哺乳類科学
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48 巻 , 1 号
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原著論文
  • 高中 健一郎, 安藤 元一, 小川 博, 土屋 公幸, 吉行 瑞子, 天野 卓
    2008 年 48 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    小型哺乳類の側溝への落下状況を明らかにすることを目的とし,静岡県富士宮市にある水が常時流れている約1.5 kmの側溝(深さ45 cm × 幅45 cm,水深10~25 cm,流速約1.3~1.6 m/s)において,2001年6月から2004年9月の間に落下個体調査を131日行った.その結果,食虫目6種,齧歯目7種,合計2目3科13種152個体の落下・死亡個体が確認でき,側溝への落下は1日あたり平均1.16個体の頻度で起きていることが明らかになった.落下していた種は周辺に生息する小型哺乳類種の種数81%に及び,その中にはミズラモグラ(Euroscaptor mizura)などの準絶滅危惧種も含まれていた.また,ハタネズミ(Microtus montebelli)の落下が植林地より牧草地において顕著に多くみられ,落下する種は側溝周辺の小型哺乳類相を反映していると思われた.側溝への落下には季節性がみられ,それぞれの種の繁殖期と関連している可能性が示唆された.以上のことから,このような側溝を開放状態のまま放置しておくのは小動物にとって危険であり,側溝への落下防止策および脱出対策を講じる必要があると考える.
  • 本田 剛, 林 雄一, 佐藤 喜和
    2008 年 48 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    農業被害を引き起こすイノシシの行動を明らかにするため,被害を受ける農地と森林の境界となる林縁周辺で捕獲した個体を対象とし,季節及び時間ごとの環境選択を解析した.2004~2005年の5~11月にイノシシを6頭捕獲・追跡し,標高及び植生に対する選択性を一般化線形混合モデルにより調べた.このうちの1個体は森林外で一度も確認されず,林縁から1,000 m以上離れた林内まで利用した.一方,森林外を利用した5個体のイノシシの内,4個体は林縁周辺を集中的に利用した.森林外を利用した個体の環境選択を季節及び時間別にみると,春夏期の日中は低標高地と森林内を好み,夜間は低標高地と森林外を選択的に利用した.森林外の利用地は主に農地と耕作放棄地であった.以上のことから,農地を加害するイノシシの捕獲は,林縁周辺で実施することが効果的であると結論した.
  • 大井 徹, 大西 尚樹, 山田 文雄, 北原 英治
    2008 年 48 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    京都府のツキノワグマは,由良川(福知山市より下流部)の東側に分布する丹波個体群と西側に分布する丹後個体群に分かれるが,丹波個体群では,丹後個体群より若齢のオスがより多く有害捕獲される傾向が認められた.その原因を明らかにするために捕獲方法,捕獲理由,捕獲月,捕獲場所の景観,メスの分布と捕獲されたオスの年齢の関係を検討した.捕獲地点の分布を検討したところ,性成熟したオスは,交尾期になると,性成熟したメスが生息する可能性の高い地域に集まる傾向が示唆されたが,そのようなメスの生息地域の内と外で捕獲されたオスの年齢を比較しても差異は認められなかった.検討した要因の中では,唯一捕獲場所の景観の影響が認められ,森林で捕獲されるオスは若齢のものが多い傾向があることがわかった.丹波個体群ではクマハギ防除のために7~10月に森林中で多くの有害捕獲が行われる一方,丹後個体群では8~11月に農業被害や人身被害防止のため集落・農地近くでの有害捕獲が多く行われており,このことが背景となって丹後個体群と丹波個体群の捕獲個体構成の差異が生み出されていると示唆された.一方,この差異は野生個体群の構成の違いを反映している可能性もあり,留意する必要がある.
短報
報告:特集『クマ類の特定鳥獣保護管理計画の実施状況と課題』
  • 間野 勉, 大井 徹, 横山 真弓, 山﨑 晃司, 釣賀 一二三, 高柳 敦, 山中 正実
    2008 年 48 巻 1 号 p. 39-41
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    日本におけるクマ類の調査研究や特定鳥獣保護管理計画の発展に寄与することを目指して,この特集を企画した.本特集は,日本哺乳類学会2007年度大会で開催されたクマに関する3つの自由集会の成果をまとめたものであり,特定鳥獣保護管理計画の実施状況や,新たな手法として注目されるヘア・トラップ法によるクマ類の密度推定の問題点などを概観する11編の報告と,2編のコメントから構成される.
  • 間野 勉, 大井 徹, 横山 真弓, 高柳 敦, 日本哺乳類学会クマ保護管理検討作業部会
    2008 年 48 巻 1 号 p. 43-55
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    日本に生息する2種のクマ類個体群の保護管理の現状と課題を明らかにするため,クマの生息する35都道府県を対象に,保護管理施策に関する聞き取り調査を2007年7月から9月にかけて実施した.調査実施時点で,11県が特定計画に基づいた施策を実施しており,9道県が特定計画の策定中あるいは策定予定と回答した.特定計画によらない任意計画に基づく施策を実施していたのは5道県であった.12都県はツキノワグマに関する何らかの管理計画,指針などを持たなかった.特定計画及び任意計画を実施している道府県の主な管理目標として,1)個体群の存続と絶滅回避,2)人身被害の防止,及び3)経済被害軽減の3項目が挙げられた.数値目標を掲げていた10県のうち8県が捕獲上限数を,2県が確保すべき生息数を決めていた.特定計画,任意計画の道府県を合わせ,捕獲個体試料分析,出没・被害調査,堅果豊凶調査,捕獲報告などが主要なモニタリング項目として挙げられた.また,個体数,被害防止,放獣,生息地,普及啓発などが主要な管理事業として挙げられた.地域個体群を単位として複数の府県が連携した保護管理計画は,西中国3県のみで実施されていた.被害に関する数値目標の設定とそのモニタリング,個体群動向のモニタリング手法の確立,地域個体群を単位としたモニタリング体制の確立が,日本のクマ類の保護管理上の最大の課題であると考えられた.
  • 金森 弘樹, 田中 浩, 田戸 裕之, 藤井 猛, 澤田 誠吾, 黒崎 敏文, 大井 徹
    2008 年 48 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    西中国地域のツキノワグマUrsus thibetanusの「特定鳥獣保護管理計画」は,第一期(2003~2006年度)と第二期(2007~2011年度)とも,広島県,島根県および山口県の三県で共通の指針の下に策定された.生息頭数調査は,個体の捕獲による標識再捕獲法を用いて2回実施され,1999年当時は約480頭,また2005年当時は約520頭と推定された.有害捕獲は1960年代から始まったが,2000年代に入ると年平均100頭以上へと急増した.とくに,大量出没した2004年には239頭,2006年には205頭にも達した.1996~1999年に比べて2000~2006年は,高齢個体も多数捕獲される傾向にあったが,捕獲個体の性比には変化はなかった.三県の放獣率や除去頭数の差は,地域によって異なったが,これは地域住民や行政の意識の違いに起因すると考えられた.放獣個体の再捕獲率は低かったが,学習放獣による奥地への定着や被害の再発防止効果は十分に検証できなかった.今後は,個体群のモニタリングの継続,錯誤捕獲の減少,地域住民への普及啓発の努力などがいっそう必要である.
  • 横山 真弓, 坂田 宏志, 森光 由樹, 藤木 大介, 室山 泰之
    2008 年 48 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    兵庫県におけるツキノワグマの保護管理計画について,計画目標の達成状況と施策の効果を評価するモニタリングの現状と課題を報告する.実施しているモニタリングは,被害防止に直結する項目と生息状況の把握に必要となる項目を優先しており,個体数推定は行っていない.計画を施行した2003年から5年間に捕獲されたツキノワグマについては,学習放獣することを基本とし,総捕獲数(121頭)の86%(104頭)を学習放獣した.放獣後は,行動監視を徹底し,不要な捕殺を避ける一方,再被害を確認した場合には,速やかに次の対策に移行する措置をとった.これらの出没対応によって,個体数の減少に一定の歯止めをかけることができたと考えられる.学習放獣の効果を上げるためには,放獣と同時に誘引物の徹底管理や追い払いの対策を行うことが必要であるが,それぞれ対策上の課題が山積しており十分ではない.追い払いや学習放獣の手法改善,誘引物管理の普及啓発などについて,より効果的な方法を実施していく必要がある.県境を越えた広域管理については新たな枠組みづくりを近隣府県や国と検討していくことが必要である.これらの課題に取り組みながら,科学的データに基づく対応を浸透させていくことが被害防止と個体群の保全につながると考えている.
  • 岸元 良輔, 佐藤 繁
    2008 年 48 巻 1 号 p. 73-81
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    長野県に広く生息するツキノワグマ(Ursus thibetanus)と人間とのあつれきが,最近になって増加している.長野県は,1995年にツキノワグマ保護管理計画を策定し,計画に基づいたツキノワグマの保護管理施策を実施してきた.保護管理計画は2002年に特定鳥獣保護管理計画に位置付けられた.長野県は,計画策定時の1995年と改訂時の2002年,及び2007年に,合計3回のツキノワグマの個体数調査を実施している.当初2回の調査では直接観察法が採用され,3回目の調査ではヘア・トラップ法が採用された.1995年,2002年,及び2007年における推定生息数は,それぞれ1,362頭,1,325~2,496頭,及び1,881~3,666頭であった.1995年と2002年の計画では,個体群サイズを1,300頭水準に維持するために年間捕獲上限数を150頭に規制していたが,生息数推定値の信頼性が低いことから,2007年の計画では,固定した捕獲上限数を設定していない.これは,様々な仮定に基づくこれらの推定結果の信頼性は疑わしいためである.正確な個体数の推定よりも,クマ個体群の動向を監視することのできるモニタリング手法を確立することが,日本のツキノワグマ個体群管理における最も重要な課題である.
  • 山内 貴義, 佐藤 宗孝, 辻本 恒徳, 青井 俊樹
    2008 年 48 巻 1 号 p. 83-89
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    岩手県のツキノワグマ(Ursus thibetanus)保護管理計画の施策を通覧し,問題点を整理して今後の方針について論じた.岩手県のツキノワグマはほぼ県内全域に生息しており,日本国内でも大きなツキノワグマの地域個体群を擁している.ツキノワグマによる農業被害や人身被害が1980年代から問題となり有害捕獲頭数が増加したことから,2003年に特定鳥獣保護管理計画であるツキノワグマ保護管理計画が策定された.計画におけるモニタリング調査項目は,「個体情報調査」,「被害状況調査」,「捕獲個体調査」,「行動圏調査」,「堅果類豊凶調査」,および「生息状況調査」である.モニタリング調査の問題として,正確な個体数推定が困難であり,これまでの推定生息数が過少であったことなどが挙げられる.今後,隣接する県との共同による地域個体群毎の調査体制の整備が必要と考えられる.また近年,人里に出没する個体が増加している.集落周辺の刈り払いや廃果の適切な処理など,ツキノワグマの人里への侵入防止対策を,地域と一体になって取り組む必要がある.
  • 釣賀 一二三, 間野 勉
    2008 年 48 巻 1 号 p. 91-100
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    北海道渡島半島地域を対象に策定された任意計画に,モニタリングとして位置づけられた項目の取り組み内容に関して概観し,今後の課題について本稿で報告する.北海道では2001年に策定された「渡島半島地域ヒグマ保護管理計画」に関わる生息動向,および被害状況に関わるモニタリングを実施している.生息動向については,全道を対象とした鳥獣関係統計,捕獲個体の生物学的分析,アンケートによる分布調査および広域痕跡調査の一環として渡島半島地域の調査を実施しており,これまで継続してきた調査によって一定の成果をあげている反面,個体数の動向を示す指標として期待される広域痕跡調査が,国有林の協力を得られないなどの理由から今後の見通しが立たないといった重要な課題を抱えている.渡島半島地域のみを対象とした電波追跡調査やヘア・トラップ調査では,個体数推定に向けた試みが続けられており,大雑把な個体数の推定や調査対象とした狭い地域における個体数推定手法の確立に向けた検討が行われているものの,予算や人員の不足が精度の向上と広域への展開を妨げている状況である.一方,被害状況に関するモニタリングとしては,被害や出没の発生状況を把握し,指標化することによって保護管理計画へのフィードバックを行うための新しい試みとして,問題グマの段階分け,各段階の問題グマ数の推定といった試みを行っている.これらは今後も継続することによって,保護管理計画の進捗状況を評価する重要な指標になり得ると考えられ,生息動向のモニタリングと併せて将来にわたって実施を継続する体制を担保することが重要である.
  • 佐藤 喜和, 湯浅 卓
    2008 年 48 巻 1 号 p. 101-107
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    ヘア・トラップによる非侵襲性サンプリングおよび遺伝マーカーを用いた個体識別による捕獲再捕獲法に基づく個体数推定がクマ類を対象に広く実施されるようになり,日本でも各地でこの手法の適用に向けた試行錯誤が進められている.この方法には,動物を捕獲する必要がない,捕獲を伴う方法よりも広い範囲でサンプリングが実施できる,生け捕りに比べ偏りのないサンプリングが期待できる,遺伝マーカーによる標識であるため消失する心配がないなどの利点がある.このように理論的には高い可能性を秘めた方法であるが,方法の全体像を理解することなく安易に導入しても,信頼できる個体数は推定できない.日本の実情に,より適した方法論を再検討して行く必要がある.そこでヘア・トラップを用いた個体数推定法を行うための手順,すなわちトラップの構造,調査地の選定とトラップの配置,サンプリング,DNA分析による個体識別,および個体数推定に用いるモデルについてそれぞれ整理し,注意すべき点とともにまとめた.
  • 湯浅 卓, 佐藤 喜和
    2008 年 48 巻 1 号 p. 109-118
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    日本におけるクマ類の保護管理にとって,有効な個体数推定法を確立することは急務である.ヘア・トラップを用いた非侵襲性サンプリングおよびDNA分析に基づく個体識別によるクマ類の個体数推定法は,従来の捕獲再捕獲法より効果的な方法として注目されている.この手法は,海外では個体数推定法の一つとして定着しつつある一方で,日本では実用に向けて克服すべき課題が多い.そこで,この手法のより効果的な適用を目指し,サンプリング,遺伝子型決定,およびモデルを用いた個体数推定の3つの過程における検討課題を,国内外の事例に基づき整理した.ヘア・トラップ法を用いたクマ類の個体数推定を成功へ導くためには,生態,遺伝,数理モデルなどの研究者による方法論の議論が不可欠であり,地域個体群の全域を対象とした大規模調査の実施が必要と考える.
  • 釣賀 一二三
    2008 年 48 巻 1 号 p. 119-123
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    これまでに北海道で試みられたヒグマの個体数推定は,その推定値に大きな誤差を含むものであった.現在,より精度の高い推定を行うために,ヘア・トラップ法を応用することが可能かどうかの検討を実施しており,本稿では検討の概要とその過程で明らかになった課題について述べる.ヘア・トラップ法を用いた個体数推定法の本格的な検討に先立って行った3カ年の予備調査では,誘因餌を中央につり下げて周囲に有刺鉄線を張ったヘア・トラップによって試料採取が可能なこと,試料の保管には紙封筒を用いて十分な乾燥をした後に保管する必要があることなどが明らかになった.さらに,分析対象の遺伝子座の選択に関する課題の整理が行われた.その後の3年間の本格調査では,ヘア・トラップ配置のデザインと構造を検討するために,メッシュ単位で29箇所あるいは39箇所に設置したヘア・トラップの適用試験を実施した.この結果については現在解析途中であるものの,ヘア・トラップを設置する場所の均一性を検証することや,ヘア・トラップの設置密度の基準となるメッシュの適切な大きさに関する検討の必要性が課題としてあげられた.
  • 山内 貴義, 齊藤 正恵
    2008 年 48 巻 1 号 p. 125-131
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    本稿では,岩手県が実施してきたヘア・トラップ調査の実施状況を報告し,その際に提起された様々な問題点を挙げ,それらを克服するための今後の方針について論ずる.これまで岩手県では直接観察によってツキノワグマ(Ursus thibetanus)の生息数を推定していたが,さらなる精度向上をめざしてヘア・トラップ調査を2004年から継続して実施している.調査の経験から,ヘア・トラップという手法に関する様々な問題点が提起されている.まずトラップの構造上の問題点が挙げられる.有刺鉄線を1本使用したトラップでは体毛回収率(設置トラップ数に対する体毛付着トラップ数の割合)は約8割であった.そこで有刺鉄線を2本用いる構造に改良したところ,体毛は全てのトラップで回収できた.また8月以降に採取された体毛からは遺伝子解析率が下がる傾向が見られたため,この現象は夏の気温と湿度によって体毛中のDNAの劣化や分解が原因と推察された.そしてヘア・トラップを設置する場所が制限される問題もある.急な斜面や地面の凹凸が大きい場所による地形的な制約などがヘア・トラップを設置する場合の障害となっているため,地形の状態に左右されない新しいトラップの開発が必要である.今後はこれらの検討課題を一つずつ克服することで,ヘア・トラップ調査による生息数の推定に向けた検討を行っていきたいと考えている.
  • 森光 由樹
    2008 年 48 巻 1 号 p. 133-138
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    これまでに,全国20の自治体で,ヘア・トラップを用いた調査が行われてきた.調査の目的は「クマの個体数の算出」,「個体識別」,「生息の確認」など,それぞれの自治体で異なっている(2007年9月現在).すでに,ヘア・トラップ調査を「特定鳥獣保護管理計画のモニタリングの手法」として,利用している自治体もある.ヘア・トラップ調査は,トラップ設置の数,トラップ間の距離,材料採取の方法,トラップ見回り頻度,分析実施数,DNA分析技術,個体数算出法などの課題があり,手法の改善が必要である.2002年に長野県で実施された調査では,定点観察調査,痕跡確認調査から長野県関東山地のツキノワグマの生息密度を,0.01~0.03頭/km2と推定している.2003年からは,長野県関東山地でヘア・トラップによる調査が実施された.100 km2の調査地に100トラップを設置し,679本の試料が分析された.識別された個体は33頭で,分析成功率は26.3%であった.定点観察や痕跡調査では,ツキノワグマの生息密度を過小評価している可能性があることが示唆された.今後,ヘア・トラップ法を特定鳥獣保護管理計画のモニタリングの手法として確立するには,いくつかの問題点を改善しない限り導入は困難であると思われる.そのために,手法の開発が急務である.
  • 小泉 透
    2008 年 48 巻 1 号 p. 139-141
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    日本のクマ類では,分布域の拡大,大量出没年における大量捕獲,および絶滅のおそれのある地域個体群の増加の問題が起きており,個体群の存続可能性評価に対応した技術と管理法の確立が求められている.研究成果を管理に反映する仕組みとして,中核地域・普通地域の設定とラジオテレメトリー法の導入を提案し,普及しつつあるヘア・トラップ法の改善点を指摘した.
  • 宇野 裕之
    2008 年 48 巻 1 号 p. 143-145
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/16
    ジャーナル フリー
    クマ類の保護管理に関わるモニタリングとして,個体数推定が重要なことは言うまでもないが,個体数の動向把握を可能にする手法の確立が必要である.個体数の動向を正確に把握することができれば,捕獲数に基づく個体群動態モデルを用いた初期個体数の推定が可能になると考えられる.さらには,クマ類やニホンジカなど広範囲に移動する大型獣の広域的なモニタリング体制の確立が緊急の課題である.
2007年度大会シンポジウム記録「飼育・実験下での成果とフィールドワークをつなぐ哺乳類研究」
2007年度大会自由集会記録
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