日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
選択された号の論文の169件中51~100を表示しています
  • 中井 宗紀, 李 宗甫, 海田 博司, 吉川 彰, 杉山 和正, 和久 芳春, 福田 承男
    セッションID: K3-21
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    α-Al2O3(コランダム)相およびY3Al5O12(YAG)相が3次元的に入り組む文象組織を示す一方向凝固共晶体は、耐熱・耐酸化強度材料の有力候補として注目を集めている。この特徴的な微細組織構造が、高温機械的強度を支配する要素のひとつと考えられており、本材料の強度特性を最大限に引き出すためには、微細組織を的確に評価することが不可欠となる。 本研究で用いた共晶体試料は、μ-PD法で合成した。μ-PD法は、るつぼ内の融液を、坩堝下部の穴から種結晶を用いて引き下げる手法であり、短時間に長いファイバー試料を合成できる。今回は、基本的なAl2O3/Y3Al5O12共晶体ファイバー(81mol%Al2O3と19mol%Y2O3)に加えて、Al2O3の3%あるいは5%をCr2O3, Fe2O3またはSc2O3 で置換したファイバイー試料を合成し、微細組織観察(SEM)および構成相の同定(XRD)を行った。また、コランダム相およびYAG相の結晶方位関係は、主としてプレセッション写真とラウエ写真を用いて解析した。Al2O3/Y3Al5O12共晶体は、典型的な文象組織を示し、また、プレセッション写真およびラウエ写真の解析によって、基本的結晶方位関係(1)(001)コランダム//(112)YAG//成長方向および(2)(210)コランダム//(432)YAG//成長方向を明らかにすることができた。また、コランダム(001)種結晶からファイバーの成長方向に沿うコランダム相の結晶方位変化も確認できた。成長開始点では共晶体のコランダム相の結晶方位は種結晶と完全に一致したが、成長が進むとコランダムのc軸は成長方向に垂直になる。 他方、一部のAl2O3をCr2O3, Fe2O3またはSc2O3 で置換したファイバー試料では典型的なChinese script structure中にコロニー状構造が形成され、その微細構造変化は置換量の増大に伴い促進される。EDSおよび粉末XRDによる格子定数の精密化の結果、Cr2O3,はコランダム相およびガーネット相の双方に分布したが、Sc2O3はガーネット相のみに分布していることが判明した。また、Fe2O3が還元されて生じたFeOは、hercynite FeAl2O4相を生成し、コランダム相およびガーネット相には分布しない。置換量が少ない場合は、(001)コランダム//(112)YAG//成長方向の結晶方位関係が、個々のコロニー内で維持される傾向が認められたが、特に、5mol%以上のAl2O3をSc2O3で置換したサンプルでは、微細構造を含めて結晶方位関係に顕著な変化がみられた。
  • 栗林 貴弘, 工藤 康弘, 田中 雅彦
    セッションID: K3-22
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    ブルーサイト(Br)-フォルステライト(Fo)系の鉱物は,DHMS相鉱物として知られており,高温高圧の条件下で安定に存在できることが実験的に示されている.地球深部への水のリザーバーとして,これらDHMS相が考えられているが,近年,無水鉱物にも”水”が含まれていることが報告され,議論されている.
     ヒューマイト族の鉱物(組成式,nMg2SiO4・Mg(OH)2, n=1,2,3,4)はBr-Fo系にあり,その構造中で水素は,ヒューマイト構造を特徴づける八面体中の酸素に配位し,水素結合を形成していると考えられている.水素に配位した酸素を含む配位多面体の圧縮機構は無水の配位多面体の圧縮機構と異なることが予想され,水素位置のほぼ決まっているヒューマイト型構造の圧縮機構は,無水鉱物中,例えば結晶構造が類似しているオリビン,に含まれる水に関して重要な情報を与える可能性がある.また,天然のヒューマイト鉱物に見られるOHとFの置換は,電価的には等しい置換であるが,構造的には配位多面体の結合距離などに関して大きな違いを生じさせており,OHとFの置換による圧縮機構の違いについても着目する必要がある.本研究では,これまでに得られた高圧下における構造解析データを用いて,高圧下におけるヒューマイト族鉱物の結晶構造の変化の特性を明らかにすることを目的とする.
     実験は,放射光施設(KEK,PF)を利用し,BL-10Aに設置されている垂直型四軸自動回折計および実験室に設置している四軸自動回折計(AFC-7S,MoKa,l=0.7107,50kV,40mA)を用いて回折強度の測定を行った.圧力発生には改良型ダイアモンドアンビルセルを用い,圧力媒体にはメタノールエタノール4:1の混合液を使用した.圧力はルビー蛍光法により決定した.試料には,天然のコンドロ石,ヒューム石,合成コンドロダイトを使用した.
     ヒューマイト族鉱物において,陰イオンのパッキングの程度と体積弾性率の間に正の相関が見受けられるが,同じFo-Brライン上にあるphase A相については,この相関からやや外れる傾向が見られ結晶構造の相違を反映していると考えられる.ヒューマイト族に見られる圧縮の特徴は上記のOHが配位する八面体において特徴的な違いが見受けられ,F置換された場合との圧縮率の差が大きい.また,これに関係してパッキングの程度と体積弾性率の相関についても結晶構造を支配する配位多面体,特に,八面体の配列と圧縮機構が関係していることが予想されるが,現在解析中でありこれについて発表する予定である.
  • 野守 寛典, 菅原 正彦, 山中 高光
    セッションID: K3-23
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1.はじめに
     これまで、高圧力下における結晶構造について多くの研究がなされているが、電子密度の圧力変化に関する議論は数少ない。圧力変化に伴う結晶構造や諸物性の変化を理解するうえで、結晶内の電子状態を把握することは大変重要である。本研究では、Ilmeniteの圧力変化に伴う結晶構造の変化を調べ、さらに単結晶X線回折強度データを用いてMaximum-Entropy Method(MEM)の計算を行い、結晶内の電子密度分布について論じることにする。
    2.実験方法
     本実験に用いた合成試料は、Fe1.18Ti0.91O3組成(EPMA分析)のIlmenite単結晶である。高圧力発生にはMerrill-Bassett型ダイアモンドアンビルセルを用いた。圧力媒体として、メタノール:エタノール:水の比16:3:1の混合液を用いた。ガスケット材にはReを用いた。圧力はルビー蛍光法により決定した。X線回折実験にはPhoton FactoryのBL10A設置の四軸回折計(波長、約0.7Å)を使用し、5.3GPa、8.9GPaでの単結晶X線回折データを測定した。構造解析にはフルマトリックス最小自乗プログラムRADY89(Sasaki, 1989)を使用した。MEMの計算にはYamamoto et al.(1996)によるプログラムを使用した。
    3.結果と考察
     各圧力における格子定数の結果から、軸圧縮率はβa = 1.31x10-3 GPa-1,βc = 2.36x10-3 GPa-1となり、c軸の圧縮率はa軸のおよそ2倍である。したがって、Ilmenite結晶内ではFeO6八面体とTiO6八面体の共有面に対して垂直方向に強い圧縮を受け、Fe2+とTi4+の陽イオン間に強い反発力が生じると考えられる。それらを取り巻く結晶構造及び電子密度分布に関して考察を行った。
  • 笛吹 孝宏, 栗林 貴弘, 工藤 康弘
    セッションID: K3-24
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    Wollastonite,CaSiO3には(100)での積層がb軸方向に1/2だけずれることにより積層周期が変化することで、さまざまなポリタイプが存在する。主にwollastonite1Tとwollastonite2Mが知られており、ほかにも3T,4T,4M,5T,7Tの存在が報告されている(Wenk 1969; Henmi et al.,1978; Henmi et al., 1983他)。このようなwollastoniteのポリタイプのX線回折パターンではk=2n反射は共通で、k=2n+1反射の周期が異なる。また積層周期が乱れるとk=2n+1反射の回折点はdiffuseする。温度、圧力を変えることでwollastoniteの積層周期が変化するかどうか非常に興味ある問題である。またwollastonite構造の原子配置にはpseudo-mirrorが存在することが知られており、そのような擬対称が温度や圧力でどのように変化するかは興味ある問題である。
     そこで今回はwollastoniteの結晶構造に及ぼす圧力の影響について単結晶X線回折法により調べた。解析に使用した試料は広島県東城町久代産のwollastonite2Mである。高圧下におけるX線回折実験は、四軸自動回折計(Rigaku, AFC-7S, MoKα,Λ=0.71073Å, 50kV, 30mA)に改良型ダイアモンドアンビルセル (Kudoh and Takeda, 1986)を装着して行った。ガスケットにはSUS301を使用し、圧力媒体にはメタノール:エタノール4:1の混合液を用いた。圧力はRuby蛍光法(Piermarini et al., 1975)により決定した。試料サイズは60×60×40μm3である。2.7,4.8,7.0GPaでそれぞれ回折強度を測定した。結晶構造解析にはRfine90(Finger and Prince,1975)を使用し反射の重みにはrobust-resistant法を適用した。尺度因子により比較したFoとFcではk=2n反射の一致具合に比べk=2n+1反射の一致が悪い。2.7GPaでの回折強度データからk=2n反射のみを用いて平均構造を解析するとモデルの一致度を示すRは9.0%, Rwは2.4%に収束する。k=2n+1反射の一致が悪い原因として,積層周期の乱れることで回折ピークがdiffuseし強度を弱く見積もっている可能性が考えられるが,2.7GPaにおけるwollastonite2Mのk=2n+1反射のFoは全体的にFcに比べて系統的に小さい値を示しているわけではない。4.8,7.0GPaでの結晶構造については現在解析中である。
  • 大里 齊, 柿本 健一, 岩瀧 剛司, 荒木 伸和, 栗林 貴弘, 工藤 康弘, 守越 広樹
    セッションID: K3-25
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    次世代移動体通信用デバイスとして、高周波かつ広帯域に対応した高性能表面弾性波フィルター(SAW)が求められており、圧電特性に優れたLa3Ga5SiO14 (ランガサイト)系材料がSAWフィルター基板材料の候補の一つとして注目されている。
     ランガサイトは三方晶系(結晶学データ:空間群P321, 格子定数a=8.1674 c=5.0964(Å), Z=1, Dx=5.7384(g/cm3))であり、Laを含むAサイトは8配位十面体、Gaを含むBおよびCサイトはそれぞれ、6配位八面体および4配位四面体、そしてGaとSiが約1/2ずつ占有するDサイトは4配位四面体からなる。様々な陽イオンで一部置換したランガサイトは異なる圧電特性を示すことが知られており、常圧下におけるX線結晶構造解析結果から、その結晶構造中の各サイト変形能と強い相関があることを論じてきた。
     本研究では、高圧下においてランガサイト単結晶の結晶構造解析を行い、圧電特性発現機構の詳細を調べた。
     Czochralski法により育成したランガサイト単結晶を球形に成形した。四軸型単結晶X線回折装置Rigaku AFCにて回折強度測定を行った。高圧下での測定(3.3, 4.8, 6.1GPa)ではダイヤモンドアンビル高圧発生装置(DAC)を用いた。得られた回折データを、フルマトリックス最小二乗法プログラムRADY(S.Sasaki, 1982)に供して結晶構造を精密化した。
     圧力を印加することで格子定数はa, c共に直線的に減少した。しかし、c軸方向に対してa軸方向の収縮率が約1.5倍と高いことから、a軸方向がc軸方向よりも優先的に収縮するものと考えられる。これは、Aサイト及びBサイトが並ぶ層の上下に二つのCサイトを介した空隙部分が存在することが原因であり、圧力印加により、この空隙部分が大きく収縮したことがa軸方向の収縮の主な要因である。そしてこの収縮によって、Aサイト内で電荷のバランスが崩れ、分極が起こり、圧電性が発現するものと考えられる。
  • 伊東 洋典, 小松 一生, 栗林 貴弘, 長瀬 敏郎, 工藤 康弘
    セッションID: K3-26
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1、はじめに
     ヒレブランダイト(Hillebrandite)とフォシャジャイト(Foshagite)は、ともにポルトランドセメントが水和したときに生成する多様なCaO-SiO2-H2O系鉱物の一つである。本研究では高温粉末X線回折実験を行って、脱水温度までの温度範囲でヒレブランダイトとフォシャジャイトの熱膨張率を求めた。
    2、実験
     実験に用いた試料は、岡山大学の逸見博士に恵与いただいた岡山県布賀産のヒレブランダイトとフォシャジャイトである。両者の混合粉末試料を作製し、100Kごとに温度を上昇させながら粉末X線回折写真を撮影した。粉末X線回折写真の撮影には、イメージングプレートX線回折装置(Rigaku、R-AXISIV++、MoKα線、50kV×40mA)を用いた。最小二乗法による格子定数の計算に使用した回折ピークの本数は、ヒレブランダイトが7本、フォシャジャイトが12本である。各温度における格子定数から熱膨張率を求めた。
    3、結果と考察
     ヒレブランダイトとフォシャジャイトでともにa軸方向の熱膨張率が顕著に大きい。両者の結晶構造を見ると、a軸に近い方向にCa-(O,OH)多面体が稜共有してつながっている。このことから、Ca-O結合の熱膨張がa軸の熱膨張率を大きくしていると考えられる。一方、wollastonite型のSiO4四面体鎖の方向と一致するb軸方向の熱膨張率は小さく、これは
    Si-O結合の熱膨張率が小さいためであると考えられる。また、Ca/Si比の大きいヒレブランダイトの方がわずかに体積熱膨張率が大きい傾向が見られ、Ca-O結合の方がSi-O結合よりも熱膨張率が大きいことを反映していると考えられる。フォシャジャイトではc軸の熱膨張率が極端に小さく、温度上昇とともにa軸とc軸の成す角度βが減少する。これは温度上昇とともに構造中のSiO4四面体がβを小さくする方向に回転していることを示唆する。
  • 寺門 直哉, 三浦 裕行
    セッションID: K3-27
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     粉末法による鉱物の結晶構造解析においては、得られた回折データに対する指数付けを行う事が問題となる。既存の方法では膨大な計算を繰り返す必要があり、解を得るのに時間がかかる。そこで、未知の結晶構造に対して有効となるような指数付けの方法について考察し、短時間で回折データに指数を付けることのできるプログラムの開発を目的として研究を行った。
    指数付けの方法
     本研究では、短時間で全体を把握することができ、探索範囲を絞り込むことで計算時間を短縮できる可能性から、乱数を用いたモンテカルロ法について考察している。今回検討したのは以下に示す方法である。粉末法により得られた回折ピークの格子定数を、乱数により仮定し指数を付ける。指数の付けられたピークデータについて、その妥当性を検討する。妥当なものであれば、仮定した格子定数の近傍を重点的に探索してより精度の高い指数付けを行う。この際問題となるのは、格子定数を評価する指標である。指標が適切なものであれば探索範囲を効果的に絞込むことで計算を短縮化できるからである。
     指標として測定ピークの面間隔dobsからQobs=1/(dobs)2を求め、仮定した格子定数のQcalc値と比較する。ここでQobsとQcalcが十分近ければその格子定数は妥当であると判断し、ΔQ=|Qobs-Qcalc|として残差二乗和(?ΔQ)を用いて格子定数の評価を行う。既知の結晶について正方晶系と仮定して計算したところ、a軸あるいはc軸のどちらかが真の値に近い格子定数の組み合わせでは比較的良い結果が得られたことから、いくつかの組み合わせから新しい組み合わせをつくる遺伝子アルゴリズムが効果的だと考えられる。また、斜方晶系と仮定して計算したところ、同様の傾向を示したが正方晶系ほど顕著なものではなかった。これは、より精度の高い指数付けを行うにはQ値だけを用いた評価では不十分であるためと思われる。
     現在その他の評価関数と、より対称性の低い晶系について検討中である。
  • 三浦 保範
    セッションID: K3-28
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1.電子顕微鏡組織の直接観察:
     100nmオーダーの鉱物(長石)のサブミクロメータースケールの離溶ラメラ組織は,これまで真空中で(走査)電子顕微鏡で透過像か、レプリカ像で観察をしていた。しかし,レーザー光源の使用とコンピューター画像処理により、直接空気中で固体表面が観察できることが分かってきた。
    2.レーザー顕微鏡による離溶ラメラ組織の観察:
     ラブラドライト斜長石(カナダ産、青色イリデッセンス)の(010)面観察で,繰り返し周期組織が観察された。フッ酸処理した双晶表面のエッチング部分は、いずれも離溶ラメラ組織が見られるが、白く散乱してみえる部分は不規則な凹凸組織をしているが、エッチングされていない平坦面部分はきれいに観察できる。いずれも離溶ラメラ組織に特徴的な枝分かれの波状組織が見られる。ラブラドライト斜長石(カナダ産、黄褐色イリデッセンス)の表面観察では,繰り返し周期組織が観察された。この試料も離溶ラメラ組織に特徴的な、枝分かれの波状組織が見られる。
    3.考察とまとめ:
     レーザー顕微鏡により、直接ラブラドライト斜長石(カナダ産、青色~黄褐色イリデッセンス)の繰り返し周期組織の組成差が大きい2種類斜長石の結晶質固体なのでよく観察された。しかし組成差の少なく、ガラスと結晶組織で、サイズが大きな組織である(離溶ラメラの10~100倍程度の幅)衝撃変成石英組織は、離溶ラメラ組織のような明確なほぼ規則的な繰り返し組織が観察できなかった。
  • 横山 信吾, 筒井 政則, 黒田 真人, 佐藤 努
    セッションID: K4-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     ベントナイト-高アルカリ溶液相互作用は、放射性廃棄物処分システムの長期挙動の理解のため、現在多くの研究者によって研究されている研究課題である。ベントナイトは、人工バリアの緩衝材として、圧縮状態での使用が予定されているが、圧縮系での構成鉱物の溶解挙動は、溶出元素の移動、吸着、沈殿や間隙水の溶液化学など様々な因子が関与する複雑系であるために、その理解は非常に困難である。その上、ベントナイトの緩衝能を担うモンモリロナイトの溶解挙動ですら定量的に理解されていない。現在まで行われてきたモンモリロナイト-高アルカリ溶液相互作用に関する溶解実験では、反応セル内での溶解挙動を溶出元素の濃度測定から推論していた。本研究では、原子間力顕微鏡を用いて、モンモリロナイトの溶解挙動をその場観察し、溶解メカニズムについて明らかにすることを目的とした。
    試料および実験方法
     溶解実験に供した試料は、山形県月布産モンモリロナイト(クニピア-P:クニミネ工業)で、遠心分離により0.5-1.0μmの粒子フラクションに分離採取したものである。試料は、イオン交換水によって100mg/lの分散液にして、超音波洗浄器で30分程度分散させた。分散液は、白雲母板上0.8cm2の範囲に40μl滴下して風乾させた。溶解実験に用いた反応溶液は0.3MのNaOH溶液(pH13.3)で、観察試料を静置した60mlのテフロン製ボトルに50mlを加えて密閉し、50℃の恒温器内で4日間反応させた。反応後の観察試料は、直ちにAFM用液中セル内に設置し、0.3MのNaCl溶液で液中セル内を充填して観察した。
    結果と考察
     反応前のモンモリロナイト粒子のほとんどは、単一層まで剥離した状態で雲母基板上に分布し、その粒子サイズは0.5-1.0μmの範囲に分布していた。また、それぞれの粒子は板状結晶であり、その表面にエッチピットなどの凹凸は観察されなかった。溶解実験に4日間供したモンモリロナイト粒子をAFMで観察したところ、一部0.5μm程度の粒子も観察されたが、ほとんどの粒子は溶解により微細化した。また、それらの粒子の粒子厚は反応前の粒子厚と同様の値を示していた。微細化した粒子端面の形状は、反応前と比べて粗雑な形態を示したが、001面にエッチピットの形成等は観察されなかった。この結果は、本溶解実験条件下でのモンモリロナイト粒子の溶解が、001面からの溶解よりも粒子端面からの溶解の進行が極端に早いことを示唆している。酸性条件下でのスメクタイト(ヘクトライト、ノントロナイト、スティーブンサイト)の溶解もまた粒子端面からのみ進行することが報告されており、酸性条件下でもアルカリ環境下でも、スメクタイトの001面は粒子端面に比べ、溶解に対して比較的安定な結晶面であることが推測される。また、モンモリロナイトと同じ2八面体型スメクタイトであるノントロナイトの粒子端面の溶解と本研究の観察結果を比較すると、酸性条件下でノントロナイト粒子端面は、破断面や欠損サイト(粗雑な粒子端面)から比較的早く溶解し、最終的に自形の安定な結晶面が溶液に暴露される。これに対して、今回の観察では、溶解の進行にともなって粒子端面は粗雑になる傾向が示された。この溶解挙動の違いは、異なる反応pHにおけるスメクタイトの表面特性の違いによるものと推測される。
  • 磯部 博志, 丁畑 知未
    セッションID: K4-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     珪藻は,非晶質シリカからなる被殻を持ち,生物起源珪質堆積物の重要なシリカ供給源である。非晶質シリカは続成作用によりOpal-CT (cristobalite, tridymite),Quartzへと結晶化が進行する。珪藻起源堆積物は,多様な組織,結晶化段階を持つものが知られており,カイネティクスを含むそれらの結晶化過程を定量的に理解することは,地表環境に近い条件で起こる続成作用の理解に重要に意味を持つ。本研究では,ほぼ完全な非晶質状態にある天然の珪藻土を用いて,超臨界条件の熱水への溶解とそれに伴う結晶化挙動を検討した。
    実験
     出発物質は,大分県玖珠盆地南部に分布する野上層(第四紀更新世中期)上部の珪藻土層から採取した。この珪藻土は,主によく保存された珪藻被殻から成る。バルク組成はSiO2成分約94wt.%を示し,XRDではほぼ完全な非晶質である。熱水実験は,圧力50及び100MPa,温度範囲300℃から525℃の条件で行った。軽く粉砕した珪藻土約30mgを,同重量の蒸留水と共に銀キャプセルに封入し,テストチューブ型熱水合成装置を用いて加熱した。実験生成物は,内部標準物質を用いたXRDによる結晶相の定量分析,及びSEM観察を行った。
    結果及び考察
     実験生成物のXRD定量分析結果より,結晶質シリカ相(Cristobalite,Quartz)の形成は,温度に依存した遅延の後に結晶相が形成していると解釈される。この遅延時間を誘導期τ0とし,その後逐次一次反応が進行していると仮定することによって,実験結果はよく再現される。Amorphous silicaからCristobalite,CristobaliteからQuartzへの反応に対する速度定数各々k1,k2とすれば,50MPaにおけるそれぞれの活性化エネルギーは45 ± 16kJ/mol,118 ± 18kJ/molである。また,誘導期τ0の対数は,絶対温度の逆数に対し非常によい直線性を示す。100MPaにおいては,k1,k2共に50MPaより3-5倍大きな値を示し,大きな結晶化速度を示した。しかし,誘導期τ0については,大きな圧力依存性は見られなかった。
     SEMによる実験生成物の観察では,Cristobalite結晶化の進行に連れて非晶質シリカである珪藻被殻の存在量が減少している。Cristobaliteは,Opal-CTと思われる球状のlepispheres粒子の集合体として観察される。さらに結晶化が進行すると,lepispheres粒子が溶解し,自形のQuartz結晶が晶出していく。これらの観察結果及び結晶化速度定数の圧力依存性より,Cristobalite,Quartzの結晶化過程を,超臨界熱水への非晶質シリカ,Cristobaliteの溶解挙動と,溶液からの核形成,結晶成長過程を中心に議論する。
  • 小松 隆一, 泉原 功司, 池田 攻, 朝倉 悦郎
    セッションID: K4-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1.初めに
     セメントクリンカーの生成は、大きな非平衡条件下での多成分系の高温融液が介在する反応である。このような多成分融液からの結晶成長では、相平衡図からは予想されない相(準安定相)が析出したり、または平衡からのずれの程度(成長時の過冷却度、組成、不純物濃度)により、融液から成長する相の成長速度や不純物の取り込みが変化し、晶相変化及び多形(準安定相)を生じる。これらの現象は、融液からの成長時の核形成の難易度、融液内の元素の存在形態、拡散速度の違い等の成長カイネテクスに依ると考えられ、これらの現象を明らかにすることは、生成物のキャラクターを制御する上で重要な情報となる。これらの現象の解析には、高温下での鉱物の成長を直接観察することが役立つと考えられる。我々は、高温その場観察装置[1]を作製し、主要セメントクリンカー鉱物であるエーライトの高温その場観察を報告した。[2]
     本報告では、エーライトが成長するセメントクリンカーの間隙溶液組成にエーライト成分を加えて、その高温溶液からのエーライト結晶の成長をその場観察し、実際のエーライト結晶の成長について検討した。
    2.実験と結果
     CaO-SiO2-Al2O3-Fe2O3系の共融組成に、エーライト成分を0.1.3.7wt%加えた組成を原料に用いた。その場観察は、共融組成(0wt%エーライト)では液相から、エーライト添加組成では液相、液相+固相から、各々急冷と徐冷で行った。共融組成からの観察では、急冷では白金粒を中心に持つ10μm程度の六角柱状エーライトが観察された。徐冷では白金だけが結晶化し、後はガラス化した。エーライト添加組成では、液相だけからの観察では共融組成と同じであった。液相+固相からの観察では、急冷では、樹枝状結晶(Dendrite)と白金を中心に持つ10μm程度の六角柱状エーライトが観察された。徐冷ではセメントクリンカーの組織に似た多結晶組織が観察された。
    3.考察
     エーライトの成長は、白金または加熱時に固相反応で生成したエーライトを核に生成し、間隙溶液中にエーライト核が発生するような、自然核生成によっては成長しない。
    4.まとめ
     従来のクリンカー研究には、冷却後の固相を調べる方法が主に採用され、多くの貴重な知見・結果が生み出されてきた。しかし、セメントクリンカーの生成は融液も介在する反応であり、融液側に着目してクリンカー生成を考えれば、今までにない新しい知見が生まれるかもしれないと考えて、セメントクリンカーの成長観察を開始した。本実験からエーライト結晶の生成には、高温溶液と共存する固相が核として重要な役割を担っていることが推定出来、またこれがエーライトの多様性をもたらす原因になると考えられる。
    引用文献
    [1] K. Tsukamoto and I. Sunagawa : Journal of Crystal Growth, 63, pp.215-218 (1983)
    [2]小松隆一ら:Cement Science and Concrete Technology, 55, pp.2-8 (2001)
  • 砂川 一郎, 高橋 泰, 今井 裕之, 山田 滋夫, Jobbins E. Alan, Tinnyunt Emma
    セッションID: K4-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    最近、CVD法で育成した金属、硫化物、セレン化物、窒化物などでヘリカル、コイルなどのトポロジカルな形をもつひげ結晶が見いだされ、1次元導体など利用面も含めて、ひげ結晶についての新しい関心を呼んでいる。鉱物の世界ではこの種のひげ結晶の報告はない。ここで報告するのは、1)透明水晶中に観察されたコイル状のルチルのひげ結晶、2)スカルン晶洞中のヘデンベルグ輝石単結晶上にできたコイル、ヘリカル、カール、リボン、縄状などの角閃石ひげ結晶、および3)2)と同時に形成された霜柱状の石英についてで、いずれも鉱物界でははじめての観察である。
      ルチル入り水晶はジュエリーで広く使われる試料で、インクリュージョンとして含まれるルチルは普通針状を示すが従来ひげ結晶としては認識されていなかった。ミャンマー産透明研磨石中にコイル状を示すルチルひげ結晶が、直線状、わずかに捻れたひげ結晶とともに見いだされた。ルチルひげ結晶はVLS機構を示唆する球状物体を伴わないことから単純なVLS機構によるものではなく、3価の不純物吸着による脱酸素過程が起こり先端面のみがラフニング転移し成長をリードするためひげ結晶が出来たのであろうと考えられる。
      一方、スカルン晶洞中のヘデンベルグ輝石短柱状単結晶の褐色部から選択的に成長しているアスペクト比1000以上に達するコイル、ヘリカル、カール、リボン、縄状のひげ結晶は微小部XRF分析、微小部XRD解析の結果から角閃石族の結晶と同定され、また同時に形成されている霜柱は石英と同定された。トポロジカルな形をしていても、いずれも非晶質ではなく結晶質である。レーザー顕微鏡で角閃石ひげ結晶の頂点には常に組成の異なる球状ないしフイルム状物質が存在することがわかり、これらがVLS機構により成長したと結論できる。リボン、カール状ひげ結晶はフイルムから成長し、その先端でコイル、ヘリカル、縄状の形を取る。これらはすべて太さ0.7μm以下の単位のひげ結晶多数の束で出来ている。単位のひげ結晶1本1本の先端には球状粒子が存在する。トポロジカルな形はこの種の集合成長の結果として現れたもので、また単位のひげ結晶はEshelby twistを示す。同一ヘデンベルグ輝石中に観察される石英の霜柱はその組織、産状、生成機構の全ての面で氷の霜柱と全く等しい。角閃石ひげ結晶、石英霜柱ともにヘデンベルグ輝石成長後に供給された水と硫黄をふくむ気相とヘデンベルグ輝石の反応によって形成され、その後成長した方解石結晶中にインクリュージョンとして取り込まれたものである。
  • 阿部 利弥, 小沼 一雄, 大塚 泰弘, 神崎 紀子, 川崎 雅之
    セッションID: K4-05
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    《はじめに》
     鉱物の成長は、ラフな界面での一様付着成長モデル、スムーズな界面での2次元核成長や渦巻成長モデルで一般に説明がなされている。事実、晶洞などの気相環境で形成された自形鉱物の表面上には、成長ステップによる渦巻が観察されている。しかしながら、マグマ起源、特に主要造岩鉱物に関しては、成長層の観察は殆どなされていない。
     天然鉱物の表面観察では、十分な分解能の観察手法が存在するか、"as-grown"の表面が得られるかが問題となる。観察手法の分解能は、原子間力顕微鏡(AFM)の出現によって格段に向上している。従って、表面状態の良好な結晶さえ準備できれば、ステップ高、間隔によらず成長層は検証できるはずである。しかしながら、マグマ起源の鉱物の場合、成長時の界面が冷却時に変化することなく残っているか、表面が露出した状態が得られるかが問題となる。幸い日本には多くの火山灰が存在し、風化程度も様々である。従って、爆発的な火山噴出により形成された火山灰を探せば、成長状態を示す鉱物が見つかるはずである。本報では、斜方輝石について得られた観察結果を報告する。
    《試料・観察手法》
     第四紀の火山灰であり新鮮な状態が期待できることから、阿蘇4火山灰(70ka)と大山倉吉火山灰(46ka)に含まれる輝石を対象とした。阿蘇4火山灰は風化程度の異なる7試料(大分県および山口県)、大山倉吉火山灰は2試料(鳥取県)を準備した。斜方輝石の表面観察は、分離した結晶を偏光実体顕微鏡で確認した後、微分干渉顕微鏡(DIM)、AFMおよびSEMで調べた。
    《結果・考察》
     阿蘇4火山灰では、火山ガラスに完全に覆われた斜方輝石から、結晶面上に僅かに火山ガラスが部分的に残っているもの、結晶面がほぼ完全に露出したもの、外形が失われる程度に風化が進んだものまで認められた。一方、大山倉吉の2試料では、部分的に火山ガラスが残った状態の自形斜方輝石が顕著であった。
     風化が認められる阿蘇4試料では、エッチピットの形成が認められた。ピットの形成はc軸方向で顕著であるが、a面など低指数面でも見られた。低指数面でのエッチピットは、菱形状逆角錐で対角方向(c軸方向)に伸長したものであり、初期段階では面上でまばらに認められた。風化程度が進むにつれ、ピットは鎖状に繋がりオリジナルな結晶面が失われていた。従って、風化プロセスは結晶界面が律速した緩やかな溶解プロセスであることがわかる。人工的なエッチングなどでは、エッチャントに応じたピット形状の変化も知られていることから、ピット形状が風化環境を反映している可能性もある。
     一方、阿蘇4と大山倉吉の自形斜方輝石のDIM観察では、曲線を基調とする厚いステップが幾つかの結晶において認められた。これらのステップは、弧の内側が高く、外側が低い形状であること、ステップ高が20~40nmで、滑らかなステップフロント状態であることがAFMの観察で確認された。従って、これらのステップは前進ステップであり成長時のものと判断でき、輝石のような複雑な構造をもつ珪酸塩鉱物がマグマ中でも層成長したことがわかる。今回観察された成長層は、単位格子の数十倍に相当する比較的厚いものであり、単位格子程度のものは認められなかった。この厚いステップがマグマに由来する輝石の特徴を示すものか、単分子相当の成長層が見つかっていないだけなのかは判断ができないが、マグマ内での成長単元の状態を反映している可能性もある。
  • 三宅 亮, 北村 雅夫, 下林 典正
    セッションID: K4-06
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    エンスタタイト(MgSiO3)は5種類の相が報告されている。最近、我々のグループでは単斜エンスタタイトの低温相-高温相-高圧相に関して分子動力学シミュレーションを行い、それらの構造や相転移について重要な知見を得、成果発表を行ってきた(Shimobayashi et al., 1998, 2001; Miyake et al., 2002)。一方エンスタタイトの高温相としては高温型の単斜相(空間群:C2/c)とproto相(空間群:Pbcn)が存在する。さらにエンスタタイト-ディオプサイド系の実験において、例えばCarlson(1986)によれば、Caを少し含んだ領域では高温相に再度斜方エンスタタイトが出現するとの報告もある。このように、それらの安定領域の存在に関しては未だ明確にはなっていないことが多く残されている。そこで本研究では、斜方エンスタタイトを出発物質として分子動力学シミュレーションを行った。
     分子動力学(MD)シミュレーションは分子動力学計算プログラム, MXDTRICL (Kawamura 1996, JCPE #077), を用いて行った。初期構造として斜方エンスタタイト(Morimoto and Koto, 1969)を、原子間相互作用モデルとしてクーロン・近接反発・ファン・デル・ワールスおよびモース項からなる2体中心力形式を用い、パラメーターはMiyake (1998)による値を用いた。クーロン項の計算にはエワルド法を用い、6400粒子系(2a x 5b x 8c)で三次元周期境界条件を課し、2fs/stepにて運動方程式を解いた。温度は300-2000Kの範囲で行った。温度制御・圧力制御として強制スケーリング法を用いた。シミュレーションの結果、新たな知見が得られつつあるので、その成果について発表を行う。
    [引用文献]
    ・Carlson W.D. (1986) Contributions to Mineralogy and Petrology, 92, 218-224.
    ・Kawamura K. (1996) JCPE, #077.
    ・Miyake A. (1998) Mineralogical Journal, 20, 189-194.
    ・Miyake A., Shimobayashi N., Miura E., and Kitamura M. (2002) Physics of the Earth and Planetary Interiors, 129, 1-11.
    ・Morimoto N. and Koto K. (1969) Zeitschrift fur Kristallographie, 129, 65-83.
    ・Shimobayashi N., MIURA E., and MIYAKE A.(1998) Proceedings of the Japan Academy, 74B, 105-109.
    ・Shimobayashi N., Miyake A., Kitamura M., and Miura E. (2001) Physics and Chemistry of Minerals, 28, 591-599.
  • 原囿 友輔, 塚本 勝男, Chazhengina Sveta
    セッションID: K4-07
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1. 目的
     モデル物質として常圧下でも形成が容易なTHF(tetrahydrofuran)ハイドレート(融点4.4℃)を用い、結晶化や結晶融解の潜熱の測定より核形成速度を決定する要因を調べた。
    2. 実験
     これら温度変化の測定は以下のようにして行った。THF水溶液(THF濃度10 wt.%から80 wt.%)を一方が閉じたガラス管(Φ= 2 mm)内に注入し、これをAlブロック内に固定された銅パイプの中に挿入し、このAlブロックをペルチェ素子で冷却した。THF水溶液の温度測定は、前述の実験と同じ白金測温体を用いて行った。ガラス管内は5℃から6℃で数分間保持された後、約3分で-10℃以下まで冷却した。目的の過冷却度に近づくと、冷却速度を調節することで温度が定常的になるようにした。その後、静かに結晶化が始まるのを待った。ここでは、結晶化潜熱による温度上昇により核形成時期を検出し、核形成の誘導時間を求めた。また、その結晶化時の温度履歴、自然放冷による結晶融解時の温度履歴のデータ解析を行った。
    3. 結果
     THF濃度19 wt.%(理想的なTHFハイドレートの組成比)では、-16.8℃付近を境として僅か1 K以下の過冷却度の違いにより核形成までの誘導時間が数分程度から数時間以上に劇的に変化することが確認された。
     次に結晶融解時の温度変化を調べると、-2.0℃、3.0℃付近と2種類の固液共存状態が見られた。これらはTHF-H2O系の相平衡関係よりそれぞれ氷とTHFハイドレートの融解を示しており、THFハイドレートだけでなく氷も結晶化していることがわかった。さらに結晶化時の温度履歴を詳しくみてみると、大なり小なり2つの発熱ピークが見られた。融点の測定により、このうち一方はTHFハイドレート、他方は氷の結晶化潜熱によるものであることが分かった。
     以上より、先に氷が結晶化した時は核形成までの待ち時間が数分と極端に短くなるということがわかった。他のTHF濃度における実験でも同様の結果が得られた。
    4. 結論
     10%から80%THF濃度のTHF水溶液からのハイドレート核形成速度は、前駆現象としての氷の核形成速度に大きく依存する。つまり、氷が先に核形成するとハイドレート核形成までの待ち時間が極端に短くなる。この原因としては、氷結晶表面でのハイドレートの不均質核形成、氷結晶化の潜熱によるローカルな対流からのゆらぎの増大などが考えられる。
  • 横山 悦郎, 入澤 寿美
    セッションID: K4-08
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    隕石中に多数含まれるバードオリビン・コンドリュールの組織は、外周のリム部とバー状の内部組織に分けられる。これまで多数のバー状組織再現の実験があるが、リムを含む二重組織の再現は最近の浮遊実験[1]で初めて可能になった。このリムの形成は非常に限定された環境でのみ可能と考え、過冷却融液からなる液滴の内部固化過程を3次元1成分系のフェイズ・フィールド・モデル[2,3]を使ったリム形成シミュレーションを行った。数値実験で作られた結晶は,直径1ミリ程度の融けた珪酸塩の液滴が10秒程度で急冷されてできた内部固化パターンを示す。我々のモデルは、ハイパー・クーリングとよばれる超高過冷却条件で、更に液滴サイズが大きい場合リム組織が形成されることを示す。
     フェイズ・フィールド・モデルとは、固相ではphi=0、液相ではphi=1となる変数phiを導入し、固体・液体界面で0から1まで連続的に変化する厚みのある界面を導入するモデルである。場所と時間の関数である変数phiに関する場のダイナミックスは,局所的なエントロピー生成から導かれる時間発展方程式で記述される。局所的なエネルギー保存則と局所的なエントロピー生成則の時間発展連立方程式を数値的に解くことによって温度場Tと変数phiの場が得られる。通常、界面はphiの位置にあるとする。モデルでは核形成の過程は考慮されていないので、初期条件として液滴表面に一カ所適当なサイズの種結晶を置く。
     数値実験によって得られた固化パターンは、パラメータS及び無次元化された液滴の初期温度で整理される。パラメータSは、融点とコンドリュール外部の温度の差を潜熱と比熱の比で割ったもので与えられ、過冷却度の大きさを表す。
     数値実験の結果、以下のことが分かった:
    1)液滴の初期温度が融点以上でなければリム構造が形成される可能性は低い。
    2)薄く同じ厚みのリム構造が形成されるには、大きなS即ち、高い液滴初期温度と小さい潜熱が必要である。これは、ハイパー・クーリングとよんでいる条件に対応する。
    3)高い液滴初期温度と小さい潜熱という条件下でも、初期結晶のサイズが小さいとリム構造が形成されない。即ち、リム形成の臨界サイズ(下限)が存在する。従って結晶サイズもコンドリュールの内部構造に大きな影響を与えている。

    [1] K. Tsukamoto {\it et al.} in preparation.
    [2] S.-L. Wang and R. F. Sekerka, J. Computation Physics 127, 110-117(1996).
    [3] R. F. Sekerka, in {\it Advances in Crystal Growth Research}, Eds. K. Saito, Y. Furukawa and N. Nakajima, Elsevier, Amsterdam(2001).
  • 塚本 勝男, 長嶋 剣, 佐藤 久夫, 栗林 一彦, 小畠 秀和
    セッションID: K4-09
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    宇宙や微小重力空間での結晶化の大きな特徴に、無容器による結晶化があげられる。重力空間でメルトを保持するには容器が必要であるため、通常の核形成は容器壁などからの不均質核形成が避けられない。そのため、メルトに過冷却をつけると容易に核形成が生じる。それに対して、微小重力や超音波浮遊などの方法でメルト球を空間に浮遊させると核形成は大幅に遅れることが知られており、冷却中のメルトでは数100K~1000K程度の驚異的な高過冷却状態が容易に得られる。これらの浮遊法を珪酸塩メルトからの結晶化に応用すると、宇宙空間でのコンドリュールなどの結晶化を模擬することが可能である。
     今回は主に超音波浮遊法によるバードオリビンコンドリュールの再現を行った。直径2mm程度の様々なオリビン組成のガラス・結晶球を浮遊させた後、Arガスレーザーで加熱融解する。その後、放射冷却しながら結晶化過程を高速度カメラでその場観察する。冷却中のメルト温度は2波長パイロメーターでスポット測定する。
     結晶化には300K~1000Kの超過冷却状態が必要である。結晶化は0.1~3秒で完了する。この急速な結晶化に伴い潜熱の放出が確認でき、過冷却メルトは融点温度まで容易に復熱する。この一連の結晶化実験の結果、バードオリビンコンドリュール組織ができる過冷却度は300K~400K程度と結論できる。重要なのは、この浮遊法により外周にリム部、内部にバー状組織をもつ天然組織が初めて再現できたことである。
     これらの結果より、放射冷却速度と結晶成長速度の競合による2重構造をもつコンドリュール形成モデルが提唱できる。
  • 長嶋 剣, 塚本 勝男, 佐藤 久夫, 横山 悦郎
    セッションID: K4-10
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    46億年もの間、ほとんど変質を受けていないコンドライト隕石にはコンドリュールと呼ばれる直径0.1-1 mmの珪酸塩球結晶が多量に含まれている。コンドリュールは液滴が急冷されることで形成したことがわかっているが、地上では見られない特徴的な結晶組織も見られ、その形成メカニズムは不明な点が多い。その大きな理由の1つとして、コンドリュールは宇宙空間で浮遊していた液滴から結晶化したため実験的アプローチが困難であることがあげられる。そこで、ガスジェット音波浮遊炉を用いて試料を浮遊させ、宇宙空間をシミュレートした非接触実験を行った。対象としたのは球表面から放射状に伸びる組織をもつ放射状輝石コンドリュールであり、出発物質は試薬を調合して加熱冷却し、直径2-3 mmの球形結晶やガラスにしたものを用いた。
     ガスジェット浮遊炉による非接触実験では冷却中に結晶化は起こらずにガラス化した。これは不均質核が無いために核形成が抑制されていると考え、数百Kという超高過冷却状態で数分ほど結晶化を待ってみたがそれでも結晶化は起こらず、10分ほど様々な温度履歴を与えたが結局結晶化させることはできなかった。このように、非接触状態では非常に強く核形成が抑えられてしまうため、容易に高過冷却状態が実現することがわかった。
     コンドリュール形成環境である原始太陽形星雲は惑星の材料物質であるダスト微粒子が大量に存在していた状態であり、このような環境では少なくとも数分オーダーでダスト微粒子との衝突を免れることはできない。よって、放射状輝石コンドリュールは自発的な核形成の前に、接触したダスト微粒子による不均質核形成が起こることが示唆される。
     直径0.1 mmの白金ワイヤーで試料を固定すると同時に不均質核を与えた実験を行ったところ、400-550 Kという超高過冷却状態で放射状組織が形成することがわかった。結晶成長速度を測定すると、過冷却度が大きくなるにつれ増加するが、あるところでピークを持ち、放射状組織が形成するような超高過冷却状態では逆に減少する傾向が見られた。これは高い粘性のために結晶成長速度が抑えられているためと考えられる。
     この傾向は結晶組織の形成に影響を及ぼす。放射状輝石コンドリュールは、同様に完全溶融メルトから形成したバードオリビンコンドリュールとは異なりリム構造を持たない。コンドリュールメルトは表面から冷えていくために表面の結晶成長速度が速まる傾向にある。しかし、放射状輝石コンドリュールメルトの場合は、表面が冷えすぎると逆に成長速度が低下するため、リム構造が形成されないことになる。
     実験結果をまとめると、放射状輝石コンドリュール形成プロセスは以下のようになる。(1) 急冷されながら400-550 Kの超高過冷却状態になるが結晶化は起こらない。(2) ダスト微粒子と接触しメルト表面で不均質核形成が生じる。(3) 結晶化は低温である表面ではなく高温である内部へと放射状に進行しコンドリュールが完成する。
  • 佐藤 岳志, 上辻 勝也, 木村 勇気, 鈴木 仁志, 谷垣 俊明, 城戸 修, 車田 真実, 墻内 千尋, 塚本 勝男
    セッションID: K4-11
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    物質創製や材料加工の分野において、プラズマ技術は幅広く利用されてきているが、プラズマ中での物質との相互作用に関する系統的な実験的研究はほとんど行われていない。そこで宇宙でのプラズマと粒子の相関に着目し、ガス中蒸発法にプラズマフィールドを導入し、ベルジャー内に設置した平行平板電極間にRFプラズマ(13.56MHz)を発生させ、下方に設置したカーボン棒を簡易アーク放電法により蒸発させ粒子を創製し、その粒子をプラズマ中に直接流し込んだ。メタンガス中では、オニオン状の粒子が多く創製されるが、プラズマ中を通過させるとその構造は、グラファイト板状の結晶に変化し、その中には、スフェリカルカーボンやナノチューブも多く生成していた。粒子がプラズマ中を通過する速度は非常に速いことから、これらの構造は瞬間的に形成され結晶成長している。雰囲気ガスにヘリウムを選択し同様の実験を行ったところ、300nmのフラーレン単結晶の成長が見られた。これらの結果は、最近、隕石中で発見されたフラーレン関連結晶や、カーボンナノチューブの存在を裏付ける結果としても重要であると考えられる。
  • 上辻 勝也, 墻内 千尋, 木村 勇気, 鈴木 仁志, 佐藤 岳志, 谷垣 俊明, 城戸 修, 車田 真実, 塚本 勝男
    セッションID: K4-12
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    SiOxは酸素リッチスターや銀河中心に見られる10から20μmの赤外吸収バンドの起因の物質と考えられており、その構造は天文学において重要なテーマとなっている。しかしその蒸着膜、微粒子はアモルファス構造をとるのでその解析は難しく、構造は明らかにされてはいなかった。当研究室ではSiOxに関して高分解能電子顕微鏡像、電子回折パターンの解析、RDF解析をもちいて研究を行い、赤外吸収のピーク位置の変化はSiO2の多形により説明できることを示した。本研究でSiO,SiO2微粒子の真空中加熱による構造変化の様子をin-situで観察し、構造の変化や結晶化について調べた。その結果、SiO微粒子の真空中加熱によりSiO微粒子中にSi微結晶が成長することを明らかにした。900℃ではSiO微粒子全体がアモルファス構造に変わり、その一部が蒸発することを見出した。真空中加熱後のSiO微粒子はSi,β-クリストバライトからなっている事がわかった。SiO2微粒子の真空中加熱実験では800℃付近で焼結をおこし粒子同士が接合すること、蒸発-凝縮の結果としてSi微結晶が生成する事がわかった。900℃ではSiO微粒子の加熱実験と同様に共晶融合による部分蒸発を起こすことがわかった。
  • 小畠 秀和, 塚本 勝男, 佐藤 久夫, 長嶋 剣
    セッションID: K4-13
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
     惑星間微粒子の形成メカニズムを明らかにすることは、太陽系における固体物質の初期進化速度を考える上で重要な課題である。本研究では初期太陽系における惑星間微粒子の核形成速度のガス過飽和度依存性を明らかにするために、惑星間粒子として代表的な物質であるforsterite (Mg2SiO4), enstatite (MgSiO3)を出発物質に用いた蒸発・凝縮実験を行った。
    2.実験方法
     地上での実験では凝縮粒子形成場の温度・濃度環境が対流によって乱されるため、凝縮粒子の核形成速度を求めることは難しい。この対流を抑制するために、本研究では落下施設(MGLAB)を利用した微小重力環境下において実験を行った。Wフィラメント(5mm)に付着させた粉末状の出発物質を実験前に融解させ、ガラス化したものを蒸発源に用いた。このフィラメント(12V, 50W)に3.0秒間通電することで出発物質を加熱し、蒸発させた。出発物質の加熱はAl真空チャンバー(内径: 60mm, 高さ75mm)内で1.0×100-1.0×105PaのAr雰囲気下で行った。凝縮粒子形成過程を明らかにするために、チャンバー側面にあるビューポート(Φ= 30mm)から広視野レンズを取り付けたCCDカメラによる凝縮粒子形成過程のその場観察を行った。凝縮粒子生成温度の決定は、多波長放射温度計による蒸発源の表面温度測定及びPt-PtRh13熱電対(Φ= 0.1mm)による蒸発源周辺のガス温度測定を行い、蒸発源近傍のガス温度分布を求めることで行った。実験後に凝縮粒子を分析するために、Al板(5×30mm)及び透過電顕用グリッドをチャンバー内に固定し、蒸発源から5-30mmの場所で凝縮微粒子の回収を行った。回収した凝縮微粒子の解析はSEM, TEMを用いて行った。
    3.結果,まとめ
     その場観察の結果、加熱開始から0.1秒後にenstatiteメルト(2000℃)近傍から球状に粒子雲が広がっていくことが観察された。さらにその約1.0秒後に再度、enstatiteメルト近傍から粒子雲が広がっていくことが観察された。観察された粒子雲の移動速度(5.0mm/s.)はガス拡散速度(44.7mm/s., Ar-O2, 20℃,1atm)よりも遅く、粒子(100nm)の拡散速度(0.8mm/s.)よりも早いことからこの煙雲の広がりは微粒子の核形成フロントの移動によるものであると考えられる。高分解能SEMによる観察及びEDSによる組成分析により、初めに凝縮した粒子は数100nm のsilica粒子であり、それらは互いに付着することで1μm程度の凝集体を形成していた。2度目に凝縮した粒子は、一方向に伸長した1μm程度の方形enstatite粒子であった。蒸発源からの距離が10mmの場所ではガス温度は600K 程度であり、silicaが安定相となる。しかしenstatiteに対しても蒸発ガスは1760Kの過冷却状態となっているため、enstatite粒子は核形成することができたと考えられる。平衡凝縮論では粒子の凝縮順序はforsterite, enstatite, silicaである。しかし、今回の実験は、従来考えられてきた凝縮順序とは逆に高過冷却状態のガスでは表面張力の違いにより、silica粒子がforsterite粒子やenstatite粒子のよりも早く核形成するという事を示す。
  • 武田 弘, 大槻 まゆみ, 石井 輝秋
    セッションID: K4-14
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    太陽系の始原的物質であるコンドライトより太陽系最初期に形成された部分溶融物は、分化した隕石のユークライトとは異なるアルバイトAbとダイオプサイドDiよりなる安山岩的物質で1)、D. BogardによるそのAr-Ar形成年代は45.2億年ともっとも古い値を示す1)。このような物質は、IAB鉄隕石のカド・カウンティー隕石中に我々により最初に発見されたが1)、類似の物質でもっと大規模に濃集したものは、IEタイプの鉄隕石にも見つかった2)。しかし、IAB物質はコンドライト的物質の再結晶した部分と混在し、その組織は隕石衝突の際に撹乱されており、濃集機構を推定するには困難があった。今回報告するのは、新しく入手したカド・カウンティー隕石の2試料に発見された部分溶融物を主とする単独の包有物である。2種の試料より作成した2枚の岩石研磨薄片(PTS)の光学顕微鏡画像およびEMPAによる鉱物分布図につき、その形成機構を推論した。
     1つのPTS(EH)ではケイ酸塩包有物の5分の1をしめる2mmに達する丸みをおびた自形のDiと、双晶したNaに富む斜長石Abよりなる。Abは小さな楕円状のカンラン石および斜方輝石をポイキリティックに包有する。Di結晶中にはカーブした線上に分布する不透明鉱物の包有物があり、斜方輝石の不定形の包有物もある。まわりに分布する鉱物粒は、DiとAbに比較して異常に小さく、まわりには2,3の閃マンガン鉱粒を含むトライライトがあり、金属鉄部分に移行する。もう1つのPTS(027)は大きな鉄隕石部分はなく、金属鉄とトライライトのネットワークが分布しているケイ酸塩包有物である。この中にEHと同じく大きな丸みをおびたDi結晶と双晶したAbがある。Abは楕円状のカンラン石をポイキリティックに包有する。これらの異常に大きな結晶に接して斜方輝石の結晶が1つあり、他の部分は金属鉄・トロイライトの脈が、小さな結晶の粒界に分布している。この斜方輝石は同時消光するきわめてきれいな結晶であるが、その中に少しカーブした面状に不透明鉱物によりデコレートされた転位の一部と思われる線分が平行に配列する。これはダイオジェナイトの斜方輝石やパラサイト中のカンラン石に見出されるティルトバウンダリーに類似したものが配列している。部分溶融物から結晶したと思われる大きな結晶は複雑な形をした金属鉄・トロイライト脈を包有しており、結晶方位はまったく同じである。これらの脈は部分溶融物の集まった大きな鉱物が成長した時にとり込まれたものと解釈できる。まわりの小結晶をとりまく金属・硫化物脈も、一部分の円弧を残し、1つのより大きな結晶の中に取り込まれたものも観察できる。このような組織とDiとAbの異常に大きな結晶の大きさは、これらの少数の結晶がグレイン・コースニングにより成長したものと解釈され、部分溶融液はその成長を助長するため、まわりのコンドライト的物質部分より供給されたものと思われる。部分溶融物を集めて成長した大きな結晶のまわりの小結晶部分も、大きくは成長しなかったコンドライト的物質の残りと考えられる。小惑星帯の微惑星で起こった部分溶融物の分離、濃集機構は、微少重力下でのFe-Ni-SメルトとCa,Na,Alに富む部分溶融液のマランゴニ対流で移動したことが提唱されているが、グレイン・コースニングも重要な濃集機構の1つと考えられる。
    1) Takeda H., Bogard D. et al.: Geochim. Cosmochim. Acta (GCA) 64, 1311-1327, 2000.
    2) Takeda H., Hsu W. and Huss G. R.: GCA, 67, No. 12, 2269-2288, 2003.
  • 佐藤 久夫, 長嶋 剣, 塚本 勝男, 森下 祐一
    セッションID: K4-15
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    メルト結晶成長は,地球では水の凍結やマグマの結晶化,宇宙ではコンドリュールの凝固に見ることができる.その過程で,結晶は母液の分化によって多様な累帯構造を成長履歴として獲得する.近年,安定同位体を用いた詳細な結晶成長履歴の解析が可能となり,結晶の分別挙動が,不純物などの元素のみならず同位体レベル(Morishita and Satoh, 2003)で高精度に理解できるようになった.メルト結晶成長の場合,FZ結晶育成法に見られるように,過冷却支配で結晶成長速度は変化する.地球の溶岩などでは通常,約200K程度までの過冷却で結晶化が進行するが,宇宙空間でのコンドリュール形成においては,微小重力,無容器環境では,核形成が極端に阻害されるために,600Kを超えるような非常に大きな過冷却を伴って結晶化することが可能である.したがって,過冷却をパラメータとした同位体と元素の分別挙動についてはコンドリュール再現実験を行うことで理解が深まる.低過冷却メルト結晶成長実験は従来型FZ装置を用い,超高過冷却メルトの結晶化実験にはFZ下軸シャフトを改良した,ガスジェット浮遊装置を用いた.オリビン+斜長石および輝石+斜長石組成コンドリュールメルトの凝固過程において,オリビンへのCa/Mg分配と18O/16O分別の評価はEPMAとレーザープローブを用いた.その結果,それぞれの過冷却度δT=1000, 500K近傍で,その分配係数が約1.0に収束することがわかった.そのときの18O/16O分別係数αx-mも1.0に近づく.通常,マグマにおける低過冷却でのオリビン結晶化では18O/16O分別は低温であるほど小さくなるが,高過冷却メルトでは,結晶への不純物や同位体の選択性がなくなる方へと変化する.超過冷却条件(低温)では,メルトの拡散の低下,粘性の増大に伴い成長速度が減速するため,固液間での動的な分配機構(e.g., BPS model)は考えにくい.従って,固液間の元素や同位体の分配が,単純に温度の関数として働いていると考えると,超過冷却のような極限状態では,もはや古典的な分配関数の考え方が適応できないことになる.しかしながら,このような環境がメルトに与えられれば,FZ結晶育成ではまだ合成できていない「同位体均質結晶」が合成できるであろう.
  • 鹿内  美芳, 飯石 一明
    セッションID: K4-16
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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     天然の珪酸塩ガーネットは組成やイオン半径、格子定数とモルフォロジーの間に一定の関係が見られる(Kostov,1968)。本研究ではバナジン酸塩ガーネット;{NaCa2}[M2](V3)O12, (M=Ni,Mg,Cu,Zn,Co,Mn)に着目した。天然のバナジン酸塩ガーネットにおいては{NaCa2}[Mn2](V3)O12ガーネットは{110}からなる12面体を示し(Basso,1987)、{NaCa2}[Mg2](V3)O12ガーネットは{211}に富む{211}と{110}を示している(Krause,1999)。そこで上記6種類のバナジン酸塩ガーネットを合成し、モルフォロジーが組成や過飽和度とどのような関係にあるかを研究することを目的とした。
     単結晶育成はフラックス法で行う。フラックスとしてセルフフラックスであるV2O5を用いる。目的物質であるバナジン酸塩ガーネットとフラックスであるV2O5は共に酸・アルカリに溶解する。そのため、常温に戻した後に取り出すことが困難である。そこで、合成は種結晶を用いて行い、高温で育成中の結晶を取り出すことにした。徐冷実験の準備として各ガーネットのシード挿入温度、徐冷開始温度および結晶を引き上げることの可能な徐冷終了温度を決定した。まず、十分溶融した試料をある温度まで急冷し、液中の温度が一定になった後、シードを液中に挿入し二日間保持する。二日後、引き上げたシードの溶融の程度や引き上げられるかどうかを観察した。その結果を参考にして実験を行い、以下の結果を得た。
     {NaCa2}[Zn2](V3)O12ガーネットにおいて徐冷開始温度830℃、徐冷終了温度790℃の範囲で徐冷実験を行った。この結果、1mm程度の無色から褐色の結晶が多数、シードを媒体としてシード上にくっついて形成していた。モルフォロジーは{211}からなる24面体結晶であった。一方、徐冷終了温度を820℃にして、徐冷実験を行ったところ、{110}面からなる12面体結晶が得られた。このことは、Heimannらがガーネットの成長形では温度低下と過飽和度上昇に伴い{110}面より{211}面が優勢になると予測したとおりである。つまり、徐冷終了温度790℃が820℃よりも低温、高過飽和度状態にあるので{211}面の結晶が得られたと考えられる。
     {NaCa2}[Zn2](V3)O12ガーネットにおいてHeimannらの予測を確認するため、低過飽和度および高過飽和度におけるモルフォロジーの再現性を見る。また、{NaCa2}[Zn2](V3)O12ガーネット以外のガーネットについても高過飽和度と低過飽和度における比較実験を行う。さらに、相平衡図から{NaCa2}[M2](V3)O12ガーネット(M=Ni,Cu)は低過飽和度状態での結晶育成は困難であるので、6種類のバナジン酸塩ガーネットを高過飽和度状態で、なおかつ過飽和度を一定にして合成実験を行い、組成の違いがモルフォロジーにどのように影響するのかを比較・検討する。
  • 橋本 綾子, 長瀬 敏郎, 栗林 貴弘, 工藤 康弘
    セッションID: K4-17
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     c軸の両方向にr{101}およびz{011}成長面からなる錐面をもつ両錐水晶は、特定の産地で産出する。両錐水晶の成因の一つは、一方向に成長した水晶が途中で折れ、その破断面が成長し新たに錐面が形成するというものである。破断面上にいくつもの錐面が現れ成長を始めるが、成長するにつれてこれらは統合し、一組のr面とz面からなる錐面となる。破断面上に現れた錐面はrもしくはz成長面とは一致しない。また、破断面からの成長は他の面の成長よりも速い、その内部組織は産地により異なる、などの特徴がある。共焦点レーザー顕微鏡およびカソードルミネッセンス(CL)による成長組織の観察ならびにその解析より、破断面からの成長過程の詳細を明らかにする。
    研究方法
     試料には、宮崎県板谷産および中国四川省産の両錐水晶を用いた。頭頂部を通る(110)に平行な薄片と、(001)に平行な薄片を作成(厚さ1-2mm)し、観察用の試料とした。切断面を研磨後、カーボン蒸着し、この断面をCL(Gatan社製miniCL)で観察した。また、四川省産の両錐水晶は、c軸に垂直に頭頂部を切り出した後、銀蒸着し、頭頂部の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、共焦点レーザー顕微鏡(KEYENCE社製vk-8510)を用いて面角を解析した。
    結果と考察
     CLによる結晶内部の成長縞の観察から、四川省産の両錐水晶は、一方向に成長した石英が途中で折れ、その破断面から成長してできたと考えられ、破断面から成長してできた頂点部にはスムースなr面ならびにz面とラフな(001)面がみられる。このラフな{001}成長分域の(110)切断面のCL観察では、c軸にほぼ平行な縞模様の組織と、それに直交するジグザグな成長縞がみられる。また(001)表面上には、いくつもの三角錐の成長丘が観察される。
     ある成長面と (001)面との面角をρ、(110)面からの方位角をφとすると、成長丘斜面のρは約45°、φは約0°である。破断によって生じたラフな(001)面からスムースなrおよびz成長面への変化過程では、(001)面上に三角錐の成長丘が現れ、その錐面はξ(2-12)成長面(ρ=47°、φ=0°)に近づくと考えられる。破断面上の成長では、破断面からの成長速度が他の面の成長よりも速い要因としては、ラフな(001)面の成長によるためと考えられる。成長速度の速い(001)面は縮小し、成長速度の遅いr、z面が発達することによって新しい錐面が形成されたと考えられる。
     板谷産の両錐水晶の(001)に平行な薄片のCL像には、φが0°の六角形の成長縞が観察され、四川省産試料と同様な成長過程により、両錐水晶が形成されたと考えられる。
  • 福良 哲史, 角森 史昭, 鍵 裕之
    セッションID: K4-18
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    【序】
     鉱物は等価でない多様な結晶面を持っている。ミクロンオーダー以下の領域の局所的な原子レベルでの溶解過程の観察は、原子間力顕微鏡(AFM)等を用いた研究が行われているが、ある結晶面全体の平均的な溶解速度が結晶面によってどのように異なるかは、局所的な観察方法では明らかにしにくい。本研究では、面の局所的な溶解ではなく、結晶面の溶解というマクロなスケールで、鉱物の水への溶解速度が結晶面によってどのように異なるのかを調べることを目的とした。そこで、鉱物が溶解する際に結晶表面近傍のイオン濃度変化を測ることのできる装置を製作した。また、サンプルは多様な晶相をもつ代表的な鉱物、方解石(化学組成CaCO3)を用いた。
    【装置の作製と実験方法】
     結晶の溶解過程は、イオン濃度に敏感な蛍光色素を用いて、液中のイオン濃度の分布を通して見積もることとした。そこで、特定のイオンに活性な蛍光色素を溶媒に加え、溶ける結晶面近傍の蛍光スペクトル変化を測定することのできる、レーザー共焦点光学系を作製した。この装置は溶液中での位置選択性が高く、また、時間分解能・濃度感度も高い。具体的にはNA0.95の対物レンズの使用で、長軸直径20μm、短軸直径10μm程度の回転楕円体を測定領域とすることができた。また、一次元CCDと刻線数600/mmの回折格子を備えた小型マルチチャンネル分光器(USB2000)を用いることで、50msごとにスペクトル測定が可能となった。本実験で用いている蛍光色素はサブマイクロ秒の応答性を持っているので、蛍光スペクトルの形状変化は溶液中のイオンの拡散律速となっている。
     まず、倒立顕微鏡ステージの上に台座のあるカバーガラスを置き、台座の上に方解石を乗せた。焦点領域を結晶表面から90μmの所へ固定し、そして、pHによってスペクトルが変化する蛍光色素、SNARF-1水溶液(3μ/mol)を方解石の下に導入することで、方解石の特定の面を溶解させた。SNARF-1の励起光にはAr+レーザーの514.5nm光を用いた。本実験で測定を行った結晶面は(10-14)面、(10-10)面、(01-18)面である。実験は開放系で行った。なお、用いた蛍光色素SNARF-1はpH=6~9の範囲でスペクトルの変化が起こる色素であり、方解石の溶解には影響を及ぼさないことが確かめられている。
    【結果】
     SNARF-1水溶液が流し込まれると、最初蛍光スペクトルは580nm付近と640nm付近に二つのピークを持っていた。その後、方解石が溶解し、液中のpHが上昇するにつれて、短波長側のピークが弱まり、最終的には640nm付近の長波長側のピークのみが残った。得られた蛍光スペクトル変化を解析するために、あらかじめpHのわかっている溶液を用いてSNARF-1水溶液のスペクトルの校正を行った。SNARF-1はpH=9付近では蛍光スペクトルの形状変化を見積もることが難しいため、液中のpHが6から8に変化するまでの時間を溶解時間と定義し、各面ごとの溶解時間の比較を行った。解析の結果、(10-14)面、(10-10)面、(01-18)面の3面の中で、劈開面である(10-14)面が最も遅く溶解し、(10-10)面が最も速く溶解することがわかった。
  • 富岡 尚敬, 齋藤 恵子, 伊藤 英司, 桂 智男, 藤野 清志, Das Kaushik, 小川 久征
    セッションID: K4-19
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     激しい衝撃を受けた石質隕石中の衝撃溶融脈(shock vein)中にはメルトから晶出した様々な高圧鉱物が発見されており,その鉱物組み合わせと,高温高圧実験で得られた相平衡から,衝撃変成の温度・圧力履歴が議論されている.しかし,隕石におけるメルトの結晶化は非平衡過程であり,生成相がメルトの結晶化圧力を示しているのか,また,結晶化圧力は衝撃変成のピーク圧力を示しているのか,は未だ不確定である.本研究では高圧下でのコンドライトメルトの急冷実験を行い,冷却速度と結晶化様式を比較することを目的とした.

    実験
     Forestburg隕石(L4)をメノウ乳鉢で細粒(~10 μm以下)にしたものを出発物質とし,2種類の高圧装置を用い,メルトの高圧下での急冷実験を行った.1)出発物質をグラファイトカプセルに封入, 岡山大固体地研のKawai式高圧装置(KHA)を用い,レニウムヒーターにより~23 GPa, 2000℃以上の条件で加熱.加熱終了後,ヒータ電源をOFFにし,高圧下で急冷した.2)出発物質を北海道大理学部のダイヤモンドアンビルセル(DAC)で加圧(31.6 GPa),YLFレーザーで~2100℃で加熱.加熱終了後,レーザー出力をOFFにし,急冷した(加熱後圧力25.1 GPa).以上1),2)の回収試料をSEM, ATEMにより解析した.

    結果と考察
     今回の急冷時の圧力はいずれの実験も,コンドライトにおいてmajoriteがリキダス相となる圧力範囲(14-26 GPa)である(Agee et al. 1995).KHAの試料は,ほぼ全体が樹枝状構造をしており(幅数μm),メルトが急冷時に結晶化したことを示している.最もdominantな相はmajoriteであり,化学組成は(Mg3.09, Fe0.50, Ca0.12, Al0.16, Si3.87)O12である.粗粒のmajorite( 数μm)の隙間を埋めるように,Fe-metal, -oxide,-sulfide及び ringwooditeが形成されている.DACの回収試料のATEM観察では,レーザー加熱により溶融した領域は,Fe-Sに富む微小なglobuleが形成されているが,珪酸塩はFe, Alに富むringwoodite(Fe/(Mg+Fe)=0.45±0.10)(300 nm以下)とglassの2相のみであった.強い衝撃変成(S6)を受けたコンドライトの一つである,Tenham(L6)の shock veinは,majoriteがdominantで,化学組成・鉱物組み合わせはKHAで合成されたものとほぼ同じである. KHAによる急冷速度は,103℃/sec ,レーザー加熱DACでは106-107 ℃/secオーダーであり,Tenhamのshock veinの冷却速度は,KHAにおける急冷に近かったと推定される.これまで隕石中のshock veinの冷却速度の見積もりとして, metal-sulfide intergrowth中の樹枝状Feの幅と冷却速度の関係式が用いられている(Blau et al. 1973).これをTenhamに適用すると,shock vein中の樹枝状Feの幅(~0.5-0.7μm)から,冷却速度は106-107 ℃/secとなり,DACによる急冷速度にむしろ近い.しかし,Blau等が実験的に得た関係式には圧力効果が考慮されておらず,高圧下での冷却速度が過剰に見積られている可能性が高い.
  • 萩谷 健治, 大政 正明, 日下 勝弘, 大隅 一政, 飯石 一明
    セッションID: K4-20
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    【序論】
     Co-オケルマナイト(Ca2CoSi2O7)は室温において二次元変調を示す事が見いだされており、二つの変調波ベクトルはそれぞれk1=q(a*+b*), k2=q(-a*+b*)で表される(a*, b*は平均構造における逆格子ベクトル)。その構造は一つのCo四面体とその周りの四つの六配位Ca多面体からなるバンドルによって特徴付けられている。室温で衛星反射を示す不整合相は、高温では衛星反射が消滅しノーマル相へ可逆的に転移する。また低温では整合相へ転移することが見出されている(Riester & Boehm, 1997; Kusaka, 1999)。二つの変調波ベクトルのqは温度の違いにより1/3(整合相)から約0.28まで大きく変動する。Bagautdinov et al. (2002)はCa2ZnSi2O7についてqの変化の精密な測定を行い、qが 60Kから169Kの温度範囲で無理数(1-1/sqrt(2))に近い値でほぼ一定になる(q=0.2927)という、全く新しい現象を発見した。この現象が現れる原因を明らかにすることを目的として、構造変調・相転移等が詳しく明らかになっているCo-オケルマナイトについてqの温度変化を放射光を用いて測定した。
    【実験】
     実験には、Floating Zone法により合成したCo-オケルマナイト単結晶を用いた。KEK・PFのBL-4Cに設置された四軸型回折計(HUBER)により衛星反射のプロファイルをステップスキャンにより測定した。使用したX線はE=18keVである。N2ガスフロー型試料冷却装置(Oxford)と自作のガスフロー型電気炉を用い、約90から500Kの温度範囲で測定を行った。q値の変化にはヒステリシスが見られることが判っているため、一旦530K程に加熱しノーマル相に転移させた後、室温まで温度を下げ、降温過程について約90Kまで測定した。この後、徐々に温度を上げ昇温過程について測定した。
    【結果】
     測定した衛星反射のプロファイルをガウス関数によってフィッティングし、ピーク位置からqの値を各測定温度について求めた。この結果、Ca2ZnSi2O7で観測された無理数(1-1/sqrt(2))に近い値でほぼ一定になるという現象が約300から240Kの温度範囲で見いだされた。この値の他にも、qの値がほぼ一定になる傾向が見られた。この原因について、変調構造との関連から議論する。また、整合相へ転移すると主反射が2本に分離することを見出した。これは低温整合相が斜方晶系(空間群P21212)の結晶が双晶した物(双晶面:{110})であるという報告 (Hagiya et al., 2001)を支持する結果である。
  • 井口 良一, 津野 宏, 鍵 裕之, 小暮 敏博
    セッションID: K4-21
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    [序論]
     方解石(calcite,CaCO3)は,その生成環境により様々な結晶形態(晶癖,晶相)が出現することが知られている.一方,溶液からの成長実験では,溶液中の不純物や微量元素によって方解石の成長速度が大きく影響することが報告されている.この不純物や微量元素は,溶液より析出した方解石の結晶表面に吸着してその成長を阻害し,また吸着の表面選択性によりその結晶形態に影響するものと考えられる.よって成長した結晶の形態を解析(伸長方向や結晶面の決定)することは,方解石の結晶成長における不純物や微量元素の影響を原子論的に解釈するために重要である.我々は今までの研究で溶液中の微量のLa3+が方解石の結晶成長を大きく遅らすことを報告した[1].本研究では,主に電子後方散乱回折(Electron Back-Scattering Diffraction:以下EBSDと略記)を用いて,La3+の存在下で成長した粒径数μm程度の方解石の結晶形態と結晶方位の関係を調べ,微量元素の結晶形態に与える影響を考察した.
    [実験方法]
     炭酸カルシウムの合成方法は文献[1]に準拠した.一定量のLa3+(5-10μM)を含む,30mMCaCl2溶液と30mMNaHCO3溶液を等量混合し,密閉容器中において約30℃で反応させ,一定時間おきにシリンジを用いてシリコンラバーセプタムより0.2-0.4ml程度の溶液を回収した.溶液中の析出物はシリンジに備え付けてあるフィルター上に分散しており,常温で乾燥させてカーボンを蒸着させた後,高分解能SEM(Hitachi S-4500)およびEBSD(ThermoNoran Phase-ID)による観察・解析を行った.
    [結果と考察]
     X線粉末回折やEBSDによる分析の結果,La3+を加えていない溶液からの結晶相は方解石およびバテライト(vaterite)であることが分かった.この方解石は一般に良く見られる{104}面が発達した菱面体結晶であった.またバテライト結晶は凸レンズ状の形態の単結晶が複雑に入り組んだ構造であり,c軸は凸レンズの中心面に対し垂直であった.一方,La3+を加えた溶液からの結晶相も同様に方解石とバテライトであった.しかし,方解石結晶の形態は時間の経過に従い変化し,約1700分反応させ平衡形に達したと考えられる単結晶は,c軸を中心にして3つの<210>方向(映進面)に沿って結晶が成長した独特の外形を有し,{104}面は見られなかった.またバテライト結晶の形態に関してはLa3+を加えない場合と同様であった.以上のことから,La3+はバテライトには影響を与えない一方で,方解石のある面に吸着し正常な結晶成長を阻害していると考えられる.
    [文献]
    [1]. H. Tsuno, H. Kagi, T. Akagi, Bull. Chem. Soc. Jpn., 74, 479-486(2001).
  • 眞岩 幸治, 中村 博昭, 木村 秀夫, 宮崎 昭光
    セッションID: K4-22
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     包晶系での結晶成長を考える上で、安定相および準安定相の溶解度を知ることは重要である。例えば、分解溶融や包晶反応は、包晶温度上下で準安定相が溶解することにより、その周りに安定相に対して過飽和な液相が生じ、これにより安定相が成長可能となると考えられる。この際、安定相の成長の駆動力となる過飽和度は、2つの固相の溶解度差に起因する。また、2つの固相の液相線以下の領域では、2固相が同時に成長することも可能である。この場合、2固相の成長速度は、それぞれの溶解度から求められる過飽和度と、それぞれの成長カイネティクスによって異なり、これによってどちらの相が優勢に成長するかが決まる。しかし実際には、準安定相の溶解度を測定した例は極めてまれである。本研究は、Sr(NO3)2-H2O系をモデル物質として、2つの固相の安定、準安定領域での溶解度測定を試みた。また、液相中で2固相が共存する場合の、それぞれの成長、溶解挙動のその場観察を行った。
    実験と結果
     包晶温度上下でそれぞれ液相と平衡な、Sr(NO3)2 (α相)およびSr(NO3)2・4H2O (β相)の種晶を用い、種々の組成の液相中で、それぞれの相が成長、溶解する温度を測定することにより、飽和温度を決定した。観察は溶液flow systemと光学顕微鏡を用いて行った。種晶を用いることにより、成長、溶解過程を、個々の相についてその場観察できることが、この方法の利点である。この結果、2固相の液相線は、準安定領域に延長されることが確かめられた。また、2固相の液相線以下の領域では、結晶が溶液bulkに接していれば、2固相が同時に成長することが観察された。しかし結晶が成長し、互いに接触すると、表面濃度の差によって接触界面から準安定相が溶解し始める。この傾向は特に包晶温度以上で顕著である。これは、この温度条件で準安定なβ相の溶解速度が大きいためと考えられる。この結果、2固相の溶液bulkに接している部分は成長を続けるにも係わらず、準安定なβ相は、安定なα相との接触部分から溶解が進み、最後にはα相のみが残る。一方、包晶温度以下の温度条件では、準安定なα相の溶解速度は、安定なβ相の成長速度に比較して小さいため、α相は完全には溶解せず、成長するα相によってtrapされる。この結果、包晶組織が形成される。以上の結果から、包晶温度上下での組織形成には、2相の成長速度と同時に、溶解速度の差が大きく関与していると結論できる。
    謝辞
     本研究は(財)日本宇宙フォーラムが推進している「宇宙環境利用に関する地上研究公募」プロジェクトの一環として行ったものである。
  • 西田 孝, 古川 登, 牛山 英智
    セッションID: K4-23
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    非晶質シリカから微晶質石英への成長過程については、一般にいくつかの中間のシリカ鉱物を経て最終的に石英が生成されることが、天然での産状、および数多くの熱水合成実験により知られている。そして多数の報告がなされているが、その相転移の道筋についてははっきりしていない点も多い。
     今回、比較的低温でのアルカリ溶液による合成実験を行い、アエロジェルを出発物質としてクリストバライト、石英への成長過程につき、その結晶形態の変化と結晶構造変化との対応についての検討結果について報告する。観察方法はX線粉末法、TEM,SAED,SEMを併用した。
    実験方法
     出発物質は球状の高純度無水シリカを用いた。KOH溶液は種々の濃度(0.2~1.1mol濃度)、温度187度、圧力1.3MPで合成した。出発物質は溶液と共に金カプセルに封入しオートクレーブに入れる。合成時間は24時間~100時間である。順次、中間時間で試料を取り出し観察した。測定と観察はまず各合成時間におけるシリカ鉱物の量的比率を調べた。さらにTEMおよび制限視野電子線回折法(SAED)、SEMを用いて、形態、構造、結晶化の状態、集合状態などを調べた。
    観察結果
     X線粉末法によれば、時間の経過と共に非晶質シリカよりクリストバライトの量が多くなり次に石英のピークが現れ最終的に全て石英に変わる。球状(12nm)のアエロジェルは時間の経過と共に融合して凹凸のある不規則な集合体となる。全体として板状に近い。リング状に近いクリストバライトの回折パターンを示す。(OP-CT)
     瘤のような凹凸の激しい板状に近い試料では方位がそろい始めたリングの一部からなる回折パターンを示す。その後、薄い膜状に成長し、それが立体的に配置して球晶のようなかたちになる場合と同じ球晶であるが、厚めの膜が球面に多数張り付いたようなものが多数出来る場合がある。両者は共に最終的には柱状の石英に変わる。
     転移の道筋は一通りではないように見える。今回、TEM像とSAED像と同一視野のSEM像との比較が出来たので、形態の変化との対応がしやすかった。
  • 高山 尚己, 磯部 博志
    セッションID: K4-24
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     ドロマイトCaMg(CO3)2は,しばしばカルサイトCaCO3を置き換えて形成されている産状が観察される.カルサイトなどのCaCO3鉱物からドロマイトが形成されることはドロマイト化と呼ばれ,それを支配する要因は,温度,圧力(CO2分圧),固相の溶解速度や溶液の組成,イオン強度など多岐にわたる.特に,溶液からの核形成及び結晶成長速度は,固液反応によるドロマイト形成過程において,鉱物形成速度を決定する主要なパラメータであると考えられる.
     本研究は,常温常圧で準安定な CaCO3 相であるアラゴナイトとMgを含む溶液を用いて CaCO3-CaMg(CO3)2 系炭酸塩鉱物を生成し,結晶成長・相転移などの観察・分析によってドロマイトの形成メカニズムとそれを支配する要因を解明することを目的としている.
    実験
     実験は,天然のアラゴナイト単結晶を粉砕し,CaCl2,MgCl2混合溶液 (各1mol/L, Mg/Ca = 1)と反応させることによって行なった.温度は100℃及び200℃,期間は100℃では最大16日間,200℃では最大6日間である.アラゴナイト粉末100mg と反応溶液 2ml をステンレス容器またはテフロン容器に封入し,恒温槽内に保持した.実験生成物は濾別,洗浄後105℃で乾燥し,XRD分析及びSEM/EDSによる観察・分析を行った.
    結果及び考察
     100℃の実験では,16日間の実験でも出発物質のアラゴナイトに変化は現れなかった.200℃では,24時間以内にアラゴナイトの回折ピークは失われ,代わってLow-magnesium calcite (LMC) と High-magnesium calcite (HMC) が現れる.LMCは12時間以内のごく初期の実験生成物にのみ存在している.24時間以降の試料にはドロマイトの回折ピークが現れ,実験時間が長くなるに連れてHMCの回折ピークの減少と共にその回折強度は増加していく.HMCの回折ピークは48時間まで存在する.SEM観察においては,アラゴナイト,HMC結晶が溶解する過程が観察される.従って,ドロマイトの形成はアラゴナイト及び中間生成物が逐次溶解し,溶液から生成物が析出することによって進行しているものと思われる.EDS分析によると,HMCのMg含有量は30モル%程度であった.本実験により生成したドロマイト結晶の Mg/(Ca + Mg) 比は,48時間以降の試料では0.45前後の値でし一定であった.これらの結果から,前駆物質の溶解と,溶液からの結晶化によるドロマイトの形成速度とその支配要因,及びCaCO3-CaMg(CO3)2系炭酸塩鉱物の形成過程におけるMg/Caなどの元素分配について議論する.
  • 永井 隆哉, 鍵 裕之, 山中 高光
    セッションID: K5-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    含水鉱物のマントル条件下での挙動は、火山活動や地震発生に影響を与えるだろうことはもちろん、マントルの物性(特にレオロジカルな)を左右するといっても過言ではない。我々はこの問題へ、水素結合と圧縮挙動の結晶構造的理解という方向からアプローチしようとしている。
     Nakamoto et al. (1955)やNovak (1974)らが報告している様々な結晶の水素結合を挟んだO...O距離とO-H伸縮振動ピーク位置との相関を、高圧下でのO...O距離の短縮による変化と読み替えることができると仮定すると、高圧下ではO-H伸縮振動ピークが低波数側にシフトし、水素結合強度が増していくことが期待される。この仮定の検証が我々の研究の第一目標である。氷VI相に関しては広い圧力領域に渡って、このトレンドに沿った圧縮によるO-H伸縮振動ピークの変化が観察されている(Aoki et al.,1997)。
     静水圧下での結晶構造を実験的に精度よく議論できるのは現在のところ10 GPa程度までである。そこで我々は、弱い水素結合を持つ鉱物、中間のもの、強いものをいくつか選び(弱:Mg(OH)2, Ca(OH)2、中:α-FeOOH、強:NaHCO3, KHCO3)、それぞれの10 GPa程度までの圧縮挙動から、圧力と水素結合のシステマティクスを広いO…O距離範囲で確立することを試みることにした。これまでの鉱物学会年会で、Mg(OH) 2、Ca(OH)2、α-FeOOH、KHCO3に関しては報告済であるので、今回は強い水素結合を持つNaHCO3の圧縮挙動についてその詳細を報告するとともに、圧力と水素結合のシステマティクスについても議論したい。これまでの結果では、Mg(OH)2とCa(OH)2は、上述したO…O距離とO-H伸縮振動ピーク位置のトレンドによく乗っているようであるが、α-FeOOHとKHCO3では、トレンドに乗らずO...O距離の短縮にもかかわらずO-H伸縮振動ピーク位置にあまり変化がないようである。
     実験は、合成したNaHCO3粉末を用い、ダイヤモンドアンビルセルを使った角度分散による高圧下X線粉末回折実験をPF、BL18Cで行った。0.2 GPaから9 GPaまでの測定結果は、格子定数だけでなく、原子間距離も議論するためRietveld解析を行った。その際、CO32-が十分に硬いという非線形制約条件を付加し精密化する構造パラメータを減らしたが、結晶構造の圧力変化の報告がある炭酸塩では、10 GPa程度の圧縮でCO32-はほとんど圧縮されないという結果から妥当だと考えている。
     圧力-体積関係をBirch-Murnaghan状態方程式でカーブフィットすることにより体積弾性率はK=36 GPa (K’=4)と求められた。NaHCO3の結晶構造は、HCO3-が水素結合によって[101]方向に一次元鎖を形成しているという特徴を持つ。軸圧縮率は鎖の方向に垂直なb軸方向が最も硬く、水素結合の圧縮が大きいことを示唆する。水素結合を挟むO...O距離は、0.2 GPaでは2.59 Åであるが、圧力とともにほぼ直線的に圧縮され、9 GPaでは2.40 Åにまで短縮される。水素結合を挟むO...O距離が2.4 Åというのは、O...O距離の中心に水素が移動するという水素結合対称化が起こる可能性が指摘される距離であり、NaHCO3で何が起こっているのか興味深い。現在、赤外吸収実験と中性子回折実験を行っており、当日はその結果も合わせて報告できる予定である。
  • 宮島 延吉, 丹羽 健, 市原 正樹, 八木 健彦
    セッションID: K5-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     最近、透過電子顕微鏡(TEM)観察用薄膜試料の作成法のひとつとして、集束イオンビーム(Focused Ion Beam, FIB)ミリング法が注目されている。サブミクロンの微小領域のピンポイント加工や、異種多相材料(異相界面)を均一な厚さで研磨できるなどの利点は、イオン研磨法の抱えるいくつかの問題を解決できる。現在我々は、この作成法を超高圧実験回収試料に応用することを進めている。例えば、レーザー加熱ダイアモンドアンビルセル(LHDAC)実験の回収試料を、加圧軸に平行な断面で薄膜を切り出し、分析透過電子顕微鏡(ATEM)観察する。これにより、温度勾配の有無を定量的に評価し、高温高圧下での化学反応現象をより深く議論できる。本研究はその予備的な実験として、表面酸化層を有する鉄箔中のFe-FexO異相界面を、FIBミリング法で薄膜作成し、ATEMで解析した。
    実験方法
     厚さ約0.03 mmの鉄箔(純度99.9%)を、CO2とH2の混合ガスを流した雰囲気制御炉を用い、1070 Kで酸素分圧を制御しながら10 分間保持し、急冷回収した。回収試料表面の酸化層は、反射光学系の微小部X線回折装置を用いたX線回折により、Fe0.95O相であることを確認した。回収した箔は、2枚のスライドグラスで挟み固定し、酸化層面に垂直に約0.04 mmの厚さまで薄くした後、片方の端を切断しダイシングした。ダイシングした試料を、半分に切断したMo単孔メッシュに接着固定し、界面を含む観察断面を150 nm以下の厚さ残して、電子線が透過できるように不要な部分をFIBミリングで取り除いた。TEM観察は、エネルギー分散型X線分光器(EDXS)を付属した加速電圧200 kVの透過型電子顕微鏡(JEOL-2010F)を用い、明視野像、電子線回折像や高分解能像観察により、界面組織や両相の方位関係およびGaイオン照射ダメージを評価した。また、EDXSを用いた化学組成分析は走査電子線モード(STEM mode)で行い、界面近傍から酸化層の表面にかけての酸素K線と鉄L線の強度変化プロファイルを調べた。
    結果と考察
     FIBミリング法により、α-Fe相(BCC構造)とFexO相(B1構造)の界面を含み、ほぼ均一な厚さを有するTEM薄膜領域(面積約0.002 mm x 0.005 mm)が得られた。生成したFexO相は、約0.001 mm径の粒子から構成されており、一部の粒子間ではFexO相の(200)面とα-Fe相(110)面にトポタキシャルな関係が見られた。高分解能像からは、Gaイオン照射によって生じるアモルファス層の厚さは、α-Fe相の場合5 nm以下であることが分かった。EDXS分析で得られた界面近傍から試料表面までのFexO相内の酸素K線強度プロファイル(約0.001 mm)からは、酸素拡散過程と関連した連続的な酸素含有量の増加が確認され、FexO相のストイキオメトリーの連続的な変化が示唆される。FexO相のストイキオメトリー変化は、超高圧下でのFexO相の構造相転移の組成依存性を議論する上で大変重要である。今後、収束電子線回折法による精密格子定数決定と電子線エネルギー損失分光法による酸素濃度の定量測定を組み合わせ、サブミクロンオーダーでストイキオメトリー変化を検出することを試みるつもりである。
  • 中牟田 義博
    セッションID: K5-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    母天体の衝突による衝撃変成作用は隕石中に普通に認められ,隕石の希ガス組成や同位体組成などに重大な影響を及ぼすことから,その程度を推定することは母天体同士の衝突に限らず,初期太陽系での種々の過程を調べる上で重要となっている.これまでの研究では,隕石中の鉱物,とくにかんらん石の衝撃組織に注目した定性的な衝撃作用の推定が行われているが(Stoffler et al., 1991),定量的な評価はこれまでなされていない.
     コンドライト隕石中には主要構成鉱物としてかんらん石が多く含まれ,衝撃作用により種々の衝撃組織を示すことが知られている.X線粉末回折法では,回折線の広がりから,見かけの格子歪みを推定することが出来(Wilson, 1962),隕石中のかんらん石の格子歪みを調べることにより,衝撃作用の定量的評価が可能となる.しかし,隕石中のかんらん石は数百 μm大の個々の結晶ごとに格子歪みや化学組成が異なるため,分析に数十mgの試料を必要とする従来の回折計を用いた方法では,信頼できる結果を得ることが不可能であった.ガンドルフィカメラでは数十 μm大の結晶から精密な粉末回折パターンを得ることが出来ることから,研磨薄片中のかんらん石をEPMAで分析後,分析された結晶そのものを実体顕微鏡下で取り出すことによって,個々のかんらん石粒の格子歪みの測定が可能となる.今回の発表では,ガンドルフィカメラによる回折線ブロードニングの精密解析と,その応用としての隕石中かんらん石の格子歪みの測定をもとに,鉱物科学の新しい研究方法としてのガンドルフィカメラの有用性の一面を紹介したい.今回行った実験の概要は以下のようである.
     ガンドルフィカメラによる粉末回折パターンの撮影は,EPMAによる化学分析後,研磨薄片から取り出された約50 μm大の結晶を3~10 μm径のガラス針につけて試料とし,114 mm径のカメラを用いて行った.X線源はCrアノード,Vフィルター,0.2 x 2 mm大のフィラメントを用いた回転体陰極型X線発生装置,パターンの記録は1ピクセル50 x 50 μmのイメージングプレート(IP)で行った.回折角に対する一次元の強度データは,3.5 cm幅のIPに記録された2次元の回折パターンの中心部1.5 cm幅で,回折リングに沿って0.025°(2θ)間隔で強度を積算することによって得た.回折パターン中の各回折線の積分幅はpseudo-Voigtタイプのプロファイル関数を用いた部分フィティングにより, 2θ=20~120° 範囲に現れる約40本の回折線について得,見かけ歪みはこの積分幅をtan(θ) に対してプロットしたときの傾きとして求められた(Wilson, 1962).
    文献:Stoffler et al. (1991) G.C.A. 55, 3845-3867; Wilson, A.J.C. (1962) X-ray Optics, John Wiley & Sons Inc., New York.
  • 植田 千秋, 田中 健太, 高島 遼一
    セッションID: K5-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    物質種の大多数はスピンを有さない反磁性体に属するが、これらの物質は反磁性磁化率の異方性のために磁場整列する可能性を原理的に有する。その整列には通常数万ガウス以上の強磁場が必要とされ、実験は反磁性異方性の大きな有機物を対象とすることが多かった。当グループでは無機酸化物においても、反磁性異方性エネルギーに起因した回転調和振動が0.1テスラ以下の低磁場で誘発されることを、コランダム、長石、石膏、マイカ、粘土鉱物などの基本的な無機絶縁鉱物で見出し、その観測から微弱な反磁性異方性を数多く検出することに成功した。このような値の集積は反磁性異方性の発生機構を解明するための基盤として重要である。しかし無機酸化物の場合、一般に高品位の単結晶のサイズが微小なため、上記の方法で得た感度でも検出できないことが多い。特に層状シリケートやゼオライトのように、結晶構造が特徴的で異なる異方性の値を持つと予想される物質については、データがほとんど得られていない。
     既存の磁気異方性測定では、水平磁場中に吊した試料に磁気異方性トルクを発生させ、これを吊糸のネジレ復元力とバランスさせて異方性を検出する。本研究では感度をさらに向上させる目的で、これまで測定の基準となって来た吊糸自体を系から排除した測定系を開発した。すなわち微小重力・真空中に非磁性結晶を浮遊させ、その回転振動の周期観測から異方性の検出を実現した。この方法を用いた場合、将来宇宙ステーションにおいて十分長い微小重力持続時間を得たとすると、現行の感度を数桁上回る感度の測定が可能となる。その予備段階として行なった、地上の無重力実験施設での実験結果を報告する。
  • 鈴木 庸平, Kelly Shelly, Kemner Kenneth M., Banfiled Jillian
    セッションID: K6-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    ウランによる環境汚染はウラン鉱山をはじめ核兵器製造や核燃料処理施設周辺で深刻な問題で有る。現在、微生物による自然浄化作用を促進する修復法が安価な代替法として強く期待されている。可溶から不可溶性への化学形態の変換は、溶液からウランを除去するため無毒化と考えられる。本研究では複雑な天然環境中において、微生物によりウランの無毒化が行われているか、又それが人為的に促進されるかについて研究を行なった。
     六価ウランから四価への還元は沈澱を伴う反応である。故にウランを無毒化すると考えられる。ウラン鉱山中の堆積物及び水を採取し、実験室で有機基質を加え還元的条件で培養した。培養一ヶ月後、溶液中のウラン濃度が20 から0.3 ppmに減少した。放射光を用いたX線吸収端極近傍構造解析(XANES)により六価からの還元により四価のウランとして堆積物中で沈澱していることがわかった。透過型電子顕微鏡(TEM)観察及びエネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析により、ウランは微生物細胞表面で沈澱している事が明らかになった。培養後抽出されたDNA中のrRNA遺伝子を用いた系統解析の結果、ウラン還元能が知られていない硫酸還元菌Desulfosporosinus sp.がウラン還元に関与していると示唆された。その硫酸還元菌を単離培養しウラン還元能を調べた結果、ウラン還元能を有する事が判明した。
     次に微生物によるウラン還元が天然環境でもウランを無毒化しているか調べるため、ウラン鉱山内の堆積物及び水を直接的に調べた。水に含まれるウランは六価で濃度が約2 ppmであるのに対し、堆積物中では最大750 ppmのウランが大部分四価で濃集している事がXANESスペクトルの解析で明らかになった。走査型及び透過型電子顕微鏡による観察及びEDX分析によりウランは硫化鉄を沈澱している微生物細胞に濃集していることがわかった。この堆積物中から得られたDNA中のrRNAと硫酸還元菌の全てが有する異化型亜硫酸還元酵素の遺伝子を用いた系統解析により、ウラン還元能を有し硫化鉄を沈澱する事が知られる、GeobacterとDesulfovibrio族に属する微生物の存在が明らかになった。750 ppmはウラン鉱石と同程度の品位であり、環境中での微生物によるウラン還元濃集の重要性が強く示唆された。
     微生物のウラン還元による生成物をX線広域吸収微細構造解析(EXAFS)及び超高分解能TEM像解析により結晶化学的特性を詳細に調べた。その結果、複雑な堆積物中と単純な実験系で還元された場合の双方とも粒径が約2 nmの結晶度の高いウラン酸化物として沈澱している事が明らかになった。結晶サイズを反映しバルクより収縮した構造をしており、その程度から溶解度積がバルクと比較し十億倍以上増加することが示唆された。今後の課題として、還元濃集したウランをより長期的に安定な化学形態へ変換させることが必要で有る。
  • 大貫 敏彦, 香西 直文, 山本 春也, 村上 隆
    セッションID: K6-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    1. はじめに
     ウランは物理的化学的性質が特異な元素であり、地球表層付近での移動は地球化学的重要性から注目され、ウランの移動に関する多くの研究が発表されてきた。近年ではウラン鉱山やウラン関連施設付近の環境修復や放射性廃棄物の処分に関係しても研究されている。本研究は、ウラン鉱山付近で見出されたapatiteによるウランのリン酸塩鉱物化を実験室で再現し、その機構を明らかにするとともに、その一般性について考察した。
    2. 実験
     10 x 10 x 1 mmに切り出したapatiteの単結晶を4.0 x 10(-4) mole/lのウラン溶液に10日間、pH 2.2 - 4.0、25度で浸漬させた。実験後のpHは2.3から4.0であった。実験後、溶液のウラン濃度を液体シンチレーション法で測定し、ウランの取り込み量を計算した。ラザフォード後方散乱法(RBS)での測定のため4日間反応させた実験も行った。析出した鉱物はSEM-EDSとXRDで調べた。さらにapatiteからのCa, Pの溶解を調べるために、ウランを含まない溶液を用いて、上記の実験と同じ条件で、溶解実験を行った。実験後のCa, Pの濃度はICP-AESで測定した。このCa, P濃度と最初のウラン濃度から、EQ3NRでCaウラニルリン酸塩鉱物であるautuniteの飽和状態を計算した。
    3. 結果および考察
     Apatiteの単結晶へのウランの取り込み量はpHが下がるにつれ増加し、通常の陽イオンの吸着とは逆の挙動を示した。溶液はautuniteに対し、不飽和であったが、apatite単結晶の周囲にはautuniteの層(最大で数ミクロンの厚さ)が沈澱していた。RBSでの分析によると、pHが下がるにつれ、即ちCa, Pの溶解が増えるにつれ、apatite表面のautunite層の厚さが増すことがわかった。また、autunite層よりさらにapatite側にはCa(おそらくPも)濃度がapatiteより低くautunite層より高い、またU濃度がautunite層より低い、厚さ100 nm以下のapatite浸出層(leached layer)が存在することがわかった。EQ3NRでの計算によると、バルク溶液よりpH、UまたはP濃度が一桁高くなる場があれば、autuniteが沈澱する。これらの結果は、浸出層はapatiteの溶解とautunite形成の場として機能し、autuniteは浸出層での局所的飽和により沈澱していることを示している。また、autunite層は厚さが厚くなるだけでなく、autuniteそのものの量も増えることから、autunite層でも局所的飽和によりautuniteの沈澱が起こっていると考えられる。
     また、比較のために0.2 mm以下のapatiteの粒子を使い、4.0 x 10(-4) mole/lと4.0 x 10(-6) mole/lのウラン溶液で吸着実験を行ったが、それぞれ、沈澱、吸着という機構であった。このようにウランの固定化機構は、ウラン濃度、apatite等のような鉱物の共存、水化学により異なるが、apatite表面でのウラニルリン酸塩鉱物の形成は、ウランの移動をコントロールする重要な機構である。
  • 河野 元治, 富田 克利
    セッションID: K6-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    地球表層物質圏(地殻最表層から地下数千mに及ぶ領域)は、鉱物圏-水圏-生命圏の重複領域であり、これら各圏の種々の相互作用が進行している複雑かつユニークな反応場として位置付けられる。ここで、鉱物圏の大部分を占める珪酸塩鉱物のマクロな挙動に着目すると、水は鉱物の溶解と析出反応を進行させる媒体であり、生命圏の主要構成要素であるバクテリアはこれらの反応を促進する触媒としての機能をもつ。したがって、地球表層物質圏での鉱物の溶解や析出を伴う種々の地球化学的反応を取り扱うに際し、バクテリアによる触媒効果の定量的評価とその反応機構を明らかにすることはきわめて重要な検討課題となる。そこで今回は、風化堆積物中で進行するバクテリア細胞表面での鉱物析出反応を取り上げ、鉱物生成に及ぼすバクテリアの影響について検討した。バクテリア細胞表面での鉱物析出は、細胞表面へのイオン吸着を初期反応とした収着作用により進行すると考えられている。そのため本研究では、バクテリア細胞の表面電荷特性とAl、Fe(III)、Siのイオン吸着について検討した。
     実験には地球表層物質圏に生息する代表的なバクテリアの一種 Pseudomonas fluorescens を用いた。理研JCMの菌株をYG培地で培養し、1.0mM HNO3で培養液中の吸着イオンの洗浄、その後pHが一定となるまで蒸留水洗浄を繰り返した。洗浄後、バクテリア試料は凍結乾燥して実験用として保存した。バクテリア細胞の表面電荷は、酸/塩基滴定法で得られたデータのFITEQL計算により解析した。酸/塩基滴定は、バクテリア試料0.1gを0.1M NaNO3 100mlのバックグラウント溶液に添加し、0.1M HNO3 および 0.1M NaOH滴定溶液を用いて行った。滴定ステップは0.1ml/15min とし、窒素雰囲気下でスターラー撹拌を行い、pH3~10.5程度までの領域のpH変化を測定した。FITEQL計算は、constant capacitanceモデルを用い、カルボキシル基(X-COOH)、リン酸基(X-POH)、水酸基(X-OH)の酸/塩基解離定数と各官能基サイト数の最適化を行った。イオン吸着実験は、0.1mM 濃度のAl (Al(NO3)3)、Fe(III) (Fe(NO3)3)、Si (Sodium silicate)を各々含む0.1M NaNO3 100ml溶液にバクテリア試料0.1gを添加し、0.1M HNO3 および 0.1M NaOHを滴下したpH2~12の溶液pH範囲で行った。所定pHで5分間撹拌後、0.2μmメンブレンフィルターろ過溶液中のAl、Fe(III)、Si濃度を原子吸光法または比色法で測定した。
     酸/塩基滴定実験の結果、バクテリア細胞の表面電荷はpH4付近に等電点を有し、pH<4領域でプラス電荷、pH>4領域でマイナス電荷を発生することが確認された。これらの表面電荷は主にカルボキシル基(COOH)の解離に起因し、脱プロトン化したカルボキシル基が溶液中の主要な陽イオン吸着サイトとして機能していることが示唆された。イオン吸着実験の結果、AlおよびFe(III)はpH<6領域でバクテリア表面への著しい吸着が認められ、溶液中でのスペシエーション状態から想定される陽性イオンの脱プロトンカルボキシル基への静電的結合によると解釈された。一方Siについては、pH<4領域でのみ若干の吸着が観察されることから、カルボキシル基OHとの配位子交換による結合が支配的であることが推察された。これらのイオン吸着実験の結果は酸/塩基滴定から得られたバクテリア細胞表面の電荷状態と調和的である。
  • 佐藤 努, 福士 圭介
    セッションID: K6-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    日本のいくつかの鉱山において、鉱山排水中に含まれるヒ素は排水からの二次生成物であるシュベルトマナイトに有効に吸着されて自然浄化されることが認められている。しかしシュベルトマナイトはゲータイトの準安定鉱物であり、その相変化とそれに伴うヒ素の挙動の理解は自然浄化プロセスの長期安定性評価に必須と考えられる。本講演では、As(V) 吸着したシュベルトマナイトの相変化遅延と遅延因子の解明、遅延効果を定量的に評価した事例を紹介するとともに、陰イオン吸着による鉱物の安定性の変化とその環境化学的意義について論ずる。
     As含有シュベルトマナイトの安定性を議論するために、酸性条件、25℃におけるAs(V)収着実験を行い、それぞれの溶解度について検討した。収着実験からpH3.3±0.1の条件においてシュベルトマナイトは1molのH2AsO4-と0.24 molのOH-を取り込むとき、0.62molのSO42-を溶液に放出する当量的な関係が認められた。この関係からヒ素を取り込んだシュベルトマナイトは純粋なシュベルトマナイトとAsを最大まで取り込むシュベルトマナイトの固溶体として記述できる。収着実験後の平衡溶液組成からヒ素を含むシュベルトマナイトの溶解度を見積もると、ヒ素含有量の増加に供ない溶解度が大幅に減少する傾向が認められた。また見積もられた溶解度を用いた地球化学モデリングから、シュベルトマナイトのゲータイト化はヒ素を取り込むことによって抑制されること、ヒ素を取り込むことによりシュベルトマナイトはアルカリ性環境においても安定に存在することが明らかとなった。このように、シュベルトマナイトは低結晶性・準安定な鉱物であるが、ヒ素の収着によって長期的にも安定なヒ素のシンクとして働くことが明らかとなった。
     以上のように、準安定相であるシュベルトマナイトが表層水中の鉄およびヒ素の溶存濃度コントロールに対し重要な役割を果たすことが示された。一般的に、シュベルトマナイトやハイドロタルサイト等、環境条件の変化によって簡単に相変化してしまう準安定相は、速度論的要因によって生成される安定相の先駆対物質とみなされている。したがってその生成は、熱力学的に生成が予言される安定な鉱物組み合わせ、およびその生成により達成される水溶液組成には影響を与えないと考えられてきた。しかし上記鉱物による陰イオン吸着プロセスは、本研究で定量的に示したように準安定相の安定性を増加させ、系の鉱物組成や溶液化学の進化の方向に変化を及ぼすと考えられ、その定量的取り扱いは地球表層での元素の循環を考える上でも重要となる。
  • 田賀井 篤平, 橘 由里香, 田原 友香
    セッションID: K6-05
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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     生体硬組織は生物の進化とともに、生体外部を殻で覆う外骨格から、生体内部の骨という内骨格へと変化してきた。化学組成の点から見ると、外骨格は炭酸カルシウムであり、内骨格はリン酸カルシウムである。このような成分や機能の変化と言う点から生体硬組織の進化については未解明な点が多い。本研究では、内骨格(骨)と外骨格(卵殻)の双方を持つ鳥類(家禽)を対象にして、生体硬組織を中心に組織におけるカルシウムの挙動をカルシウム置換体を用いて観察した。カルシウムとその置換体元素(Sr, Mn, Fe, Mg, K, Y)を含む飼料を1週間経口投与し、時間系列で雌の鶏の大腿骨(緻密骨、骨髄骨)と卵(卵殻、卵殻膜、卵白、卵黄)を採取して、XRFにより分析を行い、カルシウムとその置換体元素の変化を調べた。本研究に用いている鶏の雌は、産卵期に大腿骨内部に骨髄骨という特異な骨を持つ。骨髄骨は、卵殻を生成させるためのカルシウム貯蔵組織である(橘等、2003)。また、光学顕微鏡の観察から緻密骨から骨髄骨に連続的に移り変わっている層状の組織を見出した。そこではCa, P, Sr, Znの元素が緻密骨から骨髄骨にかけて段階的に変化していることを見出した。その際に、Ca, Pは緻密骨から骨髄骨にかけて減少する一方、Sr, Znは増加している傾向を見出した。また、卵黄は卵巣、卵黄膜は漏斗部で、卵白は膨大部で、卵殻膜は峡部で、また卵殻は卵殻腺部でそれぞれ形成される。卵形成のメカニズムは卵の各組織で研究が進んでいるが、受精から産卵に至る全過程を一つのシステムとして捉える研究は少なく、システムに関する定説は未だうち立てられていない。本実験では卵黄、卵白、卵殻膜、卵殻の各組織でKをキーにする特徴的な傾向を見出した。Kをキーにして実験は、受精から産卵に至る全過程を一つのシステムとして捉える可能性を示していると思われる。
  • 寒河江 登志朗
    セッションID: K6-06
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    歯のエナメル質は生体内では最大級の大型の生体アパタイト結晶で構成されている.従来エナメル質結晶はエナメル質のエナメル小柱と呼ぶ構造のなかにc軸を小柱の軸と一致させた配向特性を示すことが知られていた.今回微小部X線回折を行って検討した結果,従来考えられていた以上に極めて良い配向をしていることが明らかとなった.この結果,生体内で行われているエナメル質結晶形成機構を再考しなければならない.
    謝辞:この研究経費の一部に学術フロンティア推進事業(日本大学量子科学研究所)を用いた.
  • 沼子 千弥, 早川 慎二郎, 加藤 健一, 小藤 吉郎
    セッションID: K6-07
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    ヒザラガイ類の歯は磁鉄鉱を主成分とすることで知られており、生体起源の磁鉄鉱の形成メカニズムやその特徴には様々な分野で興味が持たれている。このヒザラガイの歯の形成プロセスを捉えるために、放射光を用いた粉末X線回折により歯の成熟に伴う構成成分の遷移の様子を、また放射光マイクロビームを用いた状態別2次元元素マッピングおよびマイクロXAFS法により歯の内部での鉄化合物の分布の様子を求めた。また、ヒザラガイ類の中からヒザラガイ、ヒメケハダヒザラガイ、ババガセの3種類について同様の分析を行い、種による歯の構成物質の際についても検討を行った。
     粉末X線回折の測定はSPring-8 BL02B2に設置されている大型デバイシェラーカメラとイメージングプレート(IP)による測定系を用いて行った。ヒザラガイの歯舌より形成されたばかりの未成熟のものから一個ずつ歯を析出し、ガラス張りの先に接着し、回転させながら15分から60分間、0.5Åに単色化した放射光を照射しIPに回折像を記録した。回折像は名古屋大学工学研究科の坂田・高田研で開発・改良されたプログラムを用いて回折角と回折強度の1次元データに変換され、個々の歯についてX線回折プロファイルを得た。状態別2次元元素マッピングおよびマイクロXAFS測定はSpring-8 BL37XUにて行った。試料は樹脂包埋した後サンドペーパーとアルミナの研磨剤を用いた研磨操作により薄片に成形した。この薄片をX-Yステージに固定し、K-Bミラーにより6マイクロに集光した10keVのアンジュレーター光を試料の座標を確認しながら照射し、そこで検出される蛍光X線をSDDとマルチチャンネルアナライザーでモニターすることにより、元素ごとの2次元元素分析を行った。また同様の集光条件で入射X線を0.001keVステップ、7.09~7.20keVで走査した際のFe Ka線の強度をモニターすることで、試料の微小領域に存在する鉄化合物のFe- XANESスペクトルを得ることができた。さらに、標準試料として測定した赤鉄鉱(a-Fe2O3)と磁鉄鉱(Fe3O4)のXANESスペクトルの間で励起効率に大きな差が見られるエネルギー(El)と双方とも十分に励起されているエネルギー(Eh)を求めて、その2つのエネルギーで励起しながら鉄のマッピングを行うことにより、歯の内部での磁鉄鉱の分布を決定することを試みた。BL37XUでのデータはすべて広島大学工学研究科の早川研で開発された測定プログラム及び解析プログラムを使用し、収集・解析処理を行った。
     放射光粉末X線回折測定の結果、ヒザラガイの歯では形成初期では結晶性の低い未知の鉄化合物が存在すること、そして形成初期の2、3個で磁鉄鉱が急激に形成されること、ヒザラガイの種類によって歯を構成する鉱物種に差があることなどが明らかとなった。また、状態別2次元元素マッピングおよびマイクロXAFSの結果からも、バルクとしては粉末X線回折と同様の傾向を確認できた。更に構成成分について2次元元素分析を行った結果、ヒザラガイ類の種類によって、歯の内部での主要元素の分布や状態に差違があることが分かった。
     雑食で歯の大きいヒザラガイでは摂餌面だけに鉄が濃集しているのに対し、肉食のババガセは鉄を濃集した歯の大きさが小さく、更に鉄は全体的に分布している様子がうかがえた。また磁鉄鉱の分布にも種により差があることが示された。当日は分析の結果をヒザラガイの種類による特徴と関連させながら報告する。
  • 廣井 裕介, 沼子 千弥, 加藤 健一, 小藤 吉郎
    セッションID: K6-08
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    ヒザラガイは磁鉄鉱(Fe3O4)を主成分とした歯を形成することで知られている。ヒザラガイの摂餌器官である歯舌には形成されてから成熟に至るまでの全ての成熟段階の歯舌が存在するため、生体鉱物化現象のメカニズムの研究の上でヒザラガイの歯は最適な研究材料のひとつである。これまで我々は、40個体のヒザラガイから摘出した歯舌を摘出し、さらに鉄を濃集した歯一つずつ摘出したものを成熟段階ごとに集めて粉砕し、実験室系の粉末X線回折測定とそれにつづくリートベルト解析を行うことにより、ヒザラガイの歯を構成する磁鉄鉱の結晶構造とその成熟過程に伴う変化を調べてきた。その結果、磁鉄鉱の格子定数とスピネル型構造のB siteに存在する鉄の占有率が成熟段階に伴って共に減少していく傾向が見られた。本研究では、より強度の強いX線源である放射光を利用し、一個体のヒザラガイから摘出した歯1個のみを利用することにより、ヒザラガイの個体差の影響を受けない粉末X線回折データを収集し、解析を行うことを試みた。また個体の年齢差や種差により歯の構成成分がどのような影響を受けるかも同時に検討を行った。
     試料としては、徳島県鳴門市の海岸から採集したヒザラガイ(体長2.40cm, 3.30cm, 4.55cm, 5.35cm, 6.00cm, 7.30cmの6個体)とヒメケハダヒザラガイ(体長2.90cm, 4.00cmの2個体)を用いた。これらの歯舌から摂餌による摩耗を受けていない成熟した歯を1つずつ摘出し、細いガラスの針の先端に接着させ、ゴニオメータヘッドに装着した。測定はSPring-8のBL02B2に既設の大型デバイ・シェラーカメラを用いて行い、Si(111)モノクロメータで単色化した0.5ÅのX線を500マイクロ程度に整形して試料に入射し、回折X線をイメージングプレートで記録することにより、粉末X線回折図形を得た。また測定データは名古屋大学工学研究科 坂田・高田研究室で開発のソフトウェアにより回折角と回折強度の1次元データに変換し、その後泉冨士夫氏のRIETAN-2000(1を用いてリートベルト解析を行った。
     解析の結果、磁鉄鉱がとるスピネル型構造のA siteの鉄占有率はすべてのヒザラガイでほぼ1.0をとり、値に変化は見られなかった。B siteの鉄占有率は、体長5.35cm以下ですべて0.87付近で一定値をとっていたのに対し、6.0cmでは0.90、7.30cmでは0.92と増加傾向を示した。また格子定数は6.0cmまではおよそ8.382の値をとり一定であったが、7.31cmでは8.377と減少していた。またヒメケハダヒザラガイについても、A siteの鉄占有率はほぼ1.0をとり、値に変化は見られなかった。B siteの鉄占有率については、2.90cmで0.860であったのに対し、4.00cmでは0.930という値をとった。格子定数についても8.382と8.381をとり、あまり変化は見られなかった。
     これらのことからA siteの鉄占有率は、体長の大きさや種の違いにかかわらずほぼ1.0の一定値をとることが明らかになった。またB siteの鉄占有率はヒザラガイの体長が6cmになるまで低いが、その後大きくなるにつれその値は増加することがわかった。この傾向はヒメケハダヒザラガイにも当てはまった。さらに格子定数は、6cmまでの個体であまり変化しないことがわかった。7cm以上の大きなヒザラガイ一個体では小さくなっていたが、ヒメケハダヒザラガイは大きさに関係なくあまり変化しなかったことから、大きさや種に関係なく、ほぼ一定値をとると考えられた。
  • 尾崎 紀昭, 小暮 敏博, 田中 順三
    セッションID: K6-09
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    【序論】
     コッコリスは海洋性の微細藻類である円石藻によって生産される、石灰化したスケールである。一つのスケールはサブミクロンサイズの方解石単結晶が数十個集まって、長径数μm程度の楕円形リングを形成している。ヘテロコッコリスと呼ばれるタイプのコッコリスはV結晶とR結晶と呼ばれる、結晶方位や形態が異なる2種類の結晶が交互に組み合わさって出来ている。コッコリスの形態、大きさは種に特異的であることから、細胞によって厳密に制御されて形成されると考えられている。コッコリスの結晶学的方位やその形態との関連を調べることは、複雑なバイオミネラリゼーションの形成機構を解明する上で重要であり、その成果はナノテクノロジーやバイオミメティックへの応用が期待される。これまでにヘテロタイプに属する円石藻Emiliania huxleyiPleurochrysis carteraeのコッコリスの結晶方位が透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた電子回折によって調べられてきた。しかしながらTEM像は結晶の透過像を見ているため、三次元的な形態の把握は難しい。コッコリスの様な複雑な構造をもつ結晶の形態の認識にはむしろ高分解能な走査型電子顕微鏡(SEM)の方がはるかに有利である。電子後方散乱回折(Electron Back-Scattering Diffraction:以下EBSDと略記)はSEM内で結晶学的情報が得られる有用な方法である。SEMとEBSDによる分析はTEMに比べて容易にデータが得られること、X線回折と比べてもはるかに高い空間分解能(100 nm以下)を持つことから、結晶学や材料科学など様々な分野における活躍が期待される新しい手法である。本研究ではEBSDを用いて、P. carteraeおよびGephyrocapsa oceanicaのコッコリスに関して結晶方位を調べた。
    【実験方法】
     培養したP. carteraeおよびG. oceanicaの藻体を回収し、超音波処理、遠心分離によってコッコリスを単離し、エタノール溶液中に懸濁した。コッコリスを含む溶液をアモルファスシリコン膜でコーティングしたシリコンウェーハー上に分散させ、カーボンを蒸着させた後、SEMによる観察を行った。装置は日立S-4500およびサーモノーラン社製のEBSD検出器(Phase-ID システム)を使用し、方位解析には自作のソフトウェアを用いた。
    【結果と考察】
     P. carteraeのコッコリスはV結晶が良く発達しており、真上からコッコリスを見下ろした場合、V結晶のみが観察された。個々のV結晶のc軸は全てコッコリスの基底面から約60℃傾いていた。またa軸はほぼ基底面に平行であった。一方、G. oceanicaのコッコリスはE. huxleyiと同様にR結晶が発達しており、真上から見下ろした場合、R結晶のみが観察された。R結晶のc軸はコッコリスの基底面から約20℃傾いていた。本発表ではこのような結晶方位とともに,各結晶に発達した結晶面の指数決定の結果も報告する。
  • 北川 結香, 奥野 正幸, 木原 國昭, 朝田 隆二
    セッションID: K6-10
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
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    はじめに
     珪藻は珪質の細胞壁を持つことが知られている。その珪質細胞壁はfrustuleと呼ばれる上下二枚の殻が合わさっている。そのシリカの殻は多孔質で様々な形をしており、古くから分類学上重要視され、近年電子顕微鏡によりそのミクロスケールの構造は詳しく調べられてきている。しかしながら、ナノメータスケールの構造、組織についての研究はほとんど行われていない。本研究では珪藻殻の分子-原子レベルの構造を主にX線回折と顕微赤外分光測定によって明らかにし、さらに加熱による構造変化を解明することを目的とした。珪藻殻は非晶質含水シリカで、珪藻の有機膜に多く存在する水酸基を持つアミノ酸(セリンとスレオニン)が多く含まれておりそれらが珪酸の重合を促進する有機鋳型であると考えられている。その詳しい構造と加熱変化から得られる知見は有機物とシリカ鉱物との相互作用についての情報を与えると期待される。
    試料と実験
     珪藻は北海道の知床半島にあるカムイワッカの滝で採取した。カムイワッカの滝は強酸性温泉(pH1.0から2.0)である。この珪藻は羽状目で、大きさ(長径)約30ミクロン、左右対称の長楕円形をしている。化学組成はエネルギー分散分析器(EDX)のついたSEMによる分析によりほぼSiO2であることが確認された。加熱変化については、珪藻を電気炉中で50から1150℃の温度で24時間加熱し、室温に冷却した試料を測定に用いた。顕微赤外分光法はJasco FT/IR610+Micro-20顕微赤外分光計(対物レンズ32×)を用い、透過法で測定を行った。測定は、CaF2板を用いて2,3固体の珪藻について範囲ν=650から4000cm-1(分解能4cm-1)の範囲で行った。さらに、10mg程度の珪藻を用いて粉末X線回折測定(リガクRint2200粉末X線回折計、Cu-Kα線)を行った。
    結果
    1)室温での珪藻の構造
     非加熱処理の珪藻のX線回折パターンは非晶質物質に特有のブロードなものを示し、そのプロファイルから珪藻殻の構造はシリカゲルに類似した非晶質のSiO2であることがわかった。また、強度の弱い結晶相のピークがみられ、このことから少量のクリストバライトや石英などのSiO2鉱物を含むことが考えられる。赤外分光の分析により、ν=1200cm-1に四面体配位のSi-O伸縮振動に割り当てられる強いバンドが見られることから、珪藻殻の構成単位がSiO4四面体であることがわかった。また有機物に関するバンドやSi-OHのバンドもみられ構造中にそれらを含むことがわかった。
    2)構造の加熱変化
     赤外分光測定より有機物や水は約400℃でなくなり、また600℃以上でSi-O伸縮振動によるバンドの変化も見られた。このSi-Oのν=1000~1300cm-1のバンドは高温で位置が高振動数側にシフトし、さらにピークが鋭くなった。珪藻の加熱サンプルのX線分析より加熱によって非晶質のブロードな回折パターンが変化することがわかった。このことから非晶質シリカの中距離構造になんらかの変化が起きていると思われる。また、結晶質の回折ピーク強度が増加することよりわずかに結晶化が進んだと考えられる。
  • 柳澤 教雄, 松永 烈, 杉田 創, 岡部 高志
    セッションID: K6-11
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
      将来の地熱発電方法として、地上から河川水などを地下の高温部に注水し、熱エネルギーを取り出す高温岩体システム(HDR)が提案されている。2000年11月から2002年8月まで、山形県肘折地域においてこのHDRの循環試験が実施された。その際、地上配管や坑内でのスケール付着が確認された。本発表では、スケールの沈着メカニズムを考察する。
    採取箇所と分析項目
     肘折ではHDR-2、HDR-3の2本の生産井があるが、その地上部の熱水ラインで採取を行った。また、坑内検層時に検層機により浮上したスケールも採取した。これらのスケールのX線回折および化学分析を行った。
    結果
     HDR-2の地上部で観察されたスケールはほとんど方解石であった。一方、HDR-3では、70%以上がアモルファスシリカで残りは鉄鉱物10%、炭酸カルシウム、硬石膏で5%程度であった。一方、坑内検層時の浮上物はHDR-2、3ともほとんどが硬石膏であり、一部に炭酸カルシウム、アモルファスシリカ、磁鉄鉱が含まれていた。
    考察
     地上部でHDR-2が方解石、HDR-3がシリカに富む傾向は、熱水組成がHDR-2でCa、HDR-3でSiO2に富む傾向、さらに熱水の温度と対応した。
     坑内の硬石膏は、坑内で熱水が加熱される過程で温度逆転層が生じたため、高温で溶解度が減少する硬石膏が過飽和になり析出したものと考えられる。この硬石膏の供給源は注入井から生産井の流路の花崗岩中の硬石膏脈と考えられている。地下で析出しなかったCa分は地上で方解石として沈積している。
  • 芳賀 信彦, 木下 忠
    セッションID: K6-12
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    イネ科、カヤツリグサ科植物は他の植物に比べ Si を強く吸収し、葉身中の特定の細胞に蓄積し、植物ケイ酸体 (phytolith) と呼ばれるケイ酸質の固形物をつくる。機動細胞に形成されるイチョウ型(ファン型)のケイ酸体と短細胞に形成されるタケ型ケイ酸体は大型で形態も安定していて数も多い。これらのケイ酸体細胞は葉脈に沿って並び、極めて細長い葉身に機械的な強度を与えている。ケイ酸体は植物体の死後も分解せずに土壌中に残り、プラント・オパールとして考古学の分野で利用されている。植物と棲息環境(土壌)と微量元素の間には密接な関係があり、元素蓄積植物、指標植物の名があるように、植物の中には特定の元素を通常よりも多く蓄積するものがある。我々は植物葉身中に生成する固体物質に着目し、その鉱物学的特徴や含有する微量元素量の特殊性から土壌、地質環境のモニターや phytoremediation の可能性について興味を持っている。本研究では土壌的にも、分類的にも特殊性のないササ類のオカメザサ (Sibataea kumasca) を中心としてそのケイ酸体の鉱物学的特徴、化学的特徴を明らかにし、今後の研究の足場としたい。
     試料は兵庫県赤穂郡の植栽オカメザサの葉を使用した。葉を恒温槽で乾燥後粉末に破砕し粉末 X 線回折を行った。2θ = 22°付近を極大とするオパール特有の回折図形が得られ、他に双子葉植物に広く含まれる whewellite (CaC2O4・H2O) の明瞭なピークも認められた。ケイ酸体を単離するため 550 ℃で 30 分間電気炉による灰化を行い、超音波を照射し分離を行った。光学顕微鏡、SEM により詳しい形態観察を行った。
     EPMA (電子線マイクロアナラザ)によるケイ酸体の元素マッピングを行った結果 Si, O, K, Ca, Mg, Na, Zn, Cu, Mn, Fe, Al にコントラストが認められた。主要元素の Si, O は別として、K のみが 1 (oxide・wt%) 以上ふくまれ、他の微量元素は 1000 ppm のオーダーで含まれる。Mg, Zn, Cu, Mn, Fe, Al などは Si を置換できると考えられる元素であり、 K, Na など大きなイオンは構造の隙間、オパール粒子間の隙間、表面水素の置換などの形で含まれることが予想される。
     オカメザサ、ミヤコザサ、クマザサなどで微量元素の組み合わせは大きな違いはないが、予想以上に多くの微量元素が含まれることがわかり、土壌の特性(母岩地質、pH)、気候的特性(湿地、乾燥地、汽水湖など)により元素量が大きく異なる可能性が示唆された。イネ科、カヤツリグサ科の植物は上記のような広い環境に適応しているのでケイ酸体に、ある元素を異常に多く蓄積するような種類(属)が発見されることが期待される。
  • 土肥 輝美, 鈴木 正哉, 田賀井 篤平
    セッションID: K6-13
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
     有害金属で汚染された土壌や水は多くの環境及び人体への健康問題を引き起こす。非放射性金属ではAs, Cd, Cu, Hg, Pb, Znが、そして放射性金属ではSr, Cs, Uが最も重要な環境に対する金属汚染物質である(1)ことが報告されている。
     また、アメリカ原子力研究所(USDOE) 内の半分以上の施設が、地下水や表層土を汚染する最もありふれた放射性核種はUであると報告している(2)ことから、原子力研究施設を持つ我が国でも、Uの環境中への拡散は今後も重要な問題として取り上げられると思われる。近年そのような環境汚染の修復方法の一つとして注目されているのがphytoremediationと呼ばれる技術で、植物を用いて環境中から汚染物質を取り除くことが試みられている。Cd, Ni, Znのような重金属のphytoremediationに関する研究では多くの情報が与えられているが、Uに関しては基本的な情報が欠乏している(3)のが現状である。従ってUのphytoremediation技術を確立するためにも、植物がその生体内でUを安定化させる機構を明らかにすることが必要であると思われる。
     本研究ではZn, Cu, Cd等の重金属を蓄積することで知られているカラシナ(Brassica juncea)を用いてUを吸着させ、植物生体内の各器官部位でのUの存在状態を明らかにすることを目的とした。
    実験と結果
     実験では5μM・50μMのUO2(NO3)2溶液を調整し、採取したカラシナを10日間浸してUを吸着させた。ICPを用いて定量分析を行うにあたり、カラシナを各器官に分け、炉で60度で乾燥させた後に乳鉢で粉砕した。各粉末試料にHNO3を加えて一晩静置し、H2O2を加え、60度に温めた。
     そして更に150度で3時間温めて溶解させた各器官試料のU濃度を求めた。分析の結果、5μM、50μM・UO2(NO3)2それぞれの溶液に浸したカラシナの根、茎等でUが検出された。
     また、U吸着させた試料に凍結乾燥を施して、FE-SEMとEDSで50μM・UO2(NO3)2溶液に浸したカラシナについてUが検出された器官(根と茎)の断面の観察と定性分析を行った結果、茎では直径数μm程度の塊状でUの他にP,K,Cl,C,Oが検出された。
     また、根の断面でもU含有物質が見られ、これらの中にも茎と同様に直径数μm程度の塊状として存在しているものもあった。
     これらの結果から、Uが根や茎内で細胞内の他の元素と化合して安定化している可能性が示唆される。
    参考文献;(1)Ilya et al., 1997,(2)Riley et al., 1992,(3)Ebbs et al., 1998
  • 赤井 純治, ホサイン アナワール, 長沼 毅, 兼清 温子, 菱田 直人, 福原 晴夫
    セッションID: K6-14
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    バングラデシュなどアジアにおける沖積層広域地下水ヒ素汚染は基本的には自然的な過程で発生している特徴がある.バングラデシュの汚染地下水の一般的な特徴は高濃度ヒ素( > 0.05 ppm : バングラデシュ基準値)の他に,2価鉄(数~10 ppm以上),アンモニア(数~17 ppm),リン酸イオン(数ppm~),重炭酸イオンが高濃度(300~500ppm )である.この地下水ヒ素汚染の機構解明の現段階,どこまでわかってきたかをまとめ,さらにここでは,ヒ素溶出要因としての,1)重炭酸イオンの役割,2)バクテリアのヒ素溶出へのかかわり,その遺伝子解析による特徴の解明,3)マイカのヒ素汚染問題への係わりの3点について,データに基づいてふれる.
     従来,酸化的溶出とする説(e.g., Chakraborti et al.,2001) と還元的環境で溶け出す(e.g.,Nickson et al., 1998)という2つの説が代表的なものとしてあるが,還元的条件で溶解することは,すでに実験的に証明した(Akai et al.,2002).堆積物中のヒ素の存在形態は酸化物態,有機物態,難溶態と多様で,一般に有機物層に全ヒ素は高濃度である(赤井他,2000).さらに, 1).重炭酸イオンに着目して,これを用いた溶出実験を行い,バングラデシュコア試料からヒ素がより溶出することを確かめた.2)またバクテリアの働きで,バングラデシュコア試料からヒ素が溶出することは示してきた(Akai eta l, 2002; 赤井他,2003)が,今回はより多様な物質(N,P等肥料,生活汚水,グルコース,ポロペプトン等)につき行った結果を示す.グルコース添加の培養産物で,ヒ素を溶かしだすのに積極的に働いたバクテリアの遺伝子解析を行った.抽出したDNAから系統分類用の遺伝子(16SrDNA)をPCR反応を用いて増幅し,TOPO TA Cloning Kitを用いてpCR2.1TOPO(vector)の中に組み込み,形質転換をおこさせた.28クローンの塩基配列を読み,系統解析を行なった.塩基配列を決定したところ,5グループが確認でき,これらは全て,クロストリジウム属に分類される遺伝子であることがわかった.Clostridium beijerinckiiのある株は鉄還元をするとされるが,この遺伝子解析では特定できかったので脂肪酸分析をあわせて行った.鉄還元菌の脂肪酸マーカー(分枝一価不飽和脂肪酸)を検討した.バイオマーカー脂肪酸を元に微生物相を推定した鉄還元能をもつClostridium属にみられる脂肪酸(18;1~9cis)がグルコース添加後3日目の試料に比し,5日後の試料では100倍以上にも増加した.鉄還元バクテリアが働いている可能性が示された.3)又,最近,マイカがもともとのヒ素の要因であるとの指摘がある(Dowling, et al.,2002).筆者はそのようには考えないが,コア試料中の黒雲母を検討している中で,その劈開面に水酸化鉄のμm単位の粒子が含まれているのを観察した.一つの可能性として,風化変質過程で,鉄バクテリアが,黒雲母の劈開面等に水酸化鉄沈澱をつくり,その中で,ヒ素を吸着していたものが,地下に埋積していく中でヒ素が放出移動する可能性が考えられる.
     以上のように,堆積物で,特に含有ヒ素の絶対量が問題ではなく,いくつかの諸特徴が複合して広域の地下水ヒ素汚染が起っていると考えられる.
    文献: 赤井他, 2000, 2003, 地惑;Akai et al., 2002, IMA; Chakraborti et al.,2001, Chapplle ed. As exposure and health effects,27.; Nickson et al.,1998, Nature 395, 338; Dowling, et al.,2002,Water Res.Res. 38,9,12-1.
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