日本環境感染学会誌
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26 巻, 6 号
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原著論文
  • 浦上 生美, 山口 乃生子
    原稿種別: 原著論文
    2011 年 26 巻 6 号 p. 339-344
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
      救急隊員は傷病者の血液や体液に曝露する危険性に直面している.感染防護用具の選定や廃棄方法,手洗い場所など,標準予防策を中心とした感染防止対策に関する現在の救急隊員の意識や実態については明らかになっていない.
      今回,埼玉県内消防署28か所に勤務する救急隊員384名を研究参加者として,質問紙による標準予防策に関する理解度や実践度を指標とした意識調査,および救命処置における標準予防策の実態調査を行った.その結果,救急隊員の資格によって標準予防策の理解度に違いが認められた.また,救急救命士は標準予防策の意識が高いにもかかわらず,必ずしも標準予防策に従って実践しているとは言えないことがわかった.今後は救急現場で標準予防策を普及していくため,救急隊員に対する標準予防策の教育を実施して知識を熟知させ,感染防止の意識や行動・態度を高めていくことが重要である.
  • 黒須 一見, 小林 寬伊, 大久保 憲
    原稿種別: 原著論文
    2011 年 26 巻 6 号 p. 345-349
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
      結核患者を受け入れている施設ではN95微粒子用マスクの使用頻度は高く,毎回着用時にユーザーシールチェックを実施し,年1回程度定性的なフィットテストを実施する必要がある.ユーザーシールチェックは,着用者自身の感覚による影響があり,毎回実施していれば適切な使用ができているとはいいきれない.今回,医療機関における正しい呼吸器感染防護具の使用法の促進のため,N95微粒子用マスクの漏れ率に関する検討をおこなった.
      JIS規格日本人標準人頭にN95微粒子用マスク9種類を着用させた状態で,労研式マスクフィッティングテスターMT-03型®を用いて漏れ率を各15回測定した.
      更に,漏れ率の低値だった製品を選択して,同一製品間の漏れ率のばらつきを検討した.
      その結果,国産製品と折りたたみ型製品がカップ型製品よりも漏れ率が低く,より密着性が高かった.微粒子測定器(particle counter)を使用して漏れ率を定量的に示すことで,日本人に適した種類やサイズを示すことが可能となった.
      漏れ率の低かった3社製品について,同一製品間のばらつきを検討した結果,同一製品間のばらつきが少ないことが明らかとなった.
報告
  • 内海 桃絵, 藤田 真由子, 牧本 清子
    原稿種別: 報告
    2011 年 26 巻 6 号 p. 350-358
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
      全国の病院の系統抽出法による質問紙調査を実施し,病床数別の感染管理体制と教育体制,尿道留置カテーテルケアの違いについて検討を行った.対象は,100床以上の病院に勤務する感染管理リンクナースまたは主任看護師とした.回収率40%,1318通を分析対象とした.「感染管理を専任もしくは専従で行う看護師がいる」(p<0.001),「リンクナース制度がある」(p<0.001),「ICTがある」(p<0.001)と回答した割合は大規模施設ほど有意に多かった.病院全体で実施されている「医療施設関連感染に関する」研修会を年2回以上実施と回答したのは,700床未満の病院では69~82%,700床以上の病院では92%であった.病棟で尿道留置カテーテルケアに関する教材を「持っている」と回答した割合(p<0.001),病棟内において尿道留置カテーテルの研修が「ある」と回答した割合(p<0.001)は,大規模施設ほど有意に多かった.膀胱洗浄を「行っていない」割合は,大規模施設が有意に高かった(p<0.01).尿排液時の手袋は施設規模にかかわらず,ほぼ全ての施設で使用していた.しかし,患者毎に交換していると回答した割合は大規模施設の方が多かった(p<0.001).尿回収容器を患者毎に交換している割合も同様であった(p<0.001).病院規模が大きいほど,感染管理体制・教育体制が充実し,尿路感染予防ガイドラインにそったケアが実施されている傾向がみられた.
  • 中川 博雄, 高見 陽子, 栗原 慎太郎, 塚本 美鈴, 栁原 克紀, 安岡 彰, 北原 隆志, 佐々木 均
    原稿種別: 報告
    2011 年 26 巻 6 号 p. 359-361
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
      国内におけるリキッド状速乾性手指消毒薬の適正な擦り込み量は,米国疾病管理センター(CDC)のガイドラインに準拠した3 mLが推奨されている.そのため,国内で適正な擦り込み量に関する検討はほとんど行われていなかった.本研究では,国内で最も汎用されている0.2%ベンザルコニウム塩化物含有エタノールリキッド製剤の擦り込み量の違いによる効果の比較検討を行った.その結果,リキッド製剤の場合,擦り込み量は被験者の体格差に関係なく2 mLで十分であることが明らかとなった.
  • 松永 宣史, 山田 陽子, 山田 加奈子, 内海 健太, 中南 秀将, 野口 雅久, 笹津 備規
    原稿種別: 報告
    2011 年 26 巻 6 号 p. 362-368
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
      接触感染は,院内感染の最も主要な感染経路である.接触感染の防止には,患者や医療従事者が頻繁に触れる場所(高頻度接触表面)の汚染状況を把握し,医療従事者の病院内環境に対する意識を向上させる必要がある.本研究では,院内感染の主要な原因菌であるPseudomonas aeruginosa,メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA),およびSerratia marcescensについて,高頻度接触表面の環境調査を行った.2005年から2008年の4年間,のべ1,513試料から,MRSA 13株(0.9%),P. aeruginosa 69株(4.6%),およびS. marcescens 24株(1.6%)が検出された.検出された細菌の特徴を調査するため,抗菌薬感受性試験およびパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行った.その結果,環境分離MRSAの抗菌薬感受性と遺伝学的背景は,臨床分離株と類似していた.一方,環境分離P. aeruginosaおよびS. marcescensの80%以上が,調査した抗菌薬全てに感受性を示した.また,環境分離P. aeruginosaと臨床分離株の遺伝学的類似率は低いことが明らかとなった.したがって,高頻度接触表面に付着していたMRSAは患者や医療従事者由来株であり,P. aeruginosaおよびS. marcescensの大部分は,環境細菌であることが強く示唆された.さらに,細菌検出数の経時変化を調査したところ,初回調査時の18株/89試料(20.2%)が最も多く,調査2回目は7株/89試料(4.5%)と大きく減少した.これは,MRSAの検出数が著しく減少したことに起因していた.したがって,環境調査を行うことによって,職員の環境に対する意識が向上し,各部署における清掃および消毒が頻繁に行われるようになったと考えられる.
  • 青木 昭子, 武田 理恵, 満田 年宏
    原稿種別: 報告
    2011 年 26 巻 6 号 p. 369-373
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
      横浜市立大学附属病院における針刺し・切創,血液・体液曝露(血液曝露)を集計して,研修医の血液曝露の頻度や好発時期,発生場所,発生状況を検討した.さらに研修医を対象とした質問用紙調査を実施して事例の報告率を調べた.病院全体で2007年4月から2010年8月の41カ月間に320件の報告があった.研修医数は毎年約70人で病院全体の医療スタッフ数の5%に過ぎないが,研修医からの報告は59件で,全体の18%を占めた.研修医の血液曝露は病棟と手術部で発生することが多く,看護師や医師と異なり4,5月よりも7月に報告が多かった.発生状況は鋭利器材の使用中が多く,医師と異なり採血後の血液分注時,静脈留置針挿入時での発生が多かった.質問紙調査の結果では回答者32人(回答率53%)中9人がのべ13回の血液曝露を経験していたが,その報告率は50%と低く研修医の「過少報告」が明らかとなった.今後,研修医の事例の特徴を踏まえた防止対策を立てるとともに,報告しやすい手順,環境を作ることが重要と考えた.
  • 立花 幸晃, 片岡 朋江, 志賀 誠
    原稿種別: 報告
    2011 年 26 巻 6 号 p. 374-377
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
      国内でのA(H1N1)2009pdmウイルスワクチン(以下,新型インフルエンザワクチン)の成人における有効性については78.6%と報告されたのを受けて,当院職員のワクチン接種前後での抗体保有状況を調査する目的で,新型インフルエンザワクチン接種日および接種4週後に同意の得られた62名の職員より採血し,HI抗体価の測定を実施したところ,有効防御免疫の指標とされている1:40以上のHI抗体価をワクチン接種後に示したのは49名(79%)であった.接種前の抗体価に関しては,12名(19%)に1:10以上の抗体保有が確認され,1:40以上を示したものが4名であった.今回の検討では,ワクチン接種後の有効抗体保有率は国内臨床試験結果にほぼ一致する結果で,接種前に1:10以上の抗体保有者を12名(19%)認めたが,パンデミックインフルエンザ(H1N1)2009(以下,新型インフルエンザ)の罹患エピソードはなく,不顕性感染の可能性も考えられた.有効抗体保有者のHI抗体価は概ね1:40~1:160に集約され,抗体検査実施群からの罹患者は認めなかった.職員全体としても流行期の罹患届出件数は10件にとどまり,院内でのアウトブレイクが生じなかった要因はワクチンの有効性だけではなく,新型インフルエンザに対しての意識が従来の季節性インフルエンザよりも高く,手指衛生の強化,マスク着用などの院内感染対策の励行にあると考えられた.
  • 小笠原 康雄, 荒川 隆之, 池本 雅章, 岡田 麻衣子, 岡野 太一, 竹山 知志, 土井 久美子, 藤井 秀一, 松本 俊治, 向田 俊 ...
    原稿種別: 報告
    2011 年 26 巻 6 号 p. 378-384
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
      広島県下19施設における各抗菌薬のAUD値と耐性菌検出率について2010年1月から6月の6ヶ月間調査を行った.各施設のAUD値から各抗菌薬のパーセンタイル値を算出することにより,自施設の抗菌薬使用状況を客観的に他施設と比較することが可能となった.施設毎のAUD値の比較では,MEPMやIPM/CSで高い値の施設があり,施設内でカルバペネム系薬が適正に使用されているかの確認が必要と考えられた.抗菌薬のAUD値と耐性菌の検出率の関係については,S. aureusのうちMRSA検出率は,CMZのAUD値と負の相関がみられ,CAZ, CTRX, CFPMのAUD値とは相関がみられなかった.E. coliのうちESBLの検出率はCFPMのAUD値と有意差はないが,正の相関傾向がみられ,CAZ, CTRXのAUD値とは相関がみられなかった.P. aeruginosaは,カルバペネム耐性P. aeruginosaの検出率と,MEPM, IPM/CSのAUD値には,相関関係はみられなかった.抗菌薬耐性菌の出現には,抗菌薬と使用量だけでなく,他の様々な要因も関係していると考えられ,今後は更に,詳細な検討が必要と考えられた.同じ医療圏の多施設が共同で,抗菌薬のAUD値と細菌の耐性化についてサーベイランスを実施していくことは,地域全体の耐性菌出現を抑制していくのに有用と考えられた.
  • 小野 祐志, 上田 恒平, 渋谷 豊克, 赤瀬 望, 徳永 康行, 清水 潤三, 東 孝次
    原稿種別: 報告
    2011 年 26 巻 6 号 p. 385-391
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
      抗菌薬の使用状況を適切に評価することは薬剤師にとって重要な役割である.当院においては,2005年12月15日よりカルバペネム系薬の使用許可制度を導入し,抗菌薬の使用状況に大きな変化がみられた.その後は,使用制限の有用性を持続させることが重要な課題であり,適正使用に関する啓発活動を継続的に行ってきた.一方,薬剤師には各診療科の使用量や使用日数を個別に判断することが求められているが,標準的な指標がなかった.今回,1日平均使用量と延べ使用日数の割合を新たな指標として,院内全体および各診療科におけるグラフを作成し評価を行った.結果,ペニシリン系薬,第四世代セフェム系薬,カルバペネム系薬は高用量での使用が多かった.また,ペニシリン系薬,第一世代・第二世代・第三世代セフェム系薬が汎用されており,第四世代セフェム系薬,カルバペネム系薬が少ない傾向であった.いずれの診療科においても,院内基準から逸脱する不適正な使用はなかった.このように,本グラフは抗菌薬の使用量と使用日数を評価する標準的な方法として非常に有用性が高いといえる.
  • 佐藤 勝紀, 山口 育男, 木下 恵子, 高橋 一嘉, 伊藤 賀代子, 山本 景三
    原稿種別: 報告
    2011 年 26 巻 6 号 p. 392-400
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/02/03
    ジャーナル フリー
      2003年4月から2010年3月に臨床分離された緑膿菌6587株について,抗菌薬の使用量と抗菌薬感受性および交差耐性の関係を調査した.
      調査期間中にMBLs産生株は22株(0.33%)分離され,MDRPは2007年度に尿から3株分離された.MBLs産生株の分離は,2004年度4株(0.4%),2005年度8株(0.8%),2006年度6株(0.7%)で,この期間に集中していた.カルバペネム系,アミノグリコシド系,ニューキノロン系抗菌薬の総AUDは経年的に増加し,特にMEPM, AMK, CPFXの増加が著しかった.
      抗菌薬感受性は感性,中間値,耐性の3段階で判定し,2006年度の前後3年間におけるAUDと感受性を比較した.AMK, IPM/CS, MEPM以外の抗菌薬は,AUD増加に伴い,耐性株が有意に増加していた.AMKは耐性株と中間値株の増加に差がなかったが,IPM/CSとMEPMは中間値株が有意に増加し,CAZでは耐性株と中間値株の両方が有意に増加していた.
      MEPM耐性株がIPM/CS耐性株および中間値株と交差耐性を示す割合は,2003年度から2006年度まで100%であったが,2007年度から交差耐性を示さない株が分離された.MEPMのAUD増加による影響が示唆された.IPM/CS耐性株より,MEPM耐性株は,CPFX耐性株と交差耐性を示す割合が有意に高かった.緑膿菌の抗菌薬感受性は,殆どの抗菌薬がAUDと密接に関係していた.感受性を長期に監視する上で,AUDは重要な因子と考えられた.
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