近年,日本国内では,野生動物と人間との軋轢が非常に大きな社会問題となるなか,野生動物の保護管理にむけた取り組みの一環として,野生動物の生息状況や加害状況のモニタリングが行われており,近年ではカメラトラップによる調査も採用されている.しかし,カメラトラップでの撮影枚数の増加により,調査者の目視による画像判別の作業量がカメラトラップの画像取得量に追いつかなくなることが新たな問題となっている.本研究では調査者の目視による画像判別の作業量を削減することを目的とし,深層学習(Deep Learning)による画像判別の技術を用いて,カメラトラップ画像を判別するモデルの構築を試みた.カメラトラップ画像について,動物の在不在の認識,種判別および頭数推定を同時に行うモデルとして,ResNet50をベースとした深層畳み込みニューラルネットワーク(DCNN)モデルを構築した.岐阜大学位山演習林で得られた10万枚以上のカメラトラップ画像を用いて,モデルの学習・検証により判別器(学習済みモデル)を構築し,その精度について評価した.本研究では特にニホンジカ(Cervus nippon),イノシシ(Sus scrofa),カモシカ(Capricornis crispus)およびツキノワグマ(Ursus thibetanus)の4種について,判別器の評価を行った.本研究で構築された判別器は,評価用画像セットの判別において,在の画像の検出率99%を保持しながら,不在の画像の過検出率を15.7%に抑えることができた.ここで判別器が在と判別した画像のみを調査者が目視で確認することを前提とした場合,調査者が目視で確認すべき画像枚数は全体の43.3%まで削減できることが示された.また,DCNNモデルにより動物が写っていると判別された画像のうち,24.3%が動物不在の画像であった.種判別において,判別器による出力が最大となった動物種の正答割合は,ニホンジカ79.6%,イノシシ76.4%,カモシカ82.1%およびツキノワグマ76.6%であった.頭数推定では,真値においてそれぞれの動物種が在である画像に対してDCNNモデルが頭数を正答する割合は,ニホンジカ91.9%,イノシシ84.4%,カモシカ91.6%,およびツキノワグマ86.4%であった.以上の結果から,深層学習による画像判別の技術は,カメラトラップ画像からの動物の在不在,種判別および頭数推定において調査者の労力を削減する有用なツールとなりうることが示された.
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