日本地理学会発表要旨集
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  • 食糧産地に着目して
    張 貴民
    セッションID: 406
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/19
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    1.はじめに

     1978年から現在まで改革開放政策の導入に伴い、中国の都市も農村も大きく発展してきた。その中に特に約20年間の高度経済成長期が顕著に見られた。この研究は、食糧産地に着目して、中国における高度経済成長期の農業地域の空間的変容とその地域的要因を考えるものである。

    2.食糧生産の時間的推移と空間的変容

     中国は人口大国であるために、農業における食糧生産の地位は従来から高い。1960年前後の大躍進運動による減収、1996年の生産過剰および2003年の天候不順による減収等の時期を除けば、基本的に人口増加に伴い食糧生産量は右肩上がりに推移し、2022年に68652.8万トンに達した(第1図)。また、農業地域とくに食糧産地の空間的分布は地形・気温と降水量等の空間的組み合わせにより強く制約されている。食糧産地は伝統的に東部平野地域(東北平野・華北平野・長江中下流平野・珠江デルタ地帯)と中西部の盆地(四川盆地、汾渭盆地、河套平野)等に集中している。一方、都市化と工業化の圧力の中で、食糧産地は空間的に変容している。劉ほか(2009)によれば、1990年から2005年までの15年間、食糧産地の重心は「東北→南西→東北」のように223.3 kmを移動した。他の研究でも食糧産地の空間的移動が指摘されている。大規模経営が可能な東北地方では産地が形成している。大都市周辺では、農地の都市的土地利用への転換や野菜などの商品作物の栽培面積の拡大や食糧価格の変動により食糧生産量は不安定である。また消費者嗜好の変化により、米や麦のような伝統的主食の消費量が減り、健康に良いとされる雑穀類の生産量が増える地域もある。肉類や乳製品の消費量が増加し、飼料作物の生産を押し上げている。統計によれば、食糧の輸入量は2010年の6695万トンから2020年の14262万トンまで増加し、同時期の中国国内食糧生産量の21%に相当する輸入量であった。食糧調達の空間は海外まで拡大し、国際食糧市場に大きな影響力を与えている。

    3.考察

     都市化との競合の中で食糧産地の形成と発展は一定規模の農地面積(基本農田)に不可欠である。良質な農地面積の減少や農地の空間上の分散化は産地形成を阻害している。また、従来、消費地に近くて立地上に優位のある食糧産地は衰退の傾向があり、食糧産地は生産コストの低い地域へ移動している。政府の食糧買付価格の低迷と農用資材の価格の高騰、農家の高齢化、営農意欲の低下などが不安定要因であり、食糧産地の振興や、食糧安全保障上の課題になっている。

    謝辞 本研究はJSPS科研費 23H00029「中国の高度経済成長期における空間構造変化の研究」(研究代表者:小島泰雄)の助成を受けたものである。

    主な参考文献:

    張貴民(2011):巨大な人口を養う食料生産、上野和彦編『世界地誌シリーズ2 中国』朝倉書店、61-70。

    張秋夢ほか(2021):改革開放以来中国食糧生産空間重構、自然資源学報、36(6)、1426-1438。

    劉彦随ほか(2009):中国食糧生産與耕地変化的時空動態、中国農業科学、42(12)、4269-4274。

  • 平野 勇二郎, 一ノ瀬 俊明, 大橋 唯太, 白木 洋平, 大西 暁生, 吉田 友紀子
    セッションID: 707
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/19
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    都市ヒートアイランドの実態を解明するために衛星リモートセンシングによる地表面温度が用いられることが多いが、衛星データでは日中は市街地より住宅地の方が高温であることも多く、衛星通過時のみの温度では市街化による影響の実態を把握し難い。そこで本研究では、衛星観測データと一次元熱収支モデルを結び付け、シミュレーションにより表面温度分布の日変化を解析した。

    本研究では東京都心部を対象とし、平野・一ノ瀬(2014)と概ね同様のシミュレーションを500mグリッドレベルで行った。これにより、平均的な温度帯が近い時刻でも、午前と午後では明らかに分布形が異なっていることなどの興味深い結果を得た。これは住宅地と市街地の熱容量の違いによるタイムラグの影響であると考えられる。太陽同期準回帰軌道の人工衛星では日中のデータ取得が午前中であることが多いが、市街地と比較して熱容量が小さい住宅地では午前中の昇温が早く、結果として住宅地と市街地の温度差が大きく生じている可能性が高い。したがって衛星観測された表面温度を日中の代表値として用いる際には、こうしたバイアスについて留意する必要がある。

  • 渡来 靖, 山下 亜紀郎, 谷口 智雅, 坂本 優紀
    セッションID: P087
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/19
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    1.はじめに

     静岡県三島市の源兵衛川は,富士山の噴火により形成された三島溶岩流末端部の豊富な湧水を水源とし,三島市街地をほぼ北から南へ流れる農業用水路である.一部の流路は川縁や川中に飛び石などの遊歩道が整備され,市民の憩いの場としても利用されており,さらに水の郷・三島を代表するスポットとして観光資源としても活用されている.源兵衛川のように都市内水辺空間として整備・保全された区域では,河川や樹木等の影響により周辺とは異なる熱環境が形成され,それが源兵衛川に人々が訪れたくなるような魅力の向上に貢献している可能性がある.そこで本研究では,源兵衛川とその周辺市街地における地上気象観測をもとに,源兵衛川の熱環境について調査を行った.

    2.調査方法

     現地調査は冬季の2023年2月20日〜24日と,夏季の2023年8月27日〜31日に実施した.源兵衛川における気象要素の日変化を捉えるため,源兵衛川の流路上に定点を設置した.また比較のため,源兵衛川観測点より南東に約450 m離れた三島市営駐車場東口広場にも定点を設けた.これら2つの定点において,気温,相対湿度,黒球温度および風向・風速の連続観測を行った.

     源兵衛川やその周辺の気温分布の特徴を捉えるため,三島市街地の東西約700 m,南北約700 mの範囲について,上記2定点を含む24地点を設定して徒歩による移動観測を実施した.冬季日中(2月21日),冬季早朝(2月22日),夏季日中(8月28日),夏季早朝(8月30日)の計4回実施した.測定項目は気温のみで,日中は14〜15時頃,早朝は日出前後に観測した.

    3.結果と考察

     冬季の定点観測において,日出後の気温上昇は市街地の方が源兵衛川に比べて急であり,源兵衛川は市街地に比べて最大3 ˚C程度低くなるが,夕方から夜間にかけては源兵衛川の方が最大1 ˚C程度高温となっている.移動観測の結果から,冬季早朝の気温分布は源兵衛川に沿って,周辺よりやや高温となっている.午前中の気温差は,源兵衛川左岸の樹木や建物による直達日射の遮蔽効果が大きく影響していると思われる.冬季の源兵衛川の水温は15〜16 ˚C程度であり,河川が熱源となり源兵衛川での気温をより高くした可能性がある.

     一方,夏季は一日を通して,源兵衛川が市街地(気象庁三島観測所)より低温な傾向を示している.移動観測結果からも,日中も早朝も源兵衛川付近が周囲より低温な分布が見られる.夏季の源兵衛川の水温は16〜17 ˚C程度であり,冷源として源兵衛川が周囲より低温な熱環境の形成に貢献していると考えられる.

  • 世界農業遺産として価値づけられた地域資源は,発災後どう表現されているか
    河本 大地
    セッションID: 513
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/19
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    Ⅰ.はじめに

     本研究の目的は,「能登の里山里海」として価値づけられてきた地域資源に対する,さまざまな思いや見方の特徴を,令和6年能登半島地震発生後のSNS上での表現から明らかにすることである.被災地の創造的復興の一助となることを意図している.

     「能登の里山里海」は,2011年6月に日本で初めて認定された1) 世界農業遺産(GIAHS:ジアス)である.石川県能登地域の4市5町(七尾市,輪島市,珠洲市,羽咋市,志賀町,中能登町,穴水町,能登町,宝達志水町)で構成されている.世界農業遺産は,2002年に国連食糧農業機関(FAO)が世界的に重要な農業地域を未来へ引き継いでいくことを目的に開始した事業で,伝統的な農林漁法,伝統技術,農村文化や景観,生物多様性などを構成要素とした「地域システム」の保全が目指されている.

     「能登の里山里海」については,金沢大学,石川県立大学,国連大学の研究者らを中心に,精力的に研究や価値づけ,地域社会との協働,アウトリーチ活動などが行われてきた.2007年からの金沢大学「能登里山マイスター」養成プログラム(現在は能登里山里海SDGsマイスタープログラム)などを通じた人材育成や地域コミュニティとの交流,拠点整備も進められてきた.また,金沢方面と能登半島とを結ぶ自動車専用道路に「のと里山海道」の名称が,能登空港に「のと里山空港」という愛称がつけられるなど,「里山里海」は能登地域の象徴として可視化されている.珠洲市を舞台とする「奥能登国際芸術祭」や,珠洲市・七尾市・輪島市の「SDGs未来都市」認定においても強く意識されている.

     こうした中,令和6年能登半島地震(2024年1月1日)は石川県,富山県,福井県,新潟県など広域に被害をもたらした.中でも奥能登と呼ばれる珠洲市,輪島市,能登町,穴水町では,家屋倒壊や土砂災害,津波による浸水被害,地盤隆起による港湾等への被害,数多くの集落の孤立などが甚大であった.これらを受け,二次避難の必要性の高まりや,住み慣れた地での生活の持続の困難化,さらには山間部・沿岸部等の集落から撤退して都市部等への集住を求める議論なども生じた.地域で生きてきた人々,地域を大切に思う人々の尊厳をも揺るがす事態となっている.

    Ⅱ.方法

     世界農業遺産「能登の里山里海」として価値づけられてきた主な地域資源を表す語(表1)について,令和6年能登半島地震発生後にSNS(主にX(ツイッター))上でどのように表現されてきたかを確認する.具体的には,「能登の里山里海」の世界農業遺産認定において評価された6項目(表1の「全体」以外の項目)に含まれる,主要な地域資源を示す語を対象とする.

    表1 検索に用いた語の例

    ■全体

    「能登の里山里海」「里山 能登」「里海 能登」「SDGs 能登」「satoyama noto」「GIAHS noto」

    ■生物多様性が守られた伝統的な農林漁法と土地利用

    「はざ干し 能登」「天日干し 能登」「海女 能登」「漁 能登」「棚田 能登」「谷地田 能登」「ため池 能登」「生態系 能登」「ボラ待ちやぐら」

    ■里山里海に育まれた多様な生物資源

    「シャープゲンゴロウモドキ」「ホクリクサンショウウオ 能登」「イカリモンハンミョウ」「希少種 能登」「生きもの 能登」「渡り鳥 能登」「中島菜」「能登野菜」「能登大納言小豆」「在来品種 能登」

    ■優れた里山景観

    「白米千枚田」「茅葺き 能登」「白壁 能登」「黒瓦 能登」「家並み 能登」「間垣 能登」「風景 能登」「景観 能登」

    ■伝えていくべき伝統的な技術

    「揚げ浜式」「製塩 能登」「輪島塗」「伝統工芸 能登」「炭焼き 能登」「伝統技術 能登」「いしる」「いしり」「杜氏 能登」

    ■長い歴史の中で育まれた農耕にまつわる文化・祭礼

    「キリコ 能登」「奉燈 能登」「農耕儀礼 能登」「あえのこと」「アマメハギ」「農耕 能登」「祭礼 能登」

    ■里山里海の利用保全活動

    「能登の里山里海」「棚田オーナー 能登」「農家民宿 能登」「春蘭の里」「農林水産物 能登」「生業 能登」「人材育成 能登」

    Ⅲ.結果と考察

     発災直後は,人や物資の輸送路である「のと里山海道」という語が多く用いられていた.その後は,価値づけられてきた地域資源の被害状況を心配する声や,住民や観光経験者の思い出,そしてブランドを活かした創造的復興を期待する声などがみられる.#私の愛してやまない能登 #能登はやさしや土までも といったハッシュタグ付きの投稿も増え,地域に思いをもつ関係人口のレジリエンスを確認できる.詳細な分析結果と考察は当日報告する.

    1)新潟県佐渡市の「トキと共生する佐渡の里山」も同時に認定された.なお,宝達志水町は2013年6月に追加登録された.

  • 今枝 侑香, 重田 祥範
    セッションID: 215
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/19
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    京都府北部に位置する由良川河口では,寒候期にかけて放射霧と蒸発霧を伴う強風が陸地から若狭湾に向けて吹走する.この強風は,好天静穏日の夜間に福知山盆地で発生した冷気が一級河川である由良川に沿って流れ,下流のV字状地形で収束・加速することで,河口から若狭湾へ流れ出す現象である.このような局地的な現象は,愛媛県大洲市長浜地区で発生する“肱川あらし”の類似現象と推測されるため,河川名にちなんで“由良川あらし”と命名されている(重田・今枝,2023).しかしながら,由良川あらしの学術的な報告は一切存在しておらず,その実態はわかっていない.また,由良川あらしは発生する範囲が狭く,時間スケールが短い現象であることから,気温や気圧,風速などの微細な変動を捉える必要がある.

    そこで本研究では,由良川あらしの発生日・非発生日における気温や気圧,風速の関係性を明らかにした.

    由良川あらしが発生した事例として,2023年11月1日を取り上げる.この日は,冬型の気圧配置が緩み,広く高気圧に覆われた気象条件下であり,由良川河口では,放射霧と蒸発霧が発生した.観測の結果,夜間の盆地内の風速は概ね2.0m/sであった.一方,河口では,一日を通して概ね南寄りの風が吹き,17時頃から翌日11頃までは,南寄りの風が継続した.風速は,19時頃から5.0m/s以上になり,最大値で6.6m/sを記録した(最大瞬間風速:9.5m/s).ここで,本研究で得られた結果を三浦ほか(2018)で報告されている肱川あらしの観測結果と比較すると,同程度の値を示していることが明らかとなった.

  • 崎田 誠志郎
    セッションID: 407
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/19
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    ギリシャはEU諸国の中で最も登録漁船数が多く,沿岸域や島嶼域の社会経済を支える産業として地域漁業が重要な役割を果たしている.ただし,漁場利用は概して個人的・競争的であるとされ,ローカルな共同体の協調・規範にもとづく漁場ガバナンスは通常想定されない(Tzanatos et al. 2020).1983年に制度化された漁業者の地域生産組合もほとんどが解散に至っており,「不信と低調な集合行為はギリシャの漁業者に共通する態度である」(Tzanatos et al. 2020: 143)と評されるほどに漁業者間の協調性は低いとみなされている.一方で,発表者によるエーゲ海北東部のレスヴォス島を事例地域とした現地調査では,自主的な漁業者組織が漁村・漁港単位で形成され,操業の取り締まりや行政との連携・交渉といったガバナンスの一部を担っていたことも判明した(Sakita 2021).ギリシャにおける漁業者組織・コミュニティの多様な実態を明らかにすることは、ギリシャの漁業者コミュニティの社会性を再評価することにつながるとともに,共通漁業政策をはじめとするEUの画一的な管理制度の陰で見過ごされてきたローカルな漁場ガバナンスを再検討するうえでも重要な意義を有すると考える.

    本報告では,ギリシャ西部のメソロンギ=エトリコラグーンにおける権利に基づく漁業 rights-based fisheryのための漁業者組合に着目し,地域の漁業者がいかなる社会関係のもとで組合を形成・協働しているかを検討する.現地調査は2018年から2019年にかけて断続的におこない,各組合の代表に対する聞取り調査のほか,組合メンバーを対象とした対面式のアンケート調査を実施した.その後,コロナ禍による中断を経て,2023年10月に調査再開のための予察調査を実施した.イヴァリivariとは,メソロンギ=エトリコラグーンで盛んに営まれる罠漁の一種であり,イヴァリの形態や手法は日本の琵琶湖などでみられる魞漁とほぼ同様である.イヴァリの漁場は行政が管理しており,漁業者は組合を組織して,漁場の利用権を入札によって獲得しなければならない.この点で,これらの組合は完全に自主的なものではなく,制度的な要請のもとで権利を得るために組織された集団である.2019年時点では9か所のイヴァリに対し10組合が活動しており,それぞれが権利を得たイヴァリを利用して事業を営んでいた.イヴァリの漁業者組合には,親族関係にもとづく家族経営型のものと,知人の伝手や求人によって労働力を確保する企業経営型のものがある.イヴァリ漁の操業形態は組合によってさまざまであるが,いずれの場合も,メンバーの漁業者は協力して漁撈や販売,イヴァリのメンテナンスなどに従事し,漁獲物の利益は共同で精算・配分されていた.一方で,組合の経営状況や行政・他組合との関係性には差異がみられ,結果的にイヴァリ単位で漁場ガバナンスの優劣を生じさせる要因となっていた.

  • 西之表市・奄美市での内閣府「地震・津波防災訓練」の振り返り
    岩船 昌起
    セッションID: 744
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/19
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    【はじめに】西之表市と奄美市で行われた内閣府「地震・津波防災訓練」で,参加者に「地震・津波への備え」アンケート調査を実施した。本研究では,この分析を通じて,同訓練の内容を振り返ることを目的とする。

    【内閣府「地震・津波防災訓練」の概要」】内閣府は,「津波防災」に関する取り組みの一つとして,平成26年度以降,全国の地方公共団体と連携した「地震・津波防災訓練」を実施している。令和5年度には全国10自治体で実施され,いずれも,モデル地区等での訓練前ワークショップ(WS),訓練,訓練後WSが行われた。演者が「防災専門家」として参画した西之表市と奄美市では,事前の測量や聞き取り調査から「地域の実情」にかかわるデータを得た上で,訓練の成果を地区防災計画や個別避難計画に生かす予定である。訓練では,シェイクアウト訓練,津波避難訓練,情報伝達訓練,防災に関する講話等が行われた。参加者数は,西之表市計1,865名(訓練前WS 150名,訓練1,644名,訓練後WS 71名),奄美市計1,743名(訓練前WS 25名,訓練1,693名,訓練後WS 25名)。

    【調査方法】訓練前WS(西之表市:2023年10月18日,奄美市:10月20日)後,参加者に①地震への備えおよび②津波への備えにかかわる質問紙に回答してもらった。回答者は,西之表市が参加者150名中91名,奄美市が参加者25名中13名。

    【調査結果】紙面の都合で西之表市でのものを一部掲載。

    《①地震への備え》Q3「家屋の造りは、何ですか?」木造 79.5 %, 鉄筋造 14.0 %, RC造 5.4 %,わからない 1.1 %。Q4「旧耐震、新耐震のどちらか?」旧耐震 37.4 %, 新耐震 36.3 %, わからない 23.1 %, 未回答 3.3 %。Q5「昼によくいる場所に、地震時に物が倒れてこないか?」 A倒れてこない 64.8 %,B倒れてきそう 33.0 %, わからない 2.2 %。「Aの理由」倒れそうなものを置いていない 28.4 %, 転倒防止対策等実施済 8.3 %, 低いものしかない 3.3 %,その他3.3 %,未回答 56.7 %。「Bの理由」置いてあるものへの不安(タンス,テレビ)35.3 %, 未固定・固定不足 26.5 %, 耐震強度不足・築年数 5.8 %, その他5.8 %,未回答26.5 %。Q7「寝床に物が倒れてきませんか?」A倒れてこない 73.6 %, B倒れてきそう 26.4 %。Q8「夜の地震時には、どのように防ぎますか?」屋外への移動 33.0 %, 屋内での行動 26.8 %, 事前の準備 19.6 %, その他3.6 %,未回答17.0 %。

    《②津波への備え》Q1「自宅地面の標高は、何メートルですか?」 5 m未満12.1%, 5 m以上10 m未満4.4%, 10 m台14.3 %,20 m台8.8 %, 30 m台14.3 %, 40 m台7.7 %, 50 m以上31.9 %, 未回答等6.6 %。Q3「家屋は、何階建てですか?」1階72.5 %,2階23.1 %,3階2.2 %,4階1.1 %。Q4「地震発生後、自宅から何分で出られますか?」「昼」1分以内26.4 %,3分以内20.9 %,5分以内28.6 %,10分以内15.3 %,15分以内4.4 %,20分以内1.1%,未回答3.3 %。

    【考察】《①地震への備え》Q3「木造79.5 %」Q4「旧耐震37.4 %」であり,震度6弱以上の揺れに見舞われた際には,家屋が倒壊する恐れが高い。「シェイクアウト訓練」で模範とされるようにテーブル等の下に隠れても,それが脆弱な場合,家屋の倒壊に耐えられずに潰されて圧死する可能性が高い。また,夜間睡眠時や高齢者の緩慢な動作等も考慮すると,地震による危害の回避に「住民の行動」のみに依らず,家屋が倒壊した場合でも隙間が残されるように家具の配置を工夫する等,「生存空間の確保」を重視した家屋点検的な内容の方が被害軽減に有効であろう。

    《②津波への備え》内閣府(防災担当)「避難情報に関するガイドライン(令和3年5月)」での「立退き避難」「屋内安全確保」等を発災時に住民が選択するには,①気象庁による防災気象情報や自治体による警報等だけでなく,②住家(≒居合わせた場所)およびその周辺での安全/危険にかかわる場の情報,③体力等の避難者個人の特性等も考慮して総合的な判断が求められる。それには,Q1「自宅地面の標高」Q3「何階建て」Q4「自宅を何分で出られるか」等,②と③に関する項目の認識を質問紙等で確認するとともに,項目に関する検証(例えば,実際の測量等)を行い,その認識と現実とのズレを補正するような訓練が効果的であろう。そして,住民個人の備えにかかわる内容を,個々に具体的に検証してデータ化しつつ,要配慮者でなくても個別避難計画に順次まとめ,地区防災計画とも連動させていく必要があるだろ。

  • 深瀬 浩三
    セッションID: P077
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/19
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    Ⅰ はじめに

     日本では,高度経済成長期以降,国民の所得向上や余暇・レクリエーション需要の増大,自家用車の普及,交通条件の発達等によって,大都市近郊や観光地周辺の立地条件を活かして,農産物の収穫体験やそれに付随する対面販売等といった観光農園が農業経営として発展してきた.農産物生産者からみれば,観光農園は新たな販路を生み出すことになり,所得の安定・向上につながった.1980年代後半以降は,観光農園等の観光農業は地域振興と結びつき,日本各地で多様な形態がみられるようになった(林 2007).

     観光農園は,特に果樹生産者による経営がよくみられる.観光農園を訪れた来園客が収穫体験で果実を試食し,果実の味や接客対応などに満足すれば,土産物として購入したり,贈答用として宅配注文する.次の収穫時期には,リピーターとして再訪または宅配注文する,また,来園客の口コミで新規来園者を増やすなどといったしくみを確立することで成立・発展している.観光農園の全国的な展開がみられる中で,農協出荷による卸売市場流通,観光農園と個別宅配等の市場外流通を併存させながら果樹産地を維持しているのか,個別的・組織的な対応に着目したい.

     そこで本研究では,日本有数のさくらんぼ産地である山形県寒河江市を事例に,観光農園事業の展開と観光農園経営を分析し,産地の維持について考察する.また,新型コロナウイルスの感染拡大時期の対応についても分析する.

     本研究の研究方法は,観光農園事業についてはJAさがえ西村山,観光農園の経営実態等についてはアンケート調査を行った.また,農林水産省やJAさがえ西村山の統計資料を活用した.

    Ⅱ 果樹生産の地域的特色と観光農園の組織化

     山形県中央の山形盆地の西方に位置する寒河江市では,明治から大正時代に,農業試験場の設置や先駆的農家らによる生産者組織によって,さくらんぼなどの果樹生産が開始された.1970年代からの減反政策と需要の増加によって,さくらんぼ生産は加工用から生食用の割合が高くなった.先駆的農家を中心にさまざまな生産者組織がつくられ,産地の基盤が構築されている(HAYASHI 2010).現在では,さくらんぼ生産を中心に,稲作や秋果物(もも,ぶどう,りんご,西洋なし),野菜などを組み合わせた農業が行われている. 1965年に,さくらんぼ生産者数名が試験的に観光農園を開始し,1969年に生産者らによる観光農園組合が発足した.1976年には寒河江市とJA,観光農園組合が首都圏でキャンペーンを実施した.1980年代半ばから,JAが窓口となって現在の寒河江市周年観光農業推進協議会(以降,協議会と称す)が発足し,観光農園に参加する農家が増えた.複数のさくらんぼ生産者で観光農園の団地化も図られた.また,少数ではあるが,りんごなどの観光農園も協議会に参加し,周年で来園客を迎え入れている.

     1992年には,道の駅「チェリーランド」と観光農園の受付窓口としてJAが担当するさくらんぼ会館が建設され,寒河江市の観光物産の拠点として役割を果たしている.現在でも観光農園の利用は基本的には予約制で,JAと観光農園経営者が連携して,多くの来園客を効率よく各観光農園に割り当てている.近年では高齢などにより観光農園を辞める生産者もいるので,新規の観光農園の確保が今後の課題となっている.

    Ⅲ サクランボの流通の多様化とコロナ禍の対応

     寒河江市におけるさくらんぼなどの果樹の流通の多くは,農協による東京市場を中心とする出荷である.協議会に参加している観光農園経営者は,観光農園のほかに,個人客への宅配や農協出荷など,いくつかの販路を持っている.さくらんぼは果物の中では価格も高く,贈答用として扱われることが多いので,個々の観光農園経営者は長い付き合いのある個人客も多く抱えている.新型コロナウイルスの感染拡大時期は,観光農園の収入が激減したため,寒河江市の支援により,観光農園用のさくらんぼをふるさと納税の返礼品として扱うなどの対応が取られた.

    Ⅳ おわりに

     以上のように,寒河江市のさくらんぼ産地のように,市場評価と大きな流通ロットに支えられ,既存の出荷システムが機能する大産地においても,観光農園をはじめとする市場外流通は,産地の維持に一定の役割を担っている.

    文 献

    林 琢也 2007.青森県南部町名川地域における観光農業の発展要因―地域リーダーの役割に注目して―.地理学評論,80:635-659.

    HAYASHI Takuya 2010.Sustainable Systems of Agri-tourism in a Cherry-growing Area:A Case Study of the Miizumi Area, Sagae City, Yamagata Prefecture.Geographical Review of Japan 82B:60-77.

  • 中島 柚宇
    セッションID: 611
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/19
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    はじめに

    現代日本では現在,1970年代以来の狩猟者人口の減少に加えて,銃猟の縮小とわな猟の増加による狩猟形態の転換が見られる.前者は趣味的な狩猟者の減少を,後者は被害防除を目的とした新規狩猟者の参入をそれぞれ反映している.こうした状況の中現在懸念されていることの一つが,銃猟の中でもグループ銃猟の縮小である.グループ銃猟は野生動物管理の観点からも,狩猟文化の継承という観点からも,多面的な意義が指摘されている.しかし銃猟人口の減少の中で,各地のグループ銃猟は衰退に向かっている.これまでグループ銃猟に着目した研究では,ある時点の猟活動について,その多面的意義や活動継続における課題が示されてきた.一方で銃猟グループがどのように成立して現在の状況に至るのかを時系列的に把握した事例はあまり見られない.そこで本研究の目的は,グループ銃猟の現代における変容プロセスを明らかにすることとする.なお,本研究ではグループ銃猟のうち最も一般的な狩猟形態である巻き狩り猟を対象とする.研究対象地域は,近世の頃から伝統的に銃猟が盛んであった高知県の山間部とし,檮原町及び香美市の2つの巻き狩りグループを調査対象とする.巻き狩り猟に参加する狩猟者24名への半構造化インタビュー調査を行い,グループ全体の変遷に関する内容と,個人的な狩猟歴や狩猟に対する意識等について問うた.

    巻き狩りグループの変遷及び狩猟者の活動歴

    檮原町のグループは,1980年代以降檮原町でイノシシが多く目撃されるようになり,地元の狩猟者仲間が声を掛け合って組織した.その後20年ほど活動を継続していたが,2005年ごろからわな猟へと移行するメンバーが出た.高齢化によるメンバーの離脱もあり,徐々に活動が下火になり,現在ではほとんど活動していない. 香美市では,1990年代にまずイノシシが生息拡大し,地域にイノシシを対象とした巻き狩りグループがいくつか発生した.その後2000年ごろにシカが急速に個体数を増やし,有害駆除に対応する目的で巻き狩りグループが組織された. 狩猟者の活動歴を見ると,21/24名の狩猟者が家族や地元の友人・知人の影響を受けて狩猟に参入しており,23/24名がキャリアの最初は小物銃猟(鳥,ウサギなど)から始めていた.また,高知県山間部に伝統的に見られる小鳥やウサギを狙った小規模猟について,16/24名が幼少期に経験があると回答した.檮原の狩猟者が巻き狩り猟をやらなくなった理由は,メンバーのわな猟への移行と,積雪の減少が挙げられた.

    巻き狩りグループの変容プロセス

     グループの成立段階に着目すると,檮原町及び香美市の両地域で,狩猟者を供給する地域的な下地,狩猟に親和性の高い文化が巻き狩り猟の成立に関係していた. 檮原町で活動が下火になっていった背景は,大きく2点挙げられる.1点は積雪の減少による猟場の環境変化である.檮原の巻き狩りでは,必ず積雪がある日に出猟するため,積雪日が減ると自ずと出猟回数も減っていった.もう1点は檮原町によるイノシシ捕獲への報奨金の設定である.捕獲にインセンティブが発生したことによって,より捕獲効率の高いわな猟に優位性を見出すメンバーが出てきた.また,わな猟は積雪があると困難になるが,積雪の減少によってやりやすくなり,このこともわな猟の優位性向上に寄与した. 一方,香美市では同じように獣害対策行政と関わりながら,巻き狩りグループそのものが有害捕獲班として組織されることによって,むしろ巻き狩り猟の活動が強固に維持されることになった.一般に銃猟が減少する要因は,法規制の厳格化,費用の高さなどが指摘されていたが,本研究の結果は,猟場の環境や行政施策との関わりなどが活動に影響を与えた可能性を示している.

  • 内山 庄一郎
    セッションID: S609
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/19
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    近年、高分解能な地理空間情報へのアクセスが容易になってきた。これらはドローンによって取得でき、災害対応の分野でも活用されつつある。行けない、見えない、わからないといった危険の伴う災害初動の局面で、ドローンによる地理空間情報の取得と活用が期待されている。一方で、ドローンによって取得された地理空間情報に類する情報は、これまでの災害初動の業務プロセスにはなかった、新たなツールとなっている。このため、既存の業務プロセスの単純な置き換えを検討するだけでは、導入できない、うまく使えない、効果が分からないといった問題も同時に生じている。この問題の解決には、ドローンによる情報取得のための飛行計画の具体化と、地理空間情報、中でも空間的・時間的に高解像度な高精細多層地表情報(High-definition Multilayered Earth Surface Data, HiMESD)の理解・分析・解釈という二つの論点を解決していく必要がある。

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