本研究では, 僧帽筋上部において高張性食塩水 (6%) の注射により実験的筋痛を誘発し, その痛みの強度および開口域に及ぼす影響について, 生理食塩水 (0.9%) の注射をコントロールとして検討した。被験者は, 健常有歯顎男性8名 (年齢26.8±2.4歳) を選択した。高張性食塩水0.5mlを左側僧帽筋上部中央に注射後, 痛みの強さを示すVAS値は, ただちに上昇し, 64.1±16.8mm (30秒後) をピークとして以後は徐々に減少した。生理食塩水注射後も同様に, VAS値はただちに上昇し, 18.6±14.1mm (30秒後) をピークとして以後は徐々に減少した。しかしながら, 注射直後から270秒後にかけて高張性食塩水注射後のVAS値はコントロールに比べて有意に大きな値を示した (p<0.01)。開口域は, 高張性食塩水注射前は53.2±5.2mmであったが, 注射直後にただちに減少し, 47.4±4.8mmを最小値として以後は徐々に増加した。コントロールにおいては, 注射前は54.1±4.6mmであり, 注射後も特に減少傾向を認めなかった。注射直後から60秒後にかけて, 高張性食塩水注射後の開口域はコントロールよりも有意に小さい値を示した (p<0.05)。
以上のことより, 開口障害の原因が頸肩部にある可能性が示唆され, 顎関節症患者における頸肩部の診査の重要性が確認された。
抄録全体を表示