エネルギースペクトルは一様等方乱流だけでなく非一様乱流のエネルギー輸送を表すのに有用と考えられる.そこでエネルギースペクトルの代わりに物理空間での二点速度相関にフィルター関数を用いて,新しいスケール空間エネルギー密度を提案した.従来のエネルギー密度と異なり,この表式は非負となることが示せる.このエネルギー密度の輸送方程式を導き,チャネル乱流の直接数値計算のデータを用いて物理空間とスケール空間でのエネルギー輸送を評価した.大スケールから小スケールへの乱流エネルギーのカスケードが示された.
経路積分法を用いて平均場ダイナモ方程式が考察される.磁場の発展は三次元Wiener ランダム過程として取り扱われ,流体粒子の軌跡の全てにわたってのWiener 積分を実行することで平均磁場の方程式が導かれる.方程式の形式は従来の平均場方程式と同じである.しかし,この方程式は磁場による力を受けた速度場について導かれたものである.その意味で,非線型ダイナモの平均場方程式と言える.
乱流モデルによる乱流の数値予測をする場合,グリッド乱流はそのための最も基本的な流れ場となる.しかしながら,温度成層を伴うグリッド乱流の実験とそれらによる信頼できるデータの提供は必ずしも多くないように思われる.それゆえ,温度場を考慮した乱流モデルの検証をグリッド乱流で行う際,十分注意が必要である.本研究では,温度ゆらぎの散逸率のモデルについて考察し,その結果を示した.
回転を伴った乱流では回転軸方向へ急速に運動エネルギーが輸送される現象が知られている.先行研究では急速なエネルギー輸送は流体のヘリシティと密接に関係していることが指摘されている.本研究ではこのような回転軸方向へのエネルギー輸送とヘリシティの関係について乱流統計量を用いて考察する.このときエネルギーフラックスにおいて圧力のうち,回転角速度を含む部分が主要な役割を果たすことが理論的に示される.そのことを数値計算を用いて確認し,回転軸方向のエネルギーフラックスの評価方法について議論する.
本報では,琵琶湖周辺の気温,全天日射量の将来予測に基づく40 種類の気象シナリオ,および2 種類の風速条件を与えて,琵琶湖の流れ場,密度場の数値シミュレーションを実施し,全循環が停止する気象条件について検討を行った.その結果,前年の冬季に比べて,当該年の冬季の高い全天日射量,および当該年の低い風速によって,全循環が停止する可能性が示された.今後は,気温と全天日射量に加えて,風速をはじめとした他の気象パラメータについても将来の気象シナリオを作成し,琵琶湖の全循環停止リスクをより詳細に調べる必要がある.
熱流体システムの正味のエネルギー効率向上のため,乱流熱対流場における熱交換器の性能向上が求められている.随伴解析に基づく形状最適化理論により,対流熱伝達を考慮した伝熱面形状最適化が達成されてきた.非定常性の強い乱流場における形状最適化では,非定常随伴解析に用いる運動量輸送への線形化が不適切となるため,乱流モデルによる定常RANS 方程式をベースとした定常随伴解析を用いるのが主流である.しかし乱流モデルはその精度に議論があり,得られる最適形状が実際の性能向上を保証しない.そこで,DNS やLES などの高精度非定常数値シミュレーションを実施し,得られた乱流統計場から評価された高精度乱流モデルを随伴解析に用いる新しい手法を提案する.
壁乱流中においてスカラー源を配置し,その強度が正弦波に従って時間的に変化する場合を考える.本研究の目的は,スカラー源位置は予め与えられているものとし,その下流におけるある主流断面内を移動する濃度センサにより得られる情報に基づき,スカラー源の強度の時間変化を推定することである.より推定精度の高いセンサの移動経路を求めるために,随伴解析に基づく最適化を行った.その結果,センサ経路を最適化することにより,正解の正弦波状のスカラー源強度をより精度良く推定できることが分かり,本最適化手法の有効性が示された.本研究で提案した手法は,複数の移動センサへも容易に応用できる.
これまでのほとんどのLES 壁面モデルでは,瞬時場が何らかの統計平均則に従うという仮定を課しているが,我々は予備的検討により,簡易形状周りの流れ場においても必ずしもその仮定が成り立つわけではないという結果を得ている.そこで我々は,乱流渦構造に対する非定常なフィードバック力に着目した,統計平均則を使用しないLES 壁面モデルを開発することとした.本研究では,第一報として,格子解像度が乱流渦構造の挙動や運動量輸送過程に与える影響について報告する.
乱流の高精度予測および自動メッシュ作成を特長とする格子ボルツマン法(Lattice Boltzmann Method,LBM)ベースの流体解析システムFrontFlowX(FFX)を開発している.FFX のプロトタイプに対し,計算精度,計算性能およびメッシュ作成機能に関するベンチマークテストを実施した.計算精度に関しては,Cavity 流れおよび一様等方性乱流に関するベンチマークテストを実施した.計算性能に関しては京のほぼフルノードを用いた2.2 兆グリッド規模のメッシュを用いたweak-scale ベンチマークテストを実施した.最後に,複雑形状に対するメッシュ作成ソフトの性能を評価するためイルカモデルまわり流れを500 億グリッド規模のメッシュデータで解析した.
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