哺乳類科学
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49 巻, 2 号
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原著論文
  • 木場 有紀, 坂口 実香, 村岡 里香, 小櫃 剛人, 谷田 創
    2009 年 49 巻 2 号 p. 207-215
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    広島県島嶼部に位置する呉市蒲刈町上蒲刈島を調査地とし,2003年7月から2006年11月の間に捕獲された268個体のイノシシSus scrofaの胃内容物を用いた食性調査を行った.胃内容物の肉眼観察では,植物質として,柑橘類,カキノキ,サツマイモ,イネ,トウモロコシなどの農作物,堅果,木本,草本,種子などの自生植物がみとめられた.動物質では,多足類,昆虫類,軟体動物類,腹足類,甲殻類,爬虫類,鳥類,哺乳類が出現した.胃内容物に堅果が多く出現した年には柑橘類が少なく,堅果が少なかった年には柑橘類が多くなる傾向がみられた.7月から12月までに捕獲された個体の胃内容物の平均水分含量は73.3%であったが,捕獲月による変動が認められ,7・8月に捕獲された個体では,他の月に比べて水分含量が高かった.また,胃内容物乾物中の平均粗タンパク質含量は約18%であり,これは家畜ブタが通常摂食している飼料よりも高い可能性が示唆された.7月と8月に捕獲されたイノシシの胃では,他の時期に比べてNDFの割合が高く,NFCの割合が低かった.イノシシの胃内容物中に尿素やアンモニアが検出されたことは,イノシシの胃内にウレアーゼ活性のある乳酸桿菌が生息している可能性を示唆するものであった.
  • 鵜野 レイナ, 東 英生, 玉手 英利
    2009 年 49 巻 2 号 p. 217-223
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    本研究では,遺伝マーカーをツキノワグマ(Ursus thibetanus)の個体レベルの生態学的研究に応用した一例を報告する.2007年2月に,衰弱した仔グマが山形県鶴岡市の旧朝日村地区で保護された.マイクロサテライトDNAとミトコンドリアDNAについて,同地域で有害捕獲されたメス成獣と保護個体の遺伝子型を照合した結果,母親と推定される個体が2006年10月に捕殺されていることが明らかになった.この保護個体は0歳の秋に母親と別れ,厳冬期に至る110日間を単独で行動していた可能性がある.
  • 吉倉 智子, 村田 浩一, 三宅 隆, 石原 誠, 中川 雄三, 上條 隆志
    2009 年 49 巻 2 号 p. 225-235
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    ニホンウサギコウモリ(Plecotus auritus sacrimontis)の出産保育コロニーの構造を明らかにすることを目的とし,本州中部の4ヶ所のコロニーで最長5年間の標識再捕獲調査を行った.出産保育コロニーの構造として,齢構成,コロニーサイズとその年次変化,性比および出生コロニーへの帰還率について解析した.また,初産年齢および齢別繁殖率についても解析した.本調査地におけるニホンウサギコウモリの出産保育コロニーは,母獣と幼獣(当歳獣)による7~33個体で構成されていた.また,各コロニー間でコロニーサイズやその年次変化に違いがみられた.幼獣の性比(オス比)は,4ヶ所のコロニー全体で54.2%であり,雌雄の偏りはみられなかったが,満1歳以上の未成獣個体を含む成獣の性比は1.0%とメスに強い偏りがみられた.オスの出生コロニーへの帰還率は,全コロニーでわずか3.6%(2/56)であった.一方,メスの翌年の帰還率は,4ヶ所のコロニーでそれぞれ高い順に78.9%,63.6%,16.7%,0%であった.初産年齢は満1歳または満2歳で,すべてのコロニーを合算した帰還個体の齢別繁殖率は,満1歳で50%(12/24),満2歳で100%(13/13)であった.また,満2歳以上のメスは全て母獣であり,出産年齢に達した後は毎年出産し続けていることが確認された.
  • 佐野 明
    2009 年 49 巻 2 号 p. 237-243
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    三重県内31カ所のスギ,ヒノキ若・壮齢林において,2006年11月から2009年2月にかけて,ニホンジカによる剥皮害の形態別発生頻度,発生時期および被害痕の外観的特徴の季節的変化を調べた.調査期間中に発生した381本の被害木のうち99.7%は樹皮採食によるものであり,角こすりは0.3%に過ぎなかった.樹皮食害のほとんどは樹木の成長期にあたる3~8月に発生し,成長休止期(11~2月)の被害は標高750 m以上の2林分で確認されたのみであった.成長期には内樹皮,外樹皮とも剥ぎ取られ,内樹皮が採食されていた.露出した木部の表面は平滑で,被害木の73.3%では歯痕が見られなかった.一方,成長休止期には内樹皮と外樹皮の間で剥離されて,辺材部に張り付いた内樹皮に高密度の歯痕が残されていた.樹木の成長期と成長休止期の樹皮採食痕の形態は明瞭に区別できること,歯痕のない剥皮害を角こすりによるものとする判断は誤りであることを指摘した.
  • 船越 公威, 長岡 研太, 竹山 光平, 犬童 まどか
    2009 年 49 巻 2 号 p. 245-256
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    コテングコウモリMurina ussuriensisの枯葉(アカメガシワMallotus japonicus)トラップのねぐら利用とそのトラップ法の有効性について検証した.また,その利用結果から本種の繁殖生態について調査した.さらに,トラップ利用個体を用いて発信機装着による個体追跡を試みた.主要な調査地は鹿児島県霧島市の霧島神宮周辺と宮崎県都城市の御池周辺の照葉樹林である.地域や季節を通じた捕獲率は6~19%であったが,地域や季節によって大きく変化し,10月の霧島林と御池林では36%の高率であった.非繁殖期では雄の捕獲が大半を占めていたが,7月中旬には雌が頻繁に捕獲された.捕獲した個体から,南九州では出産が6月初旬で,広島県産よりも約1ヶ月早まることが示唆された.複数の成獣雌と幼獣からなる哺育集団が形成され,離乳期は7月中旬で幼獣はその頃から独立していた.また,交尾は10月がピークであると予想された.雄や非繁殖期の雌は単独でねぐらを利用するがねぐら間の距離が短いことから,ねぐら場所に対して単独的である一方,行動域は重複していた.トラップ法とテレメトリ法による個体追跡から,ねぐらは頻繁に替えられ,個体によっては比較的狭い範囲を移動していた.また,秋季には枯死倒木内をねぐらに利用していた.コテングコウモリの繁殖生態や社会構造を知る上でアカメガシワトラップ法の有効性が実証された.
短報
報告
  • 佐伯 緑, 斎藤 昌幸, 園田 陽一
    2009 年 49 巻 2 号 p. 277-282
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    動物の追跡調査に,携帯GPS端末(例えば68 gのFOMA専用端末)を使った位置情報システムが,既存のテレメトリ手法の代替として使えるか検証した.サービスエリア内では,位置情報が50 m以下の誤差で得られ,中・大型哺乳類の追跡が可能であることが確認された.ただし,本研究で使用した携帯端末では電池寿命が約8日と短かったことから,長寿命の一次電池の搭載が必要だと考えられる.位置情報システムを利用した追跡調査には,インターネットを活用したリアルタイム性およびコストパフォーマンスなどの利点があり,今後の発展が期待される.
    インターネットを活用したリアルタイム性およびコストパフォーマンスなどの利点があり,今後の発展が期待される.
連載「食肉目の研究に関わる調査技術事例集」
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