日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第51回日本植物生理学会年会要旨集
選択された号の論文の1055件中651~700を表示しています
  • 馬場(笠井) 晶子, 高野 誠
    p. 0651
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物の赤色・遠赤色光受容体であるフィトクロムには、複数の分子種が存在することが知られており、イネには、phyA, phyB, phyCの3分子種がある。それぞれの単独変異体あるいは2重、3重変異体の解析から、これらが多岐にわたる光応答反応で協調しながら、時に役割を分担して機能することが示された。そこで、phyA, phyB, phyCのそれぞれについて、プロモーター::GUSを作製して、その発現特性について解析した。2008年年会で既に報告したとおり、イネ成葉における発現組織には、分子種によりその優位性に差異があった。そこで今回は、幼苗および幼葉における発現、ならびに、光環境やフィトクロム遺伝子の変異がこれらの発現特性に与える影響について解析した。また、花器官における発現解析の結果についても報告する。更に、発現特性の生物学的意義を考察するために、オウンプロモーター::フィトクロム遺伝子によるフィトクロム変異体の機能相補解析に加えて、phyAとphyB間でのプロモータースワップ系統を作製、機能相補解析を行った。その結果は、光形態形成においては、phyAプロモーターはphyBの機能を相補できるが、phyBプロモーターはphyAの機能を相補できないという興味深いものであった。現在、出穂期についても同様の解析を行っており、これについても報告する予定である。
  • 大薄 麻未, 高野 誠
    p. 0652
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物では、開花時期を適切に制御するため、外来性の光シグナルと内在性の概日時計が協調し合って日長を認識する。長日植物のシロイヌナズナでは、赤色/遠赤色光受容体のフィトクロムを介した光シグナルが、転写および翻訳レベルで開花関連遺伝子を制御することが報告されている。一方、短日植物のイネには3分子種のフィトクロムが存在し、これら全てが長日条件下において開花を抑制することが示唆されているが、その詳細な機構は分かっていない。本発表では、イネの各フィトクロムシグナルが開花を抑制する機構を解明するため、様々なフィトクロム変異体における開花関連遺伝子の発現解析を行い、日周変動や成長に伴う発現量の変化を調べた。その結果、全てのフィトクロム変異体において、移動性開花シグナルのHd3aおよびRFT1の転写産物量が開花到達日数と相関関係を示した。phyB変異を加えるとイネ特異的な開花促進遺伝子Ehd1の転写産物量が上昇し、これがHd3aおよびRFT1の発現を誘導していると考えられた。phyAおよびphyC変異は、Hd3aおよびRFT1の上流遺伝子の転写量を変えなかった。これらの結果から、イネのフィトクロムシグナルは、シロイヌナズナと同様に、Hd3aおよびRFT1の上流遺伝子の転写レベルだけでなく、翻訳レベルでも開花を制御していることが示唆された。
  • 西ヶ谷 有輝, Jee JunGoo, 田中 利好, 河野 俊之, 加藤 悦子, 高野 誠, 山崎 俊正, 児嶋 長次郎
    p. 0653
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物の光受容体であるフィトクロムはSer/Thrキナーゼであるが、その活性ドメインはまだ明らかにされていない。フィトクロムのヒスチジンキナーゼ様ドメイン(HKLD)はヒスチジンキナーゼと相同性をもち、キナーゼ活性ドメインとして有力な候補の一つであるが、ヒスチジンキナーゼ活性に必須なヒスチジンはない。本研究では溶液NMRを用いてHKLDのキナーゼ活性の解明を目指した。最初にHKLDの構造情報を得るため、イネPhyB HKLDの発現・精製を行い、選択ラベルや非線形サンプリング法などの溶液NMRの最先端手法により主鎖シグナルの帰属を行った。化学シフト及び二面角情報を元に精密化されたモデル構造から、HKLDはヒスチジンキナーゼなどのGHKL型キナーゼ/ATPaseと同様な構造である事が示唆された。さらにADP/ATPアナログの滴定実験を行ったところ、シグナルに変化があった残基はGHKL型キナーゼ/ATPaseのATP結合モチーフ付近に位置した。次にイネPhyB及びシロイヌナズナPhyAのHKLDを高純度に精製し、ATPase活性を解析したところ、両者のHKLDから弱いながらATP加水分解活性が観測された。さらにATP結合モチーフ付近の点変異によるATP加水分解活性の阻害や、GHKL型キナーゼ/ATPaseの拮抗阻害剤Radicicolの結合活性及びATP加水分解活性の阻害効果が確認された。
  • 杉山 由香, 門田 明雄
    p. 0654
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    ホウライシダ前葉体細胞の赤色光による葉緑体光定位運動はneochrome1 (neo1)を光受容体とし、光の方向に依存した運動であることが知られている。しかし、neo1を欠失した変異体においても、赤色光下で葉緑体定位運動が起こることを我々は報告した(2009年度日本植物生理学会年会)。neo1変異体の葉緑体は赤色光の方向に依存しない運動を示し、細胞側面(dark position)から細胞表面(light position)へ定位運動を示す。この光定位運動は光合成阻害剤で阻害され、また、暗所下でも培地へのglucose, sucrose添加により誘導されることから光合成に依存した反応である。野性株では核もneo1を受容体とし、光方向に依存した運動を示すことが知られている。そこで、今回、neo1変異体での赤色光による核の光定位運動を調べた。その結果、核も葉緑体と同様の光定位運動を示すことが明らかとなった。さらに、この反応は赤色光の方向に依存せず、また、glucose, sucrose処理により暗所下でも誘導されることから、光合成に依存した反応であることがわかった。従って、ホウライシダ前葉体細胞の赤色光による葉緑体と核の光定位運動には、neo1による光方向に依存した指向的な運動とともに光合成に依存する無指向的な運動が関与することが明らかとなった。
  • 嘉祥寺谷 幸子, 岡島 公司, 徳富 哲
    p. 0655
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    フォトトロピン (phot) は植物の青色光受容体の1つで、光屈性や気孔開口、葉緑体光定位運動などの光応答を担っている。Phot分子はN末端側に光受容ドメインとしてFMNを非共有的に結合するLOVドメインを二つ (LOV1, LOV2) とC末端側にSer/Thrキナーゼドメインを持っている。基底状態において主にLOV2がキナーゼ活性を抑制している。FMNが青色光を吸収すると保存されたCysと間に一過的にアダクトを形成し、数秒から数分で基底状態に戻るサイクル的な光反応を示す。アダクトの形成に伴うLOVドメインの構造変化によりキナーゼ活性抑制が解除され活性が上昇し、photの自己リン酸化や基質分子のリン酸化が起きる。その結果、様々な光応答現象が誘発されると考えられている。しかし、LOV2によるキナーゼ活性制御の分子基盤の詳細は解っていない。
    本研究ではphot1のLOV2フラビン近傍にあるArg513をLys置換して得られた短寿命光活性化状態をもつphot1 LOV2-キナーゼ変異ぺプチド(R/K)およびその野生型のキナーゼ活性化の青色光照射強度依存性を測定した。野生型は10 μmol m-2 s-1でキナーゼ活性が最大になったのに対して、R/K変異体では200 μmol m-2 s-1の照射によっても僅かなキナーゼ活性上昇しか見られなかった。
  • 福岡 翠, 岡島 公司, 桂 ひとみ, 徳富 哲
    p. 0656
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    フォトトロピン (phot)は植物の青色光受容体であり、光屈性、気孔開口、葉緑体光定位運動などの光応答反応を制御している。photはFMNを1つ非共有的に結合するLOVドメインをN末端側に2つ (LOV1、LOV2)とSer/ThrキナーゼドメインをC末端側にもつ。FMNが青色光を吸収すると保存されたCys残基とアダクトを形成し、数秒から数分で元に戻るフォトサイクルを示す。主にLOV2によってキナーゼ活性の光制御が行われ、暗所ではキナーゼ活性を抑制している。青色光を受容すると抑制がなくなり自己リン酸化や基質のリン酸化によってシグナルが下流に伝えられると考えられる。
    我々はシロイヌナズナphot2 LOV2のフラビン近傍にあるArg513をLysに置換した変異株(R/K変異株)が、強光下(100 μmol m-2 s-1)でわずかに葉緑体逃避反応を示すことを報告した。本研究では、R/K変異株のさらに強光下での葉緑体定位運動を観察した。その結果、200 μmol m-2 s-1の青色光照射によって集合反応、900 μmol m-2 s-1の照射により逃避反応が観察された。これらの結果から、R/K変異株ではWTに比べ葉緑体光定位運動の光感受性が低下し、光反応応答曲線が強光側にシフトしたと考えられる。photによる光感度調節の分子機構について考察する。
  • 井上 晋一郎, 友清 雄大, 島崎 研一郎
    p. 0657
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    青色光受容体フォトトロピン(phot1, phot2)は、シロイヌナズナにおいて光屈性, 葉緑体光定位運動, 葉の平坦化, 気孔の開口等の生理応答を誘導する。phot1とphot2はよく似たドメイン構造をもつが、phot2のみ強光下において特異的に葉緑体逃避反応を誘導する。ところが、このようなphot1とphot2で異なる生理応答を生み出すメカニズムはほとんど明らかでない。本研究では、キナーゼドメインのアクティべーションループに存在するphot1特有の847番目のArgを、phot2の同じ位置のアミノ酸であるThrに置換したphot1をphot1phot2二重変異株に導入し、変異phot1が誘導するフォトトロピンの生理応答を調べた。その結果、この形質転換植物は、phot1に依存した上記の生理応答を誘導し、さらに、強光下において葉緑体逃避反応を誘導するようになった。以上の結果は、たった一つアミノ酸を置換するだけでphot1はphot2の機能を模倣することができるようになる事を示し、キナーゼのアクティべーションループのアミノ酸配列がシグナル伝達の特異性を生み出す可能性を示唆している。
  • 直原 一徳, Biskup Till, Bittl Robert, 徳富 哲
    p. 0658
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    FKF1 (Flavin-binding, Kelch repeat, F-box protein 1)は、シロイヌナズナの青色光受容体である。FKF1はLOV (Light-, Oxygen-, Voltage-sensing) と呼ばれる光受容ドメインを一つもち、長日植物の開花制御に関与している。LOVドメインは発色団としてフラビンモノヌクレオチド(FMN)を1分子非共有的に結合している。LOVドメインの基底状態(D450)が青色光を吸収すると、FMNとシステインとの間に一過的に共有結合が形成される(S390中間体)。このS390が形成される過程は、まだ完全に解明されてはいない。
    我々はFKF1-LOVの光反応を低温紫外・可視分光法を用いて測定した先行研究により、150K以下の温度領域ではS390の形成と共に、新規の光反応生成物(Z370)を形成が確認された。スペクトルを解析からZ370はフラボタンパク質のアニオンラジカル状態に似ていることが解かった。
    今回、Z370がアニオンラジカル状態であることを、電子スピン共鳴法(EPR)および電子核二重共鳴法(ENDOR)により確認した。本研究はLOVドメインの光反応においてアニオンラジカル状態の存在を実証した初の例であり、この結果よりLOVドメインがS390を形成するスキームを議論する。
  • 鈴木 友美, 岡島 公司, 徳富 哲, 長谷 あきら
    p. 0659
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    フォトトロピン(phot)は青色光を感知し、光屈性・葉緑体定位運動・気孔開口を誘引する光受容体である。photは、N末端側の発色団結合に関わるLOV領域とC末端側のキナーゼ領域からなる色素タンパク質である。我々は、シロイヌナズナphotと相互作用する因子として、低分子量G蛋白質ARF1を酵母Two-hybrid法にて取得した。動物や酵母などと同様にシロイヌナズナARF1も、細胞質膜やゴルジ体に局在し小胞輸送に関与していることが既に報告されている。これまでに我々は、photのキナーゼ領域がGTP結合型ARF1と相互作用すること、青色光依存的にphot2とARF1の細胞内局在が変化することを明らかにした。ドミナント変異ARF1を過剰発現させた植物体では、光屈性や葉緑体運動など一部のphot応答に異常が観察された。さらに、ARF1との相互作用能を欠失した変異phot2遺伝子を取得し、その表現型を観察したところ、phot応答に異常が見られた。これらの結果から、phot応答におけるARF1の関与が強く示唆されるが、その詳細な分子機構については明らかではない。そこで、photによるARF1の制御について明らかにするため、分子レベルでの解析を行った。本発表ではこれら詳細な結果を報告するとともに、フォトトロピン情報伝達系におけるARF1の役割について考察する。
  • 笠原 賢洋, 鳥井 真由美, 藤田 晃光, 胎中 謙吾
    p. 0660
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    LOVドメインは、植物、藻類、菌類、バクテリアの青色光受容体の光受容部位であり、発色団としてフラビンモノヌクレオチド(FMN)を結合する。植物のLOVタンパク質としては、フォトトロピンとFKF/LKP/ZTLファミリータンパク質が、光受容体として働いていることが分かっている。植物にはもう一種、PASドメインとLOVドメインから成る、PAS/LOV protein (PLP) と呼ばれるLOVタンパク質が存在するが、生理機能は明らかになっていない。我々はこれまでに、大腸菌で発現させたトマトPLPがFMNを結合すること、光照射によってLOVドメインに特徴的なスペクトル変化をすることを示し、フォトトロピンなどの光受容体と同様な性質を持つことを明らかにしてきた。
    トマトPLPに部位特異的変異を導入して調べたところ、LOVドメインのみならず、PASドメインにもFMNが結合することが分かった。また、PASドメインにある66番目のグリシンをシステインに置換したところ、この変異PASドメインは、LOVドメインに特徴的な光依存的なスペクトル変化を示したので報告する。
  • 杉野 良介, 米田 有希, 宗景(中島) ゆり, 横田 明穂
    p. 0661
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物は効率よく光エネルギーを吸収するために、光強度に応じて葉の厚さや柵状組織を変化させる。強光に馴化した植物の葉は厚く、縦に長く伸びた柵状組織が発達しているが、逆に弱光に馴化した葉は薄く柵状組織の発達はみられない。柵状組織が発達する際には、下位の成熟葉が強光を感知して、上位の未成熟葉にその情報が伝わることや、細胞の縦方向への伸長に青色光が関与することが報告されているが、その詳細なメカニズムは明らかになっていない。我々は、柵状組織の発達を誘導する光シグナルの解析を行った。タバコの一枚の成熟葉にのみ、強光を照射すると、未成熟葉が成熟した際に、柵状組織の発達が見られた。また、シロイヌナズナにおいて青色光と赤色光による違いを解析したところ、200 μmol photons m-2 s-1以上の光強度の青色光下では柵状組織が発達したが、同じ光強度の赤色光下では柵状組織が発達しなかった。これに対し、100 μmol photons m-2 s-1以下の低い光強度では青色光下でも赤色光下でも柵状組織の発達は見られなかった。これらの結果から、柵状組織の発達には一部の葉が感受した強光シグナルが、優先的に上位の未成熟葉に伝えられること、また青色の波長以外にも光強度を感知する機構が存在することが示唆された。本発表では柵状組織を発達させる光や長距離シグナルについて考察する。
  • 目黒 文乃, 吉田 みどり
    p. 0662
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    フルクタンは耐乾性や耐凍性に関与する多糖であり、ショ糖を基質として液胞内に蓄積する。コムギの1-SSTを導入したイネ(I22)では、本来イネにはないフルクタンが蓄積し、耐冷性が向上する(川上ら, 2008)。このI22を利用して耐冷性機構の一端を明らかにする目的で、昨年度大会では、冷害危険期である穂ばらみ期イネにおいて低温下でのショ糖輸送タンパク遺伝子の発現変化を報告した。本年は、ショ糖分解酵素遺伝子(OsCIN, OsVIN, OsSus)の発現変化を組織別にReal-time PCRにより解析した。解析の結果、花粉形成に関与すると考えられているOsCIN2OsSus2など多くのショ糖分解酵素遺伝子の発現量は、低温処理中(12℃)のソース葉とその葉鞘, 穂で減少し常温に戻すと増加した。それと同調する様に低温処理中のソース葉とその葉鞘においてショ糖の蓄積が起き、常温環境下に戻すと速やかに元のレベルまで減少した。この時、多くのショ糖分解酵素遺伝子の発現変化および量はI22と非形質転換体で差異はなかったが、I22では低温でフルクタン蓄積量が増加した。また、フルクタン分解能を有しているOsVIN1の発現量は、低温処理中のソース葉で非形質転換体では減少するのに対し、I22では常温時のレベルを維持していた。ショ糖分解・輸送を含むカーボンメタボリズムと低温耐性との関係を考察する。
  • Fukami Reiko, Kuriyama Akira, Ishikawa Masaya
    p. 0663
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    Differential thermal analyses revealed that a large low temperature exotherm (LTE) initiated at temperatures around -20C. To reveal the mechanism of cold hardiness or deep supercooling in the leaves of this species, we observed the freezing process of leaf blades and leaf sheath using cryomicroscopy. The large LTE released from the leaf blade is most likely a combination of multiple freezing events: all the mesophyll cells in a tissue unit froze together in two sequential incidents (indicated by darkening of the units) and tissue units randomly froze one after another while other type of cells froze independently one after another (some of which were accompanied by bubble formation). Both types of freezing events were most likely to be intracellular freezing. LTE corresponded well with the injury of the tissues. The large LTE released from the leaf sheath arose from the random (intracellular) freezing of cell clusters. The tissue was not separated by lateral veins but the cluster of cells froze together (cluster size was different in a freezing incident from another) LTE corresponded well with the injury of the tissues.
  • Yamazaki Hideyuki, Ishikawa Masaya
    p. 0664
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    Freezing process of plants is an old issue but mechanisms remain unsolved. To address this problem, we utilized digital infra-red thermography that allows 2-D differential thermal analysis. We observed freezing events in wintering blueberry stems to characterize the initiation and spread of freezing to help understand ice nucleation in stem tissues. Differential imaging clearly visualized where the first freezing events occurred and how they spread in the stems. The results maybe summarized as follows: 1) freezing pattern was different from one experiment to another even when the same stem was repeatedly used 2) in many cases, freezing was initiated from multiple sites 3) freezing was sometimes arrested or slow-downed at stem nodes. These things allow us to speculate that the ice nucleation activity should occur throughout the stems. To test this hypothesis, we determined ice nucleation activity (INA) of blueberry stems and comprising tissues using a test tube method. The results showed that stems had a high INA, especially in the bark tissues. Further precise localization of the activity is now under investigation. The high INA allow spontaneous swift freezing of the stems.
  • 高橋 大輔, 古戸 あかり, 南 杏鶴, 上村 松生
    p. 0665
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    温帯性植物は、低温に一定期間曝されると凍結耐性が増大する(低温馴化)。低温馴化機構は非常に複雑であるが、細胞膜の脂質組成変化が重要な働きをすることが明らかになっている。近年、細胞膜には、マイクロドメインと呼ばれるステロール脂質やスフィンゴ脂質に富んだ領域が存在することが報告されているが、植物細胞における機能については未だ不明の点が多い。本研究では、凍結耐性が大きく異なる二種の単子葉植物(カラスムギとライムギ)の低温馴化過程における細胞膜マイクロドメインの脂質組成変化を解析し、さらに、シロイヌナズナの細胞膜マイクロドメイン脂質組成との比較を行った。両種において全細胞膜画分の脂質組成と比較した場合、マイクロドメイン画分はステロール脂質(ライムギは遊離ステロール、カラスムギはアシルステリルグルコシドが主要成分)に富んでいたが、リン脂質の割合は大きく減少し、スフィンゴ脂質(グルコセレブロシド)は同程度であった。低温馴化過程においては、遊離ステロールの減少とリン脂質の増加が両種で共通してみられた。この低温馴化過程におけるマイクロドメイン脂質変動は、全細胞膜画分における変動パターンとは異なっていた。さらに、現在、シロイヌナズナ細胞膜マイクロドメイン脂質組成やそれに対する低温馴化の影響との比較を試みており、植物の低温馴化、凍結耐性と細胞膜マイクロドメインの関係について考えてみたい。
  • 押野 健, 津長 雄太, 阪田 忠, 矢野 健太郎, 宮沢 豊, 高橋 秀幸, 渡辺 正夫, 東谷 篤志
    p. 0666
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物の生殖成長過程は、栄養成長過程に比べ、様々な環境ストレスに感受性が高く、結果として不稔を生じることが知られている。特に雄性配偶子の形成過程は高温や低温などの温度ストレスに感受性が高く、種子稔性の低下を引き起こす。生殖成長過程が比較的よく同調するオオムギ(はるな二条)は5日間の高温処理(30℃昼/25℃夜)により花粉形成に早期から異常が生じ、完全に不稔となる。高温障害が生じるときには、オーキシン誘導性遺伝子や細胞複製関連遺伝子の発現が幼穂特異的に低下し、葯壁細胞では細胞の分裂が抑制されていた。また、高温によって葯壁細胞で内生オーキシン量の低下が観察された。そこで、高温処理と同時にオーキシン散布処理を行うと、高温による雄性不稔は抑制され、正常な花粉が形成された。同様にシロイヌナズナでもオーキシン処理によって高温による花粉形成異常が抑制されていることが観察された。さらに、オーキシン生合成遺伝子yuccaの発現が高温によって幼穂で低下していることが観察された。これは内生オーキシン量の低下がオーキシン生合成の低下に由来するものであることを示唆している。これらの結果は、葯発生過程における高温障害がオーキシン量の低下に起因する様々な遺伝子の発現の変動によるものであることを示唆している。
  • 津長 雄太, 阪田 忠, 藤岡 智明, 増子 潤実, 諏訪部 圭太, 永野 邦明, 川岸 万紀子, 渡辺 正夫, 東谷 篤志
    p. 0667
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    イネ冷害は、穂ばらみ期の低温により、葯壁タペート細胞が本来委縮し崩壊に向かう過程で逆に肥大化し、花粉形成が阻害されることにより生じる。一方で、その分子機序について不明な点が多い。そこで本研究では、耐冷性極強のヒトメボレならびに耐冷性やや弱のササニシキを用いて、低温障害と各種植物ホルモンの生合成・応答にかかわる遺伝子群の発現変動との関連を明らかにすることとした。今回解析した遺伝子群は、Hirano et al.,PCP 49:1429によるマイクロダイセクション解析で、花粉小胞子またはタペート細胞での発現が明らかにされたものを選抜した。その結果、低温はGA生合成遺伝子群ならびにその応答性転写因子の発現量を上昇させ、この傾向は、ヒトメボレにおいてより顕著であることがわかった。また、これらは高温障害時に、逆に発現が低下し、GA関連遺伝子群の葯における発現は温度により調節される可能性が示唆された。オーキシン応答性遺伝子については、3細胞期の葯で低温により発現が増加すること、JAの応答の転写抑制因子JAZは発現低下が、その下流にあるMYC遺伝子は発現上昇が、それぞれ両系統でみとめられた。エチレン応答性遺伝子も低温により発現上昇がみられ、その傾向はササニシキにおいてより顕著であった。その他の植物ホルモンにかかわるデータとともに、ファイトトロンを用いた実験系に関する進捗状況も報告したい。
    .
  • 田中 浩平, 岸田 学, Phan Thuy, 石橋 勇志, 湯淺 高志, 井上 眞理
    p. 0668
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    登熟期における高温がイネの白未熟粒の発生を引き起こすことが問題となっているが、籾の高温感受性機構は必ずしも解明されていない。本研究では、極早生の水稲(Oryza sativa L.)として高温非感受性品種‘ふさおとめ’と感受性品種‘初星’のポット植えの苗を用い、籾に対する高温の影響を調べた。‘ふさおとめ’は7月23日、‘初星’は7月26日に圃場で出穂を確認後、ファイトトロン(25℃、30℃)に移した。‘初星’は‘ふさおとめ’に比べて、籾の乾物重、生鮮重ともに高温により低下し、特に登熟初期(開花後7,14日)では、高温の影響を強く受けた。25℃区における完全米率は‘ふさおとめ’で76.0%、‘初星’で76.9%と有意な差はなかったが、30℃では、前者の22.8%に対し、‘初星’では5.1%を示し、高温により著しく低下した。そこで、‘ふさおとめ’と‘初星’の籾を用いてRT-PCRにより登熟初期における熱ショック関連遺伝子の発現変動を調べた。高温耐性を示した‘ふさおとめ’の籾では、30℃処理により開花後7、14日目に、特にHSP90ER、HSP26、CaPDIの発現レベルが高いことが認められた。このことから、登熟初期における熱ショック関連遺伝子の発現のレベルの違いが籾の高温耐性の獲得に関与している可能性が示された。デンプン合成・分解関連遺伝子の発現とも合わせて考察する。
  • 奥田 宗広, Nang Myint Phyu Sin Htwe, 石橋 勇志, 鄭 紹輝, 湯淺 高志, 井上 眞理
    p. 0669
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物においてオートファジーは細胞内タンパク質の非選択的分解とアミノ酸リサイクル,老化に働いており,栄養飢餓に応答してオートファジー関連遺伝子(ATG)が誘導されることが知られている.ダイズのオートファジー調節メカニズムを明らかにすることを目的にATG発現変動とエチレン応答について解析した.オートファゴソーム形成に関与するGmATG8GmATG4,エチレン応答に関与するGmACCS, GmERFの発現変動を解析した.またGmATG8iとGmEin3のタンパク質レベルの変動をイムノブロットにより調べた.子葉を切除したダイズ幼植物を富栄養培地で前培養したのち,1)富栄養処理、2)飢餓処理(+プロテアーゼ阻害剤),を行った.富栄養処理ではATG遺伝子およびエチレン応答遺伝子の発現レベルはほとんど変動しなかった.飢餓処理+プロテアーゼ阻害剤ではGmATG8i, GmATG4, GmACCSGmERFの発現レベルは増大した.飢餓処理ではGmATG8iとGmEin3タンパク質レベルも増大した.以上の観察から飢餓処理とあわせてプロテアーゼ阻害剤によるアミノ酸リサイクルの低下がGmATG8iの発現調節に関与すること,飢餓ストレスに応答してエチレン合成の促進とエチレン応答シグナルの活性化がダイズATG関連遺伝子の発現調節に関与する可能性が示唆された.
  • 島田 恵里, 池田 祥子, 山崎 聖司
    p. 0670
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    環境ストレスにさらされると,植物体内では活性酸素が発生する。毒性の強い活性酸素は,植物を枯死させる原因となる。環境ストレスに対する植物の応答と耐性のメカニズムを解明するために,活性酸素の一種である過酸化水素がキュウリ子葉に及ぼす影響について解析を行った。4種類の濃度(1.0mM,10mM,100mM,1M)の過酸化水素を処理した結果,100mMと1Mの処理区で子葉表面に白い斑点が認められた。また,いずれの処理区でも,子葉表面に存在するトライコーム周辺の表皮細胞の肥大と核DNA量の増加が認められた。過酸化水素を処理した子葉では,トルイジンブルーOはトライコーム周辺の肥大した表皮細胞を特異的に染色するのに対して,トリパンブルーはトライコーム周辺の肥大した表皮細胞以外の表皮細胞を染色する傾向が強いことが明らかとなった。このことは,過酸化水素処理は,トライコーム周辺の表皮細胞にポリフェノール化合物を蓄積する一方で,それ以外の表皮細胞では細胞死を誘導することを示唆している。トライコーム周辺の表皮細胞は,それ以外の表皮細胞に比べて,環境ストレスに強いものと考えられる。トライコーム周辺の表皮細胞における,肥大,核DNA量の増加,およびポリフェノール化合物の蓄積とストレス耐性の関係についてさらに解析する必要がある。
  • Tewari Rajesh, Kumar, 渡邉 大輔, 渡辺 正巳
    p. 0671
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    一般に、植物細胞は、分化全能性を備えていることが知られている。ところが、植物体から単細胞のプロトプラストを単離すると、その時に受けるストレスによって、分化全能性を喪失し、プロトプラスト培養中にアポトーシス様細胞死を起こす。本研究は、プロトプラスト単離中に活性酸素(ROS)と一酸化窒素(NO)が発生する原因を追求した。その結果、ROSは、葉緑体局在のNADPH oxidaseが活性化したのに対して、葉緑体局在のSODとAPXの活性が減少するため、葉緑体で発生していることがわかった。また、グアヤコール型のペルオキシダーゼは、ナタネの葉、プロトプラスト共に検出できなかった。一方、NOはNOS様酵素によって、発生していることが示唆された。プロトプラストのアスコルビン酸/デヒドロアスコルビン酸の比は、葉と比べて大きく増加した。ナタネはROSに対して、感受性が高いことがわかった。ミトコンドリア膜電位は、プロトプラスト培養中に減少した。それに伴って、核DNAの断片化が観察された。以上の結果から、ナタネ葉肉プロトプラストは、単離中に発生するROSとNOなどラジカル分子種によってレドックス状態に変化が生じ、ミトコンドリア膜電位が低下した結果、アポトーシス様細胞死が起こったと考えられる。
  • 諸田 拓哉, 小島 幸治, 日原 由香子, 本橋 健, 畠山 和佳子, 久堀 徹, 西山 佳孝
    p. 0672
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    翻訳因子EF-Gはタンパク質合成の翻訳伸長反応で主要な働きを担う。近年in vitro の実験から、Synechocystis sp. PCC 6803のEF-G(Slr1463)は活性酸素により特定のシステイン残基間にジスルフィド結合が形成され失活することが明らかにされている。さらに、このジスルフィド結合がチオレドキシンによって還元され、再活性化することも明らかにされている。本研究では、強光条件下におけるEF-Gのレドックス状態をin vivoで解析した。細胞を弱光で培養した後、強光を照射した。TCAでタンパク質のレドックス状態を固定した後、PEG-maleimideでシステイン残基のSH基を修飾し、抗体を用いて還元型および酸化型EF-Gを検出した。その結果、強光では還元型EF-Gの割合が増大したが、過剰な強光を照射すると逆に酸化型EF-Gが増えることが観察された。また、チオレドキシンに還元力を供給するNADPH-チオレドキシン還元酵素の破壊株を用いて同様の実験を行った結果、光強度の上昇に従い酸化型EF-Gの割合が増えていくことが観察された。これらの結果から、光合成電子伝達系に由来する還元力によってEF-Gが還元され翻訳が活性化されるが、強光ストレス条件下では活性酸素によってこのレドックス制御が阻害され翻訳が不活性化することが示唆された。
  • Watanabe Yasuko, Nishiyama Rie, Tran Lam-Son Phan
    p. 0673
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    Cytokinins (CKs) play crucial roles not only for plant growth but also for osmotic stress signaling. Many recent data showed that CKs are signals traveling from roots to shoots, and ABA:CK ratios in xylem sap are important for stress signaling. However, the role of endogenous CKs in osmotic stress response is still unclear. In plants, the key enzymes involved in CK-metabolism are adenosine phosphate-isopentenyltransferases (AtIPTs) and cytokinin oxidases (AtCKXs). To unravel the relationship between CK metabolism and osmotic stress response, we performed functional analyses of CK-deficient plants, atipt mutants and AtCKX-overexpressors, in osmotic stress response. The atipt mutants and AtCKX-OX plants with decreased CK contents showed increased salt tolerance, suggesting that endogenous CKs act as negative regulators in salt stress response. Different molecular and genetic approaches have been used to elucidate the mechanism of CK-dependent osmotic stress response. From these data, we will discuss the crosstalk between CK, ABA and osmotic stress signaling.
  • Nishiyama Rie, Watanabe Yasuko, Tran Lam-Son Phan
    p. 0674
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    In Arabidopsis cytokinin (CK)-signaling is mediated by a multi-step phosphorelay, which is comprised of histidine kinases (AHKs), phosphotransfers (AHPs) and response regulators (ARRs). Recently, we demonstrated that AHK2, AHK3 and AHK4 act as negative regulators in salt stress response, because disruption of these genes resulted in increased tolerance to salt stress. The AHKs were expected to act through one or more AHPs and ARRs, which are their downstream components in CK-phosphorelay, in salt stress response. To elucidate the regulatory role of CK-phosphorelay in salt stress response, we have carried out systematic functional studies of the AHPs and type-B ARRs by loss-of-function approaches. We have identified several ahp and type-B arr mutants that showed increased salt tolerance, suggesting that these AHPs and ARRs act as negative regulators in salt stress response. We will discuss the regulatory functions of these AHP and type-B ARR genes in response to salt stress. Our data will provide better insight into the complex stress signaling pathway regulated by the CK-phosphorelay.
  • 山本 洋子, 藤川 雅子, 小松 和枝, 斉格奇 白, 古市 卓也, 佐々木 孝行
    p. 0675
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    アルミニウム(Al)による細胞伸長阻害や細胞死の機構解明をめざし、Alの糖代謝への影響を解析している。タバコ細胞をカルシウムと糖のみを含む培地で培養した場合、外液からの糖の取り込みが細胞内の遊離糖含量の増加を引き起こし、それが水吸収(すなわち細胞伸長)の駆動力として働いている。遊離糖含量の増加は、糖の吸収と消費のバランスである。Alは糖の吸収を阻害するが、一方で有機酸分泌やカロース合成を促進し糖の消費を促進していると考えられる。そこで、本研究では、タバコ細胞株(V9)とV9でコムギ由来のAl活性化型リンゴ酸輸送体遺伝子ALMT1を過剰発現しAl耐性を示す株(T4)(Sasaki et al. 2004)を用い、Alによる有機酸分泌やカロース合成が細胞内遊離糖含量の低下に関わる可能性を検討した。V9では、80%の増殖能を与える低濃度のAl処理でも、遊離糖含量の増加を著しく阻害し、カロース合成を促進したが、T4では、10%の増殖能を与える高濃度のAl処理でも、遊離糖含量の増加が見られ、カロース合成は完全に阻害された。Alによる遊離糖の低下量は、リンゴ酸分泌やカロース合成量の100倍以上あった。以上の結果より、Alによる遊離糖の低下は、リンゴ酸分泌やカロース合成では説明できないこと、一方、リンゴ酸分泌は、細胞内でカロース合成を阻害し、糖の取り込み阻害を抑制する可能性が示唆された。
  • 殷 俐娜, 大野 早綾, 山本 祥平, 河野 治, 王 仕穏, 田中 浄
    p. 0676
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    アルミニウムストレスは植物細胞で活性酸素種の生成を通して酸化ストレスを引き起こすことが広く報告されている。グルタチオン(GSH)は酸素ストレスから細胞を保護する細胞内抗酸化物質である。グルタチオン還元酵素(GR)は還元型グルタチオン(GSH)の再生に重要な酵素である。アルミニウムストレスへのGRの保護効果を調べるために、シロイヌナズナ細胞質型GR (accession No. At3g24170) を過剰発現した形質転換シロイヌナズナを作出した。GR形質転換植物はアルミニウムストレス下で野生植物と比べて、より良い根の伸張、より低い過酸化水素量、より低い過酸化脂質生成を示した。24時間アルミニウム処理後、形質転換植物と野生植物の間にアルミニウム集積に差は無かったが、GR形質転換植物は、野生植物よりも、より高いGR活性とアスコルビン酸ペルオキシダーゼ活性、より高いGSHとアスコルビン酸レベルを示した。さらに、アルミニウムストレス下で形質転換植物と野生植物の根においてスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、デヒドロアスコルビン酸還元酵素(DHAR)活性の差は無く、GRの過剰発現はこれらの抗酸化酵素活性に影響を与えないことを示している。これらの結果はGR過剰発現は抗酸化能力を改善しアルミニウム耐性の向上をもたらすことを示している。
  • KOTTAPALLI JAYARAM
    p. 0677
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    In this study, formation of nitric oxide (NO) induced by Al, Cd, Cr, Cu and Zn was investigated in Al resistant Andropogon virginicus. The Al was semi-quantified with morin stain and found that mostly accumulates in the root tips, causing severe root growth retardation. Toxic symptoms such as chlorosis and growth retardation of shoot and roots were occurred by the tested metal stresses. Lipid peroxidation was detected in each stress and it was also found that as time increases lipid peroxidation increased. Furthermore, the production of NO due to the metal treatments was also observed by NO specific dye, DAF-FM. The observed results indicated that there was a difference in the NO production among the stresses. To confirm the NO production with these treatments, plants were treated with 0.3 mM of cPTIO. The NO scavenger made a significant reduction in the NO signal in the root tip region. We are now characterizing the role of produced NO by the metal stresses in the root tip region.
  • 三上 雄一郎, 三輪 睿太郎, 樋口 恭子
    p. 0678
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    オオムギは他のイネ科植物(イネ、ソルガム)に比べ低い鉄含量で緑色と生育を維持できる。このことはオオムギが地上部での鉄利用効率に優れていることを示す。当研究室ではオオムギが鉄欠乏により発生する光障害を回避する機構を誘導し、光合成機能を維持することを示した(2009年名古屋大会)が、細胞内での鉄そのものの分配にもオオムギ特有の機構があるのかどうかは明らかではない。我々は、鉄分配に関わる因子の1つとして地上部の三価鉄還元活性に着目し、鉄欠乏誘導性の有無からオオムギ地上部鉄欠乏耐性への関与を検討している。オオムギの葉緑体包膜には三価鉄還元活性が存在することがすでに報告されているが、オオムギ葉から単離したプロトプラストの原形質膜にも活性が存在した。その活性は葉緑体包膜と同様に光依存性であった。クロロシス葉から単離したプロトプラストの三価鉄還元活性は、プロトプラストあたりでは対照区に比べ減少したが、クロロフィルあたりでは対照区より活性が高かった。現在、ソルガムにおいても活性の有無と鉄欠乏による誘導性を調べている。また、オオムギとソルガムの葉緑体包膜の三価鉄還元活性の鉄欠乏誘導性も比較し、三価鉄還元活性とオオムギの高い鉄利用効率との関連を議論する予定である。
  • 横正 健剛, 山地 直樹, 馬 建鋒
    p. 0679
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    Multidrug and toxic compound extrusion(MATE)は排出型の輸送体で生物界に広く存在する。近年、いくつかの植物のMATE遺伝子は外向きのクエン酸輸送タンパク質をコードすることが報告されている。
    ライムギはAl耐性の強い種とされその耐性は根からの有機酸(リンゴ酸、クエン酸)分泌に由来する。しかし分泌に関与する遺伝子は単離されていない。本研究ではライムギから2つのMATE遺伝子(ScFRDL1,ScFRDL2)を単離し機能解析を行った。まず、オオムギやイネのMATE遺伝子をもとにライムギMATE遺伝子の完全長cDNA配列を決定した。単離されたScFRDL1はオオムギのAl活性型クエン酸トランスポーターHvAACT1とアミノ酸配列で94%、ScFRDL2はイネのAl誘導型MATE遺伝子OsFRDL2と80%の相同性を示した。次に、遺伝子の発現解析を行った。ScFRDL1はAlによる発現の誘導は受けず、鉄欠乏に誘導された。また根の基部側では中心柱に局在していた。一方、ScFRDL2はAlにより発現が誘導され、根からのクエン酸分泌量もこの発現と同様に増加していた。しかし、鉄欠乏による影響は受けなかった。これらの結果からScFRDL1はクエン酸を導管に排出し地上部への鉄輸送に、ScFRDL2はAlによる根圏へのクエン酸分泌に関与することを示している。
  • 高橋 憲公, 東 藍子, 江崎 文一
    p. 0680
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    Andropogon(和名、メリケンカルカヤ)は、Al、Zn、diamideなどの多種のストレスに耐性を示す野生植物であり、これらに共通したストレス耐性機構や応答機構を解析する上で適したモデル植物と言える。我々はまず、Andropogonに対して、Alストレス付与時に誘導が起こる遺伝子群の単離をfinger print法で試みた。その結果、6つの候補遺伝子を得たが、その内の1つ(AP18-2-1)は、ABC transporterをコードする遺伝子と相同性を示した。一方でAndropogon由来のcDNA libraryより、多種のストレスに耐性を示す遺伝子群の単離も試みた。この中にはS-adenosyl methionine syntaseをコードするクローン(#3A-4)が含まれていた。さらにこの遺伝子と高い相同性を持つイネの完全長cDNAを持つ酵母形質転換体はAl、Zn、diamideに対して耐性を示した。また、Real time-PCRで両遺伝子の発現パターンを解析したところ、Alストレスによる誘導が両者の根で確認された他、AP18-2-1は根でdiamideでも、#3A-4は根でCu、Zn、diamideでも誘導が見られた。現在、これらの遺伝子の完全長cDNAの単離を試み、多種ストレスにおける機能解析を進めようとしている。
  • 竹内 慎一, 杉浦 美羽, 森田 勇人, 林 秀則
    p. 0681
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    ラン藻Synechococcus sp. PCC 7942のメタロチオネイン(SmtA)はアミノ酸残基数が56の低分子量のタンパク質であり、CysとHis含量が大きく、1分子当たり3~4原子の亜鉛を結合する。SmtAは細胞内の過剰の亜鉛イオンと結合することによって毒性を解消したり、亜鉛イオンの恒常性を維持したりすると考えられている。また、ファイトレメディエーションなどの応用にも有用なモデルタンパク質と考えられる。本研究では、ラン藻Synechococcus sp. PCC 7002のもつSmtAホモログの金属結合部位の構造を変化させた改変SmtAホモログを作製し、その金属結合能について解析した。金属結合部位の構造を変えるために、独立した金属結合部位と思われるC末端側の15アミノ酸残基の部分に部位特異的変異によって1~2残基のGly、あるいはさらにAsp又はGluを挿入した改変SmtAを作製した。作製した改変タンパク質のうち、His49とGly50の間に2~3残基挿入した改変SmtAでは、亜鉛に対する親和性が減少し、カドミウムに対する親和性が上昇した。一方で、Gly46とCys47の間に挿入したものでは親和性に変化は見られなかった。前者については、アミノ酸の挿入により金属結合部位のサイズが大きくなり、亜鉛よりもイオン半径の大きいカドミウムに対する親和性が上昇したと考えられる。
  • 室田 知里, 松本 寛子, 尾畑 沙矢香, 蛭田 陽介, 藤原 祥子, 都筑 幹夫
    p. 0682
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    緑藻クラミドモナスでは、現在までにPTA typeとPTB typeを含めた十数個のリン酸トランスポーターの存在が示唆されている。Chlamydomonas reinhardtii AR3株は、リン酸トランスポーター遺伝子ホモログのうちPTB1を欠損したヒ酸耐性株である。また、光合成系損傷(phosphoribrokinase欠損株)であるCC981も、AR3と同様、ヒ酸耐性能をもつ。これらの株では、培地中に同濃度のヒ酸とリン酸が存在したとき、リン酸取り込み量は大きいが、ヒ酸取り込み量は野生株(CC125)と比較して抑制されることが明らかとなっている。
    本研究では、これらの変異株と野生株におけるリン酸トランスポーター遺伝子の発現について調べた。通常条件下において、野生株とAR3及びCC981では発現パターンが異なっていた。また野生株を暗条件下においたときや、DCMUを添加し光合成を阻害したときの遺伝子発現への影響も調べた。さらに、リン酸存在下に様々な濃度のヒ酸を添加したときの影響も調べた。リン酸1mM存在下に同濃度のヒ酸を添加した際、野生株においてはPTA1PTA2の転写量の減少がみられた。また、AR3株ではPTB2の顕著な発現量の増加がみられた。これらの結果から、ヒ酸添加により、リン酸トランスポーター遺伝子の発現が抑制または促進されることが明らかとなった。
  • 戸田 陽介, 小川 大輔, 田中 舞子, 阿部 清美, 杉本 和彦, 安藤 露, 矢野 昌裕, 宮尾 安藝雄, 服部 束穂, 廣近 洋彦, ...
    p. 0683
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    単子葉植物の根の環境ストレス耐性機構を解明するため、私達は塩ストレス感受性変異体rss3(rice salt sensitive 3)に関する分子遺伝学的な解析を行っている。rss3の根組織は、非ストレス条件時には冠根数の減少や細胞伸長の阻害による軽度の生育不良を示す。一方、継続的な塩ストレス条件下で生育させた場合には、rss3は根組織特異的に形態異常を伴う著しい生育阻害を示す。共焦点顕微鏡を用いて根組織の観察を行った結果、メリステム領域において細胞が正常な形を維持できない事や、細胞列の乱れが起きている事が明らかとなった。原因遺伝子RSS3は、bHLH型転写因子の制御領域と推定されるN末端側の領域と高い相同性を持つタンパク質をコードするが、DNA結合性ドメインであるbHLHドメインは有さない。RSS3は根組織のメリステム領域で高い発現を示し、RSS3-EGFPは核内に局在する。これらの事から、RSS3は何らかの転写因子の活性を制御する事により、根のメリステムにて機能する遺伝子の発現調節に関わっている可能性が考えられた。現在RSS3の相互作用因子の探索を行っており、その結果も併せてRSS3の分子機能について議論したい。
  • 府川 さやか, 三輪 睿太郎, 樋口 恭子
    p. 0684
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    ヨシは様々な環境に自生するイネ科多年生草本であり、Cd、Zn、Pbに耐性を持つことが報告されている。ヨシ地上部のCd分配は、茎に葉の4倍のCdが存在し茎Cdの約70%が可溶性であることが特徴である。Cd 100μMを含む水耕液で1週間処理したヨシから茎細胞汁液を採取し限外ろ過法を用いて分画すると、60%のCdが分子量10k-50kDa画分から検出された。ファイトキレーチンなどのSH基含有ペプチドの多くは10kDa以下であるため、新規Cd解毒物質の存在が考えられる。まずこの画分でSH基によるCd結合の可能性を検討した。SH基含量はCd処理により1.6倍に増加したが、この画分のSH:Cdは1:5であったためSH基と結合したCdはわずかであると考えられた。さらにこの画分にジチオスレイトール添加してもCdが遊離しなかったことからも、支持されると考えられる。次にこの高分子Cd結合物質の構造推定のために各種分解酵素で細胞汁液を処理したところ、α―アミラーゼ添加区でのみCdが低分子画分に移行した。したがってCdの無毒化を担う高分子物質は糖を主成分とするαグルカンを基本骨格としていると推察された。10k-50kDa画分にメルカプトエタノールを添加したところ20%程度のCdが遊離した。高分子物質表層にはSH基を介したCd結合は存在しないが、SS結合が物質の立体構造の形成に関与する可能性が考えられた。
  • 鎌田 直浩, 井上 弘, 蒲池 浩之
    p. 0685
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    カドミウム(Cd)は、低濃度でも植物の生長を大きく阻害する。これは酸化ストレスを誘発するためと考えられている。酸化ストレスに対する防御機構の一つとして、フェノール性化合物による抗酸化作用が考えられるが、これらの化合物がCdストレスの防御にどの程度関与しているのかは不明である。そこで本研究では、シロイヌナズナのCd毒性の緩和におけるフェノール性化合物の関与について検討した。まず、Cd処理を長期間容易に行えるように、担体を用いないシロイヌナズナの水耕栽培法を確立した。この栽培法において、14日齢の植物体を25μM Cdで7日間処理したところ、乾燥重量当たりのフェノール性化合物の含有量は、未処理の1.4倍に増加した。これは、Cd処理によって、フェノール性化合物が蓄積されたことを示している。
    フェノール性化合物の中でもフラボノイドは、紫外線による光酸化ストレスの防御物質として知られている。そこでCd毒性の緩和におけるフラボノイドの関与を調べるために、フラボノイド合成能を欠損した突然変異体(tt4)を用いて生長におけるCdの影響を調べた。結果は、25μMのCd処理によって、WTでは乾燥重量が未処理の77%にまで減少したのに対し、tt4では63%にまで減少していた。この結果は、シロイヌナズナにおいて、フラボノイドがCd毒性に対する防御物質として機能していることを示唆している。
  • 山田 貴文, 富岡 利恵, 竹中 千里, 加々美 勉
    p. 0686
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    サンパチェンスRTは、(株)サカタのタネが新しく開発したインパチェンス属の種間雑種であり、その花つきや花もちのさから観賞用として人気のある1年草の園芸植物である。サンパチェンスRTは耐暑性が高く、また根張りが強く生育が画期的に旺盛であり、また蒸散量が多いため、一般的な花壇用植物に比べ、植物体表面温度が低くなり、ヒートアイランド対策にも有望視されている。さらに、サンパチェンスRTはNO2やホルムアルデヒドなどの大気中の汚染物質を吸収する高い大気浄化能力を持つことが確認されており、この高い成長力と吸収能力から土壌中の汚染物質の吸収、除去への利用が期待できる。
    そこで本研究では、サンパチェンスRTの汚染土壌浄化への利用可能性を検討することを目的に、根圏へのカドミウム(Cd)添加実験を行い、サンパチェンスRTのCd耐性、蓄積について詳細に調べた。実験としてCd溶液処理をした水耕実験とCd汚染土壌に植栽した土耕実験を行った。水耕実験ではCd濃度による光合成活性の影響などの生理的応答について、土耕実験ではCd汚染土壌への適応とCdの各部位における蓄積能力について調べた。
    RT:サンパチェンスは(株)サカタのタネの登録商標
  • 河野 貴文, 江崎 文一
    p. 0687
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    土壌の酸性化に伴うアルミニウム(Al)障害は植物の著しい生育阻害を引き起こすため、このストレスに対する遺伝子レベルでの発現応答機構の解明は重要である。そこで我々は、アラビドプシスのAl誘導性遺伝子AtGST11の発現応答機構、特にプロモーター結合性転写調節因子(Transcription Factor ; TF)を介した転写制御について解析している。またこの遺伝子は、重金属ストレスや酸化ストレスでも誘導されるので、これらのストレス間には共通した応答機構が存在するかについても検討することにした。
    Alストレス時にAtGST11遺伝子のプロモーターに結合するTFを同定するためにOne hybrid法、Bio panning法を用いてcDNAクローンの単離を行った。得られた4つのTF候補の完全長cDNAを用いてE.coliの中で大量発現させ、これらを用いてゲルシフトアッセイを行った。その結果、4候補ともプロモーター領域と結合することが明らかとなった。これらの中には、putative bZIP transcription factor,やEthylene response element binding factor 2 などが含まれていた。現在、各候補の転写における機能についてパーティクルガンでタバコ細胞BY-2株に導入した後、ルシフェラーゼアッセイで転写活性測定を解析中である。
  • 深尾 陽一朗, 西森 由佳, 長崎 菜穂子, 富岡 利恵, Ferjani Ali, 藤原 正幸, 前島 正義
    p. 0688
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    亜鉛は植物の生育に必須な微量栄養元素であり、多くの酵素が機能する上で重要な役割を持つ。しかしながら、細胞内における亜鉛濃度が高まると、植物はクロロシスや根の伸長阻害などの成育阻害を受ける。このことから、細胞は亜鉛濃度を一定に保つための恒常性維持機構を持っている。
    本研究では、亜鉛恒常性維持機構の解明を目的とし、iTRAQ解析法を用いた定量プロテオーム解析を行った。本実験にはシロイヌナズナ野生型Col-0を用いた。Col-0はMS培地に300μM亜鉛が含まれるときに顕著な成育阻害を示すため、この条件を過剰量亜鉛培地とした。コントロールとして用いたMS培地、または過剰量亜鉛培地で10日間成育したCol-0の根よりそれぞれマイクロソーム画分を単離し、過剰量亜鉛に応答するタンパク質群の定量解析に用いた。この結果、輸送体などの膜タンパク質を含む1000以上のタンパク質について定量結果が得られた。本発表では、これらの結果から、過剰量亜鉛に対する成育阻害機構、亜鉛恒常性維持機構について議論する。
  • 水野 隆文, 江守 香苗, 橋本 洋平
    p. 0689
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    植物を用いたレアメタル獲得技術であるファイトマイニングは、ファイトレメディエーション同様超集積性植物の特性を生かした技術として考案された。利用する植物種や産業的収支の点から、これまで報告されたファイトマイニング技術は金やニッケル、コバルトなどに限られているが、今回新たにマンガンを超集積するコシアブラからのマンガン資源獲得について検討した。日本各地に分布するコシアブラ葉のマンガン含有量を検討した結果、半数以上の地点で乾燥重量あたり1%以上、最高2.4%のマンガン超集積性が認められ、コシアブラが普遍的にマンガン超集積性を有していることが確認された。コシアブラ葉を細断し、100倍量の純水もしくは希塩酸を用いて振盪抽出(室温)を行ったところ、いずれの場合も1時間で抽出液中のマンガン濃度が安定し、水で56%、0.1 mol/Lの塩酸ではほぼ100%のマンガンが抽出された。一方、高純度のマンガンを回収する手法として、コシアブラ葉を一度灰化し、硫酸-過酸化水素により液化した後水酸化カリウム等でアルカリ側に調整した。その結果、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムとの分離によって、純度94%のマンガン(二酸化マンガン)を90%以上の回収率で獲得することに成功した。以上により、コシアブラは高純度マンガンを獲得する資源としてファイトマイニングに利用可能であることが示された。
  • 坂本 卓也, 乾 (辻本) 弥生, 藤原 徹
    p. 0690
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    ホウ素過剰は植物に有害であるが、その毒性の分子機構は明らかにされていない。ホウ素毒性の分子機構を理解するため、根の生育においてホウ素過剰に感受性を示すシロイヌナズナ変異株の単離と解析を行ってきた。これまでに、CAP-H2およびCAP-G2の変異がホウ素過剰感受性を引き起こすことを明らかにした。これらの遺伝子は染色体タンパク複合体であるコンデンシンIIの機能制御を行うサブユニットであることから、コンデンシンIIの機能がホウ素過剰耐性に必須であると考えられた。コンデンシンはM期の染色体凝集に加えて、DNA損傷修復などでも重要な役割を果たすことがヒトや酵母などを用いた研究で明らかになっている。今回は、ホウ素過剰によるDNA損傷の可能性について報告する。
    シロイヌナズナのCAP-H2変異株はDNA損傷処理(メチルメタンスルホン酸)に対して野生株よりも感受性を示した。また、根端でRAD51ATGR1などのDNA損傷で誘導される遺伝子の発現量は変異株で野生株よりも高かった。さらに、野生株、変異株それぞれにおいて、ホウ素過剰処理によりそれらの遺伝子の発現が増加した。以上の結果は、シロイヌナズナのコンデンシンIIがDNA損傷修復に関わる可能性、そして、ホウ素過剰がDNA損傷を引き起こす可能性を示唆している。現在、ホウ素過剰によるDNA損傷を証明するため、DNA損傷の定量的な解析を進めている。
  • 樋口 恭子, 小野 宏太, 伊藤 崇, 大瀬 直樹, 三輪 睿太郎
    p. 0691
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    〔緒論〕植物細胞の伸長には細胞壁が酸性条件下にあることが必須とされておりpH5.5~6.5が伸長には最適である。これは酸生長理論と呼ばれているが、この決定的な分子機構は解明されていない。酸生長理論がすべての植物についてあてはまるならば、高pHで根伸長は抑制されるはずであるが、アカザ科のSuaeda salsaは根伸長最適pHが6~8であった。根伸長のpHに対する応答が植物種によりどれほど異なるか、広範な知見がないため、様々な植物種で幼植物の主根伸長へのpHの影響を調べることを目的とする。またS. salsaはアルカリ塩類土壌に自生するため、好塩生・耐塩性植物との関連も興味が持たれる。そこで、モデル植物シロイヌナズナとその耐塩性近縁種Thellungiella halophila、耐塩性種が多いアカザ科のホウレンソウとホウキギを用いた。〔方法〕前栽培はpH6。本栽培は緩衝試薬としてMES、HEPES、CHES各5mMずつ加え、NaOHとH2SO4でpHを5.0、6.0、7.5、10.0に調整した処理液で48時間の主根伸長を測定。pH6.0区を基準とし相対値で比較する。〔結果〕シロイヌナズナ、ハロフィラ、ホウレンソウは、pH5.0、6.0で最も伸長をし、10.0ではほとんど伸長しなかった。ホウキギは7.5で最も伸長し、10.0では他の植物と比べて伸長を維持した。
  • 酒井 達也, 望月 進, 上原 由紀子, 鈴木 あかね, 原田 明子, 和田 拓治, 石黒 澄衛, 岡田 清孝
    p. 0692
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    根の成長パターン制御は植物の成長と繁殖の限定要因として働く重要な生体制御機構である。環境刺激に応答した根の成長パターン制御の分子機構を明らかにすることを目的に、我々は傾けた寒天培地上で根の波状成長のピッチが小さくなるシロイヌナズナ突然変異体 wav3 の分子遺伝学的解析を行った。wav3 突然変異体は重力刺激に応答した根の屈曲が促進される一方、光に応答した屈曲が小さくなる。WAV3 遺伝子は、N末にユビキチンE3ライゲースによく観察されるRING-finger ドメイン、中央にタンパク質相互作用に働くvWA ドメインを有するタンパク質をコードしていた。WAV3は弱いながらもユビキチンE3ライゲース活性を示し、また相互作用するタンパク質探索の結果、RING-finger 型E3ライゲースとして既に明らかになっている SINAT ファミリータンパク質への結合能を示した。WAV3は類似した塩基配列を持つWAVH1, WAVH2, WAVH3 と共に遺伝子ファミリーをシロイヌナズナゲノム中に構成し、4つすべての遺伝子に変異の入った4重変異体は根の著しい重力屈性異常が観察された。我々の結果は、WAV3 ファミリーがシロイヌナズナの根重力屈性に必須の新しいユビキチンE3ライゲースファミリーであることを示唆した。
  • 久家 徳之, 佐藤 成一
    p. 0693
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    側根が重力に対して斜め方向に成長する屈性である、傾斜重力屈性のしくみはほとんど解明されていない。本研究では、アズキを用いて原基形成後、側根は伸長する過程でどのように重力反応を変えるか調べた。また、重力屈性に関係する根冠や、コルメラ細胞、アミロプラストの大きさや数などを調べ、重力反応の変化との関係を考察した。その結果、アズキ側根は伸長中に重力に対する反応を数回変えていることが分かった。原基形成後、主根皮層内を重力方向に対して約90度の角度で伸長する段階をstage I、主根から出根後、重力方向に対して70-80度の角度を取る約1 mmの長さまでの段階をstage II、重力方向に対して一定の角度を保ちながら伸長する1-4 mmの段階をstage III、4 mmをこえ、ゆっくり重力方向に屈曲していく段階をstage IVとした。また、形態的な分析の結果、stage Iからstage IIに変化する際には、重力方向に沈降する、発達したアミロプラストを含むコルメラ細胞が根冠に形成されることが分かった。また10 mmを越えた側根の根冠コルメラ細胞では10 mmまでの側根の根冠コルメラ細胞と比較してアミロプラストの面積が小さくなった。このアミロプラストの変化はstage IIIにおいて重力感受が弱まることと関係がある可能性が示唆された。
  • 露口 恵太郎, 岩城 俊雄, 太田 大策
    p. 0694
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    青枯病原細菌R. solanasearumの植物体の感染よって引き起こされる青枯病は,ナス科の主要な作物植物に被害を与え,農業生産上の大きな問題となっている.青枯病の病徴である萎凋症状は,通道組織中で増殖した菌体が菌体外多糖類を生産し,通道組織中の水分移動を阻害することが原因とされている.これまでに,植物体に対する青枯病菌の感染メカニズムについてはゲノム解析を含めて多くの研究成果が報告されている.一方,植物体における防御反応機構と抵抗性誘導については不明な点が多い.そこで本研究では青枯病菌感染時の植物体の防御反応機構を明らかにすることを目的とした.
    ナス台木品種である赤虎に非親和性の青枯病菌株を接種すると,萎凋症状は現れず感染葉で葉脈の伸長停止が原因と考えられる葉の成長の異常が起こる.また,感染葉から作製した切片のUV自家蛍光観察の結果,蛍光物質の蓄積が確認できた.一方,親和性の青枯病菌株の接種では,これらの現象は確認できなかった.
    ナス植物体の青枯病抵抗性メカニズムを明らかにするために,非親和性または親和性の青枯病菌株を感染させたナス植物体についてLC-ESI-MSを用いたメタボローム解析を行った.本発表では,ナス植物体の感染部位および近傍から組織サンプルを調製し,病害抵抗性に関与すると考えられるケイ皮酸モノリグノール経路代謝中間体の解析結果を報告する.
  • 柴田 裕介, 川北 一人, 竹本 大吾
    p. 0695
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    当研究室では、ナス科のモデル植物であるベンサミアナタバコの成熟個体がジャガイモ疫病菌に抵抗性であるが、若齢個体は罹病性であることをこれまでに見いだした。またウイルス誘導型ジーンサイレンシング法(VIGS)を用いて、疫病菌抵抗性にはR遺伝子の安定化因子(SGT1、HSP90)、3量体型および低分子量Gタンパク質(Gβ、RAC)、サリチル酸合成酵素(ICS1)およびエチレン情報伝達因子(EIN2)、エチレン経路に発現制御されるファイトアレキシン生合成系酵素(EAS、EAH)などが必須であることを明らかにした。本研究では、疫病菌に対するベンサミアナタバコの新規防御関連遺伝子を単離するため、VIGS法を用いた網羅的探索系を構築した。疫病菌由来のタンパク質エリシターであるINF1をベンサミアナタバコ葉に処理し、処理1-12時間後の葉組織から得られたRNAより、サブトラクション法を用いてINF1誘導性遺伝子cDNAの濃縮を行った。得られたcDNAを標準化した後VIGS用ベクターに組み込み、平均長約700 bpのランダムなcDNA断片を含むサイレンシングライブラリーを作製した。本ライブラリーを用いてサイレンシング株を作出したところ、植物体の矮化、葉の黄化や細胞死が引き起こされた株が多数得られた。さらに疫病菌抵抗性が低下するサイレンシング株の選抜を行っており、その結果についても報告する。
  • 平尾 知士, 渡辺 敦史
    p. 0696
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    現在、日本のクロマツおよびアカマツではマツノザイセンチュウによる松枯れが深刻な問題となっており、抵抗性個体の選抜が急務として進められている。すでに幾つかの抵抗性個体は選抜されており、抵抗性因子の特定に向けてQuantitative Resistance loci(QRL)のマッピングやSuppression Subtractive Hybridization(SSH)といった解析が進められているが、依然として決定的な情報は得られていない。現在、我々は抵抗性に関与する遺伝子を単離するために、生体防御反応の上流遺伝子および下流遺伝子をターゲットにして解析を進めている。上流遺伝子に関しては栽培作物ですでにセンチュウ抵抗性遺伝子(Nematode resistance gene; NR-gene)が単離されており、それらの遺伝子の多くがNucleotide Binding Site-Leucine Rich Repeat(NBS-LRR)といった共通のドメイン構造を持つことから、クロマツにおいてもNBS-LRR様構造の遺伝子を単離し、抵抗性と感受性個体間における発現挙動と抵抗性形質との関連を検証している。一方、下流遺伝子に関してはセンチュウ接種後のcDNAライブラリーを構築し、抵抗性および感受性個体でセンチュウ侵入後に発現する生体防御関連遺伝子を網羅的に探索している。
  • 田部 茂, 藤澤 由紀子, 木村 麻美子, 古谷 綾子, 落合 弘和, 高橋 章, 大竹 祐子, 西澤 洋子, 南 栄一
    p. 0697
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    イネが様々な病原菌に対して示す抵抗性は複数の遺伝子が関与する複雑な過程である.この過程にどのような遺伝子群が関与しているのか,そしてその制御メカニズムを明らかにするため,病原糸状菌であるイネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)と,病原細菌であるイネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae)の2種類の病原菌をイネに接種し,感染過程におけるイネの遺伝子発現をマイクロアレイ実験により解析した.いもち病菌においては,抵抗性遺伝子Piaの有無による抵抗性と罹病性それぞれのイネ葉身にいもち病菌胞子をスプレー接種し,経時的な遺伝子発現パターンについてクラスター解析した.その結果,抵抗性イネと罹病性イネの間に最も大きな差異が認められるのは接種3日後であることがわかった.白葉枯病菌においては,親和性である野生型と変異体を用いて葉身先端の切断接種を行った.同様のクラスター解析から,変異体では発現パターンに水処理との差異が少なく,野生型において発現パターンの差異が大きくなるのは接種4日後以降であることが示された.現在,それぞれの病原菌で認められた差異がどのような遺伝子群によるものかについて解析を進めている.また,いもち病菌感染時のイネの応答については,Piaとは異なる抵抗性遺伝子Pishによる遺伝子発現を解析中なのでその結果についても報告する.
  • 澤井 優, 酒井 敦
    p. 0698
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    ヌクレオソーム単位の核DNAの断片化は、動物のアポトーシスでみられる代表的な反応である。植物においては、核DNAの断片化がPCD特異的なものなのか、そのメカニズムや生物学的意義は明らかになっていない。我々は、植物における細胞死に伴う核DNAの断片化のメカニズムや意義を調べるため、まず、「核DNAの断片化を伴うPCDと非PCD」を探索し、比較した。タバコ培養細胞BY-2にクリプトゲイン(タンパク質性エリシター)もしくは高濃度のニコチンアミドを投与すると、細胞死が誘導される。しかし、クリプトゲイン誘導性細胞死は、de novoのタンパク質合成を必要とする一方、ニコチンアミド誘導性細胞死は必要としなかった。このことは、前者はPCD、後者は非PCDであることを示している。しかし、いずれの細胞死でも、約180bpごとに切断されたDNAラダーが検出された。次に、両条件におけるDNAの断片化に関わるヌクレアーゼの性質について検討した結果、クリプトゲイン誘導性細胞死には、Ca2+/Mg2+依存性ヌクレアーゼが、ニコチンアミド誘導性細胞死には、Zn2+依存性ヌクレアーゼが関与していることが分かった。これらの結果は、PCD、非PCDのいずれの場合も、核DNAの断片化を伴うことがあるが、そのメカニズムは異なっていることを示唆する。現在、これらのヌクレアーゼのキャラクタライゼーションを進めている。
  • 吉田 千枝, 川口 正代司
    p. 0699
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    マメ科植物の根粒形成は、初期の根粒形成が後の根粒形成を抑制する負のフィードバック機構により制御されている。これは、根粒形成と維持に要するエネルギー消費が過度になると植物自身の生育を損なうからであり、実際、根粒を過剰形成するミヤコグサ共生変異体har1 では地上部の生育阻害が観察される。加えてこの制御は、根からシュート、シュートから根への遠距離シグナル伝達を介すると推測されている。接木実験から、HAR1はシュートで機能することが明らかになり、根からの根粒形成開始シグナルがHAR1を介して根粒形成抑制シグナルへと変換され、再び根に戻ると考えられている。これまで根粒過剰形成変異体は、har1 の他にシュート制御のklv, 根制御のtml が単離されている。
    イオンビームで変異処理したミヤコグサMG-20由来の共生変異体3153は、野生型の約3倍多くの根粒を形成する。har1, klv, tml との相補性検定から、3153は新奇の根粒過剰形成変異体であり、接木実験から、tml 同様、根制御の根粒表現型を示すことが明らかになった。MG-20とのF2植物の表現型分離比は、野生型:3153型が137:43であったことから、3153は劣性一遺伝子支配と考えられる。GifuとのF2植物についてSSRマーカーを用いた連鎖解析を行ったところ、3153原因遺伝子座は第2染色体長腕にあることが判明した。
  • 下川 正貴, 南 太一, 高崎 智子, 宮原 照夫
    p. 0700
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    酵母抽出物には細胞壁由来のエリシター活性が存在することが広く知られている。そこで、大豆のファイトアレキシンであるグリセオリンの蓄積量を指標とし、ビール類酵母抽出物のエリシター活性の評価を試みた。その結果、大豆子葉においてグリセオリンの蓄積が観察され、エリシター活性が認められた。
    また、当該抽出物を限外ろ過膜により分子量分画を行い、各々の画分について活性を評価した結果、分子量100 kDa以上の高分子画分に強い活性が認められた。100 kDa以上の高分子画分の組成を分析したところ、グルカンおよびマンナンが主成分であることが分かった。そこで、グルカンおよびマンナンのエリシター活性を評価すると、グルカンにのみ強い活性が認められた。以上のことから、ビール類酵母抽出物では、グルカンがエリシターの一つとして植物に作用し、病害抵抗性を誘導していると考えられた。現在、さらに詳細なエリシターの精製・同定とともに、作用機序の解明を進めている。
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