ツキノワグマUrsus thibetanusは,神奈川県レッドリストにおいて絶滅危惧I類に指定されている.本研究では,これまで体系的な調査が行われてこなかった神奈川県南西部におけるツキノワグマの生息状況を明らかにするために,箱根町と湯河原町の境界周辺に位置する玉川大学箱根自然観察林において自動撮影カメラを用いた調査(2,122カメラ日)を実施した.2017年の5月から10月にかけて15地点に自動撮影カメラを設置した結果,6地点でツキノワグマが延べ10回撮影された(撮影頻度0.47/100カメラ日).1945年以降に,箱根町南部や湯河原町においてツキノワグマの確実な生息が確認されたのは本研究が初めてである.撮影月についてみると,5月と8月を除く複数月で撮影された.また,体の特徴から個体識別を行った結果,少なくとも3個体が本地域に生息していたと推測された.これらの結果から,本地域にツキノワグマが恒常的に生息している可能性は高いと考えられる.今後,神奈川県のツキノワグマの保護管理を適切に実施していくためには,箱根町から湯河原町にかけても保護管理の対象とし,個体数や分布に関する継続的なモニタリングを実施していくことが求められる.
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