哺乳類科学
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59 巻, 1 号
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フィールド・ノート
原著論文
  • 佐藤 雄大, 関島 恒夫
    2019 年 59 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/23
    ジャーナル フリー

    本研究では,これまでに飼育が困難とされてきたコキクガシラコウモリ(Rhinolophus cornutus)を対象に,餌台からの拾い食いを繰り返し行わせる学習訓練によって自力採食を促す方法(学習法)を開発し,個体を長期間飼育する上での有効性を検証することを目的とした.飼育個体は,それぞれ(1)学習法による給餌群,(2)餌台に吸音性のある素材を用いることで餌の発見効率を高め,自力採食を促す給餌群(吸音材利用法)および(3)差し餌を継続する給餌群(手差し法)のいずれかに割り当てられた.給餌実験は個体が死亡するまで実施され,飼育期間を通じた生存率,自力採食の達成までに要した日数(順化日数)および飼育従事者が給餌作業に要した時間を,各給餌群間で比較した.学習法による給餌群では,学習訓練を行う季節の違いによる順化日数と生存率の差異についても比較した.学習法による給餌群の生存率は,飼育期間を通じて緩やかに低下したのに対し,吸音材利用法と手差し法の生存率は,飼育開始から20日目までに急激に低下する傾向を示した.各給餌群間で生存曲線を比較したところ,学習法は他の2種類の給餌群よりも有意に高い生存率を示し,順化日数の比較では吸音材利用法よりも学習法の方が有意に短かった.飼育従事者が給餌作業に要した時間は,学習法でもっとも短かった.生存率,順化日数および作業労力の比較によって,学習法は周波数一定型の超音波音声を有するコウモリにおいて,飼育個体を自力採食に導く有用な手法であることが示唆された.学習法では冬眠期に捕獲した場合に,活動期よりも有意に長い順化日数を要し,生存率も低かったことから,学習法を適用する時期については慎重に決定される必要があると考えられた.

  • 船越 公威, 山下 啓, 北之口 卓志, 田中 広音, 大坪 将平, 大平 理紗, 内原 愛美, 大澤 達也, 渡辺 弘太, 永山 翼, 亘 ...
    2019 年 59 巻 1 号 p. 15-36
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/23
    ジャーナル フリー

    徳之島と奄美大島のコウモリ類について,カスミ網,ハープトラップおよびアカメガシワトラップによる捕獲,洞窟探査,音声録音や発信機装着個体の追跡によって調査し,以下の7種と未同定の種が確認された.(1)リュウキュウテングコウモリMurina ryukyuanaは両島の常緑広葉樹林に生息しているが,体のサイズは徳之島の方が大きかった.本種は日毎にねぐらを変え,発信機装着個体の追跡からねぐら間の移動距離は25~178 mであった.ねぐら場所として,比較的乾燥した枯葉,群葉および樹洞が利用されていた.出産・哺育期は5月~7月,母子集団は11月まで持続し母子最大16頭であった.独立後は幼獣雌雄ともに単独生活に入った.成獣雄は秋季になわばりを持つことが示唆された.(2)ヤンバルホオヒゲコウモリMyotis yanbarensisは両島の限られた常緑広葉樹林に生息しているが,徳之島における捕獲率は非常に低く個体数が非常に少ないことが示唆された.(3)オリイコキクガシラコウモリRhinolophus cornutus oriiは両島に点在する自然洞や廃坑をねぐらとして利用していた.この種の音声について徳之島のピーク周波数(111.3 kHz)は奄美大島(107.7 kHz)より高かった.(4)リュウキュウユビナガコウモリMiniopterus fuscusの飛翔域は各島内の広範囲に及んでいた.(5)モモジロコウモリMyotis macrodactylusは河川域で飛翔していたが,両島ではきわめて少なかった.(6)アブラコウモリPipistrellus abramusは両島の市街地に生息することが再確認された.(7)クビワオオコウモリPteropus dasymallusは徳之島で発見された.(8)Tadarida sp.の生息が両島で確認され,徳之島では初めての確認であった.この種の採餌空間は各島内の広域に及んでおり,奄美大島の海岸2ヵ所でねぐら場所が確認された.音声解析から,徳之島では既知種とは異なる種が少なくとも2種,奄美大島では既知種と異なる種が少なくとも2種生息している可能性が示唆された.

  • 佐野 千尋, 大川 智也, 鹿島 惇平, 米地 梨紗子, 糟屋 奈津実, 黒澤 亮, 松林 尚志
    2019 年 59 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/23
    ジャーナル フリー

    森林内に存在する止水域・半止水域であるヌタ場の,中大型哺乳類による利用実態を明らかにするために,神奈川県東丹沢地域のヌタ場6ヶ所を対象として,2015年6月から2017年10月までの29ヶ月間,センサーカメラによる調査を実施した.その結果,12種の哺乳類が撮影された.撮影頻度による上位4種はニホンジカ(Cervus nippon),ニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax),タヌキ(Nyctereutes procyonoides),アナグマ(Meles anakuma)であり,これらが全体の88.2%を占めた.ヌタ場における主な行動は,ニホンジカにおいては雌雄で異なり,オスは繁殖期のヌタ浴びによる匂い付け行動,メスは通年の飲水であった.また,イノシシは通年のヌタ浴び,タヌキとアナグマは春季の探餌行動が優占した.さらに,ヌタ場内の水のナトリウム濃度とニホンジカのメスの飲水の撮影頻度との間に正の相関がみられた.本研究から,ヌタ場の一部は塩場としての機能も有すること,食肉目の採食の場としても利用されていることが判明し,森林性中大型哺乳類にとって重要な生息環境の一つであることが示された.

  • 安藤 正規, 中塚 俊介, 相澤 宏旭, 中森 さつき, 池田 敬, 森部 絢嗣, 寺田 和憲, 加藤 邦人
    2019 年 59 巻 1 号 p. 49-60
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/23
    ジャーナル フリー

    近年,日本国内では,野生動物と人間との軋轢が非常に大きな社会問題となるなか,野生動物の保護管理にむけた取り組みの一環として,野生動物の生息状況や加害状況のモニタリングが行われており,近年ではカメラトラップによる調査も採用されている.しかし,カメラトラップでの撮影枚数の増加により,調査者の目視による画像判別の作業量がカメラトラップの画像取得量に追いつかなくなることが新たな問題となっている.本研究では調査者の目視による画像判別の作業量を削減することを目的とし,深層学習(Deep Learning)による画像判別の技術を用いて,カメラトラップ画像を判別するモデルの構築を試みた.カメラトラップ画像について,動物の在不在の認識,種判別および頭数推定を同時に行うモデルとして,ResNet50をベースとした深層畳み込みニューラルネットワーク(DCNN)モデルを構築した.岐阜大学位山演習林で得られた10万枚以上のカメラトラップ画像を用いて,モデルの学習・検証により判別器(学習済みモデル)を構築し,その精度について評価した.本研究では特にニホンジカ(Cervus nippon),イノシシ(Sus scrofa),カモシカ(Capricornis crispus)およびツキノワグマ(Ursus thibetanus)の4種について,判別器の評価を行った.本研究で構築された判別器は,評価用画像セットの判別において,在の画像の検出率99%を保持しながら,不在の画像の過検出率を15.7%に抑えることができた.ここで判別器が在と判別した画像のみを調査者が目視で確認することを前提とした場合,調査者が目視で確認すべき画像枚数は全体の43.3%まで削減できることが示された.また,DCNNモデルにより動物が写っていると判別された画像のうち,24.3%が動物不在の画像であった.種判別において,判別器による出力が最大となった動物種の正答割合は,ニホンジカ79.6%,イノシシ76.4%,カモシカ82.1%およびツキノワグマ76.6%であった.頭数推定では,真値においてそれぞれの動物種が在である画像に対してDCNNモデルが頭数を正答する割合は,ニホンジカ91.9%,イノシシ84.4%,カモシカ91.6%,およびツキノワグマ86.4%であった.以上の結果から,深層学習による画像判別の技術は,カメラトラップ画像からの動物の在不在,種判別および頭数推定において調査者の労力を削減する有用なツールとなりうることが示された.

  • 曽根 啓子, 藤谷 武史, 子安 和弘, 織田 銑一
    2019 年 59 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/23
    ジャーナル フリー

    野生化アライグマProcyon lotorにおける歯根部の形態変異を調査することを目的として,愛知県の名古屋市と東三河地域,埼玉県の東松山市で収集された野生化個体99頭の頭骨標本を観察した.その結果,永久臼歯の歯根部に,過剰根を持つ個体ならびに歯根部が癒合した個体が認められた.過剰根は上顎のP2およびP3,下顎のP2およびM2で,歯根の癒合は上顎のM2,下顎のP2およびM2で高頻度に認められた.過剰根は,観察したいずれの地域においても認められたが,その出現率は埼玉県の東松山市(6.7%)よりも愛知県の二地域(名古屋市:90.9%,東三河地域:72.2%)で有意に高かった(χ2独立性の検定,P<0.001).一方,歯根の癒合は愛知県でのみ認められ,その出現率は東三河地域(22.2%)よりも名古屋市(33.3%)で高い傾向にあった.以上のことから,2種類の歯根変異の出現率には,地域間で差があることが示唆された.また,愛知県において歯根変異を持つ個体の出現率が極めて高かったのは,野生化の起源となった少数の繁殖集団内に,歯根変異がもともと高い比率で存在し,その形質が創始者効果によって子孫に広まったことが理由であると推察された.

  • 高橋 萌, 加藤 秀弘, 北門 利英
    2019 年 59 巻 1 号 p. 67-78
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/23
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    形態情報に基づいた系群識別や雌雄判別では,各個体から得られる形態測定値を必要とする.しかし,鯨類では座礁や漂着に遭遇する機会が少なく採集捕獲にもコストがかかるため,一般に調査できる標本数が少ない傾向にある.ゆえに,形態の計測項目を増やすことで,取得する情報量を増やす解析戦略を取る場合が多いが,標本数に対して計測項目が高次元となる「小標本下での解析」では適用できる手法が限られるほか,少ない情報下での変数選択を余儀なくされる場合がある.そこで本研究では,従来の判別解析に加え,機械学習法を導入した場合の判別解析の予測精度の向上を統計的に評価し,各手法の有用性を検討した.日本周辺海域で採集された雌雄各6個体のシャチOrcinus orca頭骨から得られた18部位の形態計測データを用いた雌雄判別を行った.シミュレーションの結果,従来型の判別解析では,標本数に対し計測項目の多いデータに対応するため変数選択を行う必要が生じ,判別規則が過学習となる可能性が示唆された.一方,機械学習法の一種であるRandom forestsを用いた解析では過学習となる可能性が低く,小標本の場合であっても高次元情報を生かした判別規則の導出が可能であることが示された.また,実データに適用した結果ではおよそ75%の予測正答率でシャチ頭骨の雌雄を判別できた.

短報
  • 渡辺 義昭, 渡辺 恵, 村上 隆広
    2019 年 59 巻 1 号 p. 79-84
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/23
    ジャーナル フリー

    市街地内の林で,フクロウ(Strix uralensis)によるタイリクモモンガ(Pteromys volans)捕食の状況と個体群に与える影響を調査した.2008年から2017年の毎冬期に調査地内で163個のペリットを採集した.解析した150個のペリットのうち,2調査期ではそれぞれ21個体,23個体のタイリクモモンガが出現した.調査期間中のフクロウの観察率は最大26.9%,最小0%で,年による変動がみられ,タイリクモモンガの巣穴利用樹木数にも最大25本,最小6本と年変動がみられた.フクロウ観察率の高い年の翌年にタイリクモモンガの巣穴利用樹木数が減少した年があった.また,フクロウによるタイリクモモンガ捕食圧が低下したと考えられる翌年にタイリクモモンガの巣穴利用樹木数が増加したケースもみられた.これらの結果は,フクロウの捕食がタイリクモモンガ個体群に影響している可能性を示唆する.

  • 安積 紗羅々, 岡 奈理子, 亘 悠哉
    2019 年 59 巻 1 号 p. 85-91
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/23
    ジャーナル フリー

    東京都の御蔵島では近年,ノネコFelis silvestris catusがオオミズナギドリCalonectris leucomelasの個体群に大きな捕食圧を与えていることが問題になっている.御蔵島には外来のクマネズミRattus rattusとドブネズミR. norvegicusが侵入・定着している.ノネコの代替餌であり中間捕食者ともなりうるこれらの外来ネズミ類の分布や生態を把握することは,ノネコ問題を考える上で重要であると考えられるが,そうした知見は今までにほとんどなかった.本研究では,オオミズナギドリが繁殖のために滞在している9月と,滞在していない12月の2回にわたって,8ヶ所の調査ライン上でカゴ罠を用いたネズミ類の捕獲調査を行い,その生息状況を調べた.9月には,ドブネズミは主に低標高の地点で出現し,クマネズミは低標高から高標高の地点にかけて広く出現した.一方,12月には,ドブネズミは高標高の地点にも出現したが,クマネズミは全体的に100トラップナイト当たりの捕獲数(CPUE)が減少した.2種のネズミは分布やCPUEが標高や季節によって変化し,その変化のしかたは2種のあいだで異なっていた.この結果は,御蔵島においてドブネズミとクマネズミが異なる生態的特性をもつことを示唆する.

報告
  • 宇野 裕之, 立木 靖之, 村井 拓成, 吉田 光男
    2019 年 59 巻 1 号 p. 93-101
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/23
    ジャーナル フリー

    動物福祉(アニマルウェルフェア)に配慮したニホンジカ(Cervus nippon)の効率的な生体捕獲を行うためには,機動性が高く,安全に捕獲することが可能なワナの開発が求められている.二つのタイプの小型(1.8 m×4.4 m)の囲いワナ,アナログ式体重計を用いたタイプ(アナログ型)及びデジタル台秤を用いたタイプ(デジタル型)を開発し,2015年1月~3月及び2016年1月~2月にかけて,北海道浜中町の針広混交林内で野生個体を対象にした捕獲試験を行った.10回のワナの作動で,合計17頭(メス成獣6頭,メス幼獣8頭,オス幼獣3頭)のニホンジカを捕獲し,10回の内7回の捕獲で複数頭の同時捕獲に成功した.捕獲効率(ワナ1台×稼働日数当りの捕獲数)は,アナログ型では0.136~0.167頭/基日,デジタル型では0.444頭/基日であった.研究期間中の捕獲個体の死亡率は0%であった.ワナ設置に係る労力として,アナログ型では2~3人の作業で7時間,デジタル型では2人で10時間を要した.電源として用いた12 Vバッテリーは,厳冬期の気温が氷点下になる条件下で,6日間以上機能が持続することが明らかとなった.開発した小型囲いワナは,設置及び運搬が容易,安全性が高く,複数頭の同時捕獲が可能であり,消費電力も比較的小さいことが明らかとなった.

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