哺乳類科学
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54 巻, 1 号
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原著論文
  • 佐々木 理紗, 櫻井 裕太, 小林 万里
    2014 年 54 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
    ゴマフアザラシ(Phoca largha)の胎仔19頭を使用し,胎仔成長における形質の発現を調べた.本種には着床遅延があることが知られており,着床日に関する報告がほとんど無いことから,着床日を推定し,着床遅延の意義について考察した.本研究では便宜的に1月1日を1とした日数を死亡日とした.250日以降の死亡個体で爪が,262日以降の個体でヒゲが確認でき,358日以降の個体で毛を確認できた.爪やヒゲが早期に形成され,毛が遅れて形成される傾向は,他のアザラシで報告されている結果と同様であった.また,毛が確認できた358日以降の個体からは歯の萠出及び目が開いていることも確認された.出生時期までに,毛や歯の萌出が完了し,目が開いていることは早成性の特徴と一致した.さらに,体長と各部位の相対成長を調べたところ,25部位中11部位が優成長となり,前肢及び後肢の相対成長係数が高い値を示したのは,本種の出生2–3週間後の早期に遊泳を開始するためと考えられた.推定平均着床日は218日(8月7日)で,その95%信頼区間は7月23日から8月21日であった.
  • 西 千秋, 出口 善隆, 青井 俊樹
    2014 年 54 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
    岩手県盛岡市の都市近郊林に生息するニホンリス(Sciurus lis)の営巣生態について2010年4月1日から2010年12月15日まで調査した.調査個体が夜にねぐらとして使用している巣を無線発信器によって特定した.本種の巣を常緑樹には32個(球状巣30個,樹洞巣2個),落葉樹には28個(球状巣8個,樹洞巣20個),合計60個確認した.また,本種は営巣場所として,林縁を有意に選択していた.1頭が使用した巣の個数は3~20個であり,頻繁にこれらの巣を替えており,同じ巣の平均連続使用日数は,オスでは2.4日間,メスでは4.2日間であった.いくつかの巣では複数の個体による利用が確認されたが,同時利用は1例のみであった.巣のうち73%がクルミの木から60 m未満に存在しており,最近接距離は52.8±49.0 m(平均±SD)であった.本研究により,リスの営巣には,クルミの木の近くに同時に利用できる巣を複数個持つことができること,落葉期に利用できる樹洞が十分にあることが重要であると考えられる.
  • 有本 勲, 岡村 寛, 小池 伸介, 山﨑 晃司, 梶 光一
    2014 年 54 巻 1 号 p. 19-31
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
    近年,ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の分布拡大に伴い人間活動との軋轢が増加しているが,集落周辺におけるツキノワグマの生態に関する知見は限られている.そこで,2010年から2011年に7頭のツキノワグマにGPS首輪を装着し,得られた位置情報にスイッチング状態空間モデルを適用し,移動軌跡の平滑化,および活動量センサーを併用して「移動」・「活動中の滞在」・「休息中の滞在」への行動区分を行った.さらに,「活動中の滞在」とされた測位点が集中した地域を現地踏査し,植生や生活痕跡を記録した.ツキノワグマは,多くの個体は夏前期および夏後期に集落に近い場所を利用し,秋期には集落から遠い場所を利用した.一方,個体によっては,これらの傾向に当てはまらない個体もみられた.集落から遠い場所では夏後期はアリ類やサクラ類の果実,秋期はミズナラの果実が多く採食されたのに対し,集落に近い場所では,夏後期はオニグルミやクリ,秋期はカキノキの果実が多く採食された.また,集落の近くでは夜間の活動割合が増加した.以上より,ツキノワグマは,食物資源の分布の季節変化に応じて季節的に集落に近い場所を利用し,特に集落周辺に自然状態とは異なった状況で,特異に集中的に食物が存在する状況下では,多くの個体が集落の周辺を利用していた.
  • 稲富 佳洋, 宇野 裕之, 上野 真由美
    2014 年 54 巻 1 号 p. 33-41
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
    釧路湿原国立公園におけるエゾシカ(Cervus nippon yesoensis)の個体数管理を効果的に実施するために,ロードカウント及び航空機調査によってエゾシカの個体群が冬期にどの生息地を選択しているのかを調査した.湿原内を通る1本の調査ルートで2010年11月~2011年5月にロードカウントを実施し,本国立公園の北部で2011年2月上旬に航空機調査を実施した.広葉樹林における選択性指数の信頼区間は,1月上旬~3月上旬のロードカウント及び航空機調査で1を上回った.このことから,エゾシカは冬の長期間にわたり,釧路湿原国立公園の広範囲において広葉樹林を選択的に利用していることが示唆された.コッタロ展望台から塘路湖までの区域では,11月,12月,4月及び5月にエゾシカをほとんど観察できなかったが,1月~3月の密度指標は,60頭/km2以上を示したため,ロードカウントの区域におけるエゾシカは,冬期に集中していることが明らかとなった.広葉樹林において銃器やワナによる計画的な捕獲を冬期に実施することが,本国立公園における個体数管理を効果的に進める上で有効だと考えられる.
  • 中村 幸子, 横山 真弓, 斎田 栄里奈, 森光 由樹
    2014 年 54 巻 1 号 p. 43-51
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
    兵庫県が実施しているツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)の死亡個体の分析により,椎骨や四肢骨の関節周辺部分を中心とした,骨の形態異常が高確率で確認されている.この骨形態異常の診断や原因の推察,および今後の個体群存続への影響度の評価を行う上では,ツキノワグマの正常骨に関する基本情報が不可欠である.本研究では,兵庫県を含む3地域(東中国個体群,北近畿個体群,岩手県内群)のツキノワグマの骨を比較し,特に椎骨の基本数および正常形態を分析した.その結果,ツキノワグマの椎骨の基本数は,頚椎7,胸椎14,腰椎6,仙椎5であった.仙椎を除く3種の椎骨の数の組み合わせパターンを分析すると,基本数以外の組み合わせを示すパターンが3パターン確認され,それぞれの発生には地域性があった.椎骨の形態に関しては二つの大きな特徴的変異が確認された.一つは第一腰椎の横突起の伸長であり,これは北近畿個体群に属する個体で有意に多く確認された.もう一つは腰仙結合部における形態変異で,東中国および北近畿個体群に属する個体のみで確認された.脊椎数の組み合わせパターンが複数確認されたこと,および腰仙部の脊椎形態変異が生じた原因については今回明確にすることはできなかった.しかし,これらの発生率が生息地域ごとに特徴づけられたことから,個体群の遺伝的背景の違いが発生の一因となっている可能性が示唆された.
  • 浅田 正彦, 長田 穣, 深澤 圭太, 落合 啓二
    2014 年 54 巻 1 号 p. 53-72
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
    千葉県房総半島に生息するキョン(Muntiacus reevesi)の2006年度~2011年度末時点における59管理ユニットの個体数について,糞粒法,区画法の調査結果およびユニット別,年別捕獲数を用いて状態空間モデルを構築し,階層ベイズ推定法で推定した.推定の結果,2011年度末の合計個体数は中央値19,826頭(95%信用区間:14,542~26,422頭)となった.従来の糞粒区画法と出生数捕獲数法による総個体数推定値は,やや過少評価していた.ベイズ法を利用することで,より推定幅が狭く精度の高い推定が可能となった.個体群増加率は平均1.294であった.野外で捕獲された個体の性齢構成と妊娠率から,年1回の繁殖を仮定すると,個体群増加率は1.356ないし1.407となることから,無視できない程度に大きい死亡率が個体群動態に寄与していることが推測された.
  • 中村 玄, 加藤 秀弘
    2014 年 54 巻 1 号 p. 73-88
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
    コククジラEschrichtius robustusは北太平洋に分布し,日本を含むアジア周辺海域に生息する西部系群と北米側に生息する東部系群の二系群に分けられている.しかし近年,衛星標識を用いた研究などから夏季に西部系群の摂餌海域と考えられているサハリン沖に出現した個体が,冬期に東部系群の繁殖海域と考えられているオレゴン近海に回遊した例などから,従来の系群構造について再考が迫られている.本研究は1990–2005年にかけて,ストランディングや混獲などにより日本の太平洋沿岸域から得られたコククジラ5個体を対象に,頭骨を中心とした全身骨格の計測値および骨学的特徴の記載をおこなうとともに,既報データをもとに蔚山(n=1),中国(n=2),カリフォルニア産(n=1)の個体との骨格形態を比較した.頭頂部を中心に各海域に特徴的な形質が認められ,日本産個体では前上顎骨が鼻骨を包むように緩やかにカーブしており,前上顎骨後端が尖っておらず,上顎骨の後端より後方に位置していた.また,鼻骨の前縁部が央付近でやや前方に突出し,性成熟個体では左右の鼻骨が後方で癒合していた.頭頂部に加え,胸骨と骨盤痕跡の形状においても海域間に明瞭な違いが認められ,いずれの形質も日本産個体はカリフォルニア産の個体に類似した形状を示していた.本研究結果は東部系群が近年,日本沿岸域へ分布域を拡張している可能性を示唆している.
短報
  • 高田 靖司, 植松 康, 酒井 英一, 立石 隆
    2014 年 54 巻 1 号 p. 89-94
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
    隠岐諸島をはじめ,本州から九州におけるカヤネズミ(Micromys minutus)の12集団について,下顎骨の計測値にもとづき,多変量解析(主成分分析,正準判別分析)をおこない,地理的変異を分析した.その結果,下顎骨について,全体的な大きさ(第1主成分)には集団間で差は認められなかったが,形(第2–第3主成分)には集団間で有意な差が認められた.特に,第2主成分は島の面積との間に有意な相関が認められたので,何らかの要因が形態変異に作用した可能性がある.正準判別分析では,隠岐諸島の集団間で形態変異が認められた.この変異には島の隔離に伴う遺伝的浮動が働いたと考えられた.しかし,下顎骨の大きさ(第1主成分)について集団間で差がみられず,また,遠く離れた地域の集団間で形態的な違いがみられなかった.これは,Yasuda et al.(2005)が明らかにしたように,日本列島におけるカヤネズミの低い遺伝的多様性を反映しているかもしれない.
報告
  • 白子 智康, 愛知 真木子, 上野 薫, 南 基泰
    2014 年 54 巻 1 号 p. 95-101
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2014/06/30
    ジャーナル フリー
    愛知県弥勒山において捕獲されたアカネズミApodemus speciosusとヒメネズミA. argenteusの糞から葉緑体DNAのrbcL遺伝子(262 bp)をPCR法で増幅し,サブクローニングすることによって糞中に残された食物残渣の塩基配列を決定した.決定された塩基配列についてBLASTを用いた相同性検索を行うことで両種によって採食された糞中植物種残渣を推定した.その結果,アカネズミから候補植物としてトゲチシャLactuca serriola,フジWisteria floribunda,ヤマザクラCerasus jamasakura var. jamasakuraの3種が推定された.一方,ヒメネズミからはトゲチシャ,ヒノキChamaecyparis obtusa var. obtusa,アセビPieris japonica var. japonica,ヤマザクラの4種が採食候補植物として推定された.また,一部については種レベルでの同定は困難であったものの,科レベルまでは高精度で同定できた.したがって分子生物学的手法を用いることで,従来の糞中植物種残渣推定法では不可能であった採食植物推定が種から科レベルで可能であることが示唆された.
第29回霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会ミニシンポジウム記録
第29回霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会自由集会記録
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