哺乳類科学
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63 巻, 1 号
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フィールド・ノート
特集 ここまでわかった絶滅した日本の狼の起源
  • 大舘 智志
    2023 年 63 巻 1 号 p. 3-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー
  • 寺井 洋平
    2023 年 63 巻 1 号 p. 5-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー

    この総説では,全ゲノム情報から見えてきたニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax,Temminck 1839)と他のハイイロオオカミ(C. lupus)(イヌを含む)の関係について紹介する.ニホンオオカミはかつてアジアに生息していたハイイロオオカミの1系統であり,約100年前まで日本列島南部(本州,四国,九州)に分布していたが,その後絶滅した.ニホンオオカミの系統が東アジアで他のハイイロオオカミから分岐したのは17,000年から4万年前程度だと推定される.ニホンオオカミはイヌに最も近縁なハイイロオオカミの系統であり,またニホンオオカミの祖先が東ユーラシアのイヌの祖先と交雑したと推定されている.そのため,現存の東ユーラシアの在来イヌのゲノムにはニホンオオカミの祖先のゲノムが含まれている.江戸時代にはイヌとニホンオオカミの交雑個体がいたことも示され,日本列島ではイヌとニホンオオカミは関係が深かったのかもしれない.ニホンオオカミについては,いつ日本列島に渡来したか,いつ小型化したかなどまだまだ謎は多いが,今後の日本列島出土のイヌ/オオカミの古資料を用いた古代ゲノム情報がさらにニホンオオカミの姿を明らかにすると期待している.

  • 鈴木 千尋, 佐々木 基樹
    2023 年 63 巻 1 号 p. 15-27
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー

    ニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax)は多くの謎を残して絶滅した.これまで,謎に包まれたニホンオオカミの生物学的特徴の解明のため,形態学的な調査や議論が数多く行われてきた.テミンク(Temminck)が1839年にニホンオオカミの命名を行って以来,約180年の間,ニホンオオカミの分類学的位置に決着がつかずにいた.2009年以降になると,ニホンオオカミの遺伝学的手法を用いた解析が着実に進み,ニホンオオカミはオオカミ(C. lupus)の亜種とすることがほぼ確定された.形態学的な研究は,ニホンオオカミの系統進化学的位置を明らかにすることはできなかったが,それらはニホンオオカミの多くの形態の特徴を明らかにしてきた.特に頭蓋の形態において,二分する前翼孔や口蓋骨水平板後縁の湾入など他のオオカミ亜種やイヌ(イヌもオオカミの亜種であるが本総説では別途分けて記載する)とは異なる部位が複数あること,さらに,ストップ(額段)が発達しないといったオオカミの特徴と,小さく扁平な鼓室胞を有するといったイヌの特徴の両方を持つことが明らかにされている.これらニホンオオカミの形態学的特徴は,これまでにニホンオオカミの同定に対して重要な役割を担ってきた.また近年,CTスキャナーや3Dスキャナーによって得られたデジタルデータを用いた三次元画像解析が,ニホンオオカミを含むオオカミやイヌの頭蓋を対象に行われている.CT画像解析によって,頭蓋内部を非破壊的に検索することができるようになり,これまで困難であった頭蓋内部構造の詳細な把握,そしてそれらの定量解析が可能となった.また,CT解析では,頭蓋形態から推定される脳の外部形態を出力することが可能であり,今後ニホンオオカミにおいて脳機能の理解にそれを役立てることができるかもしれない.さらに,これら三次元デジタルデータからは実物形態を反映した模型の作製が可能であり,これらの研究分野での利用はニホンオオカミの様々な機能を解明する機会を我々に与えてくれるであろう.今後,さらなるニホンオオカミの生物学的特徴の把握のためにも,継続的な形態学的研究が必要である.

原著論文
  • ―岩手県盛岡市の市街地を対象として―
    福島 良樹, 原科 幸爾, 西 千秋
    2023 年 63 巻 1 号 p. 29-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー

    岩手県盛岡市の市街地2ヶ所においてGPS首輪を用いてハクビシン(Paguma larvata)5頭を対象とした追跡調査を実施し,行動圏と移動阻害要因に着目して都市部におけるハクビシンの生態を解明した.追跡個体はほぼ完全な夜行性であり,日中はねぐらに入っていた.追跡個体の行動圏面積は63.6~298.4 ha(100%MCP)で,農村部で実施された既往研究と同程度であり,2ヶ所の調査地のいずれにおいても各個体の行動圏は広い範囲で重複していた.また,道路と河川および線路が追跡個体の移動を阻害するバリアーとして機能していたが,道路は幅員が広く,車両の制限速度が高く,路面上が明るい場合のみバリアーとして機能していた.GPSデータが記録された場所の用途地域に着目したモンテカルロシミュレーションにより,追跡個体は商業地域を忌避していたことが判明した.追跡個体が商業地域を忌避していた明確な理由は不明であるが,ハクビシンの行動に影響を与える環境の違いを表現する1つの指標として用途地域を使用できる可能性が示唆された.

  • 宮本 慧祐, 永野 有希子, 松林 尚志
    2023 年 63 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー

    都市近郊に生息するタヌキ(Nyctereutes procyonoides)は,繁殖および休息場としての樹林地,それに隣接する採食場としての農地が重要であると報告されている.しかし,特に農地への選好性は住民へのアンケートや聞き取り調査を基に広域スケールで環境選択性を検証した調査によるもので,実際にタヌキの行動追跡を行って検証した事例は十分ではない.そこで本研究では,農地を多く含む都市近郊の東京農業大学厚木キャンパス周辺を調査地として,タヌキ8個体についてラジオテレメトリーを行い,日周性および季節性を考慮して環境選択性を調べた.その結果,夜間には,農地である畑は全ての季節で,樹林地とタケ・ササ地は一部の季節で正の選択性が認められ,都市近郊に生息するタヌキにとって農地が重要な採食場所の一つであることが示唆された.また,日中の休息場に設置した自動撮影カメラによって,オス成獣の,ヘルパーの可能性がある個体が確認された.

  • 江口 勇也, 佐久間 幹大, 遠藤 優, 坂西 梓里, 鈴木 良実, 千々岩 哲, 嶌本 樹, 片平 浩孝
    2023 年 63 巻 1 号 p. 53-62
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー

    静岡県浜松市では1980年以降に外来リス類が野生化し,市街地から郊外へと分布拡大が続いている.過去に実施されたミトコンドリアDNA D-loop領域を対象とする集団遺伝解析では,クリハラリスCallosciurus erythraeusに加えフィンレイソンリスCallosciurus finlaysoniiの混在が報告されているが,調査範囲は市街地の一部に限られており,分布拡大以降の実態は未詳であった.そこで本研究では,これら2種の分布について広域的に再検討することを目的に,2019年から2021年の間に市内で駆除された266頭を用いて,同領域を対象にハプロタイプの組成および分布を調べた.解析の結果,クリハラリスの体色パターンが見られた一方で,同種由来のミトコンドリアDNAを持つ個体は存在しておらず,フィンレイソンリス由来のハプロタイプ2型の優占が明らかとなった.市内におけるハプロタイプの分布については,幹線道路などの人工物の有無や植生との明瞭な関係は見られず,個体の移動分散が広く生じていることが示唆された.

短報
報告
  • 佐々木 翔哉, 大澤 剛士
    2023 年 63 巻 1 号 p. 69-85
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー

    タヌキNyctereutes procyonoidesは生息環境に応じて食性を柔軟に変えると考えられているが,その変化について,生息地内外における景観要素の構成との関係という観点から広域的に検討した例はほとんどみられない.そこで本研究は,周辺の人工景観の面積や割合に傾度がある東京都の7つの都市公園において約1年間にわたり採集したタヌキの糞分析を行い,人工景観と食性の関係およびその季節変動を検討した.その結果,公園内外の人工景観,特に公園外の人工景観が増加するほどタヌキは餌として人工物を利用する傾向が見いだされた.同時に,公園外の人工景観が多い都市公園では,季節に関わらず人工物を安定的に利用する傾向も確認された.これらの結果から,タヌキは生息地となる公園内外の人工景観で人工的な餌資源を調達しており,その利用状況は人工景観の傾度によって変化すると考えられた.都市化が進むことで,タヌキが利用する主要な餌資源は今後ますます変化していく可能性がある.

  • 千代島 蒔人, 大竹 崇寛, 渡邊 篤, 出口 善隆
    2023 年 63 巻 1 号 p. 87-94
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー

    イノシシ(Sus scrofa)の日周活動性には人間活動のほか,気温が影響することが報告されている.イノシシの分布拡大地域である東北地方北部で日周活動性を検討した事例はないため,岩手県雫石町において自動撮影カメラを用いた推定を行った.春季から秋季にかけては日没前後に撮影回数のピークがあったが,冬季では日中に撮影回数のピークがあり,昼行型に変化した可能性が示唆された.イノシシは東北地方北部の冬季の特徴である低温や積雪に対し,日周活動性を変化させることで適応している可能性が考えられた.

  • 落合 啓二, 須崎 加代子
    2023 年 63 巻 1 号 p. 95-102
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー

    これまでの研究により,ニホンカモシカCapricornis crispusは雌雄ともに同性個体間でなわばり性を発揮し,なわばり行動である激しい追いかけによって同性個体に対し行動圏のほぼ全域を防衛することが明らかにされている.ニホンカモシカのなわばり性に関する今後の地域間比較に資するため,従来検討されたことのないなわばり行動の季節性について取りまとめた.青森県下北半島において1976年3月から2015年10月の期間に断続的に1,263日の調査を実施し,識別個体の行動を直接観察した.25例(オス同士20例,メス同士5例)の激しい追いかけが4月を除いた各月に観察された.調査日数に対する激しい追いかけの観察頻度は,オス同士(1.6回/100日)の方がメス同士(0.4回/100日)より有意に高かった.隣接してなわばりを持ち合う成獣同士の激しい追いかけでは,交尾期である秋に追いかけの観察頻度が高いという季節性が認められた.これに対し,なわばりを持つ成獣がなわばりを持たない成獣ないし若齢個体に対して行う激しい追いかけでは,観察頻度に季節性は認められなかった.

  • 伊藤 萌林, 佐鹿 万里子
    2023 年 63 巻 1 号 p. 103-108
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー

    北海道大学札幌キャンパス内に設置した自動撮影カメラによって,オニグルミJuglans mandshuricaの種子を地面に貯食し,それを積雪下から回収するエゾリスSciurus vulgaris orientisの行動を記録した.エゾリスは2021年12月16日に非積雪状態で貯食したオニグルミの種子を,23日後の2022年1月8日に21 cmの積雪下から回収した.本観察事例ではエゾリスは嗅覚や視覚記憶を使っておらず,エゾリスが貯食物の探索に空間的記憶を重視していることが示唆された.また,貯食行動から回収行動までの23日間にわたって,貯食場所を再確認することがなかったにも関わらず,迷うことなく貯食場所に到達したことは,エゾリスが精度の高い記憶能力を持つことを示唆する.

  • 永田 純子, 亘 悠哉, 高木 俊人, 立澤 史郎, 兼子 伸吾
    2023 年 63 巻 1 号 p. 109-117
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/09
    ジャーナル フリー

    鹿児島県奄美群島の喜界島には,2002年ごろに鹿児島県本土の養鹿場から人が持ち込んだ15頭ほどのニホンジカ(Cervus nippon)に由来する個体群が国内外来種として野外に定着している.本研究では,これまで不明であった喜界島に定着するニホンジカの起源を明らかにするため,喜界島の野外で採集した糞と駆除個体の肉片サンプルを利用し,ミトコンドリアDNAのコントロール領域における塩基配列998 bpを決定した.そして,他地域のニホンジカの遺伝情報も整理し,遺伝的データに基づいて起源を推定した.一連のデータセットから19ハプロタイプが判別され,喜界島産のハプロタイプは馬毛島産固有のHap1と同一であった.本研究の結果と先行研究の情報なども考慮すると,喜界島のニホンジカは馬毛島を起源とする可能性が高い.喜界島へのニホンジカの移入の問題は,シカの移入と飼育個体の逸出が近年になっても繰り返されていることを示している.シカの移動および逸出が外来生物問題を引き起こすリスクを有することを踏まえた,飼育シカ類の移動と飼育に関する厳格な管理制度の構築が求められる.また,喜界島では,定着したシカによる自然植生への影響も懸念される.できる限り早い段階で,適切な個体群管理を遂行できる体制の構築が望まれる.

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