日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
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選択された号の論文の1051件中501~550を表示しています
  • 安益 公一郎, 保浦 徳昇, 佐藤 かんな, 北野 英己, 松岡 信
    p. 0503
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    耐倒伏性の向上は安定的な収量確保のための重要な育種目標であり、これまでの穀物育種では、ジベレリン(GA)に関係した半矮性変異体利用により耐倒伏性育種を展開してきた。一方、バイオマス収量の観点からGA関連変異体は収量の減少を伴うためにその利用の限界についても指摘されている。本研究では、耐倒伏性の新しい展開を目指し、イネ強稈化変異体tsc1を単離して機構解析を行った。tsc1変異体の強稈化は、稈が厚くなることが原因であり稈以外の葉や根でも同じ表現型が見られ、各器官の細胞が小さく密であったことから、TSC1は細胞分裂と細胞肥大の両方を制御する因子であると考えられた。TSC1遺伝子はAP2型転写因子をコードしており、その発現はオーキシンにより誘導され、TSC1遺伝子の上流域に見られるオーキシン応答様配列にARFタンパクが in vitroで結合しその応答配列がシス配列として機能することから、TSC1はオーキシン情報伝達の下流に位置すると結論づけた。またマイクロアレイの結果、tsc1変異体では多くの細胞分裂関連遺伝子群の発現が変化していた。実際にTSC1がこれらの遺伝子群の5’上流域とin vivoで結合することもふまえて、新規因子TSC1を中心とした強稈化の分子メカニズムについて考察を行う。本研究は、農林水産省 新農業展開ゲノムプロジェクト(IPG0003)の支援のもとで行われた。
  • 清水 良憲, 渡邉 ゆか, 中田 恵子, 松村 葉子, 町田 泰則
    p. 0504
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのASYMMETRIC LEAVES2 (AS2)は扁平で左右相称な葉の発達を制御すると考えられている。AS2はN末端側にCモチーフと保存されたグリシン残基とロイシンジッパー様構造からなる植物に特異的なドメイン (AS2/LOBドメイン)をコードしている。シロイヌナズナには42個のAS2/LOBドメインをコードする遺伝子が存在し、これらはAS2/LOBファミリー、AS2を除いた個々のメンバーはASL/LBD遺伝子と命名されている。近年、5つのASL/LBD遺伝子がオーキシンにより転写誘導されること、そのうちのいくつかがオーキシンを介した側根の形成に関わっていることが報告された。オーキシンは頂端分裂組織における原基の位置決定を制御しており、側根形成だけでなく地上部の側生器官形成においても重要である。オーキシンを介した地上部の側生器官形成に関わるASL/LBD遺伝子の探索のため、全てのASL/LBD遺伝子のオーキシン応答性を解析した。その結果、ASL23/LBD19が根よりも地上部で高い発現を示し、オーキシンによってその転写レベルが上昇することを明らかにした。ASL23/LBD19の発現パターンを調べるため、2種類のGUS形質転換植物およびASL23/LBD19-YFP形質転換植物を作成した。今回、これらの実験で得られた結果について報告する。
  • 朝比奈 雅志, 東 克也, Pitaksaringkarn Weerasak, 清水 美甫, 山崎 貴司, 光田展隆 展隆, 高木 優, 山 ...
    p. 0505
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    我々の以前の研究から、水平方向に直径の約半分まで切断されたシロイヌナズナの花茎では、主として髄組織の細胞が切断3日後から細胞分裂を開始し、約7日間で癒合すること、この癒合過程には、オーキシンの極性輸送が必須であることが示唆された。また、遺伝子発現解析から、それぞれERF/AP2型転写因子ファミリーおよびNAC型転写因子ファミリーに属する転写制御因子の一種が、切断1~3日後にわたって癒合部特異的な発現を示すこと、AP2型転写因子はオーキシンによって負に、NAC型転写因子は正に制御されていることが明らかとなった。本研究では、これら遺伝子の時空間的発現パターンについて調査した。まず切断部周辺組織の遺伝子発現を比較したところ、NAC型転写因子はオーキシンが蓄積する切断面の上側で、AP2型転写因子はオーキシン量が減少すると予想される切断面の下側で、特異的に発現が上昇する事が示された。CRES-T法を用いてこれら転写因子の機能を抑制した形質転換体では、癒合部における細胞分裂の阻害が見られた。また、細胞壁遺伝子や情報伝達因子についても、切断面の上下で異なった発現パターンを示すことが明らかとなった。以上の結果から、シロイヌナズナ切断花茎の組織癒合過程では、花茎切断によって生じた植物ホルモンのシグナリングが、切断部での組織特異的な遺伝子発現を制御している可能性が考えられた。
  • 西村 岳志, 豊岡 公徳, 佐藤 繭子, 松本 さちこ, Lucas Mercedes, Strnad Miroslav, Baluska ...
    p. 0506
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    トウモロコシ幼葉鞘先端2 mm 以内でTrp を前駆体としてIAA が合成されることが示されてきたが、幼葉鞘におけるIAA の合成経路はわかっていない。IAA 合成経路を明らかにするためには、より詳細なIAA 合成部位(細胞)を特定し、その組織(細胞群)を用いてさらなる解析を行う必要がある。そこで、本研究ではIAA 抗体染色法を用いてトウモロコシ幼葉鞘先端におけるIAA 合成細胞の特定を行った。幼葉鞘先端はIAA を合成しているため、IAA 輸送阻害剤であるNPA を処理するとIAA 合成部位においてIAA が蓄積する。この時、IAA 抗体染色のシグナルは先端0.5-1 mm の表皮細胞で強くなることがわかり、また、5-Methyl Trp を処理すると幼葉鞘先端のIAA 合成は阻害され、表皮細胞のIAA シグナルは消失した。これらより、幼葉鞘先端0.5-1 mm 以内の表皮細胞においてIAA が盛んに合成されていることが考えられる。この表皮細胞におけるIAA 細胞内局在を免疫電顕法により観察したところ、IAA の金粒子シグナルは主にプラスチド、ミトコンドリアを含む細胞質に見られ、これらの細胞内小器官がIAA 合成の場である可能性が示唆された。また、マイクロアレイ解析により、YUCCA 遺伝子が3 つ先端特異的に発現していることがわかったのでこの結果についても併せて報告する。
  • 永田 典子, 佐藤 由佳, 藤原 誠, 吉田 茂男, 明賀 史純, 篠崎 一雄, 本橋 令子
    p. 0507
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    多くの斑入り植物体では、異常色素体からなる細胞と正常葉緑体からなる細胞が層状もしくは不均一に分布することにより斑が生じる。この場合、核コードの葉緑体タンパク質の遺伝子に欠損がある突然変異体であるならば、異常色素体と正常葉緑体が1つの細胞内に混ざり合って存在することはないと考えられてきた。もし異質の色素体が細胞内に混在していたならば、それは色素体遺伝子に異常がある色素体が両性遺伝によって混ざり込んだと判断されてきた。
    私たちは、核遺伝子の欠損であるにも関わらず、異常色素体と正常葉緑体が1つの細胞内に混在するシロイヌナズナ斑入り突然変異体apg5を見つけた。apg5は、Ac/Dsトランスポゾンタグラインより単離された劣性の変異体で、子葉はペールグリーン、本葉は白いセクターを伴う斑入りの形質を示す。私たちは、透過型電子顕微鏡観察及び色素体YFP発現の形質転換体の観察を行うことにより、apg5の子葉に異常色素体と正常葉緑体の混在細胞が多数存在することを示した。さらに混在細胞の出現時期を特定し、詳細な色素体分布と系譜も明らかにした。核遺伝子の欠損変異体であるにも関わらず異質色素体が細胞内に混在するしくみやAPG5遺伝子の機能について議論したい。
  • 金子 謙佑, 岡部 佳弘, 浅水 恵理香, 江面 浩, 永田 典子, 加藤 雅也, 本橋 令子
    p. 0508
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    トマト果実のプラスチドは成熟に従い、葉緑体からクロモプラストへ分化が進むことが知られている。しかし、この成熟・分化のメカニズムは未だにはっきりとはわかっていない。本研究ではEMS処理によって得られた果実の色素異常変異体vo変異体を用いて、クロモプラスト分化や果実の発達・成熟に関与する遺伝子への影響を調べたので報告する。電子顕微鏡観察によりvo変異体と野生型のクロモプラストの形態を観察した結果、野生型に比べvo変異体は、発達した渦巻き構造や電子密度の高い紐状の構造がほとんど見られなかった。次に、HPLC分析による果実のカロテノイド含有量を調べた結果、野生型で多量に蓄積しているリコペンがvo変異体ではほとんど蓄積しておらず、βカロテン蓄積量が野生型と比較し52%増加していた。これらの結果からvo変異体における変異がクロモプラスト分化やカロテノイド合成へ関与することが示唆された。カロテノイド量の変化がカロテノイド合成系の遺伝子発現によるものか調査するために、RT-PCRを用いて葉と果実で調べたがvo変異体と野生型間に転写レベルで違いは見られなかった。vo変異体のカロテノイド合成系が転写ではなく、point mutationによる翻訳の異常に関わることが考えられるため、現在はTILLING解析を用いてカロテノイド合成遺伝子領域へのpoint mutationの有無を確認している。
  • Zhang Lingang, Kato Yusuke, Saigo Koji, Vothknecht Ute C., Sakamoto Wa ...
    p. 0509
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    Vipp1 (vesicle inducing protein in plastids 1) is proposed to play a role in thylakoid biogenesis. It is closely related to PspA (phage shock protein A), a bacterial protein that is induced under stress conditions, except that a C-terminal domain of about 20-30 amino acids is present in all Vipp1 proteins but is missing in PspA. Despite its discovery a decade ago and extensive analysis in cyanobacteria, green algae and higher plants, the precise role of Vipp1 in the process of chloroplast development remains unclear. Recently, we found that unfixed chloroplasts in one of the vipp1 mutants (hcf155) were unusually swelled into the ball-shape structure, which resulted from extraordinary space between envelope and thylakoid. Treatment of intact chloroplasts with thermolysin and trypsin revealed that a majority of Vipp1 protein was associated with chloroplast envelope and was tethered to both membranes. Based on our careful western analysis in Arabidopsis and pea, we conclude that Vipp1 protrudes its C-terminus into the outside of chloroplasts. The mutant phenotype and the topology of Vipp1 in envelopes suggest that Vipp1 plays a role in maintaining chloroplast envelope integrity.
  • 小鹿 洋輔, 清水 正則, 丹羽 康夫, 小林 裕和
    p. 0510
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体の機能分化の制御機構を解明する目的で、シロイヌナズナにアクティベーション・タギングを適用し、緑化カルス誘導培地に置いても緑化しないsuppressed greening of calli (SUG) 変異系統を選抜した (植物生理学会年会, 2009)。TAIL-PCRおよび遺伝子発現解析により特定した4種類のSUG候補遺伝子について、これらを強制発現させた形質転換系統および遺伝子を破壊したノックアウト系統の表現型を解析した。分化した植物個体のクロロフィル含量を測定したところ、強制発現系統では野生系統に対して0.35~0.65にクロロフィル含量が低下していた。一方、SUG4のノックアウト系統のクロロフィル含量は、野生系統に対して2.06倍に増加していた。SUG候補遺伝子強制発現系統を用いて、光合成に関わる遺伝子であるクロロフィルa/b-結合タンパク質遺伝子(CAB1)とRubiscoのSサブユニット遺伝子(RBCS-3B)の発現量を測定した。また、GeneChip (Affymetrix) を用いて、クロロフィル合成系に介在する酵素の遺伝子発現を解析している。
  • 市野 琢爾, 冨士 健太郎, 青木 考, 高橋 英之, 河本 恭子, 田村 謙太郎, 嶋田 知生, 西村 いくこ
    p. 0511
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞において最大の細胞小器官である液胞は,様々な代謝産物(タンパク質,糖,抗菌物質,有機酸など)を蓄積する場である.特に,種子における液胞はタンパク質貯蔵型液胞と呼ばれ,発芽後の成長に使われる栄養として多くのタンパク質を貯蔵している.液胞に貯蔵されるタンパク質は通常,小胞体上にあるリボソームで合成された後,ゴルジ体やトランスゴルジネットワーク,エンドソームなどの細胞内膜系を経由する小胞輸送機構によって最終目的地である液胞にまで運搬される.これまでに我々が単離したgfs9変異体は,種子貯蔵タンパク質の液胞選別輸送に異常を示す変異体である.今回我々は,gfs9変異体においてタンパク質貯蔵型液胞の構造が小型化していることを発見した.GFS9遺伝子は種子以外の組織でも発現していることが予想されているので,他の組織における液胞の形態の観察を行った.また,gfs9変異体では種皮の色が薄くなっているという表現型も見られた.種皮の色は,フラボノイドの一種であるプロアントシアニジンの蓄積に由来しており,この二次代謝産物は内珠皮第一層の液胞内に蓄積している.そこで,登熟種子における内珠皮細胞の液胞構造についても解析を行った.さらに,gfs9変異体で植物体の矮小化と種子の小型化が見られたことから,液胞の構造異常が植物体に与える影響に関して考察する.
  • 中野 亮平, 松島 良, 永野 淳, 上田 晴子, 田村 謙太郎, 嶋田 知生, 近藤 真紀, 西村 幹夫, 西村 いくこ
    p. 0512
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    小胞体は細胞内で最も大きな表面積を持つオルガネラで,複雑なネットワーク状の構造をとっている.これらの構造を支える分子基盤は未知の部分が多い.我々は小胞体をGFPで可視化した形質転換シロイヌナズナGFP-hを利用して,これまでに小胞体の構造異常を示す変異体ermo1ermo2について報告してきた(1).今回発表するermo3変異体においては小胞体ネットワーク上に顆粒状の構造体が観察され,核近傍には長径が50μmに及ぶ巨大な凝集体が観察された.蛍光オルガネラマーカーや蛍光色素を用いた細胞生物学的解析により,ermo3変異体では小胞体のみならず,核を含む内膜系オルガネラの構造や全てのオルガネラの細胞内分布に異常を示していることがわかった.この変異体の原因遺伝子としてGDSL-lipase/esterase faimlyに属する加水分解酵素の一種を同定した.この遺伝子産物は活性中心を欠失していたことから,ERMO3は酵素ではなく結合性タンパク質として働くことが示唆された.ERMO3は,小胞体由来のER bodyの主要構成要素PYK10によって形成される巨大複合体の構成因子でもあった.この結果は,ERMO3とER bodyとの関係性を示唆している.
    (1) Nakano, R. T. et al., (2009) Plant Cell.
  • Cui Songkui, Fukao Yoichiro, Hayashi Fukao, Nishimura Mikio
    p. 0513
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    Peroxisome biogenesis involves transport of peroxisomal matrix and membrane protein to this organelle. This process is regulated by peroxins that are encoded by PEX genes. Pex7 is a soluble receptor that recognizes peroxisomal targeting signal type 2 (PTS2) containing proteins in the cytosol and transports them into peroxisomes across peroxisome membranes. Using transgenic plants overexpressing green fluorescence protein (GFP) tagged PEX7, we analyzed a protein complex involving PEX7. By combination of co-immunoprecipitation technique, proteomic analysis and BiFC experiment, we identified RabE1b and RabE1c as binding partners of PEX7. We further found that seedlings of rabe1b and rabe1c mutants showed resistance to 2,4 DB, which is metabolized to produce 2,4D by peroxisomal fatty acid beta-oxidation. Further analysis may provide us novel insights into the functions of RabE1b and RabE1c in relation to peroxisomal biogenesis.
  • 斉藤 雄飛, 佐生 愛, 山崎 竜一, 森田 重人, 佐藤 茂, 増村 威宏
    p. 0514
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    プロラミンは、主要なイネ種子貯蔵タンパク質の一種であり、小胞体由来のタンパク質顆粒であるI型プロテインボディ(PB-I)を形成する。最近の研究から、PB-I内部において、10 kDa, 13 kDa (13a, 13b), 16 kDaプロラミンが層状に蓄積することが明らかになったが、PB-Iにおける部位特異的蓄積メカニズムについては未知な点が多い。そこで本研究では、レポータータンパク質として緑色蛍光タンパク質(GFP)を用い、プロモーターや成熟ポリペプチドがPB-Iにおける局在部位に与える影響を明らかにすることを目的とした。
    CaMV35Sプロモーター、およびプロラミンプロモーター制御下で、GFP単独、および13aプロラミン-GFP融合タンパク質を発現する形質転換イネ(35Spro:GFP, 35Spro:13a-GFP, 13apro:13a-GFP)を作出した。35Spro:GFP系統ではGFPが細胞質に蓄積したが、35Spro:13a-GFP系統では13a-GFPがPB-Iの中心部に蓄積していた。一方、13apro:13a-GFP系統では13a-GFPがPB-Iの外周領域に蓄積していた。これらの結果から、プロラミンの部位特異的集積には、プロラミンの成熟ポリペプチド配列と、プロラミンプロモーターによる遺伝子発現制御の両方が重要であることが示唆された。
  • 房田 直記, 高橋 秀夫
    p. 0515
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物においてバクテリア型葉緑体RNAポリメラーゼのシグマ因子(SIG)は核にコードされ、プラスチドの発生や分化の制御に重要な働きをしている。シロイヌナズナやイネには6タイプのシグマ因子が存在し、中でもSIG5は、青色光や高塩濃度、強光などのストレスへの応答性を示す。我々は、これまでにダイズにおける2つのSIG5遺伝子(GmSIG5A,B)を同定し、発現解析を行い、GmSIG5Bが塩ストレス及び光へ応答することを明らかにした。
    今回、我々はSIG5の系統的・機能的特異性に着目し、さらに他の植物におけるSIG5遺伝子ホモログの探索を行った。まず、既知のイネ、シロイヌナズナ、ダイズのSIG5遺伝子のアミノ酸配列の保存領域に基づいたディジェネレートプライマーによるPCRを行った。その結果ミニトマト、クローバー及びサクラにおいてSIG5に相当する遺伝子にホモロガスな配列を得た。この増幅領域の配列をもとにデータベースサーチを行ったところ、ポプラやカナダトウヒなどの多くの種にSIG5遺伝子が存在することが分かった。そこでSIG5遺伝子の系統的意義について確かめるため、さらにいくつかの裸子植物においてもSIG5遺伝子の探索を行った。これらの結果から、SIG5遺伝子は、ストレス応答に関与しているシグマ因子として陸上植物全般に普遍的に存在することが示唆された。
  • 及川 和聡, 柴田 美智太郎, 近藤 真紀, 吉本 光希, 真野 昌二, 林 誠, 大隅 良典, 西村 幹夫
    p. 0516
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    光合成組織において緑葉ペルオキシソームは光呼吸の代謝系などを担う重要なオルガネラである。前回までに我々は緑葉ペルオキシソーム局在異常変異体(peup:peroxisome unusual positioning mutants)を複数選抜した。今回我々はそのうちのpeup2peup4に注目して解析を行った。これら変異体の原因遺伝子はいずれもオートファージー関連因子をコードしていた。野生株と異なりpeup2では細胞の下層にペルオキシソームの凝集が、peup4では細胞質中に葉緑体から離れたペルオキシソームが浮遊していた。また、いずれの変異体の緑葉組織ではペルオキシソーム数の増大が観察された。電子顕微鏡下での観察から凝集や浮遊しているペルオキシソーム内には電子密度の濃い領域が存在しており、特に葉緑体から解離しているものに多く存在していた。さらに、凝集体のペルオキシソームは繊維状の構造を形成しており活性酸素の影響が示唆された。また、強光下での生長解析から野生株と比較してpeup4では葉への傷害が顕著に現れ、活性酸素の過剰な蓄積がNBT染色からも明らかになった。このpeup4の表現形は二酸化炭素濃度の濃い条件下では抑制されたことからpeup4ではペルオキシソームの機能低下が生じていることが示された。以上の結果からペルオキシソームの機能維持におけるオートファジーの関与が示唆された。
  • 本橋 典子, 江波 和彦, 小沢 友希, 中邨 真之, 田中 寛, 華岡 光正
    p. 0517
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の色素体は、組織依存的に、また光などの環境変化に応答して多様に分化する。このうち、非光合成組織に存在するアミロプラストは、デンプン合成や蓄積に関わる色素体であるが、その分化機構については不明な点が多い。タバコBY-2細胞は通常オーキシン培地で増殖するが、加えるホルモンをサイトカイニンに置換すると色素体は原色素体からアミロプラストへ分化することが知られている。この際に、核コードのAGPSなどデンプン合成遺伝子の発現が誘導されることは示されているが、色素体遺伝子発現の関与や役割については不明であった。
    本研究ではまず、マイクロアレイ解析により色素体転写量の変化を調べたが、アミロプラスト分化時に顕著に誘導される遺伝子は見当たらなかった。しかし、分化誘導と同時に色素体の転写・翻訳阻害剤を添加すると、デンプン合成量が低下しアミロプラストへの分化が阻害された。また、この阻害はAGPSなど核コード遺伝子の発現が抑制されるためであることが示され、色素体での正常な遺伝子発現の情報が何らかのシグナルを介して核に伝わる可能性が予想された。そこで、色素体由来のシグナルとして既に知られているテトラピロール中間体やその合成阻害剤の影響を調べた結果、特にヘムが分化の制御に関与している可能性を示す結果が得られた。これらの結果から、アミロプラスト分化における核と色素体間の情報伝達系について議論したい。
  • 橋口 泰子, 矢野 大輔, 田坂 昌生, 森田(寺尾) 美代
    p. 0518
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナ変異体shoot gravitropism (sgr) 6は弱いながら花茎の重力屈性に異常を示す。マッピングと相補性試験により、SGR6の原因遺伝子をAt2g36810と同定した。相補性試験に用いたプロモーターの制御下でGUSを発現する形質転換体の解析から、SGR6は花茎において表皮、内皮、維管束、interfascicular cellに発現することがわかった。このうち内皮は花茎における重力感受細胞であり、内皮細胞に含まれるアミロプラストの重力方向への移動が重力感受に重要である。アミロプラストは周囲を液胞膜に包まれた状態で存在する。このアミロプラストの重力方向への移動には液胞膜の動的構造が重要であることが示されている。そこで、sgr6の内皮細胞における液胞膜動態とアミロプラスト動態を観察した。その結果、野生型では花茎切片作成から30分の間、液胞膜およびアミロプラストの動態に変化が見られなかったのに対し、sgr6では徐々に液胞膜の動的構造が失われ、アミロプラストは動かなくなった。このことから、SGR6が内皮細胞において液胞膜の動的構造の維持に関与することが示唆された。sgr6の内皮細胞で観察された表現型と重力屈性における表現型との関係を明らかにするため、現在、内皮細胞特異的プロモーターの制御下でSGR6を発現するsgr6背景の形質転換体の解析を行っている。
  • 寺尾 梓, 兵頭 洋美, 古川 純, 佐藤 忍, 岩井 宏暁
    p. 0519
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    トマトを代表とする被子植物の果実成熟過程では、果実組織において他の成長過程と比較してダイナミックな変化をすることが知られている。受粉をきっかけに果実形成過程に入った子房は果実へと変遷し、急激な細胞分裂と細胞肥大が生じて大きな果実を形成する。この果実発達過程に伴う急激な変化には、細胞壁の合成や分解が大きく関わっていることが考えられるが、これらは非常に微細な組織で生じることから現在までに明らかにされていないことが多い。そこで、本研究では果実発達期の果実について細胞壁成分であるぺクチンとヘミセルロース特異的な組織化学染色および免疫染色を行うことで、細胞壁多糖の変化を明らかにすることを目的とした。開葯前日から5日後における子房/果実の全組織を含んだ切片を作成し、それらにルテニウムレッドによるぺクチン組織染色およびモノクローナル抗体を用いた免疫染色を行った結果、受粉後5日間で果実は急激な肥大成長をみせ、それに伴い果皮でぺクチンの増加が観察された。この増加はメチル化ぺクチンのみならず、修飾された脱メチル化ぺクチンでも見られたことから、ぺクチンの生合成と脱メチル化が活発に行われていることが示唆された。また、胚珠内部にはぺクチン性アラビナンやガラクタンが豊富に含まれていることが観察されたことから、初期胚形成・発達過程でアラビナン・ガラクタン側鎖を豊富に含むぺクチンが重要であることが考えられた。
  • 兵頭 洋美, 寺尾 梓, 古川 純, 佐藤 忍, 岩井 宏暁
    p. 0520
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    トマト果実の成熟過程に伴い、果皮ではペクチン等の細胞壁分解が生じているが、その果実内部では種子形成が同時に進行していることから、細胞壁の分解のみでなく合成や架橋形成も必要であると考えられる。本研究では、現在までに果実成熟過程におけるペクチンの合成・分解に関与する遺伝子発現および酵素活性が、果実内組織により異なることを示してきた。今回、このような制御をうけたペクチンが実際どのような構造をしているかを調べるため,ペクチン量・構成糖組成、およびメチル化度・Ca架橋を果実内の5つの組織別に比較することで、組織により異なるペクチンの変化と機能を考察した。
    トマト果実ペクチンはほとんどが側鎖を持たないホモガラクツロナンにより構成されていることがわかった。また、ペクチンメチル化度の変化はペクチンメチルエステラーゼ活性と関連し、果皮では成熟に伴い顕著に減少していた。しかし、ペクチンのメチル化度に対し、細胞壁結合性Ca量は外果皮とその内側の果皮とで顕著な差がみられた。一方、種子周囲の組織ではメチル化度は50%程度に一定に保たれていた。以上のことから、ペクチンの果実成熟過程における変化は組織ごとに多様であり、各組織の担う役割に応じた特異的な機能を持つことが予想された。またペクチンの機能はその量だけではなく、メチル化度を含んだ多糖構造による物理的な特性に依存しているのではないかと考えられる。
  • 武部 尚美, 中村 敦子, 住吉 美奈子, 古川 純, 佐藤 忍, 岩井 宏暁
    p. 0521
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞の特徴である細胞壁は、植物の物理的構造の維持だけでなく、成長・発達や生殖といった個体発生においても重要な働きを持つことが明らかになってきている。細胞壁はセルロースなどの多糖類を中心に複雑で多様な構造をもつことが知られているが、その他に細胞壁タンパク質と呼ばれる構造タンパク質であるグリシンリッチプロテイン(GRP)も細胞壁成分である。GRPは双子葉植物、単子葉植物を問わず多様な植物種に存在していることから、高等植物の成長発達に必須なのではないかと考えられているが、その生理学的機能については未だ不明な点が多い。またイネにおいてはGRP遺伝子の存在は確認されているものの、機能はおろか植物体の中での詳細な分布、発現パターンなどの基本的情報を含む報告がほとんどなされていない。そこで本研究ではイネのGRPで最も発現量の高いOsGRP2に着目し、その発現パターンや変異体の表現型解析を行った。OsGRP2のT-DNA挿入変異体における生育調査の結果、栄養成長過程ではWtと比べて、ほとんど差が見られなかった。しかし、生殖成長期では変異体において、ほとんどの花粉が正常に形成されておらず、稔実率が低かった。又、花粉母細胞期の葯からタペータムの形成に異常が観察された。これらのことからOsGRP2はタペータム形成に重要であり、その結果として花粉発達に影響を与えると考えられる。
  • 青原 勉, 古西 智之, 伊ヶ崎 知弘, 林 徳子, 宮崎 安将, 高橋 章, 廣近 洋彦, 岩井 宏暁, 佐藤 忍, 石井 忠
    p. 0522
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    L-Arabinofuranose (L-Araf) は、植物細胞壁多糖であるペクチンやヘミセルロースに多く含まれる主要な構成単糖である。イネ科植物には、ヘミセルロースの一つであるアラビノキシランが多く含まれており、L-Arafは、大部分がアラビノキシランに由来すると考えられる。L-Araf残基は、UDP -L-Arafを基質として糖転移酵素により転移される。イネ細胞壁中のL-Arafの役割を調べるため、我々は、UDP -L-Arafの生合成に関与するUDP-L-Arabinopyranose mutase (UAM) に着目し、UAMの発現を制御した組換え植物を作出した。組換え植物のUAM発現量を定量的PCRで調べたところ、コントロールに比べて90%低下したものが得られた。これらの組換え植物では、UAM活性や細胞壁中のL-Arafの割合が減少していた。さらに、L-Arafが減少した組換え植物では、セルラーゼによる糖化効率が増加した。この結果は、アラビノキシランのL-Araf残基を介して形成される細胞壁ネットワークが異常になり、分解され易くなったことを示唆する。一方、L-Arafの減少は、矮性や不稔の性質を示すなど植物体の生長に大きく影響した。以上のことから、細胞壁中のL-Arafの減少は、細胞壁ネットワーク形成異常を引き起こし、植物全体の生長や生殖に影響すると予想される。
  • 平野 恒, 安益 公一郎, 近藤 満理, 永松 志郎, 奥野 綾子, 佐藤 豊, Antonio B.A., 並木 信和, 宮尾 安藝雄, ...
    p. 0523
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    二次細胞壁生合成遺伝子の発現制御にはいくつかのMYB型やNAC型転写因子が階層的に機能することが知られている。新農業展開ゲノムプロジェクトにより行われたイネの各組織における164個のマイクロアレイデータを用いて細胞壁形成過程での共発現ネットワークを構築したところ、ネットワークは一次壁と二次壁生合成遺伝子を明確に区別すること、シロイヌナズナにおける二次壁形成のマスター転写因子のオーソログ遺伝子が二次壁生合成遺伝子群と共発現性を示すことを見出し、昨年の大会にて報告した。今回我々は二次壁ネットワーク上に出現するいくつかの転写因子に注目し、それらを過剰発現およびノックダウンさせた形質転換体イネを作出することにより二次壁形成における関与を調べた。その結果、シロイヌナズナで二次壁形成に関わることが知られている転写因子群のオーソログがイネの二次壁形成にも関わっていることが確認され、今回の共発現ネットワークの妥当性が示された。さらにこれまで細胞壁との関与が報告されていない転写因子も二次壁形成に関わることが明らかとなり、ある生物学的事象を共発現ネットワークにより網羅的に解析することの有効性が示された。
    本研究は農林水産省・新農業展開ゲノムプロジェクト(IPG-0003、RTR-0002)の助成を受けて行なわれた。
  • 竹田 匠, 亜紀子 平渕, 高橋 真智子, 中島 将博, 中野 友貴, 寺内 良平
    p. 0524
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物に感染している病原菌は植物のアポプラストにおいて多種の細胞壁分解酵素により細胞壁を分解し、細胞壁ゆるみの誘導や炭素源の獲得を行っている。植物は病原菌の侵入に対してさまざまな防御機構を機能させているが、アポプラストにおいては病原菌由来の細胞壁分解酵素に対するインヒビタータンパク質を生産している。特に、病原菌が分泌するキシラナーゼやペクチン分解酵素に対して、植物はこれらに対するインヒビタータンパク質により酵素活性を阻害し、細胞壁の分解を抑制している。また、植物はキチナーゼや1,3-β-グルカナーゼなどにより病原菌の細胞壁を分解し、生じた細胞壁分解産物はエリシターとして認識される。さらにキシラナーゼを認識するレセプタータンパク質の存在も認められている。このように植物はアポプラストにおいて、病原菌への防御機構を発展させてきた。
    我々は病原菌由来の細胞壁分解酵素に対する植物の防御機構を明らかにするため、いもち病菌由来の加水分解酵素をベンサミアーナにおいて一過的に発現させ、細胞壁分解酵素による植物の防御反応を調べた。その結果、ベンサミアーナはファミリー12に属するグルカナーゼにより過敏感細胞死を誘導することが明らかとなった。本発表では病原菌に由来する細胞壁分解酵素による植物の過敏感細胞死の解析について報告する。
  • 中野 友貴, 寺内 良平, 竹田 匠
    p. 0525
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    病原菌は、植物に感染する際、いくつかの細胞壁分解酵素を分泌し植物細胞壁を分解する。一方、植物は病原菌由来の細胞壁分解酵素に対するインヒビタータンパク質をアポプラストに分泌している。これまでに、キシログルカナーゼやポリガラクツロナーゼなどに対するインヒビタータンパク質が知られており、これらは、細胞壁分解酵素と結合することで酵素活性を阻害することが明らかとなっている。また植物体内においては、この反応が病原菌に対する防御反応の引き金となっていることが推察されている。イネいもち病菌由来の1,3-1,4-β-グルカナーゼ (MoCel12A) は、1,3-1,4-β-グルカンを特異的に加水分解する酵素であり、Nicotiana benthamiana および Arabidopsis thaliana における過剰発現により、過敏感細胞死を誘導する。この過敏感細胞死は、MoCel12Aがエリシターとなり、その認識が引き金となって誘導されることが示唆された。
    本研究では、MoCel12Aと結合するタンパク質を単離・同定し、その相互作用と細胞死の関係について検討した。
  • 米田 新, 伊藤 卓也, 斉藤 臣雄, 長田 裕之, 出村 拓
    p. 0526
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    セルロース微繊維とペクチンは植物一次細胞壁の主要な構成成分であり、それらの物理的特性は細胞の形態形成や維持に重要な役割を担う。これまでにペクチン側鎖のアラビナンがセルロース微繊維と結合し、結果ペクチン複合糖鎖がセルロース微繊維間を架橋するという報告があるが、アラビナンがどのようにセルロース微繊維と相互作用するのかは未知である。私たちはこれまでにセルロース微繊維の配向を乱す新規阻害剤コブトリンを発見し報告して来た。過去の治験からコブトリンはペクチン関連因子に作用すると考えられが、ペクチン主鎖には結合しないことから、コブトリンはペクチンの側鎖に作用すると推測される。そこで、ペクチンRG-Iの主な構成成分であるアラビナンを培地中に添加したところ、コブトリンによる細胞肥大が抑制された。この抑制効果は、1,2-ないし1,3-結合の分枝構造を持つアラビナンでは非常に高いのに対し、1,5-結合のみの直鎖状アラビナンではほとんど見られなかった。また、同様の阻害効果は1,2-ないし1,3-結合の分枝アラビナン残基を加水分解するアラビノフラノシダーゼで処理すると顕著に見られたが、1,5-結合を加水分解するエンド型アラビナナーゼ処理では観察されなかった。以上のことから、コブトリンはペクチンRG-I側鎖の分枝型アラビナンに作用し、アラビナンがセルロース微繊維に結合するのを阻害することが示唆された。
  • 小西 由起, 小林 優, 間藤 徹
    p. 0527
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物の必須元素ホウ素は細胞壁に局在し、ペクチンのラムノガラクツロナンII(RG-II)領域に特異的に結合している。このホウ素RG-II複合体の機能を解析する手段として、RG-IIの量や構造を変化させ影響を解析することが有用と考えられる。我々はRG-IIの特異的構成糖2-ケト-3-デオキシオクトン酸(KDO)に着目し、この糖の生合成経路に変異を有するシロイヌナズナの解析を進めている。
    CTP:KDOシチジル酸転移酵素(CKS)は、KDOとCTPから糖転移酵素の基質となるCMP-KDOを合成する。この酵素遺伝子のT-DNA挿入ラインにはホモ変異株が存在しなかった。quartet株との二重変異体を用いた解析の結果、cks変異は花粉管の伸長を阻害し花粉の稔性を失わせることが明らかとなった。従って+/cksヘテロ株の自家受粉では野生型花粉のみが授精を行い、後代は胚珠の遺伝子型を反映した分離比を示す。ヘテロ株を通常条件で栽培した場合、自家受粉後代では野生型とヘテロがほぼ1:1に分離したが、ホウ素欠乏条件で栽培すると後代におけるヘテロ株の割合は低下した。以上の結果は、KDOを欠くRG-IIでもホウ素が十分に存在すれば影響が顕在化しない一方、ホウ素濃度が低い場合や急速に伸長する組織においては完全なホウ素RG-II複合体が不可欠であることを示唆する。
  • 大岩 優貴, 小柴 太一, 小林 優, 間藤 徹
    p. 0528
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物の微量必須元素であるホウ素は細胞壁に局在し、ペクチン質多糖のラムノガラクツロナンII(RG-II)をホウ酸ジエステル架橋することで多糖の高次構造形成因子として機能している。我々はこれまでに、タバコ培養細胞BY-2の培地からホウ素を除去すると数分以内に細胞膜カルシウムチャネルが開口し、1時間以内にストレス応答遺伝子の発現が誘導されることを明らかにしてきた。培地からのホウ素消失によりこのように迅速な応答が発生するメカニズムは不明である。我々はこのメカニズムをシロイヌナズナを用いた分子遺伝学的解析を通じて明らかにしようと考えており、ここではまずシロイヌナズナのホウ素欠除に対する初期応答を解析した。
    実験には水耕栽培シロイヌナズナを用いた。ホウ素欠除処理後1時間の根では伸長領域が特異的にEvans blueで染色された。同じ部位で活性酸素分子種(ROS)の蓄積も観察された。これらの結果は、シロイヌナズナ根では伸長領域の細胞が特にホウ素欠乏に対する感受性が高く、短時間でROSを発生・蓄積し細胞死に至ることを示唆する。また欠除処理後1時間の根における遺伝子発現をRT-PCRで解析したところ、ホウ素欠乏タバコBY-2と同じストレス応答性遺伝子の発現誘導が確認された。今後、欠乏シグナルの生成・伝達に関わると推定される分子の変異株について、これら遺伝子の発現を指標に欠乏応答を解析する予定である。
  • 林 隆久, 海田 るみ, 飯塚 春香, 谷口 亨, 栗田 学, 小長谷 賢一, 石井 克明, 近藤 禎二, 太田 誠一, 舟橋 史晃, 馬場 ...
    p. 0529
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝子組換えポプラの野外試験を林木育種センター隔離圃場で、2010年12月まで4年間、実施した。組換えポプラは、セルロースミクロフィブリルを架橋しているキシログルカンを分解するキシログルカナーゼ(AaXEG2)を構成発現させたものである。野外試験を始める前に培養室で育成させた場合、組換えポプラは、成長速度が早く、セルロース含量が高くなり、木部の比重が高くなった。また、葉は緑色が強く厚くて重い陽葉の性質を見せた。網室の育成では、セルロース含量が高いことと陽葉の表現型は保存された。
    野外に植栽した場合、成長レベルは、富栄養区では野生株よりも低かったが、貧栄養区では野生株と同じレベルになった。キシログルカナーゼ活性は、芽で低く、根で高く、根の成長が抑えられていた。葉は、陽葉の表現型を示した。各組織におけるプロテオーム解析から、全ての部位でストレスに関連する遺伝子の発現が増大した。
  • 海田 るみ, 吉田 正人, 半 智史, 船田 良, 谷口 亨, 馬場 啓一, 林 隆久
    p. 0530
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    キシログルカナーゼ(AaXEG2)を構成発現する遺伝子組換えポプラの野外試験から、二次壁におけるキシログルカンの機能が分かりつつある。本報告では、木部組織の繊維細胞におけるキシログルカンの存在について論じる。キシログルカンに対する抗体CCRC-M1による免疫染色で、ポプラ木部繊維内腔を共焦点顕微鏡によって観察した。その結果、野生株では、一次壁に比較すると低い標識レベルではあるが、二次壁セルロースミクロフィブリル上にキシログルカンの存在が認められた。これは、金コロイド免疫電顕法を用いた走査型電子顕微鏡による繊維内腔の観察によっても確認された。一方、キシログルカナーゼを構成発現する組換えポプラは、一次壁、二次壁ともに野生株に比べて極めて低いレベルの標識しか認められなかった。キシログルカンに加えてグルコマンナン及びキシランの抗体を用い、ポプラ木部繊維内腔を三重染色して局在性を解析した。キシログルカンの減少に伴うグルコマンナンやキシランの標識レベルの変化を観察し、木部繊維におけるそれぞれヘミセルロースの局在性を考察する。
  • 丸山 明子, 高宗 万希子, 高橋 秀樹
    p. 0531
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    高親和型硫酸イオントランスポーターSULTR1;2は、シロイヌナズナの根における硫酸イオン吸収に主要な役割を果たす。SULTR1;2の遺伝子発現は硫黄欠乏(-S)に応答して増加し、この時硫酸イオン吸収活性も上昇する。このことは植物が-S下で硫酸イオン獲得効率を増すための適応機構であると考えられている。これまでに、SULTR1;2の-S応答がSLIM1転写因子により制御される事、SULTR1;2の-S応答シス因子がWRKY結合配列を含むことを見出した。SLIM1とSULTR1;2は組織局在性が異なるため、SULTR1;2の発現をSLIM1が直接的に制御しているとは考えにくい。そこで本研究では、SULTR1;2の-S応答を直接的に制御するWRKY転写因子の同定を試みた。シロイヌナズナのゲノム上に存在する72種のWRKY転写因子のうち、-Sで発現が上昇し、かつその発現上昇がslim1変異株で抑制されるものを探索したところ、3種が認められた。これらについて遺伝子欠損変異体を取得し、硫黄十分、-SにおけるSULTR1;2の発現および硫酸イオンの吸収活性を調べたところ、どちらも-Sでのみ野生株と比較して有意に減少していた。この結果は、これらのWRKY転写因子が硫黄欠乏に応じた硫酸イオン吸収活性の上昇に寄与していることを示している。
  • 山口 千仁, 中村 有美子, 高橋 秀樹, 丸山 明子
    p. 0532
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    硫黄は植物の生存に必須な多量元素であり、その供給量及び同化能は植物の生育や発達に大きく影響する。硫黄欠乏下(-S)では、植物体内では硫黄同化系で働く酵素群の遺伝子発現および活性が上昇し、-Sでの効率的な硫黄同化、植物の生存が可能になる。-Sで発現が上昇する硫酸イオントランスポーターSULTR1;2のプロモーターの制御下にGFPを発現する形質転換体植物では、-SによりGFPの蓄積が起こる。この植物にEMS処理をしたM2種子を用いて、-SでGFPの蓄積が起こらない硫黄栄養応答欠損変異株を選抜した。これらの変異株から、硫黄栄養に応答した遺伝子発現変化の多くを制御する転写因子SLIM1が同定された。本研究では、これらのうち、SLIM1に変異がない4系統A2, B1, D2, D4について、表現型の解析を行った。各変異株を0, 15, 30, 1500μMの硫酸イオンを添加した培地で成育させたところ、いずれも-Sに応答したSULTR1;2の発現上昇が緩和されたが、A2, B1では0μMの条件でも野生型株との差が認められたのに対し、D2, D4では15, 30μMでのみ差が認められ、応答欠損の度合いが異なっていた。また、根の長さや側根数など、形態的にもA2, B1とD2, D4の間には違いが認められた。現在、硫酸イオンの吸収活性、含硫化合物の蓄積量を解析中である。
  • 蟹谷 祐樹, 山内 優輝, 金子 康子, 日原 由香子
    p. 0533
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    すべてのシアノバクテリアには、C末端領域にAbrB型DNA結合ドメインを持つ推定転写制御因子 (cyAbrB)をコードする遺伝子が、複数コピー存在している。Synechocystis sp. PCC 6803における2つのcyAbrB遺伝子、sll0822とsll0359をそれぞれ挿入破壊したところ、完全な遺伝子破壊株は、sll0822についてのみ得られた。sll0822破壊株では、窒素関連遺伝子(amt1urtAglnB等) の発現レベルの減少に起因するグリコーゲンの高蓄積や、細胞分裂関連遺伝子(ftsZftsQ) の発現レベルの減少に起因する細胞サイズの増大などが観察された。sll0822破壊株に対し、cyAbrBを過剰発現させたところ、sll0822を過剰発現させた場合に加え、sll0359を過剰発現させた場合にも、sll0822破壊株の表現型の部分的な相補が観察された。したがって、Sll0822とSll0359は通常培養条件下で、炭素・窒素代謝や細胞分裂の制御に関して、協調的に働いていると考えられる。また、sll0822、sll0359それぞれの過剰発現株から両者が共精製されたことから、細胞内での両者の相互作用が示唆された。
  • 門脇 太朗, 堀内 真由美, 中村 絹, 小島 幸治, 西山 佳孝, 畠山 和佳子, 久堀 徹, 日原 由香子
    p. 0534
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアには、ほぼ全長がLuxR型のDNA結合モチーフから成る低分子量転写因子が高度に保存され、それらはC末端に特徴的な3つのシステインを保持している。我々はSynechocystis sp. PCC 6803のLuxR型低分子量転写因子PedRの二量体が、一連の強光応答性遺伝子の発現を、光合成電子伝達活性に依存して調節していることを明らかにした。Pull down法により、PedRと相互作用する因子を探索したところ、チオレドキシンが同定され、さらにin vitro でチオレドキシンがPedRを還元することが確認された。また、チオレドキシンに還元力を供給するフェレドキシン-チオレドキシン還元酵素、またはNADPH-チオレドキシン還元酵素の遺伝子破壊により、強光下でのPedRの構造変化、標的遺伝子の発現変化が失われたことから、in vivo においてもPedRがチオレドキシンより還元力を得ていることが示唆された。現在、チオレドキシンの標的となるシステイン残基を同定するために、3つのシステイン残基をそれぞれセリンに置換したPedRを大腸菌内で大量発現・精製し、チオレドキシンとの相互作用を解析している。
  • 井木 太一郎, 吉川 学, 石川 雅之
    p. 0535
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    Posttranscriptional gene silencing (PTGS, RNAサイレンシングのひとつ)では、mRNAやウイルスRNA等がRNA-induced silencing complex (RISC)の標的RNAとして、翻訳抑制や切断を受けて不活性化される。RISCにはARGONAUTEファミリーのタンパク質(AGO)と一本鎖の小分子RNAが含まれ、小分子RNAが相補的配列を含む標的RNAを認識する。RISC形成はPTGSの誘起段階として重要であるが、その分子機構については未だ明らかでない点が多い。これまでに我々は、脱液胞化タバコプロトプラスト抽出液(BYL)を用いた植物RISCの無細胞形成系を確立し、本系を用いた解析により、二本鎖の小分子RNAがAGO1に結合する段階に分子シャペロンHSP90が関与することを示唆した。今回我々は、HSP90とAGO1と二本鎖小分子RNAを含む複合体が形成され、HSP90がATPを加水分解すると、AGO1と二本鎖小分子を含む複合体からHSP90が分離し、AGO1に結合している小分子RNAの一本鎖化が起きること、さらに、この過程にHSP90のコシャペロンが関与することを示す。
  • 松井 章浩, 石田 順子, 諸澤 妙子, 田中 真帆, 牛房 知香, 篠崎 一雄, 飯田 慶, 豊田 哲郎, 関 原明
    p. 0536
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物は移動の自由がないため、乾燥、低温、塩などのストレスに対する独自の制御機構を備えている。近年、タンパク質をコードしないRNAが大量に存在することが明らかになりつつある。これらのRNAもストレスに応答して何らかの機能を持つと考えられる。私たちは、ストレス下で働く新規RNAの探索・機能解析を目指して、タイリングアレイを用いてシロイヌナズナの全ゲノムトランスクリプトーム解析を行った。乾燥、低温、塩ストレスとABA処理下のシロイヌナズナから7,719個の新規転写単位を同定した。これらの新規RNAの大半は既知のタンパク質をコードしないものであり、約9割の新規転写単位はタンパク質をコードする遺伝子のアンチセンスRNAであった。興味深い事に、これらの遺伝子とアンチセンスRNAは、ストレスに対して正の相関性を持って発現応答をしていた。私たちはアンチセンスRNAの生成機構を解明するため、ストレス応答性遺伝子領域の幾つかについてノーザンおよびreal time RT-PCR解析を行った。その結果、センス鎖mRNAに依存にアンチセンスRNAを生成する機構が存在する事が示唆された。現在、RNAの生成や分解に関わる遺伝子の変異体を利用して、これらのストレス応答性アンチセンスRNAの生成機構と機能に関する解析を進めている。
  • 小林 周平, 栗原 志夫, 中南 健太郎, 関 原明
    p. 0537
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    環境ストレスに応答して様々な遺伝子やタンパク質の発現の変化が引き起こされる。遺伝子やタンパク質の発現変化は、新たなmRNAの転写・翻訳によるものだけでなく、既存のmRNAの分解や保存などのRNA制御によっても調節されている。近年、このRNA制御を介した遺伝子・タンパク質発現の調節の場として、Stress granule(SG)を始めとした細胞内顆粒の存在が動物や酵母を用いた研究で明らかになってきた。SGは翻訳されていないmRNAを一時的に保持することで翻訳を抑制し、環境ストレス応答にも密接に関わっていると考えられている。植物においては熱ストレス条件下でのSG様細胞内顆粒の存在が報告されているが、SGの機能や標的となるmRNAについては不明なままである。本研究では、植物におけるSGの機能を解明することを目指し、まずSGの指標となるRNA結合タンパク質、UBP1とVenus(改変GFP)の融合タンパク質を発現する形質転換シロイヌナズナを作製した。形質転換植物にストレス処理を施し、UBP1の細胞内局在の変化を観察したところ、熱ストレスだけでなく塩ストレスによってもSGが細胞質に誘導されることが示された。この結果から、SGが植物の環境ストレス応答において重要な役割を果たしていることが示唆された。
  • 上田 清貴, 矢村 寿啓, 久保 祐喜, 山口 雅利, 出村 拓, 松浦 秀幸, 加藤 晃
    p. 0538
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    環境ストレスによって植物細胞の翻訳状態は大きく変化することが知られている。我々はポリソーム解析とDNAマイクロアレイを応用し、イネ培養細胞における熱ストレスに応答した翻訳状態変化の網羅的解析を行った。解析結果から熱ストレス(41℃10 min)によって過半数のmRNAからの翻訳が抑制され、一方で、一部のmRNAからの翻訳が維持されていることが明らかとなった。次に、各mRNAをコードするタンパク質を機能別に分類し、全体の翻訳状態変化に対して特徴的な変化を示す機能集団を探索した。その結果、複数の機能集団の翻訳状態が全mRNAの挙動と比較して統計的に優位に変化していた。我々はこれまでにシロイヌナズナを対象として同様の解析を行っており、今回のイネでの結果と比較したところ、両植物間で共通した翻訳状態変化を示す機能集団が存在した。これら機能集団に含まれる遺伝子はストレス応答に重要であると考えられ、翻訳段階の制御が熱ストレスに応答した遺伝子発現制御に重要な役割を果たしている可能性が示された。
  • 千葉 由佳子, 峯田 克彦, 平井 優美, 鈴木 悠也, 山口 淳二, Green Pamela, J, 内藤 哲
    p. 0539
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    温帯域や亜寒帯域に生育する植物の多くは,低温馴化と呼ばれる機構を持ち,あるレベルの低温ストレスに晒されると,より強い耐冷性,時には耐凍性をも獲得する。低温馴化には様々な遺伝子発現制御が伴い,主要な転写制御機構はすでに明らかとなっているが,それによってすべての低温ストレス応答性遺伝子の発現が説明できるわけではない。我々は低温ストレスに応答したmRNA分解による遺伝子発現制御を明らかにするために,マイクロアレイと転写阻害剤処理を組み合わせた 「mRNA decay array」によって,低温ストレスを与えたときのmRNA分解速度の変化を網羅的に解析した。研究対象としてシロイヌナズナの培養細胞(T87株)を用いた。一般的に,低温下では酵素活性が低下することが考えられ,多くの遺伝子ではmRNA分解活性が低下し,安定化していた。それら平均的な挙動を示す遺伝子群との比較により,低温ストレスに応答してmRNAがより安定化あるいは不安定化する遺伝子群を見出した。興味深いことに,ストレス応答に関わる遺伝子群は不安定化する傾向があることを明らかにした。さらに,低温ストレスで誘導される定常状態におけるmRNAレベルと転写速度の変化を見積もることによって,mRNA分解による遺伝子発現制御を受けていると考えられる遺伝子をいくつか見出した。
  • 田中 真幸, 高野 順平, 千葉 由佳子, 尾之内 均, 内藤 哲, 藤原 徹
    p. 0540
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    NIP5;1 は低ホウ素条件でのホウ素の効率的な輸送に必須なチャネルをコードしており、その転写産物の蓄積はホウ素欠乏で高まる。この応答機構の解明のため、NIP5;1 プロモーター領域と5’非翻訳領域(5'UTR)のホウ素欠乏応答における役割について調べたところ、5'UTRの+182-+200の配列がNIP5;1 転写産物のホウ素栄養に応じた蓄積に重要であることを前年会で報告した。
    本年会では、NIP5;1 のホウ素欠乏応答の制御機構に関してさらに検討を加えた。ホウ素欠乏・十分条件におけるNIP5;1 mRNAの安定性について、転写阻害剤投与後のNIP5;1 の発現量の経時変化をRT-PCRにより調べた。NIP5;1 の5’UTRの断片の下流にGUS遺伝子を連結し、カリフラワーモザイクウィルス35SRNAプロモーター制御下で発現するようにした形質転換植物を作製し実験を行った。その結果、5'UTRを挿入した形質転換植物では、低ホウ素条件に比べて高ホウ素条件でそのNIP5;1 mRNAの分解がより加速された。しかしながら5'UTR内の+182-+200を欠損させると、ホウ素条件によるNIP5;1 mRNAの分解速度に違いがみられなくなった。以上のことから、5'UTRの+182-+200の配列がホウ素栄養に応じたNIP5;1 mRNAの分解に必須であることが示唆された。
  • 鈴木 悠也, J. Green Pamela, 山口 淳二, 千葉 由佳子
    p. 0541
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    真核生物は細胞内における個々のmRNA量を厳密に制御することによって、様々な外部刺激に対応している。これまでの研究は転写によるmRNA量の調整に重点が置かれてきたが、近年mRNAの分解による制御に注目が集まっており、mRNA分解に関わる様々な酵素が同定されつつある。mRNA分解の最初の段階はポリA鎖の除去であり、この段階がmRNA分解の律速段階であると考えられている。よってmRNA分解全体の仕組みを理解するには、まずこのポリA鎖の除去を理解することが必要不可欠である。酵母では主要なポリA鎖除去酵素としてCcr4/Caf1複合体が同定されており、変異株を用いた実験からCcr4がその中心的な役割を担っていることが明らかになっている。植物では酵母Ccr4のホモログが6つ存在し、中でもAtCCR4-1およびAtCCR4-2が高いアミノ酸配列の相同性を示した。mRNA分解に関わる多くの酵素は細胞質内でP-bodyと呼ばれる領域に局在することが明らかになっている。T87プロトプラストを用いた一過的発現による局在解析の結果、AtCCR4-1とAtCCR4-2はともにP-bodyに局在することが明らかになった。また変異株を用いた解析では、二重変異株で多面的な表現系が観察された。このことはAtCCR4-1およびAtCCR4-2が普遍的mRNA分解に関与している可能性を示唆している。
  • 鈴木 孝征, 品川 智美
    p. 0542
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    発現量の多いmRNAは特定のコドンを用いる傾向があることはシロイヌナズナを含む様々な生物において知られている。このことはmRNAが多い遺伝子はタンパク質が多く必要とされている遺伝子であり、翻訳の効率を上げるためにコドンが最適化されていると解釈されている。私たちは逆の可能性、つまり翻訳に適したコドンはmRNAの安定化に寄与する可能性を考え、研究を行っている。
    コドンと遺伝子発現の関係を解析するために、高発現遺伝子で多く見られるコドンからのみなるルシフェラーゼ遺伝子(opLuc)を合成し、よく使われているルシフェラーゼ(ここでは40Lucと参照)と比較した。それぞれをシロイヌナズナの培養細胞株T87にアグロバクテリウムを介して導入し、形質転換体を得た。RNAを抽出し発現量を調べたところ、opLucのほうが高い発現を示した。また活性、タンパク質量ともopLucのほうが高かった。一方こうしたopLucの高発現はゲノム中のコピー数とは関連がなかった。転写速度を測定したところopLucと40Lucで有意な差はみられなかった。これらのことからコドンの最適化によりmRNAが安定化し、遺伝子の高発現につながっていると考えられた。
  • Sakurai Tetsuya, Kondou Youichi, Akiyama Kenji, Kurotani Atsushi, Higu ...
    p. 0543
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、近年の研究において、迅速かつ効率的な有用形質の探索を目的とするFOXハンティング法(完全長cDNA高発現遺伝子探索法)を用い、13,000種類のイネ遺伝子を用いて約30,000系統のイネFOXシロイヌナズナ系統を作出し、形態、光合成能、紫外線、元素組成、植物ホルモン、二次代謝物、病害抵抗性、高温/塩耐性といった広範囲な選抜を行ってきた。これらの選抜結果データについては、2008年よりインターネット上で公開している(RiceFOX http://ricefox.psc.riken.jp/)。データベースの公開後も、イネFOXシロイヌナズナ系統の高次選抜を継続してきた。この度、RiceFOXデータベース中のデータを最新のデータに更新し、17,985のイネFOXシロイヌナズナ系統についての選抜結果を収録することになった。そのうちの14,401系統については、導入した完全長cDNAについての記述を備え、表現形質と遺伝子機能との関係性を示唆する。データベース機能に加え、任意のクラスタリング法や距離計算法に則ったクラスタリング・ヒートマップの結果を提供する機能を実装した。この機能は、膨大なデータから性質的に近似の遺伝子を迅速に収集し、視覚的な理解を促進する上で有用であり、個別の実験計画における検討などに有効に利用できる。
  • 佐藤 豊, アントニオ バルタザール, 竹久 妃奈子, 並木 信和, 釜付 香, 本山 立子, 杉本 和彦, 伊川 浩司, 大柳 一, 長村 ...
    p. 0544
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    網羅的遺伝子発現情報は遺伝子の機能予測に有効であり、シロイヌナズナでは多くのデータベースが構築され公開されているが、イネにおいてはその情報整備は遅れている。そこで、我々はイネ品種「日本晴」の網羅的遺伝子発現プロファイリングを実施し、データベースRiceXPro (http://ricexpro.dna.affrc.go.jp/) を構築したので本発表で紹介する。つくば圃場で栽培したイネの様々な器官・組織をサンプリングし、イネ4x44KマイクロアレイRAP-DB (アジレント)を用いて遺伝子発現解析を行った。現在、143のマイクロアレイデータから構成される器官・組織網羅的遺伝子発現情報、51のマイクロアレイデータから構成される田植えから刈取りまでの葉の経時的遺伝子発現情報を公開中である。RiceXProでは、遺伝子発現情報を棒グラフ(raw data)と折れ線グラフ(normalized data)の形式で閲覧することができ、さらに簡単な統計解析ツールやヒートマップ作成機能等を実装しているため目的の遺伝子発現情報を迅速に得ることが可能である。これらの機能を利用して得られる情報は、遺伝子の機能予測、遺伝子単離(マップベースクローニング)、有用プロモーターの探索など様々な用途に活用でき、イネ及びイネ科作物の研究に非常に役立つと考えられる。
  • 飯田 慶, 川口 修治, 小林 紀郎, 吉田 有子, 石井 学, 原田 えりみ, 花田 耕介, 松井 章浩, 岡本 昌憲, 関 原明, 豊田 ...
    p. 0545
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    半数以上のシロイヌナズナ遺伝子は、その機能が未知であるかアミノ配列の類似性などに基づいて機能予測がなされているだけである。近年、急速に発達している遺伝子発現計測技術とバイオインフォマティクス解析により、高精度な遺伝子機能予測を行うことは、機能ゲノミクスを推進する上で重要である。今回我々は、タイリングアレイによって得られた発現プロファイルを用いて動的に遺伝子モデルを構築しつつ(Dynamic Gene Structure Construction, プログラム名:ARTADE2)、複数コンディションにおける遺伝子の動的な発現変動を解析することで(Dynamic Expression Analysis)、遺伝子の機能予測を行う手法;DSDE法を開発し、この結果をARTADE2DBとして公開した。この方法により、1)機能既知遺伝子の約90%において正しいアノテーション情報を再予測できる精度を得ることができ、2)機能未知遺伝子の98%以上に、なんらかの機能予測を与え、3)約1,500個の新規遺伝子候補をその機能予測結果と共に得ることが出来た。
    ARTADE2DB: http://scinets.org/db/artade2
  • 尾形 善之, 近山 英輔, 森岡 祐介, 菊地 淳
    p. 0546
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物を取り巻く自然環境はヒトと生態系サービスとの関係と同様に、環境中のゲノム情報と産生化学物質のふたつの要素で架橋されている。我々はこれらの要素を繋ぐアプローチに基づいて環境をオミクス解析的に展開していくアプローチとして、「ECOMICS」を提唱する。ECOMICSでは環境トランスオミクス解析を実現するために、ゲノミクスおよびメタボロミクスそれぞれを実現するアプローチとともに、異質なオミクスである両者を関連付けるアプローチを提案する。ゲノミクスとしては、リボソームRNAの塩基配列を利用することで、メタゲノム解析で広く対象とされる原核生物に加え、高等植物や藻類を含む真核生物に対しても、配列データに基づく系統分類を実現する。メタボロミクスとしては、植物バイオマスを含む環境化学物質のNMRスペクトルに基づく環境ケミカルフェノタイピングを実現する。両者の統合的アプローチとして、両オミクスデータ間での相関マップを描画することで、環境試料を用いたトランスオミクス解析を実現する。植物生育環境中の塩基配列とNMRスペクトルの時系列変動データセットを用いることで、環境ゲノム情報と植物バイオマスとの関連付けが可能となり、植物代謝システムの包括的理解に繋がる知見が得られると期待する。ECOMICSサービスはhttps://database.riken.jp/ecomics/より公共利用が可能である。
  • 大林 武, 木下 賢吾
    p. 0547
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    近年、遺伝子発現パターンの似ている遺伝子群(共発現遺伝子群)を用いて遺伝子機能の推定を行い、遺伝子破壊実験等で機能同定を行うアプローチが一般化しつつある。我々はこのアプローチを支えるため、ATTED-II (http://atted.jp)を通じて、シロイヌナズナの共発現データを提供してきた。この共発現データは、多様な条件における遺伝子発現データを基に作成しており、そのため、多様な生命現象に関わる遺伝子を解析するのに適している。しかし、このような共発現データ(「条件非特異的」共発現データ)は、あらゆる実験条件の結果が「共発現強度」という1つの数値になってしまうため、実験条件による違いについて検討することは難しい。
    この問題を解決するため、ATTED-II ver.6では5種類の「条件特異的」共発現データ(組織、非生物的ストレス、生物的ストレス、ホルモン、光)を提供している。これにより、リスト表示、ネットワーク表示ともに、今までの条件非特異的共発現データを、実験条件の観点からより深く理解することが可能になった。
    また、このシロイヌナズナの共発現データは、ver.5.4から提供を始めたイネの共発現データと比較可能である。両種で保存されている共発現は被子植物全般に保存されていると期待でき、有用植物への応用が行いやすくなった。
  • 秋山 顕治, 黒谷 篤之, 篠崎 一雄, 櫻井 哲也
    p. 0548
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    RIKEN Arabidopsis Genome Encyclopedia (RARGE)はシロイヌナズナの完全長cDNAやトランスポゾン変異体をはじめとする基礎的なゲノムリソースデータを提供するWebデータベースとして開発されてきた。この度、RARGEを大幅に改修し、リソースの違いを意識せずに機能喪失型変異体および機能獲得型変異体の表現型とその遺伝子機能による検索・閲覧を可能にし、遺伝子機能理解の側面を強化したシステムとなった。これまでに4つのシロイヌナズナ変異体表現型データベースからデータを収集し、51991変異体分の情報を統合した。各変異体の植物体画像、表現形質、表現形質への関与が想定される遺伝子についての情報を収録した。変異体の表現形質記述は、各研究機関により異なる定義、または自由記述がされてきたが、本活動により、各種オントロジーを用いて再定義することで記述表現を統一し、効率的な情報検索を可能にした。また同時に、開発・運用環境も刷新した。大きな変更の一つはデータベース・スキーマの全面的な再デザインを伴うデータベース管理システムの変更であり、もう一つはWebアプリケーション・フレームワークの利用である。その結果、遺伝子アノテーションとデータベース検索機能および利便性が大幅に向上した。
  • 三原 基広, 伊藤 剛, 井澤 毅
    p. 0549
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、比較ゲノム解析が簡単にできるSALAD database
    (http://salad.dna.affrc.go.jp/salad/) を作成、公開してきた。SALAD databaseでは、進化的に保存されたアミノ酸配列(モチーフ)の組み合わせによりタンパク質を分類し、タンパク質同士の関係をグラフィカルに表示することができる。現バージョンでは10種の比較解析が可能だが、それ以外の生物種の情報も利用したい人に向けて、Blasting SALAD Analysisというユーザリクエスト型のシステムを作成した。このシステムでは、ユーザの興味ある配列を使って幅広い生物種のゲノム情報(phytozome等に登録されている17種以上のゲノム情報、加えて、uniprotの植物のゲノム情報)から、BLASTを利用して相同性のあるアミノ酸配列を集めることができる。そこから生物種ごとに相同な遺伝子数を示したテーブルを使って、アミノ酸配列セット(50個以下)を生成し、その配列セットで、通常のSALAD databaseと同じ保存モチーフを利用した比較解析ができるようになっている。特定のパラログ・オーソログの比較解析に非常に便利な機能である。さらに、SALAD databaseでは大幅なバージョンアップに向けて、各保存モチーフにIDを割り振るという作業も進めているので、そのことについても報告する。
  • 小口 太一, 前田 寛明, 山口 琢也, 江花 薫子, 矢野 昌裕, 蛯谷 武志, 井澤 毅
    p. 0550
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    黒米は果皮/種皮にアントシアニン系色素が蓄積した形質であるが、その遺伝学的背景は十分明らかでない。そこで我々は、黒米の分子遺伝学的背景の解明を目的とし、コシヒカリを背景とする黒米品種、富山黒75号を用いて解析を行った。富山黒75号は、黒米品種、紅血糯とコシヒカリの交配により育種した品種で、紅血糯由来の3領域がインテグレートされている。登熟中の種皮/果皮のトランスクリプトーム解析の結果、富山黒75号では、フェニルプロパノイド化合物の初期過程に関する酵素群に加えてLDOX遺伝子およびの第4染色体紅血糯由来領域中のbHLH型転写因子遺伝子の発現が黒米で特異的に高発現することが明らかとなった。一方、RcRd領域をインテグレートした系統では、初期酵素群に加えて、LARが活性化を受けていた。次に、富山黒75号およびジーンバンクから得た23の黒米品種について日本晴/Kasalath間および日本晴/KhauMacKho間のSNPマーカーセットを用いた遺伝型解析を行ったところ、アウスを除く、インディカ、熱帯ジャポニカ、温帯ジャポニカの遺伝背景をもつ黒米品種が存在し、かつ、黒米品種の第4染色体bHLH遺伝子周辺は熱帯ジャポニカに由来することが明らかになった。この結果は、熱帯ジャポニカ祖先種に起こった黒米化変異が自然交配を人為選抜されたことで強いイントログレッションが起こったことを示唆する結果である。
  • 圓山 恭之進, 城所 聡, 高崎 寛則, 溝井 順哉, 松倉 智子, 吉田 拓也, 小嶋 美紀子, 榊原 均, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 0551
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    乾燥及び低温環境下では、様々なシグナル因子が多くの遺伝子発現調節に関与していると考えられている。現在、数多くの植物ゲノム解析が進みさらにマイクロアレイ技術が進歩したため、全遺伝子を網羅した遺伝子発現解析を行うことができるようになった。また、ゲノム解析、マイクロアレイ解析、植物ホルモン解析を組み合わせることによって、遺伝子発現様式が類似する遺伝子群のプロモーター領域に保存されるシス因子を選抜することや、シグナルネットワークを解析することも可能になった。本研究では、1. シロイヌナズナ、イネ、ダイズにおける乾燥及び低温誘導性遺伝子の選抜、2. それぞれの植物の乾燥及び低温誘導性プロモーターの保存領域の選抜、3. それぞれの植物の乾燥及び低温環境下におけるアブシシン酸の蓄積量の分析、4. 1-3の統合解析によって、乾燥及び低温環境下における主要転写経路に関与するシス因子を推定した。これらの解析からシロイヌナズナ、イネ、ダイズの乾燥環境下における主要転写経路には、シス因子であるABA responsive element(ABRE)が関与していることが推定された。また、低温環境下における主要転写経路は、シロイヌナズナはDehydration responsive element (DRE)、イネはEvening element(EE)、ダイズはABREが関与していることが推定された。
  • 吉岡 洋平, 百町 満朗, 時澤 睦朋, 小山 博之, 圓山 恭之進, 篠崎 和子, 山本 義治
    p. 0552
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    我々の研究グループでは、シロイヌナズナゲノムに含まれている転写制御配列の大規模同定を目標として、マイクロアレイデータに基づいた転写制御配列の予測を行っている。まず、我々の内部データ及び公開されているマイクロアレイデータより、アブシジン酸、オーキシン、エチレン、サイトカイニン、ブラシノステロイド、ジャスモン酸、サリチル酸、過酸化水素、乾燥、及びDREB1A過剰発現、の処理による応答データを取り込み、予測の基盤とした。そして、それらの処理に応答するシロイヌナズナプロモーター622本を選抜し転写制御配列の予測を行った。予測結果を実験的に機能解析されているプロモーターに照合したところ、高い検出率及び正解率で転写制御配列を抽出できていることがわかった。また、本解析においてこれまでに報告されていない配列が新規転写制御配列候補として多数抽出された。得られた予測結果はppdb(Plant Promoter Database)に反映させていきたい。今後は種々の環境・生物ストレス応答に関する転写制御配列予測についても解析を進める予定である。
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