哺乳類科学
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47 巻, 2 号
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総説
  • ―過去の生息記録と現状および課題―
    安田 雅俊
    2007 年 47 巻 2 号 p. 195-206
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    九州において絶滅のおそれのある樹上性リス類(ニホンリス,ニホンモモンガ,およびムササビ)3種について,江戸時代中期以降の各種資料(論文や報告,鳥獣関係統計,毛皮取引の記録等)をとりまとめ,生息記録と利用の変遷,および現在おかれている状況を種ごとに記述した.また,国,九州本土7県,および日本哺乳類学会のレッドデータブックにおける3種の取り扱いを比較した.九州において,(1)ニホンリスは狩猟による捕獲等の記録はあるものの,過去100年間以上,標本を伴った確実な生息情報がないこと,(2)ニホンモモンガは過去50年間の生息情報が極めて限られていること,および(3)近年ムササビの分布域が縮小してきていることが明らかとなった.これらの種の分布域の縮小に関連してきたと推察される要因として,戦後の拡大造林による天然林ハビタットの減少,樹洞や餌資源の減少,先史時代から続いてきた狩猟圧等を列挙した.今後の課題は,第一にニホンリスとニホンモモンガの残された個体群の探索であり,第二にそれぞれの種の分布域の縮小に,どの要因が,いつ,どれほど寄与したのかを解明することである.九州の絶滅のおそれのある樹上性リス類の保全は,県単位で対処できる課題ではなく,地方レベルで対処すべき課題であり,九州地方版のレッドデータブックの作成が考慮されるべきである.信頼性のある生息情報の収集に努め,残された個体群ごとに適切な保全策を講じるために,国の行政機関による強いイニシアチブの発揮が望まれる.
原著論文
  • ~1982–1983年調査と比較して~
    小林 万里, 石名坂 豪, 角本 千治, 若田部 久, 小林 由美, 清水 秋子
    2007 年 47 巻 2 号 p. 207-214
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    北海道東部から襟裳岬に至るゼニガタアザラシの1970年以来の個体数減少と納沙布岬周辺で混獲され大量死亡する個体の関係を知るために,1982年と1983年に納沙布岬周辺のサケ定置網におけるアザラシ類の混獲数調査が行われた(以下,80年調査).80年調査からちょうど20年後,海洋環境の変化や北海道東部のゼニガタアザラシの個体数が増加傾向にある中,アザラシ類の混獲数や特性の変化を知るために,過去と同じ要領で納沙布岬周辺のサケ定置網におけるアザラシ類の混獲数調査を2002年と2003年に実施した(以下,00年調査).その結果,80年調査と比較して,00年調査の結果では,歯舞漁協管内の15ヶ所の定置網におけるアザラシ類の混獲数は,ほぼ同数(80年調査272頭,00年調査261頭)で,また,アザラシ類がもっとも多く混獲される定置網の位置や混獲されたアザラシ類の種構成[最多がゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)で,次いで多いのがゴマフアザラシ(Phoca largha)]に違いは見られなかった.しかし,全アザラシ類の混獲数に占めるゼニガタアザラシおよびゴマフアザラシの割合(80年調査ではゼニガタアザラシおよびゴマフアザラシの割合はそれぞれ77.6%,20.6%,00年調査では91.2%,7.7%)には有意な差が見られた.また,ゼニガタアザラシの混獲時期は,80年調査では9月中旬と11月中旬に混獲数が多くなる2山型を示したのに対し,00年調査では,定置漁業の開始直後の9月上旬に混獲数が多く,定置漁業が終わるにつれ減少する傾向が見られた.千島列島全域におけるゼニガタアザラシとゴマフアザラシの分布の中心は,択捉島以南の,特に歯舞群島・色丹域に集中して分布していると考えられているため,今後の保全管理を考える上には,歯舞・色丹グループと道東グループとの関係が重要と考える.
短報
  • 立石 隆
    2007 年 47 巻 2 号 p. 215-220
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    本州北東部に位置する尾瀬地域の標高1,000–1,900 mの森林内で捕獲されたアカネズミの繁殖活動について検討した.調査は1986年と1991年を除き1985年から1999年まで毎年7月中旬から8月上旬に行った.生殖器の発育状態から雄は体重30.1 g以上を,また雌は体重25.1 g以上を成体とみなした.雄成体の45.8%(125頭/273頭) ,雌成体の16.4%(37頭/225頭)は繁殖活動中であった.哺乳中でなおかつ妊娠中の個体が観察されたため,1繁殖期中における複数回の妊娠が確認できた.捕獲した幼若個体の推定出生時期から,本調査地においてアカネズミが交尾などの繁殖をした時期は少なくとも5月下旬までさかのぼると推定された.したがって,この地域のアカネズミの繁殖時期は少なくとも5月から8月までにおよぶことが示唆された.
  • 香山 薫, 米崎 史郎
    2007 年 47 巻 2 号 p. 221-225
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    鯨類の血液凝固時間の延長要因を明らかにするために,水族館で飼育されている鯨目マイルカ科4種及び食肉目鰭脚亜目アシカ科1種を対象に血液凝固に関するスクリーニングテストと血液凝固因子活性の測定(鯨目1種を除く)を行った.その結果,測定を実施した鯨目全種において,血液凝固に関するスクリーニングテストで,ヒトと比較して活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の顕著な延長が認められ,血液凝固因子活性の測定では第XII因子(Hageman因子)活性の顕著な低値が確認された.これらが,鯨類の血液凝固時間の延長要因に関係すると考えられる.一方,血液凝固時間の延長のない食肉類のキタオットセイでは,鯨類やヒトと異なる結果が得られた.
  • 江村 正一, Wijayanto Hery, 阿閉 泰郎
    2007 年 47 巻 2 号 p. 227-230
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    The connective tissue cores (CTCs) of the lingual papillae of the large flying fox Pteropus vampyrus were examined by scanning electron microscopy (SEM) and compared to those of other animals. The filiform papillae of the large flying fox showed a spoon-like shaped CTCs at the apex of the tongue and showed bifid and trifid CTCs at the body of the tongue. The transitional forms were observed between their CTCs of the filiform papillae. The CTC of the round central papilla of the vallate papilla was covered with numerous small spines.
報告
  • 田村 典子, 松尾 龍平, 田中 俊夫, 片岡 友美, 広瀬 南斗, 冨士本 八央, 日置 佳之
    2007 年 47 巻 2 号 p. 231-237
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    中国地方のニホンリスは環境省のレッドデータブックで絶滅のおそれがある地域個体群(LP)とされている.本研究では,生息情報の乏しい中国山地における本種の生息を知るために,363箇所のアカマツ林またはオニグルミの周辺で食痕調査を行った.このうち,52箇所で食痕が確認され,さらに14箇所でニホンリスが目撃された.しかし,経度133°30′以西で食痕確認箇所はきわめて少なく散発的で,絶滅の危険性が高いことが明らかになった.
  • 河合 久仁子, 福井 大, 松村 澄子, 赤坂 卓美, 向山 満, Armstrong Kyle, 佐々木 尚子, Hill David A ...
    2007 年 47 巻 2 号 p. 239-253
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    長崎県対馬市において,コウモリ類の捕獲調査を2003年から2006年にかけて行った.その結果,26カ所のねぐら情報を得ることができ,2科4属6種(コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus,キクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum,ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus,モモジロコウモリMyotis macrodactylus,クロアカコウモリMyotis formosus,およびコテングコウモリMurina ussuriensis)のべ267個体のコウモリ類を捕獲,あるいは拾得した.これらのうち,クロアカコウモリは38年ぶりに生息が確認された.
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国際会議報告
故今泉吉典先生追悼文
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