哺乳類科学
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50 巻, 1 号
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原著論文
  • 船坂 徳子, 吉岡 基, 植田 啓一, 柳澤 牧央, 宮原 弘和, 内田 詮三
    2010 年 50 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    ミナミバンドウイルカ(ミナミハンドウイルカ)Tursiops aduncusの成熟オス4個体を対象として,日長が大きく異なる冬至,春分,夏至に3時間間隔で24時間の連続採血を行い,血液学的検査7項目(冬至,春分,夏至)および血液生化学的検査17項目(冬至,夏至)の日内変動を調べた.ヘマトクリット(HT),尿素窒素(BUN),尿酸(UA),中性脂肪(TG),ヘモグロビン濃度(HGB),赤血球数(RBC),白血球数(WBC),総コレステロール(T-CHO),アルカリフォスファターゼ(ALP),カリウム(K)に日内リズムが認められ,このうちHT,BUN,UA,TGのリズムは特に明瞭であり(P<0.01),HTは18時に低値を示し,BUN,UA,TGはいずれも夕方から夜間にかけて高値を示した.これらの日内リズムの頂点平均時刻は,いずれの季節においても日長とは無関係にほぼ同時刻であったことから,そのリズムは内因性の概日時計に制御されている可能性が示唆された.他の項目の日内変動は,不規則なパルス状(好酸球分画,Eos;アルブミン,Alb;グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ,GOT;グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ,GPT;総ビリルビン,T-Bil:クレアチンフォスフォキナーゼ,CPK;ナトリウム,Na;クロール,Cl),経時的上昇あるいは下降(クレアチニン,Cre;血糖,Glu),ほぼ不変(好中球分画,Neut;リンパ球分画,Lym;総タンパク,TP;乳酸脱水素酵素,LDH)に区別できた.
  • 近藤 茂則, 神田 育子, 石田 義成, 鍋島 靖信
    2010 年 50 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    大阪湾におけるスナメリNeophocaena phocaenoidesの分布と密度を把握するために,大阪府環境農林水産総合研究所の海洋調査船「おおさか」によるスナメリ目撃記録の分析を行うと共に,湾中部海域を航行するカー・フェリーを用いてライントランセクト法による目視調査を実施した.海洋調査船「おおさか」は,2004年4月~2007年12月の期間における263日間に,合計25群のスナメリに遭遇していた.同船は大阪湾の広い海域を航行していたが,スナメリは岬町~岸和田市沖の湾東部海域(34°21′~32′N,135°8′~20′E)でのみ目撃されていた.また,カー・フェリーからの目視調査では,2005年10月~2007年1月の期間に,Beaufort風力階級2以下の海況下を4,403 kmにわたって調査し,合計72頭のスナメリを発見した.発見位置は,湾東部海域(34°23′~26′N,135°8′~13′E)に集中していた.スナメリの密度は,3~7月に高い値を示す傾向があった.ピークの4月における密度は,0.238頭/km2と推定された.これらのことから,スナメリは,大阪湾東部の限られた海域に主に分布しており,春~初夏にかけてこの海域に多く来遊すると考えられた.
  • 和田 一雄, 浜田 穣, 李 友邦, 周 岐海, 将 建波, 黄 乗明
    2010 年 50 巻 1 号 p. 21-29
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    中国,広西壮族自治区のマカカ属(Macaca)の分布を明らかにするために,2005年12月に10日間,2008年11月から2009年1月に約2カ月間,中国の広西壮族自治区北部と西部に広がる保護区及び,その周辺地域において,マカカ属4種の聞き込みと観察を試みた.アカゲザル(Macaca mulatta)は同自治区北部と西部全域の標高100–300 mに,チベットモンキー(M. thibetana)は同自治区北部の標高400–500 m以上の地域に分布した.アッサムモンキー(M. assamensis)は同自治区の中-南部の,標高200–400 mの地域に分布した.ベニガオザル(M. arctoides)は同自治区西部の木論保護区のみに分布するとの情報を得た.これらの結果から,更新世初期に同自治区に分布していたチベットモンキーとアッサムモンキーより遅れて更新世中期に同自治区に到達したアカゲザルは,優位な生態的拮抗関係を通して,有利に分布域を拡大して,チベットモンキーとアッサムモンキーの孤立分布をもたらしたと推定される.
  • 根本 唯, 星崎 和彦, 岡 輝樹
    2010 年 50 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の人里域への出没に伴い有害捕獲数が増加するのは主に夏から秋であるが,冬ごもり解除直後から初夏(4~6月)にかけて有害捕獲数が他年より多い年がある.本研究では,この時季の有害捕獲数の変動の予測を可能にするため,秋田,岩手県における有害捕獲数の変動に雪解けのタイミング(消雪日)と前年のブナの豊凶程度がどの程度影響しているかについて解析をおこなった.重回帰分析の結果,秋田県では4~6月の有害捕獲数と消雪日の間に有意な負の相関が確認されたが,他は認められなかった.秋田県では,雪解けが早い年には,春から夏にかけて有害捕獲数が多い可能性があり,住民にクマと遭遇する危険性についての注意を促すことが必要と考えられた.一方,岩手県ではこの要因では有害捕獲の多寡を説明することはできなかった.
  • 佐野 明
    2010 年 50 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    三重県内11カ所のスギ,ヒノキ若・壮齢林において,2007年3月から2009年11月にかけて,ニホンジカCervus nipponによる樹皮食害痕の経時的変化を調べた.樹木の成長期には内樹皮,外樹皮とともに形成層も剥ぎ取られ,露出した木部表面には新たな組織形成にともなう形状の変化は生じなかった.一方,成長休止期には外樹皮が剥がれ,木部に張り付いた薄い膜状の内樹皮に多数の歯痕が残されていた.多くの場合,表面の形状は変化しなかったが,歯痕密度が低い場合には歯痕の周囲に木部の肥大による巻き込みが認められるものがあった.被害後2成長期を経過しても,成長期と成長休止期の被害木の区別は可能であることがわかった.
短報
  • ―安定同位体分析による食性解析―
    中下 留美子, 鈴木 彌生子, 林 秀剛, 泉山 茂之, 中川 恒祐, 八代田 千鶴, 淺野 玄, 鈴木 正嗣
    2010 年 50 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    2009年9月19日,乗鞍岳の畳平(岐阜県高山市)で発生したツキノワグマ(Ursus thibetanus)による人身事故について,加害個体の炭素および窒素安定同位体比による食性解析を行った.体毛の炭素・窒素安定同位体比は,他の北アルプスの自然個体と同様の値を示した.さらに,体毛の成長過程に沿って切り分けて分析を行った結果についても,過去2年間の食性履歴において残飯に依存した形跡は見られなかった.当該個体は,観光客や食堂から出る残飯等に餌付いた可能性が疑われていたが,そのような経歴の無い,高山帯を生息圏の一部として利用する個体である可能性が高いことが明らかとなった.
  • 安井 さち子
    2010 年 50 巻 1 号 p. 49-54
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    アブラコウモリPipistrellus abramusの日中ねぐらにおける単独個体と集団の構成について明らかにするために,東京都府中市で日中ねぐらの調査を行った.日中ねぐらの単独利用個体のほとんどは,成獣オスだった.多くの集団は,成獣メスのみか,成獣メスと幼獣から構成されていた.母獣の含まれた集団のサイズは,3~22個体だった.集団のサイズにかかわらず,集団内で確認された成獣オスの個体数は2個体以下であった.アブラコウモリでは日中ねぐらにおいて単独オスの存在が示唆されていたが,実際にオスによる単独利用が一般的にみられることが確かめられた.成獣メスにおいて,同じねぐらで再捕獲された事例があった一方で,最大87 m離れたねぐらで再捕獲された事例があった.
報告
  • 阿部 永
    2010 年 50 巻 1 号 p. 55-66
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/23
    ジャーナル フリー
    本州中部においてコウベモグラMogera woguraがアズマモグラM. imaizumiiと競合し,分布を置換しながら前進している8地域においてトンネルのサイズ調査を行い,2009年時における前者のおよその分布先端を確定した.特に1959年に分布先端を確定してあった長野県内2河川流域のうち,木曽川上流においては上松付近において50年間に最大4.1 kmの分布拡大が認められた.他方,天竜川上流の支流小野川流域では最大2.4 km,本流域では最大16 kmの分布拡大が認められた.石川県金沢平野におけるコウベモグラの分布先端は,1998年における最初の調査以後の11年間に大きな変化はなかった.富士川流域では最上流部にある甲府盆地の下流約16 kmの峡谷に分布先端があった.静岡県・神奈川県にまたがる地域では,両県を分け南北に連なる山脈がコウベモグラの東進を妨げる障壁になっていることが明らかになった.
学会賞受賞者
2009年度大会シンポジウム記録
2009年度大会自由集会記録
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