哺乳類科学
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51 巻 , 1 号
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原著論文
  • 西岡 佑一郎, 姉崎 智子, 岩本 光雄, 高井 正成
    2011 年 51 巻 1 号 p. 1-17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    ニホンザル(Macaca fuscata)は本州,四国,九州と屋久島などの島嶼に分布しており,その化石は中期更新世以降の堆積物から多数発見されている.本稿では現生標本と化石標本の大臼歯計測値(歯冠の近遠心径と頬舌径)を比較し,後期更新世以降のニホンザル大臼歯サイズにおける地理的変異と時間的変化を検討した.現生標本は日光,伊那,伊豆,高浜,甲賀,嵐山,若桜,羽須美,中土佐,高崎山,屋久島の11産地を対象とし,雌雄分別して地域変異を調べた.その結果,日光,伊豆,嵐山産標本のサイズが比較的大きく,羽須美,高崎山産標本は比較的小さかった.しかし,各地の緯度および最寒月平均気温と大臼歯サイズの関係を調べたところ,明確な相関は得られなかった.一方でミトコンドリアDNAのハプロタイプに基づいて分けられている東日本の集団と中国・九州地域の集団間で平均値を比較すると,中国・九州地域(羽須美,高崎山)集団の方が有意に小型だった.また,日本の後期更新世,完新世の産地から発見されている化石・遺物標本を用いて現生種と比較した結果,後期更新世の標本は比較的大型で,特に頬舌方向に幅広い大臼歯をもつものが多く見られた.この特徴は完新世の種子島産標本と近畿地方の権現谷の蝶穴産標本にも認められ,逆に四国の上黒岩岩陰遺跡産標本は近遠心方向に大型の大臼歯をもっていた.一方,中国・九州地域の完新世化石標本は比較的小型で,現生の中国・九州地域集団と類似していた.この結果は,中国・九州地域において後期更新世末~完新世初期に小型の大臼歯をもった集団が出現した可能性を示唆しており,現生種に見出された東西集団間の地域分化と関連していると考えられる.
  • 南野 一博, 明石 信廣
    2011 年 51 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    北海道西部の多雪地域に生息するエゾシカCervus nippon yesoensisの冬期の食性を明らかにするために,2006年11月から2007月4月及び2007年11月から2008年4月までの2冬期間,越冬地において定期的に糞を採取し,その内容物を分析した.さらに,越冬地の積雪深を測定し,糞中の割合と積雪深との関係について解析した.糞分析の結果,無積雪期にはクマイザサ,イネ科草本などのグラミノイド,広葉草本類,落葉など多くの食物が利用されていたが,積雪後は内容物のほとんどがクマイザサ及び小枝・樹皮などの木本類の非同化部によって占められていた.越冬地の最大積雪深は2冬期間ともに100 cmを超え,2008年1月上旬には152 cmに達し,2007~2008年における100 cm以上の積雪期間は約2ヶ月半に及んでいた.糞中に占める木本類の割合は積雪の増加とともに高くなり,積雪深が100 cm以上になると大半を占めるようになった.一方,クマイザサの割合は無雪期や積雪が増加した厳冬期には低く,初冬期や融雪期など積雪が中程度のときに最も多く利用されていた.以上のことから,多雪地で越冬するエゾシカの食性は,クマイザサと木本類が主要な餌となっているが,その割合は積雪深に大きく影響を受けており,積雪が増加してクマイザサの利用が制限される期間は,餌のほとんどを木本類に依存していることが明らかとなった.
総説
  • 亘 悠哉
    2011 年 51 巻 1 号 p. 27-38
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    外来種の侵入による生物多様性・生態系機能の低下,および経済被害はきわめて甚大で,各地域特有の自然や暮らしを脅かす切実な問題となっている.こうした問題を解決するために,各地で外来種駆除が実施されており,近年では根絶成功例や在来種の回復など,駆除による対策の有効性が成果として現れてきている.一方で,たとえ外来種を減少させることができたとしても,インパクトを受けていた生態系が必ずしも回復するとは限らず,時には状況がさらに悪化してしまう場合もある.このような知見は個々の論文で報告されてきたものの,全体像が整理され示されたことはこれまでになかった.本総説では,このような知見を整理し,外来哺乳類の影響の環境依存性や非線形性,ヒステリシス,外来種間の相互作用などを,意図しない現象の理由として挙げ,そこには,食性のスイッチングやアリー効果,外来種の侵入と生息地改変の複合効果,メソプレデターリリースなどのプロセスが関わりうることを紹介した.また,それぞれのプロセスに応じた対処法として,在来種の回復の評価プロセスの導入や生息地管理,他の生物の管理などをリストアップした.以上のような対処法が取り入れられた総合的な外来種対策の実践例は,近年報告が増えはじめてきた段階である.このような個々の実践例を積み重ね,対処法の有効性を検証していくことは,個々の地域の問題を解決するだけでなく,さらなる実践例を生み出す上でも重要な役割を果たしていくであろう.
短報
  • 近藤 憲久, 河合 久仁子, 村野 紀雄
    2011 年 51 巻 1 号 p. 39-45
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    札幌市手稲区(43°07′N,141°11′E)で2007年11月9日に拾得されたコウモリは,クロオオアブラコウモリと同定され,日本において8番目,札幌においては4番目の報告となった.日本でこれまで報告されているクロオオアブラコウモリ標本と本拾得個体の頭骨を精査した結果,これまで指摘されてきたように,上顎第二前臼歯が消失傾向にあることが明確となった.また,キタクビワコウモリとクロオオアブラコウモリを比較すると,上顎犬歯咬頭後稜の向きおよび下顎犬歯の高さと第四前臼歯の高さの比率が種識別に有効であることがわかった.
  • 小林 由美, 小林 万里, 高田 清治, 蔵谷 繁喜, 小川 泉, 堀内 秀造, 馬場 浩, 渡邊 有希子, 桜井 泰憲
    2011 年 51 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    サハリンの先住民族であるニブフ族が,ゴマフアザラシPhoca larghaの狩猟に利用していた箱罠,および北海道東部厚岸湾内で地域住民がゼニガタアザラシPhoca vitulina stejnegeriの狩猟に用いていたふくろ網罠を改良し,厚岸湾内でゼニガタアザラシの捕獲を試みた.その結果,捕獲まで至らず逃罠した事例(箱罠で1頭,ふくろ網罠で2頭)があったが,成獣のゼニガタアザラシ計3頭の捕獲・放獣に成功した.改良した箱罠は,1)捕獲効率(設置期間あたりの捕獲頭数)が高い,2)捕獲個体が罠内部で怪我や体力を消耗しにくい,3)捕獲後に個体を麻酔して不動化させるまでが容易,4)製作費用が安価,そして5)罠の設置と回収にかかる労力が少ない,といった点でふくろ網罠に比べて総合的に優れていると判断された.本方法により,人にも動物にも安全で,成獣も捕獲できるゼニガタアザラシの捕獲手法が確立された.今後は,罠の改良など捕獲効率の向上や非選択的な捕獲方法の検討が必要である.
  • 永田 幸志, 岩岡 理樹
    2011 年 51 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,丹沢山地におけるニホンジカの生息密度の経年的変化と季節的変化について明らかにすることを目的として行った.調査地は神奈川県愛甲郡清川村札掛地区で,1998年12月~2007年4月まで,毎年冬期(12月)と春期(3月下旬から4月上旬)に区画法により生息密度調査を行った.調査地内では,1998年から2001年には,12月から翌年の4月または5月まで継続的な人工給餌が行われた.冬期,春期共に,生息密度は比較的高密度で安定しており,経年的な変化に増減の傾向は見られなかった.また,給餌未実施期間は,毎年,冬期に比べて翌年の春期の生息密度が低くなる傾向が見られた.札掛地区を含む丹沢山地のシイ・カシ帯では,食物条件の悪化が指摘されているが,主に落葉採食等の食性の変化や,豪雪等がなかったことを理由として,比較的高い生息密度が維持されたと考えられた.また,生息密度の季節的変化には,狩猟の影響による可猟域から鳥獣保護区へのシカの移動と,冬期から春期にかけての死亡個体の増加が影響したと考えられた.
報告
  • 姉崎 智子, 坂庭 浩之
    2011 年 51 巻 1 号 p. 59-63
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    群馬県において1999年から2010年の間に回収された30体のアナグマの剖検を行った結果,29体のアナグマの膵臓に腫瘤の形成と多数の線虫の寄生を確認した(感染率96.7%).腫瘤の大きさは1.0~6.8 cmと幅があり,中には複数の腫瘤が集まり1つのかたまりを形成しているものも確認された.寄生虫はアナグマ1頭あたり3~266匹が確認され,虫体の形態的特徴を観察した結果,Tetragomphius melisと同定された.T. melisに寄生されたアナグマに削痩などの傾向は認められないことから,線虫による宿主への影響は少ないものと推察された.本稿ではそれらの概要について報告した.
  • 鈴木 圭, 嶌本 樹, 滝澤 洋子, 上開地 広美, 安藤 元一, 柳川 久
    2011 年 51 巻 1 号 p. 65-69
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究はニホンモモンガPteromys momongaの生息に必須な資源であると考えられる樹洞について,スギCryptomeria japonicaやヒノキChamaecyparis obtusaの利用実態を明らかにすることを目的とした.本種の営巣確認を2005年3月から2010年4月の間に神奈川県丹沢山地の針広混交林で行った.その結果,ニホンモモンガの営巣は広葉樹の樹洞木20本のうち1本,針葉樹の樹洞木23本(スギ21本,ヒノキ2本)のうち8本で確認され,営巣のために針葉樹の樹洞木を多く利用していることが明らかになった.また針葉樹の営巣木はすべてスギであった.スギ・ヒノキにおける営巣木の樹高,胸高直径および樹洞の高さはそれぞれ25.6±3.7(平均±SD)m,50.3±11.2 cmおよび6.2±0.6 mで,営巣が確認されなかった樹洞木との間に有意差は認められなかった.
  • 清田 雅史, 米崎 史郎, 香山 薫, 馬場 徳寿
    2011 年 51 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    オットセイ(キタオットセイ,Callorhinus ursinus)の科学調査や漂着,混獲個体の適切な処置の際に必要とされる捕獲と取り扱いの方法を,陸上と海上に分けて解説する.陸上では,雌獣や小型の雄獣(体重70 kg未満)であれば,絞め縄のついた棒か大型のタモ網を用いて捕獲し,保定具を用いて物理的に不動化することができるが,大型の成獣雄の取り扱いには,化学的不動化法を用いざるを得ない.捕獲と保定の間は絶えず呼吸状態を確認することが大切である.また,繁殖島上でオットセイは密集した社会的な集団を形成するため,捕獲に際して上陸集団への撹乱を最小にし,動物と作業者の安全を確保し得る接近,捕獲,保定の方法を選ばなければならない.処置後の捕獲個体が他個体との社会的関係を維持できるよう,元の状態に安全に戻すことも重要である.一方海上では,摂餌域で流し刺網を使った生け捕りが可能である.日本国内ではオットセイの捕獲と所持は国内法により規制されており,調査のための捕獲を行うには,政府の許可を得る必要がある.
  • 米田 政明, 間野 勉
    2011 年 51 巻 1 号 p. 79-95
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    日本のクマ類(ツキノワグマとヒグマ)は,その生物学的特性および社会的要請から,狩猟獣の中でも保護管理に特に注意が必要な種である.クマ類の保護管理では,捕獲数管理のため個体数あるいはその動向把握が不可欠であることから,クマ類の個体数推定法に関するレビューを行った.クマ類の個体数調査のため,これまでに,聞き取り調査法などいくつかの方法が適用されてきた.捕獲数は実際の個体数変動よりも,堅果類の豊凶など環境変動による生息地利用の変化および捕獲管理政策の影響を強く受ける.直接観察法は,積雪状態など環境条件が個体発見率に影響する.痕跡調査法は,相対密度や個体群動向把握には利用できても,絶対数推定は困難である.採取した体毛のDNAマーカ個体識別に基づくヘア・トラップ法は,現状ではコスト面での優位性は低いが,高精度の個体数推定を行うには適した方法と考えられる.ツキノワグマを対象とした特定鳥獣保護管理計画を作成している全国17府県のうち6県は,ヘア・トラップ法による個体数推定を行っている.以上のような様々な調査法で行われた21府県におけるツキノワグマ推定生息数と,その府県の捕獲割合から推定したツキノワグマの全国推定個体数は,最小推定数が13,169頭,最大推定数が20,864頭となった.地方自治体(都道府県)および国による継続的な個体数調査によって,この全国の推定個体数の確度を検証しその変化をモニタリングしていく必要がある.費用対効果の観点からは,高精度の個体数調査と簡便な代替法・補完法の組み合わせが提案される.
  • 柳沼 勇樹, 岩佐 真宏
    2011 年 51 巻 1 号 p. 97-99
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    We collected one specimen of Apodemus speciosus with small eyes suggestive of a microphthalmia-like aberration in Fujisawa, Kanagawa Pref., Japan. The external appearance and skull characteristics of this specimen were normal except for the eyes. We observed under the microscope that there was a small lens-like tissue and soft tissue in the internal status of the eye. In contrast, a normal specimen’s eyes were filled internally with lens. Thus, these small eyes were recognized as an aberration, for example a microphthalmia mutation, indicating the first record of such an aberration in A. speciosus collected in the field.
学会賞受賞者
2010年度大会シンポジウム記録「野生生物の社会経済的利活用と生物多様性保全」
連載「食肉目の研究に関わる調査技術事例集」
2010年度大会自由集会記録
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