺伝子が主軸と側生器官の境界部で機能し、花原基における苞葉・托葉形成の抑制、および側根基部の細胞増殖抑制に働くことが示唆される。
  • 初谷 紀幸, 黒柳 美和, 山田 健志, 飯 哲夫, 西村 いくこ, 西村 幹夫
    p. 091
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    植物は病原体の感染に対する生体防御機構として過敏感細胞死を誘導する.過敏感細胞死はプログラム細胞死(PCD)であるが,その実行機構は明らかにされていない.動物のPCDでは,カスパーゼを実行因子とする機構が知られている.植物のPCDにも動物のカスパーゼに類似する酵素が関与すると考えられてきたが,植物からカスパーゼのホモログは見つかっていない.我々はTMVの感染で誘導されるタバコの過敏感細胞死について解析し,液胞プロセシング酵素(VPE)が過敏感細胞死で誘導されるカスパーゼ-1活性を示す実体であり,過敏感細胞死に関与することを報告した(日本植物生理学会2004年年会).今回,VPE遺伝子をジーンサイレンシング(VIGS)した植物体を作製し,過敏感細胞死におけるVPEの役割について解析した(1).VPE遺伝子をVIGSした植物では,VPE活性とともにカスパーゼ-1活性も低下しており,TMVの感染による過敏感細胞死が起こらなかった.これは液胞内のプロテアーゼであるVPEが過敏感細胞死において重要な役割を担っていることを示している.TMVに感染した細胞が死に至る過程を詳細に観察したところ,細胞死に先立って液胞膜の一部が分解されることがわかった.VPE遺伝子をVIGSした植物では,液胞膜の分解が起こらないことから,VPEが細胞死の実行過程で液胞膜の分解を引き起こし,これによって細胞は死に至ることが考えられる.(1) Hatsugai et al. (2004) Science, 305, 855-858.
  • 東 克己, 高澤 涼子, 賀屋 秀隆, 二瓶 晋, 田沼 靖一, 朽津 和幸
    p. 092
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、エリシターやストレスにより誘導されるプログラム細胞死(PCD)の情報伝達系や実行過程の分子機構について解析を進めている。動物の典型的PCDであるapoptosis制御蛋白質をコードする遺伝子のhomologは植物ゲノム中にほとんど見いだされていないが,植物で異所的に発現させたapoptosis制御因子がPCDを制御できることが報告され、既存の手法では検索できないapoptosis関連遺伝子homologが植物に存在する可能性を示唆している。そこで相同性検索法を工夫し、哺乳動物のInhibitor of apoptosis protein(IAP)の保存領域BIRと相同な領域を持つシロイヌナズナの遺伝子を探索したところ、BIRに特徴的なC2HC型zinc fingerを持つ機能未知の蛋白質をコードする遺伝子を2種発見し、AtILP1, AtILP2と名付けた。AtILP1のorthologは植物のみならず、脊椎動物、線虫、分裂酵母からも見いだされ、真核生物に広く見いだされる遺伝子ファミリーを形成していた。分子系統学的解析の結果、ILPIAPのparalogであることが示唆された。これら動植物の新規遺伝子の細胞死制御における機能解析を進めている。
  • 田中 美名, 森 仁志
    p. 093
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    頂芽が腋芽の成長を抑制し、優先的に成長する現象は頂芽優勢と呼ばれ、オーキシンとサイトカイニンが中心的な役割を担っていると考えられている。我々は、これまでの研究により、オーキシンが腋芽の成長を促進するサイトカイニン生合成を触媒するisopentenyltransferase (IPT)の発現を抑制することを明らかにした。このオーキシンによるIPT発現抑制機構を明らかにすることを目的とし、PsIPT2遺伝子のプロモーター解析を行っている。まず、PsIPT2遺伝子の5'上流2 kbにGUS遺伝子を融合させシロイヌナズナ形質転換体を作成した。PsIPT2はエンドウでは頂芽を切除した時に茎だけで発現する遺伝子であるが、この形質転換体の芽生えでは、根端以外の各組織でGUS活性が観察され、組織特異的な発現を示さなかった。さらにこのGUS染色は、オーキシン処理により変化しなかったが、GUSタンパク質が組織内で安定なことを考慮して、オーキシン処理後のGUS mRNAの変動を解析すると、エンドウの茎で観察された場合と同様な時間経過で減少した。このことはエンドウの遺伝子をシロイヌナズナに導入したヘテロな系においても、PsIPT2 promoterはオーキシンに応答することを意味している。
  • 山本 優子, 神谷 紀子, 北野 英己, 松岡 信
    p. 094
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    オーキシンは植物の成長や発生など、様々なイベントに関わる非常に重要な植物ホルモンであり、その作用機構には様々な遺伝子が複雑に関与していることが考えられている。しかし、その生合成に関しては、ほとんど明らかにされてない。最近、シロイヌナズナにおいてオーキシン量が増加したyucca変異体が単離され、YUCCAタンパク質がオーキシン合成経路を触媒する酵素であることが示唆された。
    そこで我々は、イネにおけるオーキシンの作用とその合成部位を明らかとするため、イネよりYUCCAホモログを単離し、その発現解析及び過剰発現体の解析をおこなった。AtYUCCA1に最も相同性の高いOsYUCCA-like1の過剰発現体を作成したところ、毛状根の形成や重力屈性の異常などのシロイヌナズナの場合と同様の表現型を示しており、さらにDR5-GUSの発現が上昇したことから、内生のオーキシン含量が増加したと考えられた。また、OsYUCCA1-likeは葉身の先端で発現しており、この発現部位がオーキシン輸送阻害剤で処理した場合のDR5-GUSの発現場所と一致することから、「OsYUCCA1の発現場所=オーキシン合成場所であると考えられた。現在、茎頂分裂組織や胚発生過程における発現解析を進めており、イネにおけるオーキシンの合成場所の特定を試みている。
  • 笠原 博幸, 上田 七重, 武井 兼太郎, 菱山 正二郎, 浅見 忠男, 山谷 知行, 榊原 均, 神谷 勇治, 山口 信次郎
    p. 095
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    サイトカイニンは植物の増殖・分化誘導因子として古くから知られてきたが、近年その生合成経路の全容解明が著しく進んでいる。我々は植物のイソプレノイド生合成における色素体のメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路と細胞質のメバロン酸(MVA)経路の役割について追究しており、MEP経路下流のイソプレノイドの生合成研究の為にシロイヌナズナを用いて選択的な同位体標識システムを構築した。この標識システムとMVA経路標識システムを組み合わせることにより、trans-ゼアチン(tZ)型サイトカイニンのプレニル側鎖が主にMEP経路から、またcis-ゼアチン(cZ)型の側鎖がMVA経路からそれぞれ合成されることを報告した。今回、我々は自然界でアグロバクテリアの感染により形成が誘導されるクラウンゴール中に、この植物型とは異なるtZ生合成経路が存在することを証明した。即ち、このバクテリア由来のTmrタンパク質が色素体に移行し、宿主のMEP経路中間体のヒドロキシメチルブテニル二リン酸から新しくバイパスを形成してtZ型を直接合成することを18O標識化により示した。また、オーキシンによるサイトカイニン生合成の調節機構について最近明らかにされてきており、我々もこの標識システムを用いて検討中である。
  • 黒羽 剛, 上口 智治, 佐藤 忍
    p. 096
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
     高等植物の不定根および側根の形成には、主に地上部から輸送されたオーキシンが促進的に機能していることが知られているが、詳細な機構についてはほとんど明らかにされていない。そこで我々はシロイヌナズナを用いて、側根を形成しないが無傷植物体で不定根形成がみられる突然変異体ar-C22を単離し、表現型の解析及び原因遺伝子の同定を行った。ar-C22は主根および胚軸の維管束細胞が少なく、側根を形成しないが、正常に維管束が発達し分岐する不定根の形成がみられた。ar-C22の胚軸維管束にはオーキシン蓄積がみられ、主根にオーキシン処理をすることにより側根が形成された。遺伝子のマッピングと相補試験の結果、ar-C22はサイトカイニン受容体AHK4 (AHK4/CRE1/WOL) のミスセンス突然変異体であることがわかった。また、AHK4に加え、他のサイトカイニン受容体として知られているAHK2, AHK3は、胚軸において維管束に発現がみられた。さらに、三重突然変異体ahk2ahk3ahk4ではar-C22と同様の根の形態を示した。以上の結果から、ar-C22および三重突然変異体ahk2ahk3ahk4では、胚軸においてAHK2~4全ての機能が低下し、オーキシンの輸送が抑制されて胚軸に蓄積されたことにより、側根形成の抑制、不定根形成の誘導が起きたと考えられた。
  • 上田 七重, 小嶋 美紀子, 武井 兼太郎, 笠原 博幸, 山口 信次郎, 神谷 勇治, 山谷 知行, 榊原 均
    p. 097
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    アグロバクテリウムが植物に感染すると、Ti-plasmid上のT-DNA領域が宿主細胞の核ゲノムに組み込まれる。このT-DNA領域にはTmrと呼ばれるサイトカイニン(CK)合成酵素adenosine phosphate-isopentenyltransferase (IPT)やオーキシン合成酵素がコードされており、両ホルモンの過剰生産によるホルモンバランスの崩壊により細胞の腫瘍化が誘導される。アグロバクテリウム感染後の植物細胞におけるCK生合成経路を明らかにするために、我々はTmrの生化学的特性と細胞内局在性を、シロイヌナズナのIPT (AtIPT)のそれと比較した。Tmrをシロイヌナズナで過剰発現させると、trans-zeatin (tZ)型のCKのみが蓄積したのに対し、AtIPT1, 3, 4, 5, 7の過剰発現株においてはisopentenyl-adenine型のCKが蓄積するという結果が得られた。またin vitroでTmrはDMAPPとHMBDPに対するKm値がほぼ同じであり、両者を基質として利用できるのに対し、AtIPTは専らDMAPPを基質とした。また、予想外にもTmrは、明確なトランジットペプチドを持たないにもかかわらず、宿主植物細胞のプラスチドに局在するという結果が得られた。以上のことからアグロバクテリウムが感染後、宿主細胞内で発現したTmrはプラスチドに移行しHMBDPを利用してtZ型CKを直接合成している可能性が示唆された。
  • 木羽 隆敏, 山篠 貴史, 内藤 隆人, 小泉 宣哉, 榊原 均, 水野 猛
    p. 098
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    最近、シロイヌナズナにおける主要な植物ホルモンの1つであるサイトカイニンの受容体はヒスチジンキナーゼ(AHK2~4)であることが明らかにされた。AHKサイトカイニン受容体に加え、AHP(仲介因子)、ARR(レスポンスレギュレーター)から成るHis-Aspリン酸リレー情報伝達系因子の働きにより、サイトカイニンシグナルはAHK->AHP->ARRの多段階リン酸リレー系を介して伝達されると考えられている。このようなリン酸リレー情報伝達系に依存したサイトカイニン初期応答遺伝子としてARR遺伝子群(タイプ-A)がよく知られている。いかしその他の下流標的遺伝子はほとんどわかっていない。そこで、His->Aspリン酸リレー系の下流で働く因子(群)を見出すことを目的に、マイクロアレイを用いたサイトカイニン応答遺伝子の検索を行った。特にリン酸リレー系に依存したサイトカイニン応答に焦点を絞るために、野生株を用いたサイトカイニン応答遺伝子の解析をするだけでなく、リン酸リレー系が恒常的に活性化されているARR21-Cの過剰発現体と恒常的に抑制されているARR22の過剰発現体を併せて用いることでコンビナトリアル解析法を工夫した。本解析の有効性を示しつつ、リン酸リレー系に依存したサイトカイニン応答性遺伝子のゲノムワイドな解析結果に関して報告する。
  • 武井 兼太郎, 山谷 知行, 榊原 均
    p. 099
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    イソペンテニルトランスフェラーゼ (IPT)により合成されたイソペンテニルアデニン (iP) ヌクレオチドはP450酵素により水酸化されトランスゼアチン (tZ) ヌクレオチドに変換される。バクテリア由来のIPTを過剰発現する形質転換植物はiP型でなくtZ型サイトカイニンを蓄積することから、これまではサイトカイニン水酸化酵素は構成的に発現すると考えられていた。昨年の年会で報告したように、我々は酵母発現系を利用したサイトカイニン水酸化酵素遺伝子の探索により、シロイヌナズナからCYP735A1及びCYP735A2を同定した。また、これらの遺伝子が器官特異的に発現すること、オーキシンやアブシジン酸、サイトカイニンに応答性を示したことから、従来の予想と異なりCYP735Aがサイトカイニン代謝制御の標的遺伝子の一つである可能性が示唆された。今回我々はCYP735Aの発現部位を特定するために、CYP735A1及びCYP735A2のプロモーター制御下でGUSもしくはGFPを発現する植物を作出し、解析を行ったのでその結果を報告する。また、IPTの発現部位と比較し、導管を経由した植物体内でのサイトカイニンの長距離輸送についても議論したい。
  • 黒岩 常祥
    p. A1
    発行日: 2005/03/24
    公開日: 2006/01/11
    会議録・要旨集 フリー
    ミトコンドリアと色素体(オルガネラ)は自律した細菌から生じたとされている。これらは分裂・増殖して、はじめてエネルギー変換器としての機能を果たすが、その分裂機構は長い間不明であった。私は、先ずミトコンドリアと色素体の分裂がオルガネラ核分裂とオルガネラキネシス(ミトコンドリオキネシスと色素体キネシス)からなることを発見したが、オルガネラキネシスを制御している物理的な装置は不明であった。しかし1986年に色素体キネシスに必須な色素体分裂装置(PDリング)を、1993年には、ミトコンドリオキネシスに必須なミトコンドリア分裂装置(MDリング)を世界ではじめて発見した。更に2001年、細菌由来のFtsZリングが分裂部分のストロマ側に、2003年、ダイナミンリングが細胞質側に形成され、これらが分裂を制御していることを明らかにした。こうしてオルガネラの分裂が、ダイナミックトリオ(FtsZ, PD/MDそしてダイナミンの各リング)によって制御されていることが明らかとなった。また極く最近、”シゾン”の3ゲノムの全塩基配列を完全解読したが、この情報は、オルガネラ生物学の基本的な原理を明らかにするのに役立つと考えられる。
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