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河野 洋治, 八尾 藍, 宝泉 雄介, 島本 功
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0603
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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植物の抵抗性遺伝子産物(以下、抵抗性タンパク質)は、病原体を認識する細胞内レセプターとして働くことが知られている。最近、我々は、低分子量Gタンパク質OsRac1が細胞膜上でいもち病菌に対する抵抗性タンパク質であるPitで活性化されることを見出した。この抵抗性タンパク質によるOsRac1の活性化が耐病性の誘導に重要であると考えられた。現在、抵抗性タンパク質の細胞内局在機構は、十分に理解されていない。そこで、抵抗性タンパク質Pitの細胞内局在に関与する分子を同定する目的で、Pitの局在に変化を及ぼす阻害剤のスクリーニングを行った。野性型Pitは、細胞膜上に局在するが、シャペロンタンパク質Hsp90の阻害剤で処理したイネのプロトプラストではPitが細胞膜上から脱局在をすることを見出した。PitとHsp90の相互作用を検討したところ、in vivoでPitがHsp90と複合体を形成することを見出した。さらに、活性型Pitによる過敏感反応やROSの産生にHsp90が必要であることを明らかにした。以上の結果から、抵抗性タンパク質Pitのシグナル伝達や細胞内局在にHsp90が重要な役割を果たしていることが明らかになった。また、抵抗性タンパク質Pitの細胞膜局在に、脂質修飾のパルミトイル化が重要であることも見出している。
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新屋 友規, 出崎 能丈, 大友 一平, 早船 真広, Kombrink Anja, Thomma Bart, Talbot Nichola ...
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0604
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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植物は多くの微生物に共通して存在する微生物分子パターン(MAMPs)の認識を介してその感染を検出する能力をもっている。一方、病原菌の中にはこうしたMAMPs認識やシグナル伝達系を阻害することにより病原性を発揮するものも見つかっている。最近、トマト葉カビ病菌やイネいもち病菌のような病原菌が、植物のキチン受容体(CEBiP, CERK1)と構造的に類似したLysM型タンパク質エフェクターを分泌することにより、植物のキチン認識と防御応答誘導を阻害していることが分かってきた[1]。我々は、これらのLysM型エフェクター分子がいずれもキチンオリゴ糖に高い親和性を示すことをBIACOREを用いた解析から明らかにした。また、ビオチン化キチンオリゴ糖を利用した親和性標識実験から、これらの分子はキチンオリゴ糖に結合することで、植物受容体によるキチンの検出を阻害していることを見出した。さらに、イネ培養細胞を用いた解析から、これらのエフェクターはキチンオリゴ糖による防御応答の誘導を顕著に阻害することが見出された。以上の結果は、植物と病原菌の相互作用において、キチンオリゴ糖の検出をめぐる植物受容体と病原菌エフェクターのせめぎ合いという分子レベルの攻防が広く行われていることを示唆するものとして興味深い。
[1]de Jonge et al., Science, 329, 953 (2010).
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松井 英譲, 野村 有子, 加星(岸) 光子, 高橋 章, 廣近 洋彦, 白須 賢, 中神 弘史
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0605
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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プロテオーム解析手法は、遺伝子の機能重複や変異体の致死性に由来する順遺伝学的手法による制約を受けず、翻訳後修飾の解析に非常に有用な手段であることより、未知のシグナル伝達機構を解析するための強力なツールとして期待されている。我々は、「リン酸化」を大規模に解析するショットガン解析技術を確立し、植物免疫を含む広範囲の生命現象の理解に威力を発揮し得ることを報告してきた。
現在、このリン酸化プロテオミクス技術を用い、微生物分子パターン(microbe-associated molecular pattern: MAMP)刺激に伴うリン酸化プロテオームの変動解析を行い、植物免疫を制御する新たな因子の同定に取り組んでいる。また、植物免疫への関与が知られているプロテインキナーゼの基質の同定を目的とした新規手法の確立にも取り組んでいる。本発表では、これらの取り組みについて紹介する。
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山口 公志, 石川 和也, 古谷 綾子, 落合 弘和, 津下 誠治, 島本 功, 川崎 努
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0606
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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病原菌は植物に感染する際、エフェクターと呼ばれるタンパク質をType ?V secretion system (TTSS)を用いて直接植物細胞内へと分泌し、植物の抵抗性反応を抑制し、宿主に感染することを可能にする。我々はイネ白葉枯病菌エフェクターを過剰発現したイネを作出し、TTSSを欠損したイネ白葉枯病菌
HrpX変異株の接種に対して顕著な病徴の拡大を示す過剰発現植物を数種類同定した。これらのエフェクターはイネのPAMPs抵抗性を抑制することが予想されるが、その配列から機能の推定が困難であり、宿主内での機能解析が難しい。そこでエフェクターのイネ相互作用因子を解析することで、宿主内でのイネ抵抗性の抑制機構の解明を目指した。Y2H法によりイネのエフェクター相互作用因子を網羅的に探索し、エフェクター相互作用候補タンパク質として2種類のイネのReceptor like Cytoplasmic Kinase (OsRLCKs)を同定した。本発表ではY2H法やBiFC法による、エフェクターとOsRLCKsの相互作用解析を報告する。また、Y2H法によりOsRLCKsとイネの細胞膜受容体との相互作用を解析したところ、数種の受容体との相互作用を示した。近年RLCKsが細胞のシグナル伝達に関与している報告が多くなされていることから、イネ免疫経路におけるOsRLCKsの役割についても検討する。
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桂木 雄也
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0607
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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イネは、植物病原細菌
Acidovorax avenae非親和性菌株の鞭毛タンパク質フラジェリンを特異的に認識し免疫反応を誘導する。そこで、イネに存在するフラジェリンの受容体を同定し、その受容の分子機構を明らかにすることを目的として研究を行った。これまでの研究で、イネはシロイヌナズナなどが認識するフラジェリンN末端領域のflg22をほとんど認識しないが、C末端領域であるCD2-0発現タンパク質を特異的に認識し免疫反応を誘導することが明らかとなった。そこで、イネに存在するフラジェリンの受容体を同定するため、フラジェリン処理によって発現誘導されるイネ遺伝子をマイクロアレイによって探索したところ、いくつかの受容体型キナーゼをコードする遺伝子が含まれていた。次に、これらの遺伝子を欠損したイネ変異株におけるフラジェリン認識活性を測定したところ、
Flagellin-induced Receptor Kinase 1(
FliRK1)と名付けた遺伝子欠損体がフラジェリン非感受性であることが示された。そこで、
FliRK1をフラジェリン非感受性株に発現させたところ、フラジェリン認識能が回復することが明らかとなった。次に、FliRK1とフラジェリンが直接相互作用するかを免疫沈降実験により調べたところ、フラジェリンはFliRK1と特異的に相互作用することが明らかになった。
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初谷 紀幸, 今村 博臣, 野地 博行, 永井 健治
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0608
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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アデノシン三リン酸(ATP)の細胞内濃度は細胞のエネルギー状態の指標である。植物細胞に細胞死を誘導すると、時間とともに細胞内ATP濃度が低下することが知られており、細胞内ATP濃度の低下が細胞死実行因子の活性化に繋がるという説が提唱されているものの、単一細胞レベルにおける詳細は明らかにされていない。そこで本研究では我々が最近開発した蛍光タンパク質間FRETに基づく蛍光ATPセンサー(ATeam)を用いて、植物体の単一細胞内におけるATP動態を時空間階層を保ったまま可視化することを試みた。シロイヌナズナにATeamを発現させたところ、その蛍光シグナルは細胞質に局在し、細胞質内ではどの場所でもFRETに隔たりはなく、ATPは細胞質で均一に分布していることが明らかになった。次に、細胞死を起こす細胞のATP濃度の変化を調べるため、ATeamを発現するシロイヌナズナに植物病原細菌を接種し、タイムラプス蛍光イメージングを行った。その結果、細胞死を誘導しない病原性細菌を接種した場合、細胞内ATP濃度はほとんど変化しなかった。それに対し、細胞死を誘導する非病原性細菌を接種した場合は、細胞が細胞死特有の形態変化を示すのと前後して、細胞内ATP濃度が急激に低下しはじめることを見いだした。この結果はATP濃度の十分な低下が起こらないうちに細胞死が開始することを示している。
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津田 勝利, 伊藤 幸博, 佐藤 豊, 倉田 のり
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0609
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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茎頂分裂組織(Shoot apical meristem,SAM)は、一生を通じて自身をたもちながら、全ての地上部器官を生み出していく、未分化な組織である。Class I Knotted1-like homeobox (KNOX)遺伝子はSAM特異的に発現し、その未分化性を維持している遺伝子である。過去のシロイヌナズナとトウモロコシにおける研究で、KNOX遺伝子はSAMの形成と維持に不可欠な役割を担っていることが明らかにされていたが、茎頂におけるKNOX遺伝子の発現を正に制御するメカニズムは全く不明であった。
我々は、イネを用いた遺伝学的解析により、KNOX遺伝子の発現量がKNOX遺伝子の機能に依存していることを見いだした。イネKNOX遺伝子のひとつ、Oryza sativa homeobox1 (OSH1)は進化的に保存されたシス配列を介して、自身を含めた5つ全てのKNOX遺伝子の発現を直接、正に制御していた。また、OSH1遺伝子領域内のこれらのシス配列は、自身の発現、およびSAMの形成または維持に必須であることが明らかになった。
以上の結果をふまえて、我々はKNOX遺伝子を介した未分化性の維持機構を、新たなSAMの自己制御メカニズムとして提案したい。
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Shimotohno Akie, Heidstra Renze, Scheres Ben
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0610
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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Whereas most plant cells differentiate to generate the specialized cell types within the different organs, stem cells remain undifferentiated and retain the potential to divide and generate new cells for sustained growth.
We have previously shown that two members of plant-specific gene families, double AP2-domain PLETHORA (PLT) transcription factors and GRAS family transcription factor SCARECROW (SCR ), are key players in root growth and maintenance of the stem cell niche in Arabidopsis.
However, the molecular mechanisms by which those factors may interact were largely unknown.
To address this question, we screened interactors of both PLT and SCR proteins, and identified several candidate regulatory factors of PLTs and SCR. A third family of plant-specific transcription factor is associated with both SCR and PLT proteins in vitro and in vivo. Genetic and histological analyses support the idea that these factors together with PLT and/or SCR proteins fine tune the progression of differentiation in plants. Progress towards characterizing the interacting proteins and their role(s) in regulating PLT and SCR networks will be presented.
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高田 忍, 吉田 彩香
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0611
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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多細胞生物の発生では、さまざまな性質を持つ細胞が決まった配置で分化する。これらの細胞運命の決定には、転写因子による遺伝子発現制御が重要な役割を持つ。シロイヌナズナのホメオボックス遺伝子
ATML1は、細胞運命が決まる以前の胚発生初期から最外層の細胞で発現する。
ATML1を含む多くの表皮特異的遺伝子の転写制御領域にはATML1の結合配列(L1 box)が存在しており、ATML1による正の転写制御が示唆される。しかしながら、ATML1が実際にこれらの遺伝子の転写に十分であることは確かめられていない。本研究では、表皮特異的な遺伝子発現における
ATML1の役割を明らかにするために、
ATML1の過剰発現実験をおこなった。転写抑制部位(SRDX)を付加したATML1を芽生えで構成的に発現させたところ、表皮特異的な遺伝子の発現が低下し、表皮細胞の形態が異常となった。また、
ATML1を芽生えで構成的に発現させると、本来表皮で発現する遺伝子が葉原基の内層で異所的に発現した。これらのことはATML1が実際に表皮特異的な遺伝子の転写制御領域に作用し、発現を正に制御していることを示唆する。以上の結果をふまえ、表皮特異的な遺伝子発現を決める転写制御について議論したい。
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川勝 泰二, 高岩 文雄
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0612
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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穀物は必須アミノ酸であるリシンおよびトリプトファンが制限アミノ酸となっている。植物種子中の遊離リシン含量はbifunctionalなリシン分解酵素であるlysine ketoglutarate/saccharopine dehydrogenase (LKR/SDH)によって制御されていると考えられている。本研究では
OsLKR/SDHの発現制御を介したイネ種子における遊離リシン含量制御機構を解明することを目的とした。
抗トウモロコシLKR/SDH抗体を用いたイムノブロットから、OsLKR/SDHタンパク質は種子特異的に蓄積していることが明らかになった。
OsLKR/SDHプロモーターは登熟中の種子胚および胚乳中のアリューロン層・サブアリューロン層においてGUSレポーター遺伝子の発現を誘導した。胚乳中における発現パターンは種子貯蔵タンパク質(SSP)遺伝子の発現パターンと酷似しており、SSP遺伝子と同様の発現制御を受けていることが示唆された。本発表ではSSP遺伝子の主要な転写制御因子であるRISBZ1およびRPBFが
OsLKR/SDHの発現制御を介してイネ種子における遊離リシン含量を制御していること、
OsLKR/SDHとSSP遺伝子の発現制御における共通点、相違点について報告する。
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中島 一雄, 藤田 泰成, 圓山 恭之進, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
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0613
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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我々はシロイヌナズナの3種の相同性が高いABA活性化型SnRK2タンパク質リン酸化酵素SRK2D/SnRK2.2、SRK2E/SnRK2.6/OST1、SRK2I/SnRK2.3の種子における機能を調べている。既に
srk2d srk2e srk2i三重変異体では、種子成熟期に生育阻害や乾燥耐性の低下が見られること、休眠能の低下、穂発芽、極めて強いABA非感受性があることを報告しているが(Nakashima et al., 2009, Fujita et al., 2009)、糖やGA合成阻害剤であるパクロブトラゾール(PAC)に対しても非感受性であることが示された。また、三重変異体種子ではLEA(late embryogenesis abundant)タンパク質やHSP(Heat Shock Protein)をコードする遺伝子など、多くのABA・ストレス関連遺伝子の発現レベルが変化している。ストレス耐性試験を行った結果、三重変異体種子は、乾燥だけでなく低温や高温ストレスにも弱いことが明らかになった。以上の結果から、これら3種のSnRK2は、広範囲にわたる遺伝子発現の調節を通じて、種子成熟、発芽、環境ストレス耐性をコントロールしていることが示唆された。
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河合 都妙, 伊藤 節嗣, 松本 貴之, 前尾 健一郎, 中村 研三
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0614
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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シロイヌナズナの種子成熟過程において、葉緑体で合成された脂肪酸を用いた小胞体でのトリアシルグリセロール(TAG)の合成に関わるジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT1)をはじめとする酵素の遺伝子は、脂肪酸合成系遺伝子群よりも後期に強く発現する。種子成熟後期にDGAT1と類似の遺伝子発現パターンを示すDREBサブファミリーに属するAP2/ERF型転写因子A2は、プロトプラストでの一過性発現系において
DGAT1プロモーターを活性化する。DGAT1プロモーターにはDRE配列が存在し、一過性発現系でのA2による
DGAT1p:LUCの活性化は、DRE配列への変異導入で失われ、組換えA2タンパク質はDRE配列へのDNA結合活性を示した。
A2遺伝子のT-DNA挿入破壊株では、果実での
DGAT1 mRNAは野生型株に比べ低下したが、種子TAG含量に野生型株と
A2破壊株の間で大きな違いはなかった。また、
A2近縁遺伝子のT-DNA挿入破壊株においても、果実の
DGAT1 mRNA低下が見られ、機能的重複を示唆する。35Sプロモーターを用いたA2過剰発現株作成を試みたが、恐らくco-suppressionによると思われる発現低下が見られたため、現在、種子特異的なA2過剰発現株の作成と解析を進めている。
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鵜飼 聖子, 河合 都妙, 近藤 有里, 前尾 健一郎, 小内 清, 石浦 正寛, 中村 研三
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0615
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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シロイヌナズナのHSI2サブファミリーB3因子は、胚発生や種子成熟遺伝子の発芽後の発現抑制に必須であり、
hsi2 hsl1二重遺伝子破壊株では、発芽後に種子成熟関連遺伝子が糖依存的に強く発現し、肥大した胚軸に大量の種子貯蔵タンパク質や油脂が蓄積して生育停止する
1)。HSI2のDNA結合能の解析や種々変異株のマイクロアレイ解析から、種子貯蔵タンパク質や種子オレオシンの遺伝子は直接の標的と考えられる。これら遺伝子領域のクロマチンは、栄養成長期のCol-0植物体では不活性マーカーH3K27me3の修飾を強く受けている。発芽後数日でこれら遺伝子のmRNAは消失するが、クロマチンのH3K27me3修飾は1週では殆どみられず、2週目以降に顕著になった。一方、
hsi2 破壊株では発芽2週後になってもこれら遺伝子領域にH3K27me3修飾は検出されず、HSI2は種子成熟遺伝子のH3K27me3修飾に重要であることが示唆された。
OleS3p::LUCを導入したCol-0株種子をルシフェリン入り培地で発芽させると、LUC発光は発芽後36時間目をピークに消失したが、
hsi2 hsl1二重破壊株では発芽後にLUC発光は継続して増加し、
OleS3 の発芽後の発現抑制のライブモニターが可能になった。
1)Tsukagoshi, H. et al.,
PNAS 104: 2543 (2007).
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河合 都妙, 小内 清, 鈴木 孝征, 前尾 健一郎, 石浦 正寛, 中村 研三
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0616
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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シロイヌナズナ種子成熟の後期では、ソースから輸送されるショ糖炭素の多くは油脂に転換される。油脂貯蔵制御因子のAP2型転写因子ASML1/WRI1 は、プラスチド内での脂肪酸合成に関わる遺伝子群を直接活性化するが、小胞体でのトリアシルグリセロール(TAG)合成に関わる遺伝子の発現は他の制御因子を必要とする
(1) 。TAG合成の制御因子を探索する目的で、TAG合成の最終段階酵素ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼをコードするDGAT1のプロモーター領域とルシフェラーゼ(LUC)コード配列の融合遺伝子をシロイヌナズナに導入した。
DGAT1p::LUC 形質転換体のLUC発光は、登熟後期の種子を含む果実の他に、芽生えの葉でも見られ、
DGAT1 mRNAの発現と類似していた。このレポーター株のEMS処理種子プールから、多数の個体のLUC発光を連続してモニターできる生物発光リアルタイム測定解析システムを使って、芽生えのLUC発光が低下した変異株をスクリーニングした。得られた低LUC発光変異株の多くは、芽生えのみならず果実のLUC発光の減少と、種子TAG含量の低下を示した。更なるスクリーニングと、次世代高速シーケンサー(SOLiD 4)による変異の原因遺伝子の同定を進めている。
(1) Maeo et al.,
Plant J. 60: 476 (2009)
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鳥羽 大陽, 大森 良弘, 平野 博之
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0617
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
会議録・要旨集
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私たちは、イネを用いて花や小穂の発生機構の解明を目指した研究を行っている.本発表では,イネ科植物に特異的な器官である芒の発生に関わる遺伝子について報告する.芒は,外穎先端部に生じる細長い突起状器官であり,その基部は竜骨と呼ばれる外穎中央部分につながる.これまでに,芒の発生制御機構に関する分子レベルの解析は全く行われていない.
DROOPING LEAF(
DL) は,
YABBY 遺伝子ファミリーに属する転写制御因子をコードしており,イネの葉の中肋形成と心皮のアイデンティティー決定に必要である.遺伝学的およびRNAi法を用いた逆遺伝学的解析結果から,
DL は芒の形成促進にも必要であることが明らかとなった.
DLの空間的発現パターンを解析した結果,その発現は外穎の竜骨部分において認められたが,伸長中の芒においては認められなかった.この発現解析結果から,
DL の芒形成における機能は細胞非自立的である可能性が示唆された.
また,私たちは,棒状外穎を形成する変異体
shl2-rol について,詳細な観察を行い,この変異体では芒の形成が促進されていることを見いだした.今後は,
SHL2と
DL,二つの遺伝子の相互作用も含め,芒形成機構の解析を進めて行く予定である.
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吉田 明希子, 安野 奈緒子, 笹尾 真史, 北口 善教, 佐藤 豊, 長村 吉晃, 高木 恭子, 飯田 滋, 前川 雅彦, 経塚 淳子
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0618
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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イネの穂は枝分かれ (枝梗) に、小穂とよばれる花構造が形成されることによりかたちづくられる。小穂メリステム(SM)アイデンティティー決定のタイミングが、イネの穂の形態には重要な役割を果たす。このタイミングを制御する分子遺伝学的機構の解明をめざし、
tawawa1-D1 および
D2 (
taw1-D1 、
-D2 ) 変異体の解析を行った。
taw1-D1、
-D2 は、枝梗の数が増加する表現型を示す。
taw1-D1 、
taw1-D2 は半優性変異体であり、
TAW1 遺伝子の3
,UTR領域へのトランスポゾン挿入により
TAW1 遺伝子の発現量が野生型よりも増加していることがわかった。
TAW1 は栄養成長期から茎頂メリステムで発現し、生殖成長に転換すると発現量が顕著に低下し、小穂分化期には発現が見られなくなる。このことから、
TAW1 遺伝子はSMアイデンティティーを抑制しており、SMアイデンティティー決定には
TAW1 の発現低下が必要であると考えた。
taw1-D では
TAW1 遺伝子の発現量が野生型の発現量よりも高いためにSMアイデンティティーの決定が遅れ、その結果、過剰な枝梗の形成が起きたと解釈できる。TAW1は核に局在するタンパク質であるが、その分子機能はわかっていない。今後、TAW1の分子機能の解明、他の遺伝子との分子レベルおよび遺伝学レベルでの相互作用の解明に向けて解析を進めていく。
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安野 奈緒子, 佐藤 豊, 駱 楽, 長村 吉晃, 経塚 淳子
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0619
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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イネの花序形成では、まず、枝梗とよばれる枝が形成される。枝梗上につくられるメリステムは、小穂メリステムとしてのアイデンティティーを獲得すると、花を分化して成長を終える。したがって、小穂メリステムへの分化のタイミングがイネ花序の基本構造を決定する。これまでに、小穂アイデンティティーを促進する遺伝子として
PAP2が、抑制遺伝子として
APO1、
RFLが報告された。本研究では、
APO1、
RFLの分子機能を通して、イネ花序形成におけるメリステム相転換の制御メカニズムを解明することをめざしている。
APO1とRFLは物理的に結合し、相互依存的に機能する。また、
APO1は生殖成長への転換直後にメリステムで発現を開始し、メリステムの細胞分裂を活性化させる。そこで、メリステム相転換の制御機構を解くには、花序形成初期にメリステム特異的に働く遺伝子の網羅的解析が効果的であると考え、花序メリステムを対象としたLMD-マイクロアレイによるトランスクリプトーム解析をおこなった。生殖成長相への転換直後の花序メリステムでは、
RFLや花成促進に寄与する
MADS-box遺伝子の発現上昇が見られ、本解析の有効性が強く示唆された。現在は、
APO1機能獲得型変異体での発現プロファイリングを進めており、本発表ではこの結果についても報告したい。
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小林 薫, 佐藤 豊, 長村 吉晃, 木水 真由美, 吉田 均, 経塚 淳子
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0620
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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植物にとって,メリステムの成長ステージをコントロールすることは,体制を決定する上で重要である.そればかりか,生殖に成功を収めるには,栄養成長から生殖成長への転換と花序メリステムから花メリステムへの転換が適切に制御されることが肝要である.われわれは,イネの花序形成に関わるメリステムの転換メカニズムを明らかにするため,研究を行なっている.
生殖成長相への転換前後での,イネのSAMにおける遺伝子発現の変化を調べたところ,
OsMADS34の著しい発現上昇と,
OsMADS14と
OsMADS15の発現上昇が認められた.
OsMADS34は,
SEPホモログの中でもイネ科植物に保存されたグループに属し,われわれが以前にイネの花芽決定遺伝子として報告したものである.また,
OsMADS14,
OsMADS15はシロイヌナズナ
AP1のイネオーソログであり,花成への寄与が推測されている.これらのMADS-box遺伝子が花序形成を制御すると考え,遺伝学的関係と分子間相互作用を解析した.
本発表では,
OsMADS14/15,
OsMADS34の発現抑制体の表現型や,発現パターン,分子間相互作用の解析結果,
OsMADS34のイネ科植物オーソログにおける転写調節領域の相同性や発現パターンを紹介する.イネ科植物のメリステムの転換における
OsMADS34の役割を議論したい.
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城井 駿平, 小野田 誠, 郷 達明, 三村 徹郎, 田坂 昌生, 深城 英弘
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0621
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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多くの被子植物の側根形成は原生木部に接する内鞘細胞の分裂によって開始する。シロイヌナズナの側根形成開始は、オーキシン応答転写因子ARF7およびARF19と、それらの機能を抑制するSLR/IAA14などのオーキシン応答リプレッサー、さらにこれらの下流で誘導される転写調節因子LBD16/ASL18などを介したオーキシン応答によって制御される。このうち
ARF7、ARF19、SLR/IAA14遺伝子は、根において内鞘を含む中心柱で発現している。しかし、これらの遺伝子が“いつ”、“どの細胞”で機能することが側根形成に重要なのかは明らかにされていない。そこでこの点を明らかにするため、上記の遺伝子を時空間特異的に発現させる形質転換体を用いた解析を行った。1)ARF7/19機能誘導型植物を用いた解析から、主根の先端-基部軸に沿った側根形成に重要なオーキシン応答領域を同定した。2)側根形成能が顕著に低下する
arf7arf19二重変異体背景で、ARF7、ARF19またはLBD16/ASL18を原生木部に接する内鞘細胞で特異的に発現する形質転換体を作出し、側根形成能を回復させるかどうか調べた。本発表では、これらの結果をもとに、側根形成における時空間的なオーキシン応答の制御機構について議論する。
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徳永 綾子, 郷 達明, 三村 徹郎, 田坂 昌生, 深城 英弘
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0622
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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維管束植物において、側根は地上部の支持、土壌中の水分・栄養塩の吸収に大きく寄与している。これまでの研究から、シロイヌナズナの側根形成開始には、オーキシン応答転写因子ARF7/19と、それらの機能を抑制するSLR/IAA14を介した遺伝子発現制御が重要なことが示されている。しかし、側根形成開始におけるSLR/IAA14によるARF7/19の機能抑制の機構はほとんど不明である。そこで、この過程に働く因子を探索するため、側根を全く形成しない
solitary-root(
slr)変異体を用いて、その側根形成能を部分的に回復させるサプレッサー変異体
suppressor of slr1 (
ssl1)を単離した。
ssl1は単一劣性変異であり、マップベースクローニングの結果、原因遺伝子がマイクロRNA (miRNA)の生合成と核外輸送に関与する
HASTY(
HST)であることが判明した。また、
ssl1 slr arf7/19四重変異体において側根が形成されないことから、
ssl1 slr二重変異体の側根形成能はARF7/19に依存することが示された。さらに、複数のmiRNA生合成関連変異によっても
slrヘテロ接合体の側根形成能が部分的に回復することを明らかにした。以上の結果から、側根形成開始におけるSLR/IAA14によるARF7/19の機能抑制機構においてmiRNA制御が関与することが強く示唆された。
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横山 碧, 上原 健生, 郷 達明, 奥島 葉子, 三村 徹郎, 田坂 昌生, 深城 英弘
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0623
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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シロイヌナズナの側根形成開始過程では、オーキシン応答転写因子ARF7/19とAux/IAAタンパク質、さらにこれらの下流で転写制御される
LBD/ASL遺伝子群が重要な役割を果たす。
LBD16/ASL18はARF7/19の標的遺伝子の一つであり、LBD16/ASL18を側根形成能が顕著に低下する
arf7 arf19二重変異体背景で過剰発現させると、側根形成能が回復する。これらの解析から、LBD16/ASL18はARF7/19の下流で側根形成を正に制御することが強く示唆されている(Okushima et al., 2007)。私たちはLBD16を介した側根形成開始機構を明らかにする目的で、転写活性化因子と考えられるLBD16の機能誘導型植物を用いたアレイ解析を行った。その結果、LBD16下流遺伝子候補を多数同定し、そのうち、側根形成部位で特異的に発現する遺伝子
LLPL2(LLPLと名付けたモチーフを持つ機能未知タンパク質をコードする)を見出した。
LLPL2プロモーターの制御下でLLPL2-GFP融合タンパク質を発現させたところ、LLPL2-GFPは側根形成開始時に不等分裂を起こす内鞘細胞で特異的に誘導され、それらの細胞の核や細胞膜に局在していた。本発表では、LLPL2の発現および機能解析の結果をもとに、側根形成開始におけるLLPL2の役割について議論する。
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上野 宜久, 杉山 将宏, 川端 真一, 町田 泰則
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0624
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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シロイヌナズナのASYMMETRIC LEAVES1 (AS1) およびAS2は、葉の軸方向に沿った発生とmicroRNAであるmiR165/166などの発現制御に関与する。AS1はMybドメインを、AS2はAS2/LOBドメインをそれぞれ有するいずれも転写制御因子として機能するが、AS2/LOBドメインの生化学的知見は十分蓄積していない。AS1およびAS2タンパク質は植物細胞内で複合体を形成していると考えられる。これを検証するため、まず酵母2ハイブリッド法により相互作用領域の絞り込みと相互作用に要するアミノ酸残基の同定を試みた。その結果、AS2はAS1のN末端側 (AS1N) およびC末端側の両方に独立に相互作用した。得られた変異型AS2の一つであるAS2 (L95P) は、AS1Nとの相互作用能を失っていた。変異型AS2 (L95P) とAS1との融合タンパク質を強制発現させるとas2変異体の葉の形態を部分的に相補できたが、AS2 (L95P)単独の強制発現では表現型およびmiR165/166蓄積抑制のいずれにも効果が認められなかった。以上から、L95P変異によってもAS2はAS1Nとの相互作用能以外の機能は損なっていないことと、miR165/166の発現と葉の発生を制御するにはAS2とAS1Nとの相互作用が必須であることが示唆された。
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深澤 弘, 岩崎 まゆみ, 池崎 仁弥, 小島 昌子, 町田 泰則, 町田 千代子
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0625
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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シロイヌナズナの葉は、基部先端部軸、向背軸、中央側方軸という三つの非対称軸方向に沿って発生・分化する。これまでの研究から、我々は、シロイヌナズナのASYMMETRIC LEAVES1 (AS1) とAS2が、葉の発生・分化に関与している遺伝子であり、複数の遺伝子の発現抑制をすることにより、三つの軸形成すべてに関与することを示唆した。また、AS1、AS2遺伝子が、class 1 KNOX遺伝子発現の抑制を通して基部先端部軸形成に関わること、ETT, ARF4遺伝子の発現抑制を通して左右相称的な形の葉の形成に関わることを示した。一方、我々はas1、またはas2変異体の葉切片をホルモンフリーの培地で培養すると不定芽を形成することを報告している。しかしながら、as1、as2変異体においてなぜ葉切片から不定芽が形成されるかについてはまったく知見がなかった。最近、我々は、この不定芽形成の要因は、少なくともclass 1 KNOXの異所的発現が原因ではないことを示した。そこで、本研究ではETTとARF4遺伝子が不定芽形成に関わる可能性について調べた。その結果、as1, as2変異体の葉切片をホルモンフリー培地で培養した時の不定芽形成を、ett変異と arf4変異が抑圧することがわかった。AS1とAS2遺伝子における、分化した葉器官の細胞からの不定芽形成抑制機能について議論する。
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岩崎 まゆみ, 高橋 広夫, 岩川 秀和, 深澤 弘, 小島 晶子, 町田 泰則, 町田 千代子
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0626
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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シロイヌナズナの葉は、基部先端部軸、向背軸、中央側方軸の3つの軸に沿って成長し、扁平で左右相称な形となる。ASYMMETRIC LEAVES1 (AS1)とAS2はそれらの変異体が多面的な表現型を示すことから、3つの軸形成すべてに関わっている可能性が示唆された。AS2は植物に固有の新奇なタンパク質をコードしており、AS1遺伝子と共に、class 1 KNOX 遺伝子群の発現を抑制する機能をもつことは既に示されていたが、葉の分化過程で、class 1 KNOX以外の遺伝子の発現制御にも関与している可能性が考えられた。我々は、DNAマイクロアレイデータについて知識ベースシステムクラスタリング法であるKB-FazzyART法を用いて解析をすることにより、AS1とAS2によって負に制御される遺伝子として、class 1 KNOXに加えて、背軸化因子であるETT/ARF3, KAN2, YABBY5を同定した。さらにChIPアッセイとChIP on chip解析から、ETTINがAS1の直接のターゲットであることが示唆された。一方、遺伝学的解析から、AS1とAS2は、ETTIN と冗長的機能を持つARF4を間接的に制御していることがわかった。葉の発生分化における、AS1とAS2によるETTINとARF4の二重の発現制御の意味について議論する。
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石橋 奈々子, 上野 宜久, 金丸 京子, 小島 晶子, 小林 哲夫, 町田 千代子, 町田 泰則
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0627
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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asymmetric leaves2 (
as2) および
as1変異体では、葉身に左右非対称に切れ込みが形成され、葉、特に葉柄が基部先端部軸方向に短くなる。また
as2変異体や
as1変異体は、いくつかの変異体背景で葉の向背軸性の確立に異常を示す。我々はAS1、AS2と葉の向背軸性の確立に遺伝学的相互作用する新規因子の同定を目指し、
as1、
as2変異体背景で葉の向背軸性異常を示す変異体の探索を行った。向背軸性の異常を示す指標として棒状の葉の形成を用いた。現在、スクリーニングで得られた1系統について解析を進めている。この変異を
enhancer of asymmetric leaves1 and asymmetric leaves2 (
eal) と名付けた。
as2 ealおよび
as1 eal二重変異体では背軸側化した棒状の葉の形成が観察された。また、
eal変異は細胞分裂周期と核内倍加周期との切りかえに影響することが分かった。
EAL遺伝子は、菌類からヒトまで広く保存されたタンパク質をコードしていた。この遺伝子は菌類の
Aspergillus nidulansにおいて核の動きに関係していることが報告されている。今回シロイヌナズナの
EALを
A. nidulansの変異体に導入したところ異常を相補することが分かった。この結果は、EALはホモログ間で機能的にも保存されていることを示している。
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小島 晶子, 今井 智哉, 岩崎 まゆみ, 松村 葉子, 上野 宜久, 町田 泰則, 町田 千代子
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0628
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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シロイヌナズナの
asymmetric leaves2 (
as2)変異体は、左右非対称な葉の切れ込みや葉脈形成不全など、葉の形態に関して多面的な表現型を示し、複数の制御系路に関与すると考えられる。AS2遺伝子はcisteine repeatsとleucine zipper様配列を含む植物固有のAS2/ LOBドメインをもつタンパク質をコードし、茎頂メリステム特異的なclass 1
KNOXホメオボックス遺伝子群と葉の裏側化因子
ETTIN、
YABBY5、
KANADI2を抑制することで、葉の向軸側細胞分化を促進する。現在我々のグループでは
as2-1の亢進変異体の解析を進めている。
ELONGATA3 (
ELO3) はヒストンアセチル化ドメインをもつタンパク質をコードし、as2-1の葉の向背軸性異常を亢進する変異
east1の原因遺伝子として同定された。elo1, elo2, elo3, elo4は葉の細くなる変異体として報告され、酵母のElongator複合体サブユニットとその調節因子が原因遺伝子である。最近植物でも複合体が単離された (Nelissen et al., 2005、2010)。elo2またはelo4とas2-1との遺伝解析から、葉の向背軸性の確立にも複合体として関与すると考えられた。現在ELO3がどのような遺伝子の発現に影響を与えるかを検討中である。
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松村 葉子, 林 里香, 大林 祝, 小島 晶子, Saez-Vasquez Julio, Echeverria Manuel, 杉山 宗隆 ...
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0629
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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多くの葉は扁平で左右相称な形をしており、その発生・分化は向背軸、中央側方軸、および基部先端部軸の3つの軸に沿ってなされる。特に向背軸性の確立は扁平な葉の形成に重要で、この過程が正常に行われないと棒状やトランペット状の異常な葉になる。シロイヌナズナ
ASYMMETRIC LEAVES2 (
AS2) は植物に特異的なタンパク質をコードし、3つの軸全ての確立に関わっていると考えられている。
AS2と協調的に働く新奇因子の解析から
AS2の分子機能の解明するため、我々は、
as2変異体の異常を亢進する変異体のスクリーニングを行い、新たに、rRNAのプロセシングに関わるDEAD box RNA heicaseの変異体が、
as2変異体背景で高頻度に棒状化することを見いだした。別のrRNAのプロセシングに関わる因子の変異体についても同様の結果が得られた。これら二重変異体の棒状化した葉は共通して背軸側化していた。これらの結果は、rRNAプロセシングが正常に進行することが、葉原基における向背軸性の確立、特に、向軸側化において重要であり、
AS2が働く経路とrRNAプロセシング経路が、葉原基の軸性の確立において遺伝学的に相互作用することを示す。現在、二重変異体において、rRNAプロセシングの場である核小体の解析と、二重変異体での葉の棒状化が抑圧される条件の解析を進めている。
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中川 彩美, 山本 高大, 大賀 一臣, 車 炳允, 禹 済泰, 永井 和夫, 小島 晶子, 町田 泰則, 町田 千代子
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0630
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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高等植物の葉は、茎頂メリステムから分化する地上部の主要な器官である。葉は、発生初期では棒状であるが、基部先端部軸、向背軸、中央側方軸に沿って成長し、扁平で左右相称な形となる。シロイヌナズナの
ASYMMETRIC LEAVES2 (
AS2) と
AS1は、メリステム維持に関わるclass 1
KNOX遺伝子と、葉の背側化に関わる遺伝子 (
ETTIN/ARF3, KANADI2, YABBY5) の発現を抑制し、葉の向軸側の細胞分化における鍵遺伝子として機能することがわかってきた。さらに、
as1または
as2変異体の表現型を亢進し、背軸化した棒状の葉を形成する変異が多数同定された。これらの原因遺伝子は、リボソームタンパク質遺伝子、ヒストン修飾関連因子など、その機能は多岐にわたっているが、これらの因子がどのように葉の向軸側の細胞分化に関わるのかは明らかになっていない。本研究では、
AS2と
AS1が関わる細胞分化の分子機構を明らかにするために、ケミカルジェネティクスの手法を用いて、葉の向軸化を阻害する新奇因子の探索を試みた。その結果、
as1-1, as2-1植物にに特異的に向軸化分化を阻害する、種々の新奇化合物が同定された。これらの作用機作について、議論する。
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Luo Lilan, Ando Sayuri, Sasabe Michiko, Machida Chiyoko, Machida Yasun ...
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0631
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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ASYMMETRIC LEAVES2 (
AS2) gene is involved in morphogenesis of leaves in
Arabidopsis thaliana. Molecular analysis demonstrated that the
AS2 represses the expression of class I
KNOX genes and some abaxial identity genes. To reveal how
AS2 suppresses the expression of these genes and functions in leaf development, we studied the subcellular localization of AS2 protein. The AS2 localizes to a sub-nuclear body around the nucleolus and we designated this body the AS2 body. The AS2 protein contains a plant-specific AS2/LOB domain that consists of the C motif containing four cysteine residues, a single conserved glycine residue and the leucine-zipper-like sequence. The AS2/LOB domain includes a short stretch of basic residues (RRK) in the C-motif. In order to identify the signal in AS2 that is required for its localization to the AS2 body, we made DNA constructs that encoded mutant AS2 proteins with various deletions or amino acid substitutions and investigated sub-nuclear localization of these mutant proteins. We also examined whether the localization to the AS2 body is required for the function of AS2 in morphogenesis of leaves. We will present latest results of these experiments.
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三井 麻利江, 新谷 考央, 宮本 摩由, 高橋 秀樹
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0632
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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土壌中のNH
4+は細胞質型グルタミン合成酵素(GS1)により同化される。シロイヌナズナの根では4種の
GS1遺伝子が発現し、それらのうち
GS1;2のmRNA量のみが高NH
4+条件で増加することが分かっている。したがって、
GS1;2はNH
4+に対する根の応答において重要な働きを持つ可能性がある。本研究では、
GS1;2のNH
4+応答における役割を、特に根の構造に注目して解析を行った。
GS1;2の機能を調べるために、我々は
GS1;2遺伝子のT-DNA挿入変異株(
gs1;2)の根の構造を様々な窒素条件で解析した。NO
3-を唯一の窒素源とする培地では、野生型株と
gs1;2変異株で根の形態に違いは見られなかった。一方、NH
4+培地では、野生型株と比較して
gs1;2変異株で側根の数が少なかった。側根形成にはオーキシンが重要な働きを持つことが知られている。NH
4+応答におけるオーキシンの役割を調べるため、根にインドール酢酸(IAA)を与える処理を行った。野生型株の根に10 nMのIAAを与えると、側根の長さと数が増加した。一方、
gs1;2変異株ではIAAに応答した側根の増加は見られなかった。したがって、
gs1;2変異株では根のIAA感受性が低下している可能性がある。今後は、野生型株と
gs1;2変異株での根のオーキシン分布や、オーキシン応答性遺伝子の発現の違いについて解析し、発表する。
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野々村 麻衣子, 石崎 公庸, 大和 勝幸, 河内 孝之
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0633
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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オーキシンは植物の発生の様々な局面で機能する重要な植物ホルモンである。我々は陸上植物の形態形成におけるオーキシン機能の原形と進化に関与する知見を得ることを目的とし、基部陸上植物ゼニゴケにおけるオーキシン応答メカニズムの解明に向けた研究を進めている。ゼニゴケは、1 μM以上のオーキシンにより生長阻害を示すことが明らかとなっていることから、この生理応答を利用し200 Gyのγ線を照射することで変異を誘起したγ線照射胞子を用いて、10 μMの人工オーキシンnaphthaleneacetic acid (NAA) 含有培地上でも生育可能なオーキシン耐性株を7株単離した。単離したオーキシン耐性株は、一度確立したメリステムからの葉状体の形態形成に顕著な異常が認められないが、無性芽の発生に異常が観察された。雌株の耐性株においては造卵器が正常に形成されるが、野生株雄由来の精子との交配では胞子が形成されないという表現型を示した。一方、雄株の耐性株では精子が正常に形成され、野生型雌との交配で胞子が形成されることが明らかとなった。以上の結果と、大豆由来のオーキシン誘導性プロモーター
GH3にβグルクロニダーゼ遺伝子 (
GUS) を連結した
GH3::GUS導入株を用いたオーキシン分布の観察結果と合わせて、ゼニゴケ形態形成におけるオーキシンの役割について考察する。
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加藤 大貴, 石崎 公庸, 大和 勝幸, 河内 孝之
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0634
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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オーキシンは植物の発生と生長を調節する主要なホルモンである。本研究は基部陸上植物ゼニゴケをモデルとして、陸上植物におけるオーキシン機能の基本原理とその進化を解明することを目的とした。これまでに苔類ゼニゴケから3種の
ARF(
MpARFs)、1種の
AUX/IAA(
MpIAA)、1種の
TIR1/AFB(
MpTIR1)を単離し、ゼニゴケが被子植物と共通のオーキシン信号伝達因子を持つことを報告した。ゼニゴケ形態形成におけるオーキシンの役割を調べるため、優性的にオーキシン低感受性を引き起こす分解調節領域改変型
MpIAAとグルココルチコイド受容体(GR)の融合タンパク質(mDII-GR)を発現する形質転換体を作出した。mDII-GR株はデキサメタゾン(DEX)処理により3 μMのナフタレン酢酸含有培地でも生育した。このことからmDII-GR株はDEX処理によってオーキシン低感受性を誘導できることが確認された。また、mDII-GR株の無性芽をDEX処理すると、仮根や気室などの器官が形成されず、細胞塊様の組織を形成した。このことから、
MpIAAを介したオーキシン信号伝達は無性芽からの器官の分化に寄与していることが示唆された。mDII-GR株を用いた解析結果を元にゼニゴケ形態形成におけるオーキシン機能について考察したい。
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小倉 岳彦, 佐々木 江理子, 綾野 まどか, 嶋田 幸久
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0635
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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天然型オーキシンである IAA (indole-3-acetic acid) の生合成に関しては、これまでに活発な研究が行われた結果、非常に複雑な生合成経路が提唱されている。しかし、各経路の役割を含め、未だに全容の理解には至っていない。IAA 生合成研究では生合成遺伝子の機能重複や生合成異常の変異体作出の困難さなどが問題となるが、生合成阻害剤を用いたケミカルジェネティクスの手法を用いることでこのような問題が解消され、さらに研究が進展すると期待される。しかし、IAA に関してはこれまで生合成阻害剤が報告されてこなかった。最近我々は、L-2-aminooxy-3-phenylpropionic acid (L-AOPP) がシロイヌナズナの IAA の内生量を減少させ、その効果が短時間で生じる、他のホルモンを介さない直接的なものであることを示した。本研究では、シロイヌナズナにおける L-AOPP の作用を、標的酵素に対する活性を含め、より詳細に解析した。その結果、IAA 生合成酵素 TAA1 (TRYPTOPHAN AMINOTRANSFERASE OF ARABIDOPSIS1) の活性を L-AOPP が阻害することを確認した。また、マイクロアレイによるトランスクリプトーム解析、生理学的な実験などにより、IAA 生合成に対する L-AOPP の阻害作用を多角的に示した。
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濱崎 英史, 吉積 毅, 樋口 美栄子, 高橋 直紀, 黒森 崇, 井村 優子, 島田 浩章, 松井 南
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0636
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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エンドリデュプリケーションとは、M期の細胞分裂が起こらずに連続的にDNA複製が起こる特殊な細胞周期である。植物ではDNA含量の増大により細胞の体積も大きくなるため、植物の器官サイズの決定に関与していると推測される。この現象を明らかにするため、トランスポゾン挿入変異系統から、暗所で胚軸の核相が減少して胚軸伸長が抑制される変異株
sd3を単離した。この変異の原因遺伝子は、ミトコンドリア内膜に局在するトランスロケーターであるTIM21と高い相同性を示した。GFPとの融合タンパク質を用いて細胞内局在を調べたところ、ミトコンドリアでの局在が観察された。これらの結果から
sd3変異体では、ミトコンドリアの活性低下によるATP量の減少がエンドサイクルを介した細胞成長の抑制につながると推測された。そこで、
sd3変異体のATP蓄積量を測定したところ、ATP量の減少が認められた。ATP合成阻害剤であるantimycin Aの添加実験により、核相の減少および胚軸伸長阻害が認められた。一方、
SD3過剰発現体では、核相の増大と器官の大型化・ATP量の増大が観察された。また、
SD3過剰発現体において、複数の呼吸鎖・ATP合成酵素の発現量が上昇していたことからATP量が核相増大に関与することが示唆された。本発表では、ミトコンドリアによるATPを介したエンドリデュプリケーション制御機構の存在を議論したい。
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Kumar Shailesh, Hongo Hiroaki, Yoshizumi Takeshi, Hara Hiroki, Yoneda ...
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0637
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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Endoreduplication is a kind of cell cycle that increases nuclear DNA content(ploidy)without cell and nuclear division and is important for plant development.We screened mutants showing increased polyploidy from RIKEN
Arabidipsis full length cDNA Overexpressor lines(FOX line).We found that one of FOX line F07144 showed increase in polyploidy in darkness and the corresponding gene encoded a homologue of mitochondrial translocator subunit TIM50.We checked sub-cellular localization of F07144 protein fusing GFP reporter and found that this protein was localized in mitochondria, so this F07144 protein can be designated as
AtTIM50. Loss of function mutant showed decrease in polyploidy, reduced plant growth and low ATP levels compared to wild type plants. Transmission electron microscopic analysis showed appearance of large vacuolar space in loss of function mutant,while in overexpressor cristae was significantly thicker. Histochemical analysis of promoter using GUS reporter showed
AtTIM50 was expressed in cotyledons and hypocotyls. Here, we demonstrate that
AtTIM50 regulate endoreduplication through cellular ATP-levels.
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小川 大輔, 阿部 清美, 宮尾 安藝雄, 小嶋 美紀子, 榊原 均, 水谷 恵, 森田 悠, 戸田 陽介, 保浦 徳昇, 佐藤 豊, 服部 ...
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0638
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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植物の胚発生後の成長はメリステムの細胞の継続的な分裂によって支えられている。組織形成には、細胞分裂と分化の協調や隣接する細胞間での連動が必要である。しかしながら、メリステムでの細胞分裂活性や、分裂と分化のバランスが環境ストレス条件下でどのように制御されているかについてはよく理解されていない。これまでに我々は、イネの
RSS1が塩ストレス条件においてメリステム細胞の活性や植物体の生存に必要であることを示してきた。
rss1変異体の解析より、これらの効果は
RSS1によるG1-S期移行の維持や、シュートでのサイトカイニンレベルの保持に起因することが示唆された。最近我々は、RSS1の安定性が細胞分裂周期で制御されることや、RSS1がProtein Phosphatase 1 (PP1)と相互作用することを明らかにした。PP1はG1-S期移行を制御するRetinoblastomaタンパク質を活性化することが知られる。本発表では、RSS1がストレス条件下で細胞分裂活性を維持するメカニズムについて議論したい。
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北山 陽子, 西脇 妙子, 近藤 孝男
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0639
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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多くの生物は昼夜の環境変動に適応するため、体内に約24時間周期のリズムを発生する概日時計を持っており、シアノバクテリアは概日時計をもつ最も単純な生物として知られている。これまでの研究からシアノバクテリア
Synechococcus elongatus PCC 7942の概日リズム発生には
kaiABC遺伝子群が必須であり、特に時計タンパク質KaiCが中心的役割を担っていることがわかっている。私達はKaiCに結合するタンパク質のスクリーニングを行い、DNA複製因子DnaAを同定した。
Synechococcus elongatus PCC 7942の
dnaAを破壊しても細胞は生育が可能であったが,その概日リズムの周期が短周期になり、逆に過剰発現すると概日リズムの周期は長周期になった。さらに変異体において細胞分裂が抑制されることが示唆された。細胞周期は概日時計に調節されており、KaiCのATPase活性が細胞分裂を制御することが示唆されている。これらの結果から、DnaAは、KaiCと相互作用して概日時計を調節するとともに、概日時計による細胞周期の調節機構の一部として働いているのではないかと考えられる。
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松永 幸大, 栗原 大輔, 大村 知広, 浅田 拓也, 万代 文子, 福井 希一
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0640
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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オーロラキナーゼは細胞分裂を制御するセリン・トレオニンキナーゼであり、生物種を超えて高度に保存されている。オーロラキナーゼは細胞分裂におけるチェックポイント制御、染色体分配、細胞質分裂などに関与していることが明らかになっている。特に、ヒト細胞における高発現はガンを誘発するため、そのキナーゼ阻害物質は有力な制癌剤候補である。我々はタバコ培養細胞を用いて、植物のオーロラキナーゼが染色体動原体領域に局在し、染色体動態を制御することを明らかにした。しかし、オーロラキナーゼの研究は動植物を通じて細胞レベルに集中しており、個体の分化・発生に関する知見は極めて少ない。そこで、シロイヌナズナ存在する3つのパラログのうち、染色体の動原体に局在するAtAUR3に注目してイメージング解析を実施した。動原体局在CenH3と共局在を示し植物個体においても分裂が活発な領域で発現が見出された。さらに、RNAiによりAtAUR3をノックダウンした植物体を作成して表現型解析を行った。AtAUR3ノックダウン個体において、地上部と地下部ともに成長阻害が見られ、細胞配列の異常や核内倍加現象の昂進が見られた。このノックダウン個体の表現型はオーロラキナーゼの阻害剤であるヘスペラジンを投与した際に見られる表現型とも一部一致していた。以上のことからオーロラキナーゼの植物発生・分化における役割を議論したい。
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巻口 勇馬, 日渡 祐二, 長谷部 光泰, 藤田 知道
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0641
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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多細胞生物の形態形成には、1つの細胞が性質の異なる2つの細胞に分かれる不等分裂という現象が重要な役割を果たしている。植物でも不等分裂は器官や個体発生の仕組みを理解する上で重要である。不等分裂の諸過程では、細胞極性の形成、紡錘体や分裂面の位置決定、運命決定因子の非対称な分配などが、厳密に細胞周期の進行とともに制御されている。サイクリン依存性キナーゼCdc2はこのような不等分裂と細胞周期の進行を結びつけている重要なタンパク質である。ショウジョウバエにおいてCdc2の活性の低下は、細胞の有糸分裂を阻害することなく不等分裂する神経前駆体細胞に等分裂を引き起こすことが知られている。植物においてCdc2のホモログであるCDKAの機能欠損変異体は、胚性致死になることが報告されているが、不等分裂における役割は不明である。
そこで我々はヒメツリガネゴケ原糸体の頂端細胞は、露出した不等分裂幹細胞であることに着目し、この不等分裂過程におけるCDKAの役割を解明するために、CDKAの機能欠損体を作成した。ヒメツリガネゴケゲノム中には2コピーのCDKAが見出され、相同組換えを利用して、これらCDKAの二重遺伝子破壊株を作成した。その結果、細胞分裂は停止せず継続する一方で、頂端細胞の屈曲や枝分かれ、偏光屈性の異常が観察できた。さらに、熱ストレス下で細胞伸長と分裂の異常が観察できた。
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土屋 祐弥, 中村 康平, 坂田 洋一, Quatrano Ralph, 長谷部 光泰, 藤田 知道
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0642
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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多細胞生物は不等分裂と等分裂とを使い分け、細胞の種類や数を制御している。ヒメツリガネゴケ(
Physcomitrella patens)の原糸体は、通常頂端幹細胞が不等分裂し、分裂能を維持した頂端幹細胞と低下した次頂端細胞を生じる。一方でアブシジン酸(ABA)処理すると、原糸体細胞がほぼ等分裂し、球状の細胞(brood cell)が多数生じる。このような分裂様式の切り替えと細胞運命の変更がABAによりどのように制御されているのかはまだほとんどわかっていない。
我々は約3000種類の完全長cDNAをプロトプラストへ一過的に過剰発現させることにより、brood cell様の細胞を誘導する3つの因子を同定した。この内の1つはABAシグナル伝達系の正の制御因子であるABI3/VP1のオロソログであり、残りの2つはそれぞれプロリン残基に富んだ細胞壁タンパク質と、グリコシルトランスフェラーゼをコードしていると考えられた。後者の2因子をそれぞれ条件的に過剰発現したところbrood cell様の細胞が誘導でき、また細胞の分裂面の向きが乱れ、細胞極性が崩壊していることが示唆された。このような反応はABA添加時にも観察でき、これらの因子がABA応答に関わっていると考えられた。現在機能抑制体の作成や遺伝子産物の局在解析などの機能解析を進めている。
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中嶋 香織, 稲垣 宗一, 梅田 正明
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0643
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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植物の柔軟な形づくりを可能にしているのは、厳密な細胞分裂の制御システムである。植物の細胞周期制御系は通常の成長に伴う組織・形態形成にとどまらず、各種のストレス応答とも密接に関わっていると考えられる。我々は、DNA二重鎖切断(DSB)を与える薬剤であるゼオシンでシロイヌナズナを処理すると、通常の分裂周期からエンドサイクルへの移行が引き起こされることを見出してきた。植物は分裂サイクルとエンドサイクルの切り替えを適切に行うことで環境に適応した組織形成を行っていると考えられる。
これまで、DSBに応答したエンドサイクル移行の制御に関して、細胞周期制御の中心的な制御因子であるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)のうちG2/M期特異的に発現するCDKB2がユビキチン・プロテアソーム系を介してタンパク質分解を受けることを示してきた。そこで、CDKB2のDSBに応答した分解の機構を理解するために、CDKB2のN末端領域に注目してタンパク質分解制御に重要なアミノ酸残基の特定を進めてきた。また、同じくN末端領域に存在するユビキチン化の標的となり得るリジン残基についても解析を行っているので合わせて報告する。
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竹本 まり子, 渡部 峻, 遠洞 弥生, 小山 博彰, 蝦名 績, 高橋 広夫, 内藤 哲, 尾之内 均
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0645
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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真核生物のmRNAの5'リーダー領域には、上流ORF(uORF)と呼ばれる小さなORFがしばしばみられる。その中でuORFにコードされるペプチドが翻訳制御に関与する例が、これまでに報告されている。それらの制御では、uORFにコードされる新生ペプチドが自身を翻訳したリボソームに作用してuORF内で停滞させることにより、下流の主要なORFからの翻訳が抑制されると考えられる。
我々は、シロイヌナズナにおいてuORFぺプチドにより制御される遺伝子を新たに同定することを目的として、シロイヌナズナの5'非翻訳領域のデータベースからuORFを網羅的に検索し、その中からアミノ酸配列が植物間で広く保存されているuORFを探索した。それらの保存された配列を持つuORFについて、フレームシフト変異やアミノ酸置換によってアミノ酸配列を変化させ、下流のレポーター遺伝子の発現への影響を検討した。その結果、アミノ酸配列依存的に下流ORFの翻訳を制御すると考えられるuORFを、新たに5つ同定した。それらのuORFのアミノ酸配列は、いずれもC末端側の領域が植物間でよく保存されているが、保存領域の長さ、アミノ酸配列、終止コドンの位置には多様性が見られた。実際に、いくつかのuORFについて翻訳制御にuORFの終止コドンが必要であるかを検討したところ、uORFによって終止コドン依存性に違いがあることが明らかになった。
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一瀬 瑞穂, 田崎 瑛示, 杉田 千恵子, 杉田 護
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0646
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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植物のオルガネラは独自のゲノムを持ち、その遺伝子発現はRNAの部位特異的切断やスプライシング、RNA編集など転写後の段階で様々な制御を受ける。これらの転写後制御にpentatricopeptide repeat (PPR)タンパク質が重要な役割を担っていることが知られている。我々はC末端にDYWドメインを持つPPR-DYWタンパク質がミトコンドリアのRNA編集因子として機能していることを最近明らかにした。初期陸上植物のヒメツリガネゴケには10種のPPR-DYWタンパク質が存在するが、このうち、ミトコンドリアに局在するPpPPR_43の機能を解明するため、
PpPPR_43遺伝子破壊変異株を作製し、RNA編集への影響について解析した。その結果、変異株ではミトコンドリアに11カ所あるRNA編集部位のRNA編集が正常に起こっていることを観察した。これに対して、
cox1 mRNAのスプライシング効率が著しく減少していることを見いだした。また、
cox1のイントロン中に存在する
ORF622遺伝子の転写物は野生株と同レベル蓄積していた。これらの結果を踏まえて、PpPPR_43がミトコンドリア
cox1 mRNAのスプライシングを促進する分子メカニズムについて考察する。
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戸田 拓士, 藤井 壮太, 野口 航, 風間 智彦, 鳥山 欽哉
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0647
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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ミトコンドリア遺伝子発現制御因子の一つにRNA結合タンパク質であるPentatricopeptide repeat (PPR)タンパク質がある。PPRモチーフは35アミノ酸の繰り返し配列であり、PPRタンパク質は特定の配列に結合し、遺伝子の転写後発現制御に関係した機能を担っている。 本研究では、イネPPRの中で、Mitochondrial PPR 25 (MPR25)と名付けたPPR遺伝子のTos17挿入系統を用いて機能解析を行った。mpr25変異体は淡緑色の葉で、生育不良を示した。MPR25はミトコンドリアに局在し、ミトコンドリア呼吸鎖Complex I (NADH デヒドロゲナーゼ)のサブユニットをコードするnad5のC-U RNAエディティングに関係した機能を持っていた。また、生育初期でのmpr25における呼吸活性と、光合成速度を調査した結果、呼吸活性は野生型と比較して差は見られなかったが、強光条件下での光合成速度がmpr25で低下していることがわかった。さらに生育初期のmpr25におけるミトコンドリア呼吸鎖のオルタナティブなNADH デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現解析を行った結果、mpr25でこれら遺伝子の発現が増加していることがわかった。これらのことから、MPR25はnad5のRNAエディティングに関係した機能を持ち、光合成にも影響を与えていると考えられた。
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中邨 真之, 杉浦 昌弘
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0648
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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葉緑体はランソウ様の光合成原核生物が宿主細胞に共生して生じた。ランソウには約3000の遺伝子が存在するが、高等植物の葉緑体には130個程度の遺伝子しか存在しない。これは、植物が葉緑体遺伝子を減少させる方向で進化してきたためであり、共生した始原葉緑体では、(1)多くのDNAが核に移行し、(2)個々の遺伝子が核内での発現調節機構および葉緑体移行シグナルを獲得し、(3)葉緑体内に残った相同遺伝子が不活性化(偽遺伝子化)した後に消失した。この進化過程の一時期には、核ゲノムと葉緑体ゲノムの双方に存在する相同遺伝子が同時に機能する必要があるが、現存の植物でそのような例は知られていない。葉緑体30SリボソームサブユニットのS16タンパク質をコードする
rps16遺伝子は、多くの高等植物では核ゲノムと葉緑体ゲノムの双方に存在し、核ゲノム由来のS16タンパク質が葉緑体に輸送されている。そこで、高等植物の葉緑体ゲノムに存在する
rps16遺伝子が機能性遺伝子かどうかについて、タバコをモデルに検証を行った。
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足達 由佳, 黒田 洋詩, 湯川 泰, 杉浦 昌弘
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0649
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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光化学系II複合体構成サブユニットD2およびCP43タンパク質はそれぞれ葉緑体
psbDおよび
psbC遺伝子にコードされている.これらの遺伝子は
psbD-psbC-psbZオペロンを構成し,
psbD上流の青色光応答性プロモーターから共転写される.また,第2シストロン
psbCプロモーターが
psbDコード領域内にあり,ここからも転写が起こる.このオペロンの注目すべき特徴は,
psbDコード領域と
psbCコード領域がオーバーラップしていることである.そのため,第2シストロンの
psbCの翻訳が第1シストロンの
psbDの翻訳に依存する可能性が指摘されている.我々はこの可能性を調べるため,タバコ葉緑体由来の
in vitro翻訳系を用いて解析を行った.この時,
psbDと
psbCの翻訳効率を2種類の異なる蛍光タンパク質でモニターした.その結果,ジシストロニックmRNAからの
psbCの翻訳は,モノシストロニックmRNAからよりも効率がよく,また,第1シストロンの翻訳効率に強く依存することが確認できた.さらに,点変異導入によりコード領域のオーバーラップを解消したところ,
psbC翻訳が大幅に減少した.この結果は,
psbCの翻訳が
psbDの翻訳に強く依存することを示している.得られた結果から,
psbD-psbCの翻訳共役について考察する.
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鈴木 晴香, 黒田 洋詩, 湯川 泰, 杉浦 昌弘
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0650
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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葉緑体ゲノムのatpAとatpEの遺伝子は葉緑体ATP合成酵素複合体のβとεのサブユニットをコードしている。多くの顕花植物では、上流のatpBの終止コドンと次のatpEの開始コドンが一塩基重複している。これらの遺伝子は通常は共転写され一本のジシストロニックmRNAとして合成される。そこで、下流のatpEシストロンの翻訳は上流のatpBシストロンの翻訳に依存していると昔から考えられていた(翻訳共役)。われわれは、2種の異なる蛍光タンパク質を用いて、atpBシストロンとatpEシストロンの翻訳を区別して測定する手法を確立した。まず、我々が単離タバコ葉緑体から開発した高活性な無細胞翻訳系を使って、ジシストロニックmRNAから両シストロンともよく翻訳されることを示した。この場合、上流のシストロンのほうが下流のシストロンより強く翻訳された。次に、atpBの上流の5'-UTRを、活性の低い5'-UTRに変えると、atpBシストロンの翻訳はそれに相応して低下したが、atpEシストロンの翻訳は変化が見られなかった。この結果は下流のatpEシストロンの翻訳は上流のatpBシストロンの翻訳に依存してないことを強く示唆している(もし、依存していれば、atpEシストロンの翻訳も低下するはずである)。
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持田 恵一, 上原 由紀子, 吉田 拓広, 櫻井 哲也, 篠崎 一雄
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0651
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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網羅的な遺伝子発現データの収集が進み、様々な細胞プロセスに関わる遺伝子発現制御ネットワークの解析が可能になっている。特に、相当規模に収集されたマイクロアレイ等のデータセットを用いた遺伝子共発現解析は、遺伝子発現パターンから、相互に関連する遺伝子群を体系的に見つけ出すことを可能とし、遺伝子探索に有効な手法となった。私たちは、公共データベースに登録された、非冗長なオオムギの1347 GeneChipデータ、45実験シリーズについて、遺伝子共発現解析を行った。GeneChipに搭載された遺伝子間で、遺伝子発現パターンに基づいて重み付け相関係数を計算し、相関係数に基づいた遺伝子共発現ネットワークを描出した。さらに、MCODEアルゴリズムを用いて、サブネットワークモジュールへの分類を行った。それぞれのサブネットワークについて、オオムギ遺伝子とシロイヌナズナ、イネ、そしてブラキポディウムとの比較解析に基づいた遺伝子機能アノテーションとの関連づけを行った。比較解析により、オオムギ転写因子遺伝子の予測とGene Ontologyのアノテーションづけを行い、その分布から、それぞれのサブネットワークの機能の推定を行った。これらの結果から、モデル植物ゲノム情報との比較解析と組み合わせたオオムギの遺伝子共発現ネットワーク解析が、遺伝子探索に非常に有効であると考えられた。
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南條 洋平, Skultety Ludovit, Uvackova Lubica, Klubicova Katarina, Hajduch ...
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0652
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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湿害は作物の収量および品質を低下させる要因の一つである。ダイズは湿害を受けやすく水田転換畑で栽培される事情もありその被害が問題となっている。ダイズの湿害発生機構を解明するため、冠水条件下におけるダイズ発芽種子中のタンパク質をプロテオーム解析手法により解析した。播種後2日後のダイズ発芽種子を1日間冠水処理し、根端部よりタンパク質を抽出した。冠水処理と無処理の間でタンパク質の量的変動およびリン酸化状態の変動を比較解析した。タンパク質の量的変動の解析は、抽出タンパク質をトリプシン消化し質量分析計により解析した。リン酸化状態の変動の解析は、リン酸化タンパク質精製カラムおよび酸化チタンビーズによりリン酸化タンパク質およびリン酸化ペプチドを濃縮し質量分析計により解析した。タンパク質の量的変動の解析の結果、冠水下のダイズ発芽種子根端では、エネルギー合成、情報伝達に関わるタンパク質が増加、タンパク質修飾、細胞構造に関わるタンパク質が減少していた。またリン酸化タンパク質の比較解析の結果、エネルギー合成、細胞構造、タンパク質修飾、転写に関わるタンパク質が脱リン酸化、一次代謝、タンパク質分解、翻訳に関わるタンパク質がリン酸化されていた。以上より冠水ストレス応答がタンパク質量およびタンパク質リン酸化の調節により制御されることが示唆された。
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馬場 将人, 鈴木 石根, 白岩 善博
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0653
発行日: 2011年
公開日: 2011/12/02
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単細胞緑藻
Chlamydomonas reinhardtiiは、幅広いCO
2濃度に順化する能力をもつ。大気平衡のCO
2条件下で生育した低CO
2順化細胞では、9種類の酸脱水酵素(CA)アイソザイムを含む、高効率的にCO
2固定を行うCO
2濃縮機構(CCM)を恒常的に発現し、低CO
2/高O
2より成る現世の大気中でも十分な生育が可能となっている。CCMとCAは、生育時のCO
2濃度の上昇に伴い消失する。既に我々は、CO
2濃度の上昇により、ペリプラズム領域に局在するCAが消失し、代わりにH43/Fea1タンパク質が蓄積されるという顕著なCO
2応答現象を発見した[Hanawa et al. (2007) Plant Cell Physiol. 48: 299-309]。本研究では、
C. reinhardtii細胞壁欠損変異株において、ペリプラズム局在性タンパク質が培地中に放出されることを利用し、質量分析法によって、高CO
2条件により誘導される細胞外局在性タンパク質の網羅的解析を行った。有意に同定された129種のタンパク質のうち、H43/Fea1を含む22種のタンパク質は1、3日間の高CO
2順化によりその量が増加した。そのうち11種類はヒドロキシプロリンに富む糖タンパク質であった。
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