日本環境感染学会誌
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29 巻, 4 号
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総説 (疫学・統計解析シリーズ)
  • 福田 治久
    2014 年 29 巻 4 号 p. 231-239
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/05
    ジャーナル フリー
      手術部位感染サーベイランスは本シリーズ第6回において取り上げたデバイス関連感染サーベイランスとは異なり,(1) 分子データに相当する手術部位感染の発生者数が比較的多い,(2) 手術手技別に実施されるため分母データに相当する手術件数が比較的少ない,(3) 手術部位感染のリスク因子情報をサーベイランスにおいて収集しているためリスク調整が可能である,といった特徴を有している.手術部位感染の発生者数が比較的多いことから,適切な対策を講じることができた場合,改善の余地が大きい.一方,改善を定量的に評価する際には,手術件数がさほど多くないなかで,複数のリスク因子を調整しなければならないため,患者重症度の補正方法の選択が重要となる.本邦においては,リスクインデックスを用いた層別解析を中心とした患者重症度補正を行っている.
      本稿では,代表的な患者重症度補正手法である(1)層別化と(2)標準化について,各手法の実施方法や課題などを解説し,手術部位感染サーベイランスデータを用いた評価・分析方法について紹介する.
  • 福田 治久
    2014 年 29 巻 4 号 p. 240-255
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/05
    ジャーナル フリー
      「測定なくして改善なし」という至言が示すように,改善の第一歩はデータの測定から始まる.本シリーズの第1回から第7回にかけて,研究デザインの視点やデータ収集方法の視点からデータ測定について解説してきた.しかし,改善したかどうかを判断するためには,データを適切に評価することが必要になる.なぜなら,リアル・ワールドは,患者,医療者,施設環境,外部環境が日々ダイナミックに変動しており,測定されたデータは複雑に絡み合った糸のようであり,真相を読み解くことが至難であるためである.
      感染対策の立案者は,この複雑に絡み合ったデータの糸を読み解き,適切な対策を講じる責務がある.事象の因果関係を明らかにすることは難しいが,事象間の関連性を明らかにすることは,適切な知識を有することで可能になる側面がある.なぜなら,世界中で同じような志を有する医療者や研究者が数多くの研究成果を日々報告しており,感染対策立案者がこうした成果を読み解くことで,自施設への一般化を図るためのヒントが数多く存在するためである.ただし,研究成果の大半は,多変量回帰分析が用いられていることから,多変量解析の結果を読み解く知識が不可欠である.
      本稿では,最初に,最も基本的な回帰分析である線形回帰分析について解説する.次に,世界中の科学論文に数多く使用されているロジスティック回帰分析について解説する.
原著論文
  • 木下 大介, 大木 康史, 坂木 晴世, 岡崎 薫, 戸石 悟司, 徳永 康行, 星野 智子, 美島 路恵, 大城 誠
    2014 年 29 巻 4 号 p. 256-264
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/05
    ジャーナル フリー
      本邦には新生児集中治療室(neonatal intensive care unit: NICU)の医療器具関連感染に関するベンチマークデータはない.今回,9施設のNICUで出生体重1500 g以下の患者を対象とし,全米医療安全ネットワーク(National Healthcare Safety Network: NHSN)のサーベイランス手法を用いて2010年から2011年までのデータを収集した.感染の判定には米国NHSNの診断定義を使用した.中心ライン関連血流感染(central line-associated bloodstream infection: CLABSI)数は10件で,CLABSI発生率は1000 device-daysあたり750 g以下群が0.7件,751–1000 g群0.7件,1001–1500 g群0.5件であった.また,臨床医がCLABSIと判定したもののNHSNの定義に該当しなかった症例が17件あった.人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia: VAP)発生率は,1000 device-daysあたり750 g以下群3.3件,751–1000 g群5.0件,1001–1500 g群3.6件であった.CLABSI発生率はNHSNデータよりも低く,VAP発生率はNHSNデータよりも高かった.中心ラインと人工呼吸器の使用比は,750 g以下群が0.28と0.37,751–1000 g群0.26と0.22,1001–1500 g群0.22と0.08であった.中心ライン使用比はNHSNデータよりも低く,人工呼吸器使用比はNHSNと同等の値であった.今後は国際比較が可能なサーベイランスシステムの構築や,医療器具関連感染のリスク因子解析と感染対策の検証が必要である.
報告
  • 鈴木 広道, 石丸 直人, 木下 賢輔, 中澤 一弘, 大西 尚, 木南 佐織, 多留 賀功, 石川 博一
    2014 年 29 巻 4 号 p. 265-272
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/05
    ジャーナル フリー
      白衣・聴診器は多剤耐性菌による汚染源となるが,白衣の交換頻度,聴診器の消毒の有無に関して我が国では実態調査は行われていない.今回,国内の4病院において入院診療に携わる常勤医を対象に2013年7~8月の期間において,アンケート調査を実施した.対象医師314名中312名より協力が得られ,有効回答が得られた308名(98%)において解析を行った.白衣の交換頻度は約半数(48%)で週1回程度であり,毎日白衣を交換している医師は23名(7.5%)であった.聴診器膜面のふき取りは162名(53%)で実施されていたが,患者1人毎の診察でふき取りを行っている医師はその内37名(23%)であった.背景因子との比較において,医師経験年数(10年以上)が白衣の交換頻度の低下と独立して関連を認めていた(p=0.04).男性医師において聴診器膜面の消毒が行われる頻度が低い事が示唆された(p=0.01).いずれも施設間の差は独立因子としては認めなかった.多剤耐性菌の抑制には,毎日の白衣交換,患者毎の聴診器膜面消毒が重要であるが,本研究において適切な白衣交換,聴診器膜面消毒が行われている割合は少数であることが示された.今回のデータを基に対象施設における改善を図ると共に,大規模な実態調査を行い,白衣交換・聴診器膜面の消毒が適切に行われていない要因をより明らかにする必要がある.
  • 鈴木 さつき, 村田 弘美
    2014 年 29 巻 4 号 p. 273-279
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/05
    ジャーナル フリー
      医療関連感染は主に医療従事者の手を介した接触感染により成立するため,手指衛生は感染管理上最も基本的かつ,重要な対策である.また,効果的な手指衛生は適切な手技だけではなくそのタイミングにある.当院は2010年より直接観察法による手指衛生のタイミングに関するサーベイランスを行い,遵守率は年々上昇傾向にあった.しかし,2012年にICUにおいてmethicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)のアウトブレイクが発生したため,手指衛生に加えて手袋着脱のタイミングについてもサーベイランスおよび啓発活動を行った.その結果,全項目の平均遵守率に有意差は見られなかったものの,90%から96%となり(p=0.096),本サーベイランス実施後はアウトブレイクの発生は見られず,MRSAの検出率は4.56件/1,000 patient daysから1.8件/1,000 patient daysと有意な減少を認めた(p=0.002).本検討では直接観察法によるサーベイランスの継続とそれを通じたマンツーマン指導の実施,ポスター掲示で視覚的に学習する機会を設ける,といった多方面からの教育に加え,環境整備やスタッフ間の協力を得るなどの業務改善が手指衛生・手袋着脱のタイミングに関する遵守率の上昇と維持,MRSAの新規検出率の低減に効果的であることを示唆している.
  • 吉田 奈央, 野口 周作, 望月 徹, 上野 ひろむ
    2014 年 29 巻 4 号 p. 280-286
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/05
    ジャーナル フリー
      病院の感染制御において抗菌薬適正使用は大変重要であり,各施設で様々な取り組みが行われている.日本医科大学武蔵小杉病院(以下,当院)では2004年8月にinfection control team (ICT)発足後,段階的に抗菌薬適正使用強化策を行ってきた.その一環として2010年5月よりICT抗菌薬ラウンド(以下,ラウンド)を実施し,今回その有用性について検討し,若干の知見を得た.2010年5月~2013年3月までにラウンドした387例のうち3日未満の死亡・退院や該当検査未測定,カルテ閲覧が出来なかった症例を除き265例を調査対象とした.ラウンド時に推奨した結果により継続症例,中止症例,変更症例に分け,それぞれ白血球数,CRP及び体温の推移を調査した.中止症例ではCRPのみ有意に低下し,白血球数,体温は低下傾向を示した.継続症例と変更症例では7日目で白血球数,CRPの有意な低下を示した.推奨治療に変更後,菌交代現象や基礎疾患による臨床状況の悪化症例があったが,感染症治療に悪い影響はあたえなかったことから推奨治療は妥当であったと思われる.従って,ラウンドは特定抗菌薬の長期使用抑制,適切な投与量への変更やde-escalationを促し,抗菌薬適正使用と感染症治療に有用であると考える.本結果を踏まえ,今後はより高い水準の抗菌薬適正使用と感染症治療支援に携わっていきたい.
  • 高野 尊行, 中薗 健一, 薄井 啓一郎, 仲澤 恵, 梅田 啓, 池野 義彦, 中丸 朗, 阿久津 郁夫
    2014 年 29 巻 4 号 p. 287-292
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/05
    ジャーナル フリー
      海外ではClostridium difficile感染症(CDI)発症と,いくつかの抗菌薬の投与の関連性が示唆されている.そこで,当院の患者を対象とし,系統別抗菌薬投与とCDI発症との関連性について検討を行った.2005年7月から2007年12月までに,CDIが疑われC. difficile toxin A (CD toxin A)検査を実施した全ての患者のカルテ調査を行った.CD toxin A陽性のケース群と陰性のコントロール群で,系統別抗菌薬投与によるCDI発症のリスクを比較検討した.対象期間に下痢を発症しCDIが疑われ,CD toxin A検査を行った患者は269例であった.ケース群では,抗菌薬投与56例,抗菌薬未投与3例,コントロール群では,それぞれ169例と41例であった.多重ロジスティック回帰分析にて比較し調整オッズ比(AOR)を算出した結果,有意にCDI発症を上昇させた抗菌薬は,フルオロキノロン系(AOR, 9.0 [95% confidence interval, 2.7–29.9]),第2世代セファロスポリン(AOR, 7.2 [95% confidence interval, 2.4–22.1]),第3世代セファロスポリン(AOR, 4.1 [95% confidence interval, 1.4–11.8])であった.今後,多施設による研究および個々の抗菌薬とCDI発症の関連性の調査を行う必要性があると考えられた.
  • 國領 俊之, 木下 桂, 芳尾 邦子, 福本 知代子, 南部 卓三
    2014 年 29 巻 4 号 p. 293-298
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/05
    ジャーナル フリー
      公立甲賀病院では,2011年6月に院内保育所において流行性角結膜炎(EKC)が集団発生し,1週間の院内保育所閉鎖を行った.院内保育所でのEKC集団発生に対して感染対策チーム(ICT)が介入した報告は見当たらない.本論文では,EKC集団発生に対するICTの介入効果について検討を行った.集団発生の原因として,ICTの介入が遅れたこと,接触感染予防が不十分であったことが考えられた.ICT介入による予防対策として,(1)早期からのICTの介入,(2)早期の感染患児の隔離及び受診と帰宅,(3)接触感染対策及び環境消毒の強化を行った.ICTの介入後(1)~(3)は実施されており,EKC発症率の差は有意ではなかったものの,2011年26%から2012年8%に低下した(p=0.093).本研究から,早期のEKC発症園児の隔離と受診及び帰宅,接触感染対策及び環境消毒の強化は,院内保育所においてEKC集団発生防止に必要であることが示唆された.
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