高知県幡多(はた)郡三原村では,当地の新生界の粘板岩を用い,伝統的特産品の土佐硯が生産されている.従来,土佐硯石は書家や硯職人から「きめが細かく」高品質の硯作りに適すると感覚的に評価されてきたが,その科学的意味は不明だった.本稿は,主に鉱物資源解析に適用される鉱物単体分離解析(MLA)を,堆積岩である土佐硯石の解析に適用し,XRDや走査電子顕微鏡の観察・分析と比較し,硯石の鉱物・粒度特性をまとめた.その結果,MLAの鉱物分析で,硯石が主に珪酸塩鉱物から構成されるものの,鉱物種の特定はXRDの結果と総合的検討が必要で,適用上の留意点が判明した.一方,粒度分析では,硯石の細かい組織が,主に極細粒シルト以下の粒子で構成されること,また,現在の土佐硯採石坑の粘板岩は,過去の採石坑のものより砂質粒子が多く含まれ,職人が硯製作時に経験する「石を彫ると大きい粒子に当たる」等,硯石の感覚的特徴を具体的に表すデータが得られた.
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