哺乳類科学
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56 巻, 2 号
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原著論文
  • 笹井 隆秀, 亀田 和成, 伊澤 雅子
    2016 年 56 巻 2 号 p. 97-103
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    西表島の南海岸に位置するウブ浜およびサザレ浜において,リュウキュウイノシシSus scrofa riukiuanusによるウミガメ卵への捕食圧の程度,およびその季節的な変化に関する調査を行った.2010年にはウブ浜では34,サザレ浜では60のウミガメの産卵巣を確認し,そのうちイノシシに捕食されたものは,ウブ浜34巣(100%),サザレ浜26巣(43%)であった.イノシシの行動を30回観察した結果,ウミガメの掘ったボディピット内で穴を掘るなど直接捕食に関わる行動が17回(57%)観察された.ウブ浜内におけるイノシシの砂浜への出現頻度はウミガメの産卵巣数の季節的増減と対応した傾向を示した.また,イノシシの足跡およびウミガメのボディピットの分布は,ともに植生帯の近くに多かった.これらのことから,イノシシがウミガメの産卵期に合わせて砂浜へ出現し,選択的にウミガメ卵を捕食していることが明らかになった.

  • 根本 唯, 小坂井 千夏, 山﨑 晃司, 小池 伸介, 中島 亜美, 郡 麻里, 正木 隆, 梶 光一
    2016 年 56 巻 2 号 p. 105-115
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の生息地選択と秋の重要な食物資源であるブナ科堅果の結実量の年次変動との関係を明らかにすることは,本種の保護管理上の重要な課題である.これまで本種の生息地選択には既存の植生図が用いられることが多かったが,精度の観点からツキノワグマの生息地選択を詳細に評価することは難しいことが指摘されている.そこで本研究では,ツキノワグマの生息地選択の詳細を明らかにするために,新たに高精度植生図を作成し生息地の植生を評価した.さらに,その有効性を現地調査による植生調査によって確かめた.具体的には,調査地(足尾・日光山地)に生育するブナ科樹種の中でも特に優占するミズナラ(Quercus crispula)堅果の不作年と並作年において,ツキノワグマが秋に集中的に利用していた場所の植物の樹種構成および各植生タイプの選択性について比較した.並作年には,現地での植生調査により,ツキノワグマはミズナラが優占する場所を集中的に利用しており,高精度植生図を用いた解析からは,ミズナラ林への選択性があることが確認された.不作年には,並作年と同様にミズナラが最も優占する地域を集中的に利用していたが,その地域にはミズナラ以外にもコナラ(Q. serrata)などの複数のブナ科樹種が出現した.一方,高精度植生図からはミズナラや他のブナ科樹種に対する有意な選択性は確認できなかった.以上の結果から,ツキノワグマは不作年においてもミズナラへの嗜好性が強いことが明らかとなり,さらに不作年ではミズナラの不足を補完するために,他のブナ科樹種の堅果を利用することで対応していたことも示唆された.

  • 船越 公威, 玉利 高志, 市耒原 優樹, 北之口 卓志, 田中 広音
    2016 年 56 巻 2 号 p. 117-128
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    コテングコウモリMurina ussuriensisのねぐら利用を知るためアカメガシワトラップ法による7年間の継続調査と電波発信機による単年度の追跡調査を行った.幼獣で捕獲された個体の翌年の再捕獲率は雄13%,雌16%で,再捕獲場所は出生地点かその近くであった.成獣雄はすべて単独で捕獲された.成獣雌もコロニー形成期(6~8月)を除けば単独で捕獲された.成獣雄は森林の低層部(地上高2 m前後)および中層部(6~10 m)の両方のねぐらを利用し,場所を頻繁に変えていた.一方,成獣雌は,6~7月に中層部のねぐらで出産・哺育集団を形成した.哺育後は低層部のねぐらも利用し,頻繁にねぐらを変えていた.成獣の雌雄とも再捕獲の4割が捕獲地点のねぐらを利用し,他地点のねぐらを利用した場合は雄で平均116 m,雌で209 mの距離であった.雄のねぐら移動の経年変化では,特定の場所に留まるタイプと移動するタイプが見られた.秋の交尾期におけるハーレムの形成が示唆された.雌雄とも出生年の秋に繁殖に関与する個体が認められた.確認された最長生存期間は雄で4年,雌で4年半であった.

  • 菊池 晏那, 西 千秋, 出口 善隆
    2016 年 56 巻 2 号 p. 129-134
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    ニホンリス(Sciurus lis)の営巣場所と採食場所は保護活動に必要な知見であると考えられる.そこで,ニホンリスが主要な餌としてオニグルミ(Juglans mandshurica var. sachalinensis)を選択する盛岡市高松公園においてテレメトリー調査を行い,通年の巣の移動および巣とクルミの木の位置関係について明らかにした.

    ニホンリスは1年を通して常緑樹上の球状巣を頻繁に利用した.球状巣は落葉期よりも着葉期に多く利用された.樹洞巣は両季節で同程度利用された.

    また,行動圏,巣間距離(変更前後の巣の間の直線距離)ともにオスはメスより大きく,長いことが明らかになった.巣間距離(平均値±SD)は着葉期のメスでは68±42 m,オスでは115±59 m,落葉期のメスでは82±42 m,オスでは135±71 mであり,ともにオスが有意に長かった.巣とクルミ木の平均最近接距離はオスで37.4±33.3 m,メスで30.5±22.2 mであった.

    ニホンリスは着葉期・落葉期で,常緑樹と落葉樹および球状巣と樹洞巣を使い分け,巣を隠ぺいし捕食者リスクを低下させる一方,主要な餌であるクルミ類を効率よく得られるよう,季節によって営巣場所を変えていると考えられる.特にメスではこれらの傾向が強いと考えられる.

  • 山本 輝正, 松本 和馬
    2016 年 56 巻 2 号 p. 135-144
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    石川県および長野県で人工構造物をねぐらとしていたカグヤコウモリのオス個体群に対して標識再捕獲法を用いて,21年間の個体数調査を実施した.最長寿命個体は,石川県で14年,長野県で17年の個体が確認された.日本産森林性コウモリ類でこのような長寿記録が確認されたのは初めてである.生涯を通じて生存率一定と仮定して,個体群パラメータの推定を試みたところ,1年当たりの生存率は,石川県で0.871,長野県で0.863,平均寿命は,石川県で7.3年,長野県で6.8年と推定された.また,出産哺育期のオスの平均個体群サイズは,石川県で9.1頭,長野県で22.7頭と推定された.しかし,1回の調査で発見される個体数は両調査地とも5頭以下であった.このことから,調査地周辺には調査対象としたねぐら以外にも利用するねぐらがあったことが示唆された.

短報
  • 飯島 勇人, 大地 純平
    2016 年 56 巻 2 号 p. 145-149
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    野生ニホンジカ(Cervus nippon)の誘引に適した餌を明らかにするために,山梨県森林総合研究所実験林内にアルファルファ(乾燥牧草),チモシー(乾燥牧草),ヘイキューブ(アルファルファを粉砕圧縮したもの),配合飼料を設置し,自動撮影カメラによって最初に摂食される餌の回数を,季節ごとに調査した.多項ロジットモデルによる解析の結果,季節を問わずアルファルファの摂食回数が最も多く,次いで配合飼料,ヘイキューブ,チモシーの順であった.チモシーは,摂食される回数が特に少なかった.また,配合飼料は他の動物が摂食することがあった.以上の結果から,野生ニホンジカの誘引にはアルファルファが適していると考えられた.

  • 上田 浩一, 安田 雅俊
    2016 年 56 巻 2 号 p. 151-157
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル 認証あり

    九州の西に位置する長崎県の五島列島における,絶滅種カワウソLutra lutraの過去の分布を明らかにするために,公立図書館等における文献調査と年配の地域住民への聞き取り調査を行った.カワウソに関する9件の文献資料と8例の証言から,かつて五島列島にカワウソが広く分布したことが強く示唆された.本地域におけるカワウソの生息記録は,文献では1950年代まで,目撃情報では1981年まであった.本地域個体群の絶滅には,かつての乱獲と1928年の禁猟以降の密猟が大きく寄与したと考えられるが,生息地の消失も付加的に影響した可能性がある.今後,さらなる調査によって,本地域におけるカワウソの記録が蓄積されるとともに,写真や毛皮といった物的証拠が発見されることを期待する.

  • 島田 将喜, 落合 可奈子
    2016 年 56 巻 2 号 p. 159-165
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    タヌキ(Nyctereutes procyonoides)はアナグマ(Meles anakuma)の掘った巣穴を利用することがある.ニッチの多く重なる2種が同所的に生息する場合,いずれかの種が何らかの方法で巣穴付近の利用タイミング(時期かつまたは時間帯)をずらすことで種間の直接競合を避けると予想される.山梨県上野原市大野御春山においてアナグマとタヌキが利用することがわかっている巣穴付近に赤外線センサーカメラを設置し,2014年6月下旬から12月中旬までの非繁殖期や非冬眠期の6か月間,2種の行動観察をおこなった.カメラごと種ごとの撮影日時を記録し,巣穴付近での行動を5つのカテゴリーに区分し,1秒単位の連続記録をおこなった.アナグマとタヌキは時期,時間帯をずらして同一の巣穴を利用することによって,両種が時間的ニッチ分化を実現していることが示唆された.タヌキはアナグマに比べて巣穴付近での探索行動の持続時間が長く,その割合も多かった.アナグマは巣穴内をより頻繁に利用することが示唆された.タヌキは嗅覚を用いた探索行動をおこなうことで,アナグマとの出会いを回避しつつ巣穴を共有しているものと考えられる.

  • 谷岡 仁
    2016 年 56 巻 2 号 p. 167-177
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    コテングコウモリMurina ussuriensisのねぐら利用が確認されている麻製の模擬枯葉を,2015年4月下旬から2015年11月下旬にかけて四国剣山山地の森林内に設置して利用状況を調査した.模擬枯葉は,林床近く(低位置)と樹冠部近く(高位置)に複数設置した.その結果,妊娠から出産哺育期にあたる4月下旬から6月下旬にかけては,複数メスによる単一模擬枯葉の利用が毎回観察され,6月には幼獣を含む哺育集団が高位置の模擬枯葉で確認された.集団内の成獣や幼獣の数は毎回変化し,利用された模擬枯葉もほぼ毎回異なった.一方,7月から11月下旬にかけてのメスによる模擬枯葉利用は稀で,すべて単独での利用だった.オスの模擬枯葉利用は調査期間を通して稀で,すべて単独での利用だった.コテングコウモリの出産哺育集団が人工のねぐらを利用した報告はこれまでなく,容易に製作できる模擬枯葉は観察が難しい本種の哺育生態を研究する道具の一つとして有用と考えられる.

  • 加藤 美緒, 小林 万里, 伊東 幸, 河野 康雄
    2016 年 56 巻 2 号 p. 179-188
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    北海道日本海側に位置する稚内市抜海港と焼尻島において,2003年から2009年までの期間,ゴマフアザラシの確認個体数の季節変動や年変動について調べた.抜海港と焼尻島における本種の確認個体数は6年間で年々増加傾向にあったが,抜海港はより高い増加傾向を示した.このような上陸場間の増加傾向の差は,上陸可能面積によることが示唆された.また,2つの上陸場における確認個体数の季節変動は異なり,主に抜海港は個体数のピークが冬期に1回,焼尻島は冬期と春期の計2回見られた.また,両上陸場の確認開始時期はオホーツク海あるいは間宮海峡の海氷が形成され始める時期,最終退去時期は海氷が退去・消失する時期と一致していた.本種の性成熟個体は繁殖期に海氷域へ移動し滞在していると推察されることから,焼尻島は春期の未成熟個体の上陸場として利用されていることが予想される.これらのことから,両上陸場は主に繁殖期前の冬期の上陸場として利用されていること,焼尻島においては未成熟個体によって春期の上陸場としても利用されていることが示唆された.

総説
  • 小林 秀司, 織田 銑一
    2016 年 56 巻 2 号 p. 189-198
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    ヌートリアが日本に定着した原因は,太平洋戦争における毛皮の軍事利用の文脈で語られることが多く,日本軍国主義の終焉が野生化をもたらしたとのイメージが一般に広く浸透している.

    今回,著者らは,故近藤恭司博士の残した資料を出発点に,戦後のヌートリアブームに関する資料を収集し,第二次ヌートリア養殖ブームの再構築を試みたところ,これまでとは全く異なる事実が浮上してきた.当時,食料タンパク増産の国民的な声に押されて策定された畜産振興五ヶ年計画という一大国家プロジェクトが存在し,その一環としてヌートリアの増養殖が計画,推進されていたのである.

    その始まりは,1945年9月,丘 英通と高島春雄が学術研究会議非常時食糧研究特別委員会において,食糧難対策にヌートリアを用いる事を進言した事に遡る.増養殖の容易さが食用タンパク源の緊急増産に好適であるとして,未曾有の食糧危機を打開する「救荒動物」の筆頭にヌートリアが取り上げられたのである.それが畜産振興五ヶ年計画に取り込まれる過程で,食肉利用だけでなく,アメリカの食糧援助に対する「見返り物資」という目的をも付与され,輸出用毛皮増産の切り札として,1947年9月,畜産振興対策要綱に具体的な増養殖計画が盛り込まれた.

    つまり,日本におけるヌートリアの野生化の最大原因とされる第二次養殖ブームは,戦後の経済復興計画の一環として行われたものであり,まさに国策増殖といってよい.

報告
  • 鈴木 圭, 鳥居 春己
    2016 年 56 巻 2 号 p. 199-205
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    本報では静岡県浜松市における,2種の外来リス(クリハラリスCallosciurus erythraeusおよびフィンレイソンリスC. finlaysonii)の分布拡大状況を報告する.これまで浜松市では,これらの外来リスの分布域は東名高速道路の南側の緑地に接しており,東名高速道路が外来リスの分布拡大を遅らせる障壁となっていると考えられていた.しかし本調査の結果,外来リスの分布域はすでに東名高速道路を越えて北側まで広がっていることがわかった.その分布域は東名高速道路から北側に約2 km離れた緑地にまで拡大していた.本調査で明らかにされた分布の最前線から連続した山塊まではわずか7 kmしか離れておらず,それらの間に緑地や小さな林が点在していることから,外来リスの分布域は容易に拡大しそうであり,今後山塊に到達する可能性が高い.山塊における外来リスの根絶は困難になることが予測されるため,分布域がこれ以上広がる前に早急な対応が必要である.

  • 中本 敦, 遠藤 晃
    2016 年 56 巻 2 号 p. 207-213
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    イノシシSus scrofaがおよそ数十~百年間生息していなかったと見られる長崎県五島列島の野崎島において,最近になって近接する地域からのイノシシの侵入が確認された.さらにその後の調査において,島内での分布と個体数が年々拡大していることを記録したのでここに報告する.野崎島でのイノシシの目撃は2010年に初めて記録された.その後,2011年,2012年,2014年の目視によるカウントと痕跡数の記録から,当初,局所的であった目撃場所や痕跡の分布が島内のほぼ全域へと次第に拡大していく様子が観察された.2014年12月に実施した3日間の調査では,のべ19個体のイノシシが目撃された.この個体数の増加は,複数年にわたって亜成獣が確認されていることから,島内でイノシシが繁殖を繰り返した結果と考えられた.すなわち,2010年のイノシシの最初の目撃以降の2年間は雌雄が揃わない等の要因から繁殖に至らなかった状況であったと考えられるが,1度島内で繁殖が始まった後は急激に個体数が増加することが明らかになった.今後,繁殖と海を越える分散を繰り返すことによって,五島列島におけるイノシシの個体数や分布が急速に拡大していくものと考えられる.

特集『IWMC2015』
  • 永田 純子, 明石 信廣, 小泉 透
    2016 年 56 巻 2 号 p. 215-224
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    シカの高密度化が植生や森林土壌などに重大な影響を与えることは,ヨーロッパ,北アメリカおよびアジアなど北半球温帯域に位置する多くの国に共通した現象である.このような国々では,シカによる採食と樹皮剥ぎなどで被害を受けた森林が多くみられ,植物の種構成の変化,森林更新の失敗などが報告されている.我が国においてもニホンジカ(Cervus nippon)による農林業被害や生態系への影響が深刻化しており,対策が求められている.しかし,すでに過密状態にあるニホンジカ個体群のコントロールは困難を極めており,新たなアプローチを模索しなければならない.国際的な議論の動向や諸外国の先進的な取り組みを把握し参考とすることは,今後のニホンジカ管理体制の充実にとって重要である.本シンポジウムでは,科学的シカ管理に着目し,シカの生息地に存在する森林の包括的管理,および比較的新しいシカ管理手法として注目されているローカライズドマネジメント(Localized management)に焦点をあてた.アメリカ,英国,日本において,シカ管理と森林管理をテーマに研究を進めている4名が講演を行い,日本のシカ管理および森林管理に対するこれらの手法の応用可能性について議論を行った.

  • 明石 信廣, 長池 卓男
    2016 年 56 巻 2 号 p. 225-231
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    シカと森林の持続的な管理にむけた提言をまとめることを目的として,第5回国際野生動物管理学術会議においてラウンドテーブルを開催した.生物多様性の復元と持続的な地域づくりをめざす赤谷プロジェクト(群馬県)及び村内全域を猟区に設定して食肉利用も含む管理をすすめる占冠村(北海道)の事例,周辺農地や森林内での被害対策としてシカ対策を検討している三井物産社有林の現状について報告を受け,森林所有者,市町村,研究機関などの多様な関係者の協力による持続的なシカ管理システムの構築に向けて議論を行った.日本では,シカなどの野生生物の管理において,土地所有者,地方自治体,国などの責任や役割が明確になっていない.そのため,(1)関係機関の役割分担と連携体制の確保,(2)シカ捕獲の担い手の確保,(3)シカ管理の財源の確保,の3つを主な課題として指摘した.広域の森林を移動するシカが地域社会に引き起こす多様な課題に対応するには,市町村が中心となって,森林所有者や都道府県,国とともに明確な役割分担のもとで,対策をすすめる必要がある.そのためには,市町村での人材確保が必要であり,国や都道府県には人材育成や周辺市町村との連携をすすめるための取り組みが求められる.森林所有者は狩猟環境の整備などに積極的に協力する必要がある.シカ管理による森林の多面的機能の維持などの多様な利益を評価することにより,持続的な公的資金を確保することが望まれる.

  • 鈴木 正嗣, 伊吾田 宏正, 上野 真由美, 荒木 良太
    2016 年 56 巻 2 号 p. 233-239
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    本シンポジウムでは,まず東アジア諸国において生息数過剰となった有蹄類個体群の管理の現状について情報共有を行った.次いで,欧州での先行事例を参考に,将来の個体数管理に関わる留意点や戦略を論議した.狩猟は,欧州諸国では野生動物管理システムの重要要素として認識されているが,娯楽目的の狩猟者に依存しすぎることによるリスクも顕在化している.狩猟者は,より多くの収穫を得ることを最重要視し,生息数過剰によって生じる諸問題を軽視しがちなためである.東アジア諸国においては,欧州で生じているこの問題について,十分に留意しておく必要性が指摘された.

  • 鈴木 克哉, 江成 広斗, 山端 直人, 清野 紘典, 宇野 壮春, 森光 由樹, 滝口 正明
    2016 年 56 巻 2 号 p. 241-249
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    現在,多くの国で人とマカクザルの軋轢が課題となっている.日本ではニホンザル(Macaca fuscata)が深刻な被害を発生させる主要な害獣の一つとして認識されている地域が多く,効果的な管理を行うための研究や実践が進められている.一方,農村では人口減少や高齢化が進行しており,管理手法の整理や体制の再構築が急がれている.第5回国際野生動物管理学術会議における本シンポジウムでは人口減少・高齢化が進行する日本の社会情勢と,ニホンザル管理の現状を紹介し,今後の課題について議論した.一般的にマカクザルは運動能力や学習能力が高く,被害を防ぐことは容易ではないが,近年,日本では2つのアプローチが有効であることが示されている.一つは,地域が主体となって被害管理を行うアプローチで,地域住民が協力して取り組むことで効果を上げることが示されている.もう一つは,管理すべき対象の群れを識別したうえで,群れ毎に計画的な個体数管理を行うアプローチである.このアプローチでは,群れの個体数や特性についての科学的データを基に,適切な捕獲手法を選択することが求められる.最近では計画的な個体数管理を実施しはじめる自治体もあり,その効果に関するデータも得られている.これらの成果はマカクザルの管理に新しい知見をもたらすことが期待される.今後,これらのアプローチを組み合わせた統合的な管理手法について議論するとともに,長期的にニホンザルの個体群を維持していくために,管理計画の中に保全をどう位置付けるかについて検討しなければならない.

  • 山田 文雄, 池田 透, 戸田 光彦, 橋本 琢磨, 五箇 公一, 曽宮 和夫
    2016 年 56 巻 2 号 p. 251-257
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/07
    ジャーナル フリー

    「第5回国際野生動物管理学術会議(IWMC2015)」において,環境省後援による侵略的外来生物管理に関するシンポジウムとラウンドテーブルを2015年7月28日に開催した.2015年は,「生物多様性条約第10回締約国会議COP10」(愛知)で採択された侵略的外来種に関する「愛知目標9」の達成年(2020年)の中間年に当たる.本シンポジウムにおいては,国際的観点から,「外来種の侵入のパターンと傾向:予防的措置の改善と影響緩和措置の強化のための外来種の侵入経路と対策種の優先順位付け」と,「侵略的外来種,有害生物および病気に関する国際的規制の枠組み」に関する講演があった.日本からは,「日本における侵略的外来種対策の進展と課題」と「愛知目標9の達成のためのわが国における外来種対策の取り組み」に関する講演があった.愛知目標達成に関わる侵略的外来種対策のために,状況の異なるさまざまな国における,行政,研究者,関係者などによる連携のとれた取り組みや普及啓発の重要性が議論された.

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