ロシアの国家自然保護区機関の管轄する「国後島自然保護区クリリスキー」によって,保全・研究・環境教育を目的とした「ストルボフスキー生態観察路」が2001年に国後島中部に設置された.現在でも「クリリスキー」が本生態観察路の管理・整備を担当している.本生態観察路の優占樹種はオヒョウ
Ulmus laciniata,ハルニレ
Ulmus davidiana,エゾイタヤ
Acer pictum,ケヤマハンノキ
Alnus hirsuta であり,林床ではクマイザサ
Sasa senanensis,オニシモツケ
Filipendula camtschatica,エゾイラクサ
Urtica platyphyllaとアキタブキ
Petasites japonicusが小班状に優占する.昆虫類では多くの甲虫類およびチョウ類種が確認されているが,国後島の他地域と比べた場合,特にチョウ類の種数が多いことが報告されている.鳥類については,本生態観察路を含む国後島中部から46種が確認されている.国後島には26種の陸棲哺乳類が生息するが,2015年8月15日~16日に本観察路で実施した哺乳類調査の結果,シマリス
Tamias sibiricus 1個体,キツネ
Vulpes vulpesの糞を12個(この内10個にはネズミ類の体毛が多く含まれていた),クロテン
Martes zibellinaの糞を1個,さらにヒグマ
Ursus arctosの糞1個を確認することができた.本観察路の自然は良く保全されており,少なくとも数種の哺乳類種に利用されていることが明らかになったが,同時にヒグマによる人身事故,およびキツネの糞を介したヒトへのエキノコックス症感染の可能性も危惧され,今後島民に対する適切な啓蒙活動が必要であることが示唆された.
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