哺乳類科学
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61 巻, 2 号
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総説
  • 金子 之史
    2021 年 61 巻 2 号 p. 129-160
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    1910(明治43)年に渡瀨庄三郞は「外来種」であるフイリマングースHerpestes auropunctatusを沖縄本島と渡名喜島に導入した.本稿では関係史料を検討して以下の7点を得た.第1に,中川(1900)は現在でいう外来種に関する米国農務省年報を抄訳しジャマイカ島へのフイリマングース導入経過と影響を紹介した最初であったが,書誌情報は不十分であった.第2に,渡瀨と中川の経歴により両者は既知の関係と推測されたが,渡瀨(1910a,b)には中川(1900)の明示的な影響はなかった.第3に,従来不明であった中川(1900)の出典はPalmer(1899)であると判明した.ただしPalmer(1899)にある数種の外来種,立法行為の必要性,および要約は中川(1900)には訳出されていない.第4に,複数の史料間で1910年の「渡瀨講話」の内容を検討し,渡瀨のマングース導入の論理過程を明らかにした.第5に,渡瀨(1910a)は出典を明示しない講話記録であるが,渡瀨がジャマイカ島へのフイリマングース導入に関するEspeut(1882),Duerden(1896),およびPalmer(1899)を読んでいた可能性を指摘し,国立臺灣大学図書館の渡瀨文庫にPalmer(1899)の抜刷が保管されていること,またその表紙上に“S. WATASE”,“3 SEP. 1907”,および“IMPERIAL UNIVERSITY, TOKIO”のスタンプ押印を確認した.第6に,1907~1910年における渡瀨のフイリマングース導入の出来事を時系列の表にまとめた.第7に,ジャマイカ島,沖縄,他地域のマングース導入に関する当時唯一の日本語文献であった岸田(1924,1927,1931)と従来入手不能であった1910年出版の3文献の復刻版との詳細な比較によって,岸田の記述文には出典のないものがあり,また渡瀨(1910a)には地名や頭数に引用の誤りがあることを明らかにした.

原著論文
  • 財部 薫乃子, 飯島 勇人
    2021 年 61 巻 2 号 p. 161-168
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    本研究は,牧草地の管理形態(採草地,放牧地,放棄地)と防鹿柵の設置状況(集落柵,個別柵,柵なし)が,牧草地と牧草地に隣接する森林におけるニホンジカ(Cervus nippon Temminck)の撮影頻度と,ニホンジカによる牧草の摂食量にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とした.本研究は,八ヶ岳地域において,管理形態や防鹿柵の設置状況が異なる牧草地6箇所とそれぞれの牧草地に隣接する森林を調査地として選定した.各調査地において,牧草地と牧草地に隣接する森林におけるニホンジカの撮影頻度を評価するためにカメラトラップ調査を行った.また,ニホンジカによる牧草の摂食量を評価するためにExclosure実験を行った.カメラトラップ調査の結果,牧草地におけるニホンジカの撮影頻度は,防鹿柵の設置状況と関係なく,森林内におけるニホンジカの撮影頻度よりも高かった.防鹿柵で囲まれた集落内にある牧草地では,ニホンジカの撮影頻度は,ほかの牧草地にくらべてもっとも低かった.一方で,防鹿柵が設置されていない牧草地は,ニホンジカによって著しく利用されていた.牧草地の管理形態は,ニホンジカの撮影頻度に大きな影響は与えていない傾向にあった.Exclosure実験の結果,ニホンジカによる摂食量が有意に大きかったのは,防鹿柵が設置されていない調査地のみであった.さらに,防鹿柵を設置していない牧草地では,牧草の減収率が43%に達した.これらの結果は,ニホンジカが牧草地に与える採食圧が著しいこと,さらに,ニホンジカによる牧草の摂食を防ぐためには,防鹿柵の設置が重要であることを示唆するものである.

  • 千藤 咲, 森阪 匡通, 若林 郁夫, 村上 勝志, 吉岡 基
    2021 年 61 巻 2 号 p. 169-177
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    動物の社会構造解明のためには,個体識別を行い,個体間の相互作用を観察することが必要である.しかし,背びれも体色パターンもない野生下のスナメリでそれを行うことは困難である.そこで,飼育個体を対象に行動観察を行い,個体間関係とその頑強性を明らかにすることを目的とした.鳥羽水族館と南知多ビーチランドで飼育されているオス5個体,メス6個体を対象に,個体同士の社会行動を目視とビデオ録画により,計54日間,437時間観察・記録した.観察された社会行動のうち,背擦り行動についてバウト構造が認められたため,バウト分析を行い,2分以内の背擦り行動を同一バウトとした.水槽内の同居個体の構成が変化することを社会的撹乱とし,撹乱の有無や前後で個体間関係の変化を比較したところ,撹乱がない時に社会行動を行った8ペアのうち3ペアは,長期的に安定した親和的な関係性を示し,この関係性と性別や年齢などの組み合わせには明確な関連はみられなかった.また,これら3ペアには,撹乱の前後で関係性が変化しなかったペア,いったん敵対的に変化しても撹乱翌日には元の関係性に戻ったペアがいた.以上の結果から,飼育下のスナメリには社会的撹乱に対して頑強な,安定した個体間関係を持つペアが存在する可能性が示唆された.

  • 篠田 優香, 佐伯 緑, 竹内 正彦, 木下 嗣基
    2021 年 61 巻 2 号 p. 179-187
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    タヌキのロードキル発生状況を,茨城県阿見町から千葉県成田市までの約35 km区間において32ヶ月間にわたり記録した.この間に124件のロードキルが確認され,秋に多く発生していた.また,この約半数が全体の3分の1に満たない水田優占地帯で発生した.ロードキル発生要因を景観構造の観点から解明するため,ロードキル数を目的変数,土地利用割合を説明変数とした偏最小2乗(PLS)回帰分析を行った.その結果,「水田」と「緑の多い住宅地」が,ロードキル数に対する変数重要度の大きい正の要因であることが明らかとなった.さらに,水田優占地帯においては,大区画水田が単一的に広がる景観と,樹林地や住宅地と混在した小区画水田が残存している景観では,ロードキルの発生時期と発生場所に違いが見られた.これらのことから,タヌキのロードキルは,秋季の分散に伴う行動特性に加え,周辺の土地利用割合,タヌキの生息地利用と景観構造との相互作用による影響を受けていると考えられた.

短報
  • 南 正人, 菊地 哲也, 福江 佑子
    2021 年 61 巻 2 号 p. 189-196
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    ニホンジカ(Cervus nippon)の増加に伴ってくくりわなの設置が全国的に増えている.くくりわなは,捕獲対象を限定できないために錯誤捕獲が発生し,アニマルウエルフェア上も問題が多く,くくりわなの使用の是非や設置法の改善などの検討が行われている.浅間山南麓の長野県軽井沢町で,くくりわなで捕獲されたニホンジカをツキノワグマ(Ursus thibetanus)が摂食する例が多く見つかった.ニホンジカの死体の残渣に執着し攻撃的になるツキノワグマも見られ,ニホンジカの捕獲従事者や山林利用者などにも危険な状態となっている.くくりわなの新たな問題として,その実態を報告する.2017年4月から2019年6月までに,ニホンジカ178頭(雄40頭,雌と幼獣138頭)とイノシシ(Sus scrofa)66頭(雄26頭,雌39頭,幼獣1頭)がくくりわなで捕獲された.そのうち,イノシシの幼獣1頭,ニホンジカの雌と幼獣64頭が,ツキノワグマによって摂食された.ニホンジカの雄やイノシシの成獣は全く摂食されなかった.さらに,摂食された動物のうち,イノシシの幼獣1頭とニホンジカの雌と幼獣39頭については土をかけられた土饅頭となっていた.2019年にはニホンジカを食べているツキノワグマが人間の接近にもかかわらず摂食を続け,時には威嚇することがみられるようになった.ツキノワグマがいる地域でくくりわなを設置する場合は,このような危険性があることを周知するとともに,このような危険性を考慮に入れてくくりわなの使用を検討する必要がある.

  • 長谷川 雛, 酒井 麻衣, 若林 郁夫, 宮西 葵
    2021 年 61 巻 2 号 p. 197-203
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    三重県の鳥羽水族館で飼育されているイロワケイルカ(Cephalorhynchus commersonii)の成熟オス1頭と成熟メス2頭を対象に社会行動を分析した.メスは2頭とも次年に出産したため,本種の妊娠期間から逆算しおおよその受胎日を推定した.オスによるメスへのつきまとい行動を119日間毎日観察し,つきまといが多い時期をメスが発情している時期と推定した.その結果,発情周期は約28日と推定された.並泳,追尾,並列静止,接触,ラビング,オスによるメスの生殖孔への接触,オスがペニスを出してメスに接近する社会行動を記録した.オスと発情時のメス間の社会行動の頻度は,そのメスの非発情時および妊娠中や,オスと発情していない他のメス間での社会行動の頻度よりも高かった.また,追尾と並泳の持続時間は,メス発情時に他の状態の時よりも有意に長かった.これらの行動学的特徴は,非侵襲的にメスの発情を知るための指標となりうる.

報告
  • 山本 輝正, 峰下 耕, 中村 桃子, 西岡 真智子, 本多 宣仁, 神谷 郊美, 水野 昌彦
    2021 年 61 巻 2 号 p. 205-219
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    長野県松本市鈴蘭の乗鞍高原においてクビワコウモリEptesicus japonensisの出産哺育個体群の調査を1990年から2018年の29年間実施した.確認されたクビワコウモリの昼間のねぐらは,長期間ねぐらとして利用されたものがほとんどであった.ねぐら利用の変更の原因として,捕食者が原因の場合とねぐらの消失および改修工事による場合が確認された.このねぐら変更に伴い,この後に確認された出産哺育群の個体数にも変化が見られた.5月下旬~6月上旬の出産哺育群形成開始時期の年変動幅は最大19日,8月下旬~9月の出産哺育群解消時期の年変動幅は最大40日あった.6月中旬~7月中旬に確認できる出産哺育群に参加する総個体数,および7月下旬~8月上旬に確認できる各ねぐらでの最大確認個体数においても年変動が確認された.29年間の乗鞍高原のクビワコウモリ出産哺育群の個体数変動は,77~347頭の範囲で平均180.5頭±75.74頭(SD)であった.

  • 柏木 健司
    2021 年 61 巻 2 号 p. 221-238
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    1900年代前半(1900~1945年)の黒部峡谷における哺乳類相について,登山家による山行記録を用いて情報を整理した.当時の黒部峡谷流域で,イノシシSus scrofa,ニホンカモシカCapricornis crispus,ツキノワグマUrsus thibetanus,ニホンザルMacaca fuscata,ニホンテンMartes melampus,タヌキNyctereutes procyonoidesないしアナグマMeles anakuma,ニホンノウサギLepus brachyurus,ニホンリスSciurus lis,ムササビPetaurista leucogenys,翼手類の一種の記録がみられる.当時の主たる狩猟対象はツキノワグマとニホンカモシカであり,その他にニホンザル,ニホンリス,ムササビ,タヌキないしアナグマなども対象とされていた.1900年代初頭におけるイノシシの確実な記録として,黒部峡谷の最下流部に位置し,現在は宇奈月ダムのダム湖に沈んでいる柳河原が挙げられる.山行記録中の哺乳類情報には,日時と場所を伴う観察記録が多く含まれる.さらに当時,登山家が雇用した山案内人は,猟師や釣り師を生業としていたことから,登山家に哺乳類や狩猟に関する多くの情報を伝え,登山家は積極的にそれら伝聞を文章として残した.山行記録中に記されている哺乳類は,目につき易く狩猟対象ともなっている中・大型哺乳類に限定されている.一方,1900年代前半の黒部峡谷の哺乳類相について,研究者による研究報告は極めて限定的である.登山家の記した山行記録は,1900年代前半の中・大型哺乳類相の情報源として極めて有用である.

  • 大森 鑑能, 細井 栄嗣
    2021 年 61 巻 2 号 p. 239-247
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    ブナ科堅果類は様々な野生動物の秋冬季の重要な食物資源であることが知られているが,被食防止物質としてタンニンを含んでいる.タンニンによる収斂性を測定し,その強さが異なるコナラ属のコナラ(Quercus serrata),クヌギ(Q. acutissima),アラカシ(Q. glauca)及びシイ属のツブラジイ(Castanopsis cuspidata)の4種を用いて,野生の哺乳類を対象にカフェテリア試験を行った.その結果,データ数が少なく断片的であるものの,タヌキ(Nyctereutes procyonoides)は収斂性の比較的強いコナラ属堅果よりも収斂性の弱いツブラジイの採食時間が有意に長かった.タンニンに対して唾液タンパク質などの生理学的な対応策を持つ堅果類消費者も報告されているため,タヌキをはじめとした中大型哺乳類に関しても,生理学的な研究を展開することが望まれる.

  • 柏木 健司, 山崎 裕治, 髙田 隼人
    2021 年 61 巻 2 号 p. 249-260
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    富山県東部黒部峡谷の黒部峡谷鉄道(約20.1 km;宇奈月駅-欅平駅)沿いに並走する冬期歩道(幅1 m強,高さ1.8–2.1 m前後の人工トンネル)内の糞塊について,それらの分布と形状を記載するとともに,5糞塊中の糞粒のDNA分析を実施した.その結果,糞塊の排泄種はニホンカモシカCapricornis crispusであることを確認した.カモシカの糞塊は,黒部峡谷鉄道沿いのうち柳橋駅-仏石間の約1 kmの区間で,冬期歩道の両側に点在していた.糞塊の多くは10–30 cm程度の広がりを持ち,少なくとも100–200個の紡錘形の糞粒で構成され,それぞれの糞粒は密着していた.カモシカは2019年晩春から晩秋にかけて,冬期歩道内にその出入口から50–370 mの地点まで入りこみ,少なくとも冬期歩道内を100–740 mを移動した.冬期歩道は人工洞窟に区分される地下空間であるものの,完全な暗黒の空間を伴わないため,カモシカは冬期歩道に入りこみ長距離を移動できた.なお,現時点でカモシカが冬期歩道に入りこんだ理由は不明である.

  • 北村 直司
    2021 年 61 巻 2 号 p. 261-271
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    九州のツキノワグマ(Ursus thibetanus)は絶滅したとされ,残されている標本はごくわずかである.しかもその形態的特徴については明らかになっていない.1976年,九州山地京丈山ワナバノ第一洞から,ツキノワグマ頭骨標本が産出している.この標本(以下,京丈山標本)については,すでに年代測定および遺伝形質の調査結果が報告されている.2013年,筆者は,この洞穴を再発見・再調査し頭骨を除くほぼ全身のクマ類の体骨格を採取した.大腿骨の放射性炭素年代測定の結果,暦年較正年代は紀元前175年~紀元前42年であった.これは弥生時代前期に相当する.年代測定結果および形態の検討によりこれらの体骨格と京丈山標本とは,同一個体の雄に由来すると考えられた.京丈山標本についてアジア大陸および台湾産の5亜種31個体,日本産亜種の9地域個体群42個体の頭骨の計測値を比較した.計測値は,アジア大陸および台湾産よりは,日本産の範囲に含まれた.京丈山標本は,GLC(頭骨全長)が今回得られた日本産亜種の計測値の平均値に近いサイズであり,LMOL(左上顎M2の最大前後長)およびLLM2(左下顎第2臼歯最大前後長)がGLCに比して大きい特徴を示した.さらに日本産の7地域個体群40個体を用いた判別分析では,京丈山標本の第1,第2判別関数値が西中国の個体群の範囲に含まれた.これらの結果は先の遺伝形質調査結果と矛盾しない.

特集 野生動物管理のための景観生態学
  • 大西 尚樹, 高畠 千尋
    2021 年 61 巻 2 号 p. 273-274
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー
  • 高畠 千尋
    2021 年 61 巻 2 号 p. 275-284
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    人による土地の改変や占有化がすすめば,大型食肉目動物の広大な行動圏に人為景観が含まれる割合は増し,人間活動と重複するエリアも拡大する.その結果生じる人とのあつれきを軽減しつつ,個体群保全を同時にかなえることが今日の世界的難題となっている.人身事故を伴うクマ類との共存のためには,人とクマの遭遇を回避することと,クマによる人里の利用頻度を減らすことが求められる.人-クマ間の遭遇を最小限にするためには,クマが人里周辺地域でどのような空間利用をしているかを把握し,それに応じて人間活動の制御も必要となるだろう.クマによる人里利用を抑制するためには,人里利用増加の要因を人間の土地利用変化の影響を含め広域スケールから特定化した上での,クマの生息地復元・管理などの長期的対策が重要であろう.

    本稿では,人里周辺地域を構成する主要な人為景観要素である林地・農地・住宅地・河畔林・道路に着目し,クマ類がそれらを生息地の一部として,どのように選択・忌避するか,国内外含めた先行研究から整理し,人里周辺における空間利用様式を概観する.そして中央アルプス山麓周辺のツキノワグマが実際に人里周辺地域でどのような空間利用をしていたか,GPS測位データから明らかになった生息地選択行動を事例として紹介する.次に,人里利用増加の要因について,これまで議論されてきた動物学的説明と生態学的説明を試み,実際のデータと科学的推定の事例から検証しつつ,中央アルプスのツキノワグマによる人里利用増加の要因について議論する.最後に,人里周辺でのクマの適応行動への人間活動の対応について,また人里利用増加の要因への対策について課題を整理し,今後に向け研究・管理の方向性について展望する.

  • 大橋 春香
    2021 年 61 巻 2 号 p. 285-294
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    近年,日本国内では,一部の野生動物の分布域が急激に拡大し,農作物への被害や人身被害が発生するなど,人間活動との軋轢が問題となっている.本稿では,特に人間活動との軋轢が日本各地で問題となっているイノシシSus scrofaの人里周辺での生息地利用様式を,筆者らが栃木県南西部の2地域において実施した痕跡調査と自動撮影カメラ調査の結果に基づき,「採餌」と「危機回避」という2つの観点から概説する.

  • 望月 翔太
    2021 年 61 巻 2 号 p. 295-302
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    野生動物の生息地を評価することは,対象動物種の生態を解明し,生息地を保全するうえで重要である.この時,動物がどのような資源を選択し,どのように分布するのかを評価する必要ある.動物の生息地選択は,生息地を構成する景観構造に対し,動物がどのように応答するかという意思決定プロセスの結果である.また,生息地選択では,様々な時間的・空間的スケールを定義する必要がある.本稿では,野生動物の生息地評価における空間スケールの重要性について,これまでの知見を整理する.まず,先行研究における空間スケール(調査範囲と分解能,バッファサイズ)を考慮した事例を整理し,次に,著者らがニホンザル(Macaca fuscata)を対象に研究してきた生息地選択におけるスケール依存性について紹介する.農作物被害は,ニホンザルがどのような環境を選択したかという意思決定プロセスの結果である.ここでは,100 m~2,500 mのバッファサイズで計算した環境要因と農作物被害との関係を解析した.その結果,農作物被害と関係する環境要因は,バッファサイズの大きさによって変化することがわかった.つまり,被害管理を行う際,どの程度の空間内で対策を実施するかによって,同じ対策でも効果が異なる可能性があることを示唆した.さらに,群れごとに生息地選択モデルにおける最適なバッファサイズが異なっていた.これらの結果を踏まえ,野生動物管理におけるスケール設定の重要性について推察した.

  • 大西 尚樹
    2021 年 61 巻 2 号 p. 303-310
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    景観遺伝学(Landscape genetics)は生息地の空間パターンが野生動植物個体群の遺伝的多様性に与える影響を検証する学問として2003年に提唱された.景観遺伝学は,景観的な特徴が遺伝構造に与える影響を明らかにしたり,遺伝的データを用いて生態学的な過程を明らかにしたりすることを目的とする.本稿では,著者らが近年発表した北東北のツキノワグマUrsus thibetanusを材料にした研究を主な題材として景観遺伝学を紹介する.従来の集団遺伝学では距離による隔離の効果(IBD)を検証することが大きな目的の一つだったが,景観遺伝学では景観要因による抵抗や障壁の効果(IBR,IBB)を検証することが多い.ツキノワグマにおいては農地と住宅地が25倍の抵抗として機能していた.また,地形の影響も検出でき,ツキノワグマでは標高よりも個体間の標高差と起伏の程度が遺伝子流動に影響していた.IBBの効果は検出されなかった.生態学的過程を明らかにする研究としては,最小コストパス法とサーキット理論を紹介した.ツキノワグマでは景観生態学的手法で報告されていた行動パターンの雌雄差が遺伝データからも示唆された.景観遺伝学は集団ベースの解析から個体ベースの解析へと移行していくと考えられる.遺伝解析技術の他にも空間解析や統計学に関する知見が求められることから,異なる分野間での交流が必要だろう.

  • 黒江 美紗子
    2021 年 61 巻 2 号 p. 311-313
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー
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