哺乳類科学
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49 巻, 1 号
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総説
  • 土岐田 昌和, 前田 喜四雄
    2009 年 49 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/16
    ジャーナル フリー
    コウモリ類は1,000以上の種からなり,地球上の様々な環境に進出し,繁栄を遂げた哺乳類群である.その成功の背景には言うまでもなく,彼らがもつ飛翔能力が深く関わっていると思われる.コウモリ類は前肢の形態を顕著に特殊化させることで飛翔装置としての翼を獲得した.翼は骨や筋,飛膜など様々な構成要素からなる複合体であり,中生代の末期から新生代の初期にかけてコウモリ類の共通祖先でただ一度獲得されたと考えられている.しかしながら,新規形態としてのコウモリ類の翼がどのようなメカニズムによって創り出されたのかについては長い間不明であった.近年,ヘラコウモリ科の一種であるセバタンビヘラコウモリ(Carollia perspicillata)を材料にした分子発生学的研究をとおして,Hoxd13Prx1Fgf8など脊椎動物の四肢形成に関わるとされる複数の遺伝子が単離され,胚期におけるそれらの発現パターンや機能が調べられつつある.その結果からコウモリ類における翼の形成にはこれらの分子の働きが深く関与している可能性が示唆された.本稿では分子発生学研究によって得られたコウモリ類の翼の発生機構に関する最新の知見を整理し,それによって飛翔能力の獲得により大きな成功をおさめた一哺乳類群の進化をこれまでとは異なる視点から考察する機会を与えたい.また,我が国に生息するコウモリを材料にした発生学研究の可能性についても検討する.
原著論文
  • 小林 亜由美, 神崎 伸夫, 片岡 友美, 田村 典子
    2009 年 49 巻 1 号 p. 13-24
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/16
    ジャーナル フリー
    富士山北斜面の標高2,100~2,300 mの亜高山帯針葉樹林において,ニホンリスを捕獲し,テレメトリー法によって植生環境の選択性を調査した.コメツガ優占林,カラマツ優占林,シラビソ/オオシラビソ優占林,ゴヨウマツ分布域,林縁,開放地の6区分の植生環境の中で,ゴヨウマツ分布域が選択的に利用される傾向があった.しかし,針葉樹の種子が利用できない春には,カラマツ優占林やシラビソ/オオシラビソ優占林も選択的に利用する個体があった.コメツガ優占林,林縁,開放地は忌避される傾向があった.これらの針葉樹のうち,1個の球果あたりのエネルギー量がもっとも多いのはオオシラビソで,次がゴヨウマツであった.カラマツ,コメツガは球果サイズが小さく,エネルギー量は少なかった.ゴヨウマツの球果サイズには同一の木の中で変異があり,ニホンリスはより大きな球果を選択的に利用することが明らかになった.球果サイズとその中に含まれる種子数には正の相関があるため,ニホンリスはより多くのエネルギーを効率的に得るために球果選択を行っていると考えられる.
  • ―クロクビタマリンの地域個体群を題材にして―
    名取 真人, 小林 秀司
    2009 年 49 巻 1 号 p. 25-36
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/16
    ジャーナル フリー
    頭蓋の計測値に基づいて個体群間の関係を分析する場合,クラスター分析やオーディネーション法が広く用いられる.クラスター分析では,樹形図を描き出すことが主な作業で,その信頼性の検定は基本的に行われない.ただ,樹形図の信頼性の評価はやはり気になる問題である.オーディネーション法は主成分分析や正準判別分析であることが多いが,これらの方法は多様な形態学的距離/類似度のすべてに対応しているわけではない.また,クラスター分析とオーディネーション法では,2つの独立した距離/類似度(たとえば,形態的類似度と地理的距離)の関係に統計的な評価をくだすことができない.そこで,本研究では,このような問題点に対して,次の解決策を紹介した.クラスター分析の評価法には共表形相関係数,ブートストラップ法,最短距離法と最長距離法の合意樹,多様な距離/類似度に適用可能なオーディネーション法には主座標分析と非計測的多次元尺度構成法,そして2つの独立した距離/類似度の関係を検定する方法にはマンテルテストの使用がそれである.さらに,1つの例として,これらの方法をクロクビタマリン(Saguinus nigricollis)の個体群関係を分析するために実際に活用した.
  • 江村 正一, 奥村 年彦, 陳 華岳
    2009 年 49 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/16
    ジャーナル フリー
    レッサーパンダの舌表面を肉眼にて観察し,さらに舌乳頭およびその結合織芯を走査型電子顕微鏡で観察した.肉眼所見では,舌の先端は円く弓状を呈し,舌正中溝および舌隆起は観察されなかった.茸状乳頭は舌体に比し舌尖において密に存在した.有郭乳頭は,舌体後部において円形を呈し,V字形に並んで左右それぞれ5個観察された.葉状乳頭は観察されなかった.走査型電子顕微鏡により舌尖および舌体の糸状乳頭を観察すると,シャベル状の主乳頭とその左右から突き出た数本の針状の二次乳頭からなった.糸状乳頭の結合織芯の形態は,基部から多くの小突起がでる構造として観察され,舌尖と舌体とで異なった.すなわち,舌尖の結合織芯は舌体のやや小型であり,舌尖の中でも外側の方が内側より細く針状構造を呈した.茸状乳頭はそれら糸状乳頭の間にドーム状構造として散見され,舌体より舌尖に多かった.茸状乳頭の結合織芯は,円柱状を呈しその頂上には陥凹が存在した.有郭乳頭の表面は平坦で,乳頭は輪状郭により取り囲まれ,乳頭と輪状郭の間に輪状溝が存在した.有郭乳頭の結合織芯は,球状で表面には多数の突起が存在した.有郭乳頭の外側には,大型の円錐乳頭が見られるとともに多数の分泌腺の開口部が観察された.このような開口部は上皮を剥離するとより顕著となった.
短報
  • 相良 直彦
    2009 年 49 巻 1 号 p. 45-52
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/16
    ジャーナル フリー
    京都府南丹市美山町の標高735 mの山林において1990年以来観察中のミズラモグラ営巣地を2007年5月29日に発掘したところ,巣の中に生後約10日とみえる幼獣が3個体居た.写真撮影のみをおこなって埋め戻した.同年6月17日に再度発掘した時には,離巣が近いけれども未離乳とみえる幼獣が2個体居た.うち1個体を捕獲し,飼育を試みた.はじめの1日近くはほとんど何も摂食しなかったが,その後ミミズとミールワームを短く切断して与えたところ摂食可能とわかり,飼育の継続に成功した.同年6月26日には,巣に残した1個体もそこには居なくなっていた.巣の内外にモグラの死体は見つからなかった.ミズラモグラ未離巣幼獣の観察と,このような発育段階におけるモグラ類幼獣の室内飼育ははじめての報告である.
  • 中本 敦, 佐藤 亜希子, 金城 和三, 伊澤 雅子
    2009 年 49 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/16
    ジャーナル フリー
    沖縄諸島におけるオリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusの分布と生息数に関する調査を2005年8月から11月と2006年4月から5月に行った.調査した25島のうち,新たに8島[伊是名島,屋我地島,奥武島(名護市),瀬底島,藪地島,奥武島(南城市),瀬長島,阿嘉島]でオオコウモリの生息を確認し,これまで生息が記録された島と合わせて19島となった.沖縄島の周辺各島で見られる個体群は,沖縄島の個体群サイズに対して,数頭から数十頭と非常に小さいものであった.また,その個体数は沖縄島から遠い距離にある島ほど小さくなる傾向が認められ,50 km以上離れた島では生息が確認できなかった.このような分布パターンから沖縄諸島で見られる個体は沖縄島からランダム分散した個体であると思われた.
  • 佐野 明
    2009 年 49 巻 1 号 p. 61-64
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/07/16
    ジャーナル フリー
    三重県津市のスギ・ヒノキ混交林において枝打ちを実施し,その後のシカによる林分利用頻度と枝葉採食量の変化,および林木剥皮害の発生消長について調査した.打ち落とされた生枝が新たな餌資源となって,シカを誘引する事例が確認された.しかし,冬季における林分利用頻度の高まりは剥皮害の発生には繋がらなかった.
連載「食肉目の研究に関わる調査技術事例集」
2008年度大会公開シンポジウム記録「秋吉台鍾乳洞に眠る新生代の哺乳類化石」
2008年度大会企画シンポジウム記録「音声コミュニケーションから見る動物の社会」
2008年度大会自由集会記録
国際会議報告
書評
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