霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
選択された号の論文の156件中1~50を表示しています
自由集会
  • 河合 香吏
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: AW1
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    開催日時:2015年7月18日(土)13:00-15:30
    人類は、家族、仲間、民族、国家など大小さまざまな集団の中で他者とともに生きる術をもっている。一生物種としての人類は、群居性動物である霊長類の一員として、集団で生活する方途を進化させてきたといってよい。しかも、われわれは、重層的で複雑に絡み合い、しばしば巨大な集団のなかで生きている。こうした集団の生成には、諸制度(規範やルール、コンヴェンション等を含む)を生み出すとともに、高度な社会性socialityの進化が必要であったはずである。
    この命題に迫るため、霊長類社会/生態学、生態人類学、社会文化人類学に与する研究者が集い、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所において共同研究「人類社会の進化史的基盤研究」を開始して、3期10年が過ぎた。その間、テーマを「集団」(2005〜08度、主な成果:『集団−人類社会の進化』2009年、“Groups: The Evolution of Human Sociality”2013年)、「制度」(2009〜11年度、主な成果:『制度−人類社会の進化』2013年、”Practices, Conventions and Institutions: The Evolution of Human Sociality”2017年3月刊行予定)、「他者」(2012〜14年度、主な成果:『他者−人類社会の進化』2016年3月刊行予定)と展開しつつ、人類の社会と社会性の進化について議論を重ねてきた。
    本集会では、ヒト以外の野生現生霊長類の社会を研究対象とする霊長類学者とヒトの社会を研究対象とする人類学者の対話ないし共同討議というかたちで続けられてきたわれわれの共同研究が、いかに有効であるのか(ないのか)について議論することを目指す。これまでのわれわれの共同研究の歩みを振り返り、今後を展望し、そのうえで、日本霊長類学会という場においてそれがいかに評価され、議論されうるのかを問いたい。

    予定プログラム
    趣旨説明・司会:河合香吏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
    話題提供:各25分
    1.伊藤詞子(京都大学野生動物研究センター)
     「霊長類学者、人類学者に出会う」
    2.北村光二(岡山大学名誉教授)
    「『コミュニケーションの進化』を考える」
    3.内堀基光(放送大学教養学部)
    「凡庸ながらマルクスの箴言から:サルの解剖とヒトの解剖との対照の延長上で語ること」
    休憩:10分
    コメント:各10分
    1.西川真理(京都大学大学院理学研究科)
    2.水野友有(中部学院大学教育学部)
    3.座馬耕一郎(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
    討論
    企画責任者:河合香吏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
    連絡先:Tel: (042)330-5691, e-mail: kkawai@aa.tufs.ac.jp, URL: http://human4.aa-ken.jp/
  • Rafaela S. C. TAKESHITA
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: BW1
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    開催日時:2015年7月18日(土)13:00-15:30 July 18, Saturday
    会場 Room:ホールB(国際交流ホールII) Hall B (International Conference Hall II)

    Animals used for entertainment has a long history dating back thousands of years. Archaeological evidence as far back as 2,000 B.C. in Macedonia show that lions were kept in cages. Nowadays, performances using whales, dolphins, horses, and non-human primates are very popular around the world. These species are used for entertainment in several different arenas, from zoos, theme parks, circuses to small scale illegal shows. However, a dichotomy exists in the training of animals, where either a positive reinforcement or punishment contingency is used. Some entertainment purposes have included violent shows, animals exoticized as objects of curiosity, and the anthropomorphization of animals through training and the modification of appearances. In Jakarta, for example, poverty drove the local population to train monkeys to take part in street performances wearing masks and to perform activities such as shopping, riding bicycles and other simulations of human behavior. Scientists have raised several concerns about the training techniques used and the physiological impact on these animals, such as injuries caused by the harsh training or due to financial restriction that does not allow the owners to provide a proper veterinarian care to the animals. In Japan, on the other hand, the monkey performance began as a religious ritual during which a trained monkey danced to music in order to cure horses. Through the years, trainers strived to culturalize the animal by teaching the bipedal posture, and this tradition remains nowadays in the streets as part of Japanese culture. Nevertheless, morphologists are concerned with the changes associated with training animals to mimic "human-like" behaviors. Studies have shown that the long-term training of Japanese monkeys to maintain upright posture introduced marked lumbar lordosis in monkeys. Bone remodeling in the postcranial skeleton also evidenced functional adaptations for stresses induced by sustained bipedalism. The aim of this workshop is to introduce the history and the consequences of animal usage for entertainment, focusing on street monkeys in Japan and abroad, and to raise a general discussion from cultural and welfare perspectives.

    Tentative schedule: 3 talks (25 min each + 5 min questions) followed by discussion
    Organizers: Rafaela S. C. TAKESHITA, Sofia BERNSTEIN, Prof. Masaki TOMONAGA, Prof. Takakazu YUMOTO (Kyoto University)
    Contact: Rafaela S. C. TAKESHITA (Primate Research Institute, Kyoto University), rafaela.takeshita.32c@st.kyoto-u.ac.jp
  • 松田 一希
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: CW1
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    開催日時:2015年7月18日(土)13:00-15:30
    会場:ホールC(国際交流ホールIII)

    研究を始めるにあたり大事なことは、どういったフィールドでどのような霊長類種を研究するかを決めることである。既に多くの基礎データが蓄積された長期調査地、霊長類種の研究は、研究テーマを速やかに開始できるのが長所である一方、他の研究者とのテーマ重複を避けるために限られたデータしか集められないという短所もあるだろう。しかし、新たな調査地の開拓や、まだ研究が進んでいない霊長類種の研究を開始するには、並々ならぬ困難もありそうだ。そこで、新たなフィールド開拓、新しい霊長類種の研究に着手し、今なお第一線で研究を続けている研究者に、その魅力をについて語ってもらう。
    調査地を開拓し、新たな霊長類種の追跡が軌道に乗っても、次に待ち受けるのはどういったデータを、どのように集めるのかという問題である。正しくデータを集めなくては、せっかくの苦労が報われないこともあるだろう。そこで、一昨年「野生動物の行動観察法」を出版した研究者に、霊長類の行動データを集める際に特に注意する点について語ってもらう。
    行動データが集まり、分析が終わると論文執筆作業が待ち受けている。昨今のポスドク就職難を考えると、まとめたデータを素早く論文として出版していくことが重要である。また野外で研究をする研究者にとっては、この室内での執筆作業はなるべく早く終わらせ、次のフィールド調査に出かけたいものである。そこで、効率の良い論文の書き方について語ってもらう。
    自身の研究を更に発展させるために極めて重要なことは、いかに研究費を獲得していくかであろう。そのためには、自分の調査対象、自分の調査地の魅力を客観的に評価した上で、今後の研究戦略を練り上げていく構想力が必要となる。第一線で途切れることなく資金を獲得し、新たなプロジェクトを次々と立ち上げている研究者に、資金獲得に欠かすことのできない申請書をどう書いてきたか、実例をもとに語ってもらう。

    予定プログラム
    1. 金森朝子(京大・霊長研)「新たなフィールドの開拓―野生オランウータンの調査地」
    2. 本郷峻(京大・人類進化)「新たな霊長類種の研究開拓―マンドリル研究」
    3. 井上英治(京大・人類進化)「その手法はだいじょうぶ?―霊長類の行動データ収集」
    4. 松田一希(京大・霊長研)「どうやって論文をまとめるか―効率の良い書き方」
    5. 半谷吾郎(京大・霊長研)「どうやって研究資金を獲得するか―研究戦略の練り上げ」

    主催:
    企画責任者:松田一希(京大・霊長研)
    連絡先:ikki.matsuda@gmail.com / 0568-63-0271
  • 中村 美知夫
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: AW2
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    開催日時:2015年7月18日(土)15:45-18:15
    会場:ホールA(国際交流ホールI)

    タンザニア、マハレ山塊での野生チンパンジーの研究が開始されてから今年で50年を迎える。本自由集会では、この記念すべき機会に、マハレでの50年間の研究成果を紹介するとともに、長期研究でこそ見えるものと今後の長期研究の展望について議論したい。
    多くの霊長類は成長が遅く寿命が長い。このため、成長に関するパラメータや繁殖成功、社会変動などを知るためには長期研究が欠かせない。たとえば、初期に想定されていたよりもチンパンジーの寿命が長く、繁殖年齢も意外なほど長いことが長期調査によって明らかになっている。また、子殺しや新奇行動の発現など、興味深いものの稀にしか生じないような行動を理解する上でも長期調査は重要である。
    日本の霊長類学は、当初から長期研究を志して開始された。現在の若手・中堅の世代の多くは、そうした先人たちの積み重ねに負っている。そして、そうした世代は、数十年間に蓄積されたデータを有効利用できるという恵まれた立場でもある。一方で、どのように調査地の継承・継続をしていくのかといったことは、今後多くの調査地で問題になりうる。
    霊長類の長期調査地は、関連の研究分野にとっても可能性のある所となりうる。たとえば、多くの調査地は多様な生物が暮らす場所でもあるので、霊長類以外の動植物種の研究や種間関係の研究などを展開することも可能であろう。また、生物多様性の理解やそれに基づく保全戦略、密猟・伐採などの影響、地域社会保全などを考える上でも、調査基盤や地域との関わりが確立された長期調査地はポテンシャルが高いはずである。
    この自由集会では、マハレでの長期研究を例にしつつ、霊長類学における長期野外研究一般の重要性と課題、および今後の展開について討論したい。

    予定プログラム
    ・趣旨説明
    ・個別報告(3~4件ほど)
    ・コメント
    ・総合討論

    主催:
    企画責任者:中村美知夫(京都大・野生動物),保坂和彦(鎌倉女大・児童),伊藤詞子(京都大・野生動物),座馬耕一郎(京都大・アア地域研)
    Organizer: Michio NAKAMURA (Kyoto University), Kazuhiko HOSAKA (Kamakura Women's University), Noriko ITOH (Kyoto University), Koichiro ZAMMA (Kyoto Uni-versity)
    連絡先:中村美知夫
    〒606-8203 京都市左京区田中関田町2-24 京都大学関田南研究棟 京都大学野生動物研究センター e-mail: nakamura@wrc.kyoto-u.ac.jp
  • 熊倉 博雄
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: BW2
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    開催日時:2015年7月18日(土)15:45-18:15
    会場:ホールB(国際交流ホールII)

    霊長類の多様な運動レパートリーは、種特異的な筋の解剖学的特徴や関節機構の特徴に反映されていると考えてきた。そこで機能に着目しつつ筋の解剖学的観察を行うのであるが、いくつかの小型筋の存在が疑問に思えてくることがある。なぜなら、これらの筋が作用する関節には小型筋と同様の作用を関節にもたらすと考えられる大型の筋が並存している場合が多いからである。たとえば、肩関節の小円筋は小さな筋であるといえるが、類似の走行を示す棘下筋が並存している。このような場合、力学的貢献があきらかに小さいと思われる小型筋の機能は何なのであろうか。また、小型筋と言っても、その「小ささ」には種差が認められる。種Aにおいてきわめて小型の形態を有する筋αが、種Bでそれほど小さくない場合、筋αの機能は、種Aと種Bで同一なのだろうか。それとも異なる機能を反映しているのであろうか。あるいは、筋のサイズは種特異的な運動適応とは全く無関係なのだろうか。本自由集会では、小型筋の機能を考察することで、霊長類における種の運動適応の問題にアプローチできる可能性を探ってみたい。さまざまな形態学的研究手法から得られた小型筋の機能解析の成果を持ち寄って、筋のサイズの変異に着目しつつ、機能を明らかにする方法を考えたい。紹介される研究手法は、筋重量比較、筋紡錘の筋内分布、生理学的筋断面積、関節機構分析などである。

    予定プログラム
    1. 縁の下の力持ち:筋サイズの意味  熊倉博雄(大阪大院・人間科)
    2. 筋配置からみた下腿の小型筋  後藤遼佑(大阪大院・人間科)
    3. ヒトの足底筋は何をしているのか ―筋重量と筋線維構成から―  伊藤純治(昭和大・保健医療)
    4. 生理的筋断面積からみた肩関節に関与する小型筋 ―小円筋について―  菊池泰弘(佐賀大・医)
    5. 小円筋は役立たずか?―関節機構学的検討―  藤野 健(都老人研)

    主催:
    企画責任者:熊倉博雄(大阪大院・人間科学),藤野 健(都老人研)
    連絡先:熊倉博雄 kumakura@hus.osaka-u.ac.jp 06-6879-8056
  • 赤見 理恵
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: CW2
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    開催日時:2015年7月18日(土)15:45-18:15
    会場:ホールC(国際交流ホールIII)

    日本人は動物園が大好きだ。毎年,日本人口の半分以上にあたる延べ7千万人以上の人々が動物園や水族館を訪れている。これだけ多くの人々が集まる動物園は,野生動物を取り巻く現状について伝えるには格好の場所だ。しかし,動物園の人工的な環境で暮らす動物から学べることは,“何もしなければ”ごく限られたものになってしまう。サル山のサルを見て,形態や個体間関係を観察することはできるが,野生で何を食べ,どのようにくらし,複雑な生態系の中でどのような役割を担っているのかを学ぶことはできない。
    そこで今回の自由集会では,「野生への窓」としての動物園教育について議論を深めたい。動物園が提供可能な教育テーマは情操教育,理科教育,芸術,文化など多岐にわたるが,目の前に“ないもの”を伝えるという意味で,動物園で野生を伝えることは,とても難しい。これは,企画者自身が動物園教育の現場にいて強く感じることだ。野生の姿をどのように伝えるかという「手法」の面と,教育活動のゴールをどこに設定するかという「ねらい」の面に注目して,議論を深めたい。
    具体的には,継続的に毎年2名の職員がアフリカ・タンザニアでの研修をおこなっている京都市動物園と,2014年度より幸島,屋久島,タンザニア等への研修をはじめた日本モンキーセンターから,まずは事例紹介をおこなう。動物園職員にとっては貴重な研修の機会となるが,それを動物園教育にどのように活かせるか,参加者とともに議論したい。また,生態的展示を通して野生の姿を伝えようとする天王寺動物園の取り組みや,遠く海外だけではなく身近な環境にも目を向ける京都市動物園の取り組みを紹介いただき,議論を深めたい。
    「霊長類の保全」を目的の一つに掲げる日本霊長類学会において,霊長類研究者や動物園関係者,学生や市民を交えて議論することで,動物園教育の新たな可能性が開けると期待している。

    予定プログラム:
    ・企画趣旨説明
    赤見理恵(公益財団法人日本モンキーセンター)
    ・事例紹介①:京都市動物園の継続的なタンザニア研修とその展開
    演者調整中(京都市動物園)
    ・事例紹介②:日本モンキーセンターの生息地研修とその展開
    高野智(公益財団法人日本モンキーセンター)
    ・事例紹介③:天王寺動物園の取り組み~都会の真ん中で何を伝えるか~
    牧慎一郎(大阪市天王寺動物園)
    ・事例紹介④:身近な環境にも目を向ける京都市動物園の取り組み
    和田晴太郎(京都市動物園 生き物・学び・研究センター)
    ・ディスカッション(自由集会参加者からも事例があればご紹介ください)
    指定討論者:佐渡友陽一(帝京科学大学)

    企画責任者:赤見理恵,高野智(公益財団法人日本モンキーセンター),田中正之(京都市動物園 生き物・学び・研究センター)
    連絡先:〒484-0081 愛知県犬山市犬山官林26 公益財団法人日本モンキーセンター
    赤見理恵  電話:0568-61-2327, E-mail:rie.akami@j-monkey.jp
公開シンポジウム
  • 原稿種別: 公開シンポジウム
    セッションID: PS
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    霊長類の「くらし、からだ、こころ、ゲノム」の研究を通して「人間とは何か」を探求する総合的学問としての霊長類学の歩みを、大型類人猿の長期野外調査から展望したい。日本の霊長類学は、西洋のそれと違って野外研究から起源したところに特徴がある。1948年12月、宮崎県の幸島で始まった野生ニホンザルの研究がその嚆矢だ。今西錦司とその仲間たちである。1956年には、民間の支援を受けて財団法人日本モンキーセンターが設立された。そこを起点に、1958年には今西と伊谷純一郎が、アフリカに大型類人猿の最初の調査に出た。1962年に京都大学に人類学の講座が誕生し、当時まだ大学院生だった西田利貞のマハレ山塊での野生チンパンジーの調査が1965年に始まった。本年は、マハレでの長期継続調査開始から50年という記念の年にあたる。そうした先人の努力があって1967年には京都大学に霊長類研究所が設置され、1985年に日本霊長類学会が結成された。今回の特別シンポジウムでは、長期にわたって継続されている大型類人猿の野外調査研究を取り上げることで、改めてこれまでの霊長類研究の流れを振り返り、未来に向けての新たな展望を探りたい。
    本シンポジウムでは、世界各地においてチンパンジー、ゴリラ、オランウータンという大型類人猿の長期継続調査をおこなってきた4人の研究者に登壇いただくこととした。それぞれの調査地とそこでの研究の紹介をしていただきたい。さらには、研究成果を踏まえつつより広い視点から、われわれ人間の本性や、その来し方と行く末について語っていただくことを目的とする。
    なお,プログラムはすべて英語で行われます。

    講演プログラム Schedule
    司会 Chair:William C. McGrew(University of Cambridge)
    講演 Lectures
    13:10~13:50 Carel van Schaik(University of Zurich)
    13:50~14:30 山極壽一(京都大学総長)
    14:30~15:10 中村美知夫(京都大学野生動物研究センター)
    15:10~15:50 Michael L. Wilson(University of Minnesota)
    15:50~16:00 総合討論 General Discussion
口頭発表
  • 貝ヶ石 優, 中道 正之, 山田 一憲
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A1
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    動物の協力行動を調べる実験課題では、2個体が同時に行動することで報酬を得ることができる場面を設定する。多くの先行研究において、食物の取得に関して寛容性の高いペアや種ほど協力行動課題が成功しやすいことが指摘されており、このことから一般的に寛容性が低い種であるとされるニホンザルでは協力行動課題は成功しにくいと考えられてきた。しかしニホンザルの持つ寛容性の程度には地域差が存在することが指摘されており、淡路島に生息するニホンザル (以下淡路島集団とする) は特異的に高い寛容性を持っているとされる。本研究では淡路島集団を対象に協力行動実験を行い、淡路島集団のニホンザルが協力行動課題を達成できるかどうかを検討した。本研究ではヒラタメソッドを参考に、2頭のサルが1本のヒモの両端を同時に引っ張り、共にエサを得られる装置を設置した。ヒモの片方の端だけを引っ張ると装置が引き寄せられずにヒモだけが抜けてしまい、それ以上課題を続けられなくなった。試行の成功を「少なくとも一頭がエサに手の届くところまで装置を引き寄せること」と定義し、試行の失敗を「ヒモが装置から抜け、課題が続行できなくなること」とした。実験は屋外に設置した装置に自発的に集まってきた個体を対象に実施した。実験は2014年3月から2014年9月まで行い、総試行数は1488試行だった。約6割の試行において課題が成功し、淡路島集団のニホンザルが協力行動課題を達成することができることを確認した。次に協力行動場面でのパートナーの役割の理解の有無について検証した。本研究において、パートナーがいない場面でパートナーを待つ行動を獲得したのは1頭のみであったが、それ以外の個体も試行数を重ねることでパートナーの必要性を理解した可能性が示唆された。このことから協力行動場面ではパートナーの役割の理解と行動の抑制という2つの異なる認知能力を区別して議論することが必要だと考えられる。
  • 栗原 洋介, 半谷 吾郎
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A2
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    行動圏防衛は食物資源の獲得を通して動物の生存や繁殖に結びつく重要な行動である。一方、防衛行動にはケガなどのリスクが伴うため、動物は不必要な争いを避けている。たとえば、行動圏の周縁で視覚・聴覚・嗅覚シグナルを用いて自群の存在をアピールすることで、隣接群との距離を調節し、群間攻撃交渉を避けていると知られている。しかし、そのようなシグナルを持たない種が行動圏内の場所(中心/周縁)によって行動を変えているのかどうかについては十分に検討されていない。屋久島海岸域に生息するニホンザルは群間コミュニケーションのためのシグナルを持たないが、群れ密度が非常に大きく、頻繁に群間エンカウンターが起きる。そこで、本研究では屋久島海岸域に生息するニホンザルを対象とし、行動圏内の食物パッチの位置がパッチ利用に影響をあたえるかどうか検証した。対象は屋久島海岸域に生息するニホンザル1群である。2013年2月から10月の間、対象群に属するすべてのオトナメス(1-4個体)を個体追跡し、直接観察を行った。追跡個体がパッチを利用した際、滞在時間、採食時間、同一パッチ内個体数、見回し行動の頻度を記録した。また、GPSを用いて、追跡個体およびパッチの位置を記録した。行動圏の周縁のパッチでは、同一パッチ内個体数が多かった。しかし、パッチ滞在時間、滞在中の採食時間、見回し頻度は変わらなかった。屋久島海岸域では群間攻撃交渉の勝敗が群れサイズによって決まるため、周縁のパッチでより多くの個体と近接することは行動圏を防衛するために効果的なのかもしれない。あるいは、個体の見回し頻度は変わらなかったが、周縁のパッチでより多くの個体と近接することで、群れレベルで見回し頻度を増加させている可能性がある。これは、より早く他群を発見し群間エンカウンターを避けることに貢献しているかもしれない。
  • 勝 野吏子, 山田 一憲, 中道 正之
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A3
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    敵対的交渉の直後(PC)には、攻撃者や被攻撃者において不安や攻撃を受けるリスクが高まることが知られている。PC場面において敵対的交渉の当事者間や周囲の個体との間で行われる親和的交渉には、これらのリスクを低減させるという利益がある。ニホンザル(Macaca fuscata)をはじめマカクやヒヒは、穏やかで音量の小さい音声(girney, grunt)を親和的な交渉の際に用いることがある。この音声は敵対的な意図がないことを伝える機能があると考えられている。PC場面においてこの音声は、攻撃者や被攻撃者の不安を減少させることが予測される。本研究は、この音声がPC場面において不安を減少させる機能を持つのかを明らかにすることを目的とした。嵐山ニホンザル集団において、PC場面における攻撃者と被攻撃者を対象とした個体追跡観察を行った。元の敵対的交渉の相手、あるいは周囲の個体との間で親和的な交渉が生じた場合には、音声が伴ったかどうかを記録した。統制(MC)場面として、翌観察日に同じ個体に対して個体追跡観察を行った。不安の指標として自己スクラッチを記録し、親和的交渉の前後それぞれのスクラッチ頻度を算出した。PC場面ではMC場面と比較し、親和的交渉を行う際に音声が伴う割合が増加した。PC場面のみに限って検討すると、親和的交渉が始まる際に相手から音声を受けた場合には、音声なしで交渉が始まった際と比較し、交渉後のスクラッチ頻度がより減少する傾向がみられた。次に、親和的交渉の種類によりスクラッチ頻度の減少する割合が異なるのかを検討した。毛づくろいや接触と比較して、近接のみの場合にはスクラッチ頻度は減少しなかったが、音声を伴った近接ではスクラッチ頻度が減少した。これらの結果から、親和的な交渉に伴うgirneyやgruntは受け手の不安を減少させることが示唆された。この音声は、社会関係を修復、維持する役割を果たしていると考えられる。
  • 上野 将敬, 山田 一憲, 中道 正之
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A4
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    集団で暮らす霊長類は、様々な相手と毛づくろいを行いあって利益を得る。近年の研究では、彼らが利益をより大きくするために2個体間で駆け引きを行っているのか、それとも、相手をかえながらより大きな利益を得られる相手を選んでいるのかが議論されている。本研究では、相手と親密であるか否かを考慮して、毛づくろいの催促が失敗し、相手から毛づくろいを受けられなかった時に、ニホンザルがどのように行動するのかを調べ、毛づくろい交渉における短期的な行動戦術を検討した。勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)における17頭の成体メスを対象に個体追跡観察を行った。普段の近接率をもとに、親密な相手と親密でない相手を区別した。
  • Benoit Bucher, Hika Kuroshima, Kazuo Fujita
    原稿種別: Oral Session
    セッションID: A5
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    Although prosocial behaviours are commonplace in human societies, their cognitive mechanisms and evolutionary roots are yet to be explained. Studies of pro-sociality in great apes, involving food sharing tasks, suggest that altruistic food sharing may be a uniquely human characteristic (Tian et al., 2013; Bullinger et al., 2014). However, tufted capuchin monkeys (Cebus apella), a New World species diverged from apes about 40 million years ago, which have been shown to be sensitive to others' welfare (Takimoto et al., 2010), remain untested on this question of altruism. To investigate capuchins' food sharing capacities, 12 pairs composed of a benefactor and a partner were tested in two adjacent compartments. We observed whether the benefactor monkeys (those in possession of food) would benefit their partner by voluntarily delivering them food. In the first experiment, the cost of sharing was high; benefactors had to allow their partner to eat a portion of their own food (altruistic sharing). In the second experiment, the cost was reduced so that the benefactors no longer had to share their own food but inaccessible one (active giving). The results suggested that capuchins were unwilling to share food altruistically. However, when the cost of sharing decreased, they sometimes chose to act pro-socially toward selected individuals. The results will be discussed in line with previous ape studies reporting that partners' behaviours may also play an important role for pro-sociality to appear, by driving the benefactor's response (Yamamoto et al.,2009).
  • Cecile SARABIAN, Andrew MACINTOSH
    原稿種別: Oral Session
    セッションID: A6
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    Hygiene encompasses behaviours that maintain individuals and their environments clean to prevent infectious disease. Hygienic practices are human universals, but less is known about such behaviours in other species. While diverse strategies for avoiding parasites have been proposed, and despite the ubiquity of faecal-oral parasites, feeding-related infection-avoidance strategies remain poorly understood in other vertebrates. We tested through experimentation and observation whether food manipulation behaviours and faeces avoidance in a non-human primate could reflect hygienic tendencies that reduce parasite burdens. We show that collective food-related risk-sensitivities, manifest as tendencies to process food items before consumption and avoid faeces, are correlated negatively with intensity of infection by faecal-oral geohelminths in Japanese macaques in their natural habitat. This behavioural suite may therefore reflect hygienic tendencies, providing a mechanism of behavioural immunity with implications for the evolution of health maintenance strategies in humans.
  • 黒澤 圭貴, 友永 雅己
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A7
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    通常のチンパンジーの認知実験では、彼らが何も保持していない状態から実験が始まり、正解時に報酬が与えられるという手続きが取られている。しかし人間はこのような「不保持の状態から新たな何かを得る」という行動だけではなく、投資のように「保有する資産を増やす」という行動もとる。では、チンパンジーは「投資」をするのだろうか。このことを確かめるため、本研究では実験室にコインセンサーを導入し、実験開始時に彼らにコインを渡し、それを支払うことで課題が開始されるという環境を整えた。実験は2つおこなった。実験1では、一方のセンサー(vending sensor)にコインを支払うと報酬としてリンゴ片1個が排出され、もう一方のセンサー(investment sensor)にコインを支払うと、課題が呈示されたのち、正解時にリンゴ片1個が排出された。実験1は3個体を対象におこなわれ、うち2個体がvending sensorに対する選好を示した。なお、1個体がinvestment sensorに対する選好を示した原因を調べるために、両センサーの位置を交換した条件での実験もおこなった。これにより、位置選好ではなく、課題自体に対する選好が原因であることが確かめられている。続く実験2ではinvestment sensorの報酬が変更された。investment sensorにコインを支払うと課題が開始され、正解時に3枚のコインが報酬として与えられる。実験2は現在までに2個体を対象におこなわれている。ここで彼らが「投資」をするのなら、実験2ではinvestment sensorに対する選好を示すようになると考えられる。本条件下では、investment sensorにコインを支払い課題に正解することによってコインを増やすことが出来るため、結果としてより多くのリンゴ片を獲得することが可能なためである。しかし、現在まででinvestment sensorに対する選好を示す個体は確認できておらず、実験2でinvestment sensorに対する選好を示していた個体さえも実験2ではvending sensorに対する選好を示した。以上より、現在まででチンパンジーが「投資」をおこなうことを示唆する結果は得られていない。
  • Lira Yu, Masaki Tomonaga
    原稿種別: Oral Session
    セッションID: A8
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    Synchronous behavior such as dance has a power to create and sustain communities and communication in humans (McNeil, 1995). One distinctive characteristic of synchrony in humans from other animals is that it occurs within a pair. Experimental studies of synchrony are reporting that we humans tend to mutually couple a tempo of the movement with the partner. When might this mutual synchrony have emerged phylogenetically? To investigate whether non-human primates share this behavior, the current experiment targeted chimpanzees who are phylogenetically the closest living relatives to humans and one of highly social primate species. Four pairs of female chimpanzees in Kyoto University Primate Research Institute participated. Two conditions were prepared: alone and paired. A finger-tapping task was introduced to produce repetitive and rhythmic movement from the chimpanzees by using a push button. Mean of tapping intervals, time duration between beats, was calculated to examine whether tempo convergence between chimpanzees occurred when they simultaneously produced the tapping movement in the paired condition. Results from mean absolute difference of tapping intervals between chimpanzees depending on condition showed that tempo convergence occurred in all four pairs of chimpanzees. Further analysis from a difference of mean tapping intervals between conditions in each chimpanzee revealed that the tempo convergence occurred by unidirectional change. The current experiment demonstrated that humans and chimpanzees share to produce tempo convergence during simultaneous movement but the way how the convergence occurred seemed different between these two species.
  • ―課題負荷操作の効果―
    高木 佐保, 藤田 和生
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A9
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    メタ認知とは自身の認知状態をモニターし制御する働きである。すでに霊長類は短期的な記憶痕跡のメタ認知を持つことが明らかにされている(Fujita, 2009; Hampton, 2001; Smith, Shields, Allendoerfer, & Washburn, 1998)。しかし、それらはいずれも記憶痕跡の有無や強度を問う課題であり、記憶の内容に関する検討はこれまで全くおこなわれていない。これに対しヒトは、色は憶えているが形は憶えていない、などの複合記憶の個別内容をモニターし報告できる。メタ認知の進化を検討する上で、記憶内容のメタ認知がどのような動物種で可能かを調べることは重要である。本研究では、図形の形状(what)と位置(where)の見本合わせによる複合課題を用いて、霊長類のメタ記憶が記憶痕跡の有無に止まらず、その詳細な内容の認知をも包含しているかを2頭のフサオマキザル(Cebus apella)を用いて検討した。この複合課題では、10箇所の見本提示場所のうち1箇所に見本刺激を呈示した。遅延の後に、what課題、where課題、及び両方を答えるcombo課題がランダムに出現し(Forced試行)、一定の割合でwhat課題とwhere課題どちらに進むかを選択できた(Selectable試行)。もしフサオマキザルが記憶の内容を含めたメタ記憶を持ち得るのであれば、以下の2つの予測が成立する。1:Selectable試行で選択した課題の正答率は、Forced試行での同じ課題の正答率よりも高い。2:Selectable試行では、Forced試行で正答率の高い方の課題がより多く選択される。以上を調べた結果、いずれのサルもそれぞれ片方の予測と一致した傾向を示したが、両方の予測を満たす結果にはならなかった(実験1)。実験1では、what/whereの難易度は個体の自発的傾向に依存しており、人為的な操作は行っていない。実験2では遅延時間に妨害刺激を入れることでwhatとwhere課題の難易度の人為的な操作を行った。妨害刺激が形状情報に強く作用する場合と、位置情報に強く作用する場合を設けて、選択する課題の種類がそれに応じて変化するかどうかを調べた。結果及び考察は当日発表する。
  • Duncan WILSON, Sarah-Jane VICK, Masaki TOMONAGA
    原稿種別: Oral Session
    セッションID: A10
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    Recent studies with non-human primates have found eye preferences consistent with the valence model of emotional processing, which states that the left hemisphere of the brain is dominant for processing positive emotion and the right hemisphere is dominant for processing negative emotion. This behavioural asymmetry could potentially be used as a welfare measure. The study explored whether capuchin monkey eye preferences differ systematically in response to stimuli of both positive and negative valence. 11 captive capuchin monkeys were presented with four images of different emotional valence and social relevance, and eye preferences for viewing the stimuli through a monocular viewing hole were recorded. A right eye preference (left hemisphere dominance) was predicted for viewing stimuli of positive valence and a left eye preference (right hemisphere dominance) was predicted for viewing stimuli of negative valence. An individual level eye preference was found; seven subjects had a strong left eye preference (right hemisphere dominance) and four subjects had a strong right eye preference (left hemisphere dominance) for viewing all the stimuli. The direction of looking did not differ significantly with the emotional valence of the stimuli and so the results do not support the valence model. The number of looks, duration of looking and latency between looks also did not differ significantly with the emotional valence of the stimuli. The stimuli were presented as images rather than real objects which may have reduced their emotional salience. However, significantly more stress-related behaviours were found for viewing the negatively than positively valenced stimuli, suggesting the stimuli had a degree of emotional relevance for the subjects. In conclusion the findings of this study do not provide convincing support for eye preferences as a measure of emotional responses in captive capuchin monkeys and therefore its potential as a welfare measure in non-human primates is still ambiguous.
  • 半谷 吾郎, 宮田 晃江, 好廣 眞一, 高畑 由起夫, 古市 剛史, 栗原 洋介, 早石 周平
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A11
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    日本各地で、ニホンザルによる農作物被害の増加と分布の拡大が報告されており、その対策として捕獲による個体数調整が多くの地域で行われている。その効果的な実施のためには、被害の現状、被害を起こしている群れを把握したうえで、対策と効果を客観的資料によって評価する科学的管理が必要である。屋久島では、1980年代からニホンザルによる柑橘類を中心とした農作物被害が拡大した。その対策として、長年有害捕獲が行われてきた。捕獲数は長年300頭程度を推移してきたが、近年急増して、1000頭を超える年もあった。これだけ大規模な捕獲が、個体数の持続的な維持と両立するのかどうかは、早急に解明する必要がある。1991年から1994年に、海岸部のニホンザルの分布を一斉に調査する大規模な分布調査が行われた。本研究は、この20年の間に、屋久島のニホンザルの分布がどのように変化しているのかを明らかにすることを目的として行った。調査はブロック分割定点調査法で1991-1994年および2013-2014年の7-9月に行った。1991-1994年は387、2013-2014年は58の定点で調査を行った。定点調査中のニホンザル集団の発見頻度を指標として比較した。調査域を、集落がなく捕獲の行われていない西部地域、集落があって捕獲が行われている北部・東部・南部の4つの地域に分けて比較すると、どちらの調査期間も、発見頻度は西部、南部、北部、東部の順であり、屋久島でどこにサルが多いのかという傾向には、20年間で変化がなかった。一方、西部と南部では1991-1994年および2013-2014年の発見頻度に有意差はなかったが、北部と東部では発見頻度が20年間で有意に減少していた。北部と東部では、1991-1994年時点での推定生息数に対する近年の捕獲数が大きく、捕獲圧が過剰にかかることによって個体数が減少したものと考えられる。
  • 市野 進一郎, 相馬 貴代, 宮本 直美, 小山 直樹, 高畑 由起夫
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A12
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)ワオキツネザルは、10頭から15頭ほどの母系複雄複雌群を形成する昼行性原猿である。群れで生活する原猿類は、群れの社会的性比(オスの数とメスの数の比)がほぼ等しいという特徴をもつ。本研究では、ワオキツネザルのオスの分散様式と社会的性比がどのように関連しているかを明らかにする。(方法)マダガスカル南部のベレンティ保護区では、14.2haの主調査地域に生息するワオキツネザルの個体識別にもとづく継続調査がおこなわれている。本研究では、1989年から2009年の間の20年間に収集された人口学的資料を用いた。(結果と考察)20年間にオスの加入は148頭(加入直後に死亡した個体を加えると149頭)観察された。148頭中、単独で移籍したオスは44頭(29.7%)、2頭で移籍したオスは58頭(39.2%)、3頭で移籍したオスは15頭(10.1%)、4頭で移籍したオスは4頭、5頭で移籍したオスは10頭、7頭で移籍したオスは7頭、何頭で移籍したか不明だったのは10頭だった。このように、約7割のオスが同じ群れから複数頭で移籍していた。単独オスやオスのみの集団は特定の季節にのみ観察され、群れを移出したオスは数ヶ月で新たな群れに加入した。観察された加入オス149頭の出身群をみてみると、少なくとも90頭は主調査地域内かその近隣の群れから移籍しており、全体の60.4%に相当していた。以上のことから、ワオキツネザルのオスの分散様式には以下のような特徴がみられた。(1)複数のオスがともに同じ群れから移籍する平行分散(parallel dispersal)の傾向が強い。(2)群れから移出した後の単独オスもしくはオスグループの状態は短く、短期間のうちに他の群れに加入する。(3)近隣の群れへの移籍が多く、周辺の群れの状況に応じて、頻繁な移籍を繰り返す。
  • 森光 由樹
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A13
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    野生動物の行動の研究は,これまで直接観察法が主体であった。しかし,多くの野生動物は人間を忌避し,直接観察が困難な場合もある。動物の首下に超小型ビデオカメラを装着し,動物側から撮影し情報を収集することで、生息環境、採食物の種類や量、個体間との関係について、情報収集が可能である。報告者は、これまで、ニホンザルの首に装着可能な超小型ビデオカメラを開発し、新技術の有効性について検討し報告してきた。本研究では、さらに、ビデオカメラを小型化し、動物への負担を軽減するとともに、バッテリーの蓄電量を上げ、長期間の撮影を試みた。撮影機本体は、防水ケースに収納し,脱落機能の付いた発信器首輪に取り付けた。総重量は、200gとした。カメラは,マイコンを利用して,録画する時間の設定を行った。撮影スケジュールは、スキャニング法を用いて、朝6時から夕方6時の12時間を30分間隔で5分間撮影させた。120分/1日のスケジュールで、1週間撮影した。録画媒体は,小さく軽度で記録容量が多いSDカード32Gを使用した。捕獲不動化したニホンザルの首下にカメラを装着し,指定した時間に脱落させ、後日、カメラを回収し動画を解析した。その結果,採食物は、6種が確認できた。本法は、今後、バッテリーとメモリー容量を上げることで、さらに詳細なデータが入手できることが予想された。
  • 五百部 裕, 田代 靖子
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A14
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    演者らは、既存の調査路を繰り返しゆっくり歩き直接観察した調査対象種を記録するという方法で、タンザニア共和国マハレ山塊国立公園やウガンダ共和国カリンズ森林において、中・大型哺乳類の生息密度を推定してきた。この方法の最大のメリットは、新たに調査路を切り開く労力がいらず、極めて低コストで調査対象種の生息密度を推定できることであり、定期的に資料を収集することで生息密度の変化も把握できることにある。一方で、同じルートを何回歩けば、信頼できる資料が収集できるのかといった点は検討されてこなかった。そこで本研究は、カリンズにおいて、比較的短い間隔で二つの時期に資料を収集し、この方法の問題点を検証した。小乾季の中ほどにあたる2014年2月と大乾季の終わりの8月に現地調査を行った。この調査では、長さ2.5kmのセンサスルート6本(うち1本は1.5km)を利用して、センサスルートを歩きながら発見した哺乳類種を記録するという方法によって生息密度の推定を行った。1日に二つのルートを歩き、2月はそれぞれのルートを3回ずつ、8月は4回ずつ歩いた。調査期間中に直接観察できたのは、オナガザル科霊長類5種(レッドテイルモンキー、ブルーモンキー、ロエストモンキー、アヌビスヒヒ、アビシニアコロブス)と森林性リス(種不明)、ブルーダイカーであった。このようにして得られた資料を用いてこの方法の問題点を検証するとともに、1997年度にほぼ同様の方法で行われたセンサス結果と比較し、カリンズの中・大型哺乳類の生息密度の変化を考察する。
  • 井上 英治
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A15
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトに近いアフリカ大型類人猿の社会の解明は、人類進化を考える上で重要である。複雄群を形成するチンパンジー属ではメスが分散しオスが群れに残る父系社会であることがわかっていたが、ゴリラ属では通常オスもメスも群れから移出するため、詳細な分散様式の把握には、遺伝解析が必要であった。本発表では、これまでのゴリラ属の分散様式に関する遺伝解析の論文をその方法論とともに概説する。ゴリラ属の中で、マウンテンゴリラ(Gorilla beringei beringei)は複雄群の割合が高く、一定の割合でオスが集団内に残ることが知られていた。マウンテンゴリラの2つの調査地において、常染色体上のマイクロサテライトを解析した結果、メスでは地理的距離が遠いほど遺伝的距離が遠いのに対し、オスでは地理的距離が遺伝的距離に影響を与えていないことが明らかになっている。また、ほとんどが単雄群であるニシローランドゴリラ(Gorilla gorilla gorilla)では、Y染色体とミトコンドリアのマーカーを調べ、オスの分散距離の方が長いことを示唆する結果や、Y染色体と常染色体上のマイクロサテライト領域を調べ、オスが生まれた集団の近くに留まっていないことを示唆する結果が得られている。以上の結果は、いずれも群れを出たオスが遠くへ分散するという傾向を示している。また、グラウアーゴリラ(Gorilla beringei graueri)においても、Y染色体上のマイクロサテライトの分析から、同様の傾向が示唆されている。一部の研究では、異なる傾向も報告されているが、いずれも解析上の問題を含んでいるので、群れを出たオスの分散距離が長いという傾向は、ゴリラ属の一般的な特徴ではないかと考えられる。一方で、マウンテンゴリラでは群れに残るオスがいるという事実もあることから、分散距離と出自集団からの分散を分けて考えることがゴリラの社会を考える上で重要ではないかと考えられる。
  • 島田 将喜, 西江 仁徳, 中村 美知夫
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A16
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    対角毛づくろい(以下GHC)は,チンパンジーの社会的慣習の一つである。マハレでは,手のひら同士を合わせる「手のひら型」のGHCはK集団に特有であると報告されたが,その後,M集団においてもK集団から移籍したメス(GW)を含むダイアドで低頻度行なわれていることがわかった。本発表では,その後のM集団内におけるGHCの型の変化を分析した。タンザニア・マハレM集団のチンパンジーを対象に,2002年から2014年まで断続的に観察を行った。前半の6年間を第Ⅰ期(3,263.6時間),後半の7年間を第Ⅱ期(2,609.4時間)に分け,観察されたGHCを手のひら型,擬手のひら型,非手のひら型に分類した。66個体から全1,127例のGHCが観察された。第Ⅰ期から第Ⅱ期にかけて,GHCの頻度変化はほとんどなかったが,手のひら型の頻度は0.0049から0.0169(回/時)に,GHC全体に占める割合も2.1%から9.1%に増加した。手のひら型が観察されたのは第Ⅰ期には12個体12ダイアド,第Ⅱ期には15個体18ダイアドであり,いずれの個体/ダイアドでも必ず非手のひら型も観察された。手のひら型のダイアドのうちGWを含むのは6から2ダイアドに減少した。第Ⅰ期から第Ⅱ期にかけての手のひら型の割合の変化を調べたところ,GWまたはXTを含む12ダイアドのうち7ダイアドで手のひら型の増加が見られたのに対して,GWもXTも含まない17ダイアドでは手のひら型の増加は見られなかった。M集団では非手のひら型が依然優占型であるものの,手のひら型の占める割合や観察頻度は増大し,GWを含まないダイアドにも伝播している。しかし手のひら型を行う個体の集団内割合や,ダイアド間で手のひら型が全GHCに占める割合は短期間で劇的に増加したわけではない。M集団内での手のひら型の伝播経路は,最初期に型を持ち込んだGW,そして比較的早い段階で型を「受け入れた」XTと他個体との間の親和的関係性の強さとの相関を示唆するが,伝播現象自体はきわめて緩慢な変化としてしか観察されない。
  • 平栗 明実, 川上 文人, Chloe Gonseth, 市野 悦子, 林 美里
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A17
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    チンパンジーにおいても他個体、またはヒトに向けられたジェスチャーをすることは知られており、言語に先立つ行動としてさまざまな研究がおこなわれてきた。しかし、それらの定義は研究者間で異なる部分があり統一されていない。チンパンジーのジェスチャーを発達的な視点から解明すべく、私たちは日本モンキーセンター(JMC)で産まれた乳児とその母、父からなる一群を対象に観察おこなっている。本研究では、母子間の身体的距離が出現しはじめた時期から見られるようになった、母親の拍手行動に着目し分析をおこなった。以前、母マルコが豊橋総合動植物公園にいるときには、祖母マルタも母マルコも拍手をしていたようだが、JMCのこの群では、産後しばらくはマルコが拍手をしている様子は観察されなかった。観察対象は2014年7月25日に産まれたチンパンジーの乳児(マモル)とその母(マルコ)とした。観察の手続きは2014年7月26日から毎週土曜日1時間とし、分析は、はじめに母マルコの拍手行動を切り出し、その前後にみられた行動を全てチェックし、母子の距離、視線の向きに基づいて、可能な限り客観的に分類した。これによって、母マルコは乳児マモルとの身体的距離が出現しはじめた頃から、頻繁に拍手行動をおこなうようになったことがわかった。その際、母マルコの視線は乳児マモルのことを注視していることが多かった。拍手行動の生起する前後の母子の行動を時系列的に調べることで、ジェスチャーのおこる文脈や、子どもの発達にともなう変化を詳細に明らかにできると考えられる。また、母マルコは産後2ヶ月半で性皮腫脹が再開した。そこで、マモルへの授乳回数と授乳継続時間、父ツトムとの交尾回数、マルコの性皮腫脹の有無を調べた。4月からはピルの投与が始まり、今後は性皮腫脹がなくなるため、母マルコの行動にどのような違いが起こるかを観察していく。
  • 井上 紗奈, 新藤 いづみ
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A18
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、横浜市立野毛山動物園において観察した、ペア飼育中のアカエリマキキツネザルのメスの死亡にともなうオスの“鬱”様の行動低下と、新しいメスとの同居による行動回復について報告する。対象は、同一個体と2年以上のペア飼育歴のあるオトナオス1個体である。観察は目視による行動観察とビデオ分析を組み合わせておこなった。2014年の年末より体調が優れなかったメスが、2015年3月に死亡した。メスの死亡翌日より、オスに食欲低下および閉所への引きこもりといった異常な行動低下が見られた。通常時は飼育室の上部に渡した止まり木を利用しているが、この時は、利用頻度の低い地面に置いたコンクリート製のU字溝の内側に入り、日中ほとんど出てこなくなった。また、餌用トレイへの給餌直後の接近がなくなり、摂食開始までに時間がかかったうえ、全体の摂食量も減少した。2週間後には、午前はU字溝の外に出るようになったものの、午後は再び中に入って出てこなくなった。このオスに対し、新たにメス(既知個体)を4月より同居させた。ケージ越しの顔合わせを1週間おこなったのち同室させたところ、顔合わせ直後からオスの行動が活発になり、飼育室全体の利用がみられた一方で、U字溝内部の利用が減少した。食欲も回復がみられ、給餌直後から摂食をするようになった。また、繁殖期は終了していたが、繁殖期に頻繁におこなわれるマーキング行動が観察された。1週間後の同室開始では、オスの食欲はさらに亢進し、メスが食べなかったときは2個体分の摂食があった。オスメスともにマーキングを繰り返し、お互いがマーキングした場所のにおいを嗅ぐ行動が見られた。初日のうちに求愛から交尾までが観察され、縄張りを主張する合唱を頻繁に繰り返した。同居の効果は顔合わせのみでも有効であったが、同室により行動が多様化し、オスの“鬱”様の行動低下が解消されたことが示唆される。
  • 川上 文人, Chloe GONSETH, 市野 悦子, 平栗 明実, 林 美里
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A19
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    チンパンジーを対象とした研究はこれまで多くなされてきているが,子どもの発達やそれが及ぼす他個体への社会的な影響に主眼をおいた研究はそれほど多くはない。本研究では乳児の笑顔を中心とした社会的なコミュニケーションの発達と,乳児がその周囲に与える影響について調べることを目的としている。対象は日本モンキーセンター(JMC)で飼育されているマモル(2014年7月25日生まれ,オス),その母マルコ(1998年生まれ)と父ツトム(1985年生まれ)という3個体のチンパンジーであった。この3個体で1つの群れを構成している。観察はJMCの野外放飼場にてビデオカメラを用いて行い,週に合計1時間,各個体を10分間連続で追いかけるフォーカルサンプリング法で撮影した。そのビデオから,探索的に項目を加えつつ37項目の行動(6カテゴリ:表情,発声,社会的行動,養育行動,手を用いた行動,移動)についてその頻度と継続時間を評定した。4か月までの分析で,社会的な笑顔は生後2か月ではじめて観察された。乳児による笑顔の頻度は,乳児をフォーカルとした5時間を超える観察の中で3回であった。笑顔が2か月から増加するという結果は,チンパンジーにおける先行研究,ヒト乳児の研究とも一致する。ヒトとの相違点として,現状では笑顔の頻度が少ないため継続的な観察が必要ではあるが,乳児の笑顔を見て母親が笑顔を表出することがなかった点があげられる。養育行動を見ると,生後10週以降,母親が乳児を地面に置く行動が増加し,乳児が母親の腹部にしがみついて移動する際に母親が乳児に手を添える頻度が減少した。乳児の運動の発達にともない養育行動が変化しつつあることが示唆される。加えて,乳児が自分で移動する頻度の増加により,母親以外の他個体であるツトムと関わることが増加しつつある。乳児の発達が母親や他個体の行動を変容させる様子が今後確認できるであろう。
  • Fumihiro Kano, Satoshi Hirata, Josep Call
    原稿種別: Oral Session
    セッションID: A20
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    The interplay between emotion and cognition is one of the key areas in primatology that is likely to grow substantially in the coming years. A crucial component for this to happen hinges on the development of reliable methods to measure emotion in primates both at the physiological and behavioral levels. Previous studies have used thermal imaging (measured by an infrared thermal camera) to investigate lie detection in human adults, embarrassment and irritation in children, and fear in macaques. Here we established the conditions and techniques needed to apply the same method to great apes. In experiment 1, in Germany, 9 chimpanzees were tested in 3 conditions in which they heard, respectively: conspecific screams (experimental), an orangutan' long call (control 1), and no sound (control 2). We measured facial temperature right before and after the playbacks. Chimpanzees dropped their nasal temperature in response to conspecific screams, but not in the control conditions. In experiment 2, in Japan, 3 chimpanzees were additionally tested under the same conditions, yet in this experiment, the facial temperature could be measured in an environment with fewer distractions and consequently, we were able to obtain measurements before/after as well as during the playbacks. In addition, we also measured the heart rate of one of the chimpanzees. We replicated and extended the results from experiment 1. In summary, changes in facial temperature could be reliably detected in chimpanzees hearing conspecific screams after a relatively short period of time since the stimulus onset (< 30 sec.). However, the influence of general activity (walking, eating) was not negligible, which means that such artifacts need to be carefully controlled to obtain reliable measures of emotion based on facial temperature.
  • 服部 裕子
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A21
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    歩きながら音楽を聴くと自然に歩調があうといった様に、ヒトは自分の動きを外部のリズムに自発的にあわせる傾向があることが知られている。これまでの研究から、チンパンジーにもそうした傾向があることが示されている。電子キーボードの2つのキーを交互にタッピングさせている間に、等間隔の音を提示すると、提示したリズムが自発的なタッピングの速度に近い場合、タッピングのタイミングが音のリズムに引き込まれる事がわかっている(Hattori, Tomonaga and Matsuzawa, 2013)。本研究では、等間隔の音のリズムにアクセントを加えることで、ヒトにはよりはっきりしたリズムに感じられる音刺激を提示した場合、タッピングが自発的に引き込まれるのかを調べた。音刺激とタッピングのオンセットの違いを分析した結果、先行研究と同様に、タッピングが音のリズムに間断的に引き込まれるという現象がみられた。さらに、1個体のチンパンジーについて、タッピング課題をおこなっていない時にもリズムにあわせて体をゆらす行動が観察された。ビデオ分析から、リズムの速さが動きに影響を与えている可能性が示唆される。しかしながら、プレイフェイスなどのポジティブな感情表現はこうした行動の間には確認されなかった。これらの結果から、等間隔のリズム音だけでなく、アクセントが加わった複雑なリズム音もチンパンジーの動きに影響を与えることが示された。ヒトが音楽を作る際に取り入れてきたリズム特性の一部は、ヒト以外の霊長類にも影響を与えると思われる。今後、更に複雑なリズムを提示して反応を調べることにより、他の霊長類にとって認識できる(できない)リズムの特徴について検討をすすめたい。
  • 山本 真也
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A22
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    食物分配はヒト以外の動物にみられる利他行動の典型例で、協力社会の進化を理解する上で鍵になる行動として注目されている。これまでチンパンジーの食物分配が注目されてきたが、同じくヒトの進化の隣人であるボノボも食物分配を高頻度でおこなうことが知られている。野生のボノボは日常的に果実を分配する。野生チンパンジーが主に分配する肉と違い、協力的な狩猟や特別な能力が果実獲得には必要とされない。自分でも手に入れることが可能なはずの果実を、なぜ被分配者は要求するのだろうか?食物分配にかんするこれまでの仮説(互恵的分配・圧力に屈した分配など)は、主に「なぜ所有者は貴重な食物を他個体に渡すのか?」という視点からの説明である。しかし、ボノボの果実分配は受け手の視点にたった分析の重要性を示している。コンゴ民主共和国ワンバ村の野生ボノボを対象に2010年から2013年の間に独立個体間(つまり、自由に独立移動のできない子どもと母親間の分配を除く)の食物分配を178事例収集した。そのうち173例が植物性食物(果実・草本)の分配である。これらのデータから、主に次の3点が明らかになった。1.分配者・被分配者ともにオトナメスが中心となっており、優位なメスから劣位なメスへ一方的に分配される。2.周囲に豊富にある果実も分配される。3.隣接集団と遭遇したときには異集団個体とも分配される。このような分配様式は、食物の栄養価値だけに着目したこれまでの経済学的な説明、つまり栄養獲得のために食物分配が必要であるという説明だけでは解釈しきれない。ボノボは食物そのものを目的とした分配以外に、社会関係構築のための儀礼的な食物分配をおこなっている可能性がある。本発表では、この「儀礼的食物分配」仮説を提唱し、フィールドからのデータを基に検証するとともに、今後の課題についても議論したい。
  • 山田 一憲, 貝ヶ石 優, 上野 将敬, 中道 正之
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A23
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    ニホンザルは、1個体では得られない利益を、複数個体が一緒に行動して得ることができるのだろうか。Hirata & Fuwa(2007)が用いた実験装置は、協力行動を調べる際の標準的な装置となっており、様々な動物種において利用されている。この装置では、2個体が同時にヒモを引くことで報酬の食べ物を得ることができるが、1個体だけがヒモを引いても報酬は得られない仕組みになっている。この装置を用いた先行研究では寛容性の高いペアや寛容性の高い種ほど協力行動が成立しやすいことが示されており、それゆえ一般的に寛容性が低い種であるとされるニホンザルでは協力行動課題は成功しにくいと考えられてきた。しかしニホンザルが示す寛容性の程度には地域差が存在する。例えば、淡路島集団(兵庫県洲本市)は全国のニホンザル集団の中でも特異的に寛容性の高い集団構造を持つ一方で、勝山集団(岡山県真庭市)はニホンザルの典型である専制的な社会構造を持つ。私たちは、寛容性の異なる2集団で協力行動課題を実施し、その結果に違いが生じるかどうかを検討している。本発表では、勝山集団で行っている実験の結果を報告する。実験は2014年12月より開始し、屋外に設置した装置に自発的に集まってきた個体を対象としている。野外で実施できるようにHirata & Fuwa(2007)を参考に移動可能な装置を製作した。2014年3月までに実施した199試行のうち、2個体が同時にヒモを引き報酬であるサツマイモ片を得ることができたのはわずか2試行であった。ほとんどの試行では、複数の個体が同時に装置に近づくことができず、1個体のみがヒモを引っ張るため、ヒモが装置から抜け、課題が続行できなくなっていた。食べ物の優先権をめぐる順位関係が厳格なニホンザルでは、食べ物が設置してある装置を複数個体が操作することが難しいようだ。ニホンザルにおいて協力行動を成立させるためには、報酬である食べ物を共有できるような条件が必要になることが示された。
  • 香田 啓貴, John SHA, Ismon OSMANO, Sen NATHAN, 清野 悟, 松田 一希
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A24
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    霊長類を含む多くの哺乳類の音声生成には、音源を生み出す声帯に加え、共鳴特性を変化させる声道と呼ばれる呼気流が通過する空間が、重要な役割を果たしている。さらに、鼻腔も気流の通り道になりえるため、音の生成に影響を及ぼすことがある。たとえば、ヒトの鼻母音とよばれる「はなごえ」のような母音の生成では、鼻腔での反共鳴が作用し、ある特定の周波数帯を弱め音声全体の周波数特性を変化させる鼻音化と呼ばれる現象が音の特徴化に重要な役割を果たしていることが知られている。今回、我々は名前の通り鼻が肥大化した霊長類であるテングザルを対象に、肥大化した鼻の音声に与える影響について、予備的な解析を試みた。とくに、鼻の肥大化の状態と音響特徴との関連性について検討した。シンガポール動物園、ロッカウィ動物園、よこはま動物園ズーラシアで飼育されていたテングザルのオスを対象とし、音声を録音し音響分析を行った。分析では、十分に鼻が肥大化した成体オスと、肥大化が途上段階で十分に発達していない若オスとの間で比較を行った。分析の結果、ヒトの鼻母音と同様な鼻音化と呼ばれる周波数特性が明瞭に観測できた。また、鼻音化は鼻の肥大化の状態に関わらず若オスでも確認できたが、鼻の大きさの程度と関係性がありそうな音響特徴は今回の音響分析の解析項目の中には表れにくかった。今後、鼻の肥大化について形態学的な定量的計測や評価を行うとともに、さまざまな音響計測を組み合わせ、鼻の肥大化の状態と音響特徴の関係性についてはさらに精査する必要があると考えられた。
  • 西村 剛, 香田 啓貴, 徳田 功, 脇田 真清, 伊藤 毅
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A25
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    小型新世界ザル・マーモセット類は、フィーとよばれる、ホイッスル音のような音声を出す。ヒトを含む多くの陸生哺乳類の音声は、声帯振動で作られる音源により、声道空間が共鳴して作られる。ヒトは、声帯振動と声道共鳴との独立性が高く、それぞれの制御の自由度が高い。これを、音源-フィルター理論とよぶ。一方、一部の管楽器では、声帯振動が声道共鳴の影響を強く受けて、それぞれの自由度が低い。ヒト以外の霊長類の音声が、どちらのメカニズムで作られるのかについては、長く議論がある。その解明は、ヒトの話しことばの生理学的メカニズムの進化プロセスを明らかにするために必須である。その独立性を判定するために、ヘリウム音声実験がよく用いられる。ヘリウム環境(窒素をヘリウムに置き換えた大気条件)では、音速が速くなり、声道共鳴のみが変化する。音源-フィルター理論によれば、ヘリオックス環境では、音声のフォルマント(声道共鳴)が変化するが、ピッチ(声帯振動)は変化しない。本研究は、3個体のコモンマーモセットを対象にヘリウム音声実験を実施し、その音響学的特徴の分析に加えて、声道形状をもとにした音響シミュレーションを組み合わせて、フィーの生成メカニズムを明らかにした。ヘリウム条件下では、ピッチが、小さいながらも有意に上昇した個体があったが、フォルマントは、いずれの個体も大きく上昇した。この結果は、フィーは、ヒトと同様に音源・フィルター理論によって作られていることを示す。ビッチの小さな上昇は、弱い音源・フィルター結合によっており、その結合の程度は、喉頭腔形状に依存していることが示された。つまり、咽頭腔形状の個体差により、結合の程度が異なると示唆された。この成果は、真猿類における音声-フィルター理論の普遍性を示すとともに、種によっては咽頭腔形状に依存した弱い音源・フィルター結合が音声制御の自由度を制限する可能性を示唆した。
  • 井上 陽一, Waidi SINUN, 岡ノ谷 一夫
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A26
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    ボルネオ島北部にあるマレーシア・サバ州の保護区で野生ミューラーテナガザル(Hylobates muelleri)の子の音声発達を追跡調査した。ミューラーテナガザルの大人は雄と雌で異なった歌をうたう。その歌がどのように発達するのか、その過程で音声模倣はあるのかどうかという点に着目して調査した。その結果、観察した6個体全てで1歳から3歳までの時期に母の歌(グレートコール)に同調して甲高い声を出すのが観察された。そのなかの2個体は2歳時に父と母の歌に同調して歌い、その音声は同じではなかった。そのうち1個体(性不詳)は3歳時に父の歌に重ねて雄の歌をうたった。もう1個体(雄)は6歳時に父と鳴き交わして雄の歌をうたい、姉の歌に重ねてグレートコールをうたった。これらの事実からミューラーテナガザルの子(少なくとも雄)はまず母のグレートコールに同調し、次に父と母の両方の歌に同調し、さらに両性の歌を親や兄姉の歌に重ねてうたう時期を経て、それぞれの性に特異的な歌を成立させるという筋道が想定された。この結果はテナガザルの子が雌雄それぞれの音声に対応して異なった音を出すという点で幅広い音声をもつ可能性を示している。また音の同調が音声模倣であると断定はできないが、子(少なくとも雄)は両親や兄姉の歌に同調したり重ねて歌ったり鳴き交わしたりする過程を経て雌雄それぞれの歌を成立させるということが明らかになった。
  • 杉浦 秀樹
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A27
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    屋久島西部の海岸域には照葉樹林が大面積で残っており、ここを縦断する林道(通称、西部林道)周辺を中心に、1970年代よりニホンザルの長期継続調査がなされてきた。しかし、この地域の多くは、針葉樹の植林は少ないものの、薪炭林や樟脳用のクスノキ林として、人が利用してきた森である。そのため、二次林の要素が強い森だと言える。そこで、西部地域の林道から離れ、人為的な攪乱がほとんどないと思われる一時林で、ニホンザルの調査を行い、西部林道周辺と比較した。調査地は、「半山中標高域」(西部地域の北、標高約400-550m)と「瀬切川右岸中標高域」(西部地域の南、標高約450-600m)である。いずれも、イスノキが優先する暗い一次林である。ここにカメラトラップを各20台設置し、ニホンザルやニホンジカ等の動物を撮影した。「半山中標高域」で、ニホンザルの撮影頻度が最も低く、低地林の1/4~1/10程度の撮影頻度であった。しかし、「瀬切川右岸中標高域」は、低地の森と同程度の撮影頻度であった。一方、ニホンジカは、「半山中標高域」「瀬切川右岸中標高域」共に、低地林の1/4~1/10程度の撮影頻度だった。林床の草本への依存度が高いニホンジカでは、暗い一次林では密度が低下する可能性がある。これに対して、ニホンザルでは一次林の中でも、生息密度に変異がある可能性がある。その変異の原因は今のところ明かでないが、一次林でも高密度で生息できる可能性が考えられる。
  • 若森 参, マライヴィジットノン スチンダ, 濱田 穣
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B1
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    マカク属のサルでは尾長に変異性が高いことが知られている。種群内に見られるバリエーションは、それぞれの種の分布域緯度に相関し寒冷適応と考えられるほか、位置的行動と支持基体、あるいは社会的行動(専制的-平等的社会)などの要因が推測される。相対尾長が35~45%の同程度の中長尾を持つカニクイザル種群のアカゲザル(Macaca mulatta)、シシオザル種群のブタオザル(M. nemestrina/leonina)、トクマカク種群のアッサムモンキー(M. assamensis)の間で尾の比較を行った。我々は、尾長は尾椎数と最長尾椎長に依存し、ブタオザルとアッサムモンキーは、アカゲザルよりも短い尾椎を数多く持つことを明かにした。この違いが行動面でどのように見られるか、自由遊動群で尾の運動観察を行った。今回は、アッサムモンキーの観察結果について発表を行う。アッサムモンキーは、大陸部アジアの中緯度域の常緑広葉樹林に分布し、キタブタオザルとの共存域では、急傾斜山林や岩崖地に生息する、比較的、平等主義的社会を持つ。フォーカルアニマルサンプリング法で、尾の保持姿勢(脊柱に対して水平、垂直、背方屈曲、下方)と運動の位置的行動(座る、立つ、歩く、走る、寝そべる、跳躍、登る、降る)と社会的行動の組み合わせで記録した。また、ビデオによる尾の運動観察も行った。アッサムモンキーは、尾の最大拳上時の角度が垂直と背方屈曲の中間で、これは近位尾椎の形状から予想された。アカゲザルとキタブタオザルで見られた社会的上位の個体が尾を上げて優位性を示すという行動は、見られなかった。逆にアッサムモンキーの劣位の個体が餌場への接近などで上位個体に近接する等の社会的場面において尾を垂直に上げる様子が見られた。またアカゲザルとキタブタオザルではほとんど観察されない尾を左右に振る行動が見られた。これは単独で枝に座り振り子のように尾を振る場面と、劣位の個体が上位の個体に接近する際に尾を脊柱に対して垂直に挙げ振る場面が見られた。
  • 姉帯 飛高, 時田 幸之輔, 小島 龍平
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B2
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    ニホンザル20側中2側,カニクイザル2側中1側の骨盤内動脈系において動脈輪形成例に遭遇した.いずれも大動脈から続く正中仙骨動脈(SM)と,体壁に分布する大動脈由来の枝,いわゆる壁側枝の総腸骨動脈分枝との間に交通が存在し,動脈輪を形成していた.各動脈の分岐,走行,交通関係を観察し,形態学的意義を考察した.
  • 東島 沙弥佳
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B3
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    霊長類における尾は,環境への適応や系統を反映する重要な形態のひとつである。特に我々ヒトを含む一部の狭鼻猿類では尾が極端に短縮・喪失しており,その進化過程解明は霊長類学積年の課題であった。本研究では、この課題解明にむけ、形態学と発生生物学という全く異なるアプローチを用いて挑んでいる。まず形態学的アプローチとして、現生種における尾長と尾部骨格形態との相関を調べた。尾長と強く相関すると考えられる尾椎数、特に化石等断片的資料でも残存している可能性の高い近位尾椎数に着目し、尾長の異なる旧世界ザル間での変異の有無を検証した。その結果、大きな尾長変異を包含するヒヒ族では、尾長と近位尾椎数とに強い正の相関関係が認められた。次に、そうした形態変異が生み出されるメカニズムを解明するため、胚への実験的操作が容易な短尾恒温脊椎動物であるニワトリ(Gallus gallus)をモデルとし、尾部形態形成過程の解明に取り組んだ。椎骨数ならびに椎骨の原基である体節に着目し、正常胚発生過程における数の推移を計測したところ、孵卵5日目胚と6日目胚の間で体節/椎骨数の減少が見られた。また、体軸形成に関与する遺伝子の一つであるHoxb13が尾部特異的に発現すること、その発現パターンも孵卵5日目と6日目を境に変化することも明らかとなった。どのような形態変異も、発生過程の変化から創出され、発生過程の変化は、ゲノムの変化により生み出されるものである。形態学と発生生物学という全く異なるアプローチを組み合わせた本研究のような取組は、日進月歩のゲノム情報と組み合わせる事により、従来の単独型アプローチでは困難だった、より確からしい霊長類の進化過程解明に非常に有用なものとなると確信している。
  • 緑川 沙織, 時田 幸之輔, 小島 龍平, 影山 幾男, 相澤 幸夫, 熊木 克治
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B4
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    腕神経叢における内側上腕皮神経(Cbm)は,C8,Th1で構成される内側神経束の背側より分岐し上腕後面に分布する皮枝で,肋間神経外側皮枝(Rcl)と吻合し肋間上腕神経(Icb)をつくる特徴がある.Cbmは,ヒトを含む一部の類人猿にのみ存在するとされている(相山,1968).本研究の目的は,比較解剖学的手法を用いてCbmの成因およびその形態的意義を明らかにすることである.霊長類間の系統差および運動様式の違いに伴う筋骨格形態の相違に着目し,Cbmは(1)系統による影響を受ける(2)腕渡りを行う霊長類に存在する,という二つの仮説を立てた.そこで,腕渡り移動の狭鼻下目ヒト上科(ヒト,チンパンジー),四足歩行の狭鼻下目オナガザル科(カニクイザル,ニホンザル),腕渡り移動の広鼻下目クモザル科(クモザル)を対象とし,腕神経叢について肉眼解剖学的に調査を行った.
  • 松平 一成, 石田 貴文, Suchinda MALAIVIJITNOND, Ulrich H. REICHARD
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B5
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    霊長類においても、血縁淘汰が働いていることは、様々な観察から示唆されてきた。特に分子生態学の発展により、生まれたグループから分散した後も血縁関係に基づいた社会関係が維持されている例が多数報告され、グループをまたいだ血縁淘汰の重要性が注目されている。テナガザルは、グループ間交渉(グループエンカウンター、歌)が日常生活の重要な部分を占めている点で、グループをまたいだ血縁淘汰を評価するのに適した生き物である。しかし、オスもメスも成熟すると生まれたグループから出ていくこと以外、分散の詳細はよくわかっていなかった。本研究では、タイのカオヤイ国立公園に生息するシロテテナガザル17グループを対象に、血縁ネットワークの有無と分散様式について調査を行った。具体的には、遺伝マーカーに基づく3つの指標(mtDNAまたはY染色体のハプロタイプ共有パターン、血縁度)とグループ間距離の相関についてMantel検定を行った。その結果、オトナのオスでは隣接するグループにいる個体ほど、高い血縁度を持ち、かつY染色体ハプロタイプを共有していた。一方、オトナのメスでは、血縁度、mtDNAハプロタイプの共有パターンのどちらについても、有意な相関関係は検出されなかった。これにより、オスは隣接するグループに分散する傾向がある一方、メスの分散はランダムであり、オス間に血縁ネットワークが存在することが明らかとなった。直接的なグループ間交渉であるグループエンカウンターにおいて、オスが主要な参加者であることから、隣接グループのオスと血縁関係にあることは、配偶者防衛・テリトリー防衛の両面において、防衛コストを軽減でき、有利であると考えられる。また、分散前のオスもエンカウンターに参加し、隣接グループのオスの状態を常に偵察可能なことから、隣接グループの同性個体と入れ替わる機会をより感知しやすく、そのことも分散を後押ししていると考えられる。
  • 齊藤 真理恵, 石田 貴文
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B6
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    解毒代謝酵素グルタチオン-s-トランスフェラーゼ1(GSTM1)の遺伝子の全長欠失多型はさまざまな人類集団においてみられる。この遺伝子欠失は,GSTM1遺伝子の両隣にある極めて類似した配列(スキップ配列)が染色体の組み換えを引き起こすことによって生じると考えられている。我々は公開データベースによる霊長類ゲノムデータを比較することにより,チンパンジーのGSTM1遺伝子の両隣にもスキップ配列が存在することを昨年報告した。今回,我々はチンパンジー18頭を対象とし,GSTM1遺伝子のタイピングおよび配列解析をおこなった。タイピングの結果,18頭のうちGSTM1野生型ホモが9頭,ヘテロが7頭,欠失型ホモが2頭であり,ヒト同様,チンパンジーでもGSTM1遺伝子欠失多型が見られることが分かった。さらに,ヒトとチンパンジーのGSTM1遺伝子欠失アリルが,同祖的なものか独立なものかを調べるため,ヘテロ接合であった7頭において,ダイレクトシーケンシング法を用い,GSTM1欠失型アリル上にある,組み換え部位の配列を決定した。このようにして解読したチンパンジーの組み換え部位配列と,同様に解読したヒトの組み換え部位配列,さらにRefseqより得られた,野生型のチンパンジーおよびヒトがもつ,それぞれのGSTM1遺伝子の両隣にあるスキップ配列(およそ12800塩基)を比較した。近隣結合法によって分子系統樹を構築した結果,チンパンジー7個体の融合スキップ配列は,ヒトの融合スキップ配列とではなく,チンパンジーの5’側スキップ配列とクラスターを形成した。このことから,チンパンジーのGSTM1欠失型アリルはヒトのGSTM1欠失型アリルとは独立に,種分化より後に生じたと考えられる。
  • 鈴木-橋戸 南美, 早川 卓志, 松井 淳, 郷 康広, 平井 啓久, 颯田 葉子, 今井 啓雄
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B7
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    苦味感覚は採食品目に含まれる生理活性物質や毒性物質を検知する役割をもつ。そのため、苦味感覚を担う苦味受容体遺伝子群(TAS2R)は採食環境や代謝能力に応じた変化をしてきた。我々は、野生動物におけるTAS2Rの適応的な変化を明らかにするために多型解析を行った。これまでの研究で、ニホンザルにおいてTAS2R38の開始コドンに変異をもつアリルを同定し、この変異は苦味感受性を低下させていることを明らかにした(Suzuki et al 2010)。このアリルは紀伊地方の集団のみに存在し、その集団では3割の遺伝子頻度を示した。このアリルの拡散が適応によるものか、偶然によるものかを明らかにすることを本研究の目的とした。まず、感受性変異アリルの由来を明らかにするために、TAS2R38遺伝子周辺領域10kbpの配列解析を行った。その結果、紀伊集団中に存在した感受性変異アリル23本はすべて同じ配列であった。次に、紀伊集団の遺伝的特性を把握するために、紀伊集団および近隣7集団の非コード領域9座位の配列解析を行った。その結果、紀伊集団の遺伝的多様性は他の集団と大差なく、移出入も頻繁に起こっていた。非コード領域で求めた集団間移動率を用いて、感受性変異アリルが3割の頻度まで増える間に他の集団に流出しないという事象が、変異が中立である場合に起こりうるかをシミュレーションにより検証したところ、このようなケースは観察されなかった。以上の結果から、この感受性変異アリルは紀伊集団において正の自然選択の影響を受けて短期間に急速に集団に拡がったと結論付けた。本研究で、ニホンザルの紀伊集団においてTAS2R38の適応的な変化が起きたことを明らかにした。TAS2R38はアブラナ科や柑橘類の植物に含まれる苦味物質を受容する。本遺伝子の変化によりこれらの植物の苦味を感じにくくなることがニホンザルの環境適応を醸成し、このアリルが紀伊集団に急速に拡がる要因になったと推察された。
  • 西 栄美子, 筒井 圭, 今井 啓雄
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B8
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトをはじめ多くの生物にとって、味は食物を体内に取り込む前に得られる重要な情報である。生物はそれぞれの食性に合わせて味覚受容体の機能を変化させることで多様な味覚を獲得してきたと考えられることから、食物・味感受性・味覚受容体は互いに強い関連性を持っている可能性が示唆される。中でも甘味は食物中の代謝可能な炭水化物の含有を意味することから多くの生物で好む傾向があり、霊長類でも様々な種で行動実験により甘味感受性の測定が行われてきた。一方で、ヒト以外の霊長類について甘味受容体の機能測定や、食性と甘味感受性の関連性についてはほとんど解明されていない。本研究では特に食性の知見は多いものの甘味感受性や甘味受容体機能についてほとんど研究が行われていないニホンザルに焦点をあて、「霊長類における食物・甘味感受性・甘味受容体機能の関連性解明」を目的として、甘味感受性や受容体機能の測定を行った。二瓶法を用いた行動実験により、ニホンザル6頭を対象に人工甘味料であるスクラロースをコントロールとし、スクラロースとスクロースの甘味感受性の測定を行った。さらにヒト20人に対し官能評価による甘味感受性の測定を行った。ヒトとニホンザルの甘味感受性と比較したところ、ヒトではスクラロースと同様にスクロースを甘く感じるには170倍以上の濃度が必要であるのに対し、ニホンザルでは約80倍程度の濃度で同程度に甘く感じることが分かった。また、ニホンザルの方がヒトに比べスクロース溶液から甘味を検出できる閾値が低い、すなわち甘味感受性が高い可能性が示唆された。これらの結果に甘味受容体の機能が関与している可能性が考えられるため、現在培養細胞に甘味受容体Tas1R2/Tas1R3を強制発現させ、特にスクロースが結合するのに重要なTas1R2に注目した細胞応答測定を行うことにより、個体レベルの甘味感受性の違いに甘味受容体がどのように寄与するのか検討を行っている。
  • 時田 幸之輔
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B9
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    脊髄神経後枝の分布領域である背部は本質的に最初に形成された体幹の最も古い部分であるとされており,種や部位による分化の違いが少なく,一様な分節的構成を持つとされている(山田).しかし,ヒト脊髄神経後枝内側枝を詳細に観察した結果,胸神経後枝内側枝と腰神経後枝内側枝では走行経路が異なることを明らかにした(2013).このような腰神経後枝内側枝の特異化は,直立姿勢というヒト特有の姿勢に伴う腰椎前弯に関連した形態ではないかと推察した.この議論には四足動物における脊髄神経後枝の形態との比較観察が不可欠であるが,四足動物脊髄神経後枝の詳細な観察は行われていない.そこで,ニホンザル液浸標本とブタ胎仔標本を対象として,胸・腰神経後枝の起始,経路,分布を固有背筋との位置関係に注意して詳細に観察を行い,ヒト脊髄神経後枝の形態との比較を行った.ニホンザルにおいても,後枝内側枝の形態は大きく2つに分類できた.(1)内側皮枝を持つもの(Th1-Th7),(2)内側皮枝を持たないもの.さらに(2)については,a:筋構成が胸部の様式であるもの(Th8-Th9),b:胸腰部移行領域(Th10-Th11),c:筋構成が腰部の様式であるもの(Th12以下)の3つに細分化できた.(1):皮枝・筋枝共に横突棘筋群の第1層(半棘筋)と第2層(多裂筋)の間を走行する.(2)-a:Th8より皮神経が消失.(1)と同じく半棘筋と多裂筋の間を走行.(2)-b:横突棘筋群の第2層(多裂筋)とさらに深層の回旋筋の間を走行.(2)-c:回旋筋の深層を走行.ブタ胎仔標本においては,胸・腰神経ともに第1層(半棘筋)と第2層(多裂筋)の間を走行していた.以上より,腰神経後枝内側枝の特異化はヒト固有の特徴ではなく,ニホンザルにも共通する特徴であるとことが示唆される.本研究は,京都大学霊長類研究所共同利用研究として実施された.
  • 國松 豊, ハンタ ラタナポン, 仲谷 英夫, 三枝 春生, 田中 里志, ドゥアンクラヨム チャルーン, チンタサクン プラトゥーン
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B10
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    現在、東南アジアには大型類人猿のオランウータンが棲息しているが、その進化史については、いまだによくわかっていない。従来、インド・パキスタン地域でSivapithecusが約1300万~800万年前の地層から発見されてきた。Sivapithecusの頭骨や歯牙の形態はオランウータンと多くの類似性を示すが、体肢骨においては現生類人猿的な特徴が少なく疑問も残る。中国雲南省からは後期中新世のLufengpithecusが報告されているが、頭骨の形態はSivapithecusよりもさらに原始的であってオランウータンとの関係はよく分かっていない。
  • 古賀 章彦, 平井 啓久
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B11
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
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    網膜で光を関知する視細胞は、錐体(cone)と桿体(rod)の2種類からなる。棹体細胞は、微弱な光の刺激をを受容する役割を担う。光は、通路に関して棹体細胞の最奥部で受容され、その前に細胞の核の部分を通過する。夜行性の哺乳類では、核の中央部にヘテロクロマチンが凝集し、これが光を集める凸レンズの機能を果たすことが、以前から知られている。昼行性から夜行性から移行したと考えられるヨザルも、棹体細胞にヘテロクロマチンの凝集が観察される。我々は、ヨザルのゲノムに、他の新世界ザルにはない特有のヘテロクロマチンが大量に存在することを見出した。このヘテロクロマチンをOwlRepと名付けた。OwlRepが生じた時期は不明であるが、ヨザルが新世界ザルの他の系統から分岐した後に急速に増幅したことは、明白である。このOwlRepが視細胞でのヘテロクロマチンの凝集の主体となっていると仮定すると、夜行性への急速な適応がゲノムの構成の急速な変化でもたらされたとの説明がつく。この可能性をさぐるために、ヨザルの棹体細胞の核でのOwlRepの所在を調べた。OwlRepをプローブとしたハイブリダイゼーションである。結果は、OwlRepが核の中央部に集まっていることを示した。この結果は、OwlRepが視細胞でのヘテロクロマチンの凝集の主体となっているとの仮定に合致する。ただし、ヨザルのゲノムには、セントロメア反復配列であるアルファサテライトDNAも大量に存在し、こちらが凝集の主体である可能性を排除するには至っていない。とはいえ比較のために調べた昼行性のマーモセットとタマリンでは、アルファサテライトDNAは凝集していない。以上の結果を合わせて考えると、OwlRepが業種の主体である可能性は大きいといえる。
  • 川本 芳, 白井 啓, 直井 洋司, 萩原 光, 白鳥 大祐, 川本 咲江, 濱田 穣, 川村 輝, 杉浦 義文, 丸橋 珠樹, 羽山 伸一
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B12
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
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    【背景】千葉県では、房総半島先端で野生化し拡大するアカゲザルおよびそのニホンザルとの交雑個体群が在来のニホンザル個体群と交雑することが危惧されてきた。千葉県が2013年度に実施した調査では、鋸南町の群れで多数の若齢交雑個体が確認された。国は2014年6月に外来生物法を改正し、政令によりニホンザルと外来マカクの交雑個体を排除すべき特定外来生物に指定した。こうした背景から、房総半島におけるニホンザルの交雑状況を把握し、排除に向けた対策を講じることはニホンザルの保全、生物多様性を保護するために喫緊の課題である。千葉県の事業に加え、環境省も2013年度から房総半島の交雑状況調査に着手している。【方法】本研究では、交雑の進行状況を把握するため、新たな遺伝子ツールを開発し、未調査のニホンザル個体群で交雑状況を検査した。対象群は、君津市、富津市、勝浦市に生息する6地域個体群で、2015年3月末時点までに84個体を検査した。捕獲個体から血液を採取し、以前から分析している種判別に有効な血液タンパク質、ミトコンドリアDNA、Y染色体DNAとともに、常染色体のSTR(マイクロサテライトDNA)についても種判別標識として有効なものがあるかを検討した。【結果・考察】この研究により、交雑判定で2種類のSTR標識の有効性が確認でき、これらを加えて各個体群の交雑度を推定したところ、6個体群中4つが外来種由来の遺伝子をもつことが判明した。いずれも外来種由来の遺伝子の割合は低く(遺伝子カウント法による個体群交雑度の推定値で4.5~8.3%)、若齢個体以外でも低い程度に交雑したサルが認められた。これらの結果は、広い地域に外来遺伝子の浸透が進み、形態特徴からの交雑判定が難しくなると予想される交雑程度の低い個体が増えていることを示唆する。
  • 長田 直樹, Nilmini HETTIARACHCHI, Isaac Adeyemi BABARINDE, 斎藤 成也, Antoine ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B13
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
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    カニクイザル(Macaca fascicularis)は東南アジアに広く分布するサルであるが,インド洋に浮かぶモーリシャス島にも16世紀ごろ船乗りたちによって導入されたといわれている.これまでの遺伝学的研究により,モーリシャス島のカニクイザルの遺伝的多様性はおそらく起源となったジャワ島産のものよりも少ないことが知られていたが,ゲノムレベルでの解析は行われていなかった.モーリシャス島に持ち込まれたカニクイザル個体は恐らく非常に少数であったために,この例は,極端なボトルネックがゲノムの遺伝的多様性にどのような影響を与えるかについての興味深いケースとなりうる.われわれは,Illumina社HiSeqを用いて6個体のモーリシャス産カクニイザルのゲノム配列を一個体あたりおよそ20倍の被覆率で決定した.その結果,モーリシャス産カニクイザルの遺伝的多様性は,母集団に近いマレーシア産カニクイザルよりもおよそ2割程度低くなっていた.特に,低頻度の一塩基多型(SNP)が極端に減っており,少数の個体が島に持ち込まれたという事実に一致した.また,タンパク質をコードする遺伝子での同義変異と非同義変異の頻度分布パターンについて,サイズが一定の集団およびサイズが増加した集団で予想されるものとは異なったパターンが観察された.これらのパターンは,モーリシャス集団中での変異の頻度が淘汰よりも遺伝的浮動による強い影響を受けたことを示している.最後に,われわれは集団中の多型頻度スペクトラムを用いて,初期導入個体数の推定を行った.推定モデルによって幅は出るものの,最もシンプルなモデルではおよそ20個体程度と予想され,これまでの推定結果と大きく矛盾はしなかった.
  • 今村 公紀, Zachary Yu-Ching Lin, 平野 孝昌, 芝田 晋介, 關 菜央美, 北島 龍之介, 後原 綾子, 塩見 美喜 ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B14
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
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    哺乳動物の分子発生生物学といえばマウスを対象とした研究が主流となってきましたが、霊長類と齧歯類では発生・発育様式に多くの違いが認められます。とりわけ、生殖細胞の生後の発生・分化について考える場合、霊長類の精原細胞(精子幹細胞を含む未分化な細胞)はマウスとは異なるカテゴリー(Adark/Apale)に分けられる、霊長類では新生児と成体の間に長期にわたる性的未成熟な期間(幼若期)が存在するなど、マウスの研究結果を単純に外挿することは困難です。その一方で、マウスのように簡便に試料を得ることができないなどの理由から、霊長類生殖細胞の発生動態とその分子基盤は未だ多くの謎に包まれています。こうした背景を踏まえ、本研究では霊長類モデルとして小型の新世界ザルであるコモンマーモセットを対象に、新生児(生後1日齢)、幼若児(生後10ヶ月齢)、成体(2~10歳)の雄の生殖細胞の発生・分化における遺伝子発現動態を解析しました。その結果、(1)精原細胞は、非分裂性のSALL4+PLZF+LIN28+DPPA4+DAZL+細胞と分裂性のC-KIT+Ki67+DAZL+細胞の2つの集団に大別されること、(2)精子形成の分化段階特異的な遺伝子とそれらの発現動態、(3)性成熟前の幼若期にのみ精細管内腔に偏在する生殖細胞は、減数分裂様のプロセスを経てアポトーシスにより除去されること、が明らかとなりました。これらの成果は、霊長類生殖細胞の発生・分化研究に必要不可欠なプラットフォーム(遺伝子発現アトラス)を提供するとともに、霊長類生殖幹細胞の樹立・培養やiPS細胞の生殖細胞分化誘導などに取り組む上での指標になると考えられます。
  • 郷 康広, Qian LI, Liu HE, 大石 高生, 鵜殿 俊史, 重信 秀治, 柿田 明美, 那波 宏之, Philipp Khai ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B15
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    高速シーケンサーの技術革新により、「ヒトとは何か?ヒトはどこから来たのか?」という命題に対してゲノム生物学からのアプローチが可能になりつつある。この命題に取り組む方法のひとつとして、ゲノム科学と脳科学の融合領域である認知ゲノム科学的アプローチがある。認知ゲノム科学は、ゲノムを構成要素とするトランスクリプトーム、メチローム、メタボローム、プロテオームがいかに脳神経系の構造や機能と結びつくかを解き明かすことを目標とする。また、個体としてのヒトがそうであるのと同様に、ヒトの脳神経系も進化の産物である以上、その動作原理は進化的な制約下にあり、よって、進化的な視点で上記の命題に取り組むことが極めて重要になってくる。本研究では、ヒトと類人猿(合計14個体)の死後脳の8領域における比較トランスクリプトーム解析を行い、霊長類の進化の過程で獲得されたヒト時空間的遺伝子発現の特殊性に関する考察を行った。
  • 平井 啓久, 平井 百合子
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B16
    発行日: 2015/06/20
    公開日: 2016/02/02
    会議録・要旨集 フリー
    新世界ザル類は高等霊長類のなかで代表的な単系統群で、いろいろな項目において多様的である。これは適応放散の結果と考えられる。分類学的には3科16属120種と認識されている。しかし、系統関係は論争的な面も多い。特にヨザル属の系統的位置は議論の対象となっている。系統解析には遺伝的マーカーが最も有効である。メンデル遺伝するマーカーとして染色体も系統関係を解析するための一翼を担っている。新世界ザルの染色体数はティティの2n=16からウーリーモンキーの2n=62と変化に富んでいる。最近では、染色体の構造的変化を追跡する方法として、各染色体を染め分ける彩色法が有用である。我々は現生の種において染色体数の少ない種を基盤にして解析を進めてきた。今回は染色体数2n = 34をを持つクモザル(Atelidae科Ateles属)を基盤マーカーとして、Cebidae科の5属(Callithrix, Saguinus, Cebus, Saimiri, Aotus)の解析をおこなった。
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