ソシオロジ
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60 巻, 1 号
通巻 183
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
論文
  • ――米国西海岸シリコンバレーの専門職の転職行動から――
    藤本 昌代
    2015 年 60 巻 1 号 p. 3-21
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究は組織への忠誠心と転職経験の関係を検討するために、高流動性社会の専門職を対象に調査を行ったものである。分析の結果、以下の三つの発見がなされた。(1)社会的属性を問わず、多くの人々が二回以上の転職を経験していた。三年~五年の就業者が多く、転職の際には職業、産業の継続性が重視されていた。また能動的転職だけでなく、解雇・倒産による転職も三分の一程度の人々が経験していた。(2)転職が多い環境下にあっても人々の組織への忠誠心は高かった。したがって、短期的に組織に関わる人々でも忠誠心を抱くことが明らかになった。(3)組織への忠誠心と転職経験の関係は、転職経験が多い者の方が少ない者より高い忠誠心を持っていることが示された。さらに専門職に興味深い仕事が付与されない場合、転職経験と世代で交互作用が見られた。興味深い仕事が付与されない場合、転職経験の多い者の方が少ない者より高い忠誠心をもっており、また、若年層は中高年層より高い忠誠心をもっていた。生き残りが困難な高流動性社会で雇用されるということは、当該社会で必要な人間であると評価された証拠として自尊感情を高める。この高い忠誠心は、組織から選ばれたという社会的承認の付与に対する組織への互酬性による事象と考えられるのである。

  • ――延辺の中国朝鮮族を事例に――
    許 燕華
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 60 巻 1 号 p. 23-41
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    本論は、移民送出後のホームランド研究の一つとして、国境を越えた大量かつ長期的な移動を経験している中国朝鮮族農村社会に注目するものである。 従来のホームランド研究と朝鮮族研究で見逃されてきた、ホームランドである農村社会が維持されているメカニズムを考察する。そのために、三つの問いを立て、独自のデータに基づいて農地・自治組織・個人関係に焦点をあてることで、移民送出後の農村社会の変容をミクロなレベルで実証的に解明する。流出した朝鮮族の農地を他地域から流入した漢族が耕作することになったのは二〇〇〇年以降からであるが、しかしこれは単純な入れ替えではなく、協同秩序を構築することで、村の農地と社会が保持されている。従来の行政組織、社会組織もそれが維持できなくなっている現実を、漢族を取り入れることで再編しようとしている。個人的関係においては、耕作をめぐる交流をきっかけに、互酬性を意識するコミュニケーションが根付きつつあり、交流が頻繁なところでは文化的習慣の融合を通じてライフスタイルまで変化させている。 また、それぞれの村民小組における朝鮮族と漢族間の共同性にはバリエーションがみえており、農村社会の運営と農地の管理などの領域において、それぞれに状況を参照しながら独自の道をつくりだしてきた。 本論は、こうした朝鮮族農村の生き残りを明らかにすることを通して、国境を越えて激しく人が移動するグローバル化社会における生活安定化の方策に関する試みについての議論に寄与することができるだろう。

  • ――コンジョイント分析による推計――
    塚常 健太
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 60 巻 1 号 p. 43-61
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    近年、個性的な名前をめぐる論争が生じている。本稿では計量的手法を用いて、論争の背後にある名前のソーシャル・ テイストを明らかにする。S. Liebersonのソーシャル・テイスト概念を理論的枠組みに据えるとともに、方法論としてはJ. K. Skipperの他者による主観的階級判断の研究を発展させ、コンジョイント分析(ランクロジットモデル)を適用する。 まず調査対象者に複数の名前を提示し、その名前の当事者の社会階層を主観的に判断し、順位づけてもらった。この 順位をデータとして分析した結果、名前以外の情報がなくとも他者は階層を判断するというSkipperの知見が支持さ れた。ソーシャル・テイストとして想定した要因、すなわち名前の特徴︵流行時期・難読性・性別推測困難性︶の全てが階層の判断に影響を及ぼしており、特に流行時期が最も大きな影響を持っていた。また、各要因内の水準の影響力を比較すると、既存の命名規範から外れたものより従っているものが高く判断されるが、従っている中では一工夫あるものが最も高く判断されていた。さらにサンプルを分割して分析した結果、調査対象者の社会的属性、文化資本、内面化する共同体規範によっても判断のあり方は異なっていた。 分析結果を踏まえると、ソーシャル・テイストは既存の規範への同化と、文化資本的な差異化という方向性が同時に希求される対象であるといえる。また、名前をめぐる論争は、自身の所属集団のテイストの許容範囲を超えた名前や、異なるテイストを持つ人間と出会った時に生じるものと考えられる。

  • ――留学をめぐる「グローバリゼーションの逆説」――
    藤田 智博
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 60 巻 1 号 p. 63-79
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    本稿は、若年層の内向き志向の進行を、グローバリゼーションの逆説という観点から説明する。グローバリゼーションは、国家間の相互依存を増大させることによって、異文化への関心を高めることが予測される。しかし、自国と外国との象徴的な距離を縮減することによって、外国に対する価値を低下させるといった逆説的な作用も考えられる。 先行研究によれば、留学への志向は、性別、出身階層、経済的な地位、社会的ネットワークといった個人の属性や出生環境によって説明されており、グローバリゼーションのような時代の変化にかかわる変数の効果は十分に検証されてこなかった。それゆえ、内向き志向の進行といった変化をうまく記述することができない。また、先行研究では、留学をそれほど真剣に考えていない層との比較もなされてこなかった。本稿では、留学を真剣に考えていない層も含む、複数時点の調査データを用い、時点・時代の効果として、留学への志向に対するグローバリゼーションの影響の検証を試みた。 その結果、先行研究で指摘されていた個人の属性にかかわる要因の影響が統計的に改めて確認されると共に、留学希望に対しては、時点・時代の負の効果が有意であり、グローバリゼーションと関連して、留学希望の低下がもたらされることが明らかになった。グローバリゼーションの進行が若年層を内向きにするというのは、逆説的ではあるが、グローバリゼーションが国内と国外との間にある象徴的な距離を縮減することで、国内と国外の価値に平準化が生じている可能性が示唆された。

  • ――「医療化」の観点からの検討――
    本郷 正武
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 60 巻 1 号 p. 81-99
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    本稿は血液凝固因子が先天的に欠乏している遺伝性疾患である血友病の「補充療法」の進展を事例に、血友病患者と医師の関係性の変質を「医療化」概念から考察する。 欠乏している血液凝固因子を補充する方法は、医学知識・医療技術の発展が一九六〇年代にはじまり一九七〇年代末の非加熱濃縮製剤の登場を大きな画期とする。非加熱濃縮製剤の登場、特に「自己注射︵家庭療法︶」の認可は、患者にとっては止血効果や内出血による「痛み」から解放するものであった。医師にとっては、内出血して腫れ上がった箇所を冷やすだけの「無力さを感じる疾病」から、手術ができるようになるなど「自分の能力の範囲内の疾病」へと変容したことを意味した。一方で、非加熱濃縮製剤の原料はヒト由来の血漿であったことから、製剤の需要増大に伴い国内血漿の不足を招き、血漿の輸入に頼らざるを得なくなった結果、HIVや肝炎などの重複感染を引き起こす結果となった。 医療化概念を「感受概念」として捉えて本事例を検討すると、非加熱濃縮製剤の登場は医療化の進行が意味する専門職支配の強化というよりも、血友病患者の生/生活への医師の介入が強まるという点が照らし出される。すなわち、血友病患者の生活に介入・管理する「教育者」としての医師像が立ち現れたとみるべきではないか。このような従来の医療化論から捉えきれない点は、生物医療化概念への目配りや、「相互作用レベルでの医療化」をインタビューデータなどから検討することで医療化概念のさらなる精緻化につなげられるだろう。

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