哺乳類科学
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フィールド・ノート
報告
  • 信ヶ原 佐保, 金子 弥生, 高槻 成紀
    2024 年 64 巻 2 号 p. 177-184
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/09
    ジャーナル フリー

    日本の食肉目の食性の組成評価法としてはポイント枠法が用いられることが多いが,この方法は時間を要し,分析対象によっては光学顕微鏡が必要なので,改良するのが望ましい.そこで「簡易面積法」を考案し,テン(ホンドテン)Martes melampusの糞内容物を,ポイント枠法と簡易面積法で分析し,内容物の占有率(百分率組成)と所要時間を比較した.簡易面積法では内容物を広げて主に肉眼により,一部実体顕微鏡で補完して,各食物カテゴリーの面積を4段階の「占有率スコア」で評価する.占有率スコアは0.1:<1%,1:1~10%,2:10~50%,5:>50%とする.このスコアを合計し,各食物カテゴリーの占有率(百分率組成)を得てポイント枠法の結果と比較したところ,占有率の大きい内容物はポイント枠法の結果に近い値となり,組成は75%以上の類似度を示した.しかも所要時間は1サンプルあたり5分程度であり,ポイント枠法で要する20~30分の13~15%に過ぎなかった.これらを総合すると食肉目の糞分析で大量のサンプルが得られた場合,主要内容物の占有率を知るには簡易面積法が有効であることがわかった.

  • 渡邉 英之, 吉原 正人, 石山 遥香, 梅崎 ゆず, 西川 大生, 風間 健太郎
    2024 年 64 巻 2 号 p. 185-193
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/09
    ジャーナル フリー

    ニホンジカ(Cervus nippon)のマネジメントにおいて,分布拡大地域における定着や個体数増加の兆候の把握は重要である.狭山丘陵には明治時代以降,ニホンジカが生息していなかったが,2022年にニホンジカの目撃情報が複数得られた.そこで,2019年以降の狭山丘陵におけるニホンジカの生息情報をまとめた.

    狭山丘陵周辺の自治体,郷土博物館,公園等の管理団体等に合計41回の聞き込み調査を行ったところ,2022年6月から11月にかけて合計19件の目撃情報と7件の撮影情報が得られた.目撃情報は狭山丘陵の西端から東端にかけて全域で得られた.また,2021年以降2地区でカメラトラップ調査を行ったところ,2022年7月から10月にかけて合計3件の動画が撮影された.目撃情報,撮影情報のうち個体情報が記録されているものはいずれも一尖の角または袋角を有していた.また,短期間に情報が集中していたことから,若齢オス1頭が2022年に一時的に生息したがすでに移出または死亡している可能性が示唆された.

    狭山丘陵においてニホンジカはかつての在来哺乳類相の構成種であった.一方で,市街地に囲まれた狭山丘陵にシカが生息した場合,住宅地出没など様々な軋轢が生じる可能性がある.したがって,今後は狭山丘陵のニホンジカに対するマネジメント指針を定めるとともに継続的なモニタリングが必要であると考える.

  • 大沢 啓子, 大沢 夕志
    2024 年 64 巻 2 号 p. 195-198
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/09
    ジャーナル フリー

    埼玉県川越市の市街地や農地に囲まれた高速道路の橋梁下のコンクリートの隙間(幅約25 mm)を2021年2月10日から2024年1月18日までの任意の日に計227日観察したところ,2022年10月30日に1頭のテングコウモリMurina hilgendorfiによるねぐら利用を確認した.森林地帯以外でのテングコウモリのねぐらの観察例は希少であるためここに報告する.

  • 上山 隼平, 嶋村 朱織, 横野 太一, 宮崎 守, 河合 久仁子
    2024 年 64 巻 2 号 p. 199-205
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/09
    ジャーナル フリー

    ヒナコウモリVespertilio sinensisは夏季に妊娠メスのみからなる出産哺育コロニーを形成し,この時期のオスについて,ねぐらの利用様式や毛色は不明であった.このため,バットボックスを用いた成獣オスのねぐら動態および毛色の性差について調査を行った.バットボックスは出産哺育期に成獣オス計6個体によって14回利用された.バットボックスを単独または3個体までの複数個体で利用し,メスと同じバットボックスを利用することはなかった.出産哺育期では性的なねぐら分離が起きており,成獣オスは離合集散の社会性を持つことが示唆された.毛色は,成獣オス個体は4月から8月にかけて顕著な毛色および毛並みの変化が見られなかったのに対し,メスは出産哺育期に体毛が顕著に明るい茶色(赤みのある茶褐色)に変化し,背中の毛が一部抜け落ちていた.毛色の観察によって成獣メスか否かを判別できる可能性が示された.

  • 吉田 弥生, 木村 里子, 神田 幸司, 栗田 正徳
    2024 年 64 巻 2 号 p. 207-213
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/09
    ジャーナル フリー

    伊勢湾最奥に位置する名古屋港において,スナメリ(Neophocaena asiaeorientalis sunameri)の来遊状況を把握することを目的に,ステレオ式水中音響記録計によるスナメリの定点音響調査を行った.調査期間は港中央のSt.1にて2017年3月から2018年3月,港最奥のSt.2にて2018年7月から2019年7月であった.記録されたエコーロケーションのための鳴音であるクリック列は,合計2,553個(St.1 1,079個,St.2 1,474個)であった.記録されたクリック列はSt.1にて冬季,St.2にて春季に多くなった.さらに,両地点とも日中よりも夜間にクリック列が多くなった.クリック列の平均クリック間隔の最頻値はSt.1にて26ミリ秒,St.2にて12から32ミリ秒の範囲となり,観測地点間で異なっていた.クリック間隔はSt.1よりSt.2の方で,10ミリ秒以下の摂餌努力量の指標となる間隔が多く記録された.地点間のクリック間隔の違いは同じ港湾内において,特定場所の利用目的の違いに起因する可能性がある.

  • 大和 直暉, 小高 信彦, 高嶋 敦史, 中田 勝士, 久高 奈津子, 久高 将洋, 小林 峻
    2024 年 64 巻 2 号 p. 215-225
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/09
    ジャーナル フリー

    本研究では沖縄島,徳之島,奄美大島に固有のケナガネズミDiplothrix legataが巣材として利用した枝と樹洞の特徴を明らかにすることを目的とした.本種は樹洞に枝を運び込み巣や休息場所として利用する.沖縄島北部の森林において,本種による樹洞利用を確認し,その樹洞から利用した枝や葉を採集して,樹種名,樹洞の大きさ,利用した枝の形状を記録した.その結果,ケナガネズミが利用した樹洞から出現した枝の樹種は,沖縄島北部の森林における優占種のスダジイCastanopsis sieboldiiが最も多く,生葉がついた枝もついていない枝も確認された.また,枝には斜めの切り口があり,樹洞内に運び込まれていた枝の長さは50~544 mmであった.クマネズミRattus rattusが枝を切断した場合も斜めの切り口ができるが,小笠原諸島父島で採集したクマネズミが切り落とした枝よりも,ケナガネズミが利用した樹洞から出現した枝の方が長く,断面積や太さも大きい傾向があった.そのため,樹洞から出現し,切り口が斜めで,枝の長さが16 cm以上,枝の切り口の断面積が30 mm2以上,あるいは枝の直径が5.6 mm以上の場合,ケナガネズミが切り落とした枝と推定できると考えられる.本種が利用した樹洞は,ほとんどが枝折れや幹こすれが原因で形成された自然樹洞であったが,ノグチゲラDendrocopos noguchiiの古巣も利用していた.利用樹洞はスダジイに形成されたものが最も多く,胸高直径は28.9 cm以上の大型の樹木であった.本種の本来の生息地は,大型の樹洞が形成されるような大径木の存在する成熟した森林であると考えられる.

  • 丸田 裕介, 中谷 裕美子, 長嶺 隆, 金城 道男, 髙橋 弓子, 大沼 学, 石川 伊智子, 椎野 風香, 中田 勝士, 小高 信彦
    2024 年 64 巻 2 号 p. 227-232
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/09
    ジャーナル フリー

    沖縄島北部で,オキナワトゲネズミ(Tokudaia muenninki)のロードキル個体を初めて発見した.当該個体は,西銘岳の南部を東西に横断する林道上で,2023年5月17日に発見された.今後,本種の分布が沖縄島北部の森林を横断する沖縄県道2号線以南に拡大する場合,さらにロードキルが発生する可能性がある.本種の分布を注意深くモニタリングし,ロードキル防止のための注意喚起や対策の検討を始める必要がある.

  • ムラノ 千恵, 服部 耕平, 齋藤 純一, 神 孝子, 髙木 善隆, 赤澤 友光, 山岸 洋貴
    2024 年 64 巻 2 号 p. 233-241
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/09
    ジャーナル フリー

    近年,ニホンジカ(Cervus nippon)が白神山地周辺にも分布再拡大している.低密度期の分布の有無を把握する生息モニタリングとしての食痕調査を効果的に行うには,地域に適した指標植物種を選定する必要がある.そのためニホンジカとカモシカ(Capricornis crispus)が同所的に生息する当該地域で,糞のDNAメタバーコーディング解析を用いて両種が利用する植物種を比較した.その結果,冬季,チシマザサ(Sasa kurilensis)とクルミ科sp.(Juglandaceae sp.)はニホンジカの糞から頻繁に検出されたが,カモシカの糞からは検出されなかった.スギ(Cryptomeria japonica)やヒメアオキ(Aucuba japonica var. borealis)は,両種によく利用されていた.調査地における低密度期のニホンジカの生息モニタリングには,チシマザサが最適の指標種であると考えられた.

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