都市計画論文集
Online ISSN : 2185-0593
Print ISSN : 0916-0647
ISSN-L : 0916-0647
54 巻, 3 号
都市計画論文集
選択された号の論文の178件中51~100を表示しています
  • 松浦 健治郎, 津村 大揮
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 623-629
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、近世城下町を基盤とする県庁所在都市のうち、昭和初期に城郭地区内に官庁街を形成した17都市を対象として、城郭地区内の境界と官庁街の変遷の関係性を明らかにすることを目的とする。具体的には、1)城郭地区内の境界の保存の程度を境界の種類や位置との関係から明らかにし、2)城郭地区内の官公庁施設及び市民利用施設の立地の変遷及びそれらと境界との関連性を明らかにすることを目的とする。 明らかになったのは、第1に、境界保存率について境界の位置に着目すると、内側から1・2番目の境界は保存され、3番目の境界は保存されない傾向にあり、境界の断面形態では台地型が、境界の構成要素では自然的境界が保存される傾向にあること、第2に、官公庁施設・市民利用施設の総数は、昭和40年代までは増加傾向にあったが、平成30年では減少しており、それらは階層3に多く立地していること、第3に、境界Cの境界保存率が低い8都市では周辺市街地と空間的連続性のある官庁街・シビックゾーンが階層3に形成され、境界Cの境界保存率が高い3都市では周辺市街地と明確な境界を有する官庁街・シビックゾーンが階層3に形成されていること、である。

  • 松原 康介
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 630-637
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、既往研究による新事実の発見としての「進化型計画論」を踏まえ、1968年のダマスカス都市基本計画の旧市街政策を、交通政策の視点だけでなく、ヘレニズムからイスラームへの「進化」という独自の歴史意識の結果と位置づけ、その全体像を明らかにすることを目的とする。ユネスコによる批判が交通計画への批判に限定されており「古代都市の再構築」という壮大な構想に対しては未評価であることを示した上で、2章で68年計画中の「古代都市」に関わる記述を抽出し、既往研究とも照合して、そのヘレニズム基盤としての特徴を以降の参照系として提示する。3章では、イスラーム時代の空間変容と重層化について既往研究から概略する。4章では、デガジュマンと呼ばれる街路開削・拡幅の実際について、68年計画のテキストと、関連して発表されたエコシャールや番匠谷による雑誌記事、及び計画図の分析から明らかにする。5章では、批判にも関わらず2019年現在において「古代都市の再構築」事業は一部が進展しており、その現状を補足的にレビューし評価の参考とする。結論において、ヘレニズム基盤の再構築事業の全体像を考察し、今後の事業の展望を明らかにする。

  • グローバル都市におけるラフスリーピング問題への対応
    河西 奈緒
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 638-644
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、近年ロンドンのラフスリーピング政策において重要な位置を占めるようになった再接続(reconnection)について、その政策理念、事業、実施状況を明らかにする。再接続は、地域外から来たラフスリーパーを本人が地域とのつながり(local connection)を有する地域の支援サービスや家族の元に戻すことを志向する政策理念かつ支援手法であり、人を帰属関係のある地域に結び付けようとする点で一見前近代的な要素を含んでいる。本研究は、それがデータベースという情報技術を駆使し先進的なラフスリーピング政策を実施してきたグローバル都市ロンドンにおいて台頭してきたことの意味を都市論的視点から考察し、ロンドンでは情報システムによって個々人の持つ特定の地域とのつながりが具現化され、これを回復する取り組みを主とするように政策が変化したという画期的な知見を得た。

  • 岡山県玉野市宇野築港地区を事例に
    成田 海波
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 645-651
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    宇野築港地区は歴史的市街地において新たに整備された港周辺の都市空間を生かした交流拠点、文化芸術拠点としての役割を新たに担っている。宇野築港地区での文化的活動を契機としたセクター間の新たな関与と展開、活動拠点の広がりは時期によって5つに分類される。2013年以降は歴史的市街地において、文化的活動がイベントのみならず日常の場で生まれており、商店街や宇野港周辺が以前に比べて創造的環境に変容しているといえる。また、同時に、活動に応じて足場となる拠点を選択したり、活動の補助となる支援策を選択することができ、社会や経済システムが市民の活動が実現しやすい形に再構築されつつあることが、宇野築港地区での取り組みの一助となっている。

  • 田宮 圭祐, 鈴木 勉
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 652-657
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    人々の生活圏が広域化する中で,道路網は必要不可欠である.しかし,道路は自治体毎に計画・整備されるため,広域的な移動の需要を満たすことができているかは定かでない.本研究では,隣接自治体間での接続度を定量的に測る指標を導出し,国内の行政界における接続度の傾向を明らかにする.結果として,以下のことが明らかにされた.第一に,行政界の接続度の値は全国平均で0.42程度であり,山地や河川などの自然地形による場合が顕著であるが,それ以外の場所でもばらつきが見られる.第二に,道路種別に見ると,高速道路や国道は都道府県界や市町村界によって接続が悪くなる傾向はほとんど見られないが,道路ランクが下がるにつれて,行政界の影響を受ける程度が大きい.第三に,都市地域や市街化区域に絞ってみれば,道路全体の行政界における接続度はそれぞれ0.65, 1.07と全国平均よりも大きいが,接続度の低い場所も観測される.

  • 大門 創, 鎌田 秀一, 苦瀬 博仁
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 658-664
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    情報技術の進展により、消費者は店舗だけでなくインターネットを通じた買い物をするようになっている。その結果、自宅やオフィスへの配送需要が急激に増加している。そこで本研究では、消費者の購買行動の変化が都市の配送活動へ与える影響を明らかにすることを目的とする。その結果、以下の点が明らかとなった。第一に食料品のような最寄品は実店舗で発注し実店舗で受取をし、衣料品のような買回品はインターネットで発注し自宅で受取る。第二に、インターネットショッピングの増加は、配送活動を増加させるとともに、買い物交通を減少させる。第三に、配送需要を抑制するためには、リードタイムの延長や受取場所の変更が重要である。

  • 谷本 圭志, 小澤 陽
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 665-671
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    地方では人口減少や担い手不足が深刻化しており,公共交通や宅配サービスの継続性が懸念されている.この背景のもとで,公共交通の車両を用いて旅客と貨物を運搬する貨客混載システムに注目が集まっている.この仕組みにより,公共交通事業者の経営の改善と宅配事業者の人手不足を同時に解決することが期待される.しかし,運搬する宅配貨物量が多いと運行時間が大きく増大しうるなど,システムの導入が経営の改善に資するかは必ずしも自明ではなく,システムの導入に躊躇する事業者も少なくないと考えられる.そこで本研究では,公共交通としてタクシーを取り上げ,システムを導入した場合の事業性を試算するための整数計画モデルを構築する.その上で,実際の履歴データを用いて貨客混載システムの稼動状況を実証的に分析し,その結果に基づいて貨客混載システムの導入可能性について考察する.

  • 吉城 秀治, 辰巳 浩, 堤 香代子, 糸永 匠汰
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 672-679
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    遊びは子どもの健全な育成に必要不可欠なものであることは言うまでもなく、海外では子どもの道遊びを行え得る性能を有した街路を創出するために、ボンエルフ等の交通静穏化策が広がりをみせている。ところが、我が国では子どもの道遊びが原因のトラブルも発生しており、現代においては地域社会に必ずしも受け入れられるものではない状況にある。そこで本研究では、地域において道遊びが容認され、または容認されない道路空間や状況の特徴を明らかにするために、地域住民の道遊びに対する意識について分析した。その結果、例えば道遊びを肯定的に考えている地域住民では時間帯によって容認意識が変化し、特に平日は小学生が下校するような時間帯から午後6時まで、休日は日中であれば容認されることなどを明らかにしている。

  • 中道 久美子, 桐山 弘有助, 花岡 伸也
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 680-687
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    コンパクトシティ・プラス・ネットワークの実現のためには、居住誘導区域外から居住誘導区域内への転居とともに、公共交通機関や自転車、徒歩を利用することが重要である。また、転居の理由としては、ライフステージの変化が多くを占めており、居住誘導の観点からも着目する必要がある。そこで、本研究では、世帯をライフステージに分類した上で、転居傾向や交通行動、転居意向などから立地適正化計画の居住誘導に適したターゲット層を把握することを目的とする。全国都市交通特性調査を用いて分析した結果、若年の単身世帯は短期的な視点において、若年の夫婦のみ世帯は長期的な視点においてターゲットになりえること、一方で、退職や子の独立後の世帯を居住誘導するためには、転居に関する意識の変容が求められることが明らかになった。

  • 横浜市青葉区東急バスみたけ台線への応用
    山本 和也, 薄井 宏行, 浅見 泰司
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 688-695
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    今日では、高齢者の生活の質を維持するため、高齢者の歩行距離を軽減してモビリティを確保することが重要な課題の一つとなっている。公共交通機関の利用に伴う歩行距離を軽減する施策の一つとして、路線バスのフリー乗降制の導入が挙げられる。本研究では、フリー乗降制が導入されているバス路線における利用者の総所要時間を求めるモデルを構築した。また、都市部を走行する横浜市青葉区のみたけ台線に対してモデルを適用し、利用者の総所要時間を最小化するフリー乗降区間の配置を求めた。モデルの適用結果から、時間帯ごとにフリー乗降区間の配置を変えることで、総所要時間と総歩行時間を共に短縮できることが明らかになった。

  • 技術に対する認知の違いと試乗体験内容を考慮して
    西堀 泰英, 森川 高行
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 696-702
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、自動運転(以下、AVs)実証実験での試乗体験者へのアンケート調査結果を用いて、AVsの試乗前と試乗後における社会受容性の要因を分析した。愛知県で行われたAVs試乗体験者493人のデータを用いた。社会受容性の指標には、既往研究を参考にAVsが普及した社会に対する賛否意識を用いた。分析は、AVsに対する認知度の違いや試乗体験の内容を考慮した共分散構造モデルを構築して行った。本研究で得た主な知見は次の通りである。1)技術に対する認知度の違いにより社会受容性に影響する要因が異なる、2)認知度が低い人では試乗体験での乗り心地が悪いと賛成度合いを低くする、3)試乗体験を通してAVsに対する知識や理解を獲得することで賛成度合いを高めることにつながると期待できることを確認した。

  • 高齢者の自立した移動を支えるラストカーの提案
    藤原 淳貴, 氏原 岳人
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 703-710
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    中山間地域では、高齢者の自立した生活を支えるための移動手段の確保が課題である。本研究では地域特性の異なる中山間地域の3地域(拠点、準拠点、集落)にて実施された超小型モビリティ(MEV)実証実験に基づき,地域特性と利用者属性の視点からMEVの適性を検証した。主な分析の結果、1)MEVは、中山間地域の典型的な生活拠点において特に機能する。2)MEVは、高齢者にとっても運転しやすい乗り物として評価されている。3)中山間地域の生活拠点では、高齢者の日常移動の8割程度をMEVで対応できる可能性がある。4)これら分析結果などに基づき、高齢者の免許返納までの期間において、健全で自立した生活を支えるための乗り物として「ラストカー」という新たな概念を提案した。

  • 神戸市都心商業地域を対象として
    寺山 一輝, 小谷 通泰
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 711-717
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    歩行者が都心部を回遊する際には,事前に計画していた活動に加えて新たな活動を追加する,計画していた一部の活動を中止するといった行動がみられる.こうした事前の活動計画からの変更挙動に影響を及ぼす要因を明らかにすることは,回遊行動を促進するための施策を探る上で重要な鍵となると考えられる.本研究は,神戸市都心商業地域における来街者を対象として,回遊行動における事前活動計画からの変更挙動の特性を明らかにすることを目的とする.具体的には,まず,変更挙動の有無によって来街者の行動パターンを分類し,訪問店舗数・回遊距離・滞在時間等にみられる特徴を整理した.次に,事前計画からの変更挙動の意思決定要因を抽出した.そして,回遊行動における活動の継続ー活動時間の選択行動を取り上げて,変更挙動と選択行動の関連性を確認した.

  • 末木 祐多, 佐々木 邦明
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 718-725
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    地方都市における中心市街地の衰退は著しく,多くの都市で様々な施策が行われている.特に,都市の回遊性の向上は多くの都市で目標として掲げられているものの,市街地における歩行者の観測は歩行者交通量調査のみ行われている場合が多い.効果的な施策を検討するためには,歩行者の移動を観測することが重要であると考えられる.本研究では,低コストに市街地における移動の観測を行うことができるWi-Fiパケットセンサで得られるデータを用いた歩行者OD交通量の推定方法を構築し,実データを用いた推計を行った.その結果,観測データを十分に再現する歩行者OD交通量の推計を行うことができ,また感覚的にイメージすることのできる推計が得られた.

  • 石井 健太, 山野 壱成, 羽藤 英二
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 726-733
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    1km四方程度の空間におけるより精度の高い歩行者行動分析に向けて,歩行者行動の非集計分析に基づくモデル推定が必要となる.本研究では,個人ごとに得られるGPSやWi-Fiのような位置情報データとカメラ画像を用いた移動-固定観測データによる新たな行動モデル推定法の提案を試みた.従来の移動観測データを基にした推定手法が,入力データを確定した経路として与えていたのに対して,平均情報量を新たに定義するとともに,固定観測データを用いた推定法として,交差エントロピーを用いた推定方法を提案した.双子実験を用いて検証した結果,既存推定手法に対する有効性を確認するとともに,平均情報量推定が,観測精度によらず頑健な結果を示すことを明らかにした.

  • 米澤 実保, 清水 大暉, 羽藤 英二
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 734-741
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    交通空間の混雑緩和施策の実施検討は喫緊の課題である.従前の交通施策評価では交通需要そのものがODトリップ単位に固定化されたまま分析が行われるケースが多いため,急激な都市開発などによって時空間的に変化するトリップチェインを考慮した交通施策評価手法が求められている.本研究では時空間ネットワーク上で一般化RLモデルを援用し,スケジューリング問題を直接決定する動学最適化問題としてモデルを構築した.さらに実際のデータを用いて推定したパラメータ群によって,複数の条件組み合わせからなる交通施策シナリオを作成し,施策によって変化する局所的な空間の混雑緩和効果をDEA(Data Environment Analysis)を用いて総合的に評価するための枠組みを提案した.現実の都市空間におけるスケジューリングを,提案モデルは精度よく再現できていることを確認した.さらに,ネットワーク整備施策やTDM施策を検討する場合において,複数条件を組み合わせた施策パッケージを複数の指標から相対的に総合評価し,最適施策群が解曲面として判定されることを確認することができた.

  • 堀内 祐希, 栗田 治
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 742-749
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    現住地域から他地域へ移住する際の効用を、通勤距離、混雑、移住コストといった種々の要因から評価することができる。この効用を基に、人間は現住地域に居続けるか他地域に移住するか、ある種確率的な揺らぎも含みながら決定する。本論文では、このような人口推移のモデルを表す微分方程式を提示する。効用関数は、新しい居住地から都心との距離、移住の際の距離、新しい居住地の人口の大きさとパラメータによって表現されるものとする。この効用関数の定義やパラメータの値、初期状態によって、扱う微分方程式の均衡解の存在性や性質に及ぼす影響を明らかにすることができた。

  • 島ノ江 彩加, 雨宮 護
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 750-757
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    街頭に設置されたカメラにより撮影された画像は,従来の防犯目的を超えて幅広く活用されるようになり,設置主体や活用用途も多様になってきている.一方,カメラ画像の高度活用には賛否があり,今後の普及に向けては市民の受容が不可欠である.本研究は,街頭カメラの画像活用に対する市民の受容の要因をカメラ側の特性(活用用途,設置場所,設置主体)と人間側の認知(リスク認知,ベネフィット認知,設置主体への信頼度)の側面から明らかにすることを目的とした.東京23区に居住する310名の男女を対象としたウェブ調査によって得られたデータを分析に用いた.分析の結果,カメラ画像の活用用途,設置場所,設置主体により受容可能性が異なること,人間側のベネフィット認知はカメラ画像の活用用途によらず受容に影響する一方で,リスク認知は防犯目的においてのみ受容に影響すること,カメラ設置主体への信頼度は活用用途により受容に影響することなどが明らかとなった.最後に,これらの結果をもとに,将来のカメラ画像活用における課題について議論した.

  • 洪水避難機能の確保が小中学校の更新戦略に与える影響
    須ヶ間 淳, 奧村 誠
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 758-765
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    今後の人口減少期には,需要が減少し,また予算の制約から公共施設の維持が難しくなるため,各自治体は施設の削減を含めた更新計画を考える必要がある.公共施設によっては,施設の主要機能に加えて別の機能をも提供している場合があり,主要機能のニーズの減少に従って施設の削減を行えば,他機能が大きく損なわれる危険性がある.本研究では,多機能施設として,平常時に教育機能を提供する小・中学校を取り上げ,同じ学校施設の空間が副次的に災害時の避難場所としての機能も果たすことに着目する.メディアンモデルを土台とした多機能動的施設配置計画モデルを構築して,複数機能を両立させる更新戦略を選択するのに有効な分析方法を提案した.そして,具体的な都市を対象とする分析事例を通して,提案した分析方法の有効性を確認した.

  • 近藤 紀章, 中野 桂, 田中 勝也
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 766-771
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、社会属性と地域特性をふまえて、居住地選択に潜在的に影響を与える要因を分析し、モデル化することが目的である。分析によって、居住意向は「継続意向」、「保留・不明」、「転居意向」の3つに分類され、それぞれの特徴を把握することができた。潜在的に居住地選択を決断していくプロセスをモデル化するとともに、将来の居住に対して保留・不明という状態を、転居したいという状態から居住する意思と居住したいという性向を強めていく過程にあることを明らかにした。

  • 千葉 晟和, 栗田 治
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 772-779
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    最近では,買い物が不便な住民を助けるために,移動販売の活用が話題になっている.これに関する調査・報告書は散見される.しかし,移動販売に関する理論研究はあまりなされておらず,特にその立地競争的な側面に注目した研究はほとんど存在しない.そこでこの論文では,2つの小売店舗の存在を前提として,各店舗が移動販売も行い,住民は非集計ロジットモデルに従って店舗を選択する,というシナリオの下で,ホテリングの立地競争モデルを定式化する.結果として,利潤最大化行動の下でのナッシュ均衡,住民の総移動距離を最小化するシステム最適解,ならびに住民の総期待効用値を最大化するシステム最適解を明示した.さらに,移動販売を展開する上での都市計画上の留意点を述べた.

  • ATMの設置環境と犯罪の反復性に着目して
    大山 智也, 雨宮 護
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 780-787
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    特殊詐欺の一種である還付金等詐欺では,被害者が自治体や税務署職員を装った詐欺実行犯に税金の還付があるなどといわれ,ATMに誘導され犯人の口座に送金してしまうケースが多い.そのため,誘導されるリスクの高いATMを特定し,警察に警戒を促すことが有効な対策となりうる.本研究では,被害者が誘導されやすいATMの特性を明らかにし,ATMごとの詐欺誘導の発生リスクを予測するモデルを構築する.特に,ATMのおかれた物理的・社会的環境と反復被害に着目し,環境犯罪学の知見に基づき変数を設定しながら,過去のデータを用いてリスク要因を検討した.結果をもとに予測モデルを構築し,直近のデータに適用して予測精度を検証した.最後に,予測モデルの含意について議論した.

  • 2016年熊本地震での熊本県益城町の事例より
    佐藤 嘉洋, 円山 琢也
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 788-794
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    社会調査において,無回答者に起因する「無回答バイアス」が問題となっている.2016年熊本地震でもっとも大きな被害を受けた熊本地震益城町では,住まいの生活再建に係る意向調査が行われた.本調査は郵送調査と訪問調査を組み合わせて行われたが,分析の結果,郵送調査回答世帯と無回答世帯の間に災害公営住宅の希望割合の差があり,無回答バイアスが生じていた.本研究では,この無回答バイアス補正の検討を行うことを目的とする.まず災害公営住宅希望世帯の傾向を分析し,居住年数が長い地区,単身世帯,高齢世帯,ひとり親世帯.収入が低い世帯に希望が多いことが分かった.さらに,無回答世帯を意向の情報のみが欠落するアイテム無回答の状態とし,欠測データ補完法によるバイアス補正法の検討を行った.その結果,ホットデック法に比べてk-近傍法が有効であること,また,社会経済変数および悩みの情報を世帯の特徴とすることで,より良好なバイアス補正が行えることを示した.

  • 直線距離と制約付きドローン距離に基づく整理
    栗田 治
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 795-802
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    この論文では平面上の固定点から線分,円周,円盤への距離分布と距離の特性値を考察する.この距離をドローンの飛行距離と見做せば,本論文の結果はドローン宅配のモデル分析に応用できる.論文の後半では,円盤上の居住地を想定してドローンの飛行制約をモデル化する.これは住民の安全を図るために,ドローンの住宅地上空での飛行距離を最小化するものである.もしもこの制約を除くことができれば,ドローンによる配送の効率は向上する.本論文のこうした結果は,近い将来にドローンによる宅配を実現するための推進力となるかもしれない.

  • 近藤 大蔵, 鈴木 伸治
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 803-810
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    日本において,2000年代初頭より地方自治体は,文化・芸術のような「人の創造性」や「都市が持つ魅力や資源」に着目し,都市・地域の活性化,地域課題の解決,産業の振興に取り組んできた。地方自治体が創造産業の集積を目指す都市政策を展開する一方で,類似産業は東京大都市圏への集中が指摘される。地方方自治体のこれまでの取り組みを踏まえると,東京大都市圏以外の都市空間での創造産業の集積の程度や形態,特性を明らかにする必要がある。本研究では,経験ベイズモラン統計量及びローカル経験ベイズモラン統計量を用いて,創造産業の集積の実態を明らかにした。その結果,産業の分類及び,都市の構造によって,集積の形態に違いが見られることが分かった。大きく分けて(1)集中型 (2)分散型に分けられる。また,空間統計データ分析によって抽出された集積地では,集積が生じる際に受け皿となる地区の状況に差がみられる。具体的には,高層・超高層の建物が多数立地し,そこに複数の事業所が立地することによって,従業者を吸収し,集積を形成するタテ型の集積,低層・中層の建物が高密度に立地し,そこに面的に事業所が立地することによって形成されるヨコ型の集積が見られた。

  • 鈴木 庸介, 西尾 尚子, 伊藤 史子
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 811-817
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は都市部における歩行時ストレスの評価方法を提案することである。まず、歩行実験を実施し、取得した被験者の心拍変動データより各実験ルートにおける歩行時ストレス量を算出した。その後、歩行時ストレス量を目的変数、街路構成要素を説明変数としたマルチレベル分析を行った結果、歩道幅員と傾斜が歩行時ストレス量に優位に影響を与えていることが示された。また、マルチレベル分析の結果から、歩行時ストレスを推計するモデルを構築し、モデルを用いて研究対象地域の全街路の歩行時ストレス量を推計した。加えて、推計結果を地図上に可視化し、用途地域と比較したところ、第一種中高層住居専用地域の一部においてストレス量の大きい街路が散見された。

  • ヘドニックとDeep Neural Networkの比較
    前田 翠, 関本 義秀, 瀬戸 寿一
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 818-825
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    東京都市圏においては,民間企業や地方自治体主導の開発プロジェクトが近年増加している.そういった背景から,物件の賃料や不動産の価格を推定するシステムが必要されていると考える.価格の推定においてはヘドニックとDeep Neural Networkがよく用いられているが,それらの推定精度の優劣はデータ量やその特性,モデルを構築する環境によって変わるとされている.システムを構築するにあたって両モデルの推定精度や利点,限界を明らかにするために,データ量・特性の異なる2種類の不動産データを用いて,ヘドニックとDeep Neural Networkで物件の賃料・不動産価格推定モデルを構築した.また,近接する地域に立地する同規模・同種の建物でも賃料や価格が大きく異なるということが一般的に知られているが,そのような賃料・価格の違いをモデルに反映させるために,番地ダミー変数を説明変数として用い,モデルの推定精度向上を図った.その結果,データの特性や量,用いる説明変数に関わらず,Deep Neural Networkのモデルの方がヘドニックモデルよりも推定精度が高くなるということが示唆された.また,番地ダミー変数を用いて推定を行なった場合,立地以外を表す地域属性を加味せずとも十分な推定精度が確保されるということが明らかになった.

  • 地理的ベイズ多次元尺度構成法の提案と時間地図への適用
    西 颯人, 浅見 泰司
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 826-832
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,地点間の非類似度や距離の可視化に有用な,地理的ベイズ多次元尺度構成法を提案する.通常の多次元尺度構成法はこの目的で用いられる手法であるが,その投影は本来の地理的配置と大きく乖離した分かりにくいものとなる場合がある.この問題に対処するため,提案手法では多次元尺度構成法に対してベイズ統計的な地理的制約条件を導入した.これにより,制約条件の強さに関する統計的な規準が得られるため,制約の強さを適切に調整することができる.本稿ではこの手法を都府県間の公共交通による移動時間に適用することで,新幹線や航空機がアクセシビリティに及ぼす影響を可視化した.さらに通常の多次元尺度構成法と比較することにより,提案手法が本来の地理的位置関係に近い投影をつくる,可視化に有効な手法であることが確かめられた.

  • 静岡県の「豊かな暮らし空間創生住宅地」認定制度を通じて
    齊藤 広子
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 833-839
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、景観やコミュニティ形成の向上を目指した戸建て住宅地の供給を促進するために、静岡県の「豊かな暮らし空間創生住宅地」認定制度をとりあげて、制度の意義および課題、制度に基づいて作られた住宅地の居住者の評価を明らかにし、供給促進のための行政対応のあり方を検討するものである。当制度により、今までにこうした住宅地の供給の経験がない地元の事業者でも取り組みが可能となっている。また、居住者は認定制度の要件にそってつくられた住宅地の景観、コモンスペースでの人々の交流、管理組合等を評価している。今後、こうした住宅地のより供給を促進するには、行政各部署内の連携や、販売や管理システムの基準の設定等が今後必要である。

  • 立地適正化計画制度創設後の初動期の取り組みに関するアンケート調査の分析
    野澤 千絵, 饗庭 伸, 讃岐 亮, 中西 正彦, 望月 春花
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 840-847
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    立地適正化計画(以下、立適)策定済の自治体へのアンケート調査により、立地誘導施策として、①都市機能誘導区域内の整備、②居住誘導区域外の都市計画事業の廃止・縮小、③土地利用規制の変更、④区域指定を伴う居住誘導に関する支援策に着目し、立適創設後の初動期における立適の策定を機にした立地誘導施策の取り組み実態と課題を明らかにすることを目的としている。分析の結果、「都市機能誘導区域内の整備のみ」が44%と最も多く、次いで「いずれの取り組みもなし」が22%であったこと、都市機能誘導区域内の整備は、立適策定前からの整備計画を立適に位置付けた自治体が多かった。土地利用規制の変更の取り組みは、都市MPの策定時期が関係している自治体が多く、居住誘導区域内外の用途地域や特別用途制限地域の見直しや新規導入の動きが見られ、3411条例を導入している市町村の52%で何らかの見直しの動きが見られた。居住誘導に関する支援策の取り組みは、市全域を対象とする場合が多いが、一部で、立適策定を機に、居住誘導区域を補助対象にしたり、居住誘導区域内に加算するなどの見直し・新規導入が進められていること等が明らかになった。

  • 桑野 将司
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 848-855
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    鳥取市では移住者を増加させるために相談支援窓口の設置や定住促進・Uターン支援の専任相談員を配置するなどの取り組みを行っており,平成18年から平成29年9月までに,3,984世帯の移住検討者からの相談が寄せられている.ここでは,相談世帯の世帯属性や移住を検討する理由,相談内容などが相談記録票として記録されている.さらに,相談に訪れた世帯のうち,実際に鳥取市に移住した1,176世帯については追跡調査を行い,いつ,どこに移住したかなどの移住先情報が相談記録票と対応する形で保存されている.本研究は,これらデータを用いて,相談に訪れた世帯のうち,実際に移住に至った世帯と移住に至らなかった世帯の特徴を分析した.さらに,移住した世帯を対象に居住地選択行動を分析し,移住と非移住,居住地選択行動に影響を及ぼす要因を明らかにした.

  • 秋田県秋田市を事例に
    後藤 純
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 856-863
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    超高齢社会において住民が満足する快適な暮らしと持続可能な暮らしを拮抗させつつ理想的な都市空間を導くためには、コミュニティごとに、住民ベースで、地域の住環境を、地域住民自身のニーズとの対応の観点から点検・調査して、地域課題を具体的にするプロセスが重要である。介護保険制度における生活支援体制整備事業は、生活支援コーディネータと協議体を恒常的に設置し、住民主導で地域の居住環境をワークショップなどを通じて点検・調査を行うものである。本研究の目的は、秋田県秋田市を対象に、生活支援体制整備事業の制度と運用実態を明らかにし、居住環境についてどのような議論が行われているかを分析して、実態調査としての活用可能性について検討することを目的とする。また本事業への都市計画部局の関わり方について考察している。特に居住環境について、アクセシビリティに関すること、安全・快適に歩ける道に関すること、地域活動等のできる空間の有無・使いやすさに関することについて着目する。

  • 上郷ネオポリスにおける全戸悉皆調査から
    渡辺 隆太郎, 真鍋 陸太郎, 村山 顕人, 小泉 秀樹
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 864-869
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    郊外戸建住宅地は良質な住環境を持つ一方で、高齢化の影響を強く受けている。本研究では、郊外戸建て住宅地の動向を把握する上で、土地利用と転入者特性の2面から変化を捉えることが重要と考え、既存宅地の売却と空き家化、新規宅地の開発、転入者特性の計3つの視点から分析を行った。従来宅地の売却については、子供への相続が売却に繋がりやすく、今後は相続の結果売却に至るケースが増えると予想されることなどがわかった。新たな宅地開発については、駐車場の経営難などにより駐車場の宅地化が多く発生しており、そのようなケースでは従来より小規模な宅地が発生していることなどがわかった。転入者特性としては、従前居住地・従業地・競合物件の地理的範囲が狭まってきていることや、60歳以上の夫婦での転入の割合が高まってきていることなどがわかった。

  • 横浜若葉台団地における高齢者の自助・互助の実態とまちづくりの課題
    佐藤 由美
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 870-877
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    この研究は、超高齢社会における集合住宅団地の特性に適合した地域包括ケアシステム等を含むまちづくりの課題を明らかにすることを目的とする。この原稿では、急速に高齢化が進む横浜市にある若葉台団地を対象に地域包括ケアシステムの実態を高齢居住者の日常生活における自助・互助等の状況と、地域コミュニティによる互助的な活動の状況をもとに把握した。その結果、計画的に開発された住宅地である大規模集合住宅地区において、高齢期も安心して住み続けるようにするために、高齢者の生活やコミュニティに対応した施設整備等を実現するための都市計画の見直しとともに、集合住宅団地の空間構成や住宅管理体制等の特性を活かし、居住者の自助や互助の単位や体制に即したまちづくりを行っていくことが求められることが明らかになった。

  • 地域生活移行支援の矛盾
    阿部 正美, 田口 太郎
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 878-884
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、1.救護施設の立地条件からくる入所者の社会環境を考察した上で、2.居宅生活訓練事業の実施有無と地域生活移行状況の実態および、3.施設に関わる「組織の論理」と「個人の論理」の相違による現場での支援内容への影響を把握した上で、居宅生活支援事業の有無による地域生活移行支援の相違を明らかにすることを目的とする。

  • 茨城県下妻市を事例として
    島田 由美子, 藤井 さやか
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 885-892
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    1990年代後半以降、共働き世帯は増加し続けているが、公的な子育て支援の整備は遅れている。そのため、祖父母による子育て支援を期待する共働き世帯は多く、特に送迎支援に対する期待度は高い。高齢者による交通事故が社会問題化する中、孫の送迎という高齢者の車による「新たな移動」の発生は「新たな事故」の発生につながりかねない。本研究では、車に依存する地域を対象に、祖父母による送迎支援の実態を明らかにし、課題を整理する。アンケート調査とヒアリング調査の結果、祖父母世帯の3割がほぼ毎日、半数が週1回以上、孫の送迎をしていることが明らかになった。祖父母世帯の8割以上が運転できなくなると子育て支援に困るとし、6割以上が子育て支援が運転免許返納の時期に影響するとした。子育て支援を車に依存する地域においては、免許返納を遅らせる危険性がありながら、祖父母世帯が負担に無自覚なまま、長期的で高頻度な孫の送迎活動を行っており、早急な対策が必要であることが確認された。

  • 暫定状況が継続した所沢市を中心事例として
    今西 一男
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 893-900
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は人口減少局面における暫定逆線引きの適用を検討することにある。とりわけ、暫定逆線引きを解消した後の土地利用管理のアフターケアの必要性を提起した。また、所沢市において暫定逆線引きが解消されずに継続した理由を知ることから、暫定逆線引きの運用における知見を得ようとした。そのため、埼玉県における「埼玉方式」によって指定された27市町76地区の暫定逆線引きについて、フォローアップのための調査票調査を行った。その結果によると、土地利用の経過観察を行っているケースは区画整理が2、地区計画が1、市街化調整区域が1であるなど、アフターケアのとりくみが少ないことがわかった。また、所沢市における事例研究からは、区画整理を前提として他の解消手法への転換が行われなかった経緯、埼玉県との協議における問題などを析出した。以上をふまえて、暫定状況に時間的な定義を設けることや、アフターケアを定式化することの必要性を論じている。

  • 瀬原 稜眞, 松川 寿也, 中出 文平, 樋口 秀
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 901-906
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、地方都市の特定保留区域の指定経緯、維持手法を把握し、今後、人口減少下に対応した、特定保留区域の扱い方を調査し、そのあり方を提言することを目的とする。調査対象は、現在も維持している6自治体8地区、平成20年以降に廃止した7自治体14地区である。特定保留区域を維持し、人口フレームが減少している自治体では、特定保留区域を維持するために、現行の市街化区域設定手法の人口フレーム方式ではなく、特定保留区域を含む周辺地域で人口が増加していることを担保に市街化区域編入を果たした自治体があった。特定保留区域を廃止し、人口フレームが減少している自治体の多くは、地権者との合意が得られないことを要因としており、人口減少が直接特定保留区域の廃止につながった事例はほとんど見られなかった。

  • 市街化調整区域内空家の賃貸利用を許容する用途変更許可に着目して
    松川 寿也, 中出 文平, 樋口 秀
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 907-914
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、市街化調整区域の空家の賃貸化を目的とする開発許可制度に着目する。本制度を運用する新潟県、高知県、福岡市、松江市、東近江市の開発許可制度を対象として調査し、以下の知見を得ることができた。①開発許可制度を緩和して空家の賃貸を認める制度は、改正運用指針の発令以前からも設計されていたこと。②空家の賃貸を許可する開発審査会基準を定めた一方で、新たな住宅ストックの認める開発許可制度も制定されていること。③開発許可条例により、空家の賃貸を従来から許容する43条許可の用途変更許可は少ないこと。④空家の賃貸化を認める開発許可条例の区域内にも修繕を必要とする空家が多数あること。

  • 鹿嶋 康平, 松川 寿也, 丸岡 陽, 中出 文平, 樋口 秀
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 915-922
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、非線引き用途地域外に誘導区域を指定した都市を対象に指定実態及び経緯を明らかにすることで、非線引き都市での立地適正化計画制度に示唆を与えることを目的とする。詳細対象4都市(佐久市、亀山市、西条市、鹿児島市)に対してヒアリング調査及び分析の結果、新規開発予定地を含めた地区、用途地域の指定を想定しない地区等に誘導区域が指定され、集約化を図る制度に反する運用がされていた。さらに、詳細対象4都市で得られた知見を踏まえ、用途地域外に誘導区域を指定した11都市に対してアンケート調査を実施した結果、詳細対象4都市と同様な傾向を確認した。用途地域外に誘導区域を指定する際に、自治体が適切に制度を運用するための指針等を作成することが必要である。

  • 土地利用・建築規制、計画誘導、市場誘導に関わる制度の実態と課題
    木内 望
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 923-930
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、各地で都市部においても集中豪雨と浸水被害の発生が相次いでおり、地球規模での気候変動の影響ともいわれており、従来からの堤防やダム等の構造物による洪水防御に加えて、氾濫を前提とした施策の推進の一環として、都市計画や建築分野における対応を求める声もある。水害リスクを踏まえた建築・土地利用マネジメントについても、さまざまな取り組みが、実践面及び研究面においてなされつつあるが、こうした取り組みと諸制度との関係については、管見するところ個別に論じられるだけで体系的な整理がされていない。そこで、日本における建築・都市・住宅等の分野の制度・仕組みにおける水害リスクの考慮の実態や、水害リスクを考慮した規制・誘導の可能性と課題について、土地利用・建築規制、計画誘導、市場誘導の3分類に区分した上で、法制度上の位置づけや実際の適用事例、既存研究における指摘等をもとに検討した。

  • 当初決定とその後の拡大に着目して
    蕨 裕美, 松川 寿也, 中出 文平, 樋口 秀
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 931-937
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、都市計画法施行令第8条に着目し、拡大した部分の市街化区域がこの条文を満たしているかを、市街化区域内に指定されている災害リスク区域を分析することで明らかにし、今後の市街化区域に示唆を与えることを目的とする。地方都市71を対象とする分析から詳細対象7都市を選定した。7都市に対して、災害の恐れのある場所に拡大した時期を把握するために、各定期見直しで拡大した部分に占める災害リスク区域の割合を算出した。土地区画整理事業や県の住宅供給公社による宅地造成等の開発によって災害の恐れのある場所に拡大したことがわかった。また、農用地区域の保全を優先した結果、災害の恐れのある場所への拡大を防げた都市もあった。

  • マルケ州マチェラータ県カメリーノに着目した調査より
    柏崎 梢, 松丸 亮
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 938-944
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は2016年イタリア中部地震の復興期に焦点をあて、主に住宅・市街地供給および市街地復旧段階における関係組織間の連携に着目するものである。本論では近年法規制の改正を伴い変化を見せているイタリアの地方自治の特徴を整理したうえで、2016年の中部地震によって浮き彫りとなった復興プロセスの特徴と課題を分析した。マルケ州およびカメリーノでの異なるレベルでの調査分析より、中央政府と基礎自治体レベルでの復興プロセスが並行的に進んでおり、その過程において、住民生活の課題が浮き彫りになる中、基礎自治体レベルでは大学等の新たな主体との連携が重要になっていることが明らかとなった。

  • 大学生のケーススタディ
    水城 寛子, 松本 純也, 三谷 智子, 山田 圭二郎
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 945-952
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    昨今,河川空間,道路空間,公園・広場等の公共的空間を巡る利活用が盛んになりつつある.本研究では,広場,水辺,オープンカフェの3つの公共的空間を対象として,大学生を被験者に,空間の質的な評価とそれを評価する主体のパーソナリティとの関係を,パーソナリティ測定のBig Five尺度を用いて統計的に解析することを目的とした.結果として,空間の質的な評価(受け止め方)とパーソナリティBig Fiveのいくかの尺度との間で,統計的に有意な差が認められた.特にBig Five尺度の「外向性」「誠実性」の得点が高い群においては,いずれの空間もその「開放感」を高く評価し,単なる物理的な空間の広がりにとどまらず,意味的な開放感(各々の自由な活動に開かれた雰囲気等)を感じていることが示唆された.ここでは,「外向性」「誠実性」をもったパーソナリティを「共同的主体性」と呼び,本研究結果と既往の言説を踏まえて,公共空間を主体的に使う主体の条件としての「共同的主体性」の重要性とそのような主体を育む場としての公共的空間の重要性を指摘した.

  • 日本ナショナルトラストによる観光資源保護調査を対象として
    佐藤 宏樹, 松井 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 953-959
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、地域の遺産を再評価する調査が各地域で実施されている。本研究は、公益財団法人日本ナショナルトラストによる観光資源調査を事例として扱い、地域遺産調査の内容が地域のまちづくりにおいてどのように活用されているのかという実態を明らかにする。結果は以下の通りである。(1)調査に基づく提言は、地域のまちづくりの段階に応じた内容となっている。(2)事例対象地において、調査に基づく提言内容は住民や行政によるまちづくりにおいて実践される段階にあった。(3)調査と提言内容の活用においては、その内容を理解する調査時の体制が活用されていた。

  • 自主条例との関係性に着目して
    宮下 拓也, 松井 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 960-966
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、パチンコ店の建築をめぐる反対運動が全国で発生している。本研究は地区計画と特別用途地区によるパチンコ店の立地規制の実態と策定経緯を明らかにすることを目的とする。分析対象地は、自主条例によるパチンコ店の立地規制を行う京阪神都市圏の29自治体である。結論は以下の通りである。(1)京阪神の26自治体で地区計画・特別用途地区と自主条例が並存していた。(2)特に、大和郡山市・芦屋市・宝塚市で、意識的に2種類の規制を並存させていると判断できた。(3)3自治体は、自主条例によってパチンコ店が規制されていることを、地区計画の基準設定や住民説明の根拠としていた。

  • 横浜市日本大通りにおける都市政策上での位置づけ・空間利用実態・利用者意向に着目して
    高橋 亮, 野原 卓, 三浦 詩乃
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 967-974
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、(1)公共空間としてのストリートの機能及び都市政策上の位置付け、(2)ストリート空間の利用実態、(3)運用状況に対する利用者意向を明らかにすることにより、都心部における公共空間としてのストリートの役割とその実態を明らかにした。対象地は、国内の代表的近代街路の1つである横浜市の日本大通りであり、70年代の都市デザイン政策以降、都心の「緑の軸線」の一部として位置付けられてきたストリートである。2000年代再整備の計画主体への聞き取り、利用者に対する観察調査およびアンケート調査等を実施し、日本大通りの機能は複数回の再整備を経て、歩行者活動に考慮して更新されてきたことを示した。また、利用者はイベントによるにぎわいだけでなく、地域によりマネジメントされた景観と緑陰による日常の快適性を評価していると明らかになった。これらを総括し、国内ストリートの再整備プロセスにおいては、こうした快適性にも配慮した包括的デザイン実施を重視すべきという結論を導いた。

  • 木村 優輝, 嘉名 光市, 蕭 閎偉
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 975-982
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    観光地化が進む都市では、来訪者の増加によって、近隣の人々による利用が低下している地域がある。本研究では、大阪市道頓堀・戎橋筋周辺の街路において追跡調査を行い、街路上の歩行者の行動を把握した。それにより得られた結果を用いてクラスター分析を行うことで、対象地の街路を歩行者の行動の観点から9タイプ、歩行者の属性の観点から6タイプに類型化することができた。これらの街路類型を街路の空間特性と比較することによって、歩行者行動に影響を与える要素を把握することができた。結論として、観光地化が進む都市において、近隣の人々と旅行者が快適に共存し、調和のとれた歩行環境を実現するためには、地区内における歩行者を、地区全体で上手く分担することが求められると考えられる。

  • ラグ数判断課題に基づく検討
    白柳 洋俊, 倉内 慎也, 坪田 隆宏
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 983-989
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,街並の視覚刺激が主観的経過時間を短縮するとの仮説を措定し,室内実験を通じて同仮説を検証した.魅力的な街並を想起する際,その経過時間が実際よりも最近のことのように感じられる主観的経過時間の歪みが生じることがあり,同感覚が魅力的な街並を形成する要因の一つである可能性がある.主観的経過時間の短縮は,印象価や文脈効果といった強い視覚刺激を想起する際,同想起に関わる処理の流暢性が高まることで生じる.そこで本研究では,和風型街並に対象を絞り,和風型街並画像の和風印象価及び文脈効果が主観的経過時間の歪みに与える影響をラグ数判断課題により検討した.実験の結果,街並画像の和風印象価が高いほど,また文脈効果が大きいほど主観的経過時間が短縮する傾向,すなわち上記仮説を支持する可能性が示された.

  • 木藤 健二郎
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 54 巻 3 号 p. 990-997
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/06
    ジャーナル オープンアクセス

    オスロ市においてグリーンストラクチャー(以降GS)は、公園、緑地、トレイルのネットワークであり、1953年に最初の市マスタープラン(以降MP)に河川を主軸としたGSを示した。日常的に自然に触れる機会やレクリエーションに加え、近年は雨水管理の機能もGSに期待される。本研究はGSの水辺とネットワーク整備に着目し、GS計画の変遷と整備実態について明らかにし、1953年MP実行を支えた仕組みを、計画の階層性に着目して考察ことを目的とする。市・都市・敷地スケールの計画による整備実態を分析し、以下の点が明らかとなった。1)GSは都市拡大と共に整備され、主な計画手法は年代順に、GS単体計画、広域地区計画、地区別MPと地区詳細計画による階層的計画へと変遷した。2)地区別MPはGSの即地的計画と、民有地に対する規制事項を示し、地区詳細計画はGSと市街地との繋がりやGSの機能内容等を詳しく定める階層性を持ち、民間の地区詳細計画も組み込むGS整備に貢献していた。3)雨水管理策においても階層的計画により、民間開発・GS・河川が空間的にも雨水管理としても連続する雨水管理策として、開発地区同士が、河川により広域的に繋がれる位置に策定されていた。

feedback
Top