哺乳類科学
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54 巻, 2 号
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原著論文
  • 嶌本 樹, 古川 竜司, 鈴木 圭, 柳川 久
    2014 年 54 巻 2 号 p. 201-206
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/30
    ジャーナル フリー
    タイリクモモンガPteromys volansは,フィンランドやエストニア,韓国などでは森林分断化の影響による個体数の減少が危惧されている.北海道の十勝地方においても,過去の森林分断化によって生息地が減少した上に,現在でもさらに生息地の分断化・減少が進行している.本種に対する森林分断化の影響を評価するには,生息確認方法を確立し,生息状況をモニタリングする必要がある.本研究では,糞による簡便かつ効率的な生息確認方法を確立するために,糞が頻繁に発見される場所の特徴や糞の発見効率を検討した.11ヶ所の樹林地(面積0.42–13.69 ha)において,それぞれ10 mの調査ラインをランダムに12本引き,両側4 m(片側2 m)の範囲で糞の有無を確認した.全ての樹林地で本種の糞が発見され,1ヶ所の樹林地あたりの発見糞塊数は平均9.7個,発見ライン数は平均6.2本であった.糞は胸高直径が太い樹木の近くでよく発見され,胸高直径24 cm以上の樹木から20 cm以内の範囲で糞を探すことが効率的であることがわかった.一方で,樹林面積は糞の発見ライン数に影響しなかった.そのため,樹林面積の大きさによって,調査努力量を変える必要はないと考えられた.本調査の結果から,面積に関わらず1ヶ所の樹林地につき5本程度のラインを引いて糞を探すことで,簡便かつ効率的に本種の生息を確認できることがわかった.
  • 浅田 正彦
    2014 年 54 巻 2 号 p. 207-218
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/30
    ジャーナル フリー
    千葉県内でアライグマ(Procyon lotor)の高密度地域において行われた捕獲記録を用い,除去法計算過程を状態空間モデルとして構成した階層ベイズモデルによる個体数推定(ベイズ除去法)を行うとともに,CPUEから生息密度へ換算する係数の推定を行った.また,この係数を用い,千葉県内の2012年度の個体数推定を行った.捕獲は,千葉県いすみ市塩田川流域(35.1 km2)において,2012年6月22日~2013年3月23日に100台の箱ワナ(平均近傍距離301 m)を用いて実施された.捕獲の結果,オス成獣53頭,メス成獣29頭,幼獣55頭の計137頭が捕獲された.ベイズ除去法による推定の結果,捕獲開始前の生息数はオス成獣が89頭,メス成獣が103頭,幼獣が130頭,計322頭と推定された.捕獲期間の3か月間で,メス成獣および幼獣の76%以上を除去することができたが,オス成獣は生息密度を維持しており,捕獲開始直後に優位オスが除去されたのち,隣接地域からの放浪個体が移入することが推測された.
  • ―計画的行動理論と野生動物に対する人々の許容性モデルの応用事例―
    桜井 良, 江成 広斗, 松田 奈帆子, 丸山 哲也
    2014 年 54 巻 2 号 p. 219-230
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/30
    ジャーナル フリー
    野生動物と人との軋轢の問題は,全国の中山間地域で共通の問題となっており,その解決のためには,問題の生態学的側面だけでなく,社会的側面についても理解する必要がある.社会心理学は人々の態度や行動を理解・予測することを目的とした学問であり,米国では野生動物管理の社会的側面(ヒューマン・ディメンション)の研究の発展に大きく貢献してきた.一方,わが国では野生動物管理の分野で社会心理学理論が検証されたことはほとんどない.本研究では,栃木県日光市明神地区及び鹿沼市深程地区にて,住民へのアンケート調査を実施し,計画的行動理論と野生動物に対する許容性モデル及び追加要因(行政活動に対する評価,集落の諸問題の深刻度,属性,被害経験)を用いて,住民の被害対策に対する関心や意欲を検証した.その結果,計画的行動理論に関しては,主観的規範(対策をすることに関して彼・彼女が感じる周囲からの期待)のみが両地区で人々の行動意図を有意に説明し,また野生動物に対する不安・心配と態度は,一地区でのみ許容性を有意に説明した.一方,被害経験,年齢などの追加要因が,行動意図や野生動物に対する許容性に対して有意な説明力を持っていることが分かり,人々の行動や意識をより正確に検証するためには,理論を構成する項目以外にも,複数の要因を用いて測定する必要性が示された.今後の被害対策の推進のためには,対策に必要な知識や技術の普及とともに,被害対策が地区の活動として住民に認識されるように,地区全体で取り組むことが重要である.また,普及啓発については,地区全体へのものに加えて,例えば明神では野生動物に対する許容性が低い年配の住民を対象にするなど,地域の特性に応じ,対象者を特定した独自のプログラムを実施することが効果的であろう.
  • 須田 知樹, 森田 淳一
    2014 年 54 巻 2 号 p. 231-241
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/30
    ジャーナル フリー
    本研究は,アカネズミ(Apodemus speciosus),ヒメネズミ(Apodemus argenteus),ハタネズミ(Microtus montebelli)の3種が混在する環境下において,正準判別分析を用いた足跡法による種の識別可否を検討した.捕獲した野生個体を飼育して得た足跡では,アカネズミは前足,後足どちらの足跡を用いても95%前後の識別精度が得られ,ハタネズミにおいては前足では85%,後足では90%以上の識別精度が得られた.しかし,ヒメネズミにおいては前足では20%,後足を用いても60%程度の識別精度しか得られず,前足では65%弱,後足では40%弱がハタネズミに誤判別された.さらに,2009年に栃木県奥日光地域において,アカネズミ,ヒメネズミ,ハタネズミの3種に関して,足跡法により得た足跡をこの正準判別分析を用いて種を識別して算出した足跡数と,捕獲法により得た結果を比較したところ,足跡法と捕獲法の結果の間にハタネズミにおいては有意な相関関係が見られたが,アカネズミとヒメネズミにおいては,有意な相関関係は見られなかった.足跡法は直接的に密度指標に用いることはできないが,費用対効果を考えれば,価値ある手法と言えるだろう.
  • 鈴木 圭, 山根 大, 柳川 久
    2014 年 54 巻 2 号 p. 243-249
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/30
    ジャーナル フリー
    同所的に生息し,類似した生態的特徴を持つ種同士は,他種との資源競争を避けるために,その資源に対する選択性を変化させることがある.本研究では,資源競争回避のメカニズムを解明するための基礎的情報を収集するために,樹洞を繁殖場所とするヒメネズミApodemus argenteusを対象として,タイリクモモンガPteromys volansとの営巣資源をめぐる競争回避のための選択性の変化を調べた.本研究では,タイリクモモンガの影響を受けない条件下と受ける条件下においてヒメネズミの営巣高を比較した.ヒメネズミは,タイリクモモンガの入れない入口径が小さい巣箱では低い位置から高い位置まで様々な高さに営巣した.それに対し,タイリクモモンガが入ることができる入口径が大きい巣箱では,一貫して低い位置に設置された巣箱に営巣した.一般的に低い樹洞は,クロテンMartes zibellinaやアカギツネVulpes vulpesなど地上からくる捕食者に捕食される危険性が高い.加えて,入口径が大きい樹洞はより多くの種類の捕食者の侵入が可能であるため,捕食圧が高くなると考えられ,入口径が大きい巣箱で,ヒメネズミが好んで低い位置に営巣しているとは考え難い.本研究の結果は,ヒメネズミがタイリクモモンガとの営巣資源競争を避けるために,営巣場所の高さを変化させる可能性があることを示すものである.
短報
  • 香山 薫, 柳井 徳磨, 野田 亜矢子, 橋本 晃
    2014 年 54 巻 2 号 p. 251-256
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/30
    ジャーナル フリー
    水族館で飼育中の成熟雄キタオットセイ(Callorhinus ursinus)が,1999年12月に,およそ10日間の摂餌不良の後死亡した.解剖検査により胃底部粘膜面に径約7 cm,深さ約3 cmの潰瘍を確認し,潰瘍底部には径約2 mmの穿孔を認めた.肥厚した潰瘍周辺部は病理組織学検査によりリンパ腫と診断された.本症例はキタオットセイにおける消化管型リンパ腫の最初の報告と思われる.
  • 井門 彩織, 足立 樹, 楠田 哲士, 谷口 敦, 唐沢 瑞樹, 近藤 奈津子, 清水 泰輔, 野本 寛二, 佐々木 悠太, 伊藤 武明, ...
    2014 年 54 巻 2 号 p. 257-264
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/30
    ジャーナル フリー
    チーター(Acinonyx jubatus)において,種を保存するうえで飼育下個体の繁殖は極めて重要である.しかし,飼育下での繁殖は困難とされ,繁殖生理の解明が重要となっている.本研究では,飼育下での環境変化がチーターの発情に与える影響と要因を探ることを目的として,4頭の飼育下雌チーターの行動観察及び糞中エストラジオール-17β含量の測定を行った.各放飼場には,1日に2~3個体を交代で放飼し,雄の臭いや鳴き声などが雌の行動と生理にどのような影響を与えるのか調べた.その結果,4頭中1頭で,放飼方法を雌2頭交代から雌雄2頭交代に変化させることによって,行動の増加と糞中エストラジオール-17β含量の上昇が見られた.また,一部の雌の繁殖状況が同時に飼育されている他の雌の発情に影響を与えるのかを調査するため,育子中個体の有無で期間を分け,各期間で行動数と糞中エストラジオール-17β含量を比較した.その結果,同時飼育の雌に育子中個体がいた期間では,行動数と糞中エストラジオール-17β含量が発情と共に増加した.しかし,育子中個体の育子が終了した後の期間では,糞中エストラジオール-17β含量の変化と関係なく行動数に増減が見られた.以上のことから,雌チーターにおいては雄との嗅覚的接触が発情を誘発するとともに,同一施設で飼育される雌の繁殖状況が他雌個体の繁殖生理と行動に影響を与えている可能性が考えられた.
報告
  • 矢竹 一穂
    2014 年 54 巻 2 号 p. 265-268
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/30
    ジャーナル フリー
    12年間の調査期間において,千葉県北部の3カ所(35°N,139~140°E,海抜10~30 m)で直接観察したニホンリス(Sciurus lis)の繁殖に係る事例8例(交尾騒動1例,交尾1例,幼獣の運搬2例,授乳中のメス個体3例,巣外の母仔同伴行動1例)から,本地域における年2回の繁殖期を推定した.すなわち,1回目の繁殖は1~3月に交尾,2~4月に出産,5~7月に仔の独立と考えられ,年内2回目の繁殖は6月下旬に交尾,8月に出産,10月に仔の独立と考えられた.東京都八王子市高尾周辺(35°N,139°E,海抜170~265 m)と長野県茅野市蓼科高原(36°N,138°E,海抜1,500~1,600 m)における研究事例との比較から,関東地方から中部地方の個体群では,本種は年2回の繁殖を行うことが示唆された.
  • 杉山 昌典, 門脇 正史
    2014 年 54 巻 2 号 p. 269-277
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/01/30
    ジャーナル フリー
    ヤマネGlirulus japonicusは本州,四国,九州,隠岐島後に生息するが,これまでに実施された全国分布調査は少ない.ヤマネの生息情報は近年ウェブ上で多く見られるようになったので,検索エンジンでその生息情報を収集し生息分布図を作成した.ヤマネの生息情報件数は年々増加の傾向にあり,その多くは中部地方に集中した.次いで関東・東北地方であり,一方,中国・四国並びに九州・近畿地方は少なかった.この地域間の差異は,森林面積の割合より高標高地の面積の割合に大きく関係していると考えられた.1年を通じてヤマネの生息情報が得られたが,生息情報件数は夏期に多く冬期は少なかった.正確にヤマネと同定可能な多くの情報が得られるため,インターネットを活用したヤマネの生息分布情報の調査は有効だと考えられる.
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